記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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ー前回のあらすじー
記憶喪失の青年少尉、栄ルナは奄美CMS特別部隊指揮官として忙しい毎日を送っていた。
そんな中発動されたAL/MI作戦は、奄美部隊が参加する事なく終了した。
しかし艦娘主力がいない隙を突いて、敵大規模艦隊が本土に攻めてきていた。
小笠原基地に到着した奄美部隊は、敵情を把握するために偵察に出るのであった。


memory31「硫黄島沖偵察任務」

memory31「硫黄島沖偵察任務」

 

 

「そろそろ会敵予想海域に突入するから、警戒してね!」

 

小笠原迎撃隊、臨時水雷戦隊旗艦の那珂が隊内無線でそう伝える。

那珂の率いる水雷戦隊は、偵察部隊として敵侵攻部隊が向かってくるであろう硫黄島南東の方角に出撃していた。

 

「はぁ……帰りたい……」

 

「ちょっと初雪、アンタ何言ってんの。今さっき出撃したばっかりじゃない!」

 

吹雪型駆逐艦三番艦の『初雪』の愚痴に対し、同五番艦の『叢雲』がそう言う。

 

艦隊は6隻で単縦陣を取っており、旗艦那珂に2隻目が初雪、その後ろに叢雲、4隻目、5隻目に夕雲型駆逐艦一番艦『夕雲』と四番艦の『長波』最後尾に吹雪という順番で航行していた。

 

「もともと私達は遠征帰還途中……大湊に帰っても何も問題は、無い」

 

「ありまくるわよ!帰る場所が無くなって逆に還るわよ!」

 

「まぁまぁ叢雲、落ち着いて……」

 

ワーギャーと初雪を叱り付ける叢雲を吹雪がなだめている。

 

「特Ⅰ型は仲が良くていいわね」

 

「夕雲型だって負けてないと思うんだけどなぁ、早いトコ深海棲艦を倒して母港に帰ろうぜ!」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

夕雲と長波が、初雪たちの様子を見てそう話す。

 

「現在時刻、1024。そろそろ何かあってもいいと思うんだけどなぁ……」

 

那珂が目を凝らして周囲を見回すと、東の空に黒いゴマ粒のようなものが見えた。

 

「左舷50度に敵艦載機!艦隊、輪形陣に移行。対空戦闘よぉ〜い!」

 

那珂の命令で艦隊は単縦陣から輪形陣へと陣形を変更する。

 

「艦載機?敵には空母もいるの……って、思ったけど、まぁ考えてみれば自然な事ね」

 

叢雲はそう言いつつ、装備している12.7cm連装高角砲を空へと向ける。

数分と経たないうちに艦隊の頭上に敵機が接近する。

 

「対空戦闘、うちぃ〜かたぁ〜始め!」

 

CMS(艦娘)たちの対空砲が一斉に対空弾を吐き出し、瞬く間に敵機を拒む弾幕を形成する。

 

今回、この偵察部隊にはどのような事態になっても対応が出来るようにと、様々な武器を持ってきていた。

その中でも初雪と叢雲は12.7cm連装高角砲を、吹雪は10cm連装高角砲を装備して空襲に備えていた。

 

「くっ……!それでも少しキツイですね……!」

 

吹雪が絶えず砲を空に向けながらそうつぶやく。

あらゆる場面に対応出来るようにと言ってみても、積んでいる武装は元々、小笠原基地にあった物か奄美から運んできたような貧弱な物しか無い。苦戦するのも当然の事であった。

 

対空砲火によって数機を撃墜し、若干数を攻撃ルートからそらす事ができたが、弾幕をかいくぐった敵機がCMS(艦娘)たちに接近する。

 

「各艦、自由回避!」

 

CMS(艦娘)たちは敵機の攻撃に対して回避運動を取る。

 

「いったいなぁ、もう!」

 

長波の近くに敵機の投下した爆弾が落ち、爆発の衝撃で体勢を崩してしまった。

それを逃すまいと航空魚雷を引っさげた艦攻が長波目掛けて突っ込んでくる。

 

「長波、後ろっ!」

 

夕雲の声にハッとして長波は振り向く。そこには魚雷を投下しようと高度を下げにきた敵艦攻が迫っていた。

長波は未だ体勢を整えきれていない。

 

「そうはさせません!」

 

吹雪が長波と、今まさに魚雷を投下しようとしていた敵機との間にすべり込み、正面から砲弾を叩き込んだ。

目の前で敵機は爆散し、その影響を受けて、後から続いてきた他の艦攻は攻撃を断念して離脱しようとした。

 

「この長波サマに手を出しておいて、タダで帰れると思うな!」

 

長波は主砲と通常装備の機銃で、逃げようとする敵機を狙う。

撃墜することは叶わなかったが、数機が機銃弾を受け、煙を出しながら水平線の向こうへと消えていった。

 

「くそっ、逃がしたか。でもあの様子じゃ長くは保たないだろ。それにしても吹雪、助かったよ〜」

 

長波の礼に吹雪は少し照れたように「どういたしまして」と返した。

 

それを最後に空襲は止み、敵艦載機も引き上げていった。

 

「みんな集合ー、被害確認するよ」

 

「初雪……問題ナシ……」

 

「叢雲、至近弾1。粒子装甲防壁(バリアー)に少し負荷が掛かったけど、想定の範囲内よ」

 

「夕雲、特に異常は無いわ」

 

「長波、損傷軽微!余裕で戦えるぞ!」

 

「吹雪、作戦行動に支障はありません」

 

被害を確認した那珂はうんうんと頷いた。

 

「さすがだね〜!じゃあ、みんな無事みたいだから、さっきの艦載機がやって来た方向に進むよ。艦隊、単縦陣。針路1-3-5、速力20!」

 

偵察部隊は再び陣形を単縦陣に組み直すと、敵艦載機が襲来してきた方向へと舵を取った。

 

「先程の空襲でやって来たのは2〜30機程でしたが……軽空母ですかね?」

 

「いや……そうとは限らない……」

 

吹雪の疑問に初雪が口を開いた。

 

「正規空母が攻撃隊を少数に分けて五月雨式に攻撃を……なんて事があるかも」

 

「まぁ、初雪の言う事も一理あるわね」

 

叢雲が初雪の言葉に頷く。そのような考えを頭の隅に置きながら部隊は航行を続ける。

 

しばらく何も無い海を進んでいると、那珂が突然「みんな止まって」と艦隊に停止をかけた。

 

「どうかしたの?」と夕雲が怪訝そうな表情で訊ねる。

 

「多分ねぇ……あの向こうに敵艦隊がいると思うの」

 

那珂は水平線を指差す。当然ながら、その先には青い海が広がっているばかりで敵の姿など全く見当たらない。

 

「どうしてそんなのが分かるのさ?」

 

「知りたい?長波ちゃん?それはねぇ……アイドルの勘だよ!」

 

「全くアテになりませんね」

 

「何の根拠もないのねぇ」

 

吹雪と夕雲がそうつぶやいた。

 

「あー、全然信じてないね?これでも四水戦旗艦だったんだからね!艦隊、面舵。回り込むよ」

 

那珂は指差した水平線の辺りに、向かって右側に回り込むように移動する。すると正面にユラリと黒い影のようなモノがちらと見えた。

 

「て、敵艦隊です。距離があるため識別はまだ出来ません」

 

「あら、本当に見つかったわね」

 

「ほらね言った通り。それじゃ接近するから速力落とすよ。あと、見つかったら頑張る事になるから心の準備も忘れずにね!」

 

那珂の言葉に悪寒を感じつつも艦隊は接近する。

距離、およそ3,500。

 

「両舷前進半速」

 

更に速度を落として、気付かれぬように敵艦隊の規模を確認する。

 

「艦種確認、戦艦ル級flagship1、軽巡へ級flagship1、軽母ヌ級elite1、駆逐艦級不明3です」

 

「ル級flagshipとは、手強いわね……」

 

叢雲が手に持っていたマスト型対艦槍(近接モジュール)を握り直しながら言った。

 

敵戦力の把握も終わり、離脱しようとした時、ル級がくるりとこちらを向いた。

 

「気付かれたわねぇ……」

 

「マズイんじゃないかコレ?」

 

ル級はその巨大な砲塔をCMS(艦娘)たちに向ける。

 

斉Z(右180度一斉回頭)!両舷前進第五戦速!」

 

那珂の指示で、弾かれたように艦隊は離脱を開始する。

ル級がこちらを仕留めようと砲塔を指向させ狙いを定める。

 

五斉(左50度一斉回頭)!単横陣!」

 

一斉に取り舵をとって進路を変更する。その時、背後で発砲音が轟き、部隊右舷後方にル級の砲弾が着弾する。

 

「単縦陣!三方(左30度方向転換)!」

 

再び単縦陣に戻ると更に取り舵をとる。今度は、先程までの進路上に砲弾が着弾した。

 

方三(右30度方向転換)、最大戦速でル級射程外へ離脱!」

 

CMS(艦娘)たちは機関出力を上げる。それに呼応するように航行用艤装がうなりを上げ速度がぐんと跳ね上がった。

 

軽巡と駆逐の水雷戦隊なので、ル級率いる敵艦隊よりもスピードは上。その為、振り切ることは容易かった。

しばらく航行し、追撃のない事を確認してから、那珂は集合をかけた。

 

素早い判断と対応のおかげで、部隊は被害ゼロの状態で逃げ切れたようだ。

 

「……焦った」

 

初雪が額の汗を拭いながらそう言った。

 

「ふぅ、上手い事いったわね。こっちの被害ゼロで敵艦隊の規模が分かったんだから」

 

「でも……あれは本隊じゃないと思う……」

 

叢雲の言葉に初雪はそう返した。

確かに、あのル級艦隊が本土侵攻部隊の本隊とは考えにくい。なぜなら、本土侵攻を目論むにしては戦力が割に合っていないからだ。

 

「そう考えると、あの艦隊は前衛艦隊と考えるのが一番かしらね?」

 

夕雲のいう通り、あのル級艦隊を前衛と考えるのなら、何の矛盾もなく疑問は氷解する。

 

「夕雲ちゃんのいう通り、前衛艦隊と見るのが自然だよね。

だとすると、あの艦隊の後ろには敵の本隊がいるはず!」

 

那珂たちが知りたいのは敵の最大戦力、つまりは本隊である。敵の一番大きな戦力が分かれば、それ相応の対応が出来る。

 

たとえ準備が間に合わなかったとしても、あらかじめ知っておく事で「敵はこんな戦力でやって来る」という心構えが出来る。

 

精神がもたらす影響というのは思いの外、大きなものだ。それを軽減するだけでも効果はある。

 

「そうと決まればチラッと敵本隊を見てきて、パパッと連絡して任務終了にしようぜ!」

 

長波が腕を組みながらそのように言う。他のCMS(艦娘)たちもその意見に賛成だった。

 

確認を終えた時点で統制雷撃でもお見舞いしておけば、今回の任務は完了したと言っても過言では無いだろう。

 

「よし!じゃあさっきの前衛艦隊を迂回するように後方に回り込むよ!モチロン、警戒は怠らないように」

 

偵察部隊は第三戦速まで速度を上げると、先程のル級艦隊を大きく避けるように迂回し、南からル級艦隊後方を目指して進んだ。

 

空と海、どちらも警戒を続けつつ部隊は進んでいく。

 

そしてしばらくの後、ル級艦隊後方と思われるポイントに到着した。

那珂は「両舷前進原速」と指示し、細心の注意を払いながら、そのポイントをくまなく捜索した。

しかし、本隊どころか駆逐イ級1隻見当たらない。

 

「あれぇ、おかしいなぁ。距離からみてもここら辺で遭遇する筈なんだけど……」

 

那珂が思わず艦隊を停止させる。駆逐艦娘たちも不思議そうに辺りを見回している。

 

「確かにおかしいですね……敵侵攻部隊も巡航速でこちらに向かって来ているのであれば、絶対にこの付近で衝突する筈ですが……」

 

「駆逐イ級どころか、海鳥1匹いないわね」

 

吹雪と叢雲がそのように言って海図を見ながら、今までの航行ルートを指で辿る。

 

「私たち偵察部隊の動きが読まれていたんじゃないかしら?」

 

ふと夕雲がそのそんな風に口を開いた。

 

「まず私たちは最初の段階で空襲を受けたし、その後の前衛艦隊にも存在が気付かれているわ。

当然、報告が敵本隊に上がっていて、何かしらの対策を取られていても何ら不思議じゃないわ」

 

「なんだよー、こんなに遠回りしたのにアタシたちはバレてたってワケかよ?」

 

「まだそうと決まったわけでは無いけど……」

 

夕雲はチラリと那珂を見た。つられて長波も那珂を見る。

 

「でも、この状況を見る限りその可能性は高いね。まだ索敵範囲が狭いから、その外にいるって事もあるけど……」

 

「……水偵を出してみたら?」

 

那珂がうーんうーんと唸っている所に初雪はそうつぶやいた。

那珂はポンと手を叩くと「あーそっかぁ!すっかり忘れてた!」と艤装から零式水上偵察機を取り出して、腕のカタパルトにセットする。

 

「全然使った事無い装備だったからすっかり忘れてたよー、偵察機、発艦!」

 

ガシュンと音がしてカタパルトが起動し、零式水上偵察機を空へと送り出す。

水偵はプロペラ音を響かせながら上空へと昇っていった。

 

「そういう大事な装備、忘れますか普通?」

 

「現に忘れちゃってたから、しょうがないね!」

 

吹雪はハァとため息をついた。那珂は水偵に指示を出し、索敵範囲外の捜索を始める。駆逐艦娘たちは周辺警戒の任についた。

 

那珂は水偵と意識をリンクし、視覚情報などを共有する。記憶兵器だから出来る索敵方法で、敵艦隊がいそうな場所を捜索する。

 

「那珂さん、何か見つかりましたか?」

 

「全然ダメだよー、全く見つからないね。やっぱり夕雲ちゃんの言う通り先読みされてたっぽいね。これは1回戻った方が良いかも……」

 

那珂は叢雲に基地に通信を入れるように頼むと、水偵を引き返させる事にした。

その時、突然那珂と水偵とのリンクが遮断された。

 

「あれっ?」

 

「どうかしました?」

 

「水偵とのリンクが切れちゃった。記憶兵装の故障かなー?」

 

「零式水上偵察機は実在した機体ですし、烈風六〇一空のようにif装備じゃないんですから、そんな事起こるハズが……」

 

吹雪がそう言いかけた時、CMS(艦娘)たちは不思議な音を聞いた。

太鼓を叩いたような音が聞こえたと思ったら、風を切るヒューという音が聞こえてきたのだ。

一瞬、何事かと思考を止めたその瞬間、部隊の周りに殺人的な規模の水の柱が乱立した。その衝撃で海面が上下に大きく波打つ。

 

「なっ、なんだなんだ!何が起きたんだ!?」

 

「……砲撃?」

 

「そんな……どこからっ!?」

 

艦隊はパニックに陥った。突然どこからか攻撃を受けたのだ。しかもその砲撃の威力はル級をはるかに上回っている。水柱の大きさを見れば一目瞭然だ。

 

そんなCMS(艦娘)たちは、恐ろしい『声』を耳にした。空気の振動としてでは無く、頭の中に直接響いてくるような、そんなおぞましい声を。

 

 

『ナンドデモ……シズメテ……アゲル……』

 

 

CMS(艦娘)たちは戦慄した。言葉を発することの出来る深海棲艦なんて数えるほどしかいない。そして知っていた。言葉の発することの出来る個体は、全て『イレギュラー』な事を。

 

人間型(ヒューマノイドタイプ)の身体に不釣り合いな程に巨大な装備。いや、ただの装備では無い。人間1人を軽く握り潰せるであろう巨大な手のひらと足のような物も見える。

艤装そのものが1つの意思を持っている。かつてトラック泊地に現れた空母棲姫と同じタイプの艤装。

 

「……『戦艦棲姫』……!」

 

那珂が冷や汗を垂らしながらそうつぶやいた。イレギュラー個体の中でも戦艦の能力に特化した個体。その攻撃力の前ではCMS(艦娘)装甲(バリアー)など紙と同じであろう。

 

「アレが……侵攻部隊の本隊って事で確定ね……」

 

「……もう、ヤダ」

 

辺りを見回すと、偵察部隊は多数の深海棲艦によって完全に包囲されていた。旗艦(flagship)級や精鋭(elite)級は勿論、果てにはあの空母棲姫もいる。

 

「マズイぜ、囲まれてる!」

 

「いつの間に……これ程とは思ってなかったわ……」

 

戦艦棲姫はニヤニヤと笑いながら徐々に距離を詰めてきていた。その様子はさながら、イワシを食べようと追い詰めたクジラのようだ。

 

「那珂さん……っ!」

 

副艦である吹雪が那珂に指示を求める。那珂は真剣な表情で「全周防御」とまるで陸戦のような指示を出した。CMS(艦娘)たちは背中合わせに丸くなる。

 

「やっぱり、那珂ちゃんたちの動きは読まれてたみたいだね。それに帰してあげるつもりは無いみたい」

 

「暢気な事言わないで、どうするんですか!?」

 

「慌てちゃダメだよ。どんな時でも冷静に」

 

そうこうしている合間にも深海棲艦たちはジリジリと距離を詰めて来ている。

 

「あの間を抜けよう」

 

那珂が目線で吹雪に伝える。そこはル級が2隻立っている所だった。

 

「なぜ軽巡や駆逐の合間じゃ無いんですか?逆に難しいのでは?」

 

「確かに、抜けるのは難しいけど、すれ違い様に魚雷を撃ちながら行けば多少なりとも向こうの出鼻を挫けるハズ。みんな那珂ちゃんの指示通りにお願いね」

 

那珂は「針路2-4-0、機関微速」を命じ、ゆっくりとその場から移動を始める。

深海棲艦たちも少し慌ただしくなる。こちらの様子を(うかが)っているのか。

 

「まだだよ……まだ……」

 

ゆっくりとル級の方へ近づいていく偵察部隊。ついに痺れを切らして、戦艦棲姫がその巨大な砲をこちらへ向けた。

那珂は呼吸を合わせて叫ぶ。

 

「今だよっ!機関一杯!!」

 

それと同時に戦艦棲姫が砲撃する。那珂たちは機関を言葉通り一杯にして最大速力でル級に突っ込んでいく。今まで立っていた所に戦艦棲姫の砲弾が着弾して、海面が面白い程に波打った。

 

それを皮切りにして、他の深海棲艦も砲撃を始める。海上は一瞬にして修羅場と化した。

 

「全艦、魚雷戦準備!目標、両舷のル級!!」

 

ル級の顔がだんだんと近づく。表情が読み取れる程に。砲弾の雨をすり抜けつつ、艦隊はこの包囲網を突破しようと試みる。

 

吹雪型3隻は右舷のル級を、那珂と夕雲型の2隻は左舷のル級を狙った。

 

「撃てぇぇーー!」

 

各艦が装填していた魚雷を全てばら撒いた。何本かは白い航跡を残す普通の魚雷だが、そこに紛れて酸素魚雷も共に海中を突き進んでいく。

 

数本が敵に防がれ、たどり着く前にズドォンと爆発した。残った魚雷は外れる物もあれば、見事命中した物もあった。

 

そんな混沌とした海上を死に物狂いでCMS(艦娘)たちは駆け抜けた。

 

すれ違い様に、深海棲艦目掛けて主砲を乱射する。離れた所にいた駆逐ロ級が流れ弾に当たってひっくり返った。

ル級にも何発か命中したが、軽巡と駆逐の砲撃で戦艦の装甲(エネルギーフィールド)は抜けなかった。

 

しかし、偵察部隊はそんな死の包囲網を見事突破した。しかし喜んでいる暇は無い。後ろからは戦艦棲姫や空母棲姫、大量の深海棲艦が追ってきているのだ。

 

「全速!とにかく機関一杯で振り切るよ!叢雲ちゃん、基地に高速暗号通信!敵戦力を伝えて!」

 

「言われなくてもやってるわよ!」

 

「初雪ちゃん、夕雲ちゃん、長波ちゃんは砲撃継続!吹雪ちゃんは煙幕展張!」

 

「うん……分かった」

 

「主力オブ主力の夕雲型の実力、見せてあげるわ」

 

「やっば寄せ集め軍団は最高!」

 

「了解、煙幕展張します!」

 

吹雪が煙幕を展開し、戦艦棲姫からこちらの姿を隠す。それでも敵の射撃精度は一向に低下しない。

 

「ダメです!効果ありません!」

 

「アイツ……電探を装備してるのね……!」

 

白煙を上げていた吹雪がふと上空を見る。黒い甲殻類のような敵艦載機に混じって、白くて丸いモノも一緒に飛んでいる。

 

「上空、敵機!」

 

「輪形陣!撃ち落としてっ!」

 

敵艦載機は滝のようにCMS(艦娘)たち目掛けて急降下してくる。爆弾が一斉に投下され、天地がひっくり返ったのでは無いかという程の衝撃が艦隊を襲う。

 

「なにあの白いタコヤキに変な顔がついた奴!普通の艦載機より性能高いぞ!」

 

長波が機銃を撃ちながらそう叫ぶ。直後に至近弾を喰らって頭から海水をかぶった。

 

そんな絶望的状況の中、偵察部隊は辛くも新型艦載機を含む敵攻撃隊の空襲を切り抜けた。だが全速力で航行しているのにも関わらず、深海棲艦との距離は広がらない。

 

「何よあいつら!そこまでして私たちを沈めたいワケ!?」

 

叢雲がそう叫んで、追いすがる駆逐ハ級に主砲を叩き込んだ。ハ級は爆発を起こして沈んでいったが、その直前に魚雷を撃っていた。

 

「後方より魚雷接近!」

 

「面舵回避!」

 

艦隊は舵を切って魚雷を回避する。それを狙っていたかのように戦艦棲姫や他の戦艦クラスの深海棲艦が一斉射撃を仕掛ける。

偵察部隊はたちまちバケツの水をひっくり返したような状況になった。

 

「みんな!大丈夫!?」

 

那珂がそう呼び掛ける。全くもって大丈夫では無かったが、駆逐艦娘たちは大丈夫だと答えた。しかし、直撃弾が無いとはいえ、度重なる至近弾のせいで駆逐艦娘たちの装甲(バリアー)の耐久値は既に7割を切っていた。全員の艤装が至近弾のみで『小破』の損害を受けている。

それに対してこちらは敵艦隊に有効なダメージを与えられていない。

那珂は決断した。

 

「……統制雷撃をする!」

 

異論は出なかった。駆逐艦娘たちも身なりは小さくともバカでは無い。この状況下において、逃げ切れるだけの時間を稼ぐことのできる方法がこれしか無いことを察していたのだ。

 

全艦が魚雷の再装填を終えるのを見計らい、那珂が針路変更の指示を出す。

 

「艦隊、方八(右80度方向転換)!目標、右舷敵艦隊群、対水雷戦闘用意……っ!」

 

那珂がそこまで言った時、上空から太陽を利用して敵艦爆が急降下してきた。

 

 

『テッキチョクジョウ……キュウコウカ!!』

 

 

空母棲姫の不気味な声が頭に響く。那珂は即座に反応した。

 

「命令待てっ!敵機直上、対空戦闘!」

 

しかし、突然の出来事に大湊の駆逐艦娘は反応が遅れてしまった。反応が出来た吹雪のみ、10cm連装高角砲を白い敵艦載機に向ける。

 

その白い敵機は那珂を完全に捉えていた。那珂も対空砲を向けるが、いかんせん太陽の中に入られている。撃墜するのは厳しい。

そう判断した那珂は咄嗟に回避運動を取った。至極、当然の事である。

 

しかし敵の新型艦載機はそれすらも見切って、的確に那珂を捉えていたのだ。

 

吹雪が新型艦載機を狙って10cm連装高角砲の引き金を引いた。狙いは完璧、日頃の訓練の成果だった。

 

しかし、そこで驚くべき事が起きた。吹雪の対空弾は躱されてしまったのだ。

 

「そんなっ!?」

 

あの新型艦載機は、吹雪が思っていた以上の性能を見せ付けると、悠々と爆撃コースを修正し、爆弾を投下した。

 

「那珂さぁぁああん!!!」

 

那珂の背中に爆弾が接触する。瞬間、紅蓮の炎が一瞬辺りを包み込み、次いで衝撃波が駆逐艦娘たちを薙ぎ払った。

 

コンマ数秒遅れて、耳をつんざく轟音が響く。目を回す駆逐艦娘たちだったが、即座に状況を理解し、那珂の下に駆け寄る。

 

「那珂さん!那珂さんしっかり!」

 

那珂はグッタリとしてピクリとも動かなかった。背中の機関部艤装はその殆どが吹き飛び、服が破けて火傷した背中が見えていた。口元からは血も出ている。

 

「そ……そんな……!」

 

「早とちりしないで吹雪!まだ生きてるわ!」

 

叢雲が冷静に脈を確認する。まだ生きている。爆発の衝撃で気を失ってしまっていたのだ。

 

しかし、確認を取るまでもなく那珂は大破、航行不能の大損害。

艦隊旗艦がこの有り様。後ろからは戦艦棲姫率いる大艦隊。

言わずもがな、状況は絶望的だった。

 

「吹雪、アンタ副艦でしょ?指揮をとりなさい」

 

「え……」

 

「え?じゃないわよ!旗艦である那珂さんが指揮を取れなくなったら、副艦である吹雪が指揮をとる決まりでしょう!?」

 

「そ……それはそうだけど……」

 

「何よ、怖じ気ついたの!?どこの吹雪も元気と真面目だけが取り柄でしょ!!」

 

「そんな事無いよ!?それ以外にもあるよ!?」

 

「とにかく、誰かが指揮しなきゃ私達は全滅。私達がやられたら基地で待ってる他の仲間だって危険に晒される。小笠原が落ちれば、いよいよ本土攻撃になるのよ。アンタの指揮官って、CMS想いの変人なんでしょ!私達がやられれば絶対に悲しむわよ!」

 

吹雪がハッとする。トラック迎撃戦の時、大破した自分に向かってルナはこう言った。

 

『《絶対に全員、生きて戻ってくる》。いいか?これは命令だ!破ることは許されない!負けてもいい……全員、生きて帰ってこいッ!!』

 

「ど、どうしてそれを……?」

 

「ウチの提督……大湊の提督もCMS想いの変人なのよ。そうそういないもんよ、私達を大事にしてくれる人間なんて。だから何としても生き残るの、分かった?」

 

吹雪はコクリと頷く。そして目元を拭うとスッと立ち上がった。

 

「……旗艦那珂の大破によりこれ以上の指揮は不可能と判断し、副艦である吹雪が指揮を取ります!

初雪と叢雲は那珂さんを曳航、夕雲は対空警戒、長波は煙幕を展張して下さい!」

 

「大丈夫、こういうの……慣れてる」

 

「ちょっと初雪こっち見ないでよ。もう雷撃処分はこりごりよ」

 

初雪と叢雲が那珂に肩を貸し、両脇から抱える形で持ち上げる。

そして夕雲と長波が張り切ったように武器を構え直す。

 

「護衛なら夕雲の得意分野だわ」

 

殿(しんがり)はこの長波サマに任せとけ!」

 

吹雪は状況を再度確認して前を向く。

 

「艦隊、全速前進!!」

 

偵察部隊は再び動き出す。状況は何ら変わらない。むしろ那珂の大破で悪くなっている。それなのに駆逐艦娘たちには闘志のようなモノが湧き上がっていた。

 

そこから艦隊は必死に基地を目指して全力で航行した。全力と言っても先ほどよりも速力が落ちているせいで、敵の軽巡や駆逐に追いつかれ始めた。

 

駆逐イ級が並走して、砲撃を加え始める。

 

「このっ……沈みなさい!」

 

叢雲が主砲をイ級に向けて撃ち放つ。数度の応酬の後、イ級はズブズブと水底に沈んでいく。

 

「もうダメ……弾薬が尽きた。初雪、そっちは?」

 

「私も後2、3回斉射したらおしまい……あと魚雷だけ」

 

「初雪!左舷!」

 

「くぅっ……!」

 

初雪の真横から駆逐ロ級が大口を開けて迫る。喰われる寸前にその口蓋に向かって主砲を乱射する。

上顎がこの世から永遠に消滅し、倒れ込むようにして海に沈んでいく。

 

「……おしまい」

 

初雪が片手を上げて「弾切れ」のポーズを取った。

 

「夕雲さん!長波さん!」

 

「わかってるわ!」

 

「任せろ!」

 

吹雪の声で夕雲と長波が初雪達の護衛に戻ってくる。見ると、既に太陽は傾き、夜の暗闇が空を支配しようとしていた。

 

艦隊は単縦陣から、那珂を曳航する初雪と叢雲を取り囲むように、いびつな輪形陣を形成する。

 

それから吹雪たちはがむしゃらに基地を目指した。追いすがる敵艦隊を必死に攻撃し、敵の砲弾や魚雷を避け続けた。

 

気が付けば、前方に大きな黒い影が見える。

 

「……硫黄島だ」

 

ついに部隊は硫黄島まで戻って来た。しかし後ろには敵艦隊が迫っている。

その時、吹雪たちを追ってきていた軽巡や駆逐艦が、何かに吸い寄せられるようにUターンした。

 

「……何事?」

 

不思議に思う偵察部隊にピーンという甲高(かんだか)い音が聞こえた。

 

「これは、潜水艦の探信音(ピンガー)!」

 

そして、追撃をしてきていた敵重巡艦隊にカッと一筋の光が照射される。

 

「こ、このぉ!深海棲艦どもめ!狙うなら、このあきつ丸を狙うがよい!」

 

「あ……あきつ丸さん!?」

 

なんと、揚陸艦であるあきつ丸が探照灯をその手に持って、敵艦隊を誘引していた。

 

深海棲艦があきつ丸に向けて砲撃を行う。あきつ丸は「とっ、取り舵っ!」と舵を切るが間に合わない。着弾し爆炎が上がるが、あきつ丸は無傷だった。

驚く吹雪の目に、見慣れた2隻の姿が映った。

 

「大丈夫か、あきつ丸?」

 

「防御は私達に任せて〜」

 

「天龍さん!龍田さん!」

 

吹雪は思わず叫ぶ。それに気を取られていたせいで、吹雪を喰らおうと近付いていた駆逐イ級に気付くのが少し遅れた。

しかし、イ級が吹雪にぶつかる前に、その身体に魚雷が突き刺さり爆沈した。

 

「吹雪ーーっ!」

 

「島風ちゃん!」

 

吹雪の隣に島風が並ぶ。島風がここにいるという事は、奄美の増援が小笠原基地に到着した事を意味していた。

 

「た……助かった……」

 

「うん、もう大丈夫。金剛と青葉と川内も来てる。島風が援護するから、吹雪たちは早く基地へ!」

 

偵察部隊は島風の誘導で父島へと向かう。とにかく今はこの戦闘から離脱しなければならない。 ほぼ全員が損害を受けている中、気を失った那珂を曳航しつつ基地へと針路を向けた。

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・12.7cm連装高角砲

標準的な対空高角砲。対空装備だが、副砲としても使用可能。

最初から高角砲として開発され、第二次大戦時は多くの艦艇に搭載されるという傑作兵器だった。

名前が似ているが、小口径主砲である「12.7cm連装砲」とは別物。

 

・零式水上偵察機

零水偵と呼ばれる標準的な偵察機。戦艦や重巡など様々な艦艇に搭載され索敵を担当する。

現在、CMS用装備として開発されている偵察機の中では唯一量産されている装備

 

 

 




kaeru「御意見、御感想お待ちしております。良かった一言でも、ここんとこ理解しにくいなどでも結構です。よろしくお願いしますです」
ルナ「次回、さらなる成長」
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