記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

28 / 48
投稿が毎度遅くてスミマセン……
いつこの小説を完結出来るかと悩む今日この頃です。
それではッ!

ー前回までのあらすじー
トラック迎撃作戦に参加したルナたちは、先遣隊としてパラオからトラックまでの対潜掃討戦を展開していた。
しかし、島風が独断で先行。その結果、深海棲艦の罠にはまってしまう。
そんな島風を、吹雪は魚雷からかばい、海の上に崩れ落ちたのだった。


memory19「夜の対潜戦」

 

memory19「夜の対潜戦」

 

 

「被害は?」

 

「島風が小破、吹雪が大破で、他全艦損傷軽微です」

 

「そうか……全員生きて戻ってきてくれてよかったよ」

 

「しかし、敵潜水艦隊の中核を叩く事が出来ませんでした」

 

「……生きて戻ってくれば、何度でも挑戦出来る。五十鈴、君もドックに入ってくれ。今は、休む事が任務だよ」

 

「……了解です」

 

五十鈴はそう言って、部屋を出ていく。

 

 

パラオ泊地。

敵潜水艦の魚雷攻撃によって多大な被害を被った先遣対潜部隊は、旗艦五十鈴が『撤退』の判断を下した為に、パラオ泊地に戻っていた。

 

庁舎の一室を借りているルナは、五十鈴からの報告書を手に取った。

 

(島風は、生体に被害はあまり無いものも、通常装備である支援機体が重大な損害。修理には一晩かかる見込み。

吹雪の方は、島風を庇い、魚雷の直撃を受けた為に、機関部艤装、航行用艤装どちらも大破。生体も重傷を負い、CMS傷病療養施設(ドック)入り。意識は戻っていない)

 

「…………」

 

ルナはもう1つの書類を手に取る。艦娘の入渠書類だ。

艤装の修理に必要な資材、生体の怪我を治すために稼働するナノマシンが必要とするエネルギーなど、様々な情報が書いてある。

 

「………こんなところで、仲間を死なせる訳にはいかない」

 

ルナは書類の【高速修復材使用許可】の欄にサインをした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

CMS傷病療養施設。通称ドック。

 

この施設内の各部屋には、特殊な治療用ナノマシンが充満しており、部屋の中にいるだけで戦闘で負った怪我などの治りが早くなる。

 

その中の第一号ドックに入渠していた島風は、膝を抱えてじっとしていた。

 

視線の先には、大きな破損を未だ修復している連装砲ちゃんの姿があった。

 

「………ごめんね、連装砲ちゃん。私が話を聞かないばっかりに……」

 

連装砲ちゃんは答えない。修復中で稼働停止している為だ。

 

島風も、自分の失敗に気付いていない訳では無い。吹雪の注意が正しいことも分かっていた。

 

「…………」

 

島風は再び黙り込む。部屋を静寂が包み込む。

何もしないでじっとしているというのは、案外辛いものだ。どうせ、完全修復までこの部屋からは出られないのだ。島風は、横になって寝ようとする。

 

すると、バンッと扉が開き、2人の人物が部屋に入って来た。

 

「天龍……龍田……」

 

入って来たのは天龍と龍田だった。2人の表情は、怒り顔でも笑い顔でも無い、ただの無表情。

しかし島風は逆に、その無表情に恐怖を覚えた。

駆逐艦娘にとって軽巡洋艦娘は厳しい先生のようなものだ。水雷戦隊の(おさ)として、駆逐艦娘を率いて敵の懐に殴り込む。

その為に過酷な訓練を、軽巡洋艦娘は時として駆逐艦娘に強いる。

 

それに加え、天龍と龍田だ。新入りの島風の耳にも、天龍と龍田がかなりの曲者だという事は風の噂で届いている。

その為、島風は奄美に着任してから、天龍と龍田を避けるようにして過ごしていた。

 

「よぉ、島風。まぁまぁ元気そうだな」

 

「え……?うん……」

 

天龍がぶっきらぼうにそう言い、龍田が島風に近寄ってくる。

 

龍田はしゃがむと、島風に向かって手を出した。

 

ぶたれると思い、とっさに目をつぶった島風だったがそんなことは無く、ただポンと頭に手を置かれただけだった。

 

「多少の経験値はMW技術で与えられているとはいえ、初陣良く頑張ったわね」

 

「え……?……あぅ……」

 

「eliteも1人で倒しちゃったんでしょう?さすが島風ね」

 

「あぁすげーよな。俺も……連装砲ちゃんだっけ?装備してみてーな」

 

天龍と龍田は、そう言って笑い合う。

 

「まぁ怪我も大した事無さそうだし、俺らが来るまでもなかったな」

 

「そうね~、それじゃあ島風ちゃん、お大事に」

 

2人がそう言って部屋を出ていこうとする。島風は耐え切れずに2人の背中に「何で!?」と叫んだ。

2人が振り返って島風を見る。

 

「何で私を怒らないの!?」

 

「え、怒られたいのか?変わった奴だなお前」

 

「そういうんじゃない!前の出撃は、私が五十鈴や吹雪の話を聞かなかったから失敗したんだよ!?その事で怒りに来たんじゃないの!?」

 

島風は目元を潤ませながらそう叫ぶ。それに天龍はポリポリと頭をかき、龍田はニコニコと笑っている。

 

「ちっ、何だよ。ちゃんと分かってんじゃねぇか」

 

「え?」

 

「お前がちゃんと分かってるんだから、俺らがとやかく言う必要は無いよな、龍田?」

 

「そうね~、私たちは生きているもの。失敗するのは当然の出来事だわ。

それを反省してるのなら、私たちは何も言わないわ~」

 

「……でもっ!だったら……!」

 

「そんなにアレならチビ助にでも相談したらどうだ?」

 

「……え?」

 

天龍が親指で背後の扉を指差す。

すると、ガチャリと扉が開きルナが姿を見せた。

 

「気付いてたのか」

 

「おう、悪いなチビ助。お前の”仕事”はもう終わっちまったぜ」

 

「そうみたいだね」

 

ルナはそう相槌を打つと、島風を見てこう言った。

 

「ま、そこの怖~いお姉さんの言った通りだよ。

生きている以上、失敗はつきものだ。偉大なる先人たちは失敗から物事を学んだって言うしね。

報告書を読ませてもらったけど、今回の作戦が失敗した理由は、島風が一番良くわかっているだろう?

なら、その失敗を糧に、今度失敗しない為には次どうすればいいのかを考えて、それを実践するんだ。

その事が仲間に対する一番の償いだな。終わってしまった事はいくら悔やんでもやり直せない。だから、同じ過ちを繰り返さないように、それを反省し、次に活かすのが大切だぞ」

 

「要するに、『悪い事は忘れろ!』って事かしらね~」

 

「悪い事を忘れた結果、取り返しの付かない失敗をした場合はどーするんだ?ミッドウェーとか」

 

「あーもぅ、せっかくいい話で締めようとしてたのに、どうして君たちはいつもそうなんだ」

 

ルナは天龍型2人の茶々にがっくしと肩を落とす。当の2人はニヤニヤしている。

 

「それにしても、少尉はその考え好きですね~。赤城の説得の時にも言ってたとか聞いたわよ?」

 

「うん、その通りだ龍田。だから何千回何万回も言うぞ。『クヨクヨするな、前を向け』ってね」

 

島風はルナの話をじっと聞いていた。ルナが話し終わると、小さな声でルナに尋ねた。

 

「………なら、どうして吹雪は私を(かば)ったの?」

 

「何だよお前、そんなことも分かんねぇのか?それはな……むぐっ」

 

言いかけた天龍の口をルナが押さえる。

ルナは島風に振り返る。

 

「じゃあ、その答えを聞きに行こうか。島風も入渠時間はもういいだろうし」

 

島風はポカンと口を開け、ルナを見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

第二号ドック。

こちらにはかなりの損害を受けた吹雪が入渠していた。

 

入渠といっても、島風のように部屋内で怪我が治るまで過ごすのではなく、吹雪の場合はアイソレーションタンクのような治療用ポッドの中に入っていた。

 

「あ、栄少尉」

 

ルナたちが部屋に入ると中には五十鈴がいた。

吹雪が横たわっているポッドを覗き込んでいたようだ。

 

「五十鈴、もう入渠が終わったのか?」

 

「あんなのただのかすり傷よ。ドックに入らなくてもお風呂で治るわ」

 

ルナたちもポッドを覗き込む。吹雪は病院の患者服のようなものを着て、中で横になっている。傍目(はため)には眠っているようにも見える。

だが、備え付きのモニターは、吹雪の状態が睡眠ではなく昏睡であることを示していた。

 

「まだ意識は戻らないのか」

 

「そうみたいね。いくら私たちCMSでも艤装をはずせば常人よりも頑丈なだけだし。

生体の造りも人間とほぼ同じだから、目を覚ますかは分からないわね」

 

「そうか……。先遣部隊だからこれ以上の増員は無いだろうし、吹雪が目覚めないと作戦の続行は不可能だ。だから……」

 

ルナは吹雪の入渠の書類を出してみせた。

 

「【高速修復材】を使う」

 

高速修復材とはその名の通り、CMSに使えば瀕死(ひんし)の重体でもたちまち元どおりになるという特殊な資材だ。

また、艤装に使っても同じ効果を発揮する。

 

その原料は、CMSなどに使われているナノマシンのオリジナルを純粋増殖させたものである。

その為に、使用すると純粋ナノマシンが、対象の記憶を頼りに欠損した部分を補うように取り付いていき、最終的には元どおりになるという事らしい。

 

高速修復材(バケツ)を使うの?でもそれは数が少ないんじゃ……」

 

「うん。今回、自分たちに支給されたのはたったの20個だ。だけど、初動作戦すら完遂出来なくては、トラックを失って、我々はこの戦争に負ける」

 

ルナがそう言うと、五十鈴はそれ以上何も言わなかった。

ルナはポッドのモニターを操作して高速修復材を使用する。

するとポッド内に黄緑色の液体が注入され、中が満ちていく。

すると、目に見えて分かるほどに吹雪に生気が戻っていき、修復材が無くなる頃にはモニター上のバイタルも正常値に戻っていた。

 

ピーッと音が鳴りポッドが開放される。

吹雪はゆっくりと目を開けると、ハッとしたように起き上がる。

 

「………おっ、おはようございます、少尉!」

 

「おはよう吹雪、といっても今は夜だけどね。まだ楽にしているんだ」

 

「はい……それで作戦の方は……?」

 

「私の判断で撤退させてもらったわ」

 

ルナの隣にいた五十鈴が吹雪にそう伝える。

 

「そうでしたか……スミマセン……」

 

吹雪がそう言うと、後ろにいた島風が「あーもー!!」と大声を上げて吹雪の目の前に出てくる。

 

「吹雪が被雷したのは私のせいで、作戦に失敗したのも私のせいでしょ!?それに、どーして私を(かば)ったのよ!?」

 

吹雪は「えー……」と言葉を濁すと、小さめの声でボソッと理由を話す。

 

「それは……特型の私より、最新型の島風ちゃんの方が戦力となり得るからです」

 

「なーに恥ずかしがってんだよ。素直に『友達だから!』って言えよ」

 

天龍がニマニマしながらそう言うと、吹雪はぷいっとそっぽを向いてしまった。

顔が赤くなっているのは、病み上がりという訳でも無さそうだ。

 

「ま、そーゆーことだ島風。いくら喧嘩したって、君は大切な仲間なんだから」

 

ルナの一言に島風は顔を下に向ける。しばらくして、顔を上げた島風は吹雪に背を向けた。

 

「………ふんっ、私より足が遅いのにカッコつけるからそうなるのよ」

 

「なっ……仮にも助けた相手にその言い方ってー!」

 

「でも……ありがと」

 

島風の顔は後ろからでも分かる程に真っ赤に染まっている。

一瞬だけ部屋に静寂が訪れた後、皆はドッと笑った。島風は更に顔を赤くしていた。

 

「盛り上がってるトコに水を差すようで悪いんだけど、次の出撃の話をしたいんだ。

我々の初動作戦が成功しないと、連合艦隊はトラックに辿り着けない。要するにモタモタしていたらトラックが陥落してしまう可能性がある。

だから次は、日の出とともに攻撃を掛けるぞ。何か意見はあるかな?」

 

ルナがそう言うと、五十鈴がスッと手を挙げた。

 

「何か良い案が?」

 

「半分は賭けですが、1つだけ案があります」

 

五十鈴は自分の考えをルナに話し始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「と、いってもさぁー、夜に潜水艦を迎撃するのはムリがあると思うんだよね~」

 

「うるさいわね白露は。あんまりゴチャゴチャ言ってると、佐世保に帰らせないわよ」

 

夜の海。

先遣部隊は、2度目の対潜出撃を行なっていた。

 

五十鈴がルナに話した作戦、それは夜に出撃し、魚雷を放とうと海面近くまで上がってきた敵潜水艦を叩こうというものだった。

 

夜の海は昼間と違って、目視がほとんど通用しない。夜中の暗闇は、あらゆるものの姿を隠してしまう。

その中で、ただでさえ隠蔽性の高い潜水艦を叩こうというのだ。

 

「夜なら、普通に考えれば水上艦の私たちより潜水艦の方が有利だわ。だから奴らは必ず、海面まで浮上して必中の距離から魚雷を放つハズよ。

私たちは、そう油断して上がってきた敵潜を叩く!」

 

「上手くいくといいですけど……」

 

巻雲が三式ソナーを操りながら、五十鈴の言葉にそう答える。

 

目視がほとんど通用しない夜間は、ソナーやレーダーだけが頼りだ。

しかし、それでも不安は残る。

 

「……作戦が100%成功することはあり得ない。だから僕たちは成功する確率を高めるように行動するんだ。

つまり五十鈴……」

 

「えぇ、時雨の想像通りよ。敵潜をおびき寄せる為に……(おとり)を使うわ」

 

五十鈴の一言に、一同の中に緊張が走った。

この暗闇の中、囮になるということは潜水艦の(まと)になるということと同意義である。

 

それにこの囮作戦で敵中核を叩けなければ、味方の損害だけが増える事になる。潜水艦が潜む夜の海を、損害艦を抱えて撤退することは簡単な事では無いのは明白だ。

 

「吹雪、お願いできるかしら」

 

それら全てを承知した上で、五十鈴は吹雪にそう告げた。

吹雪もそう言われるのがわかっていたかのように(うなず)く。

 

「了解です。艦隊から落伍(らくご)したように見せかけて離れれば良いですか?」

 

「さすが、分かってるわね。くれぐれも無茶はしないで」

 

吹雪は「了解です!」と短く答えると、少しずつ速度を落とし艦隊から離れ始めた。

 

その様子を島風はずっと見つめていた。

姿が暗闇に溶け、航行灯だけがチカチカと見える程になっても目を離さなかった。

 

一方、吹雪は10ノットを切る程の速度で、何も見えない海の上を航行する。

 

敵潜水艦がこちらを既に見つけているなら、優位な位置に移動して魚雷を発射する準備をしているところだろう。

 

吹雪は聴音機(ソナー)に耳をすます。

静かな海にしばし耳をすましていると、そんな海に似合うはずもない音が聞こえてきた。

 

ボコボコ、ベコンとやかましい音、潜水艦が浮上するために海水を排出している音だ。

 

吹雪は即座に信号灯で敵発見の報告をする。

無線で報告しないのは、無線が傍受され、吹雪が潜水艦に気づいたことがバレて、囮作戦が失敗する可能性がある為だ。

 

(テ・テ・テ……ウ・ロ・ク……)

 

吹雪はカシャカシャと信号灯でモールスを前方にいる艦隊に報告する。

 

すると吹雪の左前方に黒い塊が見えた。

目視に自信がある吹雪が目を凝らして見ると、それは海上に浮上した潜水艦だった。

 

「あの姿は……潜水ソ級!」

 

深海棲艦の潜水艦級の中でも、トップクラスの性能をもっている奴だ。あのソ級がここらの潜水艦隊の中核、旗艦であることは間違いない。

 

奴を沈めれば、敵潜水艦隊は統率を失い、残存戦力を大幅に削る事が出来る。上手くいけば、撤退させることも出来るかもしれない。

 

しかし吹雪はすぐに攻撃しなかった。

なぜ、旗艦であるソ級がわざわざ浮上し、姿を見せる必要があったのか。

 

冷静な吹雪はすぐに事態に気付く。

 

恐らく、ソ級はこちらの作戦を”読んでいた”。

誰か1隻が囮になって、浮上したところを攻撃する事を読んでいたに違いない。

 

だから、深海棲艦側も囮を使った。大胆にもそれは旗艦であるソ級。

ソ級自らが囮になれば、囮の1隻はソ級を撃沈しようと向かって行くだろう。そこを魚雷網で絡め取ろうとしているのだ。

 

そして、浮上し囮の1隻が発光信号を送っている事を確認すれば、他の潜水艦たちによって、引き返してくるであろう艦娘の艦隊も狙い撃ちに出来る。

 

(くっ…!ハメられた!多分、今の発光信号も敵にバレてる……!)

 

吹雪は信号灯で「チ・カ・ヅ・ク・ナ」とモールスを送る。

それと同時、聴音機(ソナー)からゴパァといった注水音が聞こえてくる。

 

「発射管注水音!?来るっ!」

 

吹雪の右舷からサーッと白い航跡を引き魚雷が迫ってくる。

 

吹雪は意を決して、海上に浮上しているソ級に向けて進路を取りつつ魚雷を回避する。

 

こうなればもうあのソ級を沈めるしかない。吹雪は機関の出力を上げる。

自分のタービン音のせいでもうソナーは役に立たない。暗闇の中、目視で魚雷を回避するしかない。

 

ソ級と吹雪との距離が迫る。それでもソ級は潜行しようとしない。それどころか、勝ち誇るような余裕な雰囲気が感じられる。

 

「この……!海上にいれば砲で撃沈することだって……!」

 

吹雪は主砲を発射しようとする。しかしその時、前方から扇状に広がりながら魚雷が迫っている事に気付いた。

 

吹雪は慌てて魚雷の射線上から逸れ、魚雷と魚雷の間に入るように回避する。

 

だが、そうする事を予想してたかのように左舷から無数の魚雷が迫る。十字雷撃だ。

 

「ダメだ、避けられない……!?」

 

左舷から迫る魚雷は、速度を落としても、逆に目いっぱい上げても命中するコースにあった。

 

それでも吹雪は諦めずに、速度を上げてソ級に迫る。

しかし魚雷は無情にも、吹雪の進路を捉えている。

 

吹雪は自らの運命を悟った。

 

(ごめんなさいみんな……!こんなところで……!)

 

吹雪は歯を食いしばり、込み上げる涙をこらえようとする。シャーッと音を立て魚雷が迫る。

 

その時だった。背後から、こんな絶望的な状況にそぐわない声が聞こえてきたのだ。

 

「もうっ!吹雪ったら、おっそーーっい!!」

 

島風が背後から猛烈なスピードで吹雪に迫り、吹雪の手をとって引っ張る。

 

「し、島風ちゃん!?どうして……!?」

 

「黙ってて、舌噛むよ!」

 

島風は更に速度を上げる。しかし、吹雪を引っ張る形で航行している為、思うように速度が上がらない。

 

「離して島風ちゃん!このままじゃ2人とも……!」

 

「うるさい!うるさーい!」

 

島風は大声で吹雪の言葉をかき消す。島風はちらっと吹雪の顔を見ると言った。

 

 

「仲間を……”友達”を見捨てる駆逐艦なんていないんだよっ!!」

 

 

島風は無理にでも機関出力を上げる。航行用艤装が異音をあげるが、そんなことお構いなしに。

 

「島風を……舐めるなあぁぁァァアッ!!」

 

吹雪は驚愕した。速度が上がっている。もちろん吹雪も全速を出しているが、それでも速度は38ノット程度が限界のハズ。

今の2人はその限界を超えて海上を疾駆していた。

 

吹雪を絡め取ろうとしていた魚雷たちが、2人の後方に流れていく。

 

「どうだ……!」

 

島風は恐るべきスピードを出しながらそう言った。

 

「……!?危ないっ!」

 

吹雪が覆いかぶさるようにして、無理矢理進路を変える。2人の隣を1本魚雷が通り過ぎていく。

 

吹雪と島風は顔を見合わせた。そして笑い、浮上しているソ級を睨む。

 

「私には、そんなスピードは出せない…」

 

「私は、吹雪みたいに冷静じゃないし、そんなに上手く戦えない…」

 

「うん、だけど……」

 

「1人で駄目なら……」

 

 

 

「「2人一緒でッ!!」」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その時、ソ級は目の前の光景を信じられないでいた。

 

今まさに、魚雷の網にかかりそうになっていた駆逐艦がとんでもないスピードでこちらに向かって来ている。

 

あれはどうみても、従来の駆逐艦が出せる速度を超えている。

 

早く潜行しなければ。だがそれよりも早く目の前に駆逐艦が。

 

「「やああぁぁァァァアああッ!!」」

 

吹雪と島風は勢いそのままに、ソ級の頭部を蹴り抜いた。

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・CMS傷病療養施設

通称ドック。出撃で損傷したCMSや艤装を修理する施設。艤装部分は同施設内、専用スペースで。生体は、治療用ナノマシンが空気中に散布された特殊な部屋内で修復される。

 

 

・アイソレーションタンク

フローティングタンクとも呼ばれる、感覚を遮断する為の装置。一般のタンクでは、中に高濃度の塩水があり、そこに浮かぶことで、皮膚感覚や重力感覚を軽減する。

心的療法やリラックスに使われる事が多い。

 

 

・治療用ポッド

アイソレーションタンクをもとにした、CMSを集中的に治療するポッド。

主にCMS生体に重大な損害を負った時のみ使用される。

 

 

・高速修復材

CMSに使われている体内ナノマシンのオリジナルを純粋培養したもの。

当然の事に、CMSとの親和性が非常に高く、使用すると損失した部分を対象の記憶を頼りに修復する。

便利な資材だが、純粋培養の為、数を揃えるのにかなりの時間を要する。なので貴重と言える。

入ってる容器の見た目から、一部の者には『バケツ』と呼ばれている。

 

 

 

 

 

 




ルナ「現実でも、曳航したまま38kt以上って出せたのか?」
kaeru「さすがに無理だと……フィクションって事で許して下さい」
ルナ「次回、トラックに敵艦載機が!」
kaeru「お楽しみに」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。