記憶喪失の呪文使い-ロストワード・スペルキャスター 作:鈴ノ猫鳥
記憶喪失、謎チート、異世界ファンタジーに冒険者といわゆるテンプレです。
ノンストレスとはいかないと思いますが、もし読んでくださる方が居るならば感謝の至り。
誤字脱字報告でも構いませんので、ご意見ご感想頂けたら幸いです。
「はてさて、此処は一体何処だ?」
意識を取り戻したと言うよりは、気付けば俺は荒野に居た。
赤茶けた大地が広がり、遠方には赤い山並みが立ち並ぶ。
草木は枯れた様な姿で、
荒野に居る理由を思いだそうとするが、前後の記憶処か過去の記憶すら思い浮かばない。
「記憶喪失って奴なのか?」
自分の格好を見れば、ファンタジー小説に出てくる魔法使いの様なローブ――但しぼろぼろだが――を着て、中にはジーンズにティーシャツと言う服装。
ファンタジー等の知識はある所を見ると、いわゆるエピソード記憶喪失と言う奴なのだろう……何の救いにも現状ならない訳ではあるが。
足元には金属で作られた二メートル程の長さを持つ豪奢だが、飾りの一部が壊れたり無くなっている印象を持つ杖が。
格好から察するに俺の持ち物なのだろう、まるで魔法使いである。
少なくとも、鈍器がわりにはなりそうである。
「記憶喪失の魔法使いか……本当に俺が魔法使いなのかは知らんが」
苦笑を浮かべ呟き、不意に遠方に見えた土煙に気付く。
どうやら何かが此方に向かって来ている様だ。
「荒野、視界は良好、突っ立っていれば簡単に発見出来る状況、土煙を上げるならばそこそこの速度」
杖を拾い上げながら呟く。
「他には近づく気配無し、敵対なら頭が良くないか正面から勝てると思っている相手、友好なら隠す必要性が無いと……確率としては半々位か?」
どうこうする手段も、判別する手段も思い付かない為に、土煙の主が近づくのを待ち構える事とする。
土煙を上げる相手の姿が視界に映る。
緑の体皮を持つ小鬼が三匹、手に持った棍棒を振り上げているのを見れば明らかに友好的とは言えない。
ならば敵対する存在と言う事だが、逃げるには少々近付かれ過ぎている。
此方の得物は、手に持った杖が一本、他にはナイフの一本すら見当たらない。
不意に脳裏に閃く言葉がある――勘違いで無ければ呪文名と言う奴である。
殴り合いには見た目的に筋肉も、得物――鈍器がわりと言えど強度的に不安がある――も不足していると予測し、自分の脳裏に閃く言葉を信じる事とする、どうせ他には頼りになりそうな物は無い。
「さて、これにしてみるか」
思い浮かんだ言葉は多数存在するが、半分程は『まだ』使えないイメージを持つ。
この内、敵対者に対して効果があり、現在使えそうな呪文名は『
「ならばまずは、そうだな足を止めようか――『
小鬼に向けて、それが正しい解答であると理解しながら呪文を唱え、杖を持つ右手に力を籠める。
何らかの力――恐らくは魔力と言う奴だろう――が身体から抜け出て、小鬼目掛け呪文が発動する。
大分近くまで来ていた小鬼の一匹を中心に、黒い内側からの視界を遮る霧が発生する。
突然起きた事態に小鬼がぎゃあぎゃあと騒ぎ、足を止めた事を理解すれば更に俺は無意識の内に呟き、呪文を唱える。
「馬鹿どもめ、
放たれた魔力が火種となり、小鬼を中心に小さな稲妻を放つ。
ギャアと叫び声を上げ、二匹が倒れた事を理解する。
「終わりだ――『
空いた左の手で空に文字を書きながら、呪文を唱える事により魔力を放つ。
放たれた魔力は不可視の矢となり、残った一匹を射ち貫く。
それでまさしく終わり、動かなくなった小鬼を見やり、杖を下ろす。
「まぁ……こんなものか?」
呟いた俺は精神的な疲れを感じながら、後続が来るやもと足早にこの場から離れる事とした。
「さて、どうやら俺は敵対する存在と戦う術を持っているらしい……更には記憶が無くとも身体が覚えていると」
歩きながら呟く。
呪文は思い浮かぶし、動きも解る。
俺が自分の意思か解らないが、大分好戦的なのが多少気になるのだが。
少なくとも、現在使える呪文の大まかな種別として二系統。
宙に文字を書く必要がある物と、そうでないもう一つの呪文。
矢の呪文は文字を描く書く必要があり、霧と網は必要が無かった。
恐らくは別の魔法、あるいは魔術と呼ばれる物だろう。
そして使う毎に魔力であろう精神的エネルギーを消費し、疲労感を感じる事となる、限界まで使った場合どうなるのかはいずれ試した方が良いだろう。
「問題は、だ……あんなのばかりが存在する場所なのか、それとも俺が居た場所が悪いだけなのか」
後者だと良いなあ、と考えながら俺は、宛も知れぬ荒野をさまよう事になった。
ジリジリと射す日差しに、体力を奪われながらに歩く事数時間。
ようやくにして人工物を見付ける事に成功した。
見付けたのは看板、そして
「轍に看板……少なくとも知性がある人間が居るって事だな」
看板には見覚えが無い筈――記憶が無いので想定でしか無いが――だが読む事が出来る文字で、『アーリンデ』と『ハスファル』の二つだけが書かれていた。
「これが大体中心と考えて良いだろう……轍から考えて『
自分自身の記憶は無い癖に、自動車や馬車の知識はすらすらと思い浮かぶ。
そして自分の知識から考えて、いわゆる異世界転移だと予測を付ける。
だからと言って、自分の記憶が戻る訳では無いのだが。
「記憶に付随しないこの謎知識が正しいならば、一定距離毎に野営する場所がある筈、此処が中心なら同じ程度の距離でもある筈」
轍の続く道の先を見る。
アーリンデ側は山並みの方面に続く道、ハスファル側は遥か遠くに緑が見える……気がする。
「此処は一択だな、ハスファルとやらに向かおう」
知識上、異世界転移の場合文字が読めるなら言葉も通じると、創作上ではなっている。
ならば何の心配も無い……いや、実際問題心配だらけだがそう思わないとやってられない。
荒野で気付き、小鬼に襲われ、日差しに焼かれながら歩いてきて数時間。
一滴の水分も、一欠片の食料も口にしていないのだ。
これは言葉が通じるかどうか以前に命の危機となる、緑があるならば水場がある、それを期待する訳だ。
……今俺に出来るのは歩く事だけである。
気付いてから荒野を数時間、轍の続く道を歩き続け数時間、日もそろそろ暮れて、闇の帳が降りる頃になりようやく俺は、木々の生える風景の中に居た。
既に肉体的には疲労で倒れかけ、精神的にも暗闇を進むのは危険と先んじて唱えた小さな灯りを生み出す術、『
無言のまま歩き続け、野営地点らしき広場に着いた時には、無言のまま崩れ落ちる様に木の根本に座り込んでいた。
周りが明るくなり始めている事に気付き、瞼を開けば野営地点らしき広場の外れ。
どうやら辿り着いた安堵により、座り込んだ場所でそのまま寝入って居たらしい。
変な夢を見た気がする、不愉快な気分だけが残っている。
もしかしたら、失った記憶に関係しているのかも知れない……一切内容を覚えていないが。
もしかしたら、失った記憶に関係しているのかも知れない……一切内容を覚えていないが。
焚き火が起こしてあるのを見ると、俺の後に誰かが着たらしい。
ぼーっと眺めていたが、火があると言う事はまだ誰かが居ると言う事に気付き、辺りを見回す。
人の姿はない。
隠れて居た訳では無いので、焚き火の主が悪人ならば捕らわれるか、殺されるかしている筈。
せめて中立でも水場位は教えて貰わねばと立ち上がり、立ち眩みでふらと倒れかける。
「くそ、制限があるとは言え――まて、制限って何だ?」
自分の無意識から出た言葉に耳を疑う。
何に対してかは不明だが、失った記憶に関する言葉なのだろう。
だが、それが何なのかは全く解らない。
まるで歯の間に挟まった肉の様で。
「……腹減ったなぁ」
変な事を考えたせいでぐぅと腹が鳴り、力無くその場に座り込む。
冷静と言うか、落ち着いた頭で、火が残っているなら戻って来るだろうと、火を起こした人物を待つ事にした。
暫くして木々の間から姿を見せたのは、
「あぁ、起きたんですね」
目覚めている俺の姿を見て微笑みかけてきた。
まるで主人公の様な風格を持つ少年である。
「あぁ、起きてる……少しばかり頼みがあるのだが」
文章として理解出来る言葉が聞こえたので、此方の言葉も通じる物と対話を試みる。
「えぇ、ボクに出来る事でしたら」
首を傾げ、手に持っていた金属製のバケツを下ろしながら少年は言う。
どうやら対話する試みには勝ったらしい。
「水、いや飲める物と食料……大層な物じゃ無くて構わないんだが……」
「構いませんよ、旅の途中会ったのも何かの縁ですから」
俺の願いに対して、少年は頷くのだった。
「なるほど、気付いたら荒野のど真ん中で、記憶も無い……荷物もその杖しか無かったと」
「あぁ、自分の事に関しては全くと言って良いほど思い出せない、救いは――」
「
簡単――今の俺には大層な物であったが――な
全く疑う様子も無く食事までご馳走になっておきながらではあるが、俺は少しだけこの少年が非常に騙され易いのではと心配になる。
「……ボクからの提案としては、冒険者として活動してみては如何ですか?」
「冒険者ってのは怪物を倒したり、迷宮や遺跡を探索したりする、冒険者の事になるのか?」
少し悩んで少年が出した答えに、頭の中から出てきた知識で尋ねる。
「そうですね、勿論それだけじゃなく町の中での雑用なんかもありますが――何かと記憶を取り戻す切っ掛けになるのでは無いかと」
今度は俺が少年の言葉に思案する番だった。
目下の目的は生きる事であり、それには経済活動があるだろうから金を稼がなくてはならない、それに付随して記憶を取り戻す事、様々な事を行うらしい冒険者と言うのは良い手段だろう。
知識は良く解らない知識が多数ある、戦う為の術を持っている、地理感と常識は無いが一人じゃ無ければ問題無さそう、金も稼げそう。
「なるほど、それは一人でじゃ無ければ良いかも知れないな」
考えた結論としては中々に良いアイディアだ、何より俺が戦えない事はないのが良い。
「なら、もう一つ提案何ですが……冒険者登録をしたらボクとパーティーを組みませんか?」
「仲間になると?」
少年が頷く。
「ボクもこれから冒険者登録をする所だったんです、見ての通りボクは剣士ですから」
なるほど、初めから下心ありでの食事だったと言う事か。
騙され易いと思ったのは杞憂に過ぎなかったのかも知れない。
「あぁ、構わないぞ、そうだな……それなら名前が必要か」
「あ、そうですね……ボクも名乗っていませんでした、ボクの名前はヒイロ=アシュレイと言います」
中々に主人公感溢れる名前である。
「そうだな……なら、俺は知識にある『名無し』の名からジョン=ドゥとでも名乗ろうか、ただ名無しと名乗るより判る人間が来るかも知れないからな」
少年――いや、ヒイロが頷く。
こうして俺――ジョン=ドゥとヒイロ=アシュレイは仲間となった。
これがこの見慣れぬ世界と俺の失われた記憶、そして神々の物語を巡る冒険の始まりとは気付いていなかったのだった。