東方畢竟訖 〜in Other Worlds. 作:LOORUME
「なんだか、緩くていいですね。幻想郷って」
そんな感想を抱いたのは、地霊殿から出て、旧都から出るための朱い橋も渡ってから少し後だった。
「……そうかしら?」
「はい。なんというかふわふわで、仲良い感じが良いですよね」
「そうでもないのよねぇ」
「というと?」
こいしちゃんは無意識を操ってなくても結局影が薄いだとか、パルスィが妬まないとか、結構緩い幻想郷だと思うのだが。
「貴女は気づいてないでしょうけど、昨日騒ぎがあったのよ。異変と言うほど大きくない…事件ってところかしらね?」
「はあ」
「情報元は藍よ。曰くお空が暴れまわったとか」
「お空って、あの?」
あのメルトダウンだだ漏れフュージョン危険物の?
「ええ、とある勘違いから暴れまわったのだけれど…」
「それじゃあ被害も甚大無限大だったでしょう」
「それがそうでもなかったのよ。だって、永琳が解決したのよ?」
と、扇子で口もとを隠しながらクスクス笑っている。
あのえーりんが自ら解決するとは、事件を起こした側からするとホラー以外の何でもないだろう。
「…で、ここが件の事件が解決した所よ」
「かなり、
歩きながら着いた場所は、野っ原というに相応しい土地だった。かなり大きめの広場とでも言うべきか。土時々凹凸、弾幕戦の跡だと推測できた。
「また随分と暴れましたね」
「そうね。解決に向かった半数くらいはお空にやられてしまったわ」
「半数? どれくらいの人数が向かったんですか?」
「11人」
「多っ」
それだけ事件の規模が大きかったというわけか。
「…まあ、あのまま放っておけば大変な事になってたかもしれないわね。でも、芽は早めに摘みとったから安心よ」
「その芽は、今は何処に?」
まさか永琳に延々と説教されているのだろうか。そうだとしたら結構怖そうだ。
「お空ならさっきたまたま出会わなかっただけで、旧都には居ると思うわよ?」
「なるほど」
偶然か。もしかしたら彼女も少し反省して、地底に閉じこもっているのかもしれない。…いや、地底じゃなかった、あそこは地上だ。
それにしても、地底じゃないということは、洞窟じゃない。つまり、『洞窟いいね』と言えない…?いやいや、神霊廟の時ならば…って、神子さんや布都さんも居ないんだった。じゃあどうすれば…。
「洞窟はどこにあるんですか?」
「これまた話が直角に曲がったわね」
「気のせいです」
「そうねぇ、幻想郷で恐らくあなたが思っているような大きい洞窟は無いと思うけれど」
「まじすか…」
「マジよ、大マジよ。でも、鏡源郷にならあるかもしれないわねぇ」
鏡源郷。昨日紫様が、異変をきっかけに行き来できるようになった世界と言っていた場所だ。時間の流れが24倍なんだとか。
「どうしてそこまで洞窟に拘るのかは分からないけど、良かったら行くかしら?鏡源郷に」
「え、良いんですか」
「良いわよ、時間ならたっぷりある事だし」
と言うなり紫様は、こっちよ、と言いながら歩き始めた。向かった先は鏡源郷に行くための鏡。先程の場所からたまたま近くにあったようで、いや昨日の光景から鑑みるにすぐ行けるよう何処にでもあるだろう。
その鏡はわたしの身長より大きい。二倍くらいはあるだろうか?紫様が背伸びで日傘を目一杯上まであげて届くか届かないかといったところだ。
そして、鏡の前には原作では見たことが無いお方が。かなり幼い面持ちと体系だ。白い和服には虹色のフリルがついており、いかにも奇抜なファッションである。咲夜さんや永琳のような白髪が綺麗だった。
「あら、ヤマたん。久しぶりね」
「…うちにとっては、ついこの間一緒に呑んだばかりなんだけどね…。 そっちのお嬢ちゃんはどなただい?」
ヤマたんと呼ばれたその幼女は、赤い瞳をわたしに向けてきた。ただ赤いってだけで、敵意は無い。
紫様は、わたしがここに来てから何度目かも分からない紹介をして、次にわたしに彼女の紹介をしてくれた。
彼女の名前は
「ふうん、よく分からないけど、洞窟に行きたいんだね?」
「はい、とびっきり大きいのを」
「…まあ基本的に鏡源郷は幻想郷のコピーだけど、規模は鏡源郷のほうが大きい。何が言いたいのかというと、 紫も知らないような場所が鏡源郷には沢山ある。つまり、滅茶苦茶どデカい洞窟もあるってことさ」
「わあい!」
今の鏡映さんの言葉から察すると鏡源郷は幻想郷のコピーだが、コピーから外の範囲はまだわたしも知らない、ということか。
「知らないってアナタ…すごいスピードで構築していってるだけでしょう」
「うふふ、最近創作意欲が湧いてきてね」
え、世界ってそんな簡単に拡げられるものなの。
♢
先程の鏡の前に立ち、写っている自分を見つめる。いつも通りの私服のわたし、いやこの外の世界の服って幻想郷に合ってないよね。今度紫様に仕立ててもらおうかな、と思って自分の目を見つめると視界がフラッシュした。
気がつくと、ベンチに座っていた。目線を少しずらせば、すぐ近くに鏡があるのに気付いた。周りは木々に囲まれており、鳥の鳴き声も聴こえてきてとても和む。本当にここが鏡源郷なのか、今は確証できない。
一緒に来た筈の二人はというと、わたしの隣に一緒に座っていた。
「さぁ、どこに行くんですか?」
期待を籠めて問いかけてみた。
「………」
たっぷり十秒間返事を待った。あれ?
「紫様…ゆっかりーん?鏡映さん…ヤマたん?」
二人共、死んでいるの?
驚いて、鼻に手をあててみたら普通に息をしていた。となると、寝ているのか、呑気に。
やれやれと思いながらも二人を揺り起こす。
「ふぁ…ぁあ。あら?私こんなところで寝ていたのかしら?」
「はい」
「…冬でも無いのに、なんだかさっきから頭がボーッとするのよねぇ」
「疲労なんじゃ?ここ一週間毎日わたしの家に来てたじゃないですか」
「そうね、ちゃんと休むことにするわ」
と言いながら、紫様は頬を赤らめていた。やはり寝ているところを見られたのが恥ずかしいのだろう。対して鏡映さんは特に気にした様子も無く、大きな大きな大あくびをしていた。
「……さてじゃあまあ、取り敢えずコピーの範囲から出るかね」
「そうね。…どこかアテはあるの?」
「もっちろん。かれこれ十年くらい前かな、あっちの…北の方向にあるはずだよ」
鏡映さんはよっこらせと立ち上がったのち、人差し指でとある方向を指した。ちゃんと鏡源郷に移動できたらしい。
十年くらい前にそこで何をしたのだろうか。もしかして十年前に創ったということか?実際にやりそうだから神様って恐い。
紫様と目を合わせると、やはりそれで当たっているらしい。鏡映さん恐い。
立ち止まっていても仕方が無いため、鏡映さんを先頭に飛び始めるのだった。この頃あたりから、飛ぶ時の逆風に慣れ始めていた。
突然だった。
飛行中、横で一緒に飛んでいる紫様がふらっとバランスを崩したかと思うとそのまま墜落し、十数メートルの間木々を折って地に着いた。
「ゆ、紫様!?」
「ゆかりっ!」
これには鏡映さんも驚いたらしく、急いで着地点に向かった。
かと思うとそれにつられたかのように向かう途中で彼女も墜落した。
「鏡映さん!?」
わたしはただ、二人のもとへ行き、ひたすら声をかける事しかできなかった。
♢
「紫様!鏡映さん!」
「……っ!」
「紫様!」
数分もすると紫様は気を取り戻した。流石の大妖怪といったところか。
だが事態はそう甘くもない。顔色が優れず、調子も良いとは言えなさそうだ。
「紫様、お怪我は?」
「…無いわよ。…っ…バランスを崩しただけ。 ただね、妖怪としての力がかなり弱まっている」
「妖怪の、弱体化…?」
「…能力もまともに使えなさそうね、この分じゃ。……くっ…」
彼女が空中に手を伸ばし、精一杯力んで出たのは小さな小さなスキマだけだった。
「はあ…通りでおかしいと思ったのよ。さっきから頭がぼーっとするし、寝ちゃうしで…。
……ヤマたんの様子は…どうなのかしら?」
と、かなり疲れた様子でそう言った。
「まだ、起きてな…あ、起きました」
「気絶してたのね。というと、この影響は妖怪や神も関係無いと。私とヤマたん程のがこうなるくらいだから、力の大きさも関係無いわね」
「というと、幻想郷中、鏡源郷中の全ての人、妖怪、神、霊が弱体化しているということですか?」
少し紫様は考えるそぶりを見せ、
「…そうね。もしこの影響が誰かによる故意のものだとしたら…そのどちらの住人にも術をかけるわね」
と言った。故意なのだとしたら、そいつを許しておけはしない。
…けれど、
「じゃあなぜ、わたしには影響が無いの…?」
そう。先程のベンチでも、飛行中でも、わたしだけ弱体化しなかったのだ。
「それは、まだあなたが幻想郷、鏡源郷の住人では無いからよ。まだ来てから日が浅いから」
「じゃあ、今二つの世界で動けるのはわたしだけ、という事ですか」
「恐らくね。二つどころか冥界、天界もそのうちでしょうけど」
ますます赦せない。
「ということはこれは…」
「そうね、全然緩くなんて無いわ。これは異変よ」
※NG
『紫様が手を伸ばし、精一杯力んで出たのは小さなスキマと屁だった。』
冗談です。
第1章はこれで終わりです。次話からは異変解決編(仮)になります。