記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
お付き合い下さい
それでは!
memory30「防衛戦、迎撃始め」
時刻、0500。
まだ日が昇らない朝の時間から、
「みなさん改めまして、夜は姉さんがお世話になりました……」
奄美部隊の面々に、大きなリボンの付いた鉢巻きを身につけ、川内と同じような服装の
「別にそんな事はどうでもいいから、ちゃっちゃと話を進めようぜ」
天龍がひらひらと手を振ってそう答える。
因みに川内本人だが「日光に当たると灰になる」などと不可解な理由をつけて部屋で爆睡している。
呆れて物も言えないが、この時間まで1人のみで夜間哨戒を請け負ってくれたので文句は無かった。
「そういえば、何でお姉ちゃんたちが小笠原基地にいるの?」
那珂が姉である神通にそんな事を訊ねる。
「私達は中央の派遣艦隊でしょう?命令があればどこへでも行く。つまり命令でたまたま来てたのよ、那珂ちゃん」
「そーだったんだぁー!偶然だね!」
そう姉妹が話していると、ガチャリと扉が開き、見慣れない2隻の
「みなさんもう御集りですか、早いでありますな」
「う……海のCMSさんたちがいっぱい……」
「こら、まるゆ!陸軍所属ならば胸を張って堂々とするであります!」
入ってきた2隻の
「……陸軍所属?」
「神通さん、この娘たちは一体?」
「紹介がまだでしたね。
こちら、陸軍部で開発、建造された『あきつ丸』さんと『まるゆ』さん」
そう神通が紹介すると、あきつ丸とまるゆは姿勢を正し、
「紹介に預かりました、陸軍船舶部隊所属、上陸舟艇母船、特種船丙型揚陸艦『あきつ丸』であります。
あの奄美部隊と御一緒出来るとは……感激であります!」
「同部隊所属、三式潜行輸送艇、通称『まるゆ』です。
あっ、通称って言うのは、三式潜行輸送艇っていう……種類?の名前という意味です。
でも結局私1隻しかいないので、まるゆと呼んで下さい」
自己紹介を聞いて奄美の
「いや……そうじゃなくてよ、
天龍がそういう風に説明をする。あきつ丸は「成る程」と納得し、加えてこう言った。
「10年ほど前から、深海棲艦なるモノが出現し、海洋を侵蝕している事は周知の事実でありましょうが、その深海棲艦がどのように陸地を侵蝕しているか、海軍の皆さんは御存知ありますか?」
あきつ丸の問いに奄美の
言われてみれば確かに、あのような姿でどうやって陸地に上がり、基地を建てたり侵攻したりしているのだろうか?
深海棲艦は海に現れるものであったから、そんな事を考えもしなかった。
「これは最近の研究で分かった事らしいのでありますが、どうやら深海棲艦の『輸送ワ級』と呼称される存在がその役割を担っているそうなのです」
「ワ級?あのお腹がぷっくり膨れている深海棲艦の輸送艦がですか?」
青葉が怪訝な表情でそう訊き返す。あきつ丸とまるゆはうんうんと頷いて話を進める。
「実はその輸送ワ級、輸送艦としての役割だけではなく、強襲揚陸艦としての役割も担っているらしいのです」
一部の
「正に、あきつ丸みたいな感じです」
と、まるゆが付け加えると、なんとなく理解した。
「強襲揚陸艦としてのワ級は、その胴体に輸送資材では無く、説明に困るのですが……言うなれば……黒い、スライム、粘菌?のような物体を満載しているらしいのです。
その黒い粘菌のようなモノが、陸地を侵蝕、我々で言う、陸戦隊や上陸部隊と同じ役割を果たしていると考えられているのであります」
「知らなかったデース……」
「私も初耳よ〜?」
「だから中央は週常任務で『ろ号作戦』や『海上通商破壊作戦』などを展開して、達成すると特種資材が貰えるんですね」
まさかそのような方法で深海棲艦が陸までもを侵蝕、侵略していたとは。
奄美の
「いずれ大反抗に出て、陸を取り戻すとなれば海のCMSだけでは手が足りぬ!
深海棲艦の陸戦隊に対抗する為には、こちらも陸上に特化したCMSを造れば良い!
そこで自分たちの様な『陸』のCMSが造られたのであります!」
「陸なら、誰にも負けないもん!」
あきつ丸とまるゆは、エッヘン!と腰に手を当て胸を張る。
「成る程……それで船なら海も得意なんですよね?死角ナシじゃないですか?」
吹雪がそう質問すると2隻はシューンと小さくなってしまった。
「自分たちは記憶リソースを陸上戦闘に多く割り振ったおかげで、海上戦闘は出来なくは無いのでありますが得意では無いのです……」
「それにまるゆたちのモデルデータはどちらも輸送専門……装備している武器は自衛の為のものくらいで、海上の深海棲艦のエネルギーフィールドを破る威力はありません……」
そう説明すると、2隻は更に小さくなってしまった。
吹雪が慌てて「す、すみません!」と謝ってフォローに入る。
神通が苦笑いしながら付け加えて説明する。
「そんな事で、あきつ丸さんとまるゆさんは、性能検証の為に硫黄島で各種テストを受けていた所だったの。
そこにちょうど深海棲艦が攻め込んできたから……」
「自分たちにしてみれば、テストのつもりが実戦になってしまったのでありますな。結果自体は良好だったらしいので良かったのでありますが」
「成る程デース、そういう事だったんデスカ」
「あきつ丸さんとまるゆさんの事情は分かりましたね?それでは作戦会議を始めても宜しいでしょうか?」
神通の言葉に異論は出なかった。神通は今までの情報をまとめるように話し始める。
「それでは現在の状況から確認しましょう。
1週間ほど前から、中央は一大攻勢作戦『AL/MI作戦』を発動しました。
作戦内容は過去の大戦時のものとほぼ同じで御存知かと思いますが、簡単に説明すると、アリューシャン列島方面に敵勢力を誘引、その隙に敵基地のあるミッドウェー諸島に攻撃を加えるというものです。
この作戦自体は、先日の明朝にミッドウェー攻略部隊が無力化したと中央に通信が入っています。中央はこの通信を一定通信域で各鎮守府に転送しています。
同部隊は、安全を確保するため周辺海域の掃討を行い、作戦終了期間までは同海域に留まるとの事でした。
しかしその数時間後の1030頃、トラック基地の哨戒艦が、トラック基地北西560海里、北マリアナ諸島近辺で敵の大規模艦隊を捕捉したとの緊急電文がありました。
敵針路から目標は日本本土、その針路上にある小笠原諸島が攻撃されると予想されました」
「その時、ちょうどワタシたちはコッチ方面に出撃していたデース。
哨戒艦の緊急電を受けて急行したのデスネ」
金剛がそれに続いて奄美部隊の経緯を神通に説明した。
「恐らく、俺らの提督はこの事態を予測していた。だから俺たちをあらかじめ小笠原諸島方面に出撃させ、護衛艦を2隻も出した」
「……聞いた話ですと、そう考えるのが妥当なようですね」
天龍の言葉に神通は静かに頷く。奄美部隊がこうも早く動かなければ、夜戦の時に川内と神通はやられていただろう。
「その後の出来事は皆さんの知っている通り、日付が変わり本日0100頃に敵巡洋艦隊が基地海域に侵入。
私と姉さん、それに奄美部隊とちょうど遠征から帰還途中だった大湊の駆逐艦たちとで迎撃した、と、 こんな所ですかね……」
神通がひと息ついてそうまとめる。
今までの状況を振り返ってみても、戦力差は圧倒的だと
「敵艦隊の規模は分からないのですか?」
吹雪が手をあげて質問する。神通は申し訳無さそうに目を伏せる。
「先日から索敵機を出してはいるのだけれど、敵艦隊は発見できていないわ……ごめんなさい」
「いっ、いえ!そんな事ないです!」と吹雪が慌ててフォローする。
「じゃあ、今こちらの戦力は〜?」と龍田。
「はい、まず派遣艦隊である姉さんと私、そして大湊の初雪、叢雲、夕雲、長波。
そして奄美部隊の皆さん、計12隻が現在の小笠原基地の全戦力です」
「12隻!?それしかいないんですか!?」
青葉が驚いたように声を上げる。
もし仮に、大湊の駆逐艦娘がいなくて、奄美部隊が救援に来なければ、川内、神通の派遣艦隊2隻しか小笠原基地にいない事になる。
「各鎮守府の主力+派遣艦隊のほとんどがAL/MI作戦に参加する為に持ってかれてしまいましたからね……皆さんが来てくれなければ、この基地はおろか、本土が危険に晒される所でした」
「これは……作戦自体に不備がありますよね……」
青葉がそう呟く。そこまでの戦力をつぎ込まなければーー日本本土を危険に晒してまでミッドウェーの敵基地を叩く必要があったのか、甚だ疑問であった。
「まぁ今はそんな事考えてもしょうがなくない?これからを考えよっ!」
那珂が明るくそう言う。空気が沈んでいただけあって、那珂の明るさが今この場ではとてもありがたかった。
「そうデスネー、救援が無いワケじゃありまセンし。
先程話した通り、奄美から護衛艦……恐らく資材や装備を積んでいる2隻がこちらに向かって来ていマース。
敵艦隊が巡航18ノット程度で北上して来ているとすると、基地海域に侵入するのは今から約6時間後の1100頃。
奄美の艦の到着予定時刻は0900。充分に打つ手はありマスヨ!」
「そうです!まだ戦いは始まってすらいませんしね!それに、私と同じ十一駆の初雪と叢雲がいるなら負ける気はしません!」
「おぅ、その意気だ吹雪!世界水準を軽く超えてる天龍様がついてるんだ。深海棲艦なんて目じゃねぇぜ!」
吹雪と天龍がバンッ!と席を立ってガッツポーズを取る。それを見て、
「さすが奄美部隊ですね……強さの理由が分かった気がします」
「ん?神通お姉ちゃん何か言った?」
「ううん、なんでも無いわ那珂ちゃん。それでは皆さん、動きましょうか!」
神通の掛け声にその場にいた
ーーーーーーーーーー
時刻、0845。
小笠原基地に奄美の護衛艦『かざばな』と『そうせつ』が到着した。
早速クルーの人々が降りてきて、
「やっぱり積んでいた機材は私たち用のねぇ……あのお爺さんはどこまでこの事態を予測していたのかしら?」
龍田が苦笑しながら護衛艦を見上げる。隣に立っていた天龍もため息をついている。
するとクルーに混じって、雰囲気の異なる女性が艦から降りてきた。
「貴女たちは……天龍と龍田ね!」
「……お前は?」
女性は「あれ、まだ情報回ってないのかな?」と困惑しながらも自己紹介をする。
「私はヨーコ・エイ。新しく奄美に来た整備士よ!専門は記憶兵装、宜しくね」
「あぁ、何かチビ助がそんな事言ってたな……」
天龍がそう納得しているとヨーコは「そうでしょ!そうでしょ!?」と天龍の手を取ってブンブンと上下に振る。
「いやほら、
でも、小笠原基地にはしっかりと艦娘の艤装とかを整備できる人っていないらしいから、しっかりと整備できる優秀な、あ、ここ重要ね、『優秀な』整備士である私がやって来たってワケ!」
ヨーコはそんな風にワーッとひと息に喋る。天龍と龍田は1人でも姦しい人だなと内心、思っていた。
「それにね、良い装備もいくつか持ってきたのよ。61cm四連装魚雷発射菅に、それ用の九三式魚雷、もちろん酸素魚雷よ。
高角砲いくつかに九一式徹甲弾、佐世保の明石に頼んで改修してもらった星付き主砲!」
「結構持ってきたのねぇ。それだけあれば何とかなりそう〜」
「装備はモチのロンだけど、修理用機材もあるから怪我してもすぐ治せるからね!
だから安心して当たって砕けてきて!」
「当たって砕けたら沈むだろうが!」
天龍は思わずそうツッコミを入れてしまう。
コイツは何かウマが合わなそうだ、と天龍は結論付けて背を向ける。
「あ、ねぇ、ちょっと!」
「あばよ、優秀な整備士さんよぉ。ドックの準備しなくていいのか〜?」
天龍が手をヒラヒラと振りながら歩き去る。ヨーコは「あぁっ!?そうだった!!」と慌てて走っていった。
一方その頃、
基地の通信士が無線機を金剛に渡す。それを受け取りコホンと声を整える。
「こちらコンゴウデース。アカギ、応答してくだサーイ」
『はい、こちら赤城です。無事なようで何よりです』
「アト2時間くらいしか保障されない無事デスケドね。そちらはどれくらいでコチラに到着しそうデスカー?」
『昨晩から急いではいますが……恐らく第一波には間に合いません。攻撃隊での援護は出来ますので、敵艦隊を捕捉したら御連絡を』
「了解したネ。でもコチラの戦力はたったの12隻、なるべく早く頼むデース」
『了解しました。……どうか、沈まないで下さいよ』
「縁起でも無い事を言うんじゃナイデース!これ以上は傍受の危険性があるので、もう切りマスヨ!」
金剛は無線機を通信士に返す。後ろに控えていた青葉が不安そうな顔で金剛に訊ねる。
「赤城さんたち……救援隊は……」
「マァ、概ね予想通りデース。今日1日はワタシたちで乗り切らないとダメデスネ」
2隻の間に重い空気が流れる。しばらくの後、金剛が静かに口を開いた。
「これは……トラック迎撃戦以上の戦いになりそうデース……」
ーーーーーーーーーー
時刻、1000。
「これより、第一次強行偵察を敢行します」
神通が基地埠頭で静かに宣言する。
「現在、我々の置かれている状況は悪いと言わざるを得ません。
このままジッとしていても、約1時間後には敵艦隊が基地海域に侵入します。
そこで、敵艦隊の規模などの情報を得るとともに……侵攻を遅らせる、時間稼ぎを行ってもらいます」
目を伏せ、申し訳無さそうに神通はそう告げる。
前に立つ臨時の水雷戦隊ーー旗艦那珂、吹雪、初雪、叢雲、夕雲、長波の6隻は問題無さそうに笑ってみせる。
「大丈夫、神通お姉ちゃん!このグループならトップになれるよ!」
「何言ってるんですか……」
吹雪が苦笑いしながらいつもの様にツッコミを入れる。その様子を見て他の
「いいですか、今回はあくまで偵察です。正面からぶつかってはいけません。敵情を把握したら、適度な攻撃で牽制しつつ撤退して下さい。いいですか?」
「「「了解ッ!!」」」
こうして、那珂率いる水雷戦隊は出撃する。
小笠原基地での一番長い日が始まった。
ー物語の記憶ー
・星付き
通常のCMS用装備(攻撃用艤装など)を特殊な部品でアップグレードすると、僅かにだが装備の記憶に干渉し、結果
このアップグレードを施した装備の俗称が『星付き』である。
アップグレードの回数を重ねる毎に性能は高まり、星の数で回数を表す。
ルナ「本当にオレの出番無いのか……」
kaeru「無いです」
ルナ「主人公なのに……」
kaeru「次回、硫黄島の戦い(違」