東方畢竟訖 〜in Other Worlds. 作:LOORUME
ゆっくりと暗くなる。傾く赤い日差しは黄昏刻。まさに今、地と太陽は触れようとしていた。
そしてわたしは丁度、例の山にたどり着いた所だ。暗くなると闇か深淵かもわからなくなるので、弾幕を利用して提灯みたいにしていた。
山の周りをぱぱっと飛んで半周し、洞窟の入り口と思しき穴を見つけたころには、あたりはすっかり闇に包まれていた。
今も、多くの人妖霊神は動けないでいる。そんな彼女らに、危険が及んだらどうする?早く、黒幕とやらを倒さねば。
気を引き締め、闇に誘い込まれるようにして洞窟の中に入って行くのだった。
♢
入り口付近では人ひとり通るのがやっとくらいの幅と高さだった。だが進むにつれ、そして緩やかに潜るにつれて洞窟は大きくなっていった。
今では高さ六メートルくらい。自由にアクロバット飛行もできる広さだ。
明かりは全く在らず、弾幕の光に頼るのみ。数メートル先まで漂わせているから、これが結構明るいのだ。
ごつごつとした岩肌はずっとずっと続く。奥からは仄かに小さな光が見える。おそらくあそこがゴールだろう。
周囲を警戒しながら進んでいくと、突如一発の弾幕がわたしを襲った。
「侵入者ね?」
そして前方から反響して聞こえる誰かの声。しかしそこにはあまり敵意が含まれておらず、いつも部屋に来ている慣れた友達にかける声という感じがした。
いや、侵入者なのに友達っていうのもおかしいか。まあとにかく、優しい感じで話しかけられた。
難なく躱した弾幕は、後ろの岩壁に当たって破裂した。
「誰です?」
「ああ、妖精じゃなかったのね」
暗闇から現れた謎の人物に問いかけたが、答えはとんちんかんだった。
………いや、そうか。いつも来てるくらい慣れた、侵入者。つまり、妖精がよく迷い込んでいるのだろう。
彼女はつり目で、そこから漂う雰囲気に、冷酷で少し怖そうな印象を受けてしまう。
相対する彼女は言葉を続けた。
「まあ、人魂を浮かばせられる妖精なんて聞いたことが無いものね。ところで、あなたって何者?」
「人魂じゃなくて弾幕です。わたしはただの人間、立見 田華。デカとでも呼んでください」
「呼ばないけどね。私は船を護る海座頭、
「そうなんですか?叶喜さんは……カナちゃんとでも呼ぼうかな」
「やめてよ、柄じゃないわ。…変わらないかどうかは、今から私が確かめてあげるわ」
「どういうことです?」
「今から私があなたを───」
───殺すの。
なんて物騒な。こうして弾幕ごっこは、否応無くして始まるのであった。
BGM:『船の墓場は面影を無くして』
無駄な集中力は使いたくない。というわけで、数メートルに及ぶ弾幕は消し、自分の傍に二つだけ配置しておいた。
「先手必勝、
必ず先手が勝つかどうかは甚だ疑問だが、とりあえず相手のスペカだ。
闇を多く残す岩肌に射す強い光。その光源である叶喜さんは、見るのも辛いほど眩い。
このままでは迫る弾幕に被弾してしまう。かといって相手の方向をまともに見たら失明してしまうかもしれない。
だから、手で目を庇って避ける事にした。視界は遮られ、死角ができるが致し方がない。直前で回避する度胸が試される。
「野球って、知ってますか?」
五感をフルに使っている状態で、何と無く叶喜さんに話しかける。大丈夫、今わたしがやってる方法はほぼ第六感頼りだ。
「野球?…ああ、知ってるよ」
スペカを発動した状態の彼女も、それなりに体力を消費してるらしい。息切れた声色で返事してくれた。
「あれって、後攻の方が有利らしいですよ。なんでも、相手の出方を様子見できるからだとか」
「はあ。あれは、ポイント制で、一応上限が無いからでしょ。スペルカードルールは、三回被弾したら終わりだから」
「あ、そっか」
現実は無情である。後手の有効性を語ろうとしたのに。
「とにかく、相手に当てりゃいいのよ。……ま、共通してるのは、技力共にあれば勝てるところ、かな」
光で顔は見えない。だが、彼女は笑っているのだろう、そのような言い方だった。冷酷そうな顔なのに、妖怪は意外なものである。
十数秒後、スペルの効果は切れた。
それまでの間、一応、通常弾幕を放射してはいたが、全て回避されていたらしい。もしくは、わたしがノーコンなだけか。
話しかけたのも声で相手の位置を探るためだったのだが…効果はいまいひとつのようだった。
でも、そんな理不尽もここで終わり。視界は広がり、敵方を直視できるようになった。
ここで、無意識のうちに、わたしの腰あたりの高さで回転する、バスケットボールくらいの大きさの、二つの弾幕を見た。
…………あれ、これってオプションっぽくない?
そう思ったらここから通常弾幕を出せるような気になってきた。
「ほらほら、余所見しないでよ」
ふっと前を見ると薄めの弾幕が。軽くあしらって、思考は二つに分ける。
───オプションから弾幕を…出せた。どんな状況でも発見はあるものである。
「集中しないと、今度は不可避の弾幕だよ。
前のスペカと違って今度は暗闇も敵だ。先ほどまでは叶喜さんも発光していたが、スペル発動と同時にそれをしなくなった。
また彼女の位置を特定するのが大変そうだ。
───そうなると、今までは何処から弾幕が出していたのだろう。身体から直接? 気持ち悪ッ。
暗闇にぽつねんと鎮座した、大きめの大玉が私の正面に。
動きだすと、かなりの速度でわたしの居た位置を通過した。そしてそのままうしろの闇に消えて行った。
呆気なかったな、とその弾幕を見届け、前を振り向くとさっきと同じように大きい大玉弾幕が待ち構えていた。いや、一回りは大きいだろうか。
それがそれなりの速度でわたしの横を通り抜けると、今のよりさらに大きい球弾が出現した。
そうか、徐々に弾幕は大きく、徐々に速度が遅くなる実質上耐久スペルカードか。
───なんにせよ、オプション、かっこいい!
相手の位置も分からないため、折角のオプションも有効利用できなかった。
最終的に大きな大きな弾幕の直径は、洞窟の岩壁にぎりぎり触れるか触れないかくらいの大きさになり、免れ得る場所を探すのも一苦労だった。
ゆっくりと、ゆっくりと通り過ぎる超大型弾幕はゴゴゴと音をたてていた。そして、スペルカードの効力をは失われた。
ここまで、叶喜さんはスペカを二枚使用。被弾はしていない。
わたしはスペカ未使用で、被弾もしていない。圧倒的にわたしが優勢と言えるだろう。だが、油断は大敵だ。
「……攻撃より、回避がお好き? じゃあ最後にこれも。
叶喜さん最後のスペルカード。これを回避しきればわたしの勝利だ。
まず、レーザーとも言えぬ針みたいな光る細長い物体が、幾千本もかくやとばかりに岩壁から突き出す。そうしてわたしと彼女とを遮り、行き来できるような隙間は無くなった。
次に高密度の弾幕が後方からランダムに発射され続けている。つまり今、わたしは、閉じ込められている。
前に進むこともできず、後ろからの弾幕に回避し続けるしかない。
敵に背を向けるということに違和感を感じながらも、ただ、この弾幕に耐え忍ぶことしかできないのであった………。
♢
三十秒後、彼女との針の壁は発破した。同時に、わたしの勝利が確定したのである。
感想戦といった
「お疲れ様でした〜。これで、わたしは進んでもいいんですよね?」
仄暗く光る洞窟の先の灯りを指差しながら言う。
「……ええ、いいわよ」
不承不承といった雰囲気を醸し出すが、弾幕ごっこで決まったのだから、諦めなさい。
「そういえば、なんで相手の視界を無くすようなスペカが多かったんですか?」
「ほら良く言うじゃない、“恋は盲目”って」
「?? まあでも、野球も恋もチームワークが一番大事ですよ」
「………そうね」
懐かしむような目でそう言った。昔、何か思い出があったのかもしれない。
「先ほど、殺すっておっしゃってましたが……」
「ああ、あれ? まさか、そんな怖いことできるはず無いじゃない。雰囲気作りよ」
やはり彼女は怖い。本気じゃ無くとも雰囲気は満点である。
のちに聞くことになるが、美しくも冷たい自分の顔に彼女は、コンプレックスを抱いてるらしい。
だが、付き合ってみればこれが意外といい友達に………っと、これはまた別の、未来の話だ。
「船の墓場は面影を無くして」は、よいやみさんの東方風自作曲です。
今回は、彼女の名前と、彼女の元ネタの妖怪(海座頭)と、出てきていませんが能力と、スペカ名を上手く絡めさせられたと思います。この調子で、次話も頑張るでござる。