大切な人たちを、俺は守れなかった。
だからイッセー先輩には守ってほしい。
あんな思いを味わってほしくなどない。
俺は戦う。イッセー先輩とみんなを守るために。
そう、心に誓いながら首に下がるペンダントを強く握った。
ーーー『第十話 一発、殴らせてください』ーーー
空はすでに暗く、見上げると星々が輝いている。
俺たち四人は教会が見える位置で様子を伺っていた。
索敵の魔術を堕天使たちに気付かれない程度まで弱め、正確な人数を把握する。
「みんな。中、というか地下だな。そこにアーシアさんがいる。オマケに堕天使とはぐれ神父がざっと三十人はいる」
「うへぇー、そんなにいるのかよ」
「でも助けに行くんだね?」
「当たり前だ!」
弱気になりかけたイッセー先輩は木場先輩の言葉に自らを奮い立たせた。
木場先輩と小猫がいるから大抵の事態はなんとかなるだろう。
問題はイッセー先輩だ。
果たして堕天使レイナーレに勝てるだろうか?
これについては何とも言えない。
もしもの時は助太刀するつもりでいるが、その必要はないかもしれない。
イッセー先輩の想いは純粋だ。きっと
それに微かだけどイッセー先輩の
教会入り口で顔を見合わせて、頷きあうとイッセー先輩が扉を開けようとしたところで待ったをかける。
「どうしたんだよ?」
「いやいや。どうせ乗り込んだことがバレるならいっその事盛大に入っていこうと思いまして」
「盛大に?」
三人は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
その反応を見て、この後はどんなリアクションをするんだろうかと考えながら、腕を強化。
扉の前に立ち、左手を前で構え、右手を深く引き絞る。
息を一つ吐いてから、右手を思いっきり振り抜いた。
ドゴンッ! という轟音を立てながら扉は祭壇の辺りまで吹っ飛んでいった。
振り返り、ピースすると案の定三人は口を開けたままポカーンと固まっていた。
「………望は意外と脳筋?」
「そんなことはないですよ。小猫さん」
「ま、これぐらい派手な方がやる気も出てくるかな」
「じゃあ、行きましょうか」
入り口を潜り、聖堂まで走り抜く。
扉を殴り飛ばした音が教会内に反射したことで内部の構造は粗方把握した。木場先輩の地図と照らし合わせると地下への入り口は祭壇の下だ。
中は長椅子と祭壇。見た感じは普通の聖堂だが、十字架に磔になっている聖人の彫刻の頭部は破壊されていた。
堕天使たちの住処には似合っているというかもってこいの場所だ。
さっきの索敵では気付かなかったが、柱の方に人の気配を感じ、立ち止まる。
すると、柱の物陰からフリード・セルゼンが現れた。
「ご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ! 特にそこの茶髪のクソ悪魔くんと人間くん! 君に殴られた鳩尾がまだヒリヒリして胸糞悪いんだよ! テメェにも同じことしてからゆっくりと痛ぶりながら殺してやんよ!」
「出てきたと思ったらよく喋るな。フリード・セルゼン。そんなに吠えてると弱く見えるぜ?」
「お前に用はねぇ! さっさとアーシアを返しやがれ!」
「ここを通りたかったら俺を倒していきな! おっと? 今のは死亡フラグっぽい? まあ、それでもクソ悪魔どもと人間くんは殺すし別にいいか!」
懐から例の拳銃と柄だけの剣を取り出す。
ブィィン。
光の刃が出現した。改めて見るとなんかビームサーベルみたいだな。
「おい! アーシアはどこなんだよ!」
「んー、そこの祭壇の下に地下への階段が隠されてございます。そこから祭儀場へ行けますぞ」
祭壇を指さしながら、あっさりと吐く。
なるほど。自信の表れってわけね。
「セイクリッド・ギアァ!」
イッセー先輩の叫びに呼応して、左腕に赤い籠手が装着される。
木場先輩も剣を抜き放ち、小猫はーーー自身の何倍もある長椅子を持ち上げていた。
「………潰れて」
一言。小猫はフリードに向けて長椅子をぶん投げた。
………小猫は怒らせないようにしよう。
フリードは小躍りしながらの投げ飛ばされた長椅子をを一刀両断してみせた。
二つに分かれた長椅子が地面に落ち、木場先輩が飛び出そうとするがそれよりも速くフリードが木場先輩と小猫に拳銃を撃った。
木場先輩は難なく銃弾を弾き、小猫は俺が銃弾を切り裂き、守った。
「………ありがとう」
「どういたしまして。さて、三人とも。ここは俺が相手するから先に行ってくれ」
「四人で戦った方が勝てるだろ⁉︎」
「その間にアーシアさんがどうなるか解らない。それに偶には後輩を頼ったっていいんですよ?」
「ッ、頼んだぜ望!」
「頼まれた」
「行かせるとお思いですかねぇ!」
「お思いなんですよ」
フリードは走り出した三人に拳銃を放つ。
が、干将・莫耶を投影しその全てを切り裂いた。
イッセー先輩たちが無事に先に行ったことを確認すると、ホッと一息吐いた。
「おたく、本当に人間なんですか? いくら拳銃と言っても弾丸は光を込めた祓魔弾。その速度は光と同じなんだぜ? それを切り裂くとかぶっちゃけあり得ないざんすよ」
「じゃあ、良かったな。人間の俺でできたんだからきっとお前にもできるぜ」
「さっきからその上から目線な態度。いけすかねぇな! だからぶっ殺してやんよ!」
「やれるもんならな!」
互いに飛び出し、光剣と干将・莫耶がぶつかり合う。
甲高い金属音を立てながら押し合うが拮抗しそのまま鍔迫り合いへと移行。
フリードが行動するよりも速く鍔迫り合いを下げ、身を寄せ、無防備な顔面に頭突きをお見舞いしてやる。
鼻を押さえながらヨタヨタと後ずさるフリード。
折れた感触はなかったが、指の間から血が滲んでいた。
しっかし、俺的には光の速さの弾丸を切るより光剣、光の刀身に硬度を持たせてる方がすごいと思う。
俺は目を強化してるし《
「テメェ………絶対にぶっ殺す」
「さっきも言ったけどやれるもんなら、な。そうだ。ここでお前にも弾丸を切るためのトレーニングをつけてやるよ」
「は?」と漏らすフリードを無視し、干将・莫耶を魔力へと還元。
奴の手にある拳銃を凝視する。
ーーー基本骨子、解明。構成物質、解明。
青白い稲妻が走り、俺の手にはフリードが握る拳銃と同じ拳銃が握られていた。
「どんな手品だよ? いいねぇ! それでこそ殺しがいがあるってもんだよね!」
撃鉄を起こし、引き金を引く。
タンッタンッと音を鳴らしながら銃弾が放たれる。
フリードはそれを切ろうとはせず、横に飛んで避けた。
そのまま追いかけながら撃ち続けるも遊ぶように回転しながらそれを避けていく。
やはり、フリードも相当な実力者だ。
言動と性格には問題があるが伊達に悪魔を狩っているだけのことはある。
カチッと弾切れの音がした。
後先考えずに撃てば当然こうなる。
好機と見たフリードは立ち上がり、引き金を引こうとする。
が、俺は弾丸の詰まったマガジンを投影しリロードしフリードが撃つと同時に引き金を引いた。
弾丸と弾丸は磁石のように引かれ合い、衝突し、その原型を崩しながら落ちた。
すかさずもう一発。その弾丸はフリードの銃口へと入り、撃ち出そうとしていた弾丸に当たり、暴発を引き起こした。
黒煙を上げる拳銃を投げ捨て、両手で光剣を構えるフリード。
銃は潰した。拳銃を魔力へと還元。
今度は木場先輩が
足を強化し、一瞬で間合いを詰めながら、剣を振るう。
だが、その斬撃は受け止められた。
「まさか拳銃をぶっ壊されるとは思ってなかったよ。オマケにさっきの『
「そりゃあ良かったな。ーーー喰らえ」
低い声音が自身の喉を震わせる。
刹那、剣から黒いモヤモヤしたものが出現し、剣を覆った。
闇の剣と化した剣は鍔ぜり合っているフリードの光剣へと闇を延ばし、侵食し始めた。
「な、なんだよ、こりゃ!」
「俺の先輩の剣さ」
さっき木場先輩が剣を抜いた時に基本骨子、構成物質を全て把握しておいたのだ。
闇は光を喰らい尽くし、刀身が掻き消えた。
柄だけとなった剣を蹴りあげ、刃から剣の腹に構え直しバットを使うようにフリードの腹にフルスイングを叩き込んだ。
「かはッ!」と肺から空気が吐き出され、前回同様に壁へと打ち付けられるフリード。
「ゲホゲホ! 剣と銃もぶっ壊された上に情けをかけられるとかもしかしなくてもピンチってやつですかねぇ? これは退散かなぁ。殺したくて殺したくて堪らないけど、死ぬのは嫌だよね!」
懐から取り出されたのは丸い物体。
その正体に気付き、目を庇おうとするがフリードはそれを床に叩きつけた。
瞬間、眩い光が俺の目を襲う。
視力が回復した頃、半眼で周りを見渡すがフリードの姿は見えない。
すると、どこからかフリードの声が聞こえてくる。
「そこの人間くん。名前は?」
「………春日望」
「OK。俺、君にフォーリンラブ。絶対にぶっ殺すからそれまで誰にも殺されちゃダメだぞ♪ んじゃ、ばいちゃ☆」
「待て!」
外へと逃げるフリードの気配を追って、外に駆け出したが、もうフリードの気配は少しも感じられなかった。
イッセー先輩たちの加勢に行こうと踵を返すーーー
「我、面白い者見つけた」
バッと振り返ると先ほどまで誰もいなかったはずなのに黒いゴスロリドレスに身を包んだ少女が
額に冷や汗浮かび、一筋流れた。
目の前に浮いているのは少女。だが、その気迫は少女のそれではない。
少女の
それに少女からドラゴンの気配がする。
重い口を開き、なんとか言葉を絞り出す。
「君は、誰だ?」
「我、オーフィス」
「ははは……マジかよ」
目の前にいる小さな少女は確かにそう言った。
それならこの気迫にも説明がつく。だが、そのオーフィスが何故今俺の前に現れた?
「我、お前に興味が湧いた」
「俺に?」
「そう。お前の中にある繋がり。その力があればグレートレッド、倒せる。だから、お前。我に力を貸して」
「お前じゃない。春日望だ。なんで、グレートレッドを倒したいんだ?」
「我、グレートレッド倒して静寂を手に入れる。そして、時空の狭間で静かに過ごす」
「……静寂、ね」
静寂。つまりは独り。
独りは寂しいし辛いだけだ。
だからーーー
「悪いけど力を貸すことはできない」
「それは何故?」
「独りは寂しいから、かな」
「なら、力尽くで従わせる」
「それは勘弁願いたいな」
「我に一撃与える。そうすれば今回は引き退る」
「そりゃ、どうも………」
空気が震え、急速に気温が下がっていく。
オーフィスは腕を軽く振るった。
それだけで暴風じみた風が吹き抜け、身構えていなかった体は後方に大きく吹き飛んだ。
規格外すぎる。そして、圧倒的だ。
俺は引き攣った笑顔を浮かべていることだろう。
オーフィスは手を天にかざすと黒い魔力弾を作り出した。
この教会を呑み込んでしまう程の大きさの、だ。
「待て待て待て! それはやり過ぎだろ⁉︎」
俺の制止を聞き入れることなく、残酷にもその手は振り下ろされた。
このままだと俺、後ろにある教会の中にいるイッセー先輩たちは無事では済まない。というか、跡形もなく消滅してしまう。
迫る魔力弾へと手を向け、左手で動かないように固定。
ーーー I am the bone of my sword.
「
展開されたのは七つの花弁。
咲き誇るように現れた花弁一枚一枚が城壁並みの防御力を誇っている。
これはトロイア戦争で英雄アイアスが使用されたという防御用宝具。
魔力弾がぶつかり、右腕にずっしりとした重みが加わる。
一枚目はあっさりと砕け、二枚目に罅が入り、砕けた。
三枚目、四枚目、五枚目と次々に砕けていき、とうとう六枚目も砕けた。
間近まで迫った魔力弾の重みで足が地面にめり込んでいく。
「あぁああああああ!」
魔力弾は勢いを失い、最後の一枚と共に消滅した。
ハァ、ハァと肩で息をし、膝に手をついた。
汗がドッと流れ、気持ち悪さを残したままオーフィスを見据える。
顎に手を当て、面白そうに俺を見ていた。
一撃。ようはオーフィスの体に擦りでもすればいいのだ。
ーーーだったら、こいつだ。
「
紅い槍。
それを右手で構え、左手は槍先に添える。
スーハー、と息を整え、オーフィスを見た。
その瞳には期待の色が見えた気がした。
槍を握る手により一層力を込め、足は地面を踏み砕いた。
「
槍の真名を叫びながら最速の一撃がオーフィスへと放たれた。
オーフィスは弾こうと手を振るうが
真名解放で因果逆転の呪いが発動し、「心臓に槍が命中した」という結果を作り、「槍を放つ」という原因があとからついてくる。
つまり、一撃必殺、必中必殺の一撃が可能となる。
如何に最強に近い存在だったとしてもこの呪いを振り払うことは不可能。
オーフィスの心臓を貫かんと肌に触れる直前、ガキィン! という嫌な音が響いた。
その光景に俺は目を見開いた。
本来ならこの次の瞬間に俺は死んでいるであろう。
だが、この勝負は
………まさか、止められるとは思っていなかったが。
受け止めた右手を数回開閉すると、俺を見る。
「今回は我の負け。でも、次はお前に勝つ」
「今回だけで勘弁してくれよ……。あとさっきも言ったけどお前じゃなくて春日望だ」
「わかった。ノゾム、また会いにくる」
それだけ言い残すとオーフィスは空間を割き、この場から消えた。
厄介な相手に気に入られちゃったかな……、と苦笑する。
そして、今、一つの命が消えたのを感じた。
☆☆☆☆☆
イカレ神父を望に任せ、俺たちは地下の祭儀場の前までやってきた。
木場と小猫ちゃんと顔を見合わせ、頷く。
開けようと手を伸ばすと、勝手に扉が開きだした。中へ入ると望の言っていた通り、神父が三十人。
その奥には堕天使レイナーレと十字架に磔られたアーシアがいた。
「アーシアァァ!」
「………イッセーさん?」
「ああ、助けにきたぞ!」
俺が微笑むと、彼女は涙を流した。
「イッセーさん……」
「感動の対面だけれど、遅かったわね。いま、儀式が終わるところよ」
儀式が終わる? どういうーーー
突然、アーシアの体が光りだす。
「あぁあ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
「アーシア!」
駆け寄ろうとした俺を神父たちが囲む。
「邪魔はさせん!」
「悪魔め! 滅してくれるわ!」
「そこをどけ! お前らに構ってる暇はねぇんだよ!」
バン!
大きな音がした方を見ると小猫ちゃんが神父を殴り飛ばしていた。
木場も剣を抜き放つ。その剣からは黒いモヤが吹き出していた。
木場の目は鋭く、冷たいものだ。
あの目を俺は前に一度見たことがある。
そうだ。俺がレイナーレに殺された時だ。
そうこうしているうちに、アーシアの体から大きな光が飛び出してきた。
「これよ、これ! これこそ、私が長年欲していた力! これさえあれば私は愛をいただけるの!」
狂気に彩られたその表情を見て、寒気がした。
光を抱きしめたレイナーレは全身から緑色の光を発っしていた。
高笑いするレイナーレなど目もくれずアーシアを抱え上げる。
その顔は生気が抜け、白くなり、唇は青白くなっていた。
………予め、望から
だから、早く取り返したいがここにアーシアを抱える俺がいたら木場と小猫ちゃんの邪魔になってしまう。
「兵藤くん! 神父たちは僕たちが相手をする。今のうちにアーシアさんを連れて上に行くんだ!」
「………早く行ってください」
「わかった! 木場! 小猫ちゃん! 帰ったら、絶対に俺のことはイッセーって呼べよ! 絶対だぞ! 俺たち、仲間だからな!」
それだけ言うと俺はその場をあとにして、廊下を駆け抜けていった。
出ていく時、二人が微笑んでいたのは気のせいじゃないだろう。
階段を駆け上り、聖堂へと出た。
望の姿は見えないがここで激しい戦闘が行われたのは確かだ。
無事に残っていた近くの長椅子にアーシアを横にする。
「待ってろ! もうすぐアーシアは自由なんだ! 俺といつでも遊べるようになれるんだぞ!」
俺の言葉にアーシアは小さく微笑む。
その笑顔には力がなく、顔は真っ青だ。
取った手から生気は感じられず、体温も失われつつあった。
「………私、少しの間だけでも……友達ができて……幸せでした……」
そんなこと言わないでくれ。
「……もし、生まれ変わったら、また友達になってくれますか……?」
苦しみながら微笑むアーシアに俺は何もしてやれない。
「な、何を言ってんだ! そんなこと言うなよ! これから楽しいところに連れてくぞ! アーシアが嫌だって言ってもだ! カラオケ、ゲーセン、ボーリングもだ! 他にもアレだ! アレ!」
アーシアは死ぬ。
その現実を否定するようにとにかく出てくる言葉をアーシアに投げかける。
「俺たちは友達じゃねぇか! ずっと友達なんだ! ああ、そうだ! 松田や元浜にも紹介するよ! あいつらスケベだけどさ、スッゲェいい奴らなんだぜ? それに望だってもうアーシアのことを友達だって言ってたんだ! それでみんなで馬鹿騒ぎして、それからそれから!」
「………きっと、この国で生まれて……イッセーさんと同じ学校に行けたら………」
「行こうぜ! 俺たちの学校に来いよ!」
今生の別れのように、言わないでくれ………。
アーシアの手が俺の頬を撫でる。
頬に触れている手はとても冷たくて、静かにゆっくりと落ちていく。
「………私のために泣いてくれる………もう、それだけで何も………ありがとう………」
それが、彼女の最後の言葉だった。
彼女は微笑んだまま逝った。
体から力が抜け、呆然と彼女の死に顔を眺めていた。
笑いながら逝けるほど人生は本当に楽しかったのかよ?
私のために泣いてくれるだけで何もいらない?
違うだろ! アーシアはもっと我儘になったっていいんだよ!
アーシアはいい子なんだ! 傷ついた相手なら誰でも治してくれる優しい子なんだよ!
なんでアーシアが死ななきゃいけないんだ! なぁ、神様!
俺は教会の天井に向かって叫んだ。
誰かが答えてくれるわけじゃない。でも、叫ばずにはいられなかった。
自分の力のなさに、歯噛みする。
後悔ばかりが俺を襲う。
「あら、こんなところで悪魔が懺悔? それともお願いかしら?」
後方からレイナーレの声が聞こえた。
振り返ると、嘲笑を浮かべるレイナーレの姿がある。
レイナーレの腕には斬られた傷がある。木場が斬りつけたのだろう。
その傷口に手を当てると、淡い緑色の光が発せられ、傷を塞いでいく。
「素敵でしょう? 神の加護を失った私たち堕天使にとってあの子の
おい。
それは、アーシアの光だ。
お前みたいな自分勝手な奴が使っていい光じゃない。
「堕天使を治療できる堕天使として、私は偉大なるアザゼル様、シェムハザ様、お二方の力になれるの! 私の力を、私の力を貴方様たちのために……」
違う。
お前の力なんかじゃない。
俺の友達の命を奪っておいて、自分は愛をくださいだ?
ふざけるのもいい加減にしやがれ。
分かっている。俺にもっと力があれば、アーシアは救えた。
だから、許せないんだ。
アーシアを守れなかった自分が。アーシアを殺したレイナーレが。
「返せよ」
ポツリと呟く。
「アーシアを返せよォォォォォッッ‼︎」
『Dragon booster‼︎』
俺の叫びに応えるように、左腕に籠手の宝玉が眩い輝きを放った。
籠手に何かの紋様らしきものが浮かんだ。
同時に俺の全身に力が駆け巡っていく。
溢れ出す力を吐き出すように一気に駆け出す。
未だ嘲笑を浮かべるレイナーレに向けて拳を突き出した。
だが、それは避けられてしまう。
レイナーレが何か言っているがどうでもいい。
一がなんだ。倍のニがなんだ。とにかく俺はこいつをーーー!
『boost‼︎』
再び宝玉から音声が響く。
力が、俺の想いに呼応するように上がっていく。
「うぉおおおおおお! プロモーション『
溢れ出す力と『
だが、その攻撃さえも避けられてしまう。
ズドンッ!
次の瞬間、俺の両足を光の槍が貫いていた。
両足の太ももをに深く突き刺さる。『
「うぁあああああああ!」
俺は絶叫を張り上げた。
光の槍が肉を焦がし、激痛が全身に広がっていく。
引き抜こうと光の槍に手をかける。
ジュウウウウウ。
肉の焼ける音。手から足から煙が上がっている。
その俺の姿を見て、レイナーレは腹を抱えながら嘲笑する。
「アハハハ! バカね、その槍は光の結晶体。悪魔のその身で触ればたちまち肉を焦がす。痛いでしょう? あなたの体に光が侵入して中からも焦がしているのだから」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!
ちょっとでも気を抜けば意識が飛んでしまいそうだ。
歯を食いしばり、俺は吠えた。
「こんなもの! アーシアの痛みに比べればぁああああ!」
嫌な音を立てながら、槍が抜かれていく。
引き離した槍は床に触れることなく霧散した。
塞いでいたものがなくなり、止めなく鮮血が溢れ出る。
激痛に耐えられず、地面に座り込んでしまう。
『boost‼︎』
痛みにもがく今でさえ、籠手の音声は止まらない。
痛みとアーシアを失った悲しみに濡れた顔で天井を見上げる。
「こういう時、神に頼むのかな?」
「違うよ、イッセー先輩。神様はアーシアさんを助けてくれなかった。それにイッセー先輩は悪魔なんだから魔王様辺りに頼みなよ」
俺の言葉に、後輩の声が答えてくれた。
入り口に目をやると制服の乱れた望が立っていた。
望も自分の役割を果たしたのだ。
それに比べて、俺はーーー
悔しさにまた涙がこみ上げてきそうになる。
今は、考えるな。今だけは目の前のこいつだけを見ろ。
「それもそうだな。いますよね? 魔王様。俺のお願い聞いちゃもらえませんかね?」
俺は望の言う通り、魔王様に呟く。
「……どうしようもないわね。独り言を始めてるわよ、この子」
「お前は黙ってろよ。堕天使レイナーレ」
「へぇ? 今の私には
「別に俺はお前を倒さないし、傷つけるつもりもない」
「それ何故かしら?」
「それは全部、イッセー先輩がやるからだ」
「無理よ。この下級悪魔の体は光が蝕んでいる。すぐにそこで寝ている子と同じように死ぬわ」
レイナーレの言葉が聞こえる。
アーシアをバカにする物言いに怒りがこみ上げてくる。
だが、それに対して望は、
「そんなことは関係ない。俺の知る兵頭一誠はそんなことでは折れない。お前のように人の命を道具扱いするような奴に負けるはずがないんだよ」
望の言葉に少しだけ、救われた気がした。
後輩がここまで言ってくれてるんだぜ?
ここでやらなかったら先輩としての示しがつかないよなぁ!
「いまから目の前のクソ堕天使を殴りたいんで邪魔が入らないようにしてください。増援も要りません。足も大丈夫です。怒りが凄まじくて痛みもどうにか耐えられます。だから……一発、殴らせてください」
足がガクガクと震える。
でも、動ける。一発殴り終わるまでの辛抱だ。
驚愕しているレイナーレの眼前に、俺は立った。
「何故だ⁉︎ 立ち上がれるはずがない! 全身を内側からこがしているのよ⁉︎ 下級悪魔に光を緩和する魔力はないはずだわ!」
「痛ぇよ。チョー痛ぇ。意識も飛びそうさ。でもよ、お前への怒りと憎悪が凄すぎてどうにかなりそうだ。それに後輩が見てるから尚更、な」
視線をレイナーレに向ける。
次だ。次が俺の最後の一発だ。
さあ、俺の
『Explosion‼︎』
「ありえない。何よ、これ。それはただの『
一歩、レイナーレへと踏み出す。
「認めない! 私はお二方に愛される資格を持つ者なのよ⁉︎ 貴方のような下賎な輩に負けるはずがない!」
焦るように光の槍を放つレイナーレ。
それを横殴りで薙ぎ払った。あっさりと光の槍は消え去った。
レイナーレの表情はもう真っ青だ。
「い、いや!」
黒い翼を羽ばたかせ、この場から飛び立とうとしていた。
逃がさない。逃がすわけないだろう!
飛び立つ前に駆け出し、その手を引いた。
何故だか身を焦がす光の力が弱まった気がする。
望が俺に手を伸ばしているのが視界の端で確認できた。
ありがたい。これで心置きなく、殴ることができる!
「逃すか、バカ」
「私は、私は至高の!」
「吹っ飛べ! クソ天使ッ!」
全ての力を左腕に集結させ、振り抜く拳に乗せる。
レイナーレの顔面に鋭く、正確に真っ直ぐと迫る。
ゴッと派手な音が鳴り響く。そのまま、力強くて押し出す!
俺の一撃で後方へと吹っ飛ぶレイナーレ。
レイナーレは壁に叩きつけられた。壁は壊れ、勢いを失うことなく地面に転がり、動かなくなる。
「ざまーみろ」
思わず笑みが溢れた。
でも、涙も流れた。
肩に重みを感じ、目を横に向けると望むが同情するような顔を浮かべていた。
「望……やったんだぜ。俺。アーシアの仇を、討ったんだ」
「うん。カッコ良かったよイッセー先輩。だから、今は泣いてもいいんだ」
「……アーシア」
俺の嗚咽が教会内に木霊した。
次はエピローグ。ちょっと短め。