記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
モウシワケゴザイマセン
続けて投稿するのでどうぞよろしくお願いします。
memory11ー3
翌日。
吹雪はいつも通りにコテージへと向かっていた。
コテージへと向かう中、吹雪はこんな事を考えていた。
最近は毎日が楽しくなった気がしますね。
CMSの力を持ちながらも、『役立たず』と判断され相手にもされなかった昔とは変わり、今では同じ仲間と共に訓練に励む毎日だからかな。
これもあの少尉のおかげですね。望むことなら、このままずっと私達の部隊に居てくれれば良いんですけど……。
コテージに着いた吹雪が中に入ると、同じ部隊の仲間達がガヤガヤしていた。
「あ、吹雪さん!おはようございますぅ!」
待ち構えていたかのように青葉が飛び出してくる。
「お…おはようございます。……何かあったんですか?」
何やらいつもと皆の雰囲気が違う気がした吹雪は、飛びついてきた青葉にそう聞いた。
「あぁ、その件ですと、先程少尉が来てですね、『今日は個人的に用事があるから、訓練は中止!』って、それだけ言ってどっかいっちゃったんですよ」
「ショーイが訓練をほっぽり出すなんて珍しいネ。今日はholidayネー!」
「少尉がいないと艤装も借りられませんからね。今日は大人しくしていましょう」
金剛と赤城も口を揃えてそう言う中、青葉だけは違った。
「い~や!少尉が訓練を中止するなんでよっぽどの事ですよ!これは大事件ですよ!
とゆーわけで吹雪さん!少尉を探しに行きますよっ!」
「え?っえ!うええぇぇえ!!?」
吹雪は青葉に腕を掴まれると、とんでもない勢いで青葉に連れ去られていった。
赤城と金剛は、2人顔を見合わせると、手を合わせて吹雪の無事を祈った。
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「少尉~~!少尉ってば~!」
青葉は別館(
「これだけやっても出てこないってことは部屋にはいないんじゃ……」
「いーや、中で引きこもって籠城してる可能性があります!コラー、少尉ー、観念して出てきなさーい!」
青葉が扉を叩きまくり、ドアノブをガチャガチャしているとバキッという嫌な音がして鍵が外れた。
「あ」
「あ」
「…………」
「…………」
「壊れ……ましたね……」
「物騒な事言わないで下さい吹雪さん。これは壊れたんじゃなくて、開けたんです」
そう言って部屋の中に入る。最初の部屋の方は壁際に掃除ロッカーのようなものがあるだけで殆どすっからかんだった。
当然、ルナの姿は見当たらない。
隣の部屋も覗いて見ようとしたが、流石にプライベートな方はマズイと吹雪が止めにかかった。
ノックをしてみるも反応は無い。
「いませんねぇ~。訓練をほったらかしてどこに行ったのやら」
「もう捜すの止めません?」
吹雪の制止の声も青葉の耳に届くことはなく、青葉は部屋の中をくまなくチェックしている。
吹雪がため息をつきながら外を眺めていると、白の軍服をまとった青年が、半ば駆け足で移動しているのを見た。
「あっ!少尉!」
「どこっ!?どこどこ?どこですか吹雪さん!!」
青葉が吹雪の声に反応して一瞬で窓の所まで来た。しかし、既にルナの姿は無い。
「どの方向に行ったか分かりますか吹雪さん!」
「えっ……と……多分、第二演習場方面?」
「第二演習場……やっぱり何かありそうな予感です!行きますよ!」
ここでもやはりとんでもない勢いで、吹雪は
青葉に引きずられていった。
ーーーーーーーーーー
「あれぇ、いませんよ吹雪さん?」
「……?おかしいですね……あの方向で少尉が行きそうな所なんてここくらいと思ったんですけど……」
第二演習場、第二訓練海域の岸辺まで来たのだがここにもルナの姿は無かった。
「あのおチビ少尉め……青葉の目を欺くとは、見かけによらず中々やりますね……」
いや、青葉さんや金剛さんや赤城さんを実戦レベルまで動けるようにしてるんですから、結構な人ですよね?と吹雪は内心思っていた。
「もう帰りましょうよ青葉さ~ん」
「待って、これを見て」
青葉が指差す先の地面には、何者かの足跡がかすかについていた。
「ココはコンクリートの地面ですけど、ここに来るまでのどこかで湿ったトコでも歩いたんでしょうね。これを辿っていくと……」
青葉は岸の端のフェンスの草をかき分ける。するとぽっかりとフェンスに穴が開いていた。
「少尉はここに入っていったに違いありません!」
(何でこういう時の青葉さんはこんなにも生き生きしてるんだろう……)
吹雪は半分呆れながらも青葉の後をついていく。そしてフェンスの先の森を2人は歩いていく。
「青葉さんてば~、ここ基地の敷地外なんじゃないですか?戻った方が良いですって」
「大丈夫、大丈夫~。ほら、森を抜けますよ」
青葉と吹雪が森を抜けかける時、先のビーチに誰かがいるのに気がついた。
「あっ、少尉……」
「待って吹雪さん」
青葉は吹雪を引っ張り、近くの木陰に隠れた。
「痛い!痛いですよ、青葉さん!」
「しーっ、静かに、吹雪さん」
青葉は吹雪にそう言うと、静かにビーチの方を指差した。
ーーーーーーーーーー
「まーた来たのか。懲りねえヤツだな」
「…………」
例のビーチにやって来たルナは、天龍と対面していた。龍田は少し離れた所に立っている。
「何度来たって訓練には参加しねぇぞ」
「そう言うと思ったよ」
ルナは大きくため息をついて言った。
「そんなことを言いに来たんじゃない」
「あん?じゃあ何しに来たんだよ」
「別にィ~?何をしに来たわけでも。強いて言うなら、からかいに」
「ハッ、昨日何も言い返せなかったからってか。考えることがチビ助だな。行くぞ龍田」
そう言って天龍は背を向ける。
「まぁーた ”逃げる” んだ」
「…………あ?」
「そうやってまたオレから距離を取るんだろ?実は訓練に参加しないんじゃなくて、お前の性格とかの所為で参加出来ないんじゃないの?」
天龍は足を止め、ルナに背を向けたままルナの言葉を聞いている。
「他の皆がお前よりも優秀になっちゃったから、今更顔出せない~。とかか?これだから、真面目に物事を取り組まない奴は。大口叩いておいて大した事ねーなー天龍さんよォ!」
天龍はその場を動かない。龍田も少し離れた所で無表情で立っている。
ルナの心臓はバクバクと波打っていた。
「あ、そっかぁ!天龍型は旧式艦だからかぁ!自分でも言ってたもんな。世界水準超えてるくせに情けないったらありゃしないね。旧式艦で役立たずの
ルナは一層声を張り上げてそう言った。
自尊心、プライドが高い奴ならこれくらいでもちょっと言えば……
「オイ、テメェ。それは俺を怒らそうとして言ってんのか?」
天龍は普段と何ら変わりない声音でそう聞いた。
「だったらどうするんだよ?」
ルナがそう答えると天龍は、くるりとこちらを向き、ゆっくりと歩いて来た。そして、ルナの目の前に立った。
「別によ?俺がスクラップだの何だの言われても全くムカつかないんだよ。怒らそうとしてるんだったら残念だったな」
「…………」
「ただな……」
天龍はそう言うと少し俯いた。怪訝に思ったルナだったが、次の瞬間ーー
「 ”天龍型軽巡洋艦” をバカにする奴だけはゼッテェに許さねぇッ!!」
ルナの顔面に天龍の拳が突き刺さる。その勢いは並大抵の物では無く、殴られた勢いだけで後ろに吹っ飛ばされた。
「…………行くぞ、龍田」
天龍はそう言って、その場を後にしようとする。
だが、そんな天龍の背中に、尋常じゃない衝撃が襲った。
「ガッ………!?」
天龍はそのままつんのめるように前から砂浜にダイブした。急いで起き上がると、そこには先程ブン殴ったルナが立っていた。
殴った頬が早くも赤くなっており、口からは血を流している。
どうやら天龍を蹴り飛ばしたようだ。
「……テメェ……!!」
「一発は……一発だ……」
ルナのその言葉に天龍のタガが吹っ飛んだ。
「おもしれぇ、トコトン付き合ってやるよ!!!」
天龍はルナに向かって駆け出した。
「今更、後悔しても遅いぞ!!天龍!!」
「コッチの台詞だ!オラァァァア!!」
ルナは内心、安堵していた。良かった、挑発に乗ってくれた、と。
先日、居酒屋で思いついた事、それは『喧嘩』だ。
言葉で言っても通じない時は、拳をかわすのが一番だと思ったからだ。
しかし、逆にルナの挑発で相手の心を折ってしまうと殴り合いには発展しない。ルナにとっての一番はそれだった。
どの道、身体的にも精神的にもダメージを負うこの方法。失敗は出来なかった。
突っ込んで来た天龍の初撃は真っ直ぐだったので、横にステップするだけでかわす事が出来たのだが、勢いそのままに天龍は後ろ回し蹴りをルナに叩き込む。
「……ごふッ…!」
幸いにも、みぞおちには当たらなかったので、ルナの動きを止めるまではいかなかった。
(CMSとはいえ、艤装を着けてなきゃ只の運動神経がいいちょっと強い女の子だ。早いとこ決めてやる!)
天龍が体勢を立て直す前に、ルナは天龍の軸足目掛けてキックを決めた。
天龍は仰向けになるように地面に転がった。
(まずは……動きを止める!)
そのまま組み伏せようと思ったのだが、天龍はバク転の要領で、起き上がり際にサマーソルトキックを繰り出した。
これを予想だにしなかったルナは、天龍の蹴りをアゴにモロに食らった。
更に天龍はタックルでルナのバランスを崩しにかかる。
ルナはよろめいたが、バランスまでは崩さない。アゴにモロに食らった蹴りだったが、横から食らうよりは幾分かはマシだったからだ。
天龍が上体を起こすのに合わせて、ルナも渾身の拳を叩き込む。
この際、女の子だからとかそんな悠長なことは言ってられない。手加減無しで殴り飛ばす。
「ぐッ……!」
ルナはちらと龍田の方を盗み見たが、龍田はこちらを見てニコニコしている。参戦する気は無いように見えた。
(あいつ……どういうつもりなんだ?)
「余所見してんじゃねぇぞ!!」
見ると、渾身の力でブッ飛ばしたはずの天龍が、既に体勢を立て直し、ルナに躍りかかって来ていた。
ーーーーーーーーーー
「(あわわわわ……なんか殴り合いが始まっちゃいましたよ!)」
「(成る程、少尉はあのお二人を説得するために訓練を中止したんですか。これは納得です)」
「(何を冷静に分析してるんですか青葉さん~!)」
木陰から、突如始まった殴り合いを観戦していた青葉と吹雪は、見つからないようにヒソヒソと話していた。
「(でも実際問題、我々がどうこう出来る事じゃ無いです。これは少尉とあの2人の問題です)」
「(そうですけど……)」
「(ここは、大人しく結末を見届けましょう)」
「(……わかりました)」
そうは言ったものの、吹雪の頭の片隅では、何処か違和感のようなものを感じていた。
(何だろう、この違和感……いや、既視感?……気持ちが落ち着かない……)
ーーーーーーーーーー
天龍とルナの攻防戦は、かなりの間続いた。
殴っては殴り返し、防いでは殴り返し、蹴られては蹴り返すといったように、両者一歩も退かずに戦闘を続けていた。
「はぁ……はぁ……」
「……へっ、チビ助の割には……中々やるじゃねぇか……」
流石の2人も体力が底をつきかけており、肩で息をして互いの距離を測っている。
「天龍……お前が訓練に参加すると言うまで……この闘いは終わらないぞ…………!」
「テメェを潰して否が応でも終わりにしてやるよッ!!」
天龍のフックを腕で受け、キックを貰い、腹にパンチを決め、両者クロスカウンターで互いに後ろにぶっ飛ばされる。
「………ぐッ……ふッ……!」
(クソッ!何なんだこのチビ助は!?)
もう既にボロボロな2人だったが、未だに戦意は衰えない。
「何でだ……何でそんなに俺に突っかかるんだ!」
「ほっとけないからに決まってるだろッ!」
今度はルナの方から仕掛ける。ルナの拳は天龍にクリーンヒットし、天龍は砂浜に転がった。
「……余計な御世話だ……!俺に構うんじゃねぇ……弱い役立たずは、使われなくなるさだめなんだよッ!」
「それが、ほっとけない理由なんだよ!解らないのか!!?」
ルナはもう一度パンチを繰り出すが、逆に脇腹に回し蹴りを食らってしまった。
「ぐぅぅッ……!」
しかしルナはそのまま天龍の脚を掴むと、顔面にむけて掌底を叩き込んだ。
「ガハッ……!」
天龍もタダでやられることは無く、掴まれていた脚を力任せに振るい、ルナの上体を蹴り飛ばした。
想像以上に長引く闘いに、2人の限界はとっくに超えていた。
「………この……手段だけは……使いたくなかったが……しょうがない、覚悟しろッ!」
「………ッ!?」
天龍は力を溜める仕草をすると、次の瞬間、一足飛びでルナとの距離を詰めた。比喩はない。まさに ”一足” でルナとの距離を詰めたのだ。
反応する間も無く、ルナの顔面に正拳突きが炸裂する。
「…………何…だ、今の……!」
先程とはうって変わった動きに危険を感じたルナは、ぶっ飛ばされた勢いそのままに、即座に距離を取った。
が、いつの間にか後ろに回り込んでいた天龍に回し蹴りを食らう。
(この動きは……間違いなくCMSの覚醒時の動き……!だけど……体内のナノマシンを起動させるためには……)
「艤装が必要なハズなのに、何故CMSの力を……って顔してんな」
「……………」
「教えてやるよ、艤装を装着していなくても20分程度なら、体内にある予備エネルギーでナノマシンを起動する事が出来んだよッ!」
またもや、常人ではあり得ない速さで距離を詰め、ルナに乱打を浴びせる天龍。ルナは防御すら出来ずにいた。
ーーーーーーーーーー
「(天龍さん、ナノマシンを……!)」
「(ただの人間相手に……殺す気ですか!?)」
傍観していた吹雪と青葉も、天龍が体内のナノマシンを起動させた事はすぐに分かった。
目の前では、ルナがなす術なく天龍にやられている。
その光景を見ていた吹雪は、遂に我慢が出来なくなり、木陰から飛び出していった。
「あっ、ちょっ、吹雪さん!」
青葉も吹雪の後を追いかける。
「もう止めて……止めてください!!」
「吹雪さん!危ない!」
吹雪が飛び出していった矢先、あと一歩前のところに何かが凄まじい勢いで飛んできて、砂浜に突き刺さった。龍田の対艦薙だ。
「あら~、邪魔しないで貰えるかしら?」
「龍田さん…… ”ルナ” を殺す気ですか!?」
吹雪が龍田に対してそう叫ぶ。龍田はポカンとした顔で「そんな訳あるハズがないでしょ?」と答えた。
「あの少尉なら大丈夫よ~。あの人なら、必ず天龍ちゃんを『治して』くれるハズよ」
「…………龍田さん、詳しく話を聞かせて頂いても宜しいですかね?」
青葉が真剣な態度で龍田にそう訊ねる。
「ええ、いいわよ。だけど、あの2人を見てたら自ずと分かるんじゃないかしら?」
「…………!」
青葉と吹雪と龍田は再び、例の2人に目を向けた。
【4へ続く】
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