記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
「………そう…か。君たちの今の状況は分かったよ」
トラック泊地の指揮室に、香取と状況を整理していたルナが無線機の前でそう答える。
『吹雪ちゃんは大破、
ルナは暑さからくるものでは無い汗をたらしつつ、ノイズ混じりの赤城の声を聴く。
『少尉……【進撃】か【撤退】か、判断をお願いします』
ルナに得も言われぬ重圧が襲い掛かる。
ここで進撃すれば吹雪が沈むかもしれない。
しかし撤退すれば泊地は危険に晒され、最悪の場合陥落するかもしれない。
少女の命と世界の未来、それを天秤に掛ける。
掛けられるハズも無い。ハズが無い。
選べる訳が無い、だが選ばなくてはならない。
自分のたった一言で、今まで共に過ごして来た者がいなくなるかもしれない。
(これが……指揮官というものか……っ!)
今にもこの重圧で押し潰されてしまいそうだ。
ポタリと汗が頬を伝い机に落ちる。
香取もルナの隣で何も言わずに立っている。
無情に時計の針の音だけが部屋に響き渡る。
時間は残されていない。こうしている間にも敵の攻略部隊は泊地を目指して侵攻しているのだから。
分かっている。分かっているのだが、何も考えられない。声が出せない。思考がまとまらず、空白の時間が過ぎていく。
『少尉……』
赤城の苦しそうな声が無線機から聴こえる。
その時、無線機から赤城では無い声が聴こえてきた。
『少尉……!私はまだやれます……!』
『フブキ!大人しくしてるネー!』
『私は……まだ……!』
無線機から響く吹雪の声が自らの傷の深さを物語っていたが、それ以上に、吹雪の言葉には信念が感じられた。
『こんなところで……終わりはしません……!ですから……進軍を……!』
「そんなに苦しそうなのに何を言ってるんだよ!……生きて帰れば、まだ打つ手は有る」
『いえ……間に合いません……ここで空母棲鬼を叩かなければ、泊地に被害が出ます……!』
「分かってる!だけど進撃したら、吹雪が沈むかもしれないんだぞ!」
吹雪は少しの間、言葉を切る。
『少尉……正直に言うと今、物凄く苦しいです。物凄く痛いです。今すぐに撤退してドックに入りたいです……。
ですけど、今ここで撤退してしまったら、今よりもっと苦しい……もっと痛い……。
絶対に後悔する事になるんです………だから、やらない後悔よりも私は、やる後悔を選びたいんです!!』
ルナの頭にズキンとした鈍い痛みが広がる。
それと同時、不思議な感覚をルナは一瞬だけ感じた。
「やらない後悔よりも、やる後悔か……
赤城、艦隊旗艦の君はどう思うんだ?」
『……私もかつてミッドウェーでやらない後悔というモノを知りました。ですから吹雪さんの気持ちは良く分かります。
そして、あの空母棲鬼を放って置くことも出来ません。
あの空母棲鬼は加賀さん……いえ、”私と共に一航戦を担い、共に戦った“加賀かもしれないのです。だから……』
「……他のみんなは?」
『……大丈夫とは言えない、吹雪が心配だけど……大丈夫。だってアイツら、私よりも遅いもん。
吹雪は私を助けてくれた。なら今度は私が助ける番よ!』
『そうです!島風さんの言う通り、私たちで守ればいいんです!
私もサボ島沖で、吹雪さんには申し訳無い事をしました……もう二度と、悲劇を繰り返しはしません!』
『wow!シマカゼもアオバも気合い入ってマスネー!これは戦艦のワタシとはいえ引けそうにアリマセンネ!!』
『那珂ちゃんは後悔なんてしないよー?後悔する事なんて、私の歌で吹き飛ばしてあげるんだからね!』
全員の意見を聴き終えたルナは吹雪に今一度問い掛ける。
「吹雪……やれるんだね?」
『やれます!!』
「………分かった、【進撃】を許可する。ただし、1つ命令するぞ」
ルナは一呼吸を置くと、命令を伝える。
「《絶対に全員、生きて戻ってくる》。いいか?これは命令だ!破ることは許されない!負けてもいい……全員、生きて帰ってこいッ!!」
『『『了解ッ!』』』
ーーーーーーーーーー
「吹雪さん、ああは言ったものの無理はしないで下さいよ?」
「分かってますよ青葉さん」
奄美部隊は再び動き出す。吹雪も機関部艤装自体は多少の損害でこと済んだので、それなりの速度は出せる様だった。
しかし
それに受け切れなかったダメージを肩代わりしたせいか、攻撃用艤装はその殆どがボロボロだった。
「皆さん、空母棲鬼と会敵した時は私に関わらず攻撃を優先して下さい……」
「何言ってるデスカー?ワタシたちは艦隊、teamデース!助け合いspiritで一緒に頑張るデスヨ!!」
「………はいっ!」
その時だった。
空気の色が、気配が変わった。
『シズメ………シズメ………』
頭の中に直接響く様な、エコー掛かったおぞましい声が。
「空母棲鬼……!」
「全艦輪形陣、対空警戒!!」
赤城の命令で赤城部隊は陣形を変更する。
赤城と吹雪を中心に輪形陣を形成する。
「くっそーいつの間にあんな所に!」
青葉が唸るのも頷ける。恐らく距離は5,000を切っているだろう。
『サクテキヲ、オロソカニスルカラダ……』
それなのに空母棲鬼は青葉の言葉を聞き取ったかの様にそう言った。
「ぐ……さすが鬼級と言っておきます!」
青葉がそう怒鳴る中、赤城は真っ直ぐに空母棲鬼を見ていた。
赤城と空母棲鬼の目が合う。空母棲鬼はニヤリと笑うと自らの周りに艦載機を浮遊させ始めた。
赤城も静かに弓に矢をつがえる。
(やはりあの娘は加賀さん……)
目一杯に弓の弦を引き絞る。
「奄美部隊全艦、攻撃始め!」
赤城の掛け声と共に戦闘が開始される。空母棲鬼と赤城の放った艦載機は猛然と敵機に喰いかかる。
その下では金剛と青葉が主砲を放ち、敵弾共に砲弾が弧を描いて双方に着弾する。
「赤城さん!敵艦隊確認!空母棲鬼の他、軽母ヌ級2、戦艦ル級elite1、駆逐イ級2です!」
砲撃戦に参加できない吹雪が、自慢の目視で敵艦隊を確認する。
赤城はギリリと歯をくいしばる。軽空母とはいえヌ級が2隻、制空権争いはかなり不利だ。
「それでも……負けないっ!」
赤城が新たに戦闘機を放つ。矢はその姿を『烈風』に変え、プロペラ音を轟かせて空に舞い上がる。
『テッキチョクジョウ……キュウコウカ!』
空母棲鬼の叫びにハッとして、空を見る前に舵を切る。
黒の塊が赤城の前に落下し、爆音とともに巨大な火と水の柱を作り出す。
「くっ……この……!」
赤城が艦載機を発艦させようとするが、敵の艦載機が上空から機銃掃射を赤城に浴びせ掛ける。
絶え間なく襲い掛かる機銃弾の雨に、赤城は避ける事で精一杯だった。
「マズイ……!これじゃあ艦載機が発艦出来ない!」
早く増援の戦闘機を上げなければ、たとえ烈風といえども大量の敵機にすり潰されてしまう。
それを見た吹雪が以外な行動に出る。
なんと、艦隊から離別し、1隻のみで別の方向に舵を切った。
「吹雪!?」
「さあ深海棲艦……この私を狙いなさい!!」
空母棲鬼は吹雪を見ると、ユラリとその腕を吹雪に向ける。
艦隊を狙っていた艦載機の一部が、今度は吹雪に殺到する。
あと一撃でも喰らえば、文字通り海の藻屑となる中、吹雪は片門だけ残った主砲を空に向けながら海上を駆け巡る。
押し寄せる艦載機を物ともせずに吹雪は果敢に砲を放ち、攻撃を避け続ける。
この光景を見た空母棲鬼の表情が消える。
何故、大破状態の駆逐艦1隻沈められないのか。
空母棲鬼が苛立たし気に新たな艦載機を発艦させる。
「きゃあぁッ!」
吹雪が1発至近弾を受け、その衝撃で後方に吹き飛ぶ。
海面に叩きつけられる寸前、また那珂が吹雪をガシッと抱きとめる。
「那珂……さん……」
「吹雪ちゃん吹き飛んで倒れてばっかだね〜。あんまり無理しちゃダメ!後は那珂ちゃんに任せて!」
吹雪に肩を貸すと那珂は敵機を振り切る様に速度を上げる。
「吹雪ちゃんの作ってくれたチャンス……無駄にはしないよ!!」
キラリと、那珂の笑顔と上空が光り、敵機が火を噴いて海面へと落ちていく。
那珂と吹雪の隣をすり抜けていった戦闘機の尾翼に『601』の文字。
「ありがとう吹雪さん。お陰で何とかなりました……。
烈風六〇一、全機発艦ッ!!」
赤城がそう言って連続して矢を射る。ヒュヒュンと風を切り裂く矢が、六〇一航空隊の烈風となって敵機に突撃する。
ヌ級の艦載機があっという間に溶けて消える。
たとえ機体性能は烈風だろうが、その熟練度は海軍一と謳われた六〇一空。数量の差を微塵も感じさせない、そんな光景を見せつける。
空母棲鬼が憤怒の表情で艦載機を操る。
六〇一空の烈風の背後を取った敵の艦載機が機銃を撃つ。しかしその瞬間、機体を傾け、敵艦載機の下に潜り込むと、そのまま機体を一回転させ敵機の背後へと逆に回り込む。
空母棲鬼は赤城を睨む。赤城はそれを真っ直ぐに受け止める。
空母棲鬼は上空の艦載機を攻撃させようと指示を出す。しかしその前に頭上で何かが炸裂した。
それは細かな火の玉を空中に撒き散らし、それに貫かれた艦載機はあっけなく撃墜されていく。
「いかがデショウ?『三式対空榴弾』の威力は?」
金剛が余裕の表情でそう言う。金剛は通常の砲弾から三式弾に弾種切り替えをしていたのだった。
烈風六〇一空と金剛の三式弾による対空射撃で敵の艦載機の数がぐっと減った。
青葉はこの瞬間を逃すまいと艤装に取り付けられていたカタパルトを空に向ける。
「『零式水上観測機』お願いしますっ!」
青葉の観測機が上空を飛び回る。観測機は敵の位置を確認すると、その位置情報を青葉へと送る。
「索敵も砲撃も雷撃も!青葉にお任せっ!位置データを皆さんにリンクしますね〜!」
「ok!弾種、零式通常弾、全砲門、fireーー!!」
放たれた砲弾はうなりを上げてル級eliteへと突き刺さる。そして爆発、ル級eliteの片方の大楯のような砲塔を消し飛ばした。
かつて奄美基地で日向の行っていた『弾着観測射撃』を金剛は実践していたのだ。
『シズメェッ!!』
空母棲鬼がそう叫んで新たな艦載機を発艦させる。しかし、烈風と烈風六〇一空がそれを阻みそう易々と攻撃はさせない。
空母棲鬼が悔し気に歯をくいしばると同時、背後で爆音が轟いた。
振り向くとそこにいた筈の駆逐イ級がいなくなっている。代わりに見えるは2隻の
「五連装酸素魚雷!いっちゃってぇーー!!」
「那珂ちゃんセンター!一番の見せ場ですっ!!」
2隻の
無論、
空母棲鬼はエネルギーフィールドを展開させる。魚雷が何本か命中し、大きな水柱が立つが、空母棲鬼自体はあまりダメージを受けていないようだった。
しかし防御の態勢を取ったが故に、一瞬だけ攻撃の手がやむ。
「勝機!」
赤城はこの一瞬の隙を見逃さない。即座に準備させておいた攻撃隊を発艦させる。
飛び出した機体は天山だが、その尾翼に『601』の文字。そう、烈風と同じく、六〇一航空隊の天山だ。
今回は制空優勢を取るために装備スロットの殆どを艦戦で埋めているため、赤城の持つ攻撃隊の数はたったの20機。
しかし、艦載機の練度が違う。
通常の艦載機とは明らかに飛び方が違う。
海面スレスレを飛び、必中の間合いまで距離を詰める。
空母棲鬼が声にもならない叫び声を上げる。恐怖を感じたのか、己を鼓舞するものなのか。
いずれにせよもう遅い。放たれた航空魚雷は吸い込まれるようにして空母棲鬼とル級eliteに命中する。
両者のエネルギーフィールドを突き破り、魚雷は炸裂する。
弾薬庫に誘爆したのか、黄昏時の空を赤く染め上げる程の爆発を起こしル級が爆散した。
空母棲鬼の方も紅蓮の炎に包まれ、黒煙を噴き上げている。
「………やりましたカ?」
金剛がそう呟く。
一同が固唾を飲んで見つめる中、紅蓮の炎がまるで意思を持ったかのように渦を巻き始めた。
『カッタト……オモッテイルノカ……?カワイイナアァ………!』
炎の渦の中心からその白い髪と紅い瞳をのぞかせてくる。
艤装らしきものは半壊しているが、自身の傷は全く無かったかの様に修復されていく。
「再起動ですと……!そんな深海棲艦……あり得るんですか!?」
「あの空母棲鬼しぶと過ぎぃーー!!」
青葉と島風が驚愕をあらわにする中、赤城は叫んだ。
「いえ……!あれは空母棲“鬼”じゃない……!『空母棲“姫”』……!!」
「パワーアップしたって事ですか……!?」
吹雪が肩で息をしながら驚いたようにそう言う。
空母棲姫は攻撃を仕掛けてくると思いきや、クルリと背を向けて宵闇の中へと消えていく。
「逃げるつもりなの?」
那珂が不思議そうに首をかしげる。
「アカギ、ここでアイツを逃がすのはマズイデース!時を空け、力をつけて戻って来たら厄介な事になりマース!」
「分かっています、しかし吹雪ちゃんのバイタルが……」
元々の大破状態に数発の至近弾を喰らい、浮かんでいるのが不思議なくらいボロボロになった吹雪を見る。
ルナに指示を仰ぎたくても、無線機はどうやら攻撃の際に壊れてしまい、通信が出来なかった。
「いえ、私は大丈夫です。追撃を、早く!」
「けれど……」
「赤城さんは早くあの空母棲姫を……加賀さんを助けてあげて下さい……!」
赤城は吹雪の言葉にしばらく硬直していたが、一度目を閉じ深呼吸、息を整える。
「追撃戦に突入します!艦隊、突撃!」
赤城は発信のみの無線で「我レ夜戦ニ突入ス」と短く電信を打つと、空母棲姫の背を追う。
(もう日が落ちかけている……今、艦載機を出せば未帰還機が続出するのは当然の事……だけれど、ここで叩かなければ……!)
完全に夜の帳が下りる前に、第二次攻撃隊を送り込む。その後は金剛たちに任せるしかない。
赤城がそう決断した時、オーンという音を響かせて何かが迫る。
「まさか……敵機!?」
「夜間戦闘機ですか!?夜でも発艦出来るなんて!!」
辺りを見回すが、宵闇で敵機を視認出来ない。
そうこうしてる間に辺りに巨大な水柱が乱立する。部隊は混乱状態に陥った。
そんな中、1発の爆弾が赤城の飛行甲板艤装に直撃する。
「あぁっ!!」
飛行甲板艤装に穴が開き、他の艤装に飛び火して火災が発生する。
「不味い……!ダメージコントロール、誘爆を防いで!」
応急修理システムを起動し、弾薬庫に素早く注水して誘爆を防ぐ。
しかし艤装の火災が容易に消えない。
夜戦時は夜の闇に紛れるために光は極力消すようにするのだが、そんな中、火災が起きれば格好の的である。
ドォン、ドォンと低い音を立て、艦隊の先の方で砲炎が煌めく。
(こうなれば……!)
赤城は艦隊に指示を出す。
「金剛さん!青葉さん!那珂さん!島風ちゃん!私に構わず空母棲姫に突撃を!
火災が起きている私が囮になりますから!」
「……っ!了解ネ!」
金剛は即座に、赤城の指示に従う他ない事に気付き、夜の闇に乗じて空母棲姫に突撃を掛ける。
しかし、敵艦載機が攻撃を仕掛けてくる為に思うように近付く事が出来ない。
「くそぅ!せめて明かりがあれば……!」
青葉がそううめきながら見えない敵機に向かって機銃を撃ちまくる。
「明かり……?あっ!そーいえば」
那珂が何かを思い出したかのようにそんな声を上げる。
「那珂ちゃん特製花火〜!どっかぁーん!!」
那珂が空母棲姫の上空目掛けて砲を放つ。
空母棲姫はどこを撃っているんだと、その砲撃を鼻で笑ったが、次の瞬間にその余裕は消え去った。
上空で眩い光が炸裂する。その光は消える事なく、その下の海を明るく照らしている。
「照明弾……!
皆さん、ワタシの援護を頼むデス!」
「金剛!?何を!?」
金剛は機関全開に、高速戦艦の名に恥じないスピードで空母棲姫へと迫る。
(照明弾の炸裂を直に見たのなら!今、空母棲姫は目が眩んで見えない筈デース。そこを至近距離から撃ち抜く!)
遂に金剛が空母棲姫の前に躍り出る。
空母棲姫の目は金剛を見ていない。完全に目が眩んでいる。
金剛は空母棲姫の側面に回り込み、その身体に35.6cm連装砲を向ける。
「コレで終わりネ!!!」
砲を放つ瞬間、金剛の足元から、鮫の口のような空母棲姫の艤装が現れ、金剛に噛み付いた。
「くっ……何デスと……!」
空母棲姫がゆっくりと金剛の方を笑いながら振り向く。
(嵌められたのはワタシの方デスカ……!)
空母棲姫がその背中の砲を金剛に突きつける。
金剛がここまでかと目を閉じた時、風を切り裂き一筋の光が飛んできた。
その光は空母棲姫の腕に突き刺さる。
何事かと腕を見る空母棲姫。その腕には艦載機の矢が突き刺さっていた。
空母棲姫が矢の飛んで来た方向を睨む。
そこには赤城が矢をつがえて立っていた。
幾度もの爆撃に中破、いやそれ以上に損害を受けながら赤城は立っていた。
「艦載機は発艦できなくても、矢を射る事なら苦でもありません!」
ヒューンと矢が、空母棲姫目掛けて一直線に飛んでいく。
空母棲姫はその矢を難なく弾くが、トンと背中に何かが押し当てられる。
「油断大敵、火がボーボーデース。一瞬でも気を抜いちゃダメデスヨー?」
矢を受けて気がそれた一瞬のうちに、金剛は拘束を脱し背後に回ったのだろう。
「今度こそチェックメイトデス、空母棲姫。安らかに眠るといいネ!!」
金剛の砲が放たれ、空母棲姫の胴体に風穴を開けた。
空母棲姫はその場に崩れ落ちーー
『ウウゥゥヴァァァアアア!!!」
ーーずに、金剛に砲塔を突きつける。
「why!?」
『シズメェッ!!』
空母棲姫がゼロ距離で砲撃する。金剛はギリギリの所で粒子装甲防壁を展開する。が、衝撃までは防ぎきれずに、砲撃の勢いで吹っ飛ばされる。
10mは飛ばされようかというトコでようやく海面へと叩きつけられる。
「ぐっ………うぅ……」
「大丈夫ですか金剛さん!」
追いついた青葉たちが金剛に駆け寄る。空母棲姫はその紅い目を更に真っ赤にして金剛たちを睨んでいる。
胴体の撃ち抜かれたトコロからは黒い液体が絶え間なく流れ出ている。
「何ですかアイツ……胴体に穴が開いても生きてるなんて……!」
「不沈空母……!」
どう考えてもイレギュラー個体の範疇を超えている。青葉たちが戦慄する中、赤城だけが空母棲姫へと向かって進んでいた。
「赤城!危ないよ!」
島風の忠告を無視して、赤城は空母棲姫に向かって進んでいく。
「危ない訳がない……何故ならあの娘は、加賀さんなんだから……!」
空母棲姫が近付く赤城に気付いて、砲を乱射する。
赤城はそれを避けようとせずに真っ直ぐに進む。
1発の砲弾が脇腹を掠めて、
『シズメ……シズメェッ!!』
鮫の口のような巨大な艤装が赤城の片脚に噛み付く。それでも赤城は止まらない。
空母棲姫の目の前。
『グウゥゥアアアァァ!!』
空母棲姫は叫び声を上げ、赤城に砲門を突きつける。
その時、
ふっと、赤城が空母棲姫を抱き締めた。
赤城はいつの間にか涙を流していた。
「ごめんね……痛かったよね……苦しかったよね……」
突然の出来事に空母棲姫も戸惑いを隠せない様子だった。だが、そこから抜け出そうともがき始める。
赤城は更に強くギュッと空母棲姫を抱き締めた。
「でも、もう大丈夫。私が一緒にいるから、もう……1人にさせないから……」
赤城自身も自分が何を言っているか分からなかった。分からなかったがそう言わねばならないと頭の中の何かが訴えていた。
赤城の一言に空母棲姫の目から戦いの色が消える。
『ナンドデモ……クリカエス……カワラナイ……カギリ……』
「いいえ、繰り返さないわ。私たちは過去の記憶を持つCMS。過去の過ちはもう繰り返さない。
だから安心して眠って……」
空母棲姫が赤城の顔を見る。硝煙や海水、涙やらでぐちゃぐちゃになっているものの、赤城は笑っていた。
その笑顔を見て、空母棲姫も一瞬、ふっと笑った。
『シズカナ…キモチニ…そうか、だから私は……』
空母棲姫はそう言って目を閉じた。
「さようなら……おやすみなさい、加賀さん……」
照明弾が海に落ち、辺りを暗闇と静寂が包み込む。
そんな中、赤城のしゃくり泣く声がいつまでも響いていた。
ーーーーーーーーーー
長い夜が明けた。
水平線から太陽が顔を出す。トラック泊地の埠頭にはルナと、トラック泊地にいる全ての
「……帰ってきませんね」
香取が時計を見ながらそう呟く。
「いや、奄美部隊は戻ってくる。この長門が言うんだ、間違いない」
ルナはジッと水平線を見つめている。
敵の攻撃で無線機は破壊されてしまったようで、昨日の夕方あたりから通信が取れなくなっていた。
他の
その中、双眼鏡を覗いていた駆逐艦娘が「あーーーっ!」と声を上げる。
「か……帰って来ました!!奄美部隊です!」
「何人だ!?誰が帰って来た!?」
ルナも思わず立ち上がる。そしてその駆逐艦娘にそう怒鳴る。
「はい……えっと……那珂さんと青葉さん、それに金剛さんも見えます!」
「3人……だけか……」
「あっ、いえ!後ろに島風ちゃんと、背負われて吹雪ちゃんが!!
ああーーーっ!!赤城さんもその後ろに!
全員です!全員帰って来ました!!」
その瞬間、トラック泊地に「やったぁああ!!」という声が響きわたった。
歓声に包まれて奄美部隊が帰還する。
前衛支援艦隊で先に戻っていた天龍と龍田が、怪我を負った仲間たちに肩を貸す。
陸に上がり、一列にならんだ奄美部隊はビシッとルナの前で敬礼をした。
「奄美部隊、旗艦赤城、以下5隻、無事任務を遂行し、帰還しました!!」
再び埠頭が割れんばかりの拍手喝采に包まれる。
「君たち……よく無事で……」
「まぁ無事じゃないんですけどね」
青葉の揚げ足取りも今のルナには嬉しく感じられた。
そして思わず奄美部隊全員を抱き締めた。
「ちょっ……少尉!」
「wow!ショーイってば大胆デース!」
「あっ、いや、ごめん。つい……」
周りの
「よぉし!今日は宴だ!敵本隊と攻略部隊の撃滅、作戦終了を祝って!!
費用は全て、横須賀と呉の提督につけるぞ!」
長門がそう言い、
「どうした、赤城?」
そこでルナも気付いた。赤城は何かを背負っている。
「赤城、それは……?」
「…………空母棲姫です」
赤城は事細かに事情を話した。
普通ならば、深海棲艦は撃沈される、つまり息絶えるとすぐに沈んでしまう為、回収することはほぼ不可能だった。
しかし、今回は赤城が空母棲姫を抱き締めていた為に、沈むことが無かったのだ。
「少尉、この娘は……この娘の最期は、艦船のように海に沈めて葬ってあげて下さい。お願いします」
「………分かった。自分から征原司令に伝えて置こう。
赤城も今はゆっくりと休んでくれ」
こうして、トラック泊地の命運を賭けた戦いは終結したのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………以上で報告を終わります」
「うむ、御苦労じゃった。ルナ君とCMSの皆には本当に苦しい戦いだったろうが、よくやってくれた」
トラック迎撃戦から数日後、奄美基地。
ルナと赤城は提督室で作戦の報告を行っていた。
「またこの働きに際して、中央の方からまた色々あるそうじゃ。また
「了解です」
ルナが敬礼をする中、隣に立っていた赤城は敬礼もせずに暗い表情で俯いている。
「こら、赤城。敬礼はしないと駄目だろう」
「……え、あっ!す、すみませんでした」
赤城は慌てて敬礼をする。その様子を見てトウが口を開く。
「例の空母棲姫かね?」
「…………はい」
「……中央や研究者たちが、あのような個体を海に葬る事は勿体無い、と言いおってな……
残念ながら、赤城の希望通りにはならなさそうじゃ。すまないのぅ……」
「……いえ、解っていた事です。問題ありません」
そうは言うものの、赤城の顔は暗く、声も酷く落ち込んでいた。
ルナがそれを見て自らトウに直談判しようと一歩前に踏み出した時、トウが手でそれを制した。
「とにかく!君たちの戦いぶりは正に鬼神の如しだと耳に挟んでおる。
そんな君たちにワシから1つプレゼントがある」
「「……プレゼント?」」
ルナと赤城が声を揃えて、そう訊き返す。
トウはニヤリと笑うと、部屋の扉に向かって「ライラくーん!」と呼び掛けた。
扉がガチャリと開いて、しかめっ面のライラが入ってくる。
「全くこのジジイめ。いつまで待たせておくつもりだったんだ」
「
トウが小さな声でライラにそう言う。ライラはため息をつくと自らの後ろを手招きした。
カツンーーと、
足音を響かせ、誰かが入ってくる。
白い、赤城と同じような道着に、弓の胸当て、紺色の袴。
サッパリとしたショートカットの髪型。だが、一部をサイドテール風にしばっている。
その姿を見て、赤城とルナがフリーズする。
間違いない。その人物は
その
「航空母艦『加賀』です。あなたが私の指揮官なの?それなりに期待しているわ」
航空母艦『加賀』と、そう名乗った。
フリーズから立ち直ったルナがトウに食ってかかる。
「ど…どういう事ですか征原司令!?この加賀はどう見たって『空母棲姫』だ!!納得のいく説明をお願いします!!」
忘れる筈も無い。特徴的なサイドテールに、サラサラした髪の毛。それに事前に赤城が空母棲鬼の事を“加賀”だと言っていた。
「空母棲姫……?この少年指揮官は何を言っているのかしら?」
加賀はキョトンとしてルナを見る。
「ルナ君、この世には喋る事の出来ない事柄の方が多いのじゃよ。
………また時が来れば、いずれ話そう」
「で…ですが!あの娘は中央や研究者たちが回収したのでは無いのですか!?」
「ワシは『赤城の希望通り“には”ならなかった』と言っただけじゃ」
トウがまたしてもニヤリと笑い、ルナもそこで気付いた。
「まぁ、今はそんな事どうでもいいじゃろ」
赤城は目に涙を溜め、震える脚で加賀の方へ歩いていく。
「あなたが赤城さんですか……それにせよ、なぜ涙を?」
赤城はそれに答えるかわりに、加賀に飛びついた。
「加賀さん……逢いたかったよぅ……」
赤城は加賀の胸に顔をうずめてむせび泣く。
「ふむ……少女が涙ながらに飛びつく……アリじゃな」
「私はお前のような奴は提督業をクビになるべきだと思う」
「ワシが悪かったライラ君。だから物理的に首を斬るのはやめておくれ……」
一方の加賀の方は突然の出来事に状況が理解出来ていない様子だった。
「提督、少佐、少尉。これは一体……!?」
「まぁまぁ、暫くそっとしてやっとくれ」
「ふん」
「いいじゃないか加賀。赤城は今までずっと君を追っかけてきたんだから」
3人がそれぞれそう言うと、加賀はそっと赤城を抱き締めた。
しばしの抱擁の後、赤城が顔を上げる。その顔は涙で濡れていたが、笑顔を浮かべていた。
「加賀さん……おかえりなさい……!」
加賀は“あの時”の様に、しかし、あの時とは別の意でふっと笑う。
赤城のその言葉に、加賀は微笑みながら抱き締め返すのであった。
「ただいま、赤城さん」
to be continued……
ー物語の記憶ー
・改造
第一次改装はCMSの装備品(機関部艤装)などをその名の通り改造して性能をグレードアップする。
その際、今までの近代化改装は撤去されてしまうが、カタログスペック以上の能力を発揮出来るようになる。
・クラッシャブルシステム
粒子装甲防壁で弾ききれない、防ぎきれないダメージを受けた場合、そのダメージが生体に伝わる事を防ぐ為に代わりとして艤装や衣服にダメージを分散させるシステム。
これにより超過ダメージを受けても生体はそれ程のダメージを受けない。
代わりに艤装が破損したり、服が破ける。
トウ曰く「中破で服が破けるのは浪漫」
kaeru「この15冬イベ、実話です」
ルナ「は?」
kaeru「E4ボス前で吹雪が大破、にも関わらず進軍、吹雪は空母棲姫の攻撃を昼戦2回夜戦1回全て回避して、ゲージ破壊。
ドロップ艦は当時未所持の加賀でした」
ルナ「成る程……ってお前、大破進軍させたのか!?フザケンナ!!」
kaeru「だって時間と資源が……」
ルナ「言い訳は聞きたくねぇな!」
kaeru「大破進軍、ダメ、ゼッタイ。それでは次回もよろしく」