記憶の海 〜Indelible memory〜 作:Ar kaeru Na
それでは
memory33「改二」
「うーん……脳内の記憶兵装を書き換える学習装置もあるし、改二改造用の資材もある。
新艤装を造るための機材一式も揃ってるし……
何なのこの基地!?」
「いや、一時的な泊地以外はどこも工廠あるんですから……」
まだ日付の変わらない夜。
「征原さんとルナは軽~く言うけど、記憶兵装の改装は私1人しか出来ないのよね……」
「「「よろしくお願いします!!」」」
ヨーコは背後に立つ
「………これは徹夜だな」
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時は数時間前に遡る。
「………勝手にしろっ!私は夜間哨戒に出てくる!」
川内はそう言い残すと踵を返し、基地の外へと走り去ってしまった。
「姉さん……」
神通は悲しそうな顔でその背中を見つめる。
「あの、神通お姉ちゃん」
神通が振り返ると、那珂がもじもじしながらお礼を言った。
「その、ありがと……」
その言葉に神通は目を伏せて、首を横に振る。
「いいえ那珂ちゃん、私は悪い姉です。那珂ちゃんの改二のリスクや姉さんの気持ちを無視して、基地の勝利を最優先に考える。冷酷で残酷な姉です……」
「……神通お姉ちゃんは、那珂ちゃんの改二に反対なの?」
「本心を明かすなら、改二にさせたくはありません。わざわざそんなリスクを
私だって、那珂ちゃんが消えてしまうのは二度御免です」
「じゃあ、さっき『那珂ちゃんを信じる』って言ったのは嘘なの?」
「………いえ、それも本心です。今の那珂ちゃんは昔の那珂ちゃんとは違う。ここで久しぶりに会ってから、それを強く感じました。
那珂ちゃんは、良い仲間を持ちましたね」
神通は後ろで静かに話を聞いている、奄美の
「那珂ちゃんね、さっき神通お姉ちゃんにそう言われてね、嬉しかった。
お姉ちゃん達は、何か
「…………」
「だから!神通お姉ちゃんは那珂ちゃんを信じてて!みんなが見ててくれるから、アイドルはアイドルでいられる、みんなが応援してくれるから、アイドルは頑張れる、成長できるの!
だからっ……!」
那珂は両手をぎゅっと握って、神通を見る。
神通は那珂の目を見る。その眼差しに覚悟と決意を受け取った神通は、コクリと頷いた。
神通の後ろに立っていた奄美の
「それでは、奄美基地と連絡を取りましょう」
その場に取り残されたヨーコはポツリとつぶやく。
「これ……もしかして、私が改二改造担当するパターン?」
「ヨーコさーん!早くー!」
呼ばれたヨーコは「ちょ、ちょっと待ってー!」と言って後を追いかける。
小笠原基地から奄美基地への直通回線は存在しない。そのため、一度直通回線の繋がっている横須賀を経由し、奄美基地へと繋げてもらう事になった。
通常の電波を使う通信では、深海棲艦側にも通信が傍受されてしまう恐れがあるからだ。
「こちら小笠原基地、派遣艦隊の神通です。奄美基地、応答願います」
『こちら奄美基地司令、征原じゃ。どうしたのかね、神通よ』
神通は緊張しながらも、事の経緯を簡単に説明し、那珂の第二次改装の許可を求めた。
『ふーむ、そう言われても那珂はルナ君の部隊に配属となっておるからのぅ、本人に訊いた方が良いじゃろ。ライラ君、ルナ君を呼んできとくれ』
扉が開く音が聞こえ、しばらく待っていると再び扉が開く音が聞こえた。
ごにょごにょと話し声が聞こえてくる。どうやらルナに改二について説明している様だった。
『ごめん、待たせたね神通』
「栄少尉、いつも妹がお世話になっております」
『ああいや、どうも……それで改二の話なんだけど、那珂はいるかな?』
「いるよー、少尉のお兄さん!」
『那珂は改二になりたいんだね?』
「うん、那珂ちゃんは改二になりたい!」
ルナはしばらく無言になる。那珂も静かに言葉を待つ。
『……じゃあ自分から何か言う必要は無いな』
那珂はパァァっと顔を輝かせる。ゴホンとせきばらいが聞こえ、トウの声が聞こえてくる。
『ヨーコ君はいるかね?』
「やっぱり私なんですね……」
側にいたヨーコがふぅとため息をついた。
『ヨーコ君以外にCMSの記憶兵装をいじれる人間は小笠原にはいないじゃろ?新艤装の作製は“かざばな”と“そうせつ”の技師に協力して貰っとくれ』
「いやでも、第二次改装はMW技術の中でもかなり難しいんですよ?」
『おや、かの天才と言われたMW技術者の娘で、国内でも五指に入るとも言われるヨーコ君には出来ないのかね?』
「くっ……!この言わせておけば……!いーわよ、やってやろうじゃないの!
征原さん、基地に戻ったら覚えてなさいよ!」
『
「任せて下さい征原提督。このヨーコ、命に代えても改二改造を成功させてみせます」
先ほどまでの暴言と態度は何処へやら。ヨーコは通信機の前でキレイな敬礼をするほど、態度を改めた。
「あっ、あのっ!すみません!」
後ろで控えていた吹雪が、突然口を挟む。
他の誰もが驚いていたのだが、唯一、那珂だけが吹雪の考えが分かったらしく、吹雪を通信機の前に連れて来た。
『………なんじゃね?』
「私も、改二になれませんか!?」
吹雪は思い切ったように、少し大きめな声でそう言った。
「な……!吹雪さん、さっきの姉さんの話を聞いていましたか!?
第二次改装は脳に負担をかけ、記憶兵装に障害が出る可能性があるんですよ!
それにあなたの記憶兵装はE型、改二の成功報告があるのはN型だけですし……!」
神通がそのように吹雪に言い寄る。
吹雪は多少たじろぐものの、後ろに下がろうとはしなかった。
「吹雪さんの実力なら、改二にならなくても十二分に力を発揮出来ると……」
「いいえ、それじゃ駄目なんです」
吹雪のはっきりとした言葉と声音に、神通は言葉を詰まらせた。
「ヨーコさん、CMSの力は練度を高める事によって無制限に伸び続けるものなのですか?」
「えっ、いや、それは艦娘の力にも限界はあるよ。各パラメータは近代化改修や戦闘経験を積むことで上昇していって、一定値になるとそれ以上は上がらなくなる。まぁ人間の肉体的限界に似てるかなぁ」
吹雪はそれを聞くと、再び神通に向き直る。
「私も限界を感じたんです。那珂さんが大破する直前、私は敵機を捉えていたんです」
硫黄島沖の強行偵察において、敵群を振り切る際、那珂は統制雷撃を指示し、艦隊は魚雷を放つために舵を切ろうとした。
その瞬間、高高度から急降下してくる敵艦載機を発見し、那珂は咄嗟に命令を変更した。
この急展開に大湊の駆逐艦娘たちは対応が追いつかなかった。
元々、遠征を主任務とする駆逐艦娘たちだ。戦闘経験が少なかったのだろう。
しかし吹雪は、この突然の出来事にも冷静に対応できた。那珂に爆撃しようとしている敵機を捉え、砲を向けていたのだ。
これは
だが、吹雪の対空射撃は命中しなかった。
それには様々な理由があるだろう。もしかしたら運が悪かっただけかもしれない。
けれど、吹雪は違うことを感じていた。
「でも私は敵機を撃墜出来なかった。そして基地に戻ってきて感じたんです。『もし次、同じ様な事態が起こっても、今の私ではあの敵機を撃墜出来ない』って。
だから私は、みんなを守る為に、那珂さんと一緒に、私も改二になりたいです!」
あまりの熱意に神通は言葉を失っていた。
通信機の向こうにいるトウも『うーむ』と唸るだけだった。
『……征原司令、吹雪もどうにか改二に出来ないでしょうか?』
「少尉……!」
通信機からルナの声が聞こえてくる。ルナのその言葉にトウは更に唸るだけだったが、ルナは吹雪に向かって問いかけた。
『吹雪、それが君の選択なんだね?』
「はい……!」
『リスクを冒してまでの事なんだね?』
「………はい!」
吹雪は力強く答えた。ルナが『お願いします』とトウに頼む声が聞こえる。
通信は声だけで姿は見えないのだが、トウに向かって頭を下げているルナの姿が想像できた。
『………さっきも言ったろうに。吹雪はルナ君の部隊所属じゃ。ルナ君が良いならワシは何も言わんよ』
「司令……!ありがとうございます!」
「ええーーッ!?良いんですか征原さん!吹雪ちゃんは、その……!」
ヨーコが物凄く驚いた感じに声を上げた。そして通信の受話器を神通から奪い取り、凄まじい剣幕で何かを喋る。
しかし、トウが一言『良いのじゃ』と言うと、ヨーコは渋々と引き下がった。
それと入れ替わりに島風が前に出る。
「ねぇねぇ私も改二になれないのー?吹雪ばっかりズルいよ~」
「それワタシも思ってたデース!テートク、ワタシもワタシもー!」
島風がそう言い始めたのをきっかけに、他の
ヨーコや神通が何を言っても
『あー、ヨーコ君。とりあえず全艦に改二検査してやっとくれ』
「何だとこの老いぼれ!軽く言うけど作業するのは全部私なんだぞーー!!」
ついにヨーコがキレて、ギャーと騒ぎ始めた。
『ヨーコさん、大変だとは思いますがこれには我々の未来が掛かっています。第二次改装、どうかお願いできないでしょうか?』
ルナがそう嘆願すると、ヨーコはピタリとフリーズし、曇り空が突然晴れたかの様な状態になった。
「あぁもぅ!ルナにそうお願いされたら、やらないわけにはいかないじゃない♡」
ヨーコは身をよじらせながら幸せそうな笑顔を浮かべている。
通信機からも小さな声でルナが『やっぱりこの人ショタコンなんじゃ……』とドン引きしていた。
トウも焦ったように『ヨーコ君!ヨーコ君!』と呼び掛けている。
『はぁ……もうどうにもならんな。とりあえずN型の第二次改装はマニュアル無しでもヨーコ君ならやってくれるな。
E型の記憶兵装のデータを横須賀経由でそちらに転送する。パスはいつものヤツの3つ目じゃ、よろしく頼むぞ』
「任せてっ!」
ヨーコはこぶしをグッと握りガッツポーズを取る。そして通信は終了した。
「さぁさぁ、この天才整備士ヨーコ様が見てやるから早く工廠に行けーーっ!!」
「龍田、アイツ性格変わってないか?」
「変わってるね〜、2つの意味で」
天龍と龍田の声も今のヨーコに届くことは無く、ヨーコにに押されるようにして
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そして現在。
検査の結果、改二改造が可能な
赤城、加賀、青葉、天龍、龍田、島風は未だ改二改造が研究途中らしく第二次改装は出来なかった。
金剛はN型での改二が確認されているが、練度が足りず、記憶兵装の改造をするのは危険と判断された。
「こんな事になるなら、自主トレーニングをやっておくべきだったデース……」
「いや、金剛さん。第二次改装はそれ相応のリスクが伴います。ここはどの道諦めて下さい」
神通はそう告げる。現在、小笠原基地に戦艦は金剛の1隻しかいない。
その為、戦艦棲姫と少しでも勝負になるのは戦艦である金剛のみだ。
そんなこちらの最高戦力が、改二による記憶兵装の不具合で戦えなくなっては困るのだ。
ここは賭けに出る時では無い。金剛もそれが分かっているので、不承不承ながら了承した。
「あの、整備士殿!」
ずっと後ろで様子を眺めていたあきつ丸がヨーコに声を掛ける。
「あぁ、陸の艦娘じゃない。どうしたの?
あっ、まさか……」
「自分とまるゆも改造してほしいのであります。我々に改二はありませんので、第一次改装になるのでありますが……」
「私たちも皆さんの力になりたいのです!
第一次改装すればあきつ丸は航空兵装を使用可能になりますし、私は記憶領域が拡張されます。
微力だとは思いますが、弾除けぐらいにはなります!お願いします!」
あきつ丸とまるゆは腰を直角に折り曲げ、頭を下げて懇願する。
「んあぁ〜……まぁ、この際だからやってあげるわよ。でも、陸軍の許可は取ってあるの?」
「それはこれからであります!」
「オイオイオイ……じゃあ一緒にあなたたちの記憶兵装のマニュアルも貰ってきて。NーⅡ型のMWは前にさわったけど、陸軍のヤツはわからないからね」
「了解です、あきつ丸!」
「よし、部隊長殿に話をつけるぞ!」
あきつ丸とまるゆは駆け足で工廠を出ていく。
ヨーコは服の袖をまくると那珂と吹雪を見る。
「それじゃ第二次改装を始めるけど、覚悟は出来てる?記憶兵装に関して私がミスる事なんて無いと思うけど、那珂は以前からの事故が起こるかもだし、吹雪のE型は初めてだからよく分からないわ。
それでもいいのね?」
「アイドルに二言は無いよ!それに整備士のお姉さんは天才なんでしょ?」
「私はヨーコさんを信じてます!」
「うっ……心に刺さる事言ってくれるわね」
ヨーコが苦笑いをしていると神通が心配そうな表情で、ヨーコに改めてお願いする。
「エイ整備士、よろしくお願い致します」
「そんな不安そうな顔しないで……大丈夫、上手くやるわ。私に任せなさい」
神通は無言で頭を下げる。
「さぁ、第二次改装を始めるわよ!」
to be continued……
ルナ「やっと出番がきたな!」
kaeru「ですが後は出ません」
ルナ「」
kaeru「次回、硫黄島を取り戻せ」