記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
それと祝!朝潮改二!これで別の朝潮型なら泣きます。
それではどーぞ!
memory12「汚名返上」
「よぉーし!訓練中断!休憩してくれー!」
桟橋に立っていたルナが、沖合に出ている艦娘達にメガホンでそう指示する。
今日はいつもの第三訓練海域では無く、それよりも少し広い第二訓練海域で、艦隊陣形の訓練をしていた。
「あぁ~やっと休憩だぁ~」
「流石に今日は疲れたネ~」
桟橋にいち早く着いた青葉と金剛がそう言いながら陸に上がる。
「確かに、今日の訓練はいつもより繊細なテクニックが求められるものでしたからね」
続いて赤城がやって来て、桟橋に腰掛けた。
海上戦闘において、仲間との連携は最重要事項の1つとなる。
その中でも重要視されるのが『陣形』だ。
仲間と陣形を組むことによって、単艦では成し得ない、攻撃や戦略を生み出す事が出来る。
今回訓練していた陣形は、艦隊陣形の基本である『単縦陣』を始め、護衛、対空戦闘に特化した『輪形陣』、また、各艦の航行技量が問われる『単横陣』などだった。
「繊細なテクニックだのなんだのより、要は気合いってこったろ?天下の重巡様がこんなんでへばるとは情けねぇなぁ」
そう言いながら天龍と龍田も戻ってきた。
数日前、ルナとの死闘の果てに更生して訓練に参加している天龍。
最初は「てめーの命令なんぞ聞くか」とブツブツ言っていた天龍だったが、いざ訓練が始まると、誰よりも真面目に取り組み、並ではない結果を出していた。
最近では、誰よりも早く演習場にいることも少なくない。
「ぐぅ……!言わせておけば……今度天龍さんのあーんなことや、こーんなとこを新聞にして掲示板に貼っつけちゃいますよ!」
「ハッ!この俺に恥ずかしい事なんて1つもない……」
「(この前、お風呂場の体重計に乗って顔真っ青にしてたのはどこの誰ですかね?)」
青葉が小さな声でボソボソっと言う。
「っ!?お前どこでそれを!?あんときは龍田と俺しか………」
そこまで言って天龍もハッとする。くるりと後ろを向くと、龍田がニコニコ顔で立っていた。
「いやぁ~だってね天龍ちゃん。間宮の羊羹を渡されちゃったらもうどうしようもないじゃない?それに、面白そうだったから~」
「ふ・ざ・け・ん・なぁー!!羊羹くらいで釣られんじゃねーよ!ってか面白そうって何だよ!オカシイだろ!」
「あっ、まだ残してあるから天龍ちゃんにもあげるわね」
「そういう問題じゃねー!!………こんの、ストーカーヤロウがぁ~!」
先程の疲れはどこへやら。青葉は天龍から全速力で逃げ出した。天龍も右手に
龍田はその場でクスクスと笑っている。ある意味、龍田が一番おっかないかもしれない。
「楽しそうで何よりですね!少尉!」
「……まぁ、楽しそうだしいいか。喧嘩するほど仲が良い、と言うし」
ルナの近くに戻ってきた吹雪が、捕まったら即死の鬼ごっこを見てそう言う。
「それにしても、みんな最初の時とは比べ物にならないくらい上手になったよね。凄いもんだ」
「いえいえ!これもそれも全部少尉のお陰ですよ!」
始めてここに来た時は、本当に大丈夫かこの部隊、と思った程にヒドイ有り様だった。
カタログスペック以下の性能、不安定な航行、命中弾無し、海へのトラウマ、訓練不参加と様々な問題があった。
それが今では、艦隊陣形の訓練が出来るほどまでに成長した事は、物凄いことである。
「そんな事は無いさ。こっちはただ、アレやれコレやれと指示を出してただけに過ぎない。みんなの努力の成果が、結果として出ているんだよ」
「だとしても、少尉抜きではここまで来られませんでした。だから、少尉のお陰ですよ!」
「そうなのか?まぁ、それなら良かったかな」
そう言って、会話が途切れる。ルナの後ろでは青葉が天龍に捕まって、今まさに裁きを受けようとしていた。
「ですから、その……このままこの部隊に居てくれるといいなぁって吹雪は思うのですが……」
「ん?あぁ、そうだなぁ。この仕事、結構自分に合ってると思うから、出来れば続けていきたいな」
「本当ですか?やったぁ!」
吹雪は傍目でも分かるぐらいウッキャーと喜んでいる。
「そうなの~?だとしたら、そろそろじゃないかしら?」
「何がだ?龍田?」
「そろそろ期限の1ヶ月が経つんじゃないかしらぁ~?」
龍田の言葉にルナが固まる。
そう言えばそうだった。確かにそんなのがあったなと、今更ながらに思い出す。
恐らくは自分の意思で継続かそうで無いかを決められるとは思うが、初めての紹介の時、ライラが『正式な辞令は、期間内の様子を見て』と言っていたことから察するに、ルナが、この基地の部隊の指揮官として、上層部に認められなければ、この仕事を継続することは出来ないのであろう。
「そうか……だとすると何だ?何で是非が問われる?訓練か?演習か?派遣艦隊の方と対抗演習という可能性も…………」
ルナは頭を抱えてブツブツと何かを言い始めた。
「そんなに心配する事も無いと思うけど~?」
龍田の声はルナには届かない。完全に思考の世界に行ってしまったようだ。
吹雪も苦笑いでその様子を見ていた。
そんな、訓練と訓練の合間のゆったりとした時間に、突如としてサイレンが鳴り響いた。
サイレンの音は、ルナを思考の海から連れ戻すのに充分過ぎる音量で鳴らされた。
「な……なんだ……?」
「何事ですかっ!?」
奄美の艦娘達とルナは突然のサイレンに驚き戸惑う。
そしてスピーカーから、アナウンスが聞こえてきた。
『緊急事態発生、緊急事態発生。
基地接続海域、エリアB付近に深海棲艦の中規模艦隊を突如補足。
現在、哨戒に出ていた基地哨戒艦と、遠征帰還途中の艦娘部隊、派遣第二遠征艦隊が敵艦隊と交戦中。
交戦報告から、敵艦隊には『航空母艦』を伴う模様。
防衛隊各員は、至急持ち場へ付き、援護射撃を敢行せよ。また、防衛艦隊は全艦出撃し、攻撃を受けている哨戒艦、及び艦娘部隊の撤退を援護せよ。
尚、基地所属の階級『少尉』以上の者は、直ちに
繰り返す…………』
スピーカーからはそんなアナウンスが聞こえてきた。
「エリアBだとっ!?何でそんなトコまで奴等の侵入を許しているんだ!?」
天龍がそう叫ぶのも無理は無い。
エリアBというと、『基地近海海域』と基地の『絶対海域』(商業用船舶等が停泊している、港湾を含めた海域)とを結ぶ『接続海域』と呼ばれる海域の中層部分を指す。
絶対海域に近い方からA、B、Cと区切られており、実質、近海海域で敵の侵攻が迎撃出来なかった場合の ”
その海域の中層にあたるエリアBに『空母』が侵入したと言うのだ。恐怖を感じない方がおかしい。
「基地レーダーに引っかからないという事は恐らく『軽空母』でしょうけど、危険なことに変わりありませんね」
赤城が冷静に現状を分析する。
「とにかく、君達は艤装を工廠に預けてコテージで待機。自分は召集がかかってるから庁舎に戻る」
艦娘達は「了解!」と返事するとテキパキと動き始めた。
ルナも駆け足で庁舎へと向かった。
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「栄ルナ、入ります!」
作戦会議室に着いたルナは一言、扉の前でそう言うと中に入った。
中には、10人にも満たないであろう人達が無線で連絡をとっていたり、紙書類などを渡しあったりしていた。部屋の真ん中の机には、基地周辺の地図が広げてある。
「ライラだ。入る」
ルナの後にライラが入ってきた。表情はさえない。
「おい、レーダー!Bまで攻め込まれて探知出来ないとはどういう事だ!」
「申し訳有りません少佐。どうやら奴等は
「ジャミングだと?彼奴らめ、ココを本気で落としにかかって来たか」
ライラがチッと舌打ちをしていると、トウが入ってきた。
「ワシだ。状況は?」
部屋の中の全員がトウに敬礼する。トウは手で制すと情報部に話を促した。
「はい。現在の状況を報告致しますと、まず、現在侵攻中の敵部隊は『空母ヌ級』2隻、『重巡リ級』1隻、『駆逐ロ級』が2隻、計5隻の前衛艦隊と思われます」
「前衛艦隊だと?本隊がいるのか」
「現在、深海棲艦による電波妨害が激しく、詳しくは分かりませんが、基地レーダーと哨戒艦とのクロスチェックで、本隊なるものの影を捉えたとの情報があります」
「ふむ……交戦状況は?」
「はい、始めに哨戒艦が敵艦隊を発見。情報を打電したところを気付かれ、戦闘に発展したものと見られます。哨戒艦は、駆逐級の砲撃を艦尾に受け、航行不能となっています。
現在は、運良くその場に居合わせた艦娘部隊の派遣第二遠征艦隊が交戦中であります」
机の上に広げられた地図に、船の駒などを置いて現状を示していく。
「ただし、遠征帰還途中であることも重なり、かなりの苦戦を強いられている模様。現在は哨戒艦を曳航、護衛しつつ、距離を取るようにして交戦しながら撤退を始めているとの事です」
情報部の人が話終わると、次は防衛班が話を引き継いだ。
「この事態に対し、防衛班は第一から第二の全ての艦に出撃を命令。それとともに、基地砲台からの援護射撃を敢行しています。
正直、ただの改造型護衛艦が深海棲艦相手にどこまで戦えるかは分かりませんが……」
「構わんよ、乗員の命を第一に事に当たってくれ。ライラ君、艦娘部隊の方はどうかね?」
「派遣第一艦隊と第二艦隊は知っての通り、佐世保で重要物資の受け取りに行ったままだ。第三艦隊は鹿屋方面に出ている。
第四艦隊は動かせるには動かせるが、前回の沖ノ島でのダメージがまだ残っていて、艤装は未だ【小破】状態だ。
それに加え、航空戦力が不足している。
現在は出撃可能な艦娘を召集して、艦隊を再編成している」
「むぅ……状況がかなり悪いのう」
派遣第一艦隊と第二艦隊の留守を狙うようにして、突如現れた深海棲艦部隊。
しかもジャミングの所為で、やすやすと侵攻を許したおかげで状況は悪いとしか言いようが無かった。
一刻も早くこの状況を打破しないと、交戦中の味方部隊の壊滅はおろか、絶対海域まで攻め込まれてしまう。
それに、今攻めてきているのが『前衛』だとするならば、『本隊』が来た時に奄美大島は地獄と化すだろう。
何としても食い止めねば。
「意見具申、よろしいでしょうか?」
「何じゃねルナ君?何か良い案が?」
「奄美艦娘部隊の出撃を提案します」
この発言に部屋の中がざわついた。バカな、あの部隊は動かせないだの、実験艦隊ではだの、実戦経験がなんだのと動揺が広がる。
「ルナ君、確かに今は緊急事態だが、それは了承しかねるのぅ」
「何故ですか!動かせる部隊が無くて追い詰められているんでしょう!?手段を選んでいる暇はありません!」
ルナがそう言うと、上層部の人間達から言葉が飛んでくる。
「バカを言え!無駄死にするだけだ!」
「実戦経験が無いのだろう?ここは、派遣艦隊に任せるべきだ」
「出撃をさせたことで、逆に戦場が混乱する可能性がある」
上層部の人間達はやいのやいのと否定の声を上げる。
「ルナ君、上層部の言うこと以外にも、今、あの娘達を出すべきでは無いのじゃ」
トウが静かにルナにそう宣告する。
「しかしっ……!」
だが、ルナもそう簡単には引き下がらない。
トウに言われてなおも進言するルナに誰かの一言が突っかかった。
「CMSは1体生産するのに、莫大な費用がかかるのであろう?無駄に出撃させ沈んだら、あらゆるコストが水の泡になってしまう。それだけは避けねば」
「…………は?」
この一言がルナの琴線に触れた。
「CMSを……艦娘を……金銭換算で考えるだと……!!」
ルナの脳裏に今までの記憶が思い出される。
今まで艦娘達と過ごした時間が。
「艦娘はなぁ……!あいつらは ”生きている” っ!!それをカネで考えるとはどう言う了見だぁッ!!」
ルナは咆える。自身の存在を賭けるかの如く。
「そうは言うけどな、
また、他の誰かがそう言う。
「兵器だぁ?ふざけるな!ただの兵器が自分達は役立たずだからって落ち込んだり、それを挽回しようと努力するか!!?
艦娘はただ人間に扱われるだけの《兵器》じゃねぇッ!!」
ルナの脳裏には尚も映像が流れてくる。
とある船の上。
1体のCMS。
「おい小僧、落ち着け。仮にも貴様よりも階級が上の人達だ。言葉に気をつけろ」
ライラかそう制すもののルナは聞く耳を持たない。
「自分はっ!俺はッ!艦娘をただの『モノ』扱いする奴らの言葉なんて絶対に聞かねぇぞッ!!」
ルナの絶叫は部屋に響き渡り、静寂が場を支配する。
「だっ……誰かソイツを摘み出せっ!」
「言われなくてもっ!こっちから出て行ってやる!!」
ルナは自ら部屋を出て行こうとする。トウの横を通り過ぎる時、一言こう言った。
「征原司令。俺は、俺のやり方で証明してみせます」
「ルナ……君……」
バタンと扉が閉まる。
部屋の中は再びざわつき始めた。
「くっ……!あのガキめ……!司令、今すぐあのガキを懲罰房へブチ込んでくる」
「その必要は無かろうて」
「………?どういう事だジジイ?」
「この事態は暫く後、収束に向かうじゃろう。大きく事を構える必要は無い」
「大佐……それはどういう……?」
防衛班の人が疑問を口にする。
「問題ないって事じゃ、それでは緊急召集を解く。問題ないとは言え、油断出来ない状態が続いている。総員、第一種防衛配置。深海棲艦を陸に近づけるな!!」
「「了解ッ!!」」
バタバタと部屋から人達が出て行く。
部屋には、トウとライラが残された。
「それじゃあ、先ほどの真意をお聴かせ願えますかね?征原 ”中将” ?」
「これも《計画》のうちと言う事だ。ライラ少佐」
「それは……【方舟】の方では無い……な?」
「あぁ、【E】の方だ」
「……………」
「いい頃合いだ……着実に《計画》は進んでいる。ライラ少佐、【方舟】の件、《中央》に報告しといてくれ。それと、第一、第二艦隊も……な?」
「…………了解」
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ルナはコテージの扉を蹴り飛ばす様にして開ける。
「wow!ショーイ!どうしたデスカー?」
「おい、チビ助!それで状況はどうだったんだ?」
艦娘が口々にルナの名を呼ぶ。
ルナは手を挙げ、皆を制した。
そして、静かに告げる。
「奄美艦娘部隊、出撃用意……!!」
【2へ続く】
続きます