記憶の海 〜Indelible memory〜   作:Ar kaeru Na

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ペースを崩さないよう頑張ります

それでは


memory34「本土近海邀撃戦開始」

 

 

memory34「本土近海邀撃戦開始」

 

 

「夜明けまで後2時間、那珂と吹雪の改二改造は間に合うんだろうな?」

 

「あきつ丸さんとまるゆさんの改造は終了して、今は艤装チェックの段階らしいですが……

那珂ちゃんと吹雪さんはまだ……」

 

作戦会議室(ブリーフィングルーム)

 

整備士ヨーコによる改造作業が行われている間、残ったCMS(艦娘)たちは占拠された硫黄島を奪還し、敵艦隊を迎撃するための作戦会議をしていた。

 

「ジンツウ、センダイは……?」

 

「姉さんは夜偵で夜間哨戒を続けています。基地レーダーや逆探もあるので大丈夫だとは思うんですが、聞かなくって……

那珂ちゃんの改二がよっぽど嫌なんでしょう……」

 

金剛の言葉にそう答える神通の顔は暗く沈んでいる。

 

「今度のナカなら大丈夫デース!センダイもそれは感じてるはずデスヨ。

案外あんな事言った手前、顔を合わせるのが恥ずかしいだけかもしれまセン」

 

「あぁ、アイツの性格ならあり得るかもな」

 

天龍がおどけてそう言う。神通はそこで気付いた。

彼女らがわざとその様に言い、今この場の空気を少しでも明るいものにしようと努めているのだと。

 

(私とした事が……自ら悪い雰囲気を作り出し、士気を下げてしまうような事をしてしまうとは……)

 

神通はその事を反省しつつ、改めて作戦を説明する。

 

作戦の準備として、まず夜明け前、潜水艦Uー511が哨戒線をかいくぐり、敵勢力圏内に潜入する。

 

この最大の目的は潜水艦の隠密性を活かして行なう雷撃。つまりは伏兵である。

しかし、敵も当然のように対潜警戒をしているだろう。潜入出来るかには運の要素も絡んでくる。

 

もし発見されてしまった場合、Uー511は囮となる事が決まっていた。少しでも敵戦力を誘引し、戦力差を埋めるための、文字どおり囮となる。

 

「ユーさん、この任務にはあなたの命の危険があります。遂行不可能と判断した場合は即座に戦闘から離脱、自らの安全を優先、確保して下さい」

 

Jawohl(了解)、頑張る」

 

Uー511が出撃し、夜が明けたら作戦第一段階の開始である。

 

おそらく敵は夜明けとともに空襲を仕掛けてくると予想された。

敵艦隊には空母棲姫だけではなく、ヌ級やヲ級などの通常の航空母艦もいる。硫黄島から基地のある父島までの距離は直線でおよそ250km。

白い球体状の新型艦載機で無くても、十分に届く距離だ。

 

第一段階では赤城、加賀の偵察機で航空索敵を行い、敵艦載機群を発見した場合は、汎用護衛艦『かざばな』と『そうせつ』のスタンダードSAM(艦対空ミサイル)で迎撃する。

 

艦載機には深海棲艦特有のエネルギーフィールドは発生しないらしく、通常の対空兵器で対抗が可能だった。これは人類側に取って唯一の救いである。

 

艦載機に通常兵器をほぼ無効化するエネルギーフィールドが発生しないおかげで、人類側は大規模な空襲を受けても、多大な被害を被る事無く済んでいるのだ。

 

新型艦載機は機動性が高く、ミサイルは避けられてしまうかもしれないが、従来の艦載機なら十分に通用するだろう。

そして数が減じたところを、一航戦の2隻が追撃する手筈となっている。

 

この防空網をすり抜け、なお基地に迫る艦載機は護衛艦の防空システムに頼らざるを得ない。

しかし、SSM(シースパロー)などで迎撃出来る猶予は限られている。その為、少なからず基地に被害は出ると予測された。

 

第一段階の目的は、基地に来襲する敵機群の数を減らし、基地への被害を最小限に留める事だった。

 

迎撃が終了、もしくはそれに類する状況となった場合、作戦は第二段階へ移行する。

 

第二段階では敵主力である空母棲姫、戦艦棲姫を攻撃する部隊を中核艦隊とし、その前衛に2~4隻のCMS(艦娘)で構成された少数部隊を配置、硫黄島までの道中を切り抜ける事を目的とされた。

 

前衛少数部隊は第一から第四小隊までとし、対潜、対空、迎撃部隊の攻撃から中核艦隊を守る事が主任務だ。

 

ここでのポイントは、いかに中核艦隊を損耗させずに敵主力にぶつけるかに絞られる。

 

その為に、時として前衛部隊は中核艦隊の盾に徹することとなる。それがたとえ轟沈に繋がるものでも。

 

硫黄島に接近できたら、作戦は最終段階に移る。

中核艦隊は敵主力に突撃、戦艦棲姫と空母棲姫を撃沈し、硫黄島を奪還する。

 

「でも、私たちが全員で出撃しちゃって大丈夫なの~?敵の別働隊が基地に攻めてきたら危ないんじゃない?」

 

「いいえ龍田さん、この戦いは後手に回ると負けます。深海棲艦の戦力は無尽蔵。倒しても倒しても湧いてくる敵を逐一迎撃するのではこちらが消耗し、いずれすり潰されます。

この状況を打破する為には、司令塔である姫級2隻を撃沈するしかありません。

司令塔である艦が沈めば、深海棲艦は統率を失い、それ以上の攻勢は不可能となるでしょう」

 

「まぁ……一応、理には適ってるわねぇ。リスクを負わなきゃ、作戦遂行は出来ないってわけね」

 

龍田の言葉に神通は静かに頷く。

 

CMS(艦娘)が姫級を沈めるのが先か。

深海棲艦がCMS(艦娘)を沈めるのが先か。

 

その事実を、部屋にいる者全員が理解し、同時に決意を固めていた。

 

この戦い、負ける事は許されない。

たとえ相討ちになろうとも、深海棲艦をこれ以上進撃させてはいけない、と。

 

「お待たせ致しました!艤装チェックが完了したであります!」

 

ちょうど、タイミング良く第一次改装を終え、艤装チェックが完了した陸軍のCMS(艦娘)、あきつ丸とまるゆが部屋に入ってきた。

 

「ちょうどこっちも作戦説明が……ってあれ、あきつ丸さんが黒くなってるじゃないですか!」

 

青葉があまりの変わり様に声を上げた。元々、灰色の服装だったものが、第一種軍装を思わせるような黒い制服へと変わっている。

 

「黒くなっただけでは無いのですよ。記憶領域が2つから3つに増え、航空艤装も使用可能になったのであります」

 

あきつ丸はくるりと後ろを向く。背囊(はいのう)のような機関部艤装に、大発動艇を格納する為の特殊艤装。

それに取り付けられるように、巻物のような艤装が新しく装備されていた。

 

「と、いっても搭載数は全24機。サポートに徹するしかないのでありますが」

 

「元々、あきつ丸さんは海上戦闘艦娘では無いですからね……でも、私たち空母が負傷して、発艦している艦載機の収容が困難な時はとても助かるわね、加賀さん」

 

「まぁ、期待はしているわ」

 

「こ、このあきつ丸には勿体無いお言葉!進化したあきつ丸、全身全霊で戦う所存であります!」

 

あきつ丸はビシッと敬礼をしてみせる。

そして青葉はとなりのまるゆを見る。

 

「まるゆさんは……外見は変わって無いですね」

 

「そうなんですよ、あきつ丸だけズルいですよね。でも、私も記憶領域が拡張されて雷撃も出来るようになりました!」

 

そもそもまるゆは潜行輸送艇であり、戦闘潜水艦では無い。そんなまるゆが雷撃を行えるようになったという事は、素晴らしい進化と言えるだろう。

 

「それと、技師の皆さんのおかげで艤装の性能もアップしまして、潜行したままの海中航行が可能になりました!」

 

「本当ですかそれ!」

 

「まぁ船速(あし)は相変わらずですけど……」

 

「………マル・ユー」

 

「きっ、キルユー!?」

 

Uー511がキラキラした瞳でまるゆを見ている。当のまるゆはびくびくと後ずさる。

 

「ユー、マルユーと一緒に作戦やりたい」

 

Uー511がピッと挙手をして神通にそう言った。

神通は少し悩む素振りを見せるとまるゆに作戦の事を説明し、訊ねる。

 

「この作戦には命の危険が伴います。それに陸軍の皆さんは戦闘に巻き込まれただけで、この作戦に参加する義務はありません。

それでも、私たちに協力して頂けるのなら、是非ともお願いします」

 

神通は頭を下げた。まるゆは慌てたように言う。

 

「頭を上げて下さい!まるゆもCMS(艦娘)のはしくれ、陸軍の代表として私も戦います!」

 

「自分も忘れないで頂きたい!」

 

「……ありがとうございます。共に頑張りましょう」

 

神通とあきつ丸、まるゆは固く握手を交わした。

そしてその数十分後、作戦の準備段階、潜水艦娘2隻による敵哨戒線突破が決行された。

 

暗闇の海に、Uー511とまるゆが消えていく。CMS(艦娘)の中で一番危険な任務を請け負うのだ。CMS(艦娘)たちはその姿が見えなくなるまで見送った。

 

再び作戦会議室(ブリーフィングルーム)に戻ると、ヨーコが椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。

 

「天才整備士様じゃないか、仕事は終わったのか?」

 

「やぁ天龍、那珂と吹雪の改二改造、やっと終わったわ〜。那珂は失敗しないように慎重にやったし、吹雪のE型は初めてだから時間が掛かっちゃった。

そろそろ起動してる頃じゃないかしら?」

 

ヨーコがそう言うと同時、改二改造を手伝っていたらしい技師が顔をみせる。

 

「ヨーコ整備長、N型とE型のCMSの目が覚めました」

 

「ほーらビンゴ、じゃあちょっとこっちに連れて来て貰えますか?」

 

技師は了承の意を伝えると敬礼をして部屋を出て行く。そしてすぐに那珂と吹雪がやって来た。

 

「おぉ……」

 

「oh!何か強そうになっちゃってマース!」

 

那珂は改造前に着ていた橙色の服と似ているデザインの制服を新しく着ている。

しかし以前と違い、スカートには可愛らしいフリルが付き、全体的に見てアイドルの衣装のようだ。

 

「強そうと言うか……アイドルっぽくなってません?」

 

青葉が首をかしげながら神通に訊ねる。神通は苦笑いしながら答える。

 

「改二には大きく分けて2パターンあってですね、1つが『強い意志や思いの表れ』なんです」

 

「あぁ……なんとなく分かりました。那珂さんはアイドル志望ですからねー……って、改二にまで表れるなんてどれだけアイドル意識高いんですか!」

 

「アイドル志望じゃなくてアイドルだってばー!」

 

那珂のその物言いに全員が「そっちを訂正するのか」と心の中で突っ込んでいた。

 

武装を見てみると、腰についていた魚雷発射管は太ももに、対空力を強化したのか肩には通常兵器の機銃が備わっている。

それに伴い、21号対空電探も通常装備として持ってきていた。

 

「何か不具合とか、変な所は無いかな?」

 

「うん、大丈夫!整備士のお姉さんありがとー!」

 

那珂はくるくると回り、はしゃぎながらヨーコに礼を言った。その姿を神通は憂いの目で見つめていた。

 

「私だって改二になりたかったのになぁ。吹雪ばっかりずるいよ〜!」

 

「そう言われても困るよ、島風ちゃん……」

 

対する吹雪はかなりの変わりようで、紺色の制服は黒色の制服に変わり、艤装も背負うタイプから腰に装着するタイプへと変わっていた。

 

「吹雪ちゃんはどんな所が強化されたのですか?」

 

赤城が椅子に座っているヨーコにそう質問する。同じE型のCMS(艦娘)の初改二である。そのスペックは全員が気になっていた。

 

「まず過去の艦艇の記憶によって、回避と索敵が高くなってるわね」

 

「やはり……サボ島沖ですか?」

 

「いえ、個人的にはバタビア沖かと。……って、青葉さんがそれ言いますか?」

 

「あぁいや、そういう訳じゃ……ゴメンナサイ」

 

吹雪の無言の圧力で、青葉はカタコトに謝った。

 

「その腕に付けてるのは何かしら〜?」

 

「これですか?なんかよく分からないんですけど高射装置?とかなんとか……」

 

当の本人も初めてな物なので、まだ分からない事が多いようだ。そこでヨーコがコホンと咳払いをする。

 

「94式高射装置、簡単に言えば対空用の火器管制装置ね。高角砲と一緒に使えば、高い対空能力が発揮出来ると思うわ。

あと吹雪改二は13号対空電探改も通常装備だから、ある意味『防空駆逐艦仕様』ってわけ」

 

その後、高射装置なんて初めて調整したわー、とヨーコは独り言のように呟いていた。

 

「異常なまでの対空強化ですね。那珂の様に全体的にスペックが上昇するのではなく、能力値は平均的に、しかし突出したステータスを持つとは面白いですね」

 

赤城の隣にいた加賀が、吹雪の状態をそう分析する。

 

「おそらく……私も『意志や思い』が表れているんでしょうね……」

 

吹雪は静かにそう呟いた。

そのため、吹雪の声が他のCMS(艦娘)たちに届く事は無かった。

 

そんな2人の前に神通が立つ。

 

「那珂ちゃん、吹雪さん。改二改造、現段階では成功おめでとうと言っておきます。

でも、もとより改二改造はあなた達の存在に必要な記憶兵器に、後から手を加えるというもの。ブラックボックスも多く、大体の改造には“if”が伴います」

 

2隻はゴクリと唾を飲む。

既に失われたモノが再びこの世に在る為には、過去の存在証明、すなわち『歴史』、そこから成る『記憶』が必要となる。

 

記憶兵器はこの存在証明を操作する兵器だが、その為には『記憶』の裏付けである『実際に起きた出来事』、『事実』という『歴史』が無いと、能力は発揮出来ても不安定なものとなる。

 

if、つまり『もしも』の記憶には当然の事ながら裏付けとなる事実は存在しない。

 

那珂ならば、艦艇時代に自身がアイドルなどという事実は存在しない。

吹雪ならば、艦艇時代に94式高射装置など対空力を大幅に強化する改造が行われたという事実は存在しない。

 

赤城がトラック泊地より譲り受けた烈風六〇一空なども、案はあったが実現はしなかった。

 

「ifの記憶は強大な力を持ちますが、時として、思いもよらぬ事故を引き起こす場合もあります。その事を心に留めておいて下さい。

那珂ちゃんは前例が全て失敗、吹雪さんはE型初の改二です。戦闘行動中に、記憶兵装に支障をきたす場合があるかもしれません。

覚悟は良いですね?」

 

神通の目は普段のそれと違い、川内型軽巡洋艦にして第二水雷戦隊旗艦であった、軍艦神通としての鋭くも無機質、それでいてその奥には人知れぬ感情が渦巻く眼差しで2隻に問い掛けた。

 

「はいっ!覚悟の上です!それに、ここで沈む気など毛頭ありません!」

 

「神通お姉ちゃんってば心配し過ぎだよ〜、那珂ちゃんは大丈夫だから!まだ公演ツアーもやってないのに沈んでいられないよ!」

 

2人の言葉に神通は普段の凛々しい目つきに戻って微笑んだ。

 

「そうですね。こんな所で沈む理由がありません。必ず、全員で生きて戻ってきましょう!」

 

神通の言葉にCMS(艦娘)たちの声が重なる。

 

夜明けは近い。CMS(艦娘)たちは出撃の準備を進めるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ホント、運が悪いな(おれぇ)は……あの大発動艇に乗り損ねるとは……」

 

ーー硫黄島。

 

深海棲艦に占拠されたその島に、1人の男が取り残されていた。

 

「まぁ、元々自分はここに居ないはずの人間だからなぁ〜、書類上は休暇になってるだろうし、部隊の収容名簿に載ってなかったんだろうな〜。

それで、全員撤退したと思って父島に引き上げちまったってワケか。笑えるな」

 

男は茂みをガサガサとかき分け歩いていた。

その理由は「深海棲艦」を間近で見るため。男は致命的に馬鹿だった。

 

「せっかくやっこさんのフトコロにいるんだ。深海棲艦の(つら)を拝んでからでも悪くは無かろう。父島までだったら泳いで帰れそうだしな」

 

男は深海棲艦をその目で見た事が無かった。部隊にいる時は、遠く沖合にいるのをちらと見たくらいで、深海棲艦がどのような奴らなのかはデータベースでしか見た事は無かった。

 

「おっ?そうなると、おれぇは逆に運が良いんじゃないか?深海棲艦を間近で見たやつなんてそうそういないし、まだデータベースにない情報を得る事が出来れば……!

へへっ、出世間違いねぇな!」

 

その時、映画の怪物の様な鳴き声が正面から聞こえてきた。男は咄嗟にその身を地面に伏す。

 

「……近いようだな」

 

男は音をなるべく立てないようにして匍匐(ほふく)前進で前に進む。

 

茂みがなくなる辺りに身を潜め、望遠鏡で海岸を見る。

 

「おぉ!いたいた、アレが深海棲艦……」

 

海岸には駆逐や軽巡、人型の奴などと様々な深海棲艦が停泊していた。

 

男はカメラを取り出し、その様子を撮影する。

 

「確かに、ありゃあバケモンにちげぇねぇな。あんなのに陸地を攻撃されたらおしまいだなぁ。

あぁ、硫黄島も素晴らしい所なのに、奴らの手に落ちてしまうのか。はたまた、我らが艦娘殿が取り戻すのか。

ま、おれぇにはコレくらいで十分さね」

 

深海棲艦の様子をあらかた撮影した男は、望遠鏡をカバンにしまい、反対側の海岸に出ようと地図を見る。

 

「えーと?見てたのが南海岸で……あれが摺鉢山、ってこった今はここら辺か。じゃあ井戸ヶ浜から逃げればいいな」

 

男はもと来た道を少し戻り、西海岸の方へと歩を進める。

やがて海岸が見えてくると、男は驚きの余り目を見張った。

 

「な……こっちにも深海棲艦が居たのか……」

 

しかしさっき見かけた奴らとは大分容姿が異なっている。巨大な大砲は無く、その代わりにお腹にあたる部分が大きく膨れていた。

 

「データベースで見た事あったぞ……確か、輸送ワ級。深海棲艦どものライフラインであり、最近じゃ陸の侵蝕もワ級がって話があったな」

 

男は考察する。

何故、輸送艦だけが別の場所に停泊しているのか。

もし艦娘たちが最初の情報を頼りに南海岸を攻めてくるなら、戦闘の出来ない輸送艦は逃がさなければならない。

それに西海岸は父島から見て、硫黄島の反対側、攻めて来るまでに一番遠い場所。

 

「つまり……輸送艦は撃沈されないようにここにいるわけか。深海棲艦も考えてんだなぁ」

 

考えても考えがまとまらなかったため、適当に結論付ける。そこで男は気付く。

 

ここで、輸送艦の位置を小笠原基地に伝えれば、逆に深海棲艦の裏をかける!

 

深海棲艦は陸を取りに来たんだ。輸送艦が沈んでしまえば、陸地に攻撃は出来ても、奪い取る事は出来ない!

 

そしておそらく、この事に気付いたのはおれぇ1人!

 

「ふふふ、成る程成る程、どうやらお天道さんはおれぇの味方のようだ。

確か、ここの飛行場に小笠原との通信施設があった筈、それでこの事を伝えりゃあおれぇは勝利の立役者ってわけだ!」

 

男がそうニマニマしていると、ワ級の膨らみがガタンと開いた。まるで揚陸艦が中の物資を運び出すように。

 

「ん?」

 

瞬間、背後に察した気配に振り向くと、そこには黒いドロドロとした人型の何かが立っていた。

 

「ひっ!」

 

黒いドロドロは腕のような部分をシャァッと伸ばし男に襲いかかる。

 

男は横に転がって避けたが、腕が突き刺さった地面は色を失い、ボロボロと崩れ去っていく。

 

そして、ワ級の膨らみからは同じ黒いドロドロが溢れ出し、陸に向かってゆっくりと進んで行く。

通った場所は同じように侵蝕され、ボロボロと崩れ去っていく。

 

「こっ、こいつが……深海棲艦の陸戦隊!?」

 

目の前の黒いドロドロはなおも攻撃を続ける。

男は肩にかけてあった突撃銃をドロドロに向けて発砲する。

 

銃弾の当たった箇所に穴が開き、ドロドロは人の形を崩して、バシャリと地面に広がる。

 

「はっ、はっ、はあ!艦載機と同じく、エネルギーフィールドは張れないようだな!

助かったぜ…………ぃい!?」

 

倒したと思った地面に広がる黒いドロドロは、ゆっくりとだが再び人型の姿に戻ろうとしていた。

 

「ぐっ、銃が効かねえ!そんならコレだ!」

 

人型に再び戻られる前に、男はグレネードを投げつける。

 

ドォォンと音を轟かせ炸裂するグレネード、黒いドロドロは辺りに飛び散ったが、同じように再び集まってくる。

 

「ちぃ、通常兵器は効かねえってことか!」

 

そこで自分の失態に気付く。

 

派手にグレネードなんておっ広げたせいで、ワ級たちがこちらに気付いたじゃないか!

 

ワ級は備え付けの砲で男を狙い撃つ。

 

CMS(艦娘)にすれば何て事はない砲弾だが、生身の人間には爆風に煽られただけで死ぬ威力がある。

 

「南無三ッ!」

 

男は全力で後ろに走り飛ぶ。背後で閃光が炸裂したと思ったら、耳をつんざくような轟音と共に吹き飛ばされた。

 

「………生きてる!ははっ、ヘタクソめ。それにしても、味方の奴もろともかよ……」

 

今の砲撃で、黒いドロドロは消し飛んでしまったようだ。しかし、ワ級の膨らみからは同じドロドロが溢れ出している。

 

「とりあえず、飛行場方面に逃げるかなっと!!」

 

黒いドロドロが横から男に迫っていた。男はもう一度グレネードを投げて、ドロドロが散って集まるまでの間に走り出す。

 

走りながらも、カメラを取り出しその場を撮影する。どうせブレてしまっているだろうが情報は多いほど良い。

 

高台まで逃げると、男は息を整える。

だが、息を整えるより先に、海にいる奴らをみて息が止まった。

 

「アレは……戦艦棲姫と空母棲姫!?」

 

遥か彼方、海と陸という距離を隔てても、その存在感は圧倒的であった。

 

戦艦棲姫の後ろにたたずむ、巨人の様な何かが、その巨大な砲塔をこちらに向けるのが分かった。

そして届かないはずの声が響く。

 

『シズミナサイ………!』

 

「バカヤローー!陸でどう沈むんだよこのぱっぱらぱー野郎!!」

 

男は死にもの狂いで高台から転げ落ちるように逃げ出す。

 

 

 

 

次の瞬間、高台は消滅した。

 

 

 

 

to be continued……

 

ー物語の記憶ー

 

・94式高射装置

対空高角砲と一緒に使用する火器管制装置の1つ。目標の位置、高度、速度などを測定し、対空射撃で最大の効果を得るためのデータを算出する。

91式高射装置の上位互換版だが、当時だと微妙な性能だったという。

 

・13号対空電探改

小型電探、13号電探の改良版。当時の物は名称が変わる程の改良はしていないが、記憶兵装として生まれ変わっている。

そのため多少ifの記憶兵装になっている。

 

 




ルナ「ついに改二になったか……でもそんなにレベル上がってるのか?」
kaeru「細かい事はいいんです。ほら次回」
ルナ「次回、前哨戦」
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