記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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続きです


memory12ー3

「相対方位0-3-0、距離5,000に『駆逐ロ級』!さらに後方『重巡リ級』確認しました!」

 

吹雪がそう天龍と龍田に報告する。

 

「天龍ちゃん、リ級の射程にバッチリ入っちゃってるわよ〜?」

 

「そんなこと百も承知だ。龍田と吹雪は前のザコを頼む。俺はアイツとタイマン張ってくるわ」

 

「わかったわ〜」

 

「リ級!発砲しました!」

 

低い地鳴りのような音が響き、リ級の砲門が煌めく。

 

「行動開始だぁッ!」

 

「吹雪ちゃん?遅れちゃ駄目よ〜?」

 

リ級の砲弾が3人の進路に着弾する。それと同時に、左右に分かれるようにして天龍と龍田、吹雪は転舵する。

 

「全砲門、開け」

 

龍田が駆逐ロ級に狙いをつけつつそう宣言する。後ろに続く吹雪も、手に持っていた12.7cm連装砲に砲弾を装填する。

 

「主砲、斉射!」

 

龍田の14cm単装砲と吹雪の12.7cm連装砲が咆哮する。

放たれた砲弾は吸い込まれるように駆逐ロ級へと飛んでいき、派手な爆炎を上げて命中した。

 

「初弾命中……!流石です、龍田さん!」

 

「ふふっ、吹雪ちゃんも訓練の成果が出ているじゃない?」

 

龍田と吹雪は砲の再装填をしつつ駆逐ロ級に距離を詰めていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「オラオラァ!天龍様の御通りだッ!」

 

天龍は重巡リ級へ、最短距離の針路を取っていた。

 

勿論リ級は主砲を天龍に向けて放っている。しかし天龍はそれを軽々と避けてみせる。

 

「この距離なら……ハズさねぇ!」

 

既に装填済みの14cm単装砲二門を重巡リ級に向けて放つ。

砲弾はリ級に命中したものの、有効打には至らなかった。

 

(ちっ、腐っても重巡か。もう25は切るんだけどな……こうなりゃ、至近戦だ!)

 

天龍は機関出力を更に上げ、リ級との距離を詰める。

しかし、距離が近くなるという事は被弾するする可能性が高くなるというもの。

重巡リ級もただただ距離を詰めさせていたわけではない。

お互いの姿が望遠鏡無しでハッキリと識別できる程の至近距離で、リ級は主砲を発砲した。

 

転舵のしようがない距離で放たれた砲弾は、天龍を爆炎で包み込んだ。

 

リ級はニヤリと笑うと、遠くにいる龍田と吹雪に狙いをつけようと、砲門を指向する。

 

「オイ、どこ見てんだテメェ」

 

煙の中から聞こえてきた声にリ級はギョッとした様子で振り向く。

その隙を逃すまいと、天龍は煙の中から躍り出ると、リ級の首を掌で掴み、締め上げた。

 

「R……GYAa……RrrrGAAAAaaaAA!!」

 

リ級が言葉になっていない、不協和音のような叫び声を上げ、天龍の手から抜け出そうともがく。

 

「待ってろ、今ラクにしてやる」

 

リ級の胴体に砲身を突きつけると、怒号一発、天龍は砲を撃ち放った。

 

人型の胴体(バイタルパート)を確実に貫いた一撃は、そこに風穴を開けた。重油とも見て取れる液体が溢れ出てくる。

煙が風に流されると、風穴の開いたリ級は海中へと没していった。

 

「ハッ!もっと装甲の防御と被害軽減処置(ダメージコントロール)を学んだ方がいいぜ」

 

そうリ級の沈んだ跡に言い捨てると、背後から龍田と吹雪がやってきた。

 

「天龍ちゃ〜ん、大丈夫〜?砲弾直撃してたみたいだけど」

 

「アレくらい何ともねぇよ。装甲の展開角度をズラして衝撃を殆ど受け流したからな。そっちはどうだ?」

 

「敵駆逐級は全て撃沈したわ。吹雪ちゃん、絶好調よ」

 

「そうか、良くやったぞ吹雪」

 

「いえ……そんな……」

 

言葉ではそう言うものの、吹雪は嬉しそうに笑って見せた。

 

「あとは……空母だな」

 

遠く海の先を睨む天龍。その視線の先には、何かの生物の頭部部分にも見える胴体から手足が生えたような外見の深海棲艦【軽母ヌ級】が2隻、口のようなところから甲殻類に似た形の艦載機を発艦している。

 

発艦した敵艦載機の半分がこちらに、もう半分が金剛達の方へと飛んでいく。

 

「天龍ちゃん、早く戻らないとマズイわよ?」

 

「そうだな、早いとこ戻ろう……あのハエどもを潰しながらな」

 

敵艦載機が攻撃態勢に入り、此方へと突っ込んでくる。

 

「対空戦闘用意!一発も当たるんじゃねぇぞッ!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「来ましたヨ、対空射撃はじめ!」

 

金剛、赤城、青葉の下にも低い音を轟かせ、ヌ級の放った漆黒の艦載機が迫り来る。

 

「全く、天龍さん達は何をやっているのやら!青葉が手柄全部持ってっちゃいますよ!」

 

青葉が艤装に取り付けられていた、四角い沢山の穴の開いた箱のような物を空中に向ける。

 

「噴進砲、発射!」

 

青葉が叫ぶと同時、その箱のよう物の穴の部分からシュシュシュと音を立て、ロケット花火の様な弾が空中へすっ飛んでいった。

 

12cm30連装噴進砲。

整備主任が青葉に託した、対空兵装の1つである。

放たれた12cmロサ弾(ロケット弾)は一定距離を飛翔すると炸裂し、空中に焼霰弾子をばらまいた。

 

一瞬の内に空中に炎の網が形成され、その網の中に敵艦載機が突っ込んでいく。

 

瞬く間に敵機の数は減り、最終的に攻撃を仕掛けて来たのは半分にも満たなかった。

 

その残り僅かな敵機も、赤城の放った零式艦上戦闘機に撃墜されていく。

 

「これで敵空母はもう攻撃隊を出せない……!今です、赤城さん!金剛さん!」

 

「ありがとう青葉さん!攻撃隊、突撃!」

 

赤城が空中で待機していた九七式艦攻と九九式艦爆に突撃の合図を出す。

ヌ級は、自分を守る直掩機もろくに出せないまま、赤城の攻撃を受ける。

 

爆撃機と雷撃機による、雷爆同時攻撃。このダブルアタックには流石のヌ級も避けられなかったようで、派手な爆炎と水柱を上げ、2隻のうちの1隻を撃沈した。

 

「くっ…!あと1隻……!」

 

仕留め損ねたもう1隻のヌ級は仲間が全滅したのを見て、慌てて撤退を始めている。

 

「ふっふっふ……!battleshipの主砲を舐めてもらっては困りますヨー!」

 

金剛が海上に仁王立ちしたまま、背中の主砲を旋回させる。

 

「いくら遠くに離れたところで、この『電探』がある限りワタシの主砲からは逃げられないデース!」

 

金剛は通常装備の電波探信儀(レーダー)の他にもう1つ、別の電探を装備していた。

 

22号対水上電探。

この装備のお陰で、金剛はより正確な射撃を可能としていた。

 

「狙い良し!全砲門、fireーーッ!」

 

35.6cm連装砲から放たれた榴弾は、風を切って綺麗な弧を描き飛び、ヌ級の頭上に降り注いだ。

一瞬の内に敵の姿が視界から消え失せる。

 

 

 

 

「や……!」

 

「やぁ……!」

 

「「やぁったぁあーーっ!!」」

 

 

 

 

奄美の艦娘達は飛び跳ねるようにして喜ぶ。

 

「凄い……!私達、本当にやっつけたんだ……!」

 

「私達が島を……国を守った……!」

 

吹雪と青葉がキャーキャー言いながらお互い手を取り合ってクルクルと回っている。

 

「全く、雑魚を倒したくらいではしゃぎやがって……」

 

「天龍ちゃんだってはしゃいでいいのよ?」

 

「何バカな事を言ってんだ。だがまぁ、多少はな?」

 

天龍と龍田が、はしゃぐ2人を見てそんな事を言っている。

赤城は発艦させた艦載機を回収している。

艦載機が、赤城の肩辺りにある飛行甲板艤装の上に着艦すると、艦載機は再び矢に戻った。

 

その様子を満足気に眺めていた金剛の無線に突如通信が入った。

 

『………えるか………応…しろ……金剛……!』

 

未だ深海棲艦のジャミングが酷いらしく、ノイズだらけで通信が途切れ途切れだったが、聞こえてきた声はルナのものだった。

 

「ヘーイ!こちら金剛デース!って言うかショーイ、通信室に入れたんデスカー?」

 

『無理……に入……だ………れより…今す……こを離…しろ……』

 

「ノイズが酷くて何言ってるか分からないネ」

 

『基地レー……に新…な………を補足………域ポイント……4………とに…く…………』

 

それきり、ザーッというノイズ音だけになり通信は途絶した。

何を言っているのかほぼ聞き取れなかったのだが、ルナの切羽詰まったような声音に金剛は不安を抱いていた。

 

「途切れ途切れに聞こえてきた声……まさか……!」

 

金剛の悪い予感が的中したかのように艦載機を収容していた赤城が「何ですって!?」という悲鳴にも近い声を上げた。

 

「帰還途中の零戦から緊急入電!!基地近海エリア1-4-4方面から新たな敵艦隊が接近中!」

 

赤城のその言葉に、その場の艦娘全員が驚く。だが、不思議と恐怖はしていない様子だった。

 

「先程と同じようにやれば、必ず勝てますよ!行きましょう金剛さん!」

 

「次は手強い相手がいいわね〜」

 

「確かに、またここで新たな敵を見過ごしては、基地や本土防衛ラインに被害がでマス。ヤツらを止められるのは、私達しかいマセン!」

 

金剛のその言葉に、一同は力強く頷く。

 

「行きますよ皆サーン…………!?」

 

その時だった。

金剛の言葉をかき消すように、海の彼方から、この世に生きる生物では無いような叫声が聞こえてきた。

 

 

「RuuuUUYyyyiiiGyyyYYYyyaaaaAAAAAAaaaaaa!!!!」

 

 

その両手には大盾のようにも見える巨大な砲塔が。

そして、その姿は駆逐級のような非人間型(アンヒューマノイド)でも、巡洋艦級のような半人間型(セミヒューマノイド)でもない、完全な人間型(ヒューマノイド)

 

その名はーー

 

 

 

「戦艦……ル級……!!」

 

 

 

「戦艦級だとッ!?何でこんなところに……!?」

 

「これを見過ごしたら、防衛ライン崩壊は必至ねぇ……」

 

「金剛さんッ!早く指示をッ!」

 

金剛はハッと正気に返ると、焦った口調で指示を出していく。

 

「フブキ、煙幕展張!ル級に此方を狙わせないようにッ!艦隊、複縦陣で最大戦速!!」

 

「オイっ!逃げるのかよ金剛!」

 

「人聞き悪い言い方しないで下サイよテンリュー!このまま距離を保ったまま反航戦に持ち込みマス!」

 

金剛達は機関を唸らせ、敵艦隊の背後に回り込むような反航戦を取りつつ移動を開始した。

 

吹雪が艦隊の戦闘に立ち、煙幕をモクモクと出しながら艦隊の行方を眩ましているが、ル級はそんなの御構い無しに主砲を発射する。

 

当然ながら、的はずれの射撃が当たるワケが無いのだが、その着弾したところの水柱の大きさが尋常では無い。

艦娘達に恐怖を植え付けるのには充分だった。

 

「あ……あんなのが当たったら一発でサヨナラですよぉぉ〜!」

 

「青葉、重巡が弱音はかないの〜」

 

龍田が青葉にそんなことを言うが、龍田の顔にも焦りの色が見えていた。

 

「アカギ!艦載機の方はどうデスカー!?」

 

「損傷機の応急修理とエネルギー供給がまだ……!あと10分……いや、5分お願いします!」

 

「金剛さん!発煙停止まで残り10秒!」

 

「くっ……!止むを得まセン……全艦、統制射撃用意!!」

 

金剛から送られてきた位置データをもとに、各々が主砲をル級へと指向する。

 

そして吹雪の発煙が止まり、煙の中から出た直後、金剛は統制射撃を敢行した。

 

「全艦、()ェーーッ!!」

 

主砲を持たない赤城と、射程が足りない吹雪以外の全艦は主砲を斉射する。

 

ル級にその内の数発が命中したが、結界の様なエネルギーフィールドに阻まれ、ダメージは無かった。

 

「駄目だ!俺と龍田の14cm単装砲じゃ撃ち抜けねぇ!」

 

「私の20.3cm連装砲でも怪しいですよ!あの装甲は!」

 

「となると……ワタシの主砲じゃないと渡り合えないというコトデスカ……!」

 

金剛達が驚愕している合間にも、ル級は手に持っている16inch三連装砲二基六門を乱射してくる。

心なしか、ル級が歓喜しているようにも見える。自分の手で艦娘達を葬る事が出来ると喜んでいるのだろうか。

 

「皆サーン、燃料、残弾どれくらいデスカー?」

 

「私と天龍ちゃんと吹雪ちゃんは、さっき突撃を掛けたから戦闘燃料、残弾共に7割くらいかしら?」

 

「それだけあれば充分デス。この戦闘は持ちそうデスネ」

 

「……何か作戦が?」

 

「このまま相手を牽制し続けても、援軍が来る可能性が無い私達のジリ貧は目に見えてマース。となれば、取るべき道は1つデス」

 

「殴って逃げるってことか。かつ、その一撃で相手を沈めると」

 

「流石テンリュー、解ってマスネ」

 

金剛がニヤッと笑うと、艦隊に指示を出した。

 

「全艦、これより攻撃を開始するネ!アカギは艦載機の発艦準備が整うまで後方で待機、フブキは護衛について下サイ。他のみんなはワタシがル級に肉薄するまで援護をお願いしマス!」

 

全員が命令を了承すると、赤城と吹雪は後方へ退避し、残りの4人は敵艦隊の下へと舵を取った。

 

 

(ここで何としても、ル級を沈める……!じゃないと、基地が……本土が……!)

 

 

奄美の艦娘達は、目の前に突然現れた恐怖に臆することなく向かって行く。

その胸に強い意志を宿して。

 

 

【4に続く】




次回で第2章完結です
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