東方畢竟訖 〜in Other Worlds.   作:LOORUME

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プロローグ 為す術無し

「お〜い、霊夢〜」

 

 そんな穴の空いた風船から出る空気みたいな声しか出せず、さらに私はうつ伏せのまま動けなかった。何故か力が入らないんだ。

 

「…なによー…」

 

 何度か呼びかけてるうちに気がついたらしい。霊夢の声も些か覇気が無いものだった。

 

「怪我、無いかぁ?」

「無いわよ。あんたこそ、高いところから落ちたでしょうに」

「私は気絶しなかったから、ちゃんと受身をとれたぜ」

「それにしても、ねぇ」

「ああ、弾幕ごっこやってる最中になぁ」

 

 ことの発端は突然だった。忽然と何処かに行ってしまった二人の行方を頭の片隅に、暫く霊夢と神社の境内で弾幕ごっこをやり続けていた。途中、萃香が来て酒を飲みつつ小休憩をとったりしたが、またのそのあとも弾幕を撃ち続けていた。

 そんなとき、全身から力が抜けたのだ。一時(いっとき)では無い、今も続いている。

 アル中か?とも思ったが、先程飲んだ量なんていつもの十分の一にも満たない。むしろハイになるほど充分に飲めてなかった。

 

「すいかぁ〜…」

 

 途中から来た萃香は、私たちの弾幕の何が面白いのかゲラゲラ笑いながら見物していた。弾幕は酒の肴になるのだろうか?なるまい。

 

「……」

 

 返事なし。萃香は気絶しているか、声も出せないほど疲弊しているということだ。

 それにしても意外と冷静だな、私。体を動かせない以上、他のことにしか意識を向けられないからかな。

 

「魔理沙ぁ、これってやっぱり異変かしら?」

「…そうだと思うぜ?」

 

 ふと見上げると、妖精数匹が姦しくぱたぱたと飛んでいた。

 異変時の反応ならば妖精は問答無用で弾幕を撃ってくる。しかし今はどうだろう。通常時のそれである。

 

「はぁ…だめだわー。体が言うことを聞いてくれない」

 

 何故妖精は影響が少ないのだろうか。妖精と言えどこの異変の影響を受けているに違いない。しかしながら、これはそう、異変だ。異変と言えばいつもなら妖精が活発に動き、力も増すはずだ。つまり今の妖精の状態は力がプラマイゼロといったところか。

 

「おいおい博麗の巫女さんよ。あんたがそんなんでどうする?」

「しょうがないじゃない。勘も働かないのよ〜…」

「勘って、紫が境界で操ってるのか?色々と」

 

 以前、影で紫が暗躍した異変『無鏡異変』では、彼女が境界を操り私達の判断力や勘を鈍らせたこともあった。

 

「まさか、紫がここまで人を巻き込む訳無いじゃない。するとしても精々わたしと、アンタくらいよ」

「それもなんだかなあ…」

 

 とばっちりと言うか、何というか。

まあ何が何にせよ、飛ぶどころか立ち上がれさえ出来ない私達はなす術もなく、早く異変が終わりますようにと願うのが関の山だった。

 

 

 カオスだ。この光景はその一言に尽きるだろう。

 ここは人里の大通り。魚屋、八百屋、肉屋、酒屋、雑貨店など多くの店が立ち並んでおり、いつも人で賑わっている。

 そんな中で私はとある団子屋の、通りに面した長椅子で横になっている。いや、そうじゃなくて起き上がれないんだ。

 前の道では同じく意識はあるが立ち上がれない人達大勢と───

 

───燃え尽きることなく、かといって燃え広がるわけでもなく。しかし何も仕様が無いため、道端で仰向けになり、ただ青空を燃えながら見つめる妹紅と───

 

───最早暴れる気力さえなく、肩から上は地中に埋まっている状態の烏天狗…おそらく射命丸文が居た。

 

 何だこれは。どうしてこうなった。

 とりあえず少し前までの状況を整理しよう。およそ半刻(一時間)前、私は普通に歩いていた……

 

 

「おう慧音。こんなところで会うなんて奇遇だな」

「奇遇かな?まあいいさ。なにか人里に用事なのか?妹紅」

 

寺子屋での授業も午前中で終わり、さて腹には何を入れようかと考えている時、道端で偶然妹紅と出会った。

 

「ま、奇しくも遇してはいないかな。(ぐう)されには行くが」

「なんだ買い物か」

「うん、たまにはね」

 

 妹紅も最近人里に興味を示し始めている。これは大変良い傾向だ。

 折角長生きするのだから、彼女には人生、いや蓬莱人生を楽しんでもらわねば困る。

 時を見計らって、子供との交流もさせようかと企んでいるが、それはまだ後になるだろう。

 

「買い物なら丁度良かった。どうだ、一緒に昼飯でも」

「いいよ」

 

 ということで同伴者が決まり、何事も無く食事は終わった。因みに食べたところはおでん屋の屋台。昼だからか空いてたのも選んだ理由の一つだ。

 私は主に腹にたまり、しかし栄養バランスの良い物を。例えばこんにゃくや餅巾着やちくわ、大根など。

 対して妹紅は尻馬に乗るが如く珍しいタネを片っ端から食べて行った。いやむしろ彼女は確固としてそういう具材を選びそうだが。

 

 ただ妹紅が何か物足りないようで、歩いてる時に、適当に団子でも食べないかと誘ってきた。しょうがないので、美味しい店を知っているからそこに行こう、と妹紅を誘うのだった。

 

 

「なあ妹紅」

「んー?」

 

 今は大通りに面した長椅子に座りながら、茶屋を背に団子を食べている。賑わう人達を見るのも悪くないものだ。

 

「人里に何を買い物に来たんだ?」

「あっ、そういえば。うん、ちょっと焼き物をね」

「陶磁器か…ってちょっと忘れていたでしょう」

「あはは…」

 

 本当に気まぐれな奴だな。誘った私が悪いのか?まあそれはそれとして、陶磁器か。彼女も元は貴族だ、そういう趣味があっても不思議ではない。

 

「焼き物かぁ…」

「どうしたんだ、妹紅」

「いやね、焼くといえばこの団子も焼いたら美味しくなるのかなって…」

 

 今食べているのは焼き団子。もう焼いてあるだろ。

 

「…まあいい、面白そうだから。だがせめてみたらしにしとけ。あと火力は最小限にな?」

 

 その言葉を聞くと妹紅は喜びの表情で立ち上がり、私から数メートル離れ、焼き始めた。まるで満点の星空を見ている子供のように楽しげな表情だ。

 

 そんな時だ、異変が起きたのは。

 道行く人々が、全身の力が抜けたかのようにいきなりバタバタと倒れだした。一瞬外の世界のフラッシュモブでも見てるのかという気分になった。

 勿論私も例外では無く、妹紅がさっきまで座っていた席に頭ごと突っ込んだ。

 ふと、妹紅の方を見ると案の定彼女も仰向けに倒れていた。しかも燃える団子がちょうど白い髪の上に落ち、燃え移った。そのままじりじりと髪は炎を大きくしていく。

 妹紅からSOSの目線を受け取ったがどうしようもない、と目線を返すと途端に彼女の目は悟ったようなものになった。諦めたのだろう。

 彼女の傷は、蓬莱人という体質上傷はすぐに癒える。ゆえに妹紅は燃え尽きることのない火だるまになってしまったのだ。

 

───ゴオオォォ…

 

 どこからか風切り音が聞こえてくる。いや、何かが落ちてくる。と思った時には既に遅い。

 

───ズゴッ

 

 メゴッ、だったかもしれないが其れはどうでもいい。目の前に突っ込んできたのは射命丸文。どうせ最高最速で新聞配達(投げ入れ)をやっていたら制御が利かなくなったんだろう。自業自得だ。

 肩から埋まってては何も出来ないので、せめて起き上がろうと必死に力を入れてたが腕がピクリと動く程度だった。

 こんな未曾有の危機のはずなのに、なんだかどうでも良くなった。

 ふあぁ、と一つ欠伸をして眠りに就くことにした。

 

 

「青い巫女、いざ勝負!」

「ふふ、かかって来い。青き氷精よ!」

 

あたいの前に立ちはだかるのは青い巫女。たしか、こちら妖怪の山 諏訪湖前 守矢神社さんとかそんな感じの名前だ。

 

「こち守め、あたいの技を食らうがいい!」

「コチモリ?…って、それって『こち』しか合ってないじゃないですか」

「お前なんて名前だっけ」

東風谷(こちや)早苗です! 覚えてくださいよ」

「分かった分かった。改めてよろしくね。こっちや真田」

「誰ですか真田って。あとどこに連れて行かれるんですか、チルノさん」

 

 真田が誰かと問われても、真田と答えるしかない。しかし真田に名乗られたのだから、あたいも早く名乗らねばなるまい。

 

「あたいの名前はチルノってんだ」

「知ってますよ。 …え、私言いましたよね?」

 

真田で思い出したけど守矢神社にサナエっていう巫女が居たような。そういえば最近会ってないな。あと神様の二人も居た筈だ。

 

「今日はスワコとカナコに会いたい。連れて行ってよ」

「はあ…」

 

 こうして真田と一緒に守矢神社に行くことになった。

 

 しかし着いて早々、あたいは異変に巻き込まれることとなる。

 

 

「おやチルノかい。妖精にご利益は無いけど、ゆっくりしていくと良い」

「うん、遠慮なくだよ」

 

守矢神社の住居スペースの、茶の間であたいが寝転がりながら本を読んでいると、後ろから話しかけられた。神奈子だ。

 

「それはあんたが言う台詞じゃ…いや言うのか?どうでもいいや」

 

 自分で言うのもあれだが、随分と(くつろ)いでると思う。でも神奈子の結構無関心な所もあれだと思う。あれってなんだろ。

 

「もー神奈子さま。彼女の押しが強いんでつい入れちゃいましたけど、嫌なら追い出しても良いんですよ?」

「本人の前でそう邪険に扱わなくても…。 嫌じゃないし、それにチルノも漫画に夢中なんだろう」

「む、そうですか?良いですけど」

 

 そうなのだ。あたいは今本に夢中なんだ。鐘の音みたいな名前の主人公が念能力を使って敵を倒す漫画だ。今は虫の妖怪を倒してるっぽい。

 それより、と言って早苗はお盆から急須と茶碗をテーブルに置いた。

 

「お茶、淹れましたけど神奈子さまも飲みます?」

「いや、わたしは此れから急用で出掛けるから要らないよ」

 

 王くらい強ければ盤遊びをして暮らせるのか。逆にいえば遊んでれば王。…ってことはあたいは王でありながら最強ってことだな。

 

「では、神奈子さまの分はチルノの頭に注いでおきますね」

「頂くとするよ」

「あら、急用は?」

「一緒に飲みたいのなら最初からそう言えばいいんだ」

「えへへ」

 

 正直、リアルでえへへとかって笑う少女はどうかと思う。

 

「ちょっとチルノさんそれは──おろ?」

 

 相手の言い分に対して、頭にお茶をかけようとしたお返しだ、と言い返そうと考えていると、早苗が頭から突っ伏した。その時にお茶がこぼれ、テーブルに浸水した。

 その拍子に早苗は顔から湯に浸ることとなり、

「熱い熱い熱い熱い!」

と喚いていたが、落ち着いて話を聞いてみると全身に力が入らないらしい。そのため起き上がることも叶わず終い。

 せめて仰向けにして床に転がして、とご所望だったのでバターンと勢いよく倒した。恨めしげな目で見られている時に今度退治されるだろうな、とも理解してしまったがどうしようも無いので忘れた。

 さて、先ほどから家の奥から泣き声が聞こえてきている。様子を見にいくと階段に登る途中で体が動かなくなり、そのまま落ちてしまった諏訪子だった。どうやら鳴き声だったらしい。

 一人だけそこにいるのも可哀想なので全員茶の間に転がしておく。こうして、三人が仰向けになりながら死んだ目で天井を見つめる異様な空間が出来上がった。……殺人現場みたい。

 このままだと守矢一家の家族の時間が始まりそうで、あたいがいると邪魔になるので神社から退散した。ああやって絆は深まるのかね。

 

 

 あたいはまず、幻想郷に何が起こっているのかを調べに行くとした。

 まさか守矢神社だけあのような異変に苛まれるわけ無いだろう。するとしたら理由はなんだ、仕返しや復讐か。そんなことする人なんて居るはずがな…。いる訳な…。

 うん、とにかくこれは異変だ。異変調査の基本は情報収集。あたいは色々な所に行くことにした。

 

 

 チルノが博麗神社に着くと、目出度い巫女と喪服魔法使いが境内で倒れていた。萃香は縁側の下の地面に角を刺しながら変な体勢で気絶していた。

 次にチルノが向かったのは人里。そこでは爆睡してる慧音や、感染病でも流行ったかというぐらいに倒れてる人々、燃え盛る妹紅が目立った。ちなみに文のことを可哀想だと思ったチルノは彼女を抜いてやった。すると文が泣いていたが、どうやら閉所恐怖症らしい。

 最後に向かったのは旧都。温泉で溺れている奴らもいるが、妖怪だからどうにかなるだろう、とチルノは適当に思った。

 地霊殿では、さとりとお燐とお空がツイスターゲームの終盤みたいな状態になっていた。一人だけ椅子に座っているこいしの方を見ると悪どい顔をしていたので、ああ実際にやってたんだな、とチルノは悟った。

 

 霧の湖の近くにある家に帰ってきたチルノは、この異変が誰によるものなのか、その結論を出す。

 

───あ、あたいが黒幕だわ。やべー王になっちゃった。マジメルエム。

 

 そんな訳では勿論無い。

 

 この異変は、この後、最近外の世界から来た外来人によって解決されることとなる────。

 




最初はこの閑話を1章と2章の間に入れるつもりでしたが、いい感じに書けたのでプロローグ的な位置にしました。

よろしければ引き続き、1話目をご覧下さい。
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