猫に関わる話   作:流離う旅人

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結果だけ見れば、ハッピーエンドだと言える。

本当にこれで良かったのか? と、聞かれると何とも言えなくなる。

でも、みんなの笑顔を見ていたら悪くないって思えてしまうんだ。

 

 

 

 

ーーー『第十一話 新しい日常』ーーー

 

 

 

堕天使レイナーレを倒したイッセー先輩。

けれど、アーシアさんは深い深い眠りへとついていた。

イッセー先輩の肩に触れ、体の内に残る光を除去する(、、、、、、)

イッセー先輩は泣いている。

アーシアさんを助けられなかったから。

自分の弱さに悔しさがこみ上げてくるから。

全部みんな、俺は知っている。

……イッセー先輩にはこんな思い、して欲しくなかった。

 

アーシアさんの近くに歩み寄ると、その表情は笑顔だった。

気を抜いてしまうと俺も涙が溢れそうになる。

彼女の手を胸の位置で組ませてあげ、俺は瞳を閉じた。

ごめんなさい。俺は、貴女を救えなかった。

また救えなかった悔しさに拳を強く握る。

けれど、一番辛いのはイッセー先輩だ。

 

イッセー先輩は駆けつけていた木場先輩が肩を持ち、支えていた。

木場先輩もボロボロだった。

木場先輩の後ろにはリアス先輩が紅の髪を揺らしながら歩いていた。

さっき地下の気配が二つ増えたからジャンプして来たのだろう。

ということは、今地下はえらい惨状になっていること間違いなしだ。

 

小猫がいないことに気付き、キョロキョロと周りを見るが見当たらない。

ズルズルと何かを引きずる音が聞こえ、音のする方を見ると小猫がいた。

その手に握られているのは黒い羽。

引きずられているのは堕天使レイナーレだった。

 

「部長。持ってきました」

 

持ってきましたときたか。俺より小猫の方が脳kーーー

ヒュンッと何かが頬を掠めていった。

後ろからドゴンッという音が響く。

恐る恐る振り返ると壁にめり込んだ瓦礫があった。

顔を正面に向けると投げ終えた態勢の小猫がいた。

ツカツカと靴を鳴らし、俺の目の前にやって来る。

 

「今、失礼なことを考えたでしょ?」

「滅相も御座いません!」

「全く。……望、怪我してる?」

「え、いや、してないよ?」

「何で疑問系? 足、痛めたんでしょう?」

「うっ……」

 

俺はオーフィスへと槍を放つ時、踏み抜いた拍子に足を挫いてしまっていた。

あの時は勢いで何とかなったが今になって足が疼痛を訴え始めていた。

まさか、見破られるとは。小猫恐るべし。

 

「後でテーピング巻いてあげる」

「いいよ。自分で治癒かけるから」

「治癒ばっかりに頼ってるとダメだから却下」

「……分かったよ」

 

小猫が言っていることはもっともなので何も言い返せない。

俺は不承不承に頷いた。

小猫との話を切り上げ、リアス先輩たちを見ると、リアス先輩は懐から三枚の黒い羽を取り出していた。

 

残りの堕天使の羽か。

やはりあの耳打ちは残りの堕天使のことだったのか。

さすがサーゼクスさんの妹。

二つ名に恥じぬ、消滅()し飛ばしっぷりですね。

確か『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』だったけ?

 

そして、イッセー先輩の左腕に装着された籠手に視線が向く。

 

「……赤い龍。この間までこんな紋章なかったはず。そう、そういうことなのね」

 

リアス先輩は納得したように笑顔を浮かべた。

俺も感じていた気配の正体がやっと解った。

俺とリアス先輩の考えてることが同じならイッセー先輩が堕天使に勝てたことにも籠手に気配が宿っていることにも説明がつく。

 

「イッセー。貴方の神器(セイクリッド・ギア)はただの『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』なんかじゃないわ。『神滅具(ロンギヌス)』の一つ。ーーー『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』よ」

 

やっぱり、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』か。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。

その能力は十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくというもの。

たとえ最初が一でもそれは次第に膨れ上がり、一時的に神すらも超える力を得ることができる。

力が上がるのにも時間がかかるし、相手を倒せるだけの力が溜まるまで敵は待ってはくれないから戦い方は考えなきゃならんけどね。

そこんとこは今後の課題だな。あ、あと魔力の方も。

 

アーシアのことを伝えたイッセー先輩はリアス先輩に抱きしめられ、より一層涙を流していた。

優しく頭を撫でる姿はお姉ちゃんって感じがする。

落ち着いたイッセー先輩を尻目にリアス先輩はレイナーレを睨みつけた。その瞳は鋭さと冷酷さを帯びている。

一歩近づくと、怯えながら後ずさるレイナーレ。

 

「消えてもらうわ、堕天使さん。もちろん、その神器(セイクリッド・ギア)も回収させてもらうけれど」

 

リアス先輩は冷たい口調で言う。殺意のこもった言葉だ。

フィア姉が怒った時に比べれば蚊が刺した程度だが……。

 

「冗談じゃないわ!こ、この癒しの力はアザゼル様とシェムハザ様にーーー」

「愛のために生きるのも悪くないわ。でもね、貴女は薄汚れている。とてもエレガントじゃないわ。そういうの、私は許せないの」

 

ふと、穴の空いた壁からこっそりと中を覗いている視線に気付いた。

視線を向けるとフリードがそこにいた。

フリードはレイナーレを助けることなく、俺を一瞥し、投げキッスをして消えた。

少々吐き気を催していると脇腹を小突かれた。

不機嫌そうにしている小猫が犯人だ。解せぬ。

 

この場にいる全員がフリードに気付いていたらしく、レイナーレに至っては絶望に顔を歪めていた。

自分の部下に見捨てられるとは何とも滑稽だ。

リアス先輩の魔力が高まるにつれ、ガクガクと震え出すレイナーレ。

 

イッセー先輩はかわいそうな目をしてレイナーレを見ている。

たったの数日とはいえレイナーレはイッセー先輩の彼女だったからそう思えるんだろう。俺からしたら許せないが。

レイナーレの媚びたような目がイッセー先輩に向けられた。

 

「イッセーくん! 私を助けて!」

 

レイナーレはそう、口走った。

は?

何を、言っているんだ? こいつは。

レイナーレの言葉を聞いた俺の頭は真っ白になった。

言葉の意味を理解するのに数秒を要した。

転瞬、俺は足の痛みも忘れてレイナーレの顔面を蹴り飛ばしていた。

「ゲボァ⁉︎」と、何とも汚い悲鳴を上げ、長椅子を壊しながら壁にめり込むレイナーレ。

俺の突然の行動にみんなが目を丸くしていた。

みんなの視線に構うことなく、俺はゆっくりとレイナーレへと近づいた。

 

「お前の勝手な都合でイッセー先輩を殺したくせに、自分が死にそうになったら今度は助けて? ふざけるな、ふざけるなよ!」

「うっあ……」

 

顔面を押さえるレイナーレに跨り、拳を振り下ろす。

 

「イッセー先輩はなぁ! お前に楽しんでほしいって、お前に喜んでほしいって言ってたんだよ! それなのに、それなのにお前は! イッセー先輩の心を踏み躙った!」

 

鼻の骨が折れる音がする。

顔も腫れ上がり、原型を留めてはいない。

返り血が俺の顔を濡らしていく。

それでも、俺の手は止まらなかった。

 

「アーシアさんもだ! あの人は優しい人だった! イッセー先輩が悪魔だと知っても接する態度は変えなかった! そんな人の命までお前は簡単に奪ったんだよ!」

 

レイナーレの目からは涙が溢れ、意識が飛びかけていた。

そんな簡単に意識を飛ばさせない。

そんな簡単に死なせてなんてやらない。

殴りながら拳に治癒魔法をかけ、傷つけると同時にその傷を癒していく。

俺の魔力が尽きるまで、この手は止めてなんてやらない。

だが、俺の手は後ろから掴まれた手によって止められた。

 

「……イッセー、先輩」

「もう、いい。もういいんだ望。これ以上は、お前が傷つく」

「俺は、傷つかないですよ」

「じゃあ、何でお前は泣いてるんだよ」

「え?」

 

言われて、頬に手を当てると温かい液体が流れていた。

俺は泣いていた。自分でも気付かぬうちに泣いていた。

きっと、生きたくても生きられなかったみんなとイッセー先輩、アーシアさんが重なって見えたからかもしれない。

イッセー先輩はレイナーレを一瞥するとリアス先輩に頼んだ。

リアス先輩の手から放たれた滅びの力を宿す魔力弾はレイナーレを跡形もなく消滅()し飛ばした。

後に残ったのは宙を舞う黒い羽。

 

「グッバイ。俺の恋……」

 

最後にイッセー先輩はポツリと呟いた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

朝日が差し込み、朝一番の光を全身に受け、背伸びをする。

バキバキと凝り固まった体が音を鳴らした。

今、俺は部室に向かって歩いていた。

昨夜、部室に来るようにリアス先輩に言われたからだ。

 

あの後アーシアさんはグレモリー眷属の『僧侶(ビショップ)』として転生を果たした。

元シスターである彼女が悪魔に転生することを望むのかと疑問ではあったが、目を覚ました彼女はイッセー先輩を見て、涙し、微笑んでいた。

それを見て、イッセー先輩の笑顔を見てしまったらこれで良かったんだ、と思えた。

 

「おはよう望」

 

いつも通り、小猫の声がした。

振り返ると俺と同様に制服に身を包んだ小猫が立っていた。

 

「おはよう。今日はいつもより早いからまだちょっと眠いさ」

「私も、かな。昨日は遅かったから」

「そうだな。そういえばアーシアさんってこれからどうなるんだ?」

「部長の口添えで今日から二年生として学校に通うって」

「そっか」

 

話題がなくなり無言になる俺たち。

この沈黙がとても気不味い。

何か話題は、と頭を悩ませていると左手に小さいながらも温かさを秘めた感触が包んだ。

見ると、小猫が俺の手を握っていた。

 

「えっと、小猫さん?」

「……部室に着くまでこのまま」

「……そっか。いや、そうだな」

 

きっと心配してくれてるんだろうな。

小猫には敵わないな……。

それから部室に着くまで俺たちは手を繋いでいた。

 

 

 

 

部室に着くとリアス先輩とイッセー先輩を見てふくれっ面をしているアーシアさんがいた。

大方、イッセー先輩が盗られると思ったのだろう。

こんな優しい人に好かれるだなんて罪な男だな、イッセー先輩は。

と、考えたのがいけなかったのだろう。

 

ゴスッと小猫の肘打ちが脇腹に決まった。

刺すような痛みに顔を歪め、小猫をジト目で睨む。

少し口を尖らせながら小猫はそっぽを向いた。

そのやり取りを見て、いつの間にか来ていた木場先輩と姫島先輩がクスクスと笑っていた。

 

「おはようございます。イッセー先輩以外のみなさん」

「何で俺以外なんだよ!」

「自分の胸に聞いてください」

「何でだ⁉︎」

 

騒ぐイッセー先輩を無視しているとアーシアさんが微笑を浮かべながら近づいてきた。

 

「おはようございます。望くん」

「あ、おはようございます。って、あれ? 俺自己紹介しましたっけ?」

「あ、イッセーさんが言っていたんです」

「なるほど。じゃあ、改めまして、春日望です。俺は一年なのでアーシアさんの後輩になりますね」

「私はアーシア・アルジェントです。よろしくお願いしますね、望くん」

「こちらこそです」

 

差し出された手を取り、握手を交わす。

それを横で面白くなさそうに見ている小猫さん。

一体、何が気に入らんというのですか?

 

「望くんも私を助けに来てくれたんですよね? 本当にありがとうございます」

「いえいえ、そんな! 俺は手助けをしただけで何もしてませんよ! お礼をするならイッセー先輩たちにしてください」

「それでも、です」

「うっ、まあ、素直にお礼を受け取っておきます」

「はい!」

「あの、アーシアさんに質問いいですか?」

「何でしょう?」

 

キョトンと首を傾げるアーシアさん。

ちょっと可愛らしいと思った。

何故だか小猫に加えてイッセー先輩の家も睨んでるが。

 

「何で、アーシアさんは悪魔にも手を差し伸べるんですか? 貴女は、今はもう悪魔ですけど元シスターだ。決して相容れない存在だった。それなのに何で手を差し伸べるんですか?」

「私には、人間だとか悪魔だとか関係ありません。みんな、私たちと同じく生きてるんです。姿の違いや酷い行いだけで悪い存在だと決めつけるのは嫌だな、って私は思うんです」

「……そっか。そういう考え方もあるのか」

 

俺は、悪魔の悪い部分ばかり見てきた。

良い部分を見ても、悪い部分ばかり頭によぎってしまう。

解っていても考えてしまうのだ。

サーゼクスさんやリアス先輩がいるのだから悪い部分ばかりではないんだけど。

 

「ありがとうございました。アーシアさん。すごく参考になりました」

「ふふふ♪ お役に立てて良かったです。……その、質問に答えたお礼というか、報酬というか、えっと、その……私のことを先輩って呼んでもらっても良いでしょうか?」

「そんなこと、頼まなくても呼びますよ。アーシア先輩」

「っはい!」

「そういえばさ、望」

「何ですか?」

 

イッセーは顎に手を当て難しい顔をしている。

 

「俺がレイナーレを殴り飛ばした時、お前俺に手を向けてただろ? そのすぐ後体の中の光が弱まった気がするんだけど、何かしたのか?」

「ああ、それはーーー」

 

パン! と手を打つ音で俺たちの会話は遮られる。

手を鳴らしたのはリアス先輩だ。

 

「さて、全員が揃ったところでささやかなパーティーを始めましょうか」

 

リアス先輩が指を鳴らすとテーブルの上に大きなケーキが出現した。

瞬間、俺は見逃さなかった。

小猫の目がキランッと光ったことに。

 

「た、たまにはみんなで集まって朝からこういうのもいいでしょ? あ、新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから、みんなで食べましょう」

 

照れくさそうにリアス先輩が言う。

みんなでケーキを切り分け、それを食べながら談笑する。

今までこんなことしたことがなかったから、とても新鮮だ。

 

(こういのも、なんかいいな……)

 

そう思いながら、俺は微笑んだ。





一章完結。
原作の読み返しとアニメを見直さなきゃいけないや。
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