記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
memory11ー4
ルナは血だらけだった。意識も朦朧としてきた。
(やばいなぁ、まさか体内ナノマシンを起動出来るとは……完全に読み違いだ)
「怖くて声も出ねぇかぁ?オラオラァ!」
相変わらず天龍は人ならざる動きでルナに打撃を浴びせ続ける。
避けることもままならないルナは、防御の姿勢のまま、天龍の打撃を受け続ける。
(さっき、艤装無しで起動出来る時間は、20分程度と言ってたな……それまで耐え続ければ……ッ)
ルナは天龍の拳をひたすら受け続ける。
とても軽いとは言えない天龍のラッシュだが、持ち堪える事は可能だと判断できた。
ただし、此方は常時防御の構え、反撃は出来なかった。
「持久戦に持ち込むつもりかぁ!?チビ助よ、ソイツは悪手だったなぁ!!」
天龍は一旦退くと、走りのスピードに身体の回転を存分に加えたハイキックに似た回し蹴りをルナに叩き込んだ。
「…………ッ!?」
ルナは左腕を立てて蹴りを防いだ。
……のだが、スピードと回転の遠心力が掛かった回し蹴りは今までのどの攻撃よりも重く、防御の姿勢を取っていたルナを軽々しく吹き飛ばした。
「うぐぅぅっ!」
左腕に尋常じゃない痛みが響く。
これは軽く見ても、骨にヒビは入っているだろう。
「分かったかチビ助。もうテメェに
「しっかしまぁ、ナノマシンを起動させたオレの蹴りを喰らって倒れなかった奴はテメェが初めてだよ。これに免じて、今そこで倒れればトドメは刺さないでやる」
天龍の言葉が終わるや否や、ルナは駆け出す。
「よっぽど死にたいらしいなァッ!!」
天龍は軽くいなすと、ルナのみぞおちに膝蹴りを繰り出し、うずくまったところに肘鉄をお見舞いした。
「……ッ……ガッ……!」
天龍の足元に倒れ伏すルナ。今度はピクリとも動かない。
「…………ふん」
その場を立ち去ろうと歩き出した天龍。だが、ルナは天龍の足をガシッと掴み転ばす。
「まだくたばって無かったかチビ助!」
天龍はルナの首を掴み放り投げる。体内ナノマシンの起動で身体強化されているとはいえ、とんでもない腕力だ。
「ぐふっ………がぁ………!」
CMSでも何でもない、ただの人間であるルナの身体はもうボロボロだった。
「もうヤメろ、チビ助。これ以上は死ぬぞ」
「…………」
しかし、ルナは立ち上がる。膝に手をつき、肩で息をしながら。
白い制服はところどころ血に染まり、赤くなっている。
「テメェ………!何故そこまで……!」
「……お前を……『救う』為……!」
ルナは最後の力を振り絞って駆け出す。
(天龍……!何が何でもお前を……!)
ウオオオオと雄叫びをあげ、天龍に突っ込む。
「この野郎がァッ!!」
天龍は向かってくるルナを返り討ちにしようと、カウンターパンチを繰り出す。
「!?」
しかし、天龍のカウンターパンチが当たる前にルナの姿が消えた。
(下ッ!?)
ルナは間一髪、天龍のカウンターをしゃがんで躱していた。
(バカなっ!CMSの力を使ったパンチだぞ!?ボロボロの一般人……しかもパンチのスピードとカウンターのタイミングから、躱せるワケがない!!
マグレ避け……もしくは先に此方の攻撃を読み切っただとォ!?)
下から天龍を見上げるルナの目は、殴られ、血を流したからか紅く染まって、鋭い眼光で天龍を射抜いていた。
この時、初めて天龍の背筋に悪寒が走った。
ルナは渾身最後の力でアッパーを繰り出す。
鋭く放たれたルナのアッパーは、天龍の顎を的確に捉えーー
「ッ!!」
ーーる事は無く、天龍の前髪を掠める。
天龍は逆にその腕を掴み、ルナの懐に潜り込み、当て身一発をお見舞いした後、背負い投げで放り投げた。
受け身をする余裕なんてサラサラ無いルナは、投げられた体勢のまま砂浜に落ちた。
「ぐっ………アァ……!」
天龍は肩で息をしながら、ルナの姿を見ていた。が、もう立ち上がりはしなかった。
(危ねぇ……最後のアッパーの時、アイツがバランスを崩さなければ、やられていたのは俺の方だった……!)
天龍もがっくりとその場に膝をつく。
満身創痍だった。
「ふ……ははは……はっはっは……」
その時、夕暮れが迫るビーチにルナの笑い声が響いた。
天龍はキッとルナを睨むや否や、踊りかかり襟首を掴んで引き起こし、拳を振り上げる。
「テメェ!!何が可笑しいッ!!」
ルナはゴホゴホと咳込むと天龍に言った。
「この……嘘っぱち天龍が………ゴホッ……何処が弱いんだよ……」
「…………何?」
「……お前は、こんなにも……強いし……それに見合う……優しい心も持ってるじゃないか……」
「…………」
「その気になれば……一般人の自分なんて……すぐ殺せるだろう……?それなのに……わざと手加減して……本気の一撃だって、絶対に急所は外してたろ…………ご丁寧に、『もうヤメろ、死ぬぞ』なんていう忠告までして………」
天龍は、襟首を掴み、拳を振り上げたままで黙って話を聴いている。
「がはっ……ごふっ………本当に解体……処分を望んでんのなら、今ここで自分を殺して…………
なのに、それもしない……つまりまだお前は………口では色々言ってたが、まだ諦めて無いんだろ?
自分が馬鹿にされても…… ”天龍型軽巡洋艦” を馬鹿にする事は許さない……お前の『信念』がその……証拠だ……」
ルナはそう言って激しく咳込む。
天龍は掴んでいた襟首を離した。
「興が削がれた。……行くぞ、龍田」
「あらぁ~もういいの?天龍ちゃん?」
龍田は砂浜に突き刺さっていた対艦薙を手に取ると、天龍の後を追って、森の奥へ消えていった。
弾かれた様に、青葉と吹雪はルナのもとへ駆け寄る。
「ルナっ!ルナっ!しっかりして、ルナぁ!!」
「落ち着いて吹雪さん!とりあえず応急処置だけでも……!」
「……吹雪に……青葉………何故ここに……」
「少尉は黙ってて下さい。吹雪さん、今すぐに救急班の手配を!私は少尉を運んで行きますから!」
「嫌ぁっ!死なないでっ!死んじゃだめっ!ルナぁっ!」
「……落ち着け……吹雪…………ただのケンカで、死ぬわけ……ないだろ」
そう言ってルナは意識を失った。
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それからルナが意識を取り戻したのは、その日の夜、病室のベッドの上だった。
「あ、目が覚めましたか少尉!」
「大丈夫ですか!?少尉、気分は如何ですか?」
「青葉に吹雪……自分は……?」
全身包帯グルグル巻きのマミー状態。
右脚は捻挫、左腕の骨にはヒビ、打撲、その他怪我は数知れず。結構危ないとこだったと基地の医者は言っていたらしい。
あの後、青葉がここまで運んできたらしく、吹雪は落ち着きを取り戻した後、無理を言って、医者の手伝いをしていたらしい。
「あの時の吹雪さんの取り乱しっぷりには、青葉も驚きましたよ」
「すみません少尉……私どうにかしてたみたいで………あんまり覚えて無いんですが……」
「大丈夫だ。ありがとう2人とも。ところで天龍達は……?」
「あぁ……いつも通りにどっか行っちゃってますよ。今回はコレがあるんで、捜索隊まで出して探してますけど」
「後でライラさんか征原司令に、あの2人は無関係だからって伝えておいてくれ……」
「………了解致しました。不肖青葉、少尉の伝言、責任を持ってお伝え致します。
それでは少尉、お大事に~!」
青葉はそう言うと病室を出て行った。吹雪はまだ出て行こうとしない。
「少尉……私……」
「大丈夫だ、吹雪。心配するなよ。そう簡単にはくたばらないよ、自分は。
今日はもう遅いから、吹雪も休んでくれ」
その言葉に吹雪はコクンと頷くと「それでは少尉、おやすみなさい」と言って病室を出て行った。
ルナも今日は疲れたと、そのまま眠りについた。
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次の日は念のため1日安静を取り、その次の日、ルナはいつものコテージに顔を出した。
「wow!?ショーイ!?もう動いて大丈夫なんデスカー?」
「やぁ、金剛。心配してくれてありがとうな。ご覧の通り大丈夫だ」
「全然大丈夫に見えないのですが……」
赤城がルナの姿を見てそう言う。
当の本人は、松葉杖に、右足、左腕、首にギプスをつけ、いたるところにまだ包帯を巻いている。
「訓練の指示を出すだけなら問題ないからな……ところで天龍と龍田は……」
「いえ、来てないですけど……」と赤城。
ルナは一言、「そうか」と呟いた。
「それじゃあ、今日は海上訓練から始めるぞ~。艤装使用許可は取ってあるから、工廠で借りてきたら第三演習場に集合だ」
ルナがそう指示を出していると、バァンと扉が開け放たれた。
全員ビックリして振り向くと、其処には天龍と龍田が立っていた。
「天龍……龍田……」
「よぉ、ご無沙汰だな。俺も訓練に混ぜて貰おうか」
その天龍の言葉に一同がどよめき立つ。
「…………何だ?やっぱり不満か?だったら別にいいけどよ」
「いっ、いえ!そんな事ないです!」
「むしろ大歓迎ネー!」
「これで、6人揃って訓練が出来ます!」
ワァーッと奄美の艦娘達が騒ぎ出す。
「天龍……お前……」
「おっと、勘違いするなよ。俺は俺の気分で参加するだけだ。指示を素直に聞くとは言ってねーからな」
天龍はルナを指差しながらそう言う。
「それに、俺は絶対に謝らないからな!」
「あぁ、別にいいけども……」
「…………だけど、感謝はしてる……ありがとな」
天龍はそっぽを向いて、ボソッとそう言う。よっぽど恥ずかしかったのか、顔を赤くしている。
ルナは意外な言葉に面食らったが、すぐにニヤニヤ顔で天龍を見返す。
「おろ~?どったのかな天龍ちゃ~ん?お顔が真っ赤だよぉ~?」
「前言撤回だ!やっぱり殺す!!」
暴れ出そうとした天龍を、青葉が羽交い締めにする。天龍は手足をバタバタとするばかり。
その格好が面白くて、誰からと言わず笑いが溢れた。
ルナの側に龍田が近づく。
「ありがとう、天龍ちゃんを元に戻してくれて」
「いまやっとあの時の言葉の意味が解ったよ」
天龍と龍田を見つけた日、龍田がすれ違い様に言った言葉。
ーー『期待してるわ』ーー
「私がどうこう言っても天龍ちゃんは治らなかったわ。つまり、そーゆー事」
「……なるほどねぇ、おかげさまで自分は重体と」
「でも、成果は比べ物にならない……でしょう~?」
龍田はニコニコとそう言う。ルナも「そうだね」と答え、奄美の艦娘達を見回す。
「オイっ!何時までこうしてるつもりだよ!」
天龍がルナに向かってそう言う。
「さっさと行こうぜ、 ”少尉” !」
「………よぉし、奄美部隊!訓練場に移動だぁー!!」
奄美の艦娘達はワァーッとコテージを飛び出していく。
「へっ……見せてやるぜ俺様の実力を……何たって、世界水準軽く超えてんだからなぁ!!」
以前とは違う、天龍の明るい声が基地内に響き渡った。
to be continued……
ー物語の記憶ー
・水平爆撃
爆撃可能飛行機の爆撃法の1つ。
通常飛行のコース、同高度から爆弾を投下する方法。
航空機は比較的安全に爆撃を行う事が出来るが、命中率は低い
・九六式艦上戦闘機
当時海軍では初となる、全金属製単葉翼の艦上戦闘機である。
後継機の「零戦」が登場するまで艦戦の主役を飾った。
・記憶兵器技術
通称「MW技術」
記憶兵装をあらゆる兵器に搭載するという技術全般を指す。
記憶という不確定原理に干渉する技術なだけあって、搭載した兵器は様々な能力を有するようになる。
・シュレーディンガーの猫
1935年、オーストリア出身の論理物理学者「エルヴィーン・シュレーディンガー」によって提唱された思考実験の1つ。パラドックスでもある。
簡略的に説明すると、
箱の中にネコと、50%で毒ガスが出る装置を一緒に入れる。
箱のフタを開けた時、中のネコは生きているか死んでいるか?
というもの。
普通に考えるならば、箱の中は、予想が出来ないだけで、ネコが死んでいるか生きているかは、フタを開ける前に決まっているはずである。
しかし、量子力学では箱のフタを開けてみるまで、箱の中のネコは「生きていて死んでいる」という矛盾した状態(重ね合わせの状態という)になっていて、フタを開けて見る事によって初めて結果が決まると考える。
この思考実験によって、今日では量子力学の基本となっている「重ね合わせの原理」と「観測による事象の決定」が確立された。
・デコヒーレンス
上記の重ね合わせの状態が崩壊し、事象が決定する事を言う。
・工廠
軍直轄の軍需工場のことである。
陸海空の兵器は勿論、CMSの艤装を整備、改装する場としても活用されている。
・対深海棲艦用近接モジュール
通称「対艦(武器名)」
深海棲艦を近接攻撃する為に開発された、攻撃用モジュール。
深海棲艦のエネルギーフィールドと装甲を破る事が出来るようMW技術が搭載されている。
例として、龍田の持っている薙刀や天龍の持っている刀などが挙げられる。
なんだかんだでmemory11だけで伏線5つくらい張ってます(^^;;
次回、奄美部隊、出撃せよ!!