光輝巨人リリカルなのはX   作:焼き鮭

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絆 -Unite-(A)

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「卵ですよ……バードンは卵を抱えてる!」

「……有害生物は、まずメスの個体を減らすのがセオリーです」

「我々はそれを駆除しなければならない」

「私たちはいつだって家族を犠牲にしてきました。自分たちの任務の重要さを押しつけて……」

「本当にそれでいいのでしょうか?」

「副隊長は怪獣と向き合う時、どういう基準でこれは正しいとお決めになりますか?」

「犠牲者を出さない。判断の基準はその一点だ」

 

 

 

 三年前、次元の狭間の超空間内――。

 JS事件を終え、当時管理局の航行部隊に所属していたクロノが艦長を務めていた次元艦クラウディアは――半壊。墜落の危機に陥っていた。

 クラウディアはSOS信号を頼りに不審な次元艦を発見、何事が起きたか調べるために接近したところ――次元艦を突き破って出現した怪獣ゴグランの強襲を受けたのだ。恐らく、次元艦が違法に発掘したスパークドールズが運搬中に実体化し、乗組員がSOSを発信したのだろう。

 ゴグランはクラウディアに張りつき、クラウディアをも破壊しようとしてきた。艦の武装は金属をも喰らうゴグランによって早々に破壊され、クロノたちは白兵戦を余儀なくされた。死闘の末にゴグランを撃破することは出来たものの、クラウディアは航行不能、クロノ含む乗員は一人残らず満身創痍。

 しかしその状態で、クロノは傷ついた身体を押して艦内を駆け回っていた。自力で脱出艇の元まで移動できず、取り残された部下を自ら助けに行ったのだ。

 

『艦長、その身体ではやはり無茶です! 救出任務は誰か他の者に……!』

「重傷を負っていない者などいないではないか……。何、艦長の底力を甘く見るんじゃない」

 

 案ずる副官の通信を切断し、意識を失っている隊員を発見。彼を連れて引き返していく。

 

「しっかりしろ……! もう少しで助かるからな!」

「うぅ……」

 

 呼びかけながら艦の通路を進んでいくクロノだったが、途中で通路の酸素濃度が低下していっていることをデバイスが警告した。

 

「何……!? どこかで空気が漏れているのか!? 急がなければ……!」

 

 とつぶやいたクロノだが、ふと横の通路に目をやったことで、もっと恐ろしい事態が進行していることを知ることになった。

 

「なっ……!? あれは……!」

 

 通路に下りている防災用シャッターに、幼虫型の小怪獣が張りついて食い破ろうとしているのだ! ゴグランの幼虫!

 

「しまった……! 卵を植えつけていたのか……! いつの間に……!」

 

 その卵は危険を察して急速に孵化。幼虫はクラウディアを虫食んで成長しようとしている。既にシャッターにはかすかな穴が開いていた。そこから空気が外へ漏れ出しているのだ。

 すぐに駆除しなければ……。そう考えたクロノだが、自分が支えている隊員に目をやって悩む。今の自分に残された力はわずか。今は小さい幼虫を駆除するのさえ、ここからでは無理なほどに。そしてゴグランを駆除するのに魔力を消耗したら、その場で倒れてしまうかもしれない。倒れたら酸素が欠乏して、最悪窒息死する。命懸けで戦ってようやく助かったというのに、こんなところで息絶えてしまっていいのか……?

 自分はもう十分戦った。ここは見なかったことにして、命の安全を確保してもいいのではないか。この隊員もいるし……どうせすぐに他の艦が駆けつける。よしんば成虫まで育っても、彼らが退治してくれるだろう。ここで見逃しても、犠牲者が出ると決まった訳ではないのだ。自分がわざわざ身体を張る必要なんてない……。そんな考えが浮かんでも致し方ないことだろう。

 だがクロノはそうしなかった! 隊員を一旦その場に下ろすと、シャッターを下ろして自分とゴグランを隔離し、ゴグランに気取られぬようゆっくりと近づいていく。声も発してはいけないので事前に救援も呼べない、生死を分ける緊張の一瞬……。

 

(この距離なら……!)

 

 デュランダルを構え、残ったかすかな魔力を振り絞って凍結魔法を飛ばした。

 ゴグランは鳴き声を発する間もなく全身凍りつき、そのまま砕け散った。

 

「よし、後は彼とともに皆の元まで……うっ!」

 

 振り返ったクロノは、やはり無理が祟ったために力尽き、その場に倒れ込んでしまった。

 

「くっ……早く、救援を……!」

 

 しかし目がかすみ、指も動かない。おまけに酸素は減り続け、意識も薄れていく。

 クロノはこのまま死んでしまうのだろうか。だが最期の瞬間まで管理局員としても、己にも恥じない生き方を遂げた。死んだとしても、その名は皆の心の中に生き続ける――。

 

(……いやっ!!)

 

 やはり、ここで死ぬことは出来ない。何故なら、家族が……妻と、まだ幼い子供たちが帰りを待っているからだ。そのために自分はまだ、死ねない!

 

(僕は……あきらめないっ!!)

 

 心に強く念じ、虚空に手を伸ばした、その時――。

 ――夢か幻か……クロノの手は、飛行機械を模したような石像に触れたのだ。

 

 

 

『絆 -Unite-』

 

 

 

「――はっ!?」

 

 クロノはXioオペレーション本部の自分のデスクで、はっと目を覚ました。

 

「夢か……。あの時の夢を……」

 

 頭を振りながらぼんやりつぶやくと、ふと思い立って『地球』に暮らす自分の子供たちの元に通信を掛けた。

 

『あっ、お父さん! 元気?』

 

 通信に出たのは、クロノと同じ瞳の色と妻エイミィと同じ髪の色をした少年。

 

「ああ。カレル、そっちはどうだ? リエラも元気にしてるか?」

 

 尋ねかけると、ヴィジョンに少年とよく似た少女がひょっこり首を突っ込んできた。この二人がクロノの子供の双子、カレルとリエラだ。

 

『元気だよ! あのね、今お母さんたちと一緒にキャンプに来てるの!』

「そうか、楽しそうだな……」

『お父さんも来られたら最高なのに』

 

 カレルのひと言に微笑むクロノ。

 

「そうだな。出来るなら、そっちに飛んでいきたいんだけどな……」

『もう行くね。お父さん、怪我しちゃダメだからね』

「二人も気をつけてな」

『大丈夫! こっちは全然怪獣出ないから! じゃあね!』

 

 手を振るリエラとカレルを最後に、通信が切れる。――そこにたまたま通りがかったダイチが尋ねた。

 

「お子さんとでしたか?」

 

 顔を上げたクロノが、父親の顔から副隊長の顔に戻った。

 

「今朝落下した隕石の分析、まだやっていたのか?」

「ええ。……副隊長のご家族、先日お会いしました。なのはさんに連れていってもらった際に」

「そうだったか。みんな、元気でやってたか?」

「はい。でも……あんまり副隊長と直接お会い出来ないこと、残念がってましたよ」

「そうか……」

 

 どことなく寂しげに微笑むクロノ。するとダイチが問いかける。

 

「Xioの副隊長でなければ、一緒に暮らしてましたか?」

「……いや。元々私は執務官だし、艦長職もやっていた。ミッドを離れることは出来なかったさ」

「そういえば、副隊長はそうでしたね。三年前、例の事件のすぐ後にXioへの異動を志願したと聞きました」

 

 怪獣ゴグランのクラウディア襲撃事件。絶体絶命の状況下で、一人の犠牲者も出さずに怪獣を打ち倒し、なおかつ酸素濃度の薄れた空間内で意識を失いながらも救援信号を発し、己も死の淵から生還したクロノの手腕と生命力にはあらゆる人間に驚嘆と感動を覚えさせた。

 

「どうしてXioへ異動しようと思われたんですか? 怪獣と直接戦ったことで、何か怪獣に対して思うことが出来たんでしょうか」

 

 そのダイチの質問に、クロノは神妙な顔になって答えた。

 

「それが……自分でもよく分からないんだ。気がついた時には、異動届を出していた」

「えっ? よく分からないって……」

「変なことを言っているとは私も思うが……そうしなければいけないような気がしたんだ。あの時、生還してから……」

 

 どこかを見つめて語るクロノの横顔を、ダイチは不思議そうにながめた。

 

 

 

 翌日、Xioに緊急の警報がけたたましく鳴り渡った。

 

「エリアT-1地下駐車場に、未確認生命が溢れています!」

 

 メインモニターに映し出された地図の地下駐車場部分に、無数の赤い光点が表示された。

 

「未確認生命は二種類、体長二メートルから十メートル前後。民間人を手当たり次第に襲っているとのことです!」

 

 ルキノの報告に、カミキは直ちに特捜班全員に指示を下す。

 

「フェイズ2! ダイチ、現場に出て未確認生命の分析。他隊員は分析を待って、必要ならこれを攻撃!」

「了解!」

 

 特捜班が敬礼すると、クロノがカミキに進言する。

 

「今回は私も出動し、駐車場全域を封鎖して未確認生命の外部への逃走を防ぎます!」

「頼む」

 

 カミキが承諾すると、クロノも交えて特捜班がエリアT-1に急行していった。

 

 

 

 現場に到着すると、まずクロノが駐車場全周を氷の隔壁で閉ざした。それから各隊員が分散して、未確認生命の探索と民間人の救助に向かっていった。

 辺りを警戒しながら慎重に進んでいくダイチが、その未確認生命二種を発見する。

 

「ウギャアアア……!」

「キィィィィ――――!」

 

 片方は人と虫を混ぜ合わせたような形態。もう片方はナメクジかウミウシを思わせる生命体だった。どちらも生理的嫌悪感を呼び起こすような、グロテスクさがある。

 駐車場の陰に身を潜めながら分析するダイチは、双方の生命反応が酷似しており、本質的には同種の生物であることを見抜いた。

 

「ミッドの生き物じゃないな……。かと言って、普通の怪獣とも違うみたいだ……」

『宇宙から飛来してきたのか?』

「ミッドの何があいつらを引き寄せたんだろう?」

 

 何かを探すように周囲を見回している未確認生命を警戒しながら分析を続けるダイチに、エックスが告げる。

 

『生命体の恐怖を餌にする、スペースビーストの話を聞いたことがある。恐らく、昨日の隕石とともにミッドに入り込み、増殖しながら地中を掘り進んで人の多いこの都市部に侵入したのだろう』

「スペースビースト?」

『もしそうなら、非常に危険だぞ。放っておくと異常な食欲と繁殖力で、瞬く間に一つの星を滅ぼしてしまうそうだ……』

 

 説明していたエックスが、急に声を荒げた。

 

『ダイチっ!』

「ウギャアアア――――――ッ!」

 

 スペースビースト――バグバズンブルードがこちらに気がついて走ってきているのだ! それに続いてペドレオン・クラインも突進してくる。

 

「うわぁっ!」

 

 思わず身構えたダイチの前にスバルが回り込んで、スペースビーストたちに攻撃を加える。

 

「リボルバーシュート!」

「キィィ――――――――ッ!!」

 

 衝撃波が二体を纏めて吹っ飛ばし、倒れたところをスバルはバグバズンブルードをバインド、ペドレオンをケージで捕獲した。

 

「大丈夫?」

「いつもごめん……」

「ううん。それで、この生き物たちは保護するの? ……出来るの?」

 

 スバルにしては珍しい台詞。彼女も本能的に、スペースビーストの危険性を感じ取っているのだろう。

 ダイチはガウリンガルによってスペースビーストの感情を探知。その結果に目を見張る。

 

「感情に攻撃と捕食しかない……!」

 

 怪獣も獰猛なものは数多いが、ここまで極端な精神構造の生物は見たことがなかった。スペースビーストには、他者に対して滅ぼす感情しか存在していないのだ!

 捕獲されてなおもがき続け、こちらに襲いかかってきそうなスペースビーストを見て、ダイチは結論を出す。

 

「仕方ない……」

 

 スバルと視線を合わすと、うなずいたスバルが本部へ報告する。

 

「ダイチから駆除判断が出ました!」

『了解。全隊員に非殺傷設定解除を命ずる。一匹たりとも外に出すな!』

 

 カミキの命令により、スペースビーストの掃討作戦が開始された。

 

 

 

(♪ナイトレイダー -Scramble-)

 

 地下駐車場の各所に散らばるスペースビーストを、特捜班が各個撃破していく。

 

「キィィィィ――――!」

 

 獲物を求めて這いずり回るペドレオンの一体を、物陰に身を潜めながらワタルが撃った。ペドレオンは体内の可燃性ガスに引火して爆散。別の場所では、ハヤトがバグバズンブルードを撃ち抜く。

 

「うりゃあああっ!」

 

 ノーヴェのナックルがバグバズンブルードの甲殻を粉砕。チンクはナイフをペドレオン数体に突き刺し、ランブルデトネイターで一気に爆破させた。

 

「ウギャアアアアッ!」

「キィィィィ――――!」

 

 一部のスペースビーストは駐車場から地上に上がろうとしたが、外への道は全てクロノの氷壁で閉ざされている。爪も火球も、厚く張った氷を破ることは出来なかった。

 

「逃げようなんて許さないっスよー!」

 

 そこに駆けつけたウェンディとディエチの射撃で、脱走を図る個体は撃滅された。

 駐車場内に取り残されている市民は、スバルが一時的に氷の壁に道を作って逃がしていった。

 

「こっちです! 足元滑るので気をつけて!」

「ありがとうございます……!」

 

 特捜班は目覚ましい活躍でスペースビーストを倒していくが……スペースビーストが絶えず発している一定の周波数の『意味』には気がついていなかった。

 

「キィィィィ……!」

 

 

 

 クロノもまた、スペースビーストを索敵しながら駐車場内を捜索して回っている。

 

「うぅぅ……!」

 

 その中で、若い女性がうつ伏せに倒れているのを見つけた。足に怪我をして、血を流している。

 

「民間人発見。保護に向かいます」

 

 クロノはすぐに女性の側に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか? すぐ応急手当します」

 

 と声を掛けたが、顔を上げた女性はこう返した。

 

「に、逃げてっ! これは罠ですっ!」

「えっ――」

 

 その瞬間に天井が崩落! 真上の階に潜んでいたバグバズンブルードが破壊したのだ!

 

「ウギャアアアアア――――!」

「何ぃ!!?」

「キィィィィ――――!」

 

 更に隠れていたペドレオンが飛び出してきて、クロノに火球を撃ち込む!

 

「ぐわああああっ!」

 

 咄嗟に女性をかばったクロノは火球の爆発の直撃を受ける。その上、二人に瓦礫が降ってきて下敷きにされてしまった。

 

「ぐあぁっ! し、しまった……! 奴ら、学習能力があったのか……!」

 

 クロノは、スペースビーストが仲間内で情報をやり取りし、学習をしていることに気がついた。

 スペースビーストは「ビースト振動波」という周波数を用いて個体間で情報伝達し、外敵を分析して抹殺する手段を講じていく。特捜班は人間に近づくと一瞬警戒を解くのを知り、女性をわざと生かしてクロノを油断させる餌とした待ち伏せを仕掛けていたのだ。

 

「見かけに騙された……! 知能レベル自体は、かなり高いぞ……!」

「キィィィィィィィッ!」

 

 己の迂闊さを悔いているクロノに、バグバズンブルードとペドレオンが襲い来る。

 

「ぐぅっ……!」

 

 苦痛をこらえながら、魔力弾を飛ばして反撃。ギリギリのところで爆散させられたが、すぐそこまで接近されたバグバズンブルードの爪がデュランダルに当たって、手中より弾き飛ばされた。

 

「デバイスが……!」

 

 思わず手を伸ばしかけた時、ジオデバイザーにリエラの顔がいっぱいに映し出された。

 

「リエラ……? 今は話せないんだ……!」

『話せなかったら、お兄ちゃんが死んじゃうよぉ!』

「えっ――!?」

 

 泣きじゃくるリエラの奥から、かすかだが巨大なものが動く鈍い音が聞こえてくる。

 

『怪獣……! 湖から怪獣が出てきて……! ボートが飛んできて、お兄ちゃんに……わたしをかばって頭に当たって……!』

 

 しゃがみ込んでいるリエラの横で、カレルが気を失って倒れていた。

 流石のクロノも顔面蒼白になる。

 

「お母さんは!?」

『お買いものに行ってていないの……! 通信もつながらなくて……!』

 

 怪獣出現による磁場の乱れで、通常の通信は機能停止していた。

 

「カレルは、息はしてるか!?」

 

 リエラにカレルの呼吸を確認させるクロノ。

 

『してる……!』

「なら、吐いたりしても息が出来るように、顔を右に向けてあげるんだ……!」

「うん……!」

 

 リエラに指示しながら、デュランダルを引き寄せようとするクロノ。が、

 

『ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!』

『きゃあああああっ!!』

 

 怪獣の鳴き声と爆音、リエラの悲鳴で注意がビジョンに戻る。

 リエラたちのいるキャンプ場に出現したのはベムラー。それが放った熱線が湖面に爆発を引き起こしたのだ。

 

「リエラ!? どうしたんだ、リエラ! 返事をしてくれっ!」

 

 必死に呼ぶクロノの方にも、危機が迫っていた。

 

「キィィィィ――――!」

 

 駐車場の奥から新たなペドレオンが現れたのだ。クロノはすぐにデュランダルを引き寄せようとしたが、デュランダルは何かの足に踏みつけられて動かなくされる。

 

「ウギャアアアアアアッ!」

 

 バグバズンブルードが踏みつけたのだ。裂けた口からダラダラよだれを垂らして、クロノを見下ろしている。

 

『怪獣、こっちに来るっ! お父さぁぁんっ!』

『ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!』

 

 リエラたちにもベムラーが接近していた。

 

「……来るなっ! 来るんじゃないっ! やめろぉぉぉっ!」

 

 クロノはプロテクションを張り巡らして女性も守りながら、スペースビーストとデバイザー越しのベムラーにも叫ぶ。

 だが、それで止まるはずがない。バグバズンブルードはプロテクションを突き破ろうと鋭い爪を突き立てる。最早子供たちどころか、クロノの命も風前の灯火。

 しかしこんな絶望的な状況下になろうとも、クロノは抗うことをやめなかった。あきらめずに、力を振り絞り続ける。

 

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――っ!!」

 

 叫びながら伸ばした手の中に……光が生じて、短刀状の物体を指が握り締めた!

 

「!!?」

 

 一瞬驚愕したクロノだが――自然と身体が動き、物体を鞘から引き抜いた!

 

「副隊長っ!」

「副隊長、ご無事ですか――!」

 

 瓦礫が落下した轟音と、クロノとの連絡が途絶えたことで何かあったことに気づいたノーヴェとチンクが駆けつけてきた。――しかし、二人が目にしたのはクロノの姿ではなかった。

 

「キィィィッ!!」

 

 バグバズンブルードとペドレオンを上から叩き潰した、巨大な拳だった!

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 度肝を抜かれる二人。拳が上に抜かれていくと、天井に開いた大きな穴から地上を見上げる。

 そこには――胸の中央にV字状の赤い発光体を持った、銀色の巨人が立っていた。

 

「あれは……!」

「ウルトラマン……!?」

 

 見たことのないウルトラマンは二人の近くに、右手の平に乗せていた女性をそっと降ろす。

 

「――シュアッ!」

 

 呆然と見上げるノーヴェたちを置いて、ウルトラマンは一気に大空へ向かって飛び上がった。雲を突き抜けながら銀色の肉体が発光すると、空間が波打つ水面のように揺らめき、ウルトラマンは一瞬にして消失した――。

 

 

 

「カレル! リエラ!!」

「二人とも無事かっ!?」

 

 キャンプ場に異常を察知したエイミィとフェイトの使い魔、アルフが大急ぎで舞い戻ってきた。だが二人が目撃したのは、今まさにベムラーに熱線を撃たれそうな子供たちの姿。

 エイミィとアルフは咄嗟に駆け出すが、とても間に合わない――。

 

「ヘアァッ!」

 

 その瞬間に湖に飛び込んできたウルトラマンがベムラーに飛びつき、頭を押さえこんで熱線を湖面にそらした。

 

「……ウルトラマン……!?」

 

 ウルトラマンは一瞬にして、ミッドチルダから遠く次元を隔てたこの場所まで飛んできたのだ!

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

「シュアッ!」

 

 ウルトラマンはベムラーを押さえ込みながら、リエラたちより遠ざけていく。

 その間に、エイミィとアルフはカレルを介抱する。

 

「カレル!」

「お母さん! アルフ! お兄ちゃんが……」

「大丈夫だ。すぐに目を覚ますからな」

 

 アルフの気つけにより、カレルはゆっくりとまぶたを開いた。

 

「お母さん……」

「カレル! よかった……!」

 

 安堵してカレルに抱きつくエイミィ。

 

「すぐにここから離れよう!」

 

 アルフはエイミィたち親子を安全な場所へ誘導しようとする。カレルを抱き上げるエイミィに、カレルは言う。

 

「ずっとお父さんの声が聞こえてた気がする……」

「うん……。もう大丈夫だからね」

 

 避難する直前、エイミィたちはベムラーと戦うウルトラマンを見上げた。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

「ヘアッ!」

 

 ベムラーを投げ飛ばしたウルトラマンと、彼女たちの目が合う。

 エイミィはその瞳から、何かを感じ取った。

 

「……クロノくん……」

 

 ゆっくりとうなずいたウルトラマンは、ベムラーに向き直って戦いに戻っていった。

 

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