猫に関わる話   作:流離う旅人

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戦闘校舎のフェニックス
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ーーー『第十二話 不死鳥、襲来』ーーー

 

 

東の空から日が昇り始め、陽光を全身に浴びながら俺は走っていた。

隣には息絶え絶えのイッセー先輩。

そのまた隣には自転車で並走するリアス先輩。

現在、イッセー先輩の身体能力強化のための鍛錬をしている。

イッセー先輩の神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)に数えられる《赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)》。

自身の力を十秒毎に倍加していく能力を有している。

つまり、個々の力が強ければ強いほど倍加する力、倍加する数も跳ね上がる。

そのための朝練、というわけである。

何故、俺が走らされているのかは疑問だが最近は体が少し鈍っている気がしていたので納得している。

早朝五時からスタートし、今の時刻は六時。

かれこれ一時間は走り続けていた。その距離十五キロ。

悪魔の体力なら難なくこなせる距離だが、生憎イッセー先輩は最近人間から悪魔に転生した身、体力はまだそこまでない。

俺は体力には自信があるため、そこまで辛くないが。

 

「ゼェ、ゼェ……な、なんでお前は、そんなに楽そうなんだよ……」

「まあ、俺は体力ある方でっし。てか、体力ないと明日おも知れぬ命だったもんで」

「お前は何処に住んでたんだよ⁉︎」

「ほら、イッセー! 無駄口叩いてないで走りなさい」

「もうすぐか……じゃあ、イッセー先輩。お先!」

「って、速すぎだろ⁉︎ クソッ! 負けてたまるかぁあああ!」

 

後ろを必死に喰らいつくイッセー先輩。

結局、イッセー先輩は追いつけたのかって? 俺の圧勝でしたよ?

 

 

 

 

 

イッセー先輩は背中にリアス先輩を乗せ、腕立て伏せをしていた。

だが、その顔はだんだんとニヤつき始める。

どうせ、いやらしいことでも考えているのだろう。

リアス先輩も気付いたようで、イッセー先輩の尻に平手打ちを叩き込んだ。うわぁ痛そ……。

しかも回数追加されてるし。自業自得だから何も言わないけど。

 

俺は先輩たちを見ていた顔を前に戻し目の前にいる小猫を見た。

公園に着いた時にはもういたので俺たちを、というか俺を待っていたらしい。

 

「それで話って何だ?」

「望に私を鍛えてほしい」

「ーーーマジ?」

「マジ」

「まあ、鍛えるのはやぶさかではないけど……。小猫。お前にはまだ隠してる力があるじゃないか」

 

ビクンッと小猫の肩が跳ねる。

俺が言ったのは猫又の、猫魈としての仙術のことだ。

黒姉の妹なのだから使えないことはないはず。

だが、怖いんだな。まだ、踏ん切りが付かずに引き摺ったままだ。

しかし、サーゼクスさんの方から黒姉の指名手配が条件付きで取り消されたことが伝わっているはずなのだが………。

取り消されたことは知っていても小猫はまだ真相を知らない、か。

 

早いところ黒姉に会わせて仲直りしてほしいな。

未だ強張った表情の小猫を落ち着かせるために頭を撫でてやる。

すると、僅かにだが緊張が解れたように脱力した。

 

「ごめんごめん。流石にいきなりは酷だよな」

「! 望、私のこと知って、るの?」

「……少しだけ、グレモリー先輩に聞いた」

 

元々黒姉から聞いてはいたが、実際にグレモリー先輩から小猫と仲が良い俺に知っておいてほしいと話してくれたのだ。

 

「やっぱり、怖いのか?」

「……うん。私は、怖いの。もし、仙術を使ったら姉様のようになるんじゃないかって。あんなに優しかった姉様が自分の主を殺したなんて信じたくなかったの」

 

やはり小猫は真相を知らない。

仙術は気を使う。気は二種類存在する。

元々自分の内に内包している、つまりは生命力を気に変換するもの。この場合、生命力と言っても単に体力が減るだけなので特に問題はない。だからと言って使い過ぎれば寿命をガリガリと削ることになる。

 

そして、もう一つは外から気を集め、自分の気に変換するもの。

この場合、自然に存在する“外気”と“瘴気”を取り込むことになる。

外気だけならさして問題はない。けれど、瘴気を取り込むことで悪影響が発生する。

瘴気は次第に体へと蓄積され、心を侵食していく。それにより、暴走か引き起こされるのだ。

 

小猫はこのことを恐れている。自分の姉がそうだったから。

しかし、ここには大きな誤解がある。

本当のところ黒歌は外気と瘴気の分別をし、外気だけを取り込んでいたので瘴気による精神汚染の心配はない。

 

もし、“外気”を取り入れることが出来れば、内包する気、仮に“内気”としよう。

“内気”と“外気”を混ぜ合わせ、ほぼ無尽蔵に気を使うことができる。

気が足りなくなったら外から持ってくればいい。

ただ使えるだけで出来るとは限らないが。

黒歌はほぼ完璧に内外合成が出来ているので教えを乞うているが未だに成功はしていないのが現実だ。

 

いきなりこの段階に進むのは危険があるからまずは“内気”の扱い方からだな。

 

「大丈夫だよ。小猫。元々体に内包している気を使うだけなら暴走の心配もないし、仮に暴走しても俺が絶対に止めてやる」

「それだと、望を傷つけるかもしれない」

「それについては安心しろ。まだ小猫に負けるつもりはないからな」

「私に気を扱うことなんてーーー」

「そのために俺が教える。強くなりたいから俺に鍛えてくれ何て言ったんだろ?」

「それは、そうだけど……」

 

煮えきれないのか俯向く小猫。

俺は無防備な頭に手刀を落とす。あうっ、と小猫から可愛らしい声が漏れた。

 

「……痛い」

「心配すんなって。それとも何だ? 俺のこと信用出来ない?」

「そんなことない!」

「だったら信じてくれよ。絶対に強くしてやるからさ」

 

ニッ、と屈託のない笑顔を見せると薄っすらと小猫も笑った。

一旦話を終わらせてイッセー先輩の方を見るとちょうど公園の入り口で転んでいるアーシア先輩がいた。ドジっ娘ですね。分かります。

 

軽く挨拶を済ませ、アーシア先輩の持ってきたお茶で喉を潤す。

あ〜、やっぱりお茶美味い。

アーシア先輩は頬を赤く染めながらイッセー先輩と話している、と思ったらいきなりイッセー先輩か泣き出した。ぶっちゃけ引きました。

 

この後、グレモリー先輩たちはイッセー先輩の家に用事があるとのことで俺と小猫は先に公園を出た。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

一度朝食を済ませた後、待ち合わせていた小猫と合流。

談笑をしながら登校していると段々と生徒が増え、その視線が俺たちへと注がれる。

特に男子の視線がヤバイ。もう射殺さんばかり見てくるし、ブツブツ何か言ってるし。以前、何を言っているのかと耳の感覚を強化して聞いてみたことがあった。

 

『学園のマスコットと登校だなんて、許せないなぁ……。そうだ。彼奴ら呼んでみんなでリンチにでも合わせてやろうか? ーーーよく見たらあの男の顔が可愛く見えーーー』

 

最後まで言い終える前に聞くことを放棄した。

手遅れだった気もするが俺は何も聞かなかったのだ。

俺はそれ以来二度と聞くまいと決めたのだった。

 

流石にこの視線にも慣れてきていたのだが、より一層視線が増え、男子の殺気すら感じるようになってきた。

原因は俺の右手にある。柔らかく一回り小さい手が右手に繋がっている。小猫の手だ。

アーシア先輩の部活入部を堺に二人っきりの時小猫の方から手をつないでくるようになった。

最近では人目も憚らずに繋いでくるようになったので内心ギョッとした。

 

「小猫さん、そろそろ手をーーー」

「ダーメ♪」

「あ、さいですか」

 

注意しようとすれば上目遣いで甘い声を投げかけられる始末だ。

この距離でそれは俺の理性がダーメ♪ になりそうなんで勘弁してください。

 

はぁ、とため息を吐くと前方の方で悲鳴が響き渡った。それも主に女性の。

声に導かれるように目を向けるとグレモリー先輩、アーシア先輩に挟まれた両手に花状態のイッセー先輩が歩いていた。

イッセー先輩の顔はこれでもかと言わんばかりに緩みまくっていた。

何故だろう? あの顔を途轍もなく殴り飛ばしたい衝動に駆られるのは。

この時まわりの男子が望に対して同じことを考えていたことを望は知らない。

 

そのうちイッセー先輩に天罰が降りますように……。

密かに呟き、俺たちはその場を後にした。

結局小猫が手を離してくれたのは教室に入った時だった。

 

 

 

 

授業終え、学校も終わり現在は深夜。悪魔の時間だ。

俺は小猫の隣であくびをする。それにつられて小猫もあくびをしていた。

小猫の手には切り分けられた羊羹が装備されている。いっつも羊羹食べている気がするのは俺だけだろうか?

偶にあーんしてくるので恥ずかしさを噛み殺しながら、渋々口内へと運んでいる。

 

部室のドアが開き、アーシア先輩を伴ったイッセー先輩たちが入ってきた。

イッセー先輩はアーシア先輩のチラシ配りの手伝いのために着いて行ったのだ。過保護だねぇ。

 

「やあ、夜のデートはどうだった?」

「最高に決まってんだろ」

「……深夜の不純異性交遊」

 

爽やかな笑顔を浮かべる木場先輩が聞くと親指を立ててドヤ顔をするイッセー先輩。

小猫さんや、それは思っても言っちゃあいけないぜ。流石のイッセー先輩もアーシア先輩に手は出さないだろう。……たぶん。

確信を持てないのが不安なところだが、イッセー先輩肝心な時にヘタレそうだし大丈夫だろう。

 

イッセー先輩はグレモリー先輩に帰還の報告をするがボーッとして物思いに耽っているのか気付かない。

深いため息も吐いてるし何かあったのだろうか?

少し声を大きく張り上げるとハッとしたように我に返った様子だ。

 

「ご、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ。ご苦労様二人共」

 

気になった俺は《魔眼(ヴィジョンズ)》を発動させる。

魔眼(ヴィジョンズ)》は未来視以外にも複数の能力を持っている。

今回はその内の一つである読心を使用する。

周りに気付かれぬように力を抑え、瞳の色が余り変わらないように気を配る。それでも薄っすらと赤くなるので注意しなくては。

 

ジッとグレモリー先輩に目を凝らす。

すると、ボソボソと頭に念話が響く。聞き逃さぬよう耳に意識を向ける。

 

『はぁ……。私も、アーシアのように自由に恋が出来たらどんなに良いのかしら。お父様たちが勝手に婚約なんてするからこんな気持ちになるんだわ。好きな人ぐらい自分で決めたいのに、ね。そう思うと近々やって来るライザーに会うのが憂鬱だわ』

 

ーーーふーん。なるほど、ね。

そりゃボーッとするしため息も増えるわけだ。

今の状況を見たらサーゼクスさんが意地でも取り下げそうだけど、周りがそれを良しとしないんだろうな。

種を絶やさないためとは言え純血、純血って煩いだよな、貴族の椅子に座り続けて慢心し惰性に下級悪魔たちを見下す老害共が。

 

厭らしく笑う老害共を思い浮かべ、長いため息を吐いた。

ふと前を見ると号泣するイッセー先輩を怪訝そうに見ているグレモリー先輩が映った。

 

「……何泣いてんですか」

「聞いてくれよ望! アーシアが等々契約デビューなんだけど呼び出す奴らがアーシアが優しいことを良いことにパンツを見せろとか、おっぱい揉ませてとか、エッチなことさせてくれって言っているんだ!」

「それはあんたの頭の中で起こってることだろうが‼︎」

 

号泣しながら鬼気迫る表情を浮かべるイッセー先輩に呆れ果て、落ち着かせるために取り敢えず脳天に踵を振り落とした。

バコッと聞こえてはいけない音がしたが悪魔だし問題ない。

床に沈んだイッセー先輩はすぐに立ち上がり、叫んだ。

 

「お前も想像してみろよ! 例えば小猫ちゃんが呼び出されたとする」

「いや、なんで小猫が出てくるんですか」

「いいから黙って想像しろ! 呼び出された小猫ちゃんは代価を支払われているから願い事を絶対に叶えなきゃいけない」

 

ふむふむ。代価を貰ってるわけだから願い事を叶えるのは当然だな。

 

「そして、小猫ちゃんにエッチな願い事を叶えてくれと頼むわけだ」

 

ーーーまあ、これはイッセー先輩の戯言だ。気にすることはない。そうだ。たった今姫島先輩が入れてくれた紅茶でも飲んで落ち着こう。

 

「願い事を叶えなきゃいけない小猫ちゃんは嫌々エッチなことをされて最後には超えてはならない一線をーーー」

 

バキッ‼︎

 

手に持ったカップを思わず握り潰してしまい、入っていた液体がポタポタと床に落ちる。

全員が俺を見て呆然としていた。仕方ないじゃないか。何でか力が入っちゃったんだから。

 

「すみません。カップ割っちゃいました」

「べ、別にいいわよカップぐらい。朱乃、新しいカップを用意しておいて」

「あらあら、分かりましたわ」

 

グレモリー先輩たちが少し引き攣った笑みを浮かべる中、小猫だけが嬉しそうに口の端を緩めていた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

翌日。眼が覚めると目の前には黒姉の顔があった。

ギョッとするがそう言えば昨日一緒に寝たんだったと思い出す。

珍しく昨日は大人しかったので寝ることを許可したんだっけ。

 

布団から出て、軽く伸びをする。

凝り固まった体からバキ、バキと音が鳴り響く。

携帯に通知が来ていることに気付き、見るとイッセー先輩からのメールだった。

 

何々? 『部長が俺に抱いてくれって迫ってきた‼︎』?

 

ーーーーーーーは?

 

 

 

 

疑問を残した頭を傾けながら通学路を歩く。

いつもならイッセー先輩の妄想とか夢で片付けられるのだが昨晩の婚約話があるから本当かもしれない。

取り敢えず今日の放課後にでも話を聞いてみよう、と思った時突然腕に何かが絡みついてきた。

 

「何やってるんですか? 小猫さん」

「別に、何でもない」

「いや、何でもないわけーーー」

「何でもない」

「いや、だからーーー」

「何でもない」

「……はい」

 

小猫の迫力に負け、説得を諦める。

勝利した小猫は心なしか嬉しそうにはにかんでいた。

ーーーこの笑顔を見れただけでも良しとするか。役得って奴だ。

それでも射抜くような視線が集まることに変わりはないんだけどね……。

 

 

 

 

放課後。小猫を先に部室に向かわせて俺はイッセー先輩を迎えに行った。当然アーシア先輩もいる。

途中で合流した木場先輩も引き連れて、旧校舎へと歩く。

……何だろう。旧校舎から知ってる気配がする。

グレモリー先輩のことを話しているイッセー先輩に恐る恐る聞いてみた。

 

「イッセー先輩、つかぬ事を伺うんですけど。昨晩グレモリー先輩を連れて行ったのって誰なんですか?」

「ん? ああ、おっぱいのデカイメイドさんだよ」

「……それメイドさんって銀髪でした?」

「そうそう! スッゲェ綺麗な銀髪でさ、月明かりが映えてたな」

 

どうしよう銀髪メイドなんて俺は一人しか心当たりがない。ていうかもう確定じゃん⁉︎

お、怒られたりはしない、よね? 定期的に報告はしてるし特に不備は見当たらない。

内心ビクビクしながら旧校舎の部室まで到着する。

この時、初めて木場先輩は中にいる存在に気が付いた。

 

「……僕がここまで来て初めて気配に気付くなんて……」

 

顔を強張らせる木場先輩を気にすることなくイッセー先輩はドアを開けた。

室内にはグレモリー先輩、姫島先輩、小猫、そしてーーー、銀髪を揺らし佇んだフィア姉がいた。

ピクピクと口端が引き攣るのを感じながら、部室の隅にいる小猫の隣に座る。

フィア姉は公私を弁えているようで話しかけてくる気は無さそうだった。だが、目があうと俺にしか分からないほど小さく微笑んでいる。

 

それにしてもピリピリとしているな。機嫌の悪そうな面持ちのグレモリー先輩。ニコニコしているが冷たいオーラ漂わせる姫島先輩。木場先輩も気圧されメンバーに声を掛けられない状況だ。

アーシア先輩に至っては不安そうにイッセー先輩の制服の袖口を握っていた。

グレモリー先輩が全員揃ったことを確認すると、口を開く。

 

「全員揃ったわね。では、部活をする前に少し話があるの」

「お嬢様、私がお話ししましょうか?」

 

グレモリー先輩はフィア姉の申し出をいらないと手を振っていなす。

 

「実はねーーー」

 

瞬間、今まで感じことがない魔力を感じ、身構えた。

イッセー先輩は怪訝そうに俺を見るが、床に描かれた魔法陣を見て理解したようだ。

あの魔法陣は確か、そうフェニックスだ

なるほどね。グレモリー先輩が嫌がるわけだ。

恐らく相手はフェニックスの三男坊。それでなくても婚約が嫌なのに余計に嫌がらせるわけだよ、全く。

 

「ーーーフェニックス」

 

木場先輩がそう口から漏らした。

眩い光が覆い、人影が姿を表す。そして、魔法陣から炎が巻き起こり、室内を移動熱気が包み込む。

火の粉が肌をチリチリと焼く。くだらないな。態々登場のためだけに魔力を使うなんてただの無駄遣いだ。

 

現れたシルエットが横に炎を薙ぐと炎が振り払われた。

そこには赤いスーツを着崩した二十代前半の男性。

部室を見渡しグレモリー先輩を見つけると顔をにやつかせる。

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

キョトンとしているイッセー先輩とアーシア先輩を他所にグレモリー先輩へと近付いていく。

おいおい、グレモリー先輩なんて半眼で睨んでるし、どんだけ嫌われてんだよ。

グレモリー先輩への軽々しい態度に癇に障ったのかイッセー先輩が口を開いたり

 

「おい、あんた。部長に対して無礼だぞ。つーか、女の子にその態度はどうよ?」

「あ? 誰、お前?」

 

不機嫌そうに答える男の目は見て、俺は歯軋りをした。

また、あの目。道端のゴミを見るように見下すあの目だ。

だから、悪魔は嫌いだ。

その反面、良い人たちもいるからその人たちは好きだが。

こんな奴でもアーシア先輩は手を差し伸べるんだろうな。俺には到底出来そうにない。

 

名乗りを上げたイッセー先輩に素っ気ない反応を返す男。

拍子抜けしたようにイッセー先輩が、ズッコけた。

 

「つーか、あんた誰だよ」

「何だ? リアス、俺のことを下僕に話していないのかい?」

「話す必要がないから話してないだけよ」

「相変わらず手厳しいねぇ。ハハ……」

 

男は目元を引き攣らせてながら苦笑いしていた。そこへフィア姉が介入した。

 

「兵頭一誠さま」

「は、はい」

「この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます。そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」

 

次の瞬間、室内にイッセー先輩の絶叫が響き渡った。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「いやー、リアスの『女王』が淹れてくれたお茶は美味しものだな」

「痛み入りますわ」

 

ソファに並んで座るライザーとグレモリー先輩。

ライザーは所構わず肩や髪を触っている。

女性に対してそれは些か馴れ馴れしく、度を越している。

俺たちは並んで二人の様子を見ていた。

何故かイッセー先輩は涎を垂らしているけど。

 

「ところで何でそこに人間がいるんだ?」

「彼は私たちの協力者よ」

「へぇ……。そういうことなら特別にここにいることを許してやるよ。ありがたく思えよ、人間」

「ありがとうございます」

 

みんなが俺を見下す言い分に怒気含んだ顔をするが、それを首を振り落ち着かせる。

 

「いい加減にしてちょうだい!」

「いい加減になんてしていないさ。これは純血の悪魔を絶やさぬための重要なことなんだからな。君もそれは理解しているだろう?」

 

まーた純血、純血。そんなに純血が大事かねぇ。

こんな古いしきたりがあるせいでうんざりとするグレモリー先輩が容易に想像できた。

激昂するグレモリー先輩をライザーは余裕そうにニヤニヤとして見ている。

 

「私は家を潰さないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」

「おおっ、流石リアス! じゃあ、さっそく俺とーーー」

「でも、あなたと結婚しないわ、ライザー。私は私が良いと思った者と結婚する。それぐらいの権利はあるわ」

 

それを耳にしたライザーは途端に機嫌が悪くなる。あまつさえ舌打ちまでした。

 

「俺もな、リアス。フェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名前に泥を塗るわけにはいかないんだ。こんな狭くてボロい人間界の建物なんかに来たくなかったしな。というか、俺は人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔として、耐え難いんだよ!」

 

ライザーの怒りに呼応するように周囲に炎が駆け巡る。チリチリと火の粉が室内に舞う。

……我慢、我慢だ。腹立たしいがここで手を出すわけにはいかない。

みんなを見ると拳を握り締め、歯噛みしていた。

みんなが我慢しているのに俺だけ切れるわけにはいかない。

だが、ライザーが次に放った言葉は俺を切れさせるには十分な威力を秘めていた。

 

「俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでも君を冥界に連れて帰るぞ」

 

殺意が室内全体に広がる。放たれたプレッシャーに全員を襲う。

イッセー先輩とアーシア先輩は震え、木場先輩と小猫は臨戦態勢に入る。

 

だが、ライザーの殺意を上回る殺意がその場を支配した。

驚いたように全員が発生源である俺を見た。

 

「燃やし尽くす、ねぇ……」

 

酷く低い声音が口から出る。半眼となりライザーを睨む。

俺が一歩を前に出るとライザーは後ずさる。

 

「そんな風にしか家を守れないなら、さっさとそんな家滅びろよ」

「何だと貴様ァ!」

 

激昂するライザーの背中には炎が収束し、翼を形成した。

俺は拳を握り締め、光力(、、)を纏わせる。

正に一触即発の状況に割って入ったのはフィア姉だった。

 

「双方、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら私も黙って見ているわけにはいかなくなります」

 

静かに淡々と迫力のあるフィア姉の言葉にライザーは表情を強張らせた。

ライザーは炎を消すと、息を深く吐きながら頭を振った。

フィア姉を畏怖し、身を引いたようだがーーーだからどうした。

俺はフィア姉の警告を無視してライザーへと近付く。

しかし、その道をフィア姉が塞いだ。

 

「ーーーどいてくれ、フィア姉」

「ダメよ。望にライザーさまを殴らせるわけにはいかないわ」

「お願いだ。そこをどいてくれ」

「ダメよ」

 

無理矢理でも、押し通ろうとするが俺の手を取った(、、、、、、、、)フィア姉に目を見開いた。

周りも息を飲み、見ているがそれは何故フィア姉が俺なんかと話しているのだ、という疑問からくるものだ。

俺が驚いている事情を知っているのは黒姉とフィア姉、サーゼクスさんだけだ。

 

フィア姉の綺麗な手を拳に纏わせていた光がジュッと音を立てて肉を焼いた。

咄嗟に光力を消し、フィア姉を見る。

優しい笑顔を浮かべて、フィア姉は俺を見ていた。

簡易な回復魔法を手に掛けて俺も身を引く。

俺が引いたのを確認すると未だ緊張感を残す中、フィア姉がおもむろに口を開いた。

 

「こうなることは旦那さまもサーゼクスさまもフェニックス家の方々たちも承知です。なので最終手段を取らせてもらいます」

「最終手段?」

「お嬢様、ご自身の意思を押し通すのでしたら、ライザーさまと『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」

 

フィア姉の言葉をグレモリー先輩は嘆息しながら続けた

 

「つまり、私が拒否することを踏まえた上でゲームで婚約を決めようってわけね。……どこまで私の生き方をいじれば気がすむのかしら!」

「では、お嬢様はゲームを拒否されると?」

「まさか、こんな好機はないわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

「いいだろう。リアス、お前が勝てば好きにすればいい。だが、俺が勝てば君は即結婚だ」

 

先ずゲームで人の人生決めるとか頭おかしいんじゃないの?

大丈夫なのかよ? サーゼクスさんはこのことに反対してるんだろうけどさ。

 

「なあ、リアス。まさかここにいるのが君の下僕なのか?」

「一人を除けば、そうね」

 

グレモリー先輩の返答にクククとおかしそうに笑い出した。

 

「これじゃ、話にならないじゃないか? 君の『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺のかわいい下僕に対抗できそうにないな」

 

パチンと指を鳴らすライザー。

すると魔法陣が光りだし、続々と人影が出現する。

 

「これが俺のかわいい下僕たちだ」

 

総勢十五名。『悪魔の駒』をすべて使用したフルメンバーだ。

確かに個々の力でも劣る部分があるし、何より多勢な無勢だ。圧倒的な数の暴力に為す術もなくやられるだろう。今のままではな(、、、、、、、)

しかも、全員女性。イッセー先輩なんか泣いちゃってるし。

 

「お、おい、リアス……。この下僕くん、俺を見て大号泣してるんだが」

「その子の夢がハーレムなのよ」

 

うんうん、と頭を縦にふるイッセー先輩。

 

「きもーい」

「ライザーさまー、このヒト気持ち悪ーい」

 

やめたげて! イッセー先輩のライフはもうゼロだから!

力を失ったようにその場に崩れ落ちるイッセー先輩。

 

「そう言ってやるな。上級階級の者を羨望の眼差しで見てくれるのは下賤な輩の常さ。あいつらに俺とお前たちが熱々なところを見せつけてやろう」

 

そういうとライザーは魔法使いのローブを着る女性の頬に手を持っていくと、そのまま濃厚なディープキスをした。

 

「あ、あのノゾムくん? 前が見えないのですが」

「……見えない」

「見なくていいよ。二人は」

 

二人の教育に悪影響を及ぼしそうだったので、二人の目を遮るように手で隠す。

 

「……フィア姉、何で俺の目も隠すの?」

「教育に悪いからよ」

 

唾液を啜る生々しい音が数分間続き、フィア姉が手を退いた。

既に二名ほど顔を赤くしている。どうやら二回戦もしたようだった。

ライザーは嘲笑しながらイッセー先輩を見下す。

 

「お前じゃ、こんなこと一生できまい。下級悪魔くん」

「俺が思っていることをそのまんま言うな! ブーステッド・ギア!」

 

「お前みたいな女ったらしと部長は不釣り合いだ!」

「は? おまえもその女ったらしの俺に憧れているんだろう?」

「う。うるせぇ! それと部長のことは別だ! そんな調子じゃ、部長と結婚したあとも他の女の子とイチャイチャしまくるんだろう?」

「英雄、色を好む。いい言葉だよな?」

 

少し私情も混じっているが、この際目を瞑っておこう。

 

「ゲームなんざ必要ねぇさ! 俺がこの場で全員倒してやらぁ!」

『Boost!』

「ミラ、やれ」

「はい、ライザーさま」

 

ミラと呼ばれた女性は長い根を取り出し、構えた。

イッセー先輩の表情に何らかの迷いが見えた時には、すでに俺は動いていた。

イッセー先輩の腹部へと突き出された根を蹴り上げ、俺はミラの懐に潜り込むとトンッと拳を添えた。

 

「動かないでね。動いたら体が吹き飛ぶよ?」

「ーーーッ⁉︎」

「え、あれ? 何で、望が」

 

一瞬の出来事にイッセー先輩は状況を飲み込めずに、困惑する。

ミラは額から冷や汗を流していた。

俺はミラを解放すると緊張が解けたのか尻餅をついてしまった。

それを見たライザーは手に炎を宿しながら俺へと突っ込んできた。

 

「貴様ァ! よくもやってくれたな!」

「先に手を出してきたなのはそっちだぜ。その怒りは御門違いもいいところだ」

 

腕を強化し、振り抜かれた拳を跳ね上げる。

そのままの勢いで前のめりになるライザーの首元を投影した干将で斬り飛ばした。

頭を失ったからは炎が漏れ出し、宙を舞う頭を取り込むと斬り飛ばされる前の状態に再生した。

 

「クッ! よくも俺に恥を掻かせてくれたな人間! 貴様もレーティングゲームに参加しろ! 俺が完膚なきまでに塵も残さず燃やしてやる!」

「な、ライザー⁉︎ 勝手にそんなことを決めないで」

 

フィア姉の顔を伺うとコクリと頷いた。

 

「いいぜ。俺もレーティングゲームに参加するよ」

「逃げるなよ! リアス、十日後だ。今すぐやっても結果は見えてるからな」

「私にハンデをくれると言うの?」

「ーーー十日。君ならそれだけあれば下僕を何とかできるだろう。しゃあな、リアス。次はゲームで会おう」

 

その言葉を最後にライザーとその眷属は転移していった。

 

 

 

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