記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
今週から活動を本格的に再開致します。
それと今話から1タイトルで5,000文字を超えそうな場合、1、2、3……と5,000文字前後で区切って投稿することに致しました(前話等が長くて読み疲れるとの意見が有りました故)
また何かあったらご指摘の程よろしくお願い申し上げます
それではでは!
memory11「天龍、龍田の意地」
「艦載機、発艦始め!」
いつもの第三訓練海域に声が響き渡る。
赤城の放った矢は勢いよく飛び、ある程度の所で光の粒となって霧散したかと思えば、光の粒は、第二次大戦期の飛行機の形に集まり、次の瞬間にはラジコン程の大きさの本物の飛行機になっていた。
その後も赤城は次々と矢を放ち飛行機へと変えていく。
「3時の方向!敵機影!」
吹雪の指差す先にゴマ粒のように敵機の姿が見えた。
「さすが、二航戦のお二方……いつの間にこちらを捕捉したのでしょう……?」
青葉がそう呟く。
「ゴチャゴチャ言っても始まらないデース。全艦、アカギを中心に対空陣形にchangeするネ!」
奄美の艦娘達は、赤城の周辺へと移動し対空陣形を構築する。
「敵攻撃隊、来ます!」
「上空の敵艦爆は私の艦戦隊で迎撃します。吹雪ちゃんは観測を続けて!海面付近の敵艦攻はお任せします!」
「青葉りょーかーい!対空戦闘、始め!」
「FCS、targetは敵艦攻機ネ!対空砲起動、fireー!」
艦隊上空で激しい攻防戦が繰り広げられる。
赤城は自らの放った九六式艦上戦闘機で、対空砲の届かない高度の敵機を迎撃し、他の艦娘達は各々の対空砲で、迫り来る敵機を迎撃していた。
しかし、機銃の作り出す弾幕をすり抜け、何機かの敵艦攻機が攻撃態勢に入る。
「赤城さん!5時方向、敵艦攻!」
「くっ……!」
艦攻機から投下される魚雷は、艦艇搭載の魚雷より速度は遅いものの、小回り等のきく飛行機から投下される為、艦艇魚雷よりも被雷率が高かった。
それに、今回は完璧な対空陣形を組む為の艦娘の数が、奄美の方は足りていなかった。その為、防御網は穴だらけだったのだ。
「各艦、回避運動始め!」
いよいよを持って、敵機が突入を掛けてきた。
赤城は周りの艦娘に回避指示を出す。艦娘達は各々で弾幕を展開しつつ回避行動を開始する。
その時、前方に出ていた青葉の短距離レーダーが数機の敵艦攻隊を捉えた。
「そんな……!?私達の回避が読まれてる!」
即座に機銃を向け、撃墜しようとするが、海面スレスレを飛ぶ艦攻機に弾が全く当たらない。
遂に、一機も堕とせぬまま防御網を突破されてしまった。
「気を付けて赤城さん!その艦攻機、普通のとは違いますよ!」
「流石、飛龍と蒼龍ね。あの高さで突入させるとは、真珠湾の時よりも腕を上げてるわね」
赤城は魚雷が投下されると同時に、進行方向を迫り来る魚雷の方へ向けた。
第一陣、二陣と放たれた魚雷の間をすり抜けるように避けていく。
そして見事、魚雷群を避け切った。しかし攻撃はまだ終わらない。
もう1つの艦攻隊が赤城に迫る。
ちょうど艦攻隊は赤城の正面から向かって来ており、回避はそれ程難しくないように思えた。
しかし、その艦攻隊は魚雷を投下せずに突っ込んでくる。そして、いきなり機首を上げた。
そこで赤城も気付いた。
「まさか!?爆撃機!?」
真正面から迫り来る機体は、航空魚雷装備の雷撃機では無く、対艦爆弾をひっさげた爆撃機だったのだ。
艦爆機は赤城の頭上を飛び越す前、ある程度の所で爆弾を投下した。水平爆撃だ。
水平爆撃は、急降下爆撃よりも威力や命中率が劣るのだが、雷撃を予想していた赤城にとっては、完全な不意打ちとなった。
一斉に投下された爆弾のうち、1発の爆弾が直撃する。
赤城の艤装から【小破】を示す黄色の煙が上がる。
「装甲損傷率28%……運が良かったわ」
「大丈夫ですか!?」
「ええ、心配しないで」
先程の攻撃が最後だったのか、敵の飛行機達が引き上げていく。
「何とかなりましたね……」と吹雪が呟く。
「今度はコッチのturnネ!アカギ!」
「もちろん、第一次攻撃隊、全機発艦!」
総数30機程の飛行機を、赤城は大空へと放つ。
赤城の顔はいきいきとしていて、飛んで行った飛行機を見つめていた。
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「今日は派遣艦隊の二航戦と対抗演習をしたわけだけど……まぁ、予想通りだね」
結果から言うと、演習は敗北していた。無理も無い。
訓練しかしていないCMSと実戦に参加しているCMSとでは、経験値に差があり過ぎるからだ。
「でもサー、空母1対空母2はキツイと思うネー」
金剛がそう愚痴をこぼす。
「だけど、人数で言えば2対4だし、艦載機の搭載数は赤城に合わせて同じにしてあるんだぞ?」
そうルナが答えると、金剛は口を尖らせて黙り込んでしまった。
「そう言えば、何故、機体が九六艦戦なのですか?」
「いや、ライラさんに掛け合ったんだけど、訓練に回せる機体がそれしか無くて…」
「そうですか……あの機体はやっぱり
「まぁ、そう言わないで……飛龍と蒼龍も今日はありがとう。いい訓練になったよ」
「いえいえ!こちらこそです!」
「私達はこれで戻りますけど、また声掛けて下さいね」
そう言い残すと、2人は基地庁舎に戻っていった。
その後、奄美の艦娘達も解散になったが、ルナは気になっていることを赤城に聞いていた。
「なぁなぁ、どうして矢が艦載機になるんだ?もしかして魔法?」
「魔法とかでは無いですけど……進んだ科学は時に魔法と言いますし、あながち間違いでも無いかもしれませんね」
赤城は矢を一本取って見せた。
「この矢には私達CMSにも使われている『記憶兵器技術』……通称【MW技術】が使われています。
矢にはMW技術による、エンコード&デコードプログラムが組んであって、この『飛行甲板艤装』にセットして矢を起動してから放つと、矢の分子構造……一部、原子構造まですげ替えてヒコーキになるみたいですよ?
戻ってきたヒコーキ……矢はデコードプログラムによって元に戻るという仕組みらしいです」
「ちょ……すげ替えるって?」
「えっと……なんか、この矢とかの『物』全般、
例えば、この矢は、矢という物体、物質自体が『矢』という記憶を持って自覚しているから今、ここに矢として存在しているのであって、その記憶を別のモノ……ヒコーキに変えてしまえば、この矢はヒコーキになってしまう……みたいな感じですかね?
私自身もあんまりよく解らなくて……」
「えぇ……そんなことあり得るのか……まぁ現にあり得ているんだけども」
ルナは改めて記憶兵器の凄さと恐ろしさを実感していた。
この技術を悪用すれば、まさにその対象の存在を歴史の帯から抹消出来てしまう可能性もあるし、物の価値などのバランスが崩れる可能性もある。
やはり
「でも……物体が分子構造から変わるとは、にわかには信じられないな……いやさっき目の前で見たけどさ。
でもそーゆー『事象』って誰かが見てないと決まらないんじゃ無かったっけ?」
「第三観測による決定、所謂『シュレーディンガーの猫』だな」
突然、背後から掛かった声にルナが振り向くと、そこにはライラが立っていた。
「ど……どうも」
「航空演習をすると言うから観に来たのだが、どうやら後の祭りのようだな。時に貴様はシュレーディンガーの猫を知っているか?」
「まぁ……さわり程度には」
「こんな子供まで知っているとは。本当に日本はシュレーディンガー好きだな」
シュレーディンガーの猫。
ある確率(50%)で毒ガスの出る箱に猫を入れ、フタを閉める。
勿論、毒ガスが出てしまえば中の猫は死んでしまうが、毒ガスは出ないかもしれない。
確率が半々である為、毒ガスの有無はまさに運だ。
次にフタを開ける時に、中にいる猫は死んでいるか死んでいないかという思考実験だ。
普通に考えると、フタを開けてみるまで中の猫が死んでいるか死んでいないかは判らない。
物理的に考えるならば、フタを開けてみるまで自分達には予想がつかないだけであって、箱の中の猫は生きているか死んでいるのかは、はっきりしている筈である。
しかし、『量子力学』では箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が ”同時に” 起こっていると考える。
これが所謂、『重ね合わせの状態』であり、2つ以上の事象が同時に存在しているという、量子力学で語るに外せない物になる。
そして、フタを開けて見る事によって、やっと猫が生きているか死んでいるかーーー『事象』が決定するというものだ。
「つまりお前は、矢の記憶が変わって艦載機になっていたとしても、誰かが観測しないとその変化の事象は成立しないと言いたいんだろう?」
「そ……その通りですけども」
「残念だが、これは成立する。何故なら、存在確率を決定するのが『記憶』であって、記憶が全ての事象の、世界のモトだからだ。
世界は確率で成り立っている、とかなんとかの突き詰めるとコペンハーゲン解釈まで飛躍するアレの確率を決める存在は『記憶』だ。
よって記憶を変える=デコヒーレンス=事象の決定という事になる」
「さっぱり解りません」
「要するにだな……滅茶苦茶凄いステキ技術だ」
「うわあすごいよくわかりましたよ」
「はぁ……まぁ、細かいところはまた詳しく解るまで教えよう。それでは私は戻るとするか。目当ての演習をやっていないんじゃ骨折り損だ」
そうぶつくさといいながらライラは戻っていった。
「あの人、一体何者なんだ……」
ルナは本心からそう思っていた。
「えーと、解って頂けましたか?少尉?」
赤城の困り気味の言葉に苦笑いでルナは返した。
「そうだなぁ、他に分かりやすそうなものは無いか?」
「この矢意外でですか。そうですね、龍田さんの
ルナは着任当時を思い出す。
軍刀を折られ、目の前に刃を突きつけられたあの時を。
「確かにあの時、どこからともなく薙刀が現れたし、その後、光の粒みたいなのになって龍田の手の中に集まってたな」
「恐らくあれもMW技術の産物でしょう。普段は薙刀の記憶を別の何かにしてしまってるんでしょう」
「はぁ~成る程ね……てっきり、転送とかテレポートとか、召喚とかかと」
そう言ってルナは言葉を切る。
「……どうしました?」
「いや、そういえばあの2人をそろそろどうにかしないとなって思って」
そうなのだ。青葉、金剛、赤城と次々に問題を解決してきたルナだったが、最後の難関とも言えるべき艦娘が残っている。
「あの2人はなぁ……うーん……まぁ考えたって始まらないか。取り敢えず会ってみないと……って、あいつらいつも何処にいるんだ?」
「さ、さぁ……?」
ルナは大きくため息をつくのであった。
【2に続く】
続きます