ルヴェラ遺跡の異変
――宇宙には、一つの伝説がある。
――全ての始まり、光の巨人――。
彼は、宇宙のバランスを保つため、様々な世界で戦い続けている――。
「……世界中の神話や伝説には、人智を超えた巨人や天使、あるいは神の存在が登場する。それらのルーツが、光の巨人――ウルトラマンだというのが私の自説だ。つまり、次元世界にも過去にウルトラマンが降臨していたということになる!」
「なるほど~……」
「夢のある話ですね!」
グルマンの語った内容に、リオやコロナが関心を示した。
オペレーションベースXのラボで、グルマンがヴィヴィオたちチームナカジマに対して、光の巨人『ウルトラマン』の話をしていたのだ。……しかしグルマンは、シャーリーとマリエルの方に振り向いて怒鳴った。
「……っておい、そこ! 人の話を聞け!」
二人はグルマンの話を聞き流しながら作業していたのだ。シャーリーは肩をすくめてグルマンに言い返す。
「その話、あたしたちはもう何度も聞いてますよ。もう耳にたこです」
「――だが始まりの巨人、ウルトラマンを召喚するベーターカプセルを完成させた、というのは初耳だろう?」
その言葉にはシャーリーたちも手を止めて振り返った。
「えっ!? 出来たんですか!?」
ヴィヴィオたちも俄然興味が沸く。
「すごーいっ! ウルトラマンを呼び出せるんですか!?」
「早速やってみて下さい……!」
目を輝かせるアインハルトたちに急かされ、グルマンは手にしているペンライト型の装置を皆に見せつけた。
「よしよし。私が幼い頃に見た光の巨人はこうして……」
カプセルを天高く掲げるグルマン。
「ジュワッ!」
ドッガアアアアアアアァァァァァァァァァァンッッ!!!
――煙が晴れると、一同は黒焦げになっていた。
「……まだ改良が必要みたいですね……」
マリエルがけほっ、と煙を吐き出しながらぼやいた。
『きたよ!わたしたちのウルトラマン』
「――乾ぱーいっ!!」
新暦81年。オペレーション本部では、視察に出ていたダイチの帰りを祝うパーティが開催されていた。
「ダイチ、出張お疲れー!」
「スプールスの怪獣共生区はどうだった?」
ワタルとハヤトの問いかけに、ダイチは施設の写真を空間モニターに表示しながら答えた。
「管理局の一大実験だけあって、すごい広さと設備でした」
写真の中には、パンドラやリドリアスなどの比較的温厚な怪獣が実体化され、共生区内で保護観察されている様子が写されていた。いずれは全ての怪獣を実体化し、怪獣と人間が共生できる環境を作り上げることが理想であり、最終目的である。
「でもまだ、反発が根強いらしいです」
ダイチのその言葉にうなずくカミキ。
「道のりは遠いな……。だが着実に前に進んでいる」
「もう二年前までとは違いますものね」
とディエチがつぶやいた。
ウルトラ・フレアの原因であり、次元世界中の生命を消し去ろうとしていたグリーザが倒されて以降、その影響が消えたためか、世界各地に眠るスパークドールズは一気に安定し、実体化の件数がぐっと減った。今では三か月連続で、怪獣災害の発生0件を記録している。
また、異星人犯罪者の元締めであった暗黒星団が解散されたことで、異星人犯罪の件数と規模も減少していった。異星人犯罪が紙面を賑やかしていたのも、既に過去になりつつある。
これらのことにワタルが苦笑を浮かべた。
「ホント、二年前まですげぇ忙しかったのが嘘みたいに暇になったよな~」
「お陰でノーヴェもXioを抜けて、ジム経営できるようになったからな。あいつ髪まで伸ばしちゃって、すっかり大人の女になったもんだ」
ハヤトが空中に、ノーヴェが設立したナカジマジムの門前で撮影されたチームナカジマの写真を表示した。
チームナカジマは今ではすっかりと世界レベルの選手たちに育ち、ヴィヴィオたちはチームのスポンサーであるXioのイメージガールもこなしているのだった。
「いずれは我々Xioの役割も、怪獣保護や共生区の運営のような平和的なものへとシフトしていくことだろう」
「ダイチ、ちょっとずつでも夢のゴールが見えてきてるね! この調子で頑張ろう!」
「ああ!」
カミキの言葉にスバルがダイチに笑いかけ、ダイチも力強く応えた。
一方でウェンディはクッキーに舌鼓を打っている。
「いや~、隊長の娘さんの手作りっていうこれ、美味しいっスね~。もう一つもらいま~っス」
すると――デスクの上のエクスデバイザーから声が発せられた。
『ウェンディ、その食物に含まれる糖質は48%、脂肪は18グラムだ。君はダイエットしてると言ってただろう。なら……』
台詞の途中で、ウェンディにデバイザーをひっくり返された。
『おい! 表にしてくれ! 何も見えないっ!』
パニックになって喚くエックスに苦笑する一同。するとチンクがふとこんなことをつぶやいた。
「ところで、エックスはいつまでその状態なのだろうな」
「その状態って?」
デバイザーを表にしてあげたダイチがキョトンとして聞き返す。
「デバイザーの中ということだ。元々は自分の肉体があったのだろう?」
あっ……と口を半開きにするダイチ。アルトは告げる。
「シャーリーさんたちの話だと、今のミッドの技術じゃ、エックスの肉体の再構築は不可能だって」
『ウルトラマンの肉体には莫大な光のエネルギーが必要だ。その確保は並大抵で出来るものじゃない。まぁ、機会が来るのを気長に待つさ』
エックスの言葉に、ダイチは複雑そうな表情を浮かべた。
――その背後ではクロノが険しい顔をしている。
「お取込み中のところ悪いが……作戦デスクの上で物を食べてはいけないと、何度言ったら分かるんだっ!!」
「了解!?」
ダイチたちは慌ててデスクの上からクッキーやコーヒーのカップをどかす。カミキは気まずそうに、にらんでくるクロノから顔をそらした。
「全く、隊長までそんなことでは困りますね……。特に今は見習いの隊員がいるというのに、そんな調子では示しがつきません」
クロノの斜め後ろには、ファビアが無言でたたずんでいた。――Xioの制服を着用して。
ファビアはピグモンと一緒に、Xioの入隊を志願。そうして見習いという形だが、ノーヴェと入れ替わるように特捜班の仲間入りを果たしたのだった。今ではピグモンともども、Xioのマスコットのようになって可愛がられている。
「キュッキュウッ」
ファビアとピグモンにウェンディが絡む。
「もう、副隊長殿はいちいちうるさくて窮屈っスね~クロ」
「別に……」
「ウェンディ!」
「ひぃっ! すいませーん!」
クロノに目敏く叱りつけられ、ウェンディはたちまち身を引っ込めた。
カミキは話をすり替えるように、咳払いして皆にこう呼びかけた。
「……怪獣災害や異星人犯罪は減少の一途をたどってるが、だからと世界が平和になっているとは言い難い。管理局はまた別の重大な問題に直面しているからな」
「……エクリプスウィルスのことですね」
ダイチのひと言に、険しい顔つきでうなずき返すカミキ。
エクリプスウィルスは近年になって存在が明らかになった、恐るべき性質を持った病原菌である。これに感染した者は身体能力、自己治癒速度の飛躍的向上等の症状が見られるが、問題なのが定期的に殺人衝動の発作を起こすことだ。このウィルスの感染者による犠牲が増加の一途をたどっている。更にはエクリプスウィルスの感染者で構成された犯罪組織「フッケバイン」が各地で被害を出しており、これらに対処する部署「特務六課」が新たに設立されたのだった。
「エクリプスウィルスは出所不明の病原菌故、Xioも近い内に特務六課に合流して対応することが予定されている。ある意味では怪獣災害、異星人犯罪よりも危険で困難な案件となるだろう。皆、心しておくように」
カミキの警告に、隊員たちは重い面持ちで了解した。
だがその時に静けさを破るようにアラートが鳴り響き、アルトがオペレーター席に着いて報告を行った。
「第23管理世界ルヴェラの文化保護区で異常電磁波と未知の強力な生体反応が検知されました!」
メインモニターにルヴェラの地図が表示され、異常電磁波と生体反応の発信源が光点で示された。ダイチが言う。
「あそこには、旧暦時代からの遺跡がありますね」
「Xioルヴェラ支部から、応援の要請が届いてます」
「確かに、ルヴェラ支部の設備では対処できないだろうな」
ルキノからの報告を受け、カミキはダイチとスバルに命じた。
「ダイチとスバルは現場に急行。異常電磁波の原因と生体反応の正体を調査してくれ」
「了解!」
二人は直ちにスペースマスケッティによって、ルヴェラに出発していった。
ルヴェラの文化保護区に到着したダイチとスバルは、鉱山地区の真ん中にひっそりと建っている古代遺跡を見上げていた。
「やはり、ここが異常の中心だな」
ダイチがデバイザーの画面と見比べながら断定した。しかし遺跡の出入り口は全て瓦礫で塞がれている。
「崩落でもあったのかな……。これじゃ中に入れないね」
「でもおかしいな。いくら普段人の寄りつかない場所だからって、こんな大規模な崩落に気づいた人がいないなんて……」
ダイチたちが立ち往生していると、後ろからザッと誰かの足音がした。二人が振り向くと、そこにいたのは、
「スゥちゃん? ダイ兄?」
「えっ? トーマ!?」
十代半ばほどの年齢の、栗毛の少年がいた。スバルは彼のことを親しげに呼び返す。
彼の名はトーマ・アヴェニール。第3管理世界ヴァイゼンの七年前の鉱山事故により天涯孤独になり、独り生活していたところにスバルが出会い、一時期面倒を見ていた子だ。
ダイチとスバルは顔を輝かせて、トーマの元に駆け寄った。
「トーマじゃないか! 久しぶり! スティードも」
[お久しぶりです、ダイチ、スバル]
トーマのデバイスのスティードが宙に浮き上がって返答した。
「二人はXioの仕事でここに?」
「そうなの。トーマはまた宝探しで?」
「うん。人があまり立ち寄らない遺跡なら、きっと珍しいものがあると思って」
トーマと立ち話していると、更にもう一人、紺色のサイドテールの、トーマと同年代程度の少女がこの場にやってくる。
「あれ、トーマ。その人たち誰?」
少女の顔を見やったスバルが、ニヤニヤしてトーマに振り向いた。
「あれ~? トーマ、旅行中に彼女なんて作ってたの? 手紙にはそんなこと全然書いてなかったけど」
「い、いや、違うよ! 彼女はアイシス。ちょっとした行きがかりで、たまたま同行してるだけなんだ。アイシス、こっちの二人はさっき話した、スゥちゃんとダイ兄」
「あっ、そうなの。初めまして! アイシスって言います」
少女アイシスは溌溂と自己紹介した。
「いつもは町の方で露店商やってるんですけど、ある人に道案内させられてここまで……」
「ある人?」
スバルが聞き返した時、遺跡の方からドカーンッ! と大きな爆音と硝煙が発生して、一同面食らった。
「な、何事!?」
「カルロスさんっ!」
トーマが慌てて爆発のあった方へ走っていき、ダイチたちもそれを追いかけていく。
「よぉ~しっ! 掴みは完璧だぁ~!」
爆発のあった場所では、遺跡の壁に大きな穴が開いていた。その前では、前時代の冒険者風の格好をした男性が、撮影機材を持った数人の集団の前でテンション高く声を張っている。
トーマはその男性に食って掛かった。
「カルロスさん、どういうことですか! 遺跡の壁を爆破するなんて乱暴すぎます!」
しかしカルロスと呼ばれた男性は、少しも悪びれた様子がなかった。
「おやおやトーマくん。オムレツが食べたきゃ、卵を割らないとねぇ。君も私みたいな有名な冒険者になりたいんだったら、こういう大胆さを身につけるべきだよぉ!」
「……何? あの変な人」
スバルがヒソヒソとアイシスに尋ねかけた。
「自称有名な冒険家のカルロスさん。情熱はあるんですけど、行き過ぎてかなり自分勝手な性格で……。あたしもトーマも無理矢理連れ回されて、迷惑してるんです」
「そういえばトーマからの手紙に、たまたま知り合った人に勝手に助手にされて困ってるってあったっけ……」
ぼやくダイチ。トーマはまだ抗議していたが、カルロスは取り合わずに話を進めてしまう。
「いざ行かん、ロマンの旅へぇ! よし行くぞっ!」
「ちょっと、カルロスさん!? 危険ですよ! 内部は脆くなってるかもしれないのに、調べもしないで……!」
止めようとするトーマだが、カルロスはお構いなく撮影スタッフを連れて遺跡に立ち入っていく。仕方なくダイチたちも、カルロスの後を追いかけていった。
――壁を爆破して開けた穴から遺跡に入ろうとしているダイチたちの姿を、その遺跡の中から、隠しカメラで監視している者たちがいた。白衣を纏っていて、研究者風の装いである。
「主任、Xioの隊員は遺跡に入ってきてしまいました」
「分かってる。全く、この辺鄙な土地を買収する奇特な奴が現れて、引き払おうとしていた矢先にどうしてこんな災難が舞い込んでくるのか……」
最も歳のいった男がため息を吐く。
「ともかく『研究施設』までの道は全て封鎖し、警備の兵には存在を気取られるなと伝えろ。間違っても、『シュトロゼック』のいるところには踏み込まれるなよ」
「了解しました」
遺跡内に踏み入ったカルロスは、先ほどの爆破で床に開いた穴を指差した。
「見ろ! ここは人の入った痕跡がない。きっと今まで誰も見つけたことのない隠し階段だっ! 大発見だぞぉ~!」
穴から覗く階段を、無遠慮に下りていくカルロスを呼び止めようとするトーマ。
「待って下さいカルロスさん! ここには地獄が封じられてるという言い伝えもあるんです! どんな危険があるか……うっ!?」
だが話している最中に、いきなり頭を押さえて膝を突いた。
「と、トーマ、大丈夫!?」
驚くスバルたちに対して、トーマは告げた。
「急に頭痛が……それと、念話みたいな声が聞こえた……」
[念話? 私には何も]
スティードが言うが、トーマはそのまま続ける。
「この遺跡の奥から、助けてって聞こえた……!」
「えっ……!?」
スバルが身を強張らせたが、地下に向かうカルロスたちの方も放ってはおけない。迷っていると、察したダイチが申し出る。
「カルロスさんの方は俺が。スバルはトーマと、トーマが聞いたっていう念話の主の方を」
「ありがとう、ダイチ! 気をつけてね」
「そっちこそ」
ダイチとアイシスはカルロスを追いかけて、その後でスバルはトーマを助け起こした。
「トーマは待ってて。あたしが捜してくるから」
しかし遺跡の奥に進もうとしたところで、通路の陰からこちらを監視している兵士たちの存在に気がついた。しかも彼らは自動小銃を手にしている。
「しまったッ!」
「!? そこのあなたたち、違法兵器なんて持って何をしてるの!」
銃弾を撃ってきながら逃げる兵士たちを、瞬時に変身して追いかけていくスバル。
しかし彼女が去っていってから、トーマはこっそりと別ルートで遺跡の奥に進んでいこうとした。
[トーマ、あなたまさか]
「……俺にだけ聞こえたってことは、正確にたどり着けるのは俺だけだ」
トーマの返答に、スティードはやれやれとコードをすくめた。
[仕方ありませんね。ただ、あなたが怪我でもすると私が怒られますので]
「オーライ、バディ。上手くやるさ」
怪しい集団の目がスバルの方に引きつけられている間に、トーマは監視を逃れながら遺跡の奥に踏み込んでいった。
勝手にずんずん進んでいくカルロスたちを、トーマに代わってアイシスが制止しようと呼びかける。
「カルロスさん、止まって下さい! もう、どうしてあなたはそう……きゃっ!?」
だが追いかけている最中に、何かにつまずいて前のめりに倒れた。
「大丈夫!?」
「あたた……何とか。ありがとうございます」
アイシスが自分のつまずいたものに目を向けると――地面から甲虫型の怪獣と恐竜型の怪獣の人形が半分覗いていた。
「スパークドールズだ! アントラーとファイヤーゴルザ!」
ダイチは直ちにスパークドールズを慎重に掘り出して、実体化を防ぐ特殊ケージに収めて回収した。
「これでよし。無事に回収できてよかった」
ほっと息を吐くダイチの一方で、カルロスは肩をすくめた。
「ふぅん。スパークドールズなんて今時珍しくも何ともない。もっと私の番組の目玉に相応しいような新発見はないものか」
そう唱えながら地下空間の先に進んでいくと……。
「おおー!? 何だあれはーっ!!」
急にカルロスが大声を上げたので、ダイチとアイシスはすぐに駆けつけた。そして二人も、ライトに照らし出された『もの』を目の当たりにして目を見張る。
上半身だけが地面から出ている巨大な石像……しかもその顔立ちは、ウルトラマンのものであった!
「ウルトラマンだー! すごい、大発見じゃないか!!」
カルロスが興奮している中、エックスが声を発する。
『あの姿は……古の巨人、ティガの像か!? こんな場所にあるとは……』
「古の巨人、ティガ!? 俺も無限書庫の古文書で名前を見たことがあるよ。でもウルトラマンだったなんて……」
『太古の昔に、この地を訪れていたのかもしれない』
ダイチがふと目線を横にやると、そちらに古代文字が刻まれた石板と、青い石がポツンと安置されているのを発見した。ダイチはデバイザーの解読機能を使い、石板の内容を読み上げる。
「碧石によりて、天の光、地の光は結ばれん」
「碧石?」
「あの青い石のことだろう。……結びの光が蘇りし時、闇は闇に還りたり。結びの光を持つ者に、この石を託さん……」
「結びの光を持つ者っていうのは……」
「この石を、私に託すということさ!」
いきなりカルロスが話に割り込んできて、石を取ろうとした。その手を慌てて止めるアイシス。
「待って下さい! きっとこの石は、遺跡の重要なものです! 地獄が封じられてるなんて言われる遺跡のそれを勝手に取ったら、どんなことが起こるか……!」
しかしカルロスはアイシスの手を振り払った。
「この土地は我が社が買収した! 出土されるものは全て私に所有権がある!」
そう言って有無を言わさぬ内に青い石を手に取り、立ち上がる。
「……ほら見ろ。別に何ともないじゃ……」
カルロスは得意げに言いかけたが……徐々に遺跡の全体を小刻みな揺れが覆い始めた。
「な、何だかやばい雰囲気……。だから言ったのに!」
「危険でなければ冒険とは呼ばんよ! このカルロス・クローザー、いつ如何なる時でも、毅然として……」
だが震動が一気に大きくなり、遺跡の地下が崩落を始めた!
「逃げろぉーっ!」
カルロスは前言をあっさり撤回、我先にと逃走を始める。慌てて後についていく撮影班。
「あぁーもうっ! あのおっさんはぁ―――――っ!!」
「アイシスさんも退避して! 足元に気をつけてっ!」
ガーッ! と怒鳴るアイシス。そんな彼女をダイチが連れて、脱出を図った。
遺跡の兵士たちを相手に交戦していたスバルは、大きくなる震動に目を見張っていた。
「な、何が起きてるの!?」
「うわあぁぁぁぁ――――――――!?」
次の瞬間、兵士たちの足元がいきなり吹っ飛び、下から何か巨大なものがせり上がってきた。
「えっ……!?」
スバルの視点からでは、毒々しく青い有機質な壁にしか見えなかった。しかしそれでも分かることは……それが生物の「肌」だということだ。
別の場所にいる白衣の研究者たちも、突然の震動に動揺していた。
「な、何が起きた!? シュトロゼックに侵入者の一人が接触したかと思えば……今度は地震か!?」
そう思った時、彼らの前の床が弾け飛んで、真っ赤な鬼のような角を生やした異形の大怪物の顔面が現れ、彼らを一列に並んだ黄色い眼球の数々でにらんだ。
「グギャアアァァァァ――――――!!」
「ひぃっ!?」
突然のことに恐怖で引きつる研究者たち。
「ガハハハハハ……!」
怪物は大きく裂けた口から、低い笑い声のような鳴き声を発し――部屋を裂き、棍棒状になっている右腕を振り上げた。
「うッ……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!?」
「何だ!?」
トーマは遺跡の奥部の、隔離された部屋で辺りを見回していた。彼の側には、先ほどはどこにもいなかった少女がいる。
彼女はこの部屋で、どういう訳か磔にされていたのだ。それをトーマが助けたと思えば、この事態だ。
そしていきなり部屋の天井が吹き飛んだかと思うと、鬼のような形相の大怪物がトーマたちを見下ろす。
「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」
「怪獣!?」
大怪獣は右腕を振り上げ、棍棒を彼らに叩きつけようとする。
「手伝えスティード!」
[オーライ、トーマ]
トーマは咄嗟に自分と少女の周りを、全力のプロテクションで覆い込んだ。しかし怪獣相手に、人間の防御で防ぎ切れるものか。少女は怪獣の威圧感に怯える。
「大丈夫」
トーマは彼女を落ち着かせるように呼びかけた。
「きっと助けるから」
そう言いながらも余裕のないトーマの横顔を見つめ、少女は何か決心した顔になると、急にトーマの右手首を握り、指先に口づけした。
『エンゲージ』
怪獣が棍棒を振り下ろした瞬間――すさまじい光の奔流が、怪獣に激突した。
遺跡から脱出したダイチたちは、光の奔流によって吹き飛んだ遺跡に振り返って唖然とした。
「今のは砲撃!? けどすごい威力だ……! 誰があんなもの……」
「きゃあっ!」
ダイチたちの元に、吹っ飛んできたスバルが受け身を取りながらもゴロゴロと転がる。
「スバル! 大丈夫か!?」
「な、何とか……」
ダイチとアイシスに助け起こされたスバルは、ダイチに問われる。
「トーマを知らないか!? 連絡が取れないんだ!」
「えっ!? 一緒に脱出したんじゃないの!? まさか……!」
弾かれたように瓦礫の山と化した遺跡に振り返るスバル。
その瓦礫を更に吹き飛ばして、巨大生物が彼らの視界に姿を現す!
「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」
「あいつは……!?」
――棍棒のようになっている右腕。毒々しい青と赤の地肌。ノコギリ状の尻尾。頭部から伸びた真っ赤な二本角。背面には無数のトゲが生え、黄色い眼は一列の複眼になっている、巨大怪獣がおどろおどろしい咆哮を発した。