東方畢竟訖 〜in Other Worlds. 作:LOORUME
ここは旧都に向かう道中。あの、地上にあると紫様が言っていた所だ。
わたしの知らない幻想郷で、楽しませてくれるということか。いや、知っている幻想郷でも充分私は楽しめるはずだ。あれ、待てよ。なんでわたしは、『楽しめる』などと幻想郷を他人事のように観ているんだ?なんで観光などしているのだ、何か起こって然るべき───
「デカ?難しい顔して、どうしたのかしら?」
「……紫様」
「何かしら」
「紫様は、なんでわたしを此処に連れてきたんですか?」
「言ったじゃない、貴女は稀有な人間だから。───でも、そうね。しいていえば幻想郷に異変が起こった時の助力になって貰いたいわね」
なるほど、異変解決人か。霊夢、魔理沙を初めとする咲夜、妖夢、鈴仙などの予備ということか。
「けれど、それでバックアップとか予備だって思っているのなら大間違いよ。あなたは、充分強い。だから自由にして」
「?」
なんだか言っている事が支離滅裂のような気がして、意味が汲めなかった。わからなかったが、紫様は私に異変解決もして欲しいし、自由にも過ごしても欲しいのか。
「ま、いいや。ゆっくり考えますよ」
「…そうね」
「ほら、そうこうしてるうちに何か見えてきましたよ、あれが?」
前方には、綺麗な川にかかった朱い橋が見えてきた。
ここまで飛ばずにほぼ歩きで来た理由はただ単に、わたしが逆風は無理、と弱音を吐いたからだ。器用に飛ぶのとスピード重視では全然違うね。
「ええ、そう。旧都───旧地獄の入り口よ」
旧都。旧地獄とも呼ばれる所以は、昔は地獄の一部だったとも言われているからだ。そこに住む妖怪の特に鬼は年中呑んだくれているらしい。
そして段々と近づいてきた朱い橋の欄干に寄りかかっているのは嫉妬妖怪、橋姫こと水橋パルスィだった。
♢
「そう、デカちゃんね、よろしく」
「は、はい、よろしくお願いしますパルスィさん!」
ほら、妬みなさい。『敬語を使うほど礼儀正しいなんて妬ましいわ』とかって言って妬みなさい。
「ふふ、初々しくて羨ましいわ」
彼女は毒々しさが全くない微笑みで清々しいほどにこやかだった。ね、妬まないだと?これが地上の地底の力か。私は純粋に可愛いパルスィに
「綺麗な川ですね」
「素直ね、羨ましいわ」
食い気味で羨むパルスィ。うっ。なんだか、そう、あれだ。
「全然、素直じゃないですよ。お世辞ありがとうございます」
「慎ましく遠慮するなんて羨ましいわ」
くぅう。見なくても分かる、わたし今赤面している。ここまで褒められるのも恥ずかしいものだ。
「あら、頬が紅いわよ。可愛いわね」
…これはあれだ、もてあそばれてる。わたしが幾ら遠慮しても、どんどん羨んでくるものだから恥かしすぎる。これは紫様が止めるまでずっと続いた。
羨望妖怪パルスィと別れ、旧街道などを通って地霊殿に向かった。途中でヤマメやキスメ、勇儀と出会ったが彼女らは想定していた性格とさほど差は無かった。想定が明るいからだろうか。
そして旧都の最も賑わっていると思われる場所も抜け、だんだん歩いている場所が閑散としてきた頃だ。いつの間にか、古明地こいしと行動を共にしていた。
「あ、やっと気づいた。ってあれ?名前知ってるの?」
ぱぁっと笑顔になったが、一瞬にして思案げな顔になった。ん?どういうことだ、と一瞬思考が停止した。
彼女は古明地こいし。それは外の世界にいる時から知っているし見間違えることも無いと思う。彼女が持っている『無意識を操る程度の能力』でわたし達に紛れこんでいた、というのは理解できたが、彼女の言っている意味が解らなかった。『名前知ってるの?』確かに、彼女に気づきはしたが彼女の名前を呼んでもいないし、呼んだら不自然だと思われるからここに来てから我慢してるはずなのだが…。無意識か?無意識のうちに彼女の事を呼んでしまって───
「わーうるさいうるさい。一秒でどれだけ考えるのよ。でもまあ、貴女が何者かよく分かったわ、外来人のおねえちゃん」
ああ、そうなのか。彼女は心が読めるようだ。おおかた姉と同じ『心を読む程度の能力』だろう。よく見たら、彼女の右胸には赤く、ちゃんと開いてるサードアイがあった。
「そうよ。あなたと同じような記憶…東方だっけ?それを持ってる外来人は二人目だね」
やはり外来人はある程度いるらしい。その中の東方を知る人が全員旧都に来るわけじゃないから、もっと居るかもしれない。
「そうだね、もっと居るかもしれないね。……ところでさ、今からおねえちゃん達 地霊殿に来るんでしょ? だったら先回りしてお客さんを迎え入れる準備しておくね!」
「あっ」
結局、会話らしい会話も成り立たずこいしちゃんはさっさと行ってしまった。生憎、心を読ませなくする能力も無いから同等には話せないらしい。出来るとしたら、何も考えてない───無意識で行動する人くらいか。
そういえばこいしちゃんは目を閉ざしていなかった。つまり無意識は操れないはずだ。なのになぜ、話しかけられる直前まで気がつかなかったの…?
「デカ、今は悩む時間じゃないわよ。地霊殿に行って、さとりに聞きなさい」
「はぁい」
紫様に諭されてしまった。歩を進めよう。
♢
「ふむ、あなたがこいしの言っていた外来人の…立見田華さん。あ、デカさんですね、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
さとりさんは心を読んで知った情報でわたしに挨拶をしてきた。
地霊殿に着いたらこいしちゃんに手を引っ張られながら今の部屋に誘導された。お燐ちゃんの案内は?猫が好きなのだけれど。
「すみません、お燐は部屋で休んでおります。長旅から帰ったばかりでして」
そう言ってさとりさんは申し訳なさそうに笑う。ほんと、東方はどのキャラも可愛くて困る。ちょっと妬ましいかも?
「ありがとうございます。でも、貴女も充分可愛いですよ」
言葉に陰が見当たらなくてさらに困惑してしまう。あなた“も”って言ってるあたりちゃっかりさんだと思う。
「ふふふ」
「お姉ちゃん、早く本題に!」
本題?
「ええそうです、本題です。あなたの疑問がお題ですよ」
「疑問、つまり何故こいしちゃんに気づかなかった、ですか」
よし、言えた。
「はい、その通りです。こいしは、あなたの予想通り『心を読む程度の能力』を持っています。そうなると当然『無意識を操る程度の能力』は持っていません。あなたにとってはその代わりに、『故意識を操る程度の能力』も持っているんですよ」
「そうだよ!」
故意識?皆目検討もつかないが、恐らく色々出来るのだろう。
「まぁ色々できます。そして、あなたがこいしに気づかなかった理由なんですが…」
「…はい」
「ハッキリ言って能力と関係がありません。こいしは唯々、影が薄いのです」
そんだけかい!とツッコミそうになるのを我慢。彼女は、なんと生来影が薄かったのだ。