記憶喪失の呪文使い-ロストワード・スペルキャスター   作:鈴ノ猫鳥

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記憶喪失は少年と町を歩く

 冒険者と成る事を決意してから早三日。

 自らジョン=ドゥ(名無し)と名乗る事にした俺と、主人公然としたヒイロの二人は最低限の装備――消費が倍近くになった食料を含め――を駆使して、ぎりぎりの所でアーリンデとハスファルの国境の町、アエローに辿り着いたのだった。

 昨日から視界に入るのは不毛の死と土の荒野では無く、生命溢れる草原の大地。

 そして今目の前に広がるのは、魔物に対して石造りの塀を備えた町の姿だった。

 

 人間――異種族を含め、神々に与する者達の総称――どうしの争いは百年単位で起きては居ないが、一応は国境と言う事で存在していた警備兵に、「冒険者になる為」との説明と入門税を支払った俺達は、互助会(ギルド)へと赴く前に食事処へと足を運んだ。

 『知識』にある物に比べ、大分味気無い――もう慣れてはいるが――黒パンに塩味のスープと言う極一般的だと聞いている食事を済ませ、会話を始めた。

「来るまでに説明した様にボクの持つお金も心許ないです」

「一般的な生活費で約一週間程度……だったか」

 頷くが俺の思考には疑問点は残っている。

 その一週間と言うのは『二人分』をして一週間なのだ。

 このアエローの町に着くまでの食事にしても二人分であり、ヒイロが特に健啖家と言う事では無い。

 この三日間話していて判ったのだが、ヒイロは決していわゆるテンプレな主人公――学の無い村の少年が一攫千金を夢見て冒険者を目指した――と言うタイプでは無い。

 それどころか何らかの形で知識を学び、学のある上で冒険者を目指す少年だ。

 聞いた話から推測するならば、識字率こそ大分高いが、学として知識を持つ者は少ない。

 自分で明かす気は無さそう――本人に隠す気があるかは不明だが――ではあるが、それなりの身分を持つ少年だと言う事だ。

 その身分を持ちながら、一般的な生活の貨幣価値を知り、尚且一人旅だったにも関わらず、二人分の食料や生活費を持つ。

 生活費は勿論半分にした物とも考えられるが……食料に関しては疑わざるを得ない。

 つまり、彼……ヒイロは何らかの意思を持って記憶喪失の俺に近付いて来たと言う事となる、話している感じでは悪意と言う訳では無さそうだが。

 これは決して、ヒイロを疑ったりしている訳では無い、何らかの意思を持って共に行動する仲間として、素直で真っ直ぐなだけでは無いと信頼する事にしたと言う事だ。

 

「何にせよ、至急の冒険者登録と仕事をする事は今必要な事だな」

 彼と俺の外見年齢からすれば、俺の方が年上なので彼が生活費を出している状況も個人的には気に入らないのだが。

「その通りなのですが、登録よりも宿、あるいは酒場のが大事ですね」

 ヒイロの言葉に頷き考える。

 これも三日間の内に聞いた話ではあるが、いわゆる冒険者ギルド――通称であり、互助会と言うらしい――はあくまで冒険者登録と依頼をする場所であり、依頼を請ける場所では無いと言う事だ。

 互助会に来た依頼はそのおおよその難易度を測られた後、下請けとなる宿や酒場……冒険者の店と呼ばれる店舗に割り振られる。

 その店は様々で、儲けの大きい魔物(モンスター)の討伐や素材集め専門の場所や、植物や鉱石等の素材収集専門、傭兵の様に護衛や人同士の争い――国家レベルでは無いだけで盗賊などは居る――専門、未開の地や遺跡の探索専門等多岐に渡る。

 互助会はそれらの適性から各店舗へと割り振るのだ。

 俺達が求めているのは『冒険者』向けの店だと言う事、万遍無く請ける事が出来る冒険者の店を見付ける必要がある。

「しかし、そう簡単に見付かるもんかね?」

「認定されてる店での聞き込みが必要でしょうね」

「それにいくら二人でパーティーを組むって言っても仲間が必要だろうな……剣士と魔術師だけじゃ出来る事が少なすぎるだろ」

 肩を竦めて言う。

 冒険者界隈に於て戦闘職と呼ばれる職業がある。

 知識で言うならば、ファンタジーRPGの職業みたいな物であるが、詳しい分類は存在しない。

 名乗った物勝ちである……が、大まかな分類はあり、ヒイロは剣士と呼ばれ、俺は魔術師と呼ばれる。

 俺達二人で出来る事と言えば魔物との遭遇戦が良いところで、斥候も癒し手も居ない。

 更に言うなれば、戦闘技術は訓練は積んでいたと言うヒイロはともかく、知識から魔術を使えるだけの俺は駆け出しも良い所である。

「ボク達が扱える技術を増やすのも良いですが、仲間を増やした方が確実ですよね」

「そりゃあ間違いない、俺なんかは魔術の知識はあると言っても、実際に扱うのはまた別だろうからな……間違いなく慣らす時間は必要だろうな」

「ボクも身に付けて野伏(レンジャー)の技術でしょうか……それでも本職には敵わないでしょうからね」

「ところでヒイロ……」

「えぇ、流石に気付いてますよ、あれだけ不躾に見られてたら」

 仲間を増やすと言う結論に至る会話を打ち切る。

 話題に上がるのは先程から此方を値踏みする様に、じろじろと見てくる不躾な視線。

「お金になりそうには見えないと思うんですが」

「そう言う連中ならそんなのは気にしないんじゃないかね……奪った後に考えるだとか」

 まあ、視線の主が悪人とも限らないのだが。

「……まぁ、こちらから絡んでも何も利は無いだろ」

「……そうですね、何かしら行動してきたら、考えましょうか」

 そう結論してお互いに頷きあう。

 さて、次は情報収集と言う行動の時間だ。

 

 

 時刻としては日が沈み夜の帳が降りてくる頃、俺とヒイロは一階が酒場兼食堂、二階以降が宿となっている冒険者の店……その食堂の片隅に居た。

 店の名前は『未来の卵』(フォーチュンエッグ)、駆け出し冒険者向けの由緒正しい冒険者の店であった。

 互助会から回される依頼は、近隣での薬草採取や、実に簡単な野生動物の狩猟討伐、そして街中での雑務雑用と言う俺達の望ましい物だった。

「本当なら何の問題も無いんですけどね……」

「そうだな、本当にな……」

 この店に滞在する冒険者は、俺達を除き二人……その内一人は他の店の冒険者と組み、町を離れていると言う。

 つまり、俺達が冒険者登録した所で三人。

 まともな依頼が回って来ないと宿の主人は言っていた。

 夜の帳も降りているので今夜はこの店に宿を決めているが、仲間も増えそうに無く、仕事も難しそうなこの店を拠点とするかは思い悩んでいた。

「……何だろうなあ、このやるせなさは」

 水代わりの薄い果実酒を喉に流し込み呟く。

 この町で由緒正しい冒険者の店と言うのは、この店しか存在しないと言うのが拙いながらも行った情報収集の結果だった。

 多少なりとも腕に自信――その自信が実力として正しいかはともかく――がある者は討伐系の店に、動植物の知識を持つ者は採取系の店にと、駆け出し向けの店に来ないと言う。

 ……聞いた所によれば、まだ何かしらの理由があるようだが、そこまで調べる事は俺達の情報収集能力では無理だったが。

「町を離れている方はともかく、此処に滞在してる方も『戦士』らしいですからね」

 主人の話ではまだ顔を合わせていない滞在する冒険者は、冒険者の職業分類として戦士と呼ばれる職業であった。

 ヒイロの職業分類である剣士は、その名の通り『剣』を扱い戦う職業であり、彼はその為の修練を積んでいる。

 対してまだ会っていない冒険者の職業分類である『戦士』と言うのは、剣だけに限らず、斧や槍、鎚や弓矢等『武器』を扱う者達の総称であるらしい。

 その本分は前衛に於ける攻撃(DPS)、あるいは盾役(タンク)……その修練の為ならば他の技術を切り捨てるのは常套である。

 つまりは魔術師()剣士(ヒイロ)のどちらかと完璧に被ると言う事だ、もう少し人数が多いのならばまた役割分担としてありなのだが。

 流石に少人数下に於ける役割の被りは頂けない。

 そもそもに於て、一番欲しい人材は斥候系の人材なのだ。

 ただ、現状参加して貰えるならば、そんな『我儘』を言える立場では無いのだが。

 

 さておき、様々な要因をあげたが結局の所、この町で冒険者登録をし、この宿に滞在するしか方法はあるまいと言う結論に至る。

 全くもって俺達の前途は多難である。

 




次話では新キャラ登場予定です。
そして少し話が進む……と良いなあ。
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