記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
全然静かじゃないですけど
memory16「鎮守府会議」
いつものように奄美の艦娘たちの訓練を指導していた栄ルナは、突然、奄美基地司令である征原トウに呼び出された。
「失礼します。栄ルナ、只今参りました」
「うむ、入っとくれ」
ルナはガチャリと扉を開け、提督室に入る。
「ほっほっほ、顔つきが良くなったなルナ君。大分、一部隊指揮官としての貫禄がついてきたの」
「いえ、そんな、自分はまだまだです。……それで、要件とは?」
「そうじゃな……早速本題に入るとしようか」
トウは机の引き出しから、通知書のようなものを取り出し、ルナに手渡す。
「……鎮守府定例会議?」
手渡された紙には、そう題が振られ、細かい日程や内容がびっしりと書かれていた。
「ルナ君にはワシの代わりに奄美基地司令代理として、その会議に出席してもらいたい」
「じ、自分が……ですか?」
トウはニッコリと笑い、コクコクと首を縦にふる。
「……了解しました」
「かなりの心配顔じゃな?大丈夫、テキトーに話を聞き流しているだけで良い。銘打っているようにその集まりは『鎮守府』のものじゃ。一基地風情が口出し出来るハズも無い」
「……?それでは、なぜ奄美基地も出席するのですか?」
「まぁ、話すと長くなるので簡略するが、中央総司令官……この国の軍を取り仕切るヤツと腐れ縁でな」
「………は?」
「要するに総司令は、イッツマイフレンドじゃ」
「そ……そうだったんですか!?」
「そうだったんじゃ。そんなこんなで関係の無い我が基地をいつも巻き込むのじゃ。まじやめてほしーのぅ」
トウは窓の外を眺め、ふわぁーと大きなため息をついた。
「それと、今回の鎮守府会議は特別じゃ。この前ルナ君が指揮を執った『南一号作戦』についての話もあるそうじゃ。
なので、老いぼれのワシが出向くより、ルナ君が行った方が良かろう。ワシはその日、佐世保に用事があっての。
まぁ良い経験になるじゃろう?」
トウはそう言って、ほっほっほと笑い声を上げた。
ーーーーーーーーーー
「ーーという事があってだな、君たち奄美部隊は自分と一緒に今回の会議場所である『呉鎮守府』まで同行する事になった」
ルナは自主訓練をしていた艦娘たちをコテージに集め、トウから聞いた話を伝えた。
「呉……ですか?」
「そう、呉だ。広島県の」
「あぁ~懐かしいですねぇ。終戦間際の転属で、呉には最期まで居ましたからね~」
青葉は過去の思い出に想いを馳せながら、うわ言のようにそう言った。
「そうか、青葉はこの中でだと終戦まで生き残ってたのか。なら、呉の事にも詳しいのか?それなら助かるんだが」
「昔と今じゃ違いまくりですよ。それに、艦艇時代なんて港かドックなんですから、分かるわけないですよぉ」
「ま、そーだよね」
他の面々も一度や二度程、呉を訪れたことがあるというだけで、結果、誰も呉に詳しい者はいなかった。
「まぁ自分達は何もやる事無いらしいから、旅行気分で行ってこよう」
「少尉……そんなユルユルで良いんですか?」
「気にし過ぎるのが悪いトコだぞ赤城。もっと気楽にいこう。
話が逸れたが、概要を説明するぞ。
日時は明日、
そこからはヘリに乗り換えて呉に直行だ。
移動行路の制海権、制空権は共に我々が取っているが、万が一に備えて、君達には鹿屋基地に向かう間、護衛任務に就いてもらう。
これに異存は?」
艦娘たちは異存無しという表情でルナの目を見る。
「それじゃ、今日は少し早いが訓練は終了だ。各自艤装を綿密にチェックして整備班に渡しておいてくれ。
分かってると思うが、寝坊はするなよー?」
ルナの言葉に艦娘たちは敬礼して答えた。
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ー次の日、
奄美部隊は海路と空路から呉鎮守府を目指した。
万が一に備えた艦娘たちの護衛も、特に何が起こるわけでも無し、無事に鹿屋基地まで辿り着いた。
そこからヘリに乗り換え、空の旅をすること数時間、ルナたちは呉鎮守府に到着した。
「ここが……呉鎮守府……」
鎮守府庁舎はとても立派なもので、奄美基地のそれとは比べ物にならない。
庁舎の周りには様々な建物が建っており、横須賀、佐世保と共に第二次大戦中、重要拠点としていた事が窺えた。
「あー意外にも変わってないものですね」
後ろに立っていた青葉が周りを見回しながらそう言う。
「取り敢えず、中に入りましょうか?」
「うん、そうだね」
赤城の言葉に頷くと、ルナたちは呉鎮守府庁舎の中に入っていく。
庁舎の中、エントランスは、まるで国会議事堂のように造られており、様々な物が飾ってあった。そして、鎮守府の関係者らしき人々が忙しなく行き交っていた。
すると、ルナたちの前に1人の男性がやって来た。格好は軍装を軽く着崩し、髪型は金髪のオールバックと、この場に全くもって相応しくない人物だった。
「何だ、お前らは?何処の誰だ?」
「……奄美大島要塞基地司令代理、奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナ少尉です」
「奄美……栄………あぁ、ちょっと待ってな」
金髪の男性は腕時計型のデバイスを起動させると、どこかの誰かと電話をし始めた。
しばらくして、会話が終わると、ルナの腕をとり腕章を確認し始めた。
「ふーん……藍色の布地に少尉の階級章……本物っぽいな……」
「本物ですよ?貴方は誰なんですか?」
失礼極まりない態度に苛立ちを覚えていたルナだが、相手が誰か分からない以上、失礼な事は出来ない。
「ん?俺はただの案内人さぁ。てっきりジイさんが来ると思ってたからびっくりしたぜ。さぁ、ついてきな」
言われるままに金髪の男性の後をついていくルナたち一行。二階へ上がる前に金髪の男性は思い出したかのように、振り向いて言う。
「こっから先、同行出来る艦娘は3人まで、会議室に同行出来るのは1人だ。取り敢えず残り3人は向こうの部屋で待機してくれ」
艦娘たちは顔を見合わせ、その後ルナを見る。
ルナはうーんと少しの間考える。
一先ず、会議室内に連れて行くのは、大きい艦娘である、金剛か赤城かのどちらかだろう。
少ない人数に絞るのは、警備面を考慮しての事。外部からの侵入者に対抗でき、内部に敵がいた場合にも容易に抑え込める人数。それが3人というわけか、とルナは考えた。
そう考えるならと、ルナは赤城、青葉、吹雪の3人を同行者に選んだ。
理由として、赤城は正規空母であり、かつ、冷静に物事を判断出来ると買ったから。
青葉は艦娘的にバランスの良い重巡洋艦で、艦艇時代に呉にいた事を評価した。
吹雪は駆逐艦であるから、どんなことにも駆り出せる汎用さがあるから。
正直な事を言うと、金剛、天龍、龍田は何かのアレで人様に迷惑が掛かるのを避けたのだが。
しかし、ルナはわざわざそんな事を説明しない。それに艦娘たちが、いつも基地に居るように振る舞ったりしない事は分かっている。
艦娘たちもその事が分かっているからこそ、ルナの選択にいちゃもんをつける事なく、素直に従う。
(こういう所じゃ、みんな真面目になるんだよなぁ……天龍でさえ「少尉」って呼ぶし、もしかして普段の自分はナメられてるのか?)
とも思ったが、それを考えるのは後にしようと、金髪の男性の後を付いていく。
2階へ上がり、少し廊下を歩いた所で、金髪の男性は立ち止まる。
「じゃあ奄美はここで少し待っていてくれ。俺はちょっと色々やってくるんで」
そう言うと、金髪の男性はルナたちをその場へ残し、今来た道を戻っていってしまった。
「……まぁ自分達に何が出来るわけでもないし、大人しく待ってるか」
ルナがそう言うと赤城は「そうですね」と相槌を打った。そしてルナたちはしばらくその場で待つ事になった。
といっても、場所は唯の廊下で、座る所もない。座る場所があったとしても座る事は無いと思うが。
少しすると、一緒に立っていた吹雪が、そわそわし始めた。
「……どうしたんだ吹雪?」
突然声を掛けられた事にビックリしつつ、吹雪は若干、顔を赤らめながら言う。
「あの……その……お手洗いに行っても宜しいでしょうか……?」
「……ん!あ、うん。無理しないで行ってくるんだ。場所は大丈夫か?」
「大丈夫だと思います。スミマセン、失礼します!」
そう言うと吹雪は、少し駆け足になりつつ、廊下を戻っていった。
「……やっぱり緊張するよね?」
ルナは隣に立っている赤城と青葉に問いかける。やる事が無くひたすら待つというのは暇なものだ。少しでも気を紛らわそうとして話し掛ける。
「はい、それは勿論。……しかし少尉、この場ではあまり私語は慎むべきかと……」
「そ、それもそうだ。すまない」
今の自分は征原司令の代理だという事を思い出す。待てと言われたのなら待っているのが軍人というもの、と気持ちを引き締め直し、再び無言の時を待つ。
しばらくすると、手洗いに行っていた吹雪が戻ってきた。
しかし吹雪はルナたちの前で立ち止まり、ビシッと敬礼をすると、そそくさと通り過ぎようとした。
「おい!吹雪、どこに行くんだ?」
ルナが声を掛けると、ビックリしたように吹雪は振り返る。
「ふ、吹雪に何か御用でしょうか!?」
「御用も何も……トイレに行って戻ってきたんじゃないのか?」
「………???私はそんな事……」
会話が成り立たない事に混乱するルナのもとに、なんともう1人、吹雪がやってきた。
「スミマセン少尉、遅くなりました」
そしてルナの前で2人の吹雪が顔を合わす。
「わ……私が……!?」
「もう1人……!?」
2人の吹雪は、揃ってあわわあわわと慌て始める。ルナは思考が停止しそうなのを、すんでの所で踏ん張り、この状況を理解しようとする。
見ると、会話がかみ合わなかった吹雪が付けている腕章の布地の色が『緑色』だった。
「君、所属と型名を言ってもらえるか?」
あわわとしていた吹雪が「は、はいっ」と未だ慌てたままに敬礼し、ルナの質問に答える。
「まっ……!『舞鶴鎮守府』所属、《NーI 型CMS、402011001》吹雪ですっ!」
あぁ、と、ここでルナも理解する。
ここにいる2人の吹雪は、同じだが別人なのだ。舞鶴所属と名乗った吹雪の記憶兵装は《N型》で、《E型》の吹雪とは『中身』が違うのだ。
「舞鶴の吹雪か。すまない、ウチの基地にも吹雪がいてね、一瞬区別が出来なかった。許してくれ。
自分は奄美の司令代理、栄ルナだ。よろしく」
「いっ、いえ!こちらこそよろしくお願い致します!」
2人の吹雪も冷静さを取り戻し、お互いの自己紹介をする。
「失礼しました、奄美の吹雪です!今後ともよろしくお願いします!」
「舞鶴の吹雪です!こちらこそよろしくお願いします!」
握手をする姿を見てルナは、腕章が無かったら本当にどっちがどっちだか分からないな、と思っていた。
「すみません、そういえば私急いでいるんでした!失礼致します、奄美司令代理。また後ほど」
「引き止めて悪かったね。また後で」
舞鶴の吹雪はもう一度敬礼をすると、スタスタと廊下を歩いていった。
「いやぁ、びっくりしました……ドッペルゲンガーかと思いましたよ……!」
「いやホント、自分も驚いたよ」
隣に立っていた赤城と青葉も驚いていたらしく、
「頭では理解していましたが、目の当たりにすると、やはり驚くものですね」
「艦娘はいっぱいいるんだから、1人や2人、自分と同じ艦娘がいてもおかしくないですからね~」
と、口々にそう言った。
そうしていると、廊下の向こうから、黒いスーツのような服を着た、年配の男性が歩いてきた。
軍の敷地内では、あまり見かけない格好である。
ゆったりとした足取りでこちらへ歩いて来るのだが、一歩、また一歩とこちらへ近づく度に、形容し難い不安感と恐怖感が波のように押し寄せてくる。
(……!!何だ……!?)
艦娘たちもそれを感じ取っているらしく、皆、冷や汗を流している。
一歩、また一歩。年配の男性は近づいてくる。
ルナは知らず知らずのうちに、さりげなく、片足を半歩後ろに引き、左手で腰の日本刀の鯉口を切っていた。
吹雪は直立不動で動かない。否、動けないらしい。赤城と青葉は、自然に見えるように、その男性とルナの間に入るように動く。
その男性がルナたちの手前で歩みを止める。
その男性が放つ負のオーラは最高点に達し、ルナたちは今すぐにでもここから逃げ出したい感情に駆られた。
「……そこの少尉の君」
年配の男性が突然口を開く。ルナは迫り来る負のオーラに耐えながら、臨戦態勢のまま耳を傾ける。
「昨日は良く眠れたかな?」
「…………は?」
「目が ”紅く” なってるぞ?」
男性はニコッと笑うとそう言った。その言葉のおかげか判らないが、負のオーラはいつの間にか消え去り、何の変哲もない世界に戻っていた。
「赤城、自分の目は赤いか?」
「え、えぇ、でも少しだけですから別に大丈夫ですよ?」
ルナの反応を見た男性は突然、ハッハッハと哄笑を上げると、先ほどとは比べ物にならないくらい、あっけからんとした口調で話し掛ける。
その佇まいから、ルナは即座に自分よりも立場が上の人だと悟った。
「いや、スマンスマン。見慣れない者たちがいるからつい、な。
腕章から見て、佐世保管轄奄美だな?今日は征原は来ていないのか?」
「は、はい。今回、征原司令は諸用で来られないとの事なので、今回は、征原司令の代理として自分が。
申し遅れました、自分は、司令代理の栄ルナ少尉です」
ルナは敬礼をして、目の前の男性にそう名乗る。
男性は、ほぉ~と言うと、ルナの目を覗き込むようにして息をつく。
「君が……栄か……。私は日本防衛軍統括組織、中央司令の『
その言葉にルナは息をのむ。
「あ、貴方が……総司令!?たっ、大変失礼を致しました!」
「気にしなくてもいい。今回君に来て欲しいと征原に頼んだのは私だ。………まさかアイツが来ないとは思っていなかったがね。
取り敢えず、そろそろ会議を始めるから、私についてきたまえ」
その男性ーー総司令のタイガはそう言うと、ルナたちを案内する。
大きな部屋に入ると、10人程度の艦娘と思われる少女たちが、タイガとルナに向かって敬礼をした。
タイガはそれを手で制し、休んでいてよいと指示を出した。
「栄、ここから先に同行出来る艦娘は1隻までだ。2隻はここで、有事に備え待機してもらう」
ルナは了解の意を示すと、赤城を連れ、タイガとともに奥の部屋に入る。
部屋は窓のない密室で、部屋の中央には大きな長机が置いてあり、周りを取り囲むようにして、軍服を身にまとった人達が座っていた。
その背後には、艦娘たちが直立不動で立っている。
タイガが入るなり、全員が一斉に立ち上がる。
「ではこれより、9回目の定例会議を始める」
タイガがそう宣言すると一同は席に着いた。
「総司令、その子供は何です?」
赤色の腕章をつけた男性がタイガにそう訊く。
「おい呉、お前は目が見えないのか。青系藍色の腕章なんだから、どうみても奄美だろ」
黄色の腕章をつけた男性がその問いに対してそう言う。赤の腕章の男性は表情を歪ませ、不満を露わにする。
タイガは2人を諌めるように言う。
「落ち着け、今紹介する。今回、私が征原に頼んで呼んだ、栄ルナ少尉だ」
「奄美基地司令代理の栄ルナです。宜しくお願いします」
「栄ルナ………?」
ルナがそう自己紹介をすると、青色の腕章をつけた男性がそう問い返した。
「どうかしたのか、佐世保?」
「いや………何でもない」
青色の腕章をつけた男性は、ふいとルナから顔を背けた。
「色々と言いたい事はあるだろうが、栄は征原の代理だ。皆も簡潔に自己紹介を」
黄色の腕章をつけた男性はルナの顔をまじまじと見、それからニヤリを笑った。
「ほぉ、こいつが爺様の代理ねぇ……どうみても子供だが。
俺は『
次に、未だに表情を歪ませている赤色の腕章をつけた男性が名乗る。
「呉の『
その後に、不審そうな眼差しを向けてくる青色の腕章の男性がボソッと言う。
「……アラン・エイ、佐世保だ」
その後、今まで口を開いていなかった緑色の腕章をつけた女性と、白色の腕章をつけた男性が自己紹介をする。
「私は舞鶴の『
「大湊の『ユーカラ・コタン・カロ』長いから『ユカル・カロ』と普段は略している。お前の噂は北の海まで聞こえているぞ」
「宜しくお願いします」
ルナはもう一度頭を下げ、皆に挨拶をする。
「自己紹介が済んだところで、早速話を始めよう」
タイガは幾つかの書類を取り出し、それを読みながら話し始める。
「今回、普段よりも早く皆を呼び集めたのは他でもない。今まで穏やかだった深海棲艦の活動の活発化が確認された」
その言葉に一同は騒然とする。
「何………!?」
「活発化……2年前と同じか」
タイガは重々しく頷くと言葉を続ける。
「我々がCMSを開発し、深海棲艦と戦争状態に突入した2年前、南方海域のソロモン諸島で深海棲艦の活発化、大規模な侵攻作戦が行われたのは覚えているだろう。
今回、その時と同じ兆候が見られた。
南方海域へ向かう輸送船団への攻撃、南方海域から、比較的小規模な敵部隊の不自然な撤退。
この事から予測するに、深海棲艦は中部太平洋海域に戦力を集中させ、我が国の東部もしくは南部戦線を叩くつもりだろう」
一同の顔は青ざめている。ルナには分からないが、2年前のソロモンの戦いがそれ程にも過酷であったという事は、想像に難くなかった。
「しかし総司令、確証はあるのですか?」
舞鶴のアメノが小さく挙手をし、タイガに訊ね返す。
「現在、第六艦隊を偵察に向かわせている。何か動きかあれば連絡をよこすハズだ」
「潜水艦隊ですか。偵察にはもってこいですね」
「ってかそれしか手が無いからだろ?他に何かあるのか総司令?」
横須賀のテンジが茶々を入れつつ更に訊く。
「もう1つ。先日の南西諸島方面からの敵侵攻だ。
幸いにもこの敵部隊は奄美……ここにいる栄が指揮するCMS部隊が撃退してくれた」
「あぁ、『南一号作戦』とか言ったか。こちらにも報告は届いている」
呉のタカが手元の資料を見ながら頷く。
「その敵侵攻は不自然極まりない点が幾つもある。
本土侵攻を目論むには、戦力が足りない。
しかし、空母や戦艦といった大型艦を使用している。
そして、戦力が手薄の南西諸島方面からの侵攻。
これから察するに深海棲艦どもは、この侵攻作戦を陽動に使っている可能性がある。
これで我々が、南西諸島方面の戦力を整えている間に、南方の
さすれば、我々の戦線も縮小せざるを得ないからな」
「成る程、筋は通る。それで、俺たちは何をすれば良い?」
大湊のカロが、身を乗り出してタイガに訊ねる。
「敵の侵攻作戦が開始される可能性が高いため、各鎮守府、いつでも作戦行動が開始出来るように各々準備を進めてくれ。
私からの特別報告事項は以上だ。あとは通常通り、各自の報告を頼む」
その後、各提督たちが鎮守府の現状を事細かに報告する。CMSの配備状況、ドック、工廠の設備について、貯蓄資材などなど。
それら全ての報告が終わると、第9回鎮守府定例会議は幕を閉じた。
大体は席を立ち、部屋を出て行くのだが、佐世保のアランだけがルナの下にやって来た。
「…………」
「……自分に何か御用でしょうか?佐世保司令」
「……奄美は俺の管轄だが、お前のような者が着任したというのは聞いていないのだが」
「と、言われましても……征原司令に訊ねるのが一番だと思いますが……」
「………そうか」
アランはそう言い残すと、足早に部屋を出て行った。
後ろをついていく重巡艦娘らしき少女が、申し訳無さそうに頭を下げていく。
「……何だったんだ?」
赤城も「さぁ?」という顔で首を傾げる。
そんなルナの下に、今度はタイガがやってくる。
「栄、今日は御苦労だった。それと南一号作戦での戦果も見事だった」
「恐縮です。しかし、南一号作戦は艦娘たちのおかげですので」
「艦娘たちのおかげか……。まぁ、どっちみち戦果を挙げたのは間違いない。
そこで突然だが、奄美基地に新たなCMSを1隻贈ることが中央の意思として決定している」
「そ、そうなのですか?」
「あぁ、佐世保から奄美に回航することになっている。これには戦果報酬という意味の他に、奄美基地の戦力増強も兼ねている。
栄に託すのは、N型CMS。その中でも最新型のNーⅢ型のものだ。
詳しくは征原に訊くと良い。それでは、今後の戦果に期待しているよ」
タイガはルナにそう話すと部屋を出て行った。
ルナと赤城も部屋を出て、もう一度、呉司令のタカに挨拶をすると、待たせていた艦娘たちと合流し、呉鎮守府を後にした。
ヘリで鹿屋基地まで戻り、待機していた『かざばな』に乗って帰途につく。
「俺らがついてった意味あったのか?ただ部屋で待たされてただけだぜ?」
「そうよね~、懐かしい顔ぶれに出会っただけだったわねぇ」
「ワタシは良かったデスヨー!呉の妹達も元気そうで良かったデス!」
艦の甲板の上で、待機組だった天龍、龍田、金剛がそう話している。
「まぁ何事も無かったですけど、それでも良かったですよね!」
「はいっ!モデルは違うけれど、十一駆のみんなにも会えましたし!」
青葉と吹雪が、ワイワイと昔話に花を咲かせる。
「そういえば、あの会議に出席してた艦娘って、誰なんだ?」
「えぇと……横須賀が長門さん、呉が大淀さん、佐世保が妙高さん、大湊が木曽さん、舞鶴は多分能代さんじゃないでしょうか?」
「うっ……戦艦の長門くらいしか分からない……これは、帰ったら覚えとかないとなぁ……今後こういう事があるかもしれないし」
ルナはやるべき事を考えながら、夕焼けに染まりつつある海を眺める。
こんなに綺麗な海も、今は深海棲艦の手に落ちているのだ。
近々、大規模な作戦行動があるかもしれない。参加するしないは別にして、自分も頑張らなきゃな、とルナは思うのであった。
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「遅いお帰りだな、司令官、姉さん」
佐世保鎮守府に戻ったアランと妙高を、妙高型重巡洋艦2番艦である那智が出迎える。
「あぁ、留守番御苦労だった」
「帰ったばっかで悪いが、客が来ているぞ」
「お客様?那智、あなた失礼なことはしてないでしょうね?」
「するわけないでしょう、心配し過ぎです」
「いい、どうせあの人だろ」
「ふむ、司令官はいつの間に読心術を使えるようになったんだ?」
アランは足早に提督室に向かっていく。バン!と扉を開けると、白髪と白い髭が特徴的な男性がいた。
「遅かったのぅ、アラン君」
「会議をサボったくせして偉そうですね、征原博士」
「その呼び方はやめろと言っておろうに」
トウは窓から外の様子を眺めつつ、アランに振り返る。
「でも、おかげで良い物が見られたじゃろ?」
トウの一言にアランの顔つきが変わる。
「博士……『アレ』は何です?」
「流石、奴の息子なだけあるの。一目で見抜くとは……ワシの
アランはため息を吐きつつ、執務机に座り、引き出しから書物の入った袋をドサッと出す。
「訊きたいことは山ほどありますが、貴方の目的はこれでしょう?『方舟計画』のデータ」
「話が早くて助かるのぅ。有り難く頂くよ。………して、進捗はどうじゃ?」
「全体の70%が完了、今は姉さんに任せてますよ」
「そうか……もうそこまで来たのか……」
トウが書物を確認していると、提督室に電話の音が鳴り響く。
アランが受話器をとって電話に出る。
「佐世保です………はい……」
アランは一言二言話すと受話器をトウに寄越した。
ーーーーーーーーーー
『よく佐世保にいると分かったのぅ、タイガ』
「馬鹿を言うな。あんなものを寄越しといて良くシラが切れるな」
中央総司令のタイガは、直通秘匿回線で佐世保のトウに電話をかけていた。
『うーん、お主にもバレておったか。ワシとしては最高の出来なんじゃがな……』
「R型の高周波音にガッツリ反応していたぞ?あれも新しい能力か?」
『お主の察しが良すぎるから秘密じゃ』
タイガがぐっ…と閉口すると、受話器から声が聞こえてくる。
『それを言う為に電話を掛けてきたのではなかろう?』
「お前の察しも大概だぞ」
タイガは、はぁーとため息を吐くと諦めたように、しかし、その声音に緊張を含みつつ、話し始める。
「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
『じゃあ良いニュースからじゃ』
「お前の基地に新たなCMSを贈っといた。NーⅢ型330010001だ」
『ほぅ、Ⅲ型の010番を寄越すとは。しかも初期配属か。その理由が悪いニュースかの?』
「思考力は鈍ってないようだな。そうだ、中部太平洋海域に偵察に出していた第六艦隊旗艦、伊168から先程、暗号電信が入った。
マリアナ諸島東1260海里、ウェーク島付近で、深海棲艦の大艦隊を補足した。
中には、2年前と同様の戦艦級のイレギュラー個体の他、空母型の新しいイレギュラー個体も補足された。
この大艦隊は南に進路を取っているようだ」
『何じゃと……イレギュラー個体が2種類だと……?』
「いやそうとは限らない。第六艦隊はその後、敵のハンターキラーチームに追撃を受けたようだが、その折、戦艦級のイレギュラー個体を上回る反応も感知している」
『【戦艦棲姫】を上回るイレギュラー個体だと……!?それが、ウェーク島から南下じゃと……まさか、敵の狙いは……!』
「そう、恐らく『トラック諸島』だ。空母型イレギュラー個体を含むという事は、トラック泊地への空襲が懸念される」
『……間違いなく、来るじゃろうな』
タイガは大きく深呼吸をすると、覚悟に満ちた声でこう宣言する。
「我々、日本海軍は【トラック泊地空襲迎撃作戦】を展開する………!!」
to be continued……
ー物語の記憶ー
・多目的汎用護衛艦『かざばな』
旧海上自衛隊の護衛艦をモデルに造られた、様々な役割を果たす艦艇。
奄美基地が所有する8隻のうちの1隻。
・
日本軍を統括する組織、『中央』の司令官。
総司令と呼ばれている。征原トウとは腐れ縁らしい。
ルナ「何か沢山人が出てきたな。こんなに出して大丈夫なのか?」
kaeru「いっぱいいた方が楽しいでしょう?」
ルナ「まぁ賑やかなのは良いことだが……」
kaeru「今後更にいっぱいの艦娘やら人物やらが出ますので、期待して待ってて下さい」
ルナ「次回、迎撃!トラック泊地空襲!編、お楽しみに」