東方畢竟訖 〜in Other Worlds. 作:LOORUME
時間の流れで頭がコンガラがらがらりしそうですか? 頑張ってください(丸投げ)
幻想郷・YY月18日 13:00、異変発生から三日目の昼過ぎ。上空。
「うあー、負けたあ」
幻想郷の上空には、ふらふらと飛行しているチルノの姿が。外傷こそ無くとも、だいぶ疲弊していると見て取れる。
彼女は、未知の敵と対峙し、そして敗北した。見たことも聞いたことも、ましてや会ったことさえ無い相手だからと言って、対策が打てなかったと言い訳するつもりは、さらさらない。
だからこそ、チルノにとっては負けてしまった事が堪らなく悔しいのだ。
リベンジだ。反逆だ。
「……とりあえず寝よう」
それにしたって、心を落ち着かせる時間も彼女には必要だ。まあ要するに不貞寝というわけだ。
チルノは、適当な方角へ突き進み、手頃な場所で昼寝をするつもりでいた。
無意識で向かった方角、それは迷いの竹林がある方向であった。
「……うん。まあ、いいか」
竹の木陰が冷涼で、心地よさそうだと思ったのかもしれない。何にせよ深くまで足を踏み入れさえしなければ、竹林は昼寝に相応しいといえる。
襲うような妖怪はこんな時間帯には現れないし、人間もこんな異変時には出歩かない。なにより両者とも弱体化してるため、自分の縄張りからは動かない方が賢明だ。
よって迷いの竹林での昼寝は安全と言える。まあ兎が寄ってくるかもしれないが大したことはない。可愛いものだ。
が、そのような彼女の算段を打ち破る人影が一つ。チルノがさて寝るかと寝っ転がった時に、そいつはチルノに話しかけた。
♢
幻想郷・YY月18日 21:00、異変発生から三日目の夜。守矢神社。
夕餉は食べ終わり、三柱、共に風呂にも入り終わり、縁側で月を眺めていた。ちょうど早苗を挟む形だ。
それぞれの片手にはお猪口と、傍らには徳利と柿ピー。
「月が綺麗ですね」
「そうだね」
「そだね」
早苗に対する二柱の返事は素っ気ない。何故なら酔っ払った早苗が月を見ると、同じような事を何度も言うのだ。仕方が無い。
だが、今回は月さえ出ていないのだから余計にタチが悪い。
月を覆うように鎮座する黒い雲が、諏訪子には未来に立ち塞ぐ暗示のように感じた。
「……?」
いや、と諏訪子は心の中で呟く。あることに気がついたのだ。
「ねえ、神奈子」
「なんだい」
「あの、黒い雲。あるでしょ?」
「ああ、あるね」
「あれ、ずっと動いてないん────」
爆音! 気がつくと、三柱の目の前の庭が抉れていた。
「えっ…」
息を飲む間も無く二撃目。今度は神奈子のすぐ隣の縁側を破竹させた。
「神奈子! ぼーっとしてるんじゃないよ!」
「あ……ああ!」
突然の攻撃を脳内で逃避していた神奈子は、放心状態から戻る。
逃避したいほど、今の状況は絶望的なのだ。弱体化によってまともに神力を使えないため、空を飛んで反撃することも不可能だ。
「ほら、早苗も!」
「ふぁ…?」
「駄目だ酔ってる。神奈子、担いじゃって」
「承知した!」
加奈子は、早苗をお腹で畳んで肩に担ぎ、諏訪子の後ろに続いた。
「人里まで走るよ!」
人里なら、流石の敵も手を出せないはず、という算段だ。
八雲の名の元に、人里に危害を加える事はできない。それが、幻想郷の掟。
鳥居をくぐり抜け、庭と縁側が半壊した守矢神社を三柱はあとにした。
♢
幻想郷・YY月18日 23:00、異変発生から三日目の深夜。人里。
「慧音!」
後ろから呼ばれた。そう大声を立てずとも聞こえるし、なによりこんな夜中に声を張り上げるもんじゃない。
しかし、その声には聴き覚えがあった。
「妹紅か。こんな夜更けにどうした。近所迷惑だぞ」
私は今、夜の見回りをしていた
振り返ると、やはり藤原妹紅が駆け寄ってきていた。
「そんなことよりさ、聞いてくれよ」
「……何かあったのか?」
彼女の表情と言外には、忙しなさが滲み出ていた。
彼女が話すには、異変に少し進展があったらしい。といってもあまり
曰く、幻想郷上空に黒い渦が現れたと。それは龍のようにうねり、黒い雲を纏いながら空を移動しているのだとか。
「ふむ、そいつが、この異変を…?」
「分からない。だけど、チルノがそいつに挑んだらしい」
「散ったのか」
「散ったぞ」
妹紅と私はクスリと笑った。月光に照らされて、彼女の銀髪が鋭く光る。
「そこに、敵が潜伏していたんだな」
「うん、そうらしいよ」
「と言っても、今の私達でもな…」
「ああ…」
元の力は、未だに還ってこない。還ってくる兆しも見られない。今、その敵を倒すには力が不足している。
さて、どうしたものか。
「チルノは何処に? 怪我は?」
「怪我は無い。ただ、疲れたって言ってたから竹林の私の家で寝かせてある」
「そうか……。でも少し不安だな。明日は、彼女を連れてきてくれないかな? 妹紅の家よりは安全だろう」
「失礼な。……実際そうだけどさ。わかった。じゃあ、私は行くよ」
「ああ、じゃあな」
約束をして、妹紅と別れた。後ろ姿をしばし見送って、背後に向き直って一歩踏み出した。
「慧音ーー!」
またか、とうな垂れる。
だが今度の声はあまり聞き覚えが無い。幼い女の子の高い声だ。
記憶の底からも振り返る。
「ああ、これは。洩矢さんじゃないですか」
「大変だよ!」
「……どうかしたんですか」
声の主は、洩矢諏訪子だった。彼女の後方には八坂神奈子と、担がれた東風谷早苗。
妹紅はさらにその後ろから様子を見ている。
挨拶もナシか、と少し不機嫌になるがそれだけ火急の用なんだろう。
「実はさっき、変な敵に、襲われて…」
息が途切れながらも、必死に手振りで説明してくれている。
うむ、わからない。
「…とりあえず、どのような奴でした?」
黒い雲とその敵が、何か関係があるかもしれない。
「わかんない」
「はあ」
あっけらかんと、諏訪子は答えた。
「あ、でもでも、何か黒い雲から妖力弾が撃たれたよ」
「ほう」
関係あるというか、そのものだったのか。
「それでね、それでね。敵はわざと私達に当てなかったみたい」
「逃すため?」
「より多くの獲物を見つけるためかも」
「もしかして、獲物って…」
言いかけたその時、月明かりが遮断された。諏訪子の髪も光を反射しなくなった。
「あれ?」
キョロキョロと辺りを見回した諏訪子が、上空を見上げる。
「……!」
なんだろうと、彼女が口をおっぴろげながら見ている方向を私も見た。
そこには、大きな大きな、巨大な黒い雲が迫ってきていた。
○ ○ ○
鏡源郷・XX月20日 19:30。
わたしはミギワちゃんに、弾幕ごっこで勝った。結構呆気ないものだった。
彼女が私に勝ってしまえば、紫からの制裁がさらに重くなる。それならわざと負けて素直に事情を話せば少しはマシになるだろう、と。
そういう訳で勝敗が既に決まっている終始ぬるい試合になった。
「はいはい、私負けましたわ」
やれやれとでも言いながら、ミギワちゃんはわたし達を船内に案内した。
前から順に、ミギワちゃん、のれんちゃん、わたし、紫様、鏡映さん。
のれんちゃんは負けた姉を揶揄っている。先ほど散々言われてたから楽しいのだろう。
甲板から階段を降り、奥へ続く通路を歩く。幅は狭く、二人並べるかどうかくらい。数メートルごとにランプが設置されていて、いい感じに雰囲気を醸し出している。
「さ、ここよ」
分かれ道を無視して直進し、しばらく進むと、一個のドアに辿り着いた。
ドアを通路側に開けたミギワちゃんが、中に入るよう顎で指示した。
部屋の中央には大きなテーブルがあり、その上には航海地図やらコンパス、望遠鏡、駒が置いてあった。
いかにも外国船の航路を決める部屋って感じ。正式になんて言うかは知らない。
椅子はちょうど五つあり、テーブルの片側にわたし達が座り、もう片方にはゲス姉妹が座った。
ミギワちゃんが一人ずつに紅茶を差し出して全員が席についた。
のれんちゃんは話に参加する気は無いらしく、頬杖をついて空中に視線を漂わせたり、紅茶を飲んで美味しいと呟いているだけだった。
「さ、話してもらいますわ。どうしてこんな異変を起こしたのかを」
怒りはだいぶ落ち着いたらしい。紫様の口調がいつも通りになっていた。
目つきは鋭いままだが。
その横の鏡映さんも話の内容にはあまり興味が無いらしい。実はわたしもそうで、実質、談判をしているのは紫様とミギワちゃんだけだ。
「わかったわ。話そうじゃない」
彼女はわたし達を順番に見定めるように首をゆっくりと横に振り、言葉を続ける。
「全てを」