記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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前回の続きです


memory11ー2

 

 

memory11ー2

 

 

 

 

基地の敷地内をぐるっと見て回ったのだが、天龍と龍田の姿は何処にも見当たらない。

基地庁舎とCMS宿舎内も見て回ったが、やはり、姿を見つける事は出来なかった。

 

「全く、どこに行っちゃったんだ?まさか……基地の外か?」

 

確か、天龍と初めて出会ったときも基地の外、かつ、外出許可を貰っていなかったとかなんとかでライラさんに怒られていた気がする。

 

早速、正門に出向き、衛兵に尋ねてみた。が、今日は誰も外へは出ていないと衛兵は言い切った。

 

いよいよを持って八方ふさがりになったルナは、取り敢えず自室に戻り、あの2人がいるであろう場所を考える事にした。

 

「あいつらの部屋も行ったがいないし、外にも出てないって言うし、どうしたものか……」

 

そう言いながらしばらくポーっと外を眺めていた。ふと、気がつくと何やら外が騒がしい。

ツナギの作業着を着た人や軍服を着た人達が走り回っている。

気になったルナは、外に出て事情を聴いてみる事にした。

 

再び外に出たルナは、その場をを仕切っているらしい作業着の人物に話し掛ける。

 

「どうしたんですか?」

 

「ん……?あぁ!誰かと思えば少尉さんかい!」

 

「あっ……えっと、艤装整備の主任さんでしたか。いつも、お世話になってます」

 

「いーってことよ!それよりちょうど良かった。お前さん、天龍の娘っ子どもの行方を知らねーか?」

 

「いえ……自分も探しているんですが、何かあったんですか?」

 

「それがなぁ、あの娘っ子どもの《メインアーマー》……よーするに、機関部艤装とか諸々が【工廠】から無くなってたんだよ」

 

「ほ……本当ですか!?」

 

「あぁ、一応、CMSの艤装は特級極秘レベルの産物だからな。もし何かあったら……」

 

「成る程、そういう事ですか……」

 

「そーゆーワケだ。少尉さん、何かあったらよろしく頼むよ」

 

そう言い残すと、整備主任は部下達に指示を出す為に戻っていってしまった。

 

ルナもいい事を聞いたと思い、捜索を再開する。艤装が無くなったという事は間違いなく彼女達の仕業だろう。それ以外に考えられないし、整備主任もそう見当をつけていた。

 

そして、持ちだしたということは彼女らは海にいるはずだ。

先程の衛兵の話から、基地の外はあり得ない。

つまり、基地内の海上演習場のどこかにいることになる。

 

ルナは考えた。第三訓練海域は先程自分達が使っていたのであり得ない。

第一訓練海域も、特別な許可が降りない限り、派遣艦隊が独占使用しているので入る事が出来ない。

そうなると残るは第二訓練海域。

 

ルナは駆け足でそこに向かった。

 

 

 

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第二演習場、第二訓練海域に着いたルナだったが、案の定と言うべきか、そこに天龍と龍田の姿は無かった。

 

「くっ……一体全体どこにいるんだ……ん?」

 

ふと耳を澄ましてみると、どこからか低い地鳴りのような音がかすかに聞こえてくる。これは、砲撃音…?

 

そう思いつつ、音のする方向へ向かう。すると岸の端のフェンスに草に隠れるようにして、人ひとりが通り抜けられそうな穴が空いてるのを見つけた。

しかし、フェンスの先は草木が鬱蒼と生い茂る森だ。不安を胸に抱きながらも、ルナは穴をくぐり森の中へ入っていった。

 

森の中は、背の高い草とあいまって独特な雰囲気を出しており迷いそうだったのだが、何者かが通ったらしき跡があり、ルナはそれを辿るように歩いた。しばらくすると、樹木が少なくなり視界が開けた。

 

目の前には、海と砂浜。

 

信じられない事に、演習場外の森を抜けた先には、秘境とも呼べるビーチが広がっていた。

 

その光景にしばし見とれていたルナだったが、沖合に誰かが立っているのに気がついた。

天龍と龍田だ。

 

二人とも盗み出したのであろう艤装を装着し、海の上で相対している。

 

おもむろに龍田が砲を放った。天龍はそれを横にサッと移動して軽々躱す。それを合図に両者の間で砲撃戦が展開される。どちらも正確無比な砲撃を繰り出しているが、命中弾は無い。どちらも巧みな舵さばきで砲撃を躱している。

 

しばらくそんな撃ち合いが続いたが、遂に弾切れを起こした。

龍田は弾が切れた瞬間、保っていた天龍との距離を瞬時に詰め、天龍の左側面に回り込むと共に、右手を横に突き出した。

 

すると一瞬の内に薙刀が現れ、龍田はそれを掴むと大きく薙ぎ払うように天龍の背後から薙刀を振るった。

 

天龍はそれを読んでいたかのように、しゃがんで避ける。そして、いつの間にか右手に握られていた(ブレード)を斜め下から上へと、斜に斬りこむ。

龍田は薙刀の柄の部分を立ててそれを防ぐ。

その状態で数秒間、ガチガチと音を立てて鍔迫り合いが起こる。

一度ブレイクし、もう一度、また一度と何度も何度も打ち合う。

 

そんな一進一退の攻防が繰り広げられる。

天龍と龍田の戦闘は日が落ちる頃まで続いた。

 

 

 

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2人が海から上がったのは、もう夜と言っても差し支えがない程、日が傾いた頃だった。

 

ルナは行く手を阻む様にして、2人の前に躍り出る。

これには流石の2人も驚いたように見えた。

 

「なんだよ、誰かと思えばチビ助か。よくこの場所が分かったな。それで?何用だ?」

 

「もしかして、私の処分が決まったのかしら~?」

 

「処分の話はまた後でいい。そんなことより……いつまでも訓練をサボってなんかいないで、そろそろ参加してくれないか?」

 

天龍は暫く考える素振りをすると、キッパリとした声で「やなこった」と言い放った。

 

「……理由を聞いても良いかな」

 

「理由なんて大層なもんはねーよ。訓練をしたトコで何の意味もないってだけだ」

 

「自分達の努力は無駄だって言いたいのか」

 

「考えてみろよ。俺らE型のCMSは、N型の ”試作型(プロトタイプ)” みたいな立ち位置のCMSだぞ」

 

「……それは初耳だな。自分はN型と違って局所性が高い、と聞いていたんだが」

 

「どっちもおんなじもんだろ。古い道具はどれだけ頑張っても、新しい道具を上回ることは無い。新しい道具が出れば、古い道具は捨てられる。不要って言われてな」

 

天龍は興味無さげにそう言った。

 

「そうは言うけどな、さっきの君達の動きは並大抵のものじゃなかったと思うぞ。その技量があれば……」

 

「どれだけの技量があろうと、素体が古いんならどうしようもねーよ。本物の天龍型軽巡洋艦だって、最初期に建造された。

その後に建造された新型の軽巡洋艦と比べれば、どちらを戦線投入されたか、戦線投入するかなんて言わなくても解るだろ」

 

「…………」

 

天龍はルナの横をすり抜けて、森の中へと消えていった。

ルナは天龍の言葉に、形容しがたい、悲愴感のようなものと、今の言葉の重みを感じ取っていた。

否、感じ取れてしまったからこそ、何も言い返すことができなかったのだ。

 

天龍に続くように、龍田もその場を後にしようとする。

 

「ーーーーーー」

 

「…………っ!?」

 

龍田はルナの横を通る際、聞こえるか聞こえないかという声でそう言った。

龍田の背中が森の中へ消える。

 

「どういうことだ………?」

 

1人残されたルナは、天龍と龍田が消えていった方を見つめながら、龍田の言葉を頭の中で反芻させていた。

 

 

 

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しばらくして、ルナもビーチから戻る事にした。取り敢えず庁舎に戻らなければ何も出来ない。

 

森を抜け、穴のあいたフェンスをくぐり、第二演習場から、庁舎へ戻る道すがら、ルナは妙な建物を見つけた。

 

こちらへ来るときは只の備品倉庫に見えた建物に、赤い提灯と暖簾(のれん)が出ている。

まるで、どこかの屋台か居酒屋のようだ。

 

「何だコレ……?」

 

扉に手をかける。鍵はかかっていなかった。

中に入ってみると、ちょっとした座敷にカウンターバーのある、結構しっかりとした内装だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

突然そんな声が聞こえると、カウンターの奥から、1人の女性が出てきた。

 

薄紅色の着物に紺色の袴を身につけ、ポニーテール風に結った髪に、おっとりとした顔立ちが特徴的だ。そして少女のようにも、大人の女性のようにも見える。

 

「あら、見かけない顔ですね。ここに来るのは初めて?」

 

「あ……いや、スミマセン……ちょっと道に迷いまして~……アハハ……それでは失礼しましたぁ~……」

 

ルナは何となくその場を立ち去ろうとしたのだが、そこに女性の声が掛かる。

 

「貴方が、栄ルナさんですね」

 

「…………!どうしてそれを!?初対面のハズじゃ……」

 

女性はニコニコしながらルナの腕章を指差す。

 

「少尉ともあろうお方を、おもてなしもせずに返すのでは私の心情が納得出来ません。どうぞこちらへ。何かお飲み物でもお持ちしますね」

 

「いやでも自分、今はお金を持ち合わせてなくて」

 

「ふふふ、ここは基地内の食堂と同じ様な、基地関係者なら誰でも利用できる所なんですよ。だから、お代は頂きません」

 

女性はそう言うと、奥へ引っ込み、直ぐに戻ってきた。

ルナは勧められるままにカウンターの席に着く。

 

「はい、どうぞ」

 

差し出されたのは、黄蘗色(きはだいろ)で、炭酸が効いていそうな飲み物だった。ルナは一口、それを飲んでみる。

 

「…………!……美味しい!」

 

「それは良かったわぁ。少尉さんのお口に合わなかったらどうしようかと」

 

女性は手を合わせながら微笑んだ。

 

「多分コレ、ジンジャーエール系の飲み物ですよね?」

 

「そう、ジンジャーエールをベースに ”貴方好み” に少しアレンジしてあります。気に入って頂けて何よりです」

 

「へぇ~、自分、ジンジャーエール好きなんですよね……」

 

そう言いながら飲んでいると、コトンと小皿に盛られたふろふき大根が差し出された。

 

「飲み物と季節には合わないけれど、良かったらどうぞ」

 

ルナは「ありがとうございます」と礼を言って箸を入れる。中までしっかりと火が通っており、すんなりと箸が入る。

食べると、芯まで出汁が良く染み込んでいて、これはどんな物とでも相性抜群だ、と思う程美味しかった。

 

そんな風に舌鼓を打っていると、女性が「今日はどうかされたのですか?顔色が優れませんよ?」と聞いてきた。

 

人前では心境を表情に出さないようにしてるんだけど、顔に出てたのか。

ルナはそう思いつつも「何もありませんよ。ただ散歩してただけです」と答えた。

 

「もしかして、天龍さんと龍田さん……ですか?」

 

「うぐっ……!?」

 

ルナはビックリして大根を喉に詰まらせる。

 

「ゴホッ……ゴホッ……あなた一体……?」

 

「あら?当たっちゃいましたか?さっきここの前をあの2人が歩いて行った後にあなたが来たから、ひょっとしたらって思ったのだけれど。……良ければお話を聞いても宜しいですか?」

 

この女性相手には何を言っても無駄であろうと悟ったルナは、これまでの経緯をかいつまんで説明した。

 

「成る程、だから落ち込んでいらっしゃったのですね」

 

「落ち込んでいた訳じゃ無いですけど……ただあの時、何も言えなかったんです」

 

天龍のあの声音、あれは自分の限界を知り、諦めてしまった者の声だった。

 

「あいつらは多分、自分達の ”自信” を失くしているんだと思います。何とかしてそれを取り戻すことが出来れば……」

 

女性はそんなルナの言葉を聞いて、静かに微笑んだ。

 

「優しいのですね」

 

「え?」

 

「自分じゃない他人の為に、そこまで考えているなんて、優しいのですね」

 

「い……いや、ただ、あいつらをどうにかしないと、いつまで経っても訓練が進まないからですよ……アハハ……」

 

「あら、そうなんですか」

 

そう言いながらも女性はニコニコしながらルナを見ている。

 

「と……とにかく、問題はどうやってその自信を取り戻させるかなんですよ」

 

「お得意の説得はどうなのですか?」

 

「いや、お得意でもなんでもないですけど……というより、何ですかそれは?」

 

「あら、貴方の評判は私の耳にも届いていますよ。青葉さん、金剛さん、赤城さんに的確なアドバイスや、挫けていた心を立ち直らせたりしたこと」

 

「あぁ、成る程……ですが、あの2人に説得は通用しませんよ多分……」

 

天龍と龍田は他の艦娘と違って、自尊心が高いとルナは見ていた。自尊心が高い者の心は、折れてしまったり、砕けてしまった場合、立ち直らせることは容易ではない。

それでもってあの性格ときた。言葉でどうこうするのは無理に近いだろう。

 

「なら、違う方法を試しては?」

 

「それが中々思いつかないんですよ……うーん……」

 

「言葉を使わないで交渉まで持っていけば良いのですよ」

 

「言葉を使わないで説得とか交渉とかって、矛盾してますよそれ…………ん?」

 

ここでルナはある悪魔的考えをひらめいた。確かに、人を説得し、心を動かすには言葉が必要不可欠だが、それに至るまでなら、天龍、龍田相手ならば必要ないかもしれない。

 

ただし、ルナの考えた方法はあまりにもハイリスク。上手くいく保証が全くを持って無かった。

 

「何か思いついたんですか?」

 

「思いついたは思いついたんですけど、あまりにも無謀なので、流石にちょっと……」

 

「試してみても良いのでは?」

 

「…………?」

 

「多分、彼女らには ”その方法” が一番良いと思います。確かに、それは貴方と彼女達に深い溝を作ってしまうかもしれません。

でも、貴方ならそうならないように出来るはずです。

それに、あの娘達もその程度で折れる程やわじゃ無いはずですよ?」

 

女性はニコニコしながらルナの心の内を読み取ったかのように、そう話した。

ルナは焦燥を女性に気取られないように気をつけながら、逆に問いかける。

 

「貴女は一体、何者なんだ?自分の何を知っているんだ?」

 

「ふふふ、私は只の勘と察しが良いだけのしがない居酒屋の女将ですよ。

あの娘達を宜しくお願いしますね」

 

「…………」

 

まるでこちらの何もかもがお見通しの様にルナには思えた。

これ以上ここにいたら疑心暗鬼に駆られそうだと感じたルナは、女将に礼を言うと居酒屋を出た。

 

「本当、何なんだあの人は……だけど、あいつらをどうにかする策は出来た。後は、その場の展開次第、か……」

 

ルナは既に日の落ちた夜道を、一人歩いて戻った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「……帰っちゃいましたか」

 

居酒屋の女将と名乗った女性は、後片付けを始めながらそう呟いた。

 

「あの人がセツカちゃんの………中々良い人じゃないですか。そう思いません?

ねぇ、提督……」

 

 

 

 

 

【3に続く】

 

 

 




更に続きます
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