猫に関わる話   作:流離う旅人

1 / 14

新年明けましておめでとうございます!
今年も少しずつ投稿していきたいです。


運命が動き出す前の御話
1


ーーーああ、いたい、なぁ……

 

そう思ってはいるがすでにこの体に痛覚など存在していない。

いや、麻痺してしまっているというのが正しいだろう。

辛うじて残っているのは視覚と聴覚、そして触覚だ。

意識が薄れ始め、遠くの方で何か聞こえるがそれが何かは分からない。

分かるのは“自分がこれから死ぬ”ということだけ。

生命を守ってこうなってしまったが自分の最後としてはこれは中々劇的だ。

視界も徐々に薄れ、瞳に映るものの認識が難しい。

ペロッと温かく湿ったものが肌に触れた。

 

ニャ〜

 

声でその正体が猫の舌だと理解した。

その猫を一目見ようとするが当然体は動かない。

目だけで猫を見るがその輪郭はボヤけどんな容姿をしているのかまで分からない。

 

 

ダメだよ、俺なんか舐めたら、きたな、いよーーー

 

それを最後に意識は完全に自身の体から切り離された。

 

 

 

 

そう、思ったのだがーーー

 

「何処だよ、ここ」

 

もう二度と開くはずのなかった瞼を開けた俺は呆然と呟いた。

 

 

 

 

ーーー『第一話 転生』ーーー

 

 

 

 

瞼を開けて、最初に思ったのがその疑問。

だって、自分はもう死んだのだ。

意識が、自我が、消えていくのが自分でも解っていた。

何に自分は生きていて何処とも知らないこの場所にいる。

それが一つ目の疑問。

 

そして、二つ目は疑問を通り越して驚愕せざるを得なかった。

体の傷が消えている(、、、、、、、、、)のだ(、、)

自分を死に至らしめた一切合切が消えているのだ。

まるで、その傷が最初から無かったかのように。

自分の死因は居眠り運転のトラックから猫を庇って撥ねられた追突事故による失血死ーーーと、認識している。

追突の衝撃で骨が軋み、悲鳴を上げながら紙を折るぐらい簡単に砕け散った骨が臓器に刺さり、血が噴き出す。

宙を舞った体が地面に叩き付けられ更に骨が肉に食い込んだ。

あまりの痛みと衝撃に体は、頭は痛覚を麻痺させた。

そのお陰で痛みがなく楽に死ねた、はずなのだが。

 

そういえば最後に見たあの猫、今頃何してるかな?

今の現状を頭から放っぽり出してそんなことを考え始めるが頭を振ってすぐに現状理解のため頭を回転させた。

体が動くことを確認すると問題なく四肢が動く。

立ち上がるとそこは白、真っ白な世界が地平線の彼方まで続いていた。

 

何気なくその光景に魅入り、当てもなく歩き出す。

この空間、この世界には何一つない。

水や草木、風、動物、人間の全てがいない世界に唯独り。

そう思ってしまうと堪らない寂寥感が募っていく。

はっきり言ってこの世界は異常だ。

水や草木、風すらもないこの世界で自分(ひと)が生きられる筈がない。

 

水がなければ渇き果てる。食料がなければ餓死する。

もしかしたらこの世界で独り意識を、自我を持っていてここに存在している自分が異常なのでは? とも考えてしまう。

どれくらい歩いただろうか?

当然、景色は変わることなく白一色。

どれほどの距離を歩いたか自分でも分からないし時間感覚も狂っている。

1km歩いたかもしれないし10km歩いたかもしれない。

1分経ったかもしれないし1時間経ったかもしれない。

段々と、不安が込み上げてくる。

等々疲れて動けなくなり、その場に腰を下ろし仰向けに寝転んだ。

目の前の白から逃げるように目を瞑ると途端に黒に染まる。

ようやく白以外の色が見れたと内心安堵していると目の前、近くに光を発している物が現れた。

それも突然に、唐突に何処からともなく現れた。

目を開けるとそこには一人の少女が空中に浮いていた(、、、、、)

 

目を瞑っているのではと錯覚してしまうほど細められた瞳は確かに自分を見つめている。

白いドレスにも似た服を身に付ける少女から感じる雰囲気は神々しく、神秘的だ。

少女の正体が何なのか直感的に悟る。

少女は神、だと。

死んだ俺が傷もなく何一つ存在しないこの世界。

つまり、ここは死後の世界。

それも天国行きか地獄行きかを決める場所、といったところか。

今尚空中に浮かんでいる少女が神だと仮定すると全て辻褄が合うのだ。いや、ほとんど確定なのだが。

今まで黙っていた少女がおもむろに口を開いた。

 

「そうですね。貴方が考えている通り、私は貴方がた人間でいう神様です」

 

透き通るような声が耳朶を打つ。

幼い見た目に反してしっかりした口調の少女。

俺は固まった。

決して少女に見惚れた訳でも少女の声に聞き惚れた訳ではない。

 

(今、この人は俺の心を読んだのか⁉︎)

 

驚愕に顔を染めていると少女がニコリと微笑んだ。

 

「正解です。賢い人は話が早くて助かります」

 

また、心を読まれた。

さすがは神様といったところか。

この人の前ではあらゆる嘘、隠し事は通用しない訳だ。

正直、今も心を読まれているのだろうが少女の表情は変わらず笑顔のため何を考えているのか此方は何一つ解らない。

……本来なら誰かの心なんて読めない方が良いに決まってる。

だって、全部解ってしまうんだから。

どれだけ笑顔で表側を取り繕っても裏側である心を見てしまったら何を考えているのかが解る。

 

ーーー、一つ話をしよう。

とある独りの少年がいた。

その少年が五才になったばかりのことだった。

両親が、死んだのだ。それも身内の手によって。

少年は両親にベッドの下に隠れていろと言われてその通りベッドの下に隠れた。

その時、少年は見ていたのだ。

息を殺し、ガタガタと震える体を腕で抑えつけて両親に包丁を突き立てる犯人の姿を。

 

犯人の正体は叔父だった。

何で両親を殺したのか? 何で何でと頭を悩ませた。

両親の葬式を終え、その叔父が歩み寄りしゃがみ込んで自分に目線を合わせて笑った。

その時の顔は今でもよく覚えている。

酷く嫌らしく邪な欲望を携えたあの顔を。

そして、一言。

 

「喋ったら殺す」

 

その一言を聞いて地面に根を張ったように足が動かなくなり背中の冷や汗が止まらなかった。

叔父は自分がベッドの下に隠れていることを知っていたのだ。

 

知っていた上で見せ付けるように両親を殺したのかこの男は!

 

体を支配していた恐怖を吹き飛ばすように体の内から沸々と湧き上がる感情があった。怒り、ではない。五才だった少年にその感情が何なのかは分からなかった。

自分の親権は叔父が持つこととなり四六時中監視されることが決定された。

 

叔父の目的は両親の遺産。

それを知って唖然としたものだ。

もし、心が読めていたらこんなことにはならなかったかも知れない。

けれど心が読めて良いことは、ないと思う。

人間の闇の部分を見ることになるなんてどんな人でも嫌だし気が狂うと自分は考えている。

 

目の前の少女は良く正気を保っていられるなと感嘆する。

どれだけ嫌なモノを見てきたのだろうか?

俺が思案しているとピクッと少女の顔が少し歪んだのを俺は見逃さなかった。

それだけで俺は解ってしまう少女の心が。

辛いんだ。悲しいんだ。でも、誰にも頼ることが出来ない。

この世界には俺が来る前から他の人間も訪れているだろうが結局彼女は独りぼっち。

俺が何らかの判決を下されればまた独りぼっちになるんだ。

さっき話した少年も誰にも頼ることが出来なかった。

 

だから、少年(おれ)はーーー

 

気付いた時には少女の頭を撫でていた。

え? という顔をして見開いた瞳には薄っすらと涙が滲んでいた。

何だよ……やっぱり泣きたいんじゃないか。

俺は少女を抱き締めた。

端から見ればいきなり少女を抱き締める青年である。

「ロリコン確定だな」と声が聞こえた気がするが決してロリコンではない。

 

「……神様に失礼かもだけど泣きなよ。ずっと、ずっとずっと独りで我慢してきたんだから、さ。俺の胸で良かったら貸すからさ思いっきり泣いた方が良い」

「あ……貴方は変な人だ」

「よく言われるしそれは自分でも理解してるさ」

「そんな変人さんの言葉に甘えて胸、借りますね……」

「好きなだけ使ってくれ」

「はい。……うぅ、ぇえええん!」

 

俺の胸に顔を埋めた少女は泣いた。

今まで我慢して貯めてきたものを全て吐き出すようにひたすら泣いた。

少女の感情に合わせるようにポツポツと雨が降り出す。

打ち付けるような大粒が豪雨として降ってくる。

雨で濡れた視界の先に独りの少年(おれ)が立っている気がした。

少年(おれ)は何も言わずにジッと俺を見つめる。

射抜くような視線に若干の不安を抱いていると次第に雨がその勢いを落ち着かせ始めた。

目に雫が入り、瞬きをする一瞬の間に少年(おれ)はもう消えていた。

見間違い……ではないだろう。

たぶん、この先ずっと俺という“人格(じが)”が消えるまで少年(おれ)は目の前に現れ続けるだろう。そんな予感が胸に芽生えた。

 

「ありがとうございました。お陰様でスッキリしました」

「なら良かった」

 

さっきまでとは違い見違えるほどの笑顔で少女は言う。

雨も止み、少女の笑顔を体現するようにさっきまで白一色だった世界に青空が広がっていた。

 

「えっとさ、落ち着いてすぐに悪いんだけどさ。俺は、死んだんだよな?」

「はい。確かに貴方は死にました。そして、此処に呼ばれた」

「やっぱ、此処は死後の世界ってやつか」

「そうなりますね。しかし、今時というか猫をトラックから庇って死ぬ人がいるでしょうか?」

「ぐっ! いるじゃんか。今目の前に」

「そうでした。私の目の前にいる貴方は変人さんでしたね」

「否定出来ないのが悔しい……」

 

彼女の中での俺は変人で確定済みらしい。

そんなに変人かな? なんてむやみに考えていると、

 

「はい。誰が見ても口を揃えて言うレベルには変人さんですね」

「ナチュラルに心を読むの止めてもらえませんかね⁉︎」

 

これじゃあ、おちおち考えることも出来やしない。

ふふっと笑う少女の笑顔に今度は本当に見惚れてしまう。

そういえば女の子とこんなに長く会話したの初めてだっけ?

あ、流れというか勢いで女の子の頭撫でたり抱き締めたりしちゃってるんですけど⁉︎

女の子の手すら握ったことがないというのにそういう前段階をすっ飛ばして難易度高いことやってるしぃいいいい!

俺のおでこをコツンと指で弾き、少女はにこやかにしながら残酷な事実を突き付けてきた。

 

「もう! それぐらいでナニ動揺してるんですか? ふふ。これだから行けませんね〜最近の童貞さん(、、、、)わ。このヘタレ」

「あ、すみませんーーーじゃねぇよ⁉︎ 女の子から聞いちゃいけない単語が出て来たけど幾ら神様でも女の子なんだからアウトだろ! しかも人のプライバシー侵害してるし!」

「神に人間の作った法律が通用するとでも?」

「確信犯、だと⁉︎」

「少し静かにして下さいよ変人童貞さん」

「止めて! 変人は百歩譲って良いとしても童貞は言わないで!」

「童貞じゃないとでも?」

「こいつ絶対解ってて言ってるよね⁉︎」

 

そうだよ! 童貞だよ!

なんか悪いか? 童貞だったらイケナイのか⁉︎

出会いが無いんだよ畜生!

……もう、止めて下さい。自分で言って更に傷付いて俺のHPはもう0だよ。

 

「そうですね。変人童貞さんを弄るのは此処までにしましょうか」

「ナチュラルに心を読むなし! 「此処までにしましょうか」と言いつつ弄るの止めてないし!」

「冗談ですよ」

「本当かよ?」

「…………それでは本題に入りましょうか」

「ねぇ、何今の間⁉︎」

 

少女は俺の叫びを無視して本題を話し始める。

 

「実はですね。貴方には転生してもらうのですよ」

「転生っていうと新しい人生を送れるっていうあの?」

「その通りです。ーーー貴方が転生する世界は私にも分かりません。人が生きて行けない世界かも知れない。命を落とす危険のある世界があるかも知れない。それでも、貴方は転生しますか?」

「ーーーーー」

 

瞑目すること数秒。

答えは、決まった。

 

「俺を転生させてくれ」

「ーーーそれが、貴方の答えですか?」

「そうだね。これが俺の答えだ」

「……分かりました。それではすぐに準備に取り掛かります」

 

少女が俺から半歩下がると俺を中心にして魔法陣が展開された。

 

「貴方にもしもの事があった場合、対処することが出来るように貴方と聖杯(、、)の間に(ライン)を付けます。この力をどう使うかは貴方次第。万の人々を護ることも出来れば、世界を滅ぼすことも出来るでしょう。でも、貴方はそんな事しないって私は知っている。だからこの力を貴方に託します」

 

何を言っているのか理解出来なかった。

聖杯とは一体なんだ?

護る力でもあり滅ぼす力。明らかに矛盾している。

けれど、彼女の話を聞く限り使い方を間違えなければ良いらしい。

聞きたい事は沢山あった。

でも、あまり時間もないし聞きたい事の内から一つに絞る。

 

「あのさ」

「はい? 何ですか」

「君の名前って何かな?」

「私の名前、ですか? ーーー長いこと呼ばれて来ませんでしたから忘れてしまいました」

「そっか。じゃあ、今日から君の名前はひかりだ」

「ひか、り?」

「そう。俺の前に現れた時眩しい光を纏って現れたからさ。安直に考えたけどどうかな?」

「ひか、り。ひかりひかりひかり……」

 

確認するようにブツブツと呟くひかり。

どうやら気に入ってもらえたらしい。

 

「ありがとうございます。私に、名前をくれて」

「どういたしまして。此方こそありがとう。俺に新しい人生を歩むことを許してくれて」

「もう、会うことはないかも知れませんが一つだけ言いたいことがあるので言わせてもらいます」

 

何だろう? と首を傾げるとひかりがら最高の笑顔で、こう言った。

 

「ーーーいってらっしゃい!」

「ッ! ーーーいってきます!」

 

嬉しかった。

両親が死んでからだからもうかれこれ11年ぐらい聞かなかった言葉。

堪らず泣きそうになるがどうにか堪えて俺も笑顔で言う。

同時に光が強くなり、俺の視界を包んで行った。

 

 

 

「行っちゃった、なぁ」

 

彼の門出を見送り、この世界には私独り。

 

「……寂しいなぁ」

 

けれど、辛くもなく悲しくもなく涙も流れない。

それはきっと彼が名前をくれたから。

また、何処かで会おうね。変人さん♪

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

転生して5年が経った。

今日も俺、春日望は元気に生きています。

空を見上げると青空ではなく赤みが掛かった不気味な空が広がっている。

初めて見た時は君が悪くて震え上がったものだ。

ため息を一つ吐いて椅子に腰掛けていると一人の男が叫んだ。

 

「おい! そこで座ってないでさっさと部屋に戻れ! 人間」

 

やべ! 見つかっちまった。

男は俺の倍はある身長から見下ろすギラついた目で睨み、背中の黒い翼を揺ら(、、、、、、、、、)しながら(、、、、)近付いて来る。

そう、男は所謂悪魔である。

俺も含みこの施設には5人、同年代の人間がいる。

ここに集められた人間は何かしら()を秘めている。

何でもここは悪魔の棲む冥界で俺たちは力の見込みがあるたいうことで産まれて間もなく人間界から誘拐してきたんだと。

それだけなら、まだ良かった。

俺たちの親を殺したなんて言いさえしなければ。

その時、湧き上がったのはあの叔父にも抱いた感情。

俺はそれが何なのか理解している。

みんなより16年分知識があるからな。

 

「今、戻ります」

「ふん。さっさと戻れ! 神器保有者でなければ貴様のよう下等生物(にんげん)など殺しているというのにーーー」

「すみません……」

 

ここでプツンしなかった俺は偉いと思う。

やや引き攣った笑顔を貼り付けながら共同の自室へと戻る。

中に入ると他の4人は全員帰って来ていた。

 

「何だ。もうみんな帰ってたのか」

「うん。それにしても望は遅かったね?」

「ど〜せまたぼうっとして怒られたんでしょ。彼奴らに」

「本当にいつもぼうっとしてるよね」

「全くだ」

「いつの間にか俺の性格がみんなに知られている件について」

「当たり前だよ。もう5年も一緒にいるんだよ?」

「ああ、そうだな」

 

そう、もう5年経ったのだ。

俺は兎も角この4人は互いの存在があったからこそ事実を聞いた時も狂わずに済んだ。

ちなみに上からセージ、アーシャ、モモカ、ケントだ。

その日は結局明日の朝から儀式をやるとかで早めに床に着いた。

 

 

みんなが寝静まった後、ムクリと布団から抜け出てみんなの邪魔にならないように座禅を組み、意識を集中させる。

 

起動(セット)全回路の状態を確認(トレース・オール)ーーー異常なし(クリーン)

 

日課である擬似神経ーーー魔術回路の起動とその拡張を行う。

その世界には神が作った武器、神器(セイクリッド・ギア)と魔法が存在する。

これらは施設で解禁されている図書館で調べたことだ。

俺には魔力が備わっているがどうにもそれを操るのが苦手ときた。

本を読み漁った結果。魔法とは異なる魔術の存在を知った。

魔術回路もその時に知って、初めて開いた時は血を桶一杯分吐き出した。

それ以来、慎重に起動、拡張をしている。

魔術回路のお陰で魔力を流すだけで済むため俺でも魔力を扱える訳だ。

神器は俺たち5人が保有しているものだ。

神器は神様が作ったらしく人間にしか宿らない。

覚醒(めざ)めてこそいないが神器を保有している所為でここに拐われて親が殺された。

あんまり好きにはなれないな。

近くに立て掛けておいた鉄パイプを横に寝かせ、手を翳す。

 

同調開始(トレース・オン)

 

鉄パイプと同調しその構造を把握、理解していく。

 

「基本骨子、解明。構成材質、解明。基本骨子変更。構成材質補強ーーー」

 

鉄パイプに青白い線が走る。

脂汗が滲み、息苦しくなるのを感じながら線が砕けないように集中を持続させ線が途中で砕けないようにする。

線が全体に広がり、結び付くのを確認すると地面に手を付いて空気を大量に吸い込んだ。

 

「ハァ、ハァ、出来た」

 

手に持ち、軽く振るう。

それだけでは分からないのでみんなには悪いが机の脚に叩き付けた。

幸い鉄と鉄の甲高い音は響かなかったが机の脚が逆くの字になって折れ曲がった。

今、俺がしたのは魔術の初歩ーーー“強化”

それにより鉄の強度が増し、容易に折り曲げることが出来たという訳だ。

 

「……今日はもうこれで終わりにするかな」

 

布団に戻るとすぐに寝息を立てて眠りに落ちる。

明日の朝に待っている悪夢を知らずに……

 

 

 

 

翌朝、5人同時に起床し部屋で談笑していると昨日俺を怒鳴りつけた悪魔がやって来て一人ずつ何処かに連れて行った。

セージ、アーシャ、モモカ、ケント、そして最後に俺の順番。

連れて行かれた4人は戻ってくることはなく等々俺の番が来た。

 

「セージたちは何処にいるんだよ?」

「時期に分かる」

 

素っ気なく男悪魔は返すと歩くスピードを速めた。

連れて行かれたのはこの施設の西棟。一番端に位置している。

そこに用意された儀式用の部屋へと入れられる。

黒い布で窓が覆われているのだが蝋燭が怪しく光り不気味さが増す。

マジオカルトだな。冥界で悪魔がいる時点でオカルトか。

これから何をするのだろうという疑問はすぐに消え去った。

黒い布の奥に無造作に転がる腕を見つけたから。

直感的にその腕がセージのものだと悟る。

 

同調開始(トレース・オン)!」

 

強化の魔術で足を瞬時に強化し駆ける。

布を振り払うとそこには魂を抜かれたように力無く倒れる4人がいた。

 

「何、で……」

「のぞ、むなのかい?」

「セージ! みんな! しっかりしてくれ!」

「僕らはもう、無理かな……」

「何で、何でそんなこと言うんだよ!」

「僕らは神器(セイクリッド・ギア)を抜かれたんだ」

「そんなッ!」

 

本に書いてあった。

神器を抜かれた者は死んでしまう。

つまり神器は宿主の“魂”とも言える。

それを抜かれてしまったとセージは言う。

まだ微かに残っている力で4人は手を伸ばす。

その手を俺は強く握り締めた。

 

「僕らは、もうダメだけど、さ」

「アンタだけでも逃げて……」

「そんなこと、出来る訳ないだろ!」

「でも、此処にいたら望まで死んでしまう」

「俺たちはお前に生きていて欲しいんだ」

「俺だってそうだ! みんなに生きていて欲しいよ! 産まれてすぐこんな所連れて来られて親は殺されて、血は繋がってないけど俺の家族はセージ、アーシャ、モモカ、ケントしかいないんだ!」

「ああ、そうだね……望はいつも僕たちのことを家族って言ってくれなかったから、そう思ってるのは僕らだけだと思ったよ」

「良かった……ちゃんと家族だって、思っててくれてたんだ」

「もう、望は恥ずかしがり屋さんですね」

「それは、モモカもだろ?」

「ふっ、子供だな、望は」

「それはお前もだろ。大人ぶろうとすんなよ」

 

震えが、止まらない。涙で視界が霞む。

4人の手から急速に体温が下がっていくのを感じて、それを否定するように強く握る。

ーーーでも、本当は分かっているんだ。

みんなは神器を抜かれた。だから、もうーーー

認めない。そんなの、俺は絶対に認めない!認めてなるものか!

認めてしまったら全てが終わる。

こんなクソッタレな所で夢や希望に溢れた子供たち(みんな)が死んでいいはずがない。

それが、世界のルールだと言うのならそんなルールーーー俺がぶっ壊してやる!

 

「なぁ、みんな。此処を出れたら何がしたい」

「そう、だな。遊園地に行ってみたいな」

「ああ、行こうぜ! 遊園地」

「ウチは心ゆくまで走ってみたいな」

「ああ、走ろう! 俺も一緒に付き合うぜ」

「私は、保育園に行ってみたいな」

「良いよな、保育園。きっと先生が優しいんだ」

「俺は、いろんな武道を学んでみたい」

「お前なら、あっという間に世界チャンピオンに駈け上がってくぜ。ーーーたがら、だからさ、死なないでくれッ!」

「大丈夫。僕らはいつだって望の側にいるよ。僕らはーーー」

 

『僕らは家族だから』

 

4人の声が重なり、それを最後に二度と口を開くことはなかった。

力が抜けた腕がダランと垂れる。

いつの間にか体温はもう冷え切っていた。

でも、死んでしまったというのに4人の顔は、笑顔だった。

 

「うぁ、何で、何でみんなが死ななきゃいけないんだよぉ……!」

「別れは済んだか?」

 

後ろから嘲笑混じりの声が聞こえる。

振り返るとこの施設の所長がニヤニヤとした顔で腕を組んでいた。

この場には所長を含め悪魔が5人。

この施設は言うほどデカくなくこの5人だけで運営している。

 

「そいつらと来たら神器を抜く際抵抗するものだから余計な時間を食ってしまったよ。全く、神器が無かったら生きる価値さえない人間の癖にしてやられたよ。まあ、その神器も私たちが有効活用してあげるよ。下等生物(にんげん)なんかが持っていたって一生目覚めること

もないんだから私たちが使う方が有意義になるだろう?」

「何だと?」

「貴様ら下等生物は下等生物らしく崇高な我々悪魔に搾取され続けていれば良いと教えてあげているのだよ。といっても君もすぐにそこに転がっているゴミのところに送ってあげよう」

 

ゴミ? セージが、アーシャが、モモカが、ケントがゴミ?

下等生物(にんげん)は搾取され続ける存在?

自分勝手にもほどがあるだろう。

お前らはそんなに偉いのか? お前らに何の権利があってみんなを殺したんだ? こんな理不尽が罷り通っていいのか?

断じて否だ! こんな事が許されていいはずがない!

 

視界が真っ白に染まり、次の瞬間には儀式用の部屋ではなく荒野に立っていた。

見渡す限りの荒野に剣が突き刺さっている。

正面には丘があり、赤い外套靡かせる白髪の男が背中を見せて佇んでいる。

男へと足を一歩踏み出すと頭に何かが流れ込んでくる。

それは正義の味方を目指した一人の少年の記憶。

贋作と言われようとその思いは借物だと言われても立ち上がり続けた少年に俺は憧れを抱いた。

全ての記憶を見て、再び男を見据える。

これから進むであろう地獄を進み続ける覚悟を携えて。

振り返った男の貌には感情が見受けられなかったがまるで俺が来るのを信じているように、

 

ーーーついて来れるか?

 

ニヤッと笑い、丘へと駆け出した。

手で風を切り裂きながら男を追い抜いて俺は叫んだ。

 

「ついていくさ! むしろそっちがついて来いよ!」

 

瞬間、元の部屋へと戻っていた。

俺は4人の手を胸で合わせ、瞑目しながら振り返る。

 

「やっと死ぬ覚悟はついたかい?」

「ーーーーー」

 

俺は何も答えない。

目を見開き、斃すべき敵を見る。

流れ込んだ記憶を見て“強化”しか使えなかった俺に“戦う術”が出来た。

そして、呟く。

 

「ーーー体は剣で出来ている」

「は?」

投影開始(トレース・オン)ーーー」

 

青白い稲妻が走ると俺の手には剣が握られていた。

右手には白い剣。左手には黒い剣。

 

ーーー干将・莫耶

 

柄を強く握り締め、先ほどどうよう足に強化を施し今尚嘲笑を浮かべる所長悪魔の左腕を斬り落とした。

悪魔共は何が起こったのか分からずに口を開けて固まっていた。

ドシャッと音を立てて腕が地面に転がり、斬り口から血が噴き出した。

それを見た所長悪魔は体が今やっと痛みを認識し出し、顔を歪めた。

 

「ぐっあああああああ!」

「な、貴様何をした⁉︎」

「答えてなんてやらない。だから、さっさと死ね」

「バカめ! 下等生物(にんげん)が悪魔に敵うわけがーーーなっ?」

 

魔力弾を形成していた悪魔の脳天に干将を強化した腕で投げ放つと綺麗に突き刺さり悪魔の言葉を遮った。ーーー1人目

絶命した悪魔が地面に倒れる数瞬の間に呆然と立ち尽くす悪魔の後ろに回り込み、喉元を斬り裂くと腕を斬り落とした時より勢い良く血が噴き出し、頬に掛かる。ーーー2人目

 

「死ね!」

「あんたがな!」

「何ぃ⁉︎ 何故だ! さっきその剣(、、、)は投擲していた筈だ!」

「その答えは地獄でゆっくり考えな!」

「ゴハッ……」

 

無手になった右側から悪魔が剣を振り下ろすが再び青白い稲妻が走るとその手には干将が握られていた。

この剣が俺の神器と勘違いしているようだがそれは大きな誤りだ。

これは魔術によって投影(うみだ)したものだ。

突き刺さったままの干将を慌てて確認する悪魔の隙を有効的に活用し剣を弾き返すと干将・莫耶で四分割に解体()った。ーーー3人目

羽ばたく音が聞こえて上を見ると飛び立った悪魔が此方に向かって魔力弾を放ってきた。

強化した足でそれを難なく躱すと再び干将を投げる。

それは悪魔の展開した障壁に弾かれるが気取られないように投げていた莫耶が無防備に晒された悪魔の背中に突き刺さる。

二つの剣は互いに引き寄せ合う力を使った奇襲と言ったところか。

投影で新たに二つの剣を創り出し悪魔の心臓と脳天に振り下ろした。

ーーー4人目

 

ゴガッと頭蓋骨を砕く感触が伝わって来たが特に何も感じなかった。

それは此奴らがどうしよもないくらい救いようのない奴らだから、かな?

もう少し、何かしらショックを受けるものだと思っていたけど大したことなかった。

だからと言ってもあまり気持ちの良いものではないな。

青筋を立て、憎悪を宿した瞳で睨み付ける所長悪魔を剣で指す。

 

「……来いよ」

「殺す……貴様は絶対に殺す!」

 

おもむろに何処からともなく何かを取り出す。

それは透けて見える黒いマントだった。

所長悪魔かそれに身を包むと姿が消え、見えなくなった。

あれは、神器なのだろう。

それもセージたちと同様に抜き取った、か。

能力は自分の姿を相手に視認させなくする隠蔽効果の付与。

 

「ふふ、アハハハハハ! どうだ? 見えないだろう⁉︎ そのまま動くなよ。見えない私に殺される恐怖を抱いたまま死ね!」

「ーーーーー」

「恐怖で声も出ないか。すぐにあのゴミと同じ場所に送ってやる!」

 

体を少し横にズラし、その場に足だけを残すと何かが足に躓きその姿が露わになる。

マントがはだけた所長悪魔は驚いた顔で此方を見ていた。

 

「何故わたーーー」

 

言い終える前に首を刎ねる。

もう、テメェの声も顔も聞きたくない……

俺が避けることが出来たのは360°に触れた瞬間に察知出来るよう魔力を放出していたからだ。

みんなの元に行き、膝を着く。

 

「やったぜ、みんな。仇は取ったよ……」

 

すると、みんなが抜き取られた神器が光を発しながら宙に浮かび上がると眩い閃光を放った。

閃光が収まると4つあった神器が融合し1つのペンダントが出来上がった。

それを手に取ると人肌のように温かかった。

流れ出そうになる涙を堪え、マントを手に取る。

 

「ーーーありがとう、みんな。みんなの神器(おもい)ちゃんと受け取ったよ。俺、これから頑張ってみるよ。……さようなら」

 

出来るだけ笑顔を意識するが鏡を見なくても自分の顔が歪んでいるのが分かる。最後に呟くとマントを羽織る。

望の姿は消え、そこにはもう生者(だれ)もいなかった。

 





ついて来れるか? キリッ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。