「今から十五年前、ウルトラ・フレアによって、大災害が起きました」
「自分をデータ化して、宇宙空間を飛んできたってこと?」
「どうして俺を選んだの?」
『君自身が持つ周波数に引きつけられていた気がする』
「はじめまして……。アインハルト・ストラトスです」
『エリアN2-M3から怪獣出現!』
「あいつはここに巣を作ってる!」
「ケエエオオオオオオウ!」
「囚われてる民間人に危険が……!」
「デバイスゴモラとエックスを合体させてもいいか?」
「そんなことが可能なのか!?」
[ゴモラキャリバー、セットアップ]
『夜を呼ぶ歌』
十五年前――それはウルトラ・フレアの影響により大怪獣災害が発生した年であり、ダイチ・オオゾラの両親が消失してしまった年であり、スバル、ギンガ姉妹がナカジマ家に引き取られた年であり……ダイチとスバルが出逢った年なのだ。
『ダイくん、こんなところにいたんだ』
ある日のこと、公園の片隅で、独りでケース入りのゴモラのスパークドールズを抱えているダイチの元へスバルが近寄ってきた。
『また独りでいるんだ……。そんな怪獣の人形を持ち歩いてるから、ダイくん友達が出来ないんだよ。そんなの、管理局に渡しちゃえば?』
この当時は、未曽有の怪獣災害が発生したばかりであったので、人々の怪獣への嫌悪の感情は最も大きかった。そんな中でスパークドールズを片時も離そうとしないダイチが忌み嫌われ、孤独になるのは当然のことであった。普通に会話するのは、スバルたちナカジマ一家くらいのものだった。
ダイチのことを心配してのスバルの言葉だったが、ダイチは首を横に振った。
『ゴモラは、いなくなったお父さんが僕に託したんだ。それに、ゴモラは友達なんだよ。友達を知らない人に渡したりするもんか』
『怪獣が友達って……。みんな、怪獣は人間の敵だって言ってるよ? あんなに大きくて乱暴なのに、友達になんてなれるわけないよ』
『それは違う』
スバルのひと言を、ダイチは険しい表情で否定した。
『お父さんが言ってたんだ。同じ世界に生きるもの同士、共存できる道はきっとあるって。大きくなったら、僕がその言葉を……本当にするんだ』
固い決意のこもった言葉だったが、スバルは手がつけられないとでもいう風に肩を落とすだけだった。
それから十五年の時を経て、ダイチは怪獣の専門家となり、ガオディクションを開発し、Xio隊員として夢の実現のために邁進している。――だが、その実現は、まだまだほど遠いのである。
オペレーションベースXのラボの一画に設けられた、グルマンの個人スペース。敷き詰めた畳に寝転がって食後の昼寝をしているグルマンの元に、ウェンディとディエチがやってくる。
「グルマン博士、起きて下さいっスよ~。対怪獣用の新型カートリッジの件、どうなったっスか?」
ウェンディが寝ているグルマンの身体を揺すって問いかけるが、グルマンは一切目を覚まさないままウェンディの手を払いのけた。
「駄目。ファントン星人は、食後の昼寝に入ったらテコでも起きないから」
「はぁ~……ホント、この習慣には困るっスねぇ……」
ディエチのその一言に、ウェンディは大きなため息を吐いたのだった。
グルマンはそんな風に言われていることなどは露知らずに、すやすやと眠り続けていた。
ベース内のトレーニング施設では、定期訓練を一通り済ませたスバルが、父親のゲンヤと通信をしていた。
『スバル、お前がXioに転属してから結構経つが、もうそっちには慣れたか? 怪獣相手の仕事はかなりきついと聞いてるが』
「うん! みんないい人たちばかりだからね。ノーヴェたちだっているし、ダイくんもね」
スバルがダイチの名前を出すと、ゲンヤは彼のことについて尋ねる。
『ダイチが我がナカジマ家を出てからも大分経つな。お前から見て、あいつも元気でやってるか?』
「うん、元気は元気だけど……ちょっと働きすぎなところがあるかなぁ」
『やっぱりそうか。ダイチは昔から一生懸命が過ぎがちだからな。両親のことがずっと気がかりなのか、どこか他人行儀なところが抜けなかったし……どうにも心配だ』
腕を組んで息を吐いたゲンヤは、スバルにこんなことを言う。
『名実ともにナカジマ家入りしてくれたら、多少は安心なんだがな。スバル、お前がどうにかしてやってくれないか? ダイチとなら、俺は何の反対もないぞ』
「えっ、えぇぇぇ!?」
途端にスバルは赤面してあたふたする。
「もう、やめてよお父さん! あたしは別にダイくんとはそんなんじゃ……」
『ははは、冗談だ。まぁとにかく、ダイチのことをよろしく頼んだぞー』
快活に笑ったゲンヤが通信を終えると、スバルははぁと長く息を吐いて気分を落ち着かせた。
「あっ、スゥちゃん」
「うえぇぇっ!?」
だがいきなりダイチから呼びかけられ、思わず声が上ずった。ダイチは面食らう。
「ど、どうしたの、スゥちゃん」
「い、いやいや、何でもないよ!? それよりダイくんがど、どうしたの? あたしに何の用かなっ!?」
見るからに動揺するスバルに若干に呆気にとられたダイチだが、気を取り直して抱えてきた荷物をスバルに差し出す。
「これ。ラボの荷物に紛れてたから」
「あっ! やっぱり来てたんだ。ありがと!」
受け取った段ボール箱をその場で開封するスバル。中から出てきたのは、
「ハイヒール……?」
「へへーん。奮発しちゃったんだぁ。明日のオフに履いてくつもりなの。忘れてないよね? 約束」
「うん。買い物に付き合うって奴でしょ? けど……スゥちゃんがこういうの買うなんて珍しいね」
と言うダイチ。普段のスバルの服装は機能性重視で、ハイヒールを履いている姿は一度も見たことがなかった。
「あたしだってこういうお洒落もするよぉ。ふふ、明日は楽しみにしててね」
楽しそうにはにかむスバル。それを見て、ダイチは思う。
(ショッピングなら、ティアナさんとかと一緒の方が楽しいと思うけどなぁ)
その時、館内放送が両名の名前を呼んだ。
『スバル隊員、ダイチ隊員、オペレーション本部に集合して下さい』
「! また事件かな……」
「かもね……行こう、ダイチ隊員!」
二人はすぐに気持ちを切り換え、本部へと急いでいった。
本部のモニターには、ミッドチルダの一地区の地図が表示されている。その中にいくつも描かれている赤い円は、『震源地』を示していた。
それを見つめて、カミキがつぶやく。
「またエリアT7-Bか……。局所的な地震が多すぎる」
「ダイチ、君の見解は?」
クロノの質問に、ダイチは次の通り答えた。
「電離層の異常が原因かも……。電位数の増減と、活断層の活発化には関係があると言われています」
「かもじゃいかん。情報は正確に。そういうことなので、スバルと一緒に現地調査に向かえ」
「了解!」
クロノの命令で、スバルとダイチの二人は直ちに現場に急行することとなった。
そして一番新しい震源地の、地下道の工事現場に二人が足を踏み入れていく。
「参っちゃいましたよね~。いやそりゃ、地震のせいだっていうのはしょうがないですよ。しょうがないですけど、一個現場を止めちゃえばそれだってただじゃないんですよ。それだってお金かかるんですから……」
「大変ですね……」
「も~、何とかならないかなぁほんとに……。評価下がっちゃうなぁ……」
案内の作業員の愚痴を聞きながら奥へと進んでいくと……ダイチがピタリと足を止めた。
「何の音だ……?」
「えっ?」
「ダイチ、どうしたの?」
ダイチは電波受信機の音に集中していた。
「宇宙の音に似ている……。でもあんな風に安らぐ感じじゃないんだ。まるで……誰かがすすり泣いてるような……」
ダイチが分析していると、突然現場の照明が一気に、故障したかのように点滅を繰り返した。異様な雰囲気に一行が警戒していると……いつの間にか、進行先に一人の女性が現れていた。地下空間だというのに、サングラスをかけている。
「すいませーん! ここは立入禁止区域ですよー!」
作業員が注意するが、女性はそれには一切応えず、胸を広げていきなり叫び始めた。
「アァァァァ―――――――――!!」
およそ人の声とは思えないような、不気味な声だった。しかもそれに合わせるように、工事現場全体を震動が襲う!
ダイチたちが思わずよろめくと、スバルが女性の背後より、巨大な影がせり上がってくるのを見とめた。
「あれは!?」
「オオオオウ……!」
人の顔より大きく、爛々と輝く目玉を二つ備えた影。明らかに、怪獣のシルエットだ!
「逃げて!」
「うわあぁぁぁぁぁっ!?」
スバルとダイチは急いで作業員たちを工事現場から地上へと逃がしていく。そして怪獣は、地表の舗装を突き破って夜の街にその全貌を現した!
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
全身が蛇腹状で、シャープなクチバシから流線型の輪郭が形成されている怪獣の出現に驚いた市民が一斉に逃げ惑う。
地上に出たダイチは本部へと報告を行う。
「エリアT7-Bに怪獣出現! タイプGです!」
本部では、カミキが直ちに指令を発する。
「フェイズ4! 都市防衛指令発令!」
「スバルはジオポルトスで怪獣の移動を食い止めるんだ! ジオマスケッティ、出動!」
[フェイズ4、都市防衛指令、発令]
クロノの許可により、ジオマスケッティがエリアT7-Bへ向けて発進していった。
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
怪獣は怪力でビルを倒壊させながら街に侵攻していく。クロノがダイチに指示する。
『ダイチ、怪獣の正体を報告しろ』
「体長約50メートル、地底怪獣テレスドンと思われます!」
「ダイチ、ポルトスまで走るよ!」
[Standby, ready. Set up.]
バリアジャケットを展開したスバルが言う。怪獣テレスドンが二人へ向けて溶岩熱線を吐いてきたが、スバルがダイチを抱え上げてマッハキャリバーで急加速したので、回避することが出来た。
停車してあったジオポルトスに乗り込むスバルとダイチ。スバルがジオデバイザーにポルトスの絵が描かれたカードを挿入する。ジオポルトスの起動キーだ。
[ジオポルトス、起動します]
ポルトスのヘッドライトが点灯し、テレスドンへ向けて発進する。
その途中でマスケッティが駆けつけ、地表すれすれまで降下してきたマスケッティとポルトスが合体する。
[ジオポルトス、ジョイントゥ、ジオマスケッティ]
ポルトスの荷台が変形し、レールキャノンが伸びる。更にマスケッティの機首が左右に開き、翼が折り畳まれた。
[ランドマスケッティ、コンプリート]
これがジオポルトスと合体した際のホバー戦車形態、ランドマスケッティ。高高度の飛行性能とスピードを犠牲にする代わりに、ファントンレールキャノンからの高威力の砲撃を発射するのだ。
「ダイチ、熱源センサーでフォローして!」
「了解!」
スバルが操縦手と砲撃手を担当し、ダイチはセンサーを駆使して照準を合わせる。
「十時の方向……。怪獣をロックオン!」
ランドマスケッティがテレスドンの方を向き、キャノンの砲口がピッタリと合う。
「ファントンレールキャノン、発射!」
そしてキャノンにエネルギーが充填され、緑色の光弾が発射された!
「ギャアオオオオオオウ!」
光弾は見事テレスドンに命中し、大爆発を引き起こす! ……が、硝煙が晴れると、テレスドンの姿が影も形もなくなっていた。
「あ、あれ? どこ行ったの?」
「後ろだっ!」
ダイチが叫ぶが、その時にはマスケッティの背後の地中からテレスドンが顔を出していた! 地底怪獣テレスドンは、地上よりも地中の方が素早く移動できるのだ!
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
背後を取ったテレスドンは、何とマスケッティに食らいついてしまう!
「わああぁぁぁぁっ!?」
テレスドンに捕まってしまったマスケッティ。しかもテレスドンはその状態で、溶岩熱線を吐こうとしている。
至近距離から熱線を食らえば、スバルたちの命はない!
「このままじゃまずいよぉ! ダイチ、どうしたらいい!?」
「テレスドンは夜行性の地底怪獣だ! 急激な光の変化に弱い!」
「そうか、照明弾だねっ!」
ダイチの助言により、スバルは即座にマスケッティから照明弾を発射させた。
複数の照明弾が飛び出し、花火のように夜空をまばゆく照らし出す。
「ギャアオオオオオオウ!?」
強い光に驚いたテレスドンはマスケッティを放す。直後に溶岩熱線があらぬ方向に吐き出された。危ないところであった。
放り出されたマスケッティは道路に激突し、横転する。
『ランドマスケッティ、状況を報告せよ! 大丈夫か!?』
「な、何とか……」
クロノの焦った呼びかけに応答するダイチ。スバルはどうにかマスケッティの体勢を立て直したが、
「逃げられた……」
その時には、テレスドンは巨体を完全に地中に隠し、マスケッティから逃れていた。
スバルとダイチが帰投すると、オペレーション本部では工事現場に現れた謎の女の正体解明が行われた。
「この女、何者だ……? 明らかにただ者ではない」
モニターに映される女の映像を見つめ、チンクがつぶやく。
「今までにも地下鉄の線路内で、何度も目撃情報があったようです」
スバルが隊長らに報告すると、ウェンディが口を開く。
「まさか……地底女って奴っスか?」
「何だそれは?」
チンクが振り返って聞き返した。
「チンク姉、知らないっスか? 最近流行ってる都市伝説っスよ。地下鉄のホームにいて、見た者を地底に引きずり込んで食べてしまう! って。妖怪みたいなもんっスね」
「馬鹿馬鹿しい。そんなのただの噂話だろ。使い魔とかならともかく、このご時世に妖怪なんて……」
軽くはしゃぐウェンディに、ノーヴェが呆れて肩をすくめた。
「何にせよ、この人物と怪獣の関係性を洗い出すのが先決だな」
クロノがつぶやくと、スバルたちに命令する。
「過去十日間のT7-Bの全監視カメラ映像にアクセス。ネットのデータも照会するんだ」
「了解!」
スバルたちが調査に取りかかる中、モニターでは女の顔情報の解析が今も続行されていた。
ラボでは、ダイチがガオディクションでテレスドンの鳴き声の方を分析していた。
[ガオディクションを、起動します。テレスドン、解析中]
「……感情ベクトルの大部分は怒りを示してるけど……一部分だけ異なる。この波長は何だ?」
『怒りとは違った感情だな』
ガオディクションの示した情報についてダイチとエックスで話し合う。
「……そうか!」
ふと何かに思い当たったダイチは、女の叫びの方にガオディクションを用いる。
『なるほど、ガオディクションは怪獣に使えるだけじゃないのか』
[対象音声、解析完了しました]
女の叫びに乗せられた感情とは、
「この感情は……悲しみだ。むしろ悲鳴といっていい!」
『テレスドンの波長と一致するな』
「怪獣はこの声の主と同調しているのか……。テレスドンは、仲間のピンチだと誤認したから怒ってたんだ」
怪獣の鳴き声の周波数と同調する……明らかに人間業ではない。果たして、サングラスの女は何者なのだろうか?
本部では、女の人相と一致する人間が見つけ出されていた。
「85%の確率で、骨相が一致しました」
「名前はリョウコ・マブセ。エステサロンの経営者です」
アルトとルキノの報告に、ディエチとチンクが怪訝な顔になる。
「エステサロン? 怪獣とはおよそ似つかわしくない……」
「そんな人物が、怪獣とどう関係してるんだ……?」
「潜入して、調べてみる必要がありそうですね」
クロノの言葉にうなずいたカミキが、スバルに目を向ける。
「スバル、その役目は君とダイチにやってもらおう」
「えっ? ダイチと……ですか?」
「カップルに扮して、サロンに乗り込むんだ」
カップルと言われ、スバルは一瞬顔が赤らんだ。
翌日。ダイチとスバルは普段着の姿で、マブセという女のサロンがある区画へと向かった。
「あれ? スバル、あのハイヒール履いてきたんだ」
ダイチはふとスバルの履き物に気づいて尋ねた。昨日彼女宛てに送られてきたハイヒールなのだ。
「ふふっ。これの方がより普通の女性みたいに見えるでしょ?」
「そうだけど……動きにくくないかな?」
「いざとなったらマッハキャリバーに換えるし、大丈夫だよ。それより……あたしの見た目、どうかな? 変じゃない?」
そっと、耳元の髪をかき上げてダイチに尋ねるスバル。今の彼女は、潜入のためだろうが、メイクをして多少着飾っている。お陰で、普段のボーイッシュな印象は薄れて大人の女性らしさがそこはかとなく漂っている。
「……うん、変じゃないよ。むしろ綺麗だよ。これなら向こうも警戒しないだろうね」
「ほんと? えへへ……」
綺麗、と言われて、スバルは頬を朱に染めてはにかんだ。
サロンから少し離れた地点では、ティアナが二人を待っていた。
「あっ、ティア。本当にティアも一緒なんだ」
「ええ。今回は異星人じゃなく、ミッド人による怪獣を利用した犯罪の線もあるから、執務官のあたしも捜査に参加します。……たとえ、相手が死人でも」
死人、という言葉にスバル、ダイチともに険しい顔つきとなった。
そう……調査の結果、リョウコ・マブセは二ヶ月前に死亡届が出されていたのだ。では、今エステサロンにいる女性は何者なのか? その正体は、まだ明らかになっていない。
「ともかく、段取りを確認するわよ」
気を取り直して、ティアナが告げる。
「まずは、スバルとダイチさんが客のふりをして女に接触、その間あたしは店の外を見張る。女が抵抗したら捕獲を。万一の場合はあたしを呼んで。いいわね?」
「わかった!」
「それじゃあ、作戦開始といきましょう」
三人がうなずき合うと、ダイチとスバルは若干緊張しながらサロンへと足を向けていった。
エステサロンの中は完全にカーテンを閉め切り、お香の香りに満たされていた。入店した二人は、椅子に並んで腰掛けて女を待つ。
やがて、件の女がエステに使うと思しき薬品を乗せた盆を運びながらやってきた。薄暗い室内にも関わらず、やはりサングラスをかけている。
スバルはまず、テーブルの上の花瓶に活けられた暗い青色の花を話題にして何気ない会話を試みる。
「綺麗な、お花ですね……」
「でしょう?」
「お日様に当てなくていいんですか?」
その質問に、女は次のように答える。
「植物にはね……太陽光線の他に、闇と冷気が必要なの。今の人間社会には、昼も夜もないでしょう? それが、生き物たちのサイクルを乱してる……」
「そう……ですか」
「世界は偽りの光で覆ってはいけない。人間は傲慢だわ……」
妙に重々しい口振りの女に、スバルは本題に切り込む。
「あなたは、誰なんですか……?」
問いかけると、女がゆっくりと振り返った。
「本物のリョウコ・マブセさんは、二ヶ月前に事故で亡くなっています。あなたは何者なんですか……?」
すると……女はいきなり怪しい銃を二人に突きつけた!
スバルは咄嗟にダイチを突き飛ばして射線から逃がし、自身も身を乗り出した。
女が銃から弾丸でも光弾でもなく、「黒い何か」を撃ったが、スバルの行動でそれは外れる。
「マッハキャリバー!」
スバルはマッハキャリバーを取り出してバリアジャケットを展開しようとしたが――。
履いているハイヒールに横向きの力をかけたため、ヒール部分が床と滑り、バランスを崩してしまった。
「あっ!?」
それによりスバルは転倒。マッハキャリバーが手中からこぼれ落ちた。
女はその隙にスバルへ銃口を向ける――。
「スバルっ!」
咄嗟にダイチが女を抑えつけようとしたが、女はダイチに手の平をかざすと、波動のようなものを出した。それを浴びたダイチがたちまちの内に昏倒した。
「だ、ダイチっ!」
焦ったスバルはマッハキャリバーを拾い直してバリアジャケットを装着。だがそれを見るや、女はすぐに玄関へ向けて逃走していく。
「あはははは……!」
「くっ……!」
一瞬追いかけようとしたスバルだが、ダイチを放ってはおけない。彼を介抱して容態を確かめる。幸い、気絶させられただけで命に別状はないようだ。
スバルはティアナに連絡を取る。
「ティア、被疑者がそっちに逃げた!」
『わかったわ!』
店の外を張っているティアナが応答したが……やがて聞き返してくる。
『スバル、本当に外へ逃げたの? 誰も出てこないわよ!』
「えっ!?」
一つしかない出入り口から出ていく女をティアナが見逃すはずがない。だがスバルが店内を調べても、やはり女はどこにもいなかった。転移の痕跡もない。
「やられた……!」
どういう手段を用いたかはわからないが、まんまと逃げられたことを悟ったスバルは己のミスを悔やみ、同時にダイチを守れなかったことで自身を責めたのであった。