記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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ちょっと展開早いかもしれませんがご了承ください

それでは


memory32「強くなりたい」

 

memory32「強くなりたい」

 

 

「は……早くドックへ!!」

 

戦艦棲姫を振り切り、命からがら小笠原基地に帰還した偵察部隊。

その姿を見て基地の人々は絶句した。

 

艤装を粉砕され血を流し、気を失っている那珂。曳航してきた初雪と叢雲も武装の殆どを喪失している。

そんな無防備な仲間たちを護衛する為に戦ったのであろう夕雲は中破状態。殿(しんがり)を担当した長波の被害はそれ以上だった。

 

そして旗艦不在の中、ここまで艦隊を引っ張ってきた吹雪は極度の疲労で立っているのもやっとという状態だった。

 

そんな中、CMS整備士のヨーコがハッとして指示を出し始めた。

 

「被害の大きい娘から優先してドックへ!那珂はポッドに、早く!」

 

基地の人間がバタバタと担架を運んでくる。

初雪と叢雲に背負われていた那珂が担架に乗せられ、ドックへと運ばれていく。

 

「さぁ、君も早くドックへ」

 

基地の人間が吹雪にそう言ったが、吹雪は

 

「私はあまり被害を受けていないので、夕雲さんと長波さんを先に……」

 

と言って断った。

その直後、神通が慌ててやって来た。

 

「だ、大丈夫ですか!?艦隊の被害は!?那珂ちゃんは無事ですか!?」

 

「報告します。臨時水雷戦隊、偵察隊は硫黄島南東20海里程の所で敵侵攻艦隊を発見。

しかし我々の存在は事前に暴露しており、逆に攻撃を受けてしまいました……。

包囲網離脱の際、旗艦である那珂さんに敵艦爆による爆撃が命中、航行不能の大損害を被りました。それにより艦隊指揮権を吹雪に移譲、牽制攻撃を行いながら硫黄島まで撤退したものの、追撃を受けました……。

その後は皆さんの援護があって、なんとか戻ってきた次第です……」

 

「そう……ですか。分かりました、とにかく今は休んで下さい」

 

「………すみませんでした」

 

「どうして謝るんですか?吹雪さんは自らに出来る事をやっただけでしょう。言うなら、こうなってしまったのは旗艦の判断ミスです」

 

「っ!そんな、那珂さんは……!」

 

「分かってます。だから、今は何も言わずに休んで下さい」

 

神通はニコリと微笑んでそう言う。妹である那珂が意識不明の重体を負って、その心中はそれどころでは無いはずだが、神通はその心の内を表に出さないようにしていた。

 

吹雪は頭を下げると、ドックの方へ歩いていった。

その後ろ姿を見送った神通は作戦会議室(ブリーフィングルーム)へと向かう。

 

部屋の中には、救援に来た奄美部隊の赤城と加賀が机の上の海図に敵味方の駒を置いて状況を整理していた。

 

「神通、那珂や吹雪の様子は?」

 

加賀の問いに、神通は無言で首を振った。加賀は「そう……」とつぶやくと「今は次を考えましょう」と静かに言った。

 

「あ、神通さん。気を悪くしないで下さいね。これが加賀さんの精一杯の励ましなんです。なんせ加賀さんたら物凄い人見知りで……」

 

「赤城さん、その説明はいささか不服です」

 

加賀はムスっとした顔で赤城を見る。赤城は何の事やらという顔で加賀の視線を受け流す。

 

「やはり、奄美の皆さんは仲が良いのですね」

 

「……それより、外の状況はどうなっているの?」

 

加賀は軽くため息をつく。

夜の海に出撃しても、空母は艦載機を発艦する事が出来ない。

その為、救援にやって来た奄美部隊の赤城と加賀は、現在の状況についてまとめていたのだ。

 

「詳しい事は姉さんや奄美の皆さんの帰還待ちですが、戦艦棲姫率いる敵本土侵攻部隊は硫黄島の南海岸に上陸しようとしているらしいです」

 

「まさか、深海棲艦は硫黄島を前哨基地にするつもりですか?」

 

「……その可能性は否定出来ません。敵戦力に対して、こちらの戦力は余りにも少ない。数で押し潰しにきたら、こちらがすり潰されるのは目に見えていますから」

 

「小笠原基地の目と鼻の先に、前哨基地を造るとは……」

 

そう3隻が話していると、扉がガチャリと開き、夜の海に繰り出していた金剛たちが戻ってきた。

 

「姉さん!」

 

「ごめん神通、少しドジった」

 

川内は天龍の肩に掴まりながら、片手で脇腹を押さえている。

その部分には応急処置の包帯が巻かれていたが、わずかに赤く血が滲んでいる。

 

「戦艦棲姫の砲撃を直で喰らっちゃってね。幸い榴弾じゃなくて徹甲弾だったから、粒子装甲防壁(バリアー)は貫通してシステムにあんまり負荷は掛からなかったけど、弾が脇腹をかすってね」

 

「笑ってる場合じゃ無いです!早くドックに……」

 

「今ドックは満杯でしょ?それにこれはただのかすり傷さ。那珂なんかに比べれば、どうってこと無いよ」

 

川内は椅子に腰を下ろし、鎮痛剤を何錠か飲み込む。

そして後ろに続いていた金剛が戦闘の結果を報告する。

 

result(結果)は悪いと言わざるを得まセン。ヤツら、本当に硫黄島を乗っ取るつもりデース」

 

「今朝あきつ丸が言ってた『輸送ワ級』が南海岸の翁浜に揚陸していたのを確認した。陸上部隊までは見えなかったが、恐らくもう侵蝕は始まってるだろうな」

 

金剛に続いて天龍がそのように補足する。

 

「現時刻での敵の動きは?」

 

「今のところ目立った動きは無いわね〜。硫黄島に上陸したら防御体制を取り始めたわよ?

前哨基地を完成させてから総攻撃を掛けるつもりかしらね〜」

 

「私達は父島と硫黄島の中間地点を最終防衛線(ラストボーダーライン)にしてそこを死守してる。

今はドイツの潜水艦が前線で張っていて、何か動きがあれば探信音(ピンガー)を利用したモールスで後方のまるゆに状況を報告、まるゆは浮上して、同じく待機してる青葉とあきつ丸を通して通信で知らせてくれるようにしてくれている」

 

椅子に腰掛けていた川内が龍田と共に現状をそうまとめた。川内は「ドイツの娘にはつらい仕事だけど……」とつぶやくと、背もたれに身体を預ける。

 

潜水艦は、隠密性が艦艇の中で一番高い。その為、索敵や早期警戒、敵勢力圏内の偵察など様々な分野で活躍が期待できる。

 

しかもその活動環境は主に海中。海中を探査できる装置(パッシブソナーやアクティブソナー)が無ければ、海上にいる艦艇は潜水艦を攻撃する事はおろか、見つける事が出来ないのだ。

 

相手の手の届かない、優位なポジションからの必殺の雷撃。海上のあらゆる艦艇はこれを怖れて、どんな時でも対潜哨戒を欠かさない。

 

つまり、奄美から救援にやって来たUー511が担っている仕事は、敵に見つかれば多大な被害を被る事を意味していた。

 

「大丈夫デース、ユーは覚悟を持ってこの戦場に来ていマス。それに、深海棲艦の目を盗んでドイツから日本にやって来たのデスから、そんじょそこらの対潜部隊(ハンターキラー)には見つからないデスヨ!」

 

「でも、今日はもう深海棲艦どもも動かないだろ。あと1、2時間くらいでユーとまるゆは引き上げさせていいだろうな」

 

神通はしばし考え込む。

 

「戦況は分かりました。が、私ではこの事態に的確な判断、作戦命令を下す事は難しいと判断します。その為、横須賀に通信を入れ、提督に指示を仰ごうと思うのですが、この事に異論はありますか?」

 

「まぁ……確かに、硫黄島まで攻め込まれてしまったのなら、次に打つ手は絶対にミスする事は出来ない。タダの兵器であるCMS(私たち)には出来ない事だね」

 

川内がぐったりとしながらそう言った。神通はペコリとお辞儀をすると部屋を出て行った。

 

奄美のCMS(艦娘)と川内が部屋に取り残される。

しばらくは無言の時間が続いたのだが、天龍が耐え切れないといった風に口を開いた。

 

「なんだよお前ら、御通夜みてーに静まり返りやがって。まだオレたちは負けてねぇんだぞ」

 

そう言うものの、天龍の言葉に誰も答える事は無かった。

本土の目の前とも言える硫黄島に敵の前哨基地が建設されてしまったらどうなるか。想像出来ないほど、この場にいる者は馬鹿ではない。

 

まず、本土の海上交通網(シーレーン)に危険が及ぶ。どのルートを通っても、深海棲艦からの攻撃の範囲内に入ってしまうからだ。

 

本土の海上交通網(シーレーン)が断絶すれば、鉱工業など産業が破綻し、深海棲艦たちと戦うための経済、戦争経済が瓦解する。

そうなれば、もう日本は戦う事はおろか、深海棲艦に攻め込まれる前に自滅する。

 

今、日本は戦わずして敗北しようとしているのだ。

 

天龍だってその事が分かっていない訳ではない。しかし、気持ちが沈んでいては精神に影響が出る。精神に影響が出れば、いざという時に実力が発揮出来ずに、轟沈(死ぬ)

 

他の者も分かっている。解っているからこそ、このような状態になっているのだ。

 

再び、部屋が静寂に包まれる。天龍はそれ以上何も言わずに、舌打ちをしながら自らも椅子に座った。

 

そんな時、部屋の扉がガチャリと開いた。

 

神通が戻ってきたのかと、全員が目を向けると、そこには休んでいるハズの吹雪が立っていた。

 

「どうしまシタカ?フブキは赤疲労なんですからしっかり休んでいないト……」

 

「いいえ、休んでなんかいられません」

 

吹雪は手のひらをぎゅっと握り締める。

 

「悔しいんです。戦艦棲姫たちに良いように蹂躙され、こちらはただ負けるのを待っているなんて。

私たちは、まだ戦艦棲姫に一度も攻撃をしていない。せめて一矢でも報いたい……!

それに私たちが負ければ、本土で暮らしている人々が危険にさらされる。

私たちが沈めば、基地で待っている少尉が絶対に悲しみます。

だから、私たちは深海棲艦に勝利して、全員で生きて帰らないといけないんです!」

 

力強く、信念のこもったその言葉は、吹雪が「まだ負けていない」と言っているかのようだった。

 

「私は駆逐艦で、弱くて役に立たないかもしれませんが……それでも、みんなを守りたい……!

誰かを守れないのは……もう嫌なんです……!」

 

目元に涙を浮かべつつ、吹雪は下を向いて肩を震わす。

 

「吹雪は弱くないよ!」

 

「……島風……ちゃん…」

 

島風は吹雪の手を取って、その涙の浮かぶ目を見る。

 

「吹雪は、島風を守ってくれたじゃん」

 

吹雪が目を見開く。島風は笑いかけた。

 

「特型駆逐艦は世界を驚愕させた(ふね)なんでしょ?だったら弱くないよ!役に立たないなんてこと無い!

それに、あの時言ったよね。『1人で駄目なら』……」

 

「……『2人一緒で』……!」

 

吹雪は顔を上げる。そこにはいつもと変わらない島風の姿があった。

 

突然、背中を強く叩かれる。

 

「オイオイ、2人なんて寂しい事言うなよ。この天龍様を忘れんなよ!」

 

「私もいるからね〜〜♪」

 

「チョット!抜け駆けはズルいデスヨ!」

 

天龍、龍田、金剛が吹雪の側に駆け寄る。

 

「ふふっ、先程までのあの空気はどこへやら。一航戦として、敵に遅れは取れませんね。加賀さん?」

 

「赤城さんの言う通りです。私と赤城さん、栄えある第一航空戦隊の空母が如何程なものか、見せてあげましょう」

 

赤城と加賀も立ち上がり、決意の眼差しで吹雪を見る。

 

「さすが、世界を驚愕させた特型駆逐艦は違うねぇ。こうも容易くみんなの心に火をつけるなんて。

でも、おかげで助かったよ。華は二水戦に譲っても、三水戦が伊達じゃ無い事を証明してやろう!

それに、妹を傷つけた償いは受けて貰わなくちゃね……!」

 

川内が拳を天に突き上げる。その顔は川内型軽巡の長女として、第三水雷戦隊のリーダーとして、覚悟と自信のあふれる顔に変わっていた。

 

「ちょっと、この私を忘れるなんてどういうことかしら!」

 

扉がバン!と開け放たれ、叢雲を先頭に大湊の駆逐艦たちがやってくる。彼女たちも吹雪と同じく、呑気に休んでいる事など出来なかったのだ。

 

まだ受けた傷は癒えてなく、包帯などが目に付くが、駆逐艦たちの闘志は再び燃え上がっていた。

 

「所属は違うけど、同じ第十一駆逐隊の仲間でしょ!アンタがやるって言うなら、喜んで手を貸すわよ」

 

「本当は得意だし、こういうの……」

 

「陽炎型の改良型である夕雲型が、吹雪型に劣っていては笑われ者になっちゃうわ」

 

「おうよ!今度こそ、長波サマのチカラであいつらに目に物見せてやるぜ!」

 

そう言う大湊の駆逐艦の背後に、警戒役を請け負っていたCMS(艦娘)たちが戻っていた。

 

「吹雪殿、話は聞かせて頂きました。是非、我々(おか)の船にも協力させて貰いたい!

硫黄島を奴等の手中から取り戻す時、必ずやお役に立ちましょう!」

 

「ここで立ち上がらないのは陸軍の名折れです!まるゆも微力ながら協力致します!」

 

「青葉も居ますからね!?私、奄美のCMSですからね!?」

 

「ユーも、忘れないで……」

 

吹雪の前に、仲間たちが集まる。全員が、この最悪な状況に似合わない笑顔を顔に浮かべている。

 

彼女らには、自信が満ち溢れていた。

 

「みんな……!」

 

「いいか吹雪、お前は1人じゃない」

 

天龍の言葉に他のCMS(艦娘)たちが声を揃える。

 

 

「「「私たちがついてる!!」」」

 

 

「………ありがとうございます…!!」

 

吹雪の目から涙が溢れる。全員が笑い合う中、廊下の方でドタバタと喧しい音が聞こえてきた。

 

CMS(艦娘)たちが不思議に思い廊下を覗いてみると、整備士ヨーコと取っ組み合いながらジタバタと暴れる那珂の姿があった。

 

「こらーっ!怪我人は大人しく治療ポッドに入れーーっ!」

 

「やだぁー!ポッドに入ったら修理が完了するまで出撃出来ないじゃーーん!!

那珂ちゃんはあの戦艦棲姫の前でライブするのっ!!」

 

どうやら那珂も吹雪と同じく、とても悔しかったのだろう。姿を見るだけで再戦(リベンジ)に燃えているのが見て取れた。

ギャーギャーと取っ組み合いを繰り広げているが、CMS(艦娘)の力に一般人が敵うはずも無く、ヨーコはズルズルと引きずられている。

 

「那珂さん!?」

 

「こら!那珂は一番被害が大きいんだからドックに入らないと駄目じゃないか!」

 

川内が那珂を鋭く叱りつける。しかし那珂は引かなかった。

 

「川内お姉ちゃんだって怪我してるじゃん!」

 

「こんなのかすり傷さ」

 

「じゃあ那珂ちゃんだってかすり傷だもん」

 

「馬鹿、規模が違い過ぎるだろ!私たちに任せて那珂は眠ってるんだ!」

 

「うぅ……!川内お姉ちゃんのわからずや!那珂ちゃんはもう一回海に出たいの!」

 

「わからずやは那珂の方だろう!那珂は私や神通と違って基本スペックが低いんだから……!」

 

そこまで言いかけて川内は口をつぐむ。川内の言葉に疑問を感じた吹雪は、川内に訊ねる。

 

「那珂さんも川内先輩も同じN型で姉妹艦じゃないですか。どうして基本スペックが違うんですか?」

 

「そ、それは……」

 

川内が明らさまに動揺する。那珂の隣りにいたヨーコがポンと手を叩いて口を開く。

 

「もしかして『改二』のコト?」

 

「……カイニ?」

 

ヨーコは「そうそう改二」と言って簡単に説明をする。

 

「ここにいるみんなは多分、“第一次改装”は受けてるでしょ?

それはみんなが出撃する時に装着する『艤装』を改造して、性能を引き上げてるんだけど……。

その艤装を身に付ける『CMS(艦娘)』自体を改造出来れば、もっと性能は上がるんじゃない?って話よ」

 

ヨーコの言葉に一同はざわつく。

 

「生体を改造って……サイボーグとかになるんですか!?」

 

「そんなワケないでしょ〜。あなたたちの記憶兵装を改造するのよ。

元々、生体に使用する記憶兵装にはリミッターが付いてるのよ。追加したデータ(記憶)で生体自身の記憶を破壊したり、戦闘時にオーバーロードしないようにね。

“第二次改装”では、新たにデータ(記憶)を追加すると共に、そのリミッターを外す。

すると、従来では考えられないくらい基本スペックが上昇するのよ。

後はそうね……身体が急激に成長状態になったり、見分けが付くように支給される制服が変わったりするわね。

要するに、第二次改装に成功したCMS(艦娘)の事を書類上では『改二』って呼ぶのよ。

ここでは川内と神通が改二になってるわね」

 

全員の視線が川内に集まる。言われてみれば確かに、同じ姉妹艦なのに川内の制服と那珂の制服は似てはいるもののデザインが違う。

 

「じゃあ改二になれば強くなれるんですか!?」

 

「まぁそうなんだけどねぇ……実は第二次改装は、最近やっと出来るようになった新技術でね、解明出来ていない現象や改二になれないCMS(艦娘)もいるのよ。

それにもし改二適正があっても改二になる為には色んな条件が必要なのよ。

共通しているのが、『戦闘経験豊富で高練度である事』

これ以外は1人1人異なる条件があるらしいのよね。

第二次大戦時に輝かしい戦果を挙げていたり、逆に不幸な事があった艦とか、

元々、艦艇時代に改装案や設計図があったけど未改装のまま終わった艦とか、

強い覚悟と信念が必要だとかね。

逆に、過去に改装案とかが無くても改二になれちゃう娘もいるし。本当まだよく分かってないのよ」

 

ヨーコがそう言い終わるとともに那珂がヨーコの手をガシッと掴む。

 

「那珂ちゃんにも……第二次改装を!那珂ちゃんも改二にしてっ!」

 

「えっ、えぇ!?今から!?うーん……改装用の学習装置あったかなぁ……それに、提督の許可も無いし、新艤装を造るアレもあるし……」

 

「じゃあ提督に許可貰ってくる!」

 

那珂は話も聞かずに通信室に向かおうとする。それを川内が呼び止める。

 

「待て、那珂!那珂は改二になっちゃ駄目だ!」

 

「どうして!?何で那珂ちゃんだけ改二になっちゃ駄目なの!?」

 

川内が少し俯いた後、それまでとは打って変わった静かな声で語りだす。

 

「那珂、あんたの個体識別番号は?」

 

「……000048003だけど」

 

「そう、そして建造番号は003。これは那珂が中央工廠で建造された中で3隻目を表している。この意味が解るかい?」

 

「……1隻目と2隻目の那珂ちゃん(わたし)()んだか解体されたって事でしょ」

 

その言葉に、その場の時間が一瞬だけ停止した。

 

那珂(3隻目)には話して無かったね。

第二次改装が出来るようになった頃は、とにかく色んなCMS(艦娘)が改二になれないか試していたんだ。

川内型軽巡にも順番はやって来て、まず始めに神通が改装を受けて、それは見事成功した。そして私も成功。那珂(1隻目)も成功した」

 

「……じゃあ何の問題も無いじゃん」

 

「ところが海上訓練中、那珂が突然倒れた。ドックに運ばれたけど、どんなに手を尽くしても意識は回復せず、脳死と判定された。原因は第二次改装が疑われたけど、詳しい事は分からなかった。そして那珂(1隻目)は解体処分になった……」

 

「…………」

 

「そしてバックアップのデータ(記憶)を元に、2隻目の那珂が建造された。今度は慎重に慎重を重ねて第二次改装を行なった。

その後もしばらくは何の問題も無かったんだけど、とある時に深海棲艦と交戦した時、記憶兵装に不具合が生じて、戦闘行動を取る事が出来なくなった。撤退を試みたものの、深海棲艦に包囲され、その戦闘時に敵戦艦の砲撃を受けて那珂(2隻目)()んだ………私をかばったばっかりに………!」

 

川内の言葉が途切れる。

誰も言葉を発する事は出来なかった。

 

「だから、もう第二次改装はさせない。もう妹が悲惨な目に遭う所なんて見たく無いんだ……」

 

川内の告白を受けて那珂はーー

 

 

「大丈夫、心配しないで!」

 

 

ーーニッコリと笑って見せた。

 

「なっ……!話を聞いてたのか!?」

 

「もちろん。川内お姉ちゃんが駄目って言う理由は分かったよ。だけど、もうそんな事は起きないってアイドルの勘が言ってるの」

 

「そんなもの、何の根拠も無いじゃないか!」

 

そのやり取りを聞いて、吹雪と大湊の駆逐艦たちは既視感を覚えた。

そう、偵察に出た時もそんなことを言って、敵艦隊を発見した。

 

しばらく姉妹喧嘩のような言い合いが続いた。双方とも考えは変わらず、膠着(こうちゃく)状態になった。

 

「姉さん、もういいでしょう」

 

川内がハッと振り返ると、通信を終えた神通がそこに立っていた。

 

「神通!」

 

「姉さんの言い分も解ります。私だって那珂ちゃんが居なくなってしまうのはもう嫌だわ。でも、最後にもう一度だけ、那珂ちゃんを信じてみましょう?」

 

「だけどっ……!」

 

「今の戦力じゃ殆ど勝ち目がないんでしょ。那珂ちゃんが改二なれば少しは勝ち目が見えるかもしれない!川内お姉ちゃん、那珂ちゃんを信じて……!」

 

川内は何かをこらえるように歯をくいしばり、髪をワーっとかきむしると、くるりと後ろを向いた。

 

「………勝手にしろっ!私は夜間哨戒に出てくる!」

 

そのまま川内は走り去ってしまった。那珂はその遠ざかる背中を、見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・改二

第二次改装を完了したCMS(艦娘)を書類上そう呼称する。

改二になると、基本スペックが大幅に上昇し、また固有の能力が開花する事もあるなどして、戦力の増強に繋がる。

しかし現段階では解明されていない事柄も多く、改二になれるCMS(艦娘)は多くない。

改二適正があっても、様々な条件をクリアしないと成功しないという事も、この事態に拍車をかけている。

 

 

 

 

 

 




ルナ「少しブラックな話が出てきたな」
kaeru「兵器として扱われる……つまりそういう事なのです」
ルナ「あぁ!気が滅入る!次回予告するぞ!」
kaeru「次回、那珂と○○が改二改装!?」
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