東方畢竟訖 〜in Other Worlds. 作:LOORUME
一話目 スキマに踏み出す
雨。ざぁざぁと降る雨。雨には、人を急かす何かがあると思う。ただただ人を、急がせる何かが。
それは地面に着地した雫が連続する音によるものなのか。はたまた、雨の神様がそうしたのか。
もし前者が正しいのなら、雨音を聴くと人は落ち着かなくなる、ということか。むしろ私はそれを聴いてほっとしそうなものだが。まぁ人によりけりなのかもしれない。
じゃあ逆に、後者ならばどうか。
雨神様は、いるかもしれない。むしろ居て欲しい。その理由はと言うと少し長くなるのだが。
数年前、私はとあるゲームに出会った。いや、正しくない。
私は、そのゲームを原作とした二次創作に出会った。そのゲームとは、東方project。主に東方と呼ばれる。
東方は人だけでは無く妖怪、吸血鬼、亡霊、宇宙人などなど、多岐に渡る魑魅魍魎が弾幕ごっこで弾幕を放ち、美しさを競い、異変を解決するというもの。まぁ、そんな感じだ。
そのゲームに出会い、元来何かに信仰を向ける性格では無かったが、今ではすっかりその類のものを信じるようになってしまった。
ということで、私は人を急かす雨を降らす神様が居ると思うの。
という内容の事を、友人から言われた。
「──で?」
「え?」
ここは友人宅。遊びに来ている。外はザァザァと土砂降りで、私の家に帰るのも億劫になるほどだ。
散歩に出かけていた途中雨が降り出し、友人と出会い、折角だから近いし寄って行きなよ、ということで雨が弱まるまで家にお邪魔させていただくことになった。
「つまり何が言いたいの?」
「車に跳ねた水をかけられました」
「ああ」
そういえば彼女と出会った時は、足下が濡れていた気がする。
テーブルの上にはココアがふたつ、甘いの。
「まぁ、東方ならわたしも好きよ」
「そうなの!?誰が好き?」
お、めっちゃテンション上がってる。
「ゆっかりーん」
「へぇ、私は幽々子さまが好きなの」
ゆかゆゆか、ゆゆゆかか。ゲシュタルト崩壊しそう。
新作はもうやったか、まだ買ってない。次回作はどんなのが出るか、月の次は火星なんじゃない。好きなカップリングは何か、ゆゆゆか、ゆかゆゆ。など、取り留めのない事柄の雑談に華を咲かせた。
時を忘れて数時間、すっかり冷めてしまったココアを飲み干してわたしは立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ雨もあがったみたいだし、帰るわ」
「わかった。気をつけてね、デカ!」
デカとは、わたしのアダ名である。理由は後で話そう。
「うん」
玄関まで歩き、濡れている靴を履く。家までの辛抱だ。
お邪魔してしまったんだから今度お茶にでも誘ってあげるか、と思いながらそのドアの向こうへ。
「お邪魔しましたー」
バタン。
♢
わたし帰宅中。ちらほらを見える人々は歩いて、でもどこか急いでいるように見えた。雨で自分のダイヤルが狂わされたのかなんなのか、知ったこっちゃない。
そんな中で一人、特に目に付く女性を見つける。その人はとぼとぼと歩き、どこか項垂れているような様子だった。だが、問題はそこじゃない。髪が、赤毛なのだ。差別とかじゃなくて、心の底から美しい、そう思えるほどだ。
さらに驚くのは、まわりの人がさもそれが見えていないかのように振る舞うのだ。日本人特有の、ちらちらと見るようなアレでもない。いや、見えていないのかもしれない。
先程の会話の白熱も覚めきっておらず、少し冷静な判断ができていないが、とりあえず追いかける事にした。
一時間ほど追いかけ、赤毛の彼女は鬱蒼と木の生える森の麓近辺に来ていた。わたしの予想からして、彼女はそのまま森の中に入って行くだろう。そうすると藪蚊もいる山の中を行くのは厳しく、そろそろ日没だ。断念せざるを得なかった。
予想通り、彼女が森の中に消えて行ったのを見届けて、わたしは家に帰る事にした。
♢
わたし帰宅。今はシャワーを浴び終え、髪を乾かし、飯を食らいて、寝台に寝転びボーっとしている。
跳躍しすぎかもしれないが、もしかしたらあの赤髪の女性は妖怪なのかもしれない。だとすると、あれは幻想入りしているのかもしれない。ならばついて行けば良かった。
でもそうとは限らない。もしかしたらあれはただの自殺志願者で、嫌な現場に居合わせていたのかもしれない。
だとすると、もしかしたら、ひょっとして、かもしれない。あくまで可能性の範疇を出られない思考を、頭の中でぐるぐるさせていた。
ぐるぐるさせながら、目の前にいる紫を見つめた。
「あぁ、ゆかりんに聞ければなぁ」
そんなこと、できるはずがない。って、え?紫?
「どうぞ、聞いてくださいな」
あれ?ん?えっと?
目の前にいる紫を見つめた?なんで紫が此処にいるの?どういうこと?ホワイ?
「えっと、紫さん?」
「水くさいですわ。どうぞ今まで通り、『ゆかりん☆』って読んでくださいな」
『☆』は余計だけど。えっと。
目の前にいるのは、正真正銘わたしの好きな八雲紫だった。金髪、美しい容姿、イメージカラーは紫で、漂う胡散臭さ。どれも、わたしが想像した通りだった。
「どうしてここに?」
「どうして、って。貴女が聞きたいと強く願ったから来たのですわ」
「え、本当に?」
がばっと起き上がる。
だとしたら、嬉しいんだけど。願ったら来てくれるとかどんなランプの精ですか。いや、あれは擦るのか。
「まぁ、冗談はさておいて」
「冗談なんですか…」
「貴女、あの妖怪が見えたんでしょう?」
「妖怪?」
妖怪、見えた?もしかしてあの赤毛の?
「ええ。赤毛のロングヘアーの妖怪ですわ。あの妖怪が見えるのは、素晴らしいことですわ」
ん、どういうことだろう。何が言いたいんだろう。
「あの、つまりそれって…」
「大丈夫よ。手続きとかは全部私がして差し上げますわ。寝床も、まぁちゃんと用意します」
「えっと…」
「貴女、幻想郷に来ませんか?」
いきなり本題に入った。唐突すぎる。
でもどうだろう、いくら紫だからって信じ込むのはいけない気がする。本当に幻想郷から来た八雲紫なのか、確かめる必要がある。
「…証拠とかって、あります?」
探るように言ってみると、紫は紙をスキマから取り出した。一枚の写真のようだ。
スキマを開いた時、一瞬驚いたけど平静を保てた、はずだ。
「これは…」
「可愛いでしょう?」
「…ええ、とっても」
写真には、紫の式の藍と、式の式の橙の寝顔が写っていた。悶え死にしそうだ。可愛い可愛い。
好きなキャラ二位は橙ちゃんなのだ。あのケモ耳はあざとい。たまらない。三位は藍しゃま。只々尻尾に埋もれたい。
♢
「で、決心はついたかしら?」
「はい」
紫様が初めて来てから一週間。あれから毎日来て、幻想郷に行くにあたってのアドバイスや、持って行くと良いものを教えてくれた。イメージトレーニングがそれこそ何万回としたし、大丈夫。
ブォンと音が鳴り、何度も見たスキマが開く。
紫様の言ったことを思い出す。
───妖怪が見えることは、素晴らしい。これは、この時代ではとても珍しい事なのですわ。
時代は変わってしまった。妖怪に脅かされて暮らす人間はもう、どこかに行ってしまった。
それを見越して博麗大結界を造ったというのは、貴女も知っているでしょう?
あの妖怪も、妖力が少ないのに頑張ってきたのでしょう。きっと幻想入りしていますわ。またどこかで、縁があるやもしれませんね。───
まぁつまり、あんなに妖力の少ない妖怪が見えるというのは何か素質があるらしい。それを言われた時は心が小躍りしたものだ。
なんにせよ、わたしはもう幻想郷に行くことしか眼中にない。
スキマに踏み出した。
「ところで」
半身が入った状態で立ち止まる。
「貴女は、なんという名前なの?」
デカというアダ名は、下の名前の呼び間違えと、わたしの性格が合致してしまった事に由来する。
「
思い立ったからすぐ投稿。つまり今日からずっと凶日。
そんな感じで、新しく連載させていただきます、『畢竟訖(ひっきょうきつ)』です。
一応過去作の続きっちゃあ続きですが、見なくても大丈夫、なようにします。