記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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投稿が遅くなって申し訳ナイノデス。
ペースを戻せるように頑張ります

それでは!


memory21「トラック空襲」

 

memory21「トラック空襲」

 

 

 

トラック泊地へと戻ってきた威力偵察部隊は、ルナに事情を説明し、所属不明の潜水艦娘をドックへ入渠させていた。

 

「つまり、早期警戒(ピケット)の娘が発見した敵艦隊は、この潜水艦娘を追い掛けていた対潜部隊(ハンターキラーチーム)だったって訳か」

 

「恐らくそう思われます。なので、敵トラック侵攻艦隊とは無関係だと判断して、このCMSの確保を優先しました」

 

「上出来だよ赤城。良い判断だ。もしこの娘が日本以外の国で生まれた艦娘だとすると、この閉ざされた世界で、日本の他に深海棲艦に対抗出来る国が在る証明になる」

 

ルナは治療用ポッドの中に横たわっている潜水艦娘を見た。

色白の肌に、色の薄い髪の毛。見た目だけでも外国人のような雰囲気がある。

 

「前にライラさんが、他国にも技術協力をナントカカントカって言ってたな……具体的にはどこの国に頼んだんだ?」

 

「さぁ……多分、当時の主要国全てにだと思いますけど……」

 

歯切れの悪そうに赤城が答える。やはり、このような問題は機密事項になっているのだろう。

 

「とにかく、このままこの娘をドックに入れておく訳にもいかない。本格的に戦闘が起きれば、ローテーションで効率的にドックを使うようになるからね。いつまでもドック1つを占領していては迷惑だ」

 

ルナはモニターを操作し、高速修復材(バケツ)を投入する。

 

見る見るうちに顔に生気が戻っていく。モニター上のバイタルも正常値に回復している。

だが、未だ目覚める気配は無かった。

 

「やはり、深海棲艦が支配する海を長距離移動してきたからでしょうか……?」

 

「多分そうだろうね。金剛、この娘を部屋に寝かせてきてくれないか?」

 

「ok!任せるネ!」

 

金剛はその潜水艦娘を軽々と抱きかかえると、ドックから出て行った。

 

そして金剛と入れ替わる様に香取が入ってくる。

 

「栄少尉、宜しいでしょうか?」

 

心なしか、香取の顔には緊張の色が見られた。

それを感じ取ったルナは、香取が言わんとしている事を察した。

 

「動いたのか?」

 

「御察しの通りです。6時間前、敵トラック侵攻艦隊の本隊と思われる深海棲艦群が、トラックに向けて南下し始めたとの通信を先程、第六艦隊本土経由で受け取りました」

 

予想していた事だったが、改めて言葉にされるとその事態の重さに背筋が凍る。

 

「……あとどれくらいで空襲圏内に?」

 

「巡航速なら4時間、早ければあと3時間程です」

 

「猶予は殆ど無いか……連合艦隊の方は?」

 

「予定では明日の朝です。勿論の事、急いでもらう様に要請はしましたが、今日の空襲には間に合わないでしょう」

 

香取は冷静に今の状況を分析していた。これで、今日中に来襲するであろう敵艦載機群はトラック泊地の戦力のみで迎撃しなくてはならなくなった。

 

「……ここが我々の天王山か。時間からみても敵の空襲は1回が限度のハズ。今日の空襲を防ぎきれば、後は連合艦隊がやってくれる」

 

ルナの言葉に一同が頷く。

 

奄美のCMS(艦娘)を一度、部屋に帰し、ルナと香取は作戦会議室(ブリーフィングルーム)に移動する。

 

空襲迎撃の為の作戦会議が始まった。

 

「まずは中央の派遣艦隊を強襲偵察に出します。敵部隊の情報を得るとともに、少しでも奴らの足を止めます」

 

「なるほど。自分の考えとしては、戦力の差からみても防戦一方ではジリ貧だと思う。奄美で敵の先鋒を叩いて、本隊を止めたい。どうだろう?」

 

「……悪くない考えです。ただ、出来ますか?」

 

「出来る出来ないじゃない、やるんだよ。あいつらなら、やってくれる」

 

「……どちらにせよ、こちらが打てる手は限られています。守りに徹すればすり潰されるのは明白。お願い致します」

 

「了解したよ。上手くいけば、トラックに空襲する敵機をこちらに吸引出来るかもしれないからね。ところで、こちらの航空戦力は?」

 

「すべての空母艦娘を泊地防衛にあてても無傷とはいかないでしょう。正規空母も何隻かはいますが、いずれも練成途中で本来の力は出せないと思います」

 

「そうか……こちらも空母は赤城1人。敵先鋒を叩くのにあと1人か2人空母が欲しいんだが……しょうがないか……」

 

「……いえ、佐世保の軽空母艦娘を2人、そちらへ付けましょう」

 

「……!?佐世保の艦娘を……!?アラン提督に許可を求めなくて大丈夫なのか!?」

 

「非常事態です。なりふり構ってはいられません」

 

「……助かるよ。ありがとう」

 

「ここで終わらせる訳にはいきません。必ず勝ちます」

 

「そうだね」

 

こうして編成された部隊は5部隊。

 

敵部隊への強襲偵察隊。

 

敵先鋒を叩く為の奄美部隊。

 

奄美を支援するための陽動隊。

 

泊地外周の空襲迎撃部隊。

 

環礁内の最終防衛隊。

 

泊地内の一般船、商船、民間人は、泊地に配備されていた気持ちだけの哨戒船を護衛に付け、パラオ泊地へと向かわせた。

 

空襲の危険はあるが、軍の下の方が安全と判断し、トラック泊地に残る者もいた。

 

「いいか、君たち。奄美部隊のやるべき事は1つ。敵先鋒である機動部隊を攻撃し、敵本隊がトラックに来襲するまでの時間を稼ぐこと」

 

ルナの前に立つ6隻のCMS(艦娘)

追い詰められた中でも、皆の視線は鋭く、自信に満ちている。

 

「ここが自分たちの正念場だ!頼んだぞ!」

 

ルナの激励を受け、奄美部隊が出撃する。

 

「すまないわね、飛鷹、隼鷹。佐世保の貴女たちに迷惑を掛けて」

 

赤城が自らの後ろをついて来る、2人の軽空母艦娘に声を掛ける。

 

「大丈夫よ。みんなが頑張ってるのに、佐世保だけ仲間外れなんて寂しいじゃない」

 

「そうだぜ!ササっと片付けて、早く祝杯を挙げようぜ!」

 

商船改造型空母の飛鷹と隼鷹。奄美部隊には軽空母であるこの2隻が配属されていた。

 

軽空母と言えども、制空能力は非常に高く、実戦経験も豊富な頼れるCMS(艦娘)だ。

 

赤城を旗艦として、佐世保の飛鷹、隼鷹、3隻の空母艦娘を中核にして、金剛、青葉、島風を含めた6隻で部隊は編成されていた。

 

「……吹雪たちは大丈夫かな?」

 

「そんな心配しなくても大丈夫ネ!向こうには、テンリューとタツタもいるデース!」

 

天龍、龍田、吹雪は奄美部隊を支援するための陽動隊に参加していた。

 

陽動隊の役目は、敵戦力を分散させる事。

これによって、奄美部隊を敵前衛にぶつける事無く、先鋒中核に直接対峙させようというのだ。

 

中核(ボス)戦までの戦闘数が少なければ、燃料、弾薬、体力を温存出来る。

 

「赤城さん、強襲偵察に出た部隊から広域通信です!敵機動部隊先鋒と接触に成功。空母ヲ級改flagship(フラグシップ)、戦艦タ級を含む………ここまでです」

 

「改flagship(フラグシップ)?聞いた事がないクラスですね。ヲ級なら分かりますけど」

 

青葉からの報告に赤城が首をひねる中、飛鷹だけが顔を白くしていた。

 

「改flagshipですって……!?そんな……」

 

「知ってるんですか飛鷹さん?」

 

「奄美の貴女たちもトラックに来る前にelite級と戦ったでしょ?」

 

「勿論ネ、アイツは赤いオーラみたいなのをまとってたデース」

 

「簡単に言うとソイツの強化版の強化版よ。攻撃力、回避力、継戦能力、全てにおいて従来の深海棲艦を凌駕(りょうが)するわ」

 

「改flagship級は一部のイレギュラー個体を上回る強さがあるからなぁ」

 

隼鷹がうんうんと頷きながら飛鷹の話を肯定する。

 

「でも……ここで負けたら……」

 

「えぇ、この世界は終わりますね」

 

「まぁ私達は一度でも負ければおしまいだけどな!あっはっはー!」

 

「笑い事じゃないのよ隼鷹!ちゃんとしてよもう!」

 

奄美部隊は海上を猛然と進んでいく。

開きっぱなしにしている無線には、様々な怒号が飛び交っている。

 

今回使用している回線は、一般用の広域帯だ。一般用の広域通信で交信するには理由がある。

そもそも、相手にはこちらの位置がバレている。この時点で無線封鎖は無意味である。

 

そして、全通信を1つの回線に統一することで、味方の動きを素早く知る事ができ、回線を切り替えるという手間を省く事が出来る。

 

普段なら、情報が交錯するために回線を統一するのは極力避けているのだが、今回の作戦は、各部隊が臨機応変に事態に対応する事が求められる為にこのようになっている。

 

「艦隊、0-6-0に転針」

 

「それにしても、本当に敵艦隊に出くわさないね……」

 

赤城の変針命令に舵を切りながら、島風はそう呟く。

 

「恐らく、吹雪さんたちが上手くやってくれているのでしょう。このまま何も無く中核まで辿り着ければ良いですけど」

 

奄美部隊だけは無線を発信していない。5つの部隊でこの部隊だけは、敵に見つかる訳にはいかない為、受信のみに使用している。

 

「アカギ、ポイントEー2ーIに入るネ」

 

「はい、そろそろ戦闘海域に突入しますね。飛鷹、隼鷹、索敵機の用意を」

 

「分かったわ」

 

「りょーかい!」

 

飛鷹と隼鷹は巻物を模した飛行甲板艤装を展開する。

すると2人の手に『勅令(ちょくれい)』と描かれた光が灯る。

そして、紙の似た素材の人形(ヒトガタ)を取り出すと、巻物の上に飛ばし始める。

 

巻物上を通った人形(ヒトガタ)は、その姿を赤城たちが扱う艦載機と同じ姿に変え、大空へと飛び去っていく。

 

「飛鷹と隼鷹は、赤城みたいに弓矢を使わないんだ……」

 

島風がその目を輝かせながら、飛鷹と隼鷹の発艦作業を見ている。

 

「oh!まるでオンミョージみたいネー!」

 

「そうですね……では、私もいきます」

 

赤城が空に向け弓に矢をつがえる。

空を切って放たれた矢は、通常の飛行機とは異なる機体に姿を変える。

 

スッキリとしたボディに細身の翼、その割には大きなプロペラが付けられた機体。

 

高速艦上偵察機『彩雲』だ。

 

戦闘機や爆装を外した攻撃機を偵察に出すのでは無く、偵察専用の機体を赤城は装備してきていた。

 

しかし、与えられたメモリーは1つだけ。

赤城はその1つの彩雲を、搭載数最少のスロットに装備していた。

 

「念には念を入れて、二段階索敵を行います。彩雲の後を飛鷹、隼鷹の偵察機を。お願いします」

 

偵察機を発艦し終わり、艦隊は警戒態勢に入る。

 

「強襲偵察隊からの通信だと、敵中核は第一波を放ったようですね。狙いは泊地で間違いないようです。

偵察隊や陽動隊には、他の敵艦隊が攻撃しているらしく、敵中核の艦載機群はノーマークっぽいですね……」

 

「マズイわね……早く敵中核を叩かないと私達が出撃した意味が無くなっちゃうわ」

 

通信を拾っている青葉の言葉に、飛鷹は焦ったように反応する。

 

偵察機からの敵艦隊発見の報告はまだ無い。

 

「索敵の範囲を広げるかい?」

 

隼鷹が赤城にそう具申する。

しかし赤城の目は、敵艦隊を既に捉えているようだった。

 

「その必要はありません。全艦、輪形陣に変更。飛鷹、隼鷹は第一次攻撃隊発艦準備。その他は対空警戒を厳とせよ」

 

「第一次攻撃隊を?まだ敵が見つかっていないのに?」

 

「必ず、彩雲が見つけてくれます。艦隊直掩は後で良いので、攻撃隊とその直掩だけ発艦準備を」

 

飛鷹は赤城の命令を不思議に思いながらも、攻撃隊に爆装準備を進める。

 

その他のCMS(艦娘)も赤城の命令通りに輪形陣へと陣形を変更する。

艦隊前方を金剛、左後方を島風、右後方を青葉がカバーするという特殊な輪形陣を組みながら艦隊は進む。

 

「空母全艦、準備が出来次第、攻撃隊発艦始め!」

 

未だ敵艦隊は発見していないが、空母の3隻は次々と攻撃隊を発艦させていく。

発艦させた攻撃隊は、索敵機の後に続くように空に飛び去っていった。

 

「いやぁ、面白い戦い方をするねぇ。さすが一航戦だ!」

 

隼鷹があっはっはーと笑いながらそう言う。

飛鷹がそんな妹を注意するが、飛鷹本人も赤城が何をやっているのか理解していない様子だった。

 

赤城の作戦は一種の賭けだった。この賭けが外れれば、敵の艦載機が泊地に殺到する事になり、赤城たちが出撃した意味はほほ無くなる。

 

赤城も焦ってはいたのだが、確信にも思える何かを感じていた。

 

そして遂に、索敵機から通信が入った。

 

『敵艦隊見ユ。ヲ級改、タ級ヲ含ム』

 

「来たっ!」

 

「全攻撃隊、準備の整った部隊から五月雨式に攻撃開始!艦隊、第四戦速に増速!」

 

艦隊は速度を上げて、敵艦隊の発見されたポイントへと向かう。

 

「ヘーイアカギー!敵艦隊に近づいちゃっても良いんデスカー?」

 

「今回の作戦は速攻が重要だと思っています。攻撃隊を五月雨式に突入させ、敵空母に新たな艦載機を発艦させる隙を奪います。

その間に金剛さんたちは敵艦隊に攻撃をお願いします」

 

「でも赤城さん。その方法だと、艦載機の損傷が激しくなるのでは?」

 

青葉が赤城にそう訊ねる。

五月雨式に攻撃させるということは、敵艦隊に瞬間的に迫る艦載機数が少ないという事になる。

 

時間を引き延ばして攻撃を行う事は可能だが、瞬間火力に劣る上、数が少ない為に容易に迎撃されてしまう恐れがある。

 

「承知の上です。ですから先に攻撃隊を発艦させ、敵が行動を起こす前に仕掛けます。

これで不意打ちが成功すれば、かなりの時間稼ぎになると思います」

 

赤城の考えを聞いた飛鷹が納得をした様に頷く。

 

「そういう事だったのね……でも索敵機と一緒に攻撃隊を出したのはどういう事?敵艦隊がその方向に居なかったら燃料と時間の無駄使いになっていたのよ?

まさか勘だなんて言わないでよ?」

 

「そのまさかですけど?」

 

飛鷹はポカーンと口を開け驚愕する。

 

「まっ……!あ、赤城さん、それ、しくじったら取り返しがつきませんよ!!」

 

「索敵をしてから攻撃隊発艦では私達は間に合いません。博打を打つしか無かったんです」

 

「いーじゃねーかよ飛鷹!結果オーライなんだからさ!」

 

隼鷹にそう言われ、飛鷹はため息混じりに口をつぐんだ。

 

ちょうどその時無線から、泊地に敵機襲来したとの情報が入った。しかし、予想していた数よりも少ないらしい。

 

「どうやら上手くいったようですね」

 

「えぇ、泊地空襲隊の一部をこちらに誘引出来たのは確実でしょう。あとは、あの先鋒をたたくのみ!」

 

赤城が水平線を指差す。まだ敵部隊を目視することは出来ないが、索敵機は触接を継続しているらしく、赤城に正確な座標を送ってくる。

 

「皆さんに情報をリンクします」

 

「このrangeなら……充分撃てマース!アオバもイケるんじゃないデスカー?」

 

「はい!青葉も撃てますよ!」

 

「そろそろ第一次攻撃隊の攻撃が終わる頃です。敵に反撃の隙を与えてはいけません!」

 

「ok!一番、二番主砲、交互打ち方始め!」

 

爆音を轟かせ、金剛と青葉が砲撃を開始する。

 

まずは連装砲のうち、片門だけを使う『交互打ち方』という射法で狙いを定めていく。

 

「第一次攻撃隊が帰ってきたよ!」

 

「金剛さんと青葉さんは射撃続行!島風ちゃんは周辺警戒!着艦準備!」

 

部隊の下へと攻撃隊が帰還する。しかし損傷率は思っていた通り酷いものだった。

 

「飛鷹、隼鷹、稼働機の残存確認、出来次第、第二次攻撃隊を送り出すわ!」

 

「了解……でもこの様子じゃ、あと2回できるかできないかと言うところね……」

 

飛鷹と隼鷹は、赤城と比べると搭載できる艦載機の総数が少ない。

よって多大な損害を(こうむ)ると、攻撃の手立てを失ってしまう。

 

「そうですか……ならば、次の1回に全力をかけましょう」

 

着艦が完了し、第二次攻撃隊の準備を始めた頃に島風が叫ぶ。

 

「敵先鋒中核部隊、視認!10時の方角!」

 

水平線にポツポツと黒い点のようなものが見え始めた。

 

クラゲの様にも見えなくもない不思議なモノを頭にかぶり、杖らしきものを持っている空母ヲ級。

 

しかし通常個体とは異なり、その身体からは黄色のオーラが揺らめき、片方の眼には蒼い炎が灯っている。

 

「あれがヲ級改flagship……!」

 

「見た所、あまり被害は与えられてないですね……」

 

こちらは軽空母2隻に正規空母1隻、制空権は確保、悪くても優勢のハズなのだが、ヲ級改は少ししかダメージを受けていないようだった。

 

するとヲ級改の背後から戦艦タ級が姿を現し、こちらに向けて砲を放ってくる。

 

「全艦取り舵!」

 

赤城は即座にO方(左100度方向転換)を命じ、艦隊はタ級の砲撃予測地点から逸れる。

 

敵弾が着弾し、大きな水柱を生み出す。

 

「敵の狙いが正確過ぎマース!あれはレーダー射撃デスカ!?」

 

「恐らくそうでしょう。やはりこの勝負、長引かせては不利……次の突入でケリをつけます!」

 

奄美部隊は相手に対して丁字戦法を取る。

 

その時、ヲ級改が雄叫びを上げ、そのクラゲの様な頭のかぶり物から艦載機を放ち始めた。

 

「攻撃隊発艦準備中止!直掩上げ!」

 

空母の3隻は攻撃隊の準備を取り止め、既に準備が完了していた戦闘機隊を発艦し始める。

 

しばらくの後、敵の艦載機群が頭上へと迫る。

 

「対空砲火、始めー!」

 

金剛、青葉、島風が己の砲を空に向けて撃ち始める。

 

それでも敵の艦載機は巧みな動きで海面スレスレまで下降し、対空砲火を物ともしない。

 

「これはマズイですよ……!敵機を捉えられない!」

 

青葉がそう叫びながらも、必死に対空砲を撃ち続ける。

 

金剛、青葉、島風の対空砲火で敵機の3割程を減らしたが、対空砲を切り抜けた敵機が輪形陣内側の赤城たちに迫る。

 

「……赤城っ!」

 

「大丈夫よ島風ちゃん、私達にはまだ『あの子』たちがいる……!」

 

頭上から赤城を狙おうとしていた敵の艦爆が突如爆散した。

 

戸惑っていた別の艦爆も上からの弾幕に包まれ、火を噴いて海に墜ちていく。

 

零戦と比べてコンパクトなボディ、しかし翼に取り付けられている武装は零戦の2倍。

4枚羽のプロペラを持った濃緑色の戦闘機。

 

「『紫電改二』!敵機を迎撃して!」

 

紫電改二は敵機の上空から、その翼にある4(てい)の機銃が銃弾をはき出す。

 

被弾した敵機はくるくると回りながら海に消えていく。

 

赤城、飛鷹、隼鷹が搭載していた戦闘機は『紫電改二』と呼ばれる強力な戦闘機だったのだ。

 

トラック泊地にあったこの兵装を、ルナは香取に頼んで赤城たちに装備させていたのだ。

 

そんな強力な紫電改二だが、敵戦闘機とのドッグファイトで少なからず損傷を受け、撃墜されている機体もあった。

 

対空網を抜けた敵機が、赤城たちに攻撃を仕掛ける。

 

赤城たちは必死に回避を試みるも、雷爆混合の攻撃に完全に避けきる事が出来なかった。

 

「きゃあっ!!」

 

赤城のすぐ側に爆弾が落ち、その爆発の衝撃で赤城は吹き飛ばされる。

 

「赤城!大丈夫かい!?」

 

隼鷹が赤城の手を取って態勢を立て直してくれる。

 

「えぇ、至近弾です。艤装の損害判定は小破ですが大丈夫です」

 

空襲が一段落つき、艦隊に集合を掛ける。

たった1回の空襲だったのだが、敵機は空母に猛攻を仕掛けてきた為、赤城、飛鷹、隼鷹の損害が目立った。

 

特に飛鷹は、敵の爆撃をもろに受け、飛行甲板艤装である巻物が燃え落ち、機関部艤装にも損傷を負っていた。

 

「すまないわね……雷撃回避に集中し過ぎて、上空警戒を怠ったわ……」

 

「じっとしてろ飛鷹……あとは私に任せときな」

 

隼鷹が飛鷹に肩を貸して曳航する。

赤城が再度、第二次攻撃隊を発艦させようとしていたとき、島風が悲鳴に近い叫び声を上げる。

 

「6時の方向!敵機!」

 

泊地空襲の敵艦載機群が戻ってきていたのだった。

紫電改二の直掩隊は、先程の迎撃戦で弾薬が尽きかけている。

 

「ここで……こんな所で、立ち止まっている訳にはいかないんです……!」

 

赤城は弓を構えて無理矢理に航空隊を発艦させようとする。

 

「待って下さい赤城さん!直掩が望めない今、艦載機を出すのは危険ですよ!」

 

青葉が隣りからそう声を掛ける。

分かっている。分かっているのだが時間が無い。

ここで二の足を踏んでいては、敵の本隊が来るまでに間に合わない。

この場で何としてもあの先鋒部隊を退ける必要があった。

 

なす術が無いまま、奄美部隊に敵の艦載機が迫る。

 

かと思いきや、敵機群は艦隊の手前で進行方向を変え、別の艦載機群と見られる集団と衝突した。

 

「まさか……他の敵機と空中集合を!?」

 

「いや島風さん、そうじゃ無さそうですよ?

様子が変です」

 

青葉が双眼鏡(メガネ)でその空を見る。

 

「あ、あれは……!味方の戦闘機ですよ!!」

 

青葉の言葉に一同は驚いて同じく空を見る。

確かに、敵機と衝突した別の艦載機群は、深海棲艦のそれとは違い、プロペラに翼のついたCMS(艦娘)の艦載機だった。

 

「……!そうか、連合艦隊ね!連合艦隊自体はこの戦闘に間に合わなくても、艦載機だけなら充分間に合うわ!」

 

隼鷹に身を預けていた飛鷹がそう言った。

 

敵の艦載機は、突如現れたCMS(艦娘)の艦載機への反応が僅かに遅れ、徐々にその数を減らしていった。

 

「そうだ!敵艦隊は!?」

 

そうハッと気付いて振り向くと、敵艦隊は撤退を開始していた。

 

突然の形勢逆転に敵わないと見たか、その姿は段々と小さくなっていく。

 

さすが旗艦(flagship)級と称されるだけあり、状況判断が冷静で的確であり素早い。

 

「逃しません……!追撃戦に移行します!金剛さん!青葉さん!島風ちゃん!」

 

「分かってるヨッ!」

 

金剛、青葉、島風の3隻が機関出力を最大まで上げて、敵艦隊を追い掛ける。

 

「フブキやシマカゼばっかり出撃して、この私をおいてけぼりにするなんテ……私だって負けないデスヨ!!」

 

「勝負ですか?島風は負けませんよ?」

 

「フフ〜ん、高速戦艦の実力を見せてあげるデース!」

 

「ちょっと〜!青葉を忘れちゃ困りますよー!」

 

金剛達は主砲を放つ。その圧倒的火力の前では、駆逐イ級も軽巡ホ級も目では無い。

 

赤城たちも最後に一矢報いるべく、第二次攻撃隊を発艦させていた。

 

「第二次攻撃隊、発艦!」

 

「ここで全力で叩くのさ!いっけぇ!」

 

赤城と隼鷹が艦載機を放つ。

矢と式紙はその姿を新たな航空機へと変える。

 

「『彗星』!後は頼んだわ!」

 

「『天山』!飛鷹の分までやっちまえー!」

 

彗星艦爆と天山艦攻は、そのプロペラ音を海原へ轟かせヲ級改へと殺到する。

 

九九艦爆と九七艦攻より性能が優れている彗星と天山は、乱れぬ動きで雷爆攻撃をヲ級改へと仕掛ける。

 

しかし、投下された爆弾や魚雷は、随伴艦であるタ級に命中した。恐らく、旗艦であるヲ級改をかばったのだろう。

 

だが、もうこれで攻撃を阻む者はいない。

 

ヲ級改へと、残った彗星と天山が接近する。

 

爆弾を、魚雷を投下しようと軌道に乗った直後、彗星と天山は真上から降り注いだ機銃弾に貫かれ火を噴いた。

 

「……what!?」

 

金剛が驚くのも無理は無い。今まさに攻撃態勢を取った彗星と天山が一瞬の内にやられたのだ。

 

赤城たちが、何が起きたのかを気付く前に、その海上に不気味な声が響き渡った。

 

 

 

 

『ナンドデモ、ナンドデモ……シズンデイケ…………!!』

 

 

 

 

遥か彼方で発せられた声のハズが、耳元で聞こえる。まるでテレパシーの様に、頭に直接語りかけてくる様な。

 

短距離電探(レーダー)で捉えた影の方に顔を向けると、水平線の向こうから、声の主がゆっくりと姿を見せる。

 

通常の深海棲艦とは明らかに違うその姿。

純白な身体に、同じく真っ白な長い髪の毛。

その髪の毛の片方をサイドテールの様にしばっている。

 

それとは対称的な真っ黒な服を身にまとい、形容し難い、おぞましい、鮫の口の様な、生物なのかも解らないモノをその足元に引き連れている。

 

その姿を見て、CMS(艦娘)たちは身体が動かなくなる。

 

「あ……あれは……まさか……!!」

 

「…………『空母棲鬼』………!?」

 

飛鷹と隼鷹がそう呟くと同時、空母棲鬼はニヤリと笑い、笑い声にも似た、叫び声を上げる。

 

 

 

『フフ……ハハハ……アハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 

その声を聞いて、CMS(艦娘)たちは反射的にその身を翻していた。

 

「な、何でこんな所にイレギュラー個体が居るんですか!?」

 

「知りマセンよそんな事!!今の私達には分が悪いデース!!」

 

「とにかく、泊地に通信を入れて!隼鷹早く逃げて!」

 

「分かってるさ!飛鷹、お前さんダイエットしろよ!」

 

艦隊の皆が即座に逃げ出す中、旗艦の赤城だけがその場に立ち尽くしていた。

 

「赤城さん!早く!」

 

青葉が呼び掛けるも反応は無い。

 

「もーっ!おっそーい!」

 

島風が反転して赤城の下へ向かう。

 

「何やってるの赤城!早く逃げるよ!」

 

手を引っ張っても、身体を揺さぶっても赤城は呆然としてその場に立ち尽くしている。

 

「赤城!ねぇ赤城ってばっ!!」

 

島風の呼びかけに応じず、赤城は空母棲鬼を見つめている。

 

 

 

「…………加賀さん……?」

 

 

 

赤城は小さな声で、そう呟いていた。

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

旗艦(flagship)

通常個体の強化個体で、elite級の上位互換にあたる。

その身体から黄色のオーラの様なものが立ち昇っているのが特徴で、戦闘能力は従来の個体を遥かに凌駕する。

 

・改flagship

flagship級の改造個体。片方の目から蒼い炎の様なものが灯っているのが特徴。

一部のイレギュラー個体を上回る程の戦闘能力を持つ。

 

・紫電改二

第二次世界大戦当時に開発された局地戦闘機「紫電改」をCMS用に造り替えたもの。

零戦の倍にあたる、20mm機銃を4挺装備している。

 

 




ルナ「今回、いつもと比べて長くないか?」
kaeru「先週投稿出来なかったので、文字数が当社比2倍となっております」
ルナ「半分に分けて先週あげるという考えは無かったのか」
kaeru「善処します……」
ルナ「では次回」
kaeru「決戦!トラック泊地。お楽しみに」
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