猫に関わる話   作:流離う旅人

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ーーー「第十四話 月夜の下で」ーーー

 

 

 

「うおおお! 美味ぇぇぇ! マジで美味い!」

 

 各々の特訓を終えた一行は夕食をいただいていた。

 あの後は大変だった。メンタルの強化とは言えグレモリー先輩に酷い悪夢を見せ続け、泣かせた。

 当然、赤く泣き腫らした目でみんなの前に出て行ったので驚かれたが、イッセー先輩だけは俺が酷いことをしたと勘違いして襲いかかってきた。まあ、酷いことをしたのは事実なのだが。

 そして、イッセー先輩を一撃でのして今に至る。

 

 チラッとグレモリー先輩を見る。

 まだ目元にほんのりと赤みを残しているがその表情は微笑んでいた。流石にやり過ぎたと自覚しているが功を奏し、一皮剥けたようだ。これでリザインの心配はないだろう。

 

 隣にいる小猫が皿に盛られた料理をガツガツと平らげていく。

 特訓で疲れ、いつもより倍増しで量が多い。全部食べられる前に黒姉の料理を取り分けて置かないとあっという間に無くなる勢いだ。

 しっかしよく食べるよな小猫は。そんなに食べて太ったりしないのかなーーー

 

「げふっ!?」

 

 まるで俺の思考を読んだかのように小猫の肘が脇腹に刺さった。

 ひょっとして小猫も《魔眼(ヴィジョンズ)》持ってるんじゃないか?

 

「いきなり何だよ」

「望が失礼なことを考えた気がしたから」

 

 なかなか鋭いな。小猫の前ではあまり変なこと考えないようにしよう。

 

「そういえばイッセー。私がいない間みんなと特訓してたのよね? その中で今日一日特訓してみてどう感じたかしら?」

 

 グレモリー先輩は飲んでいた紅茶のカップを置いて聞いた。

 さっきまで騒いでいたイッセー先輩はピタリと止まると箸を置き、ボソリと呟いた。

 

「……俺が一番弱かったです」

「そうね。それは確実ね」

 

 ハッキリと言われ、イッセー先輩は俯く。

 これは仕方がないことだ。つい一か月前までただの一般人だったのだ。むしろよく付いて来ているほうだ。

 

「イッセー先輩、そう落ち込むことはないよ。イッセー先輩は元々一般人だったのによく付いて来てるよ。それに安心してくれよ。俺がライザー戦までにつよくしてやるからさ」

「望……、そう、だよな。よろしく頼むぜ!」

「任されました」

 

 暗い気持ちをなんとか持ち直したイッセー先輩は二カッとはにかんだ。

 自分が励まそうとしたのにその役を取られたグレモリー先輩が不満そうに睨んでくるがイッセー先輩の笑顔を見て苦笑すると矛を収めてくれた。

 

「望の言う通りよイッセー。私たちだって何度かはぐれ悪魔を通して実戦経験はあるけれどレーティングゲームは今回が初めて。感じを掴めばなんとかなるでしょうけどイッセーとアーシアは実戦経験が皆無に等しいわ。けれどアーシアの回復に、イッセーのブーステッド・ギアを強化し使いこなせれば大きな戦力になるわ」

 

 グレモリー先輩の言う通り二人の存在は無視できないものだ。

 アーシア先輩の《聖母の微笑》は悪魔も癒すことのできる回復系の神器。イッセー先輩は十三の《神滅具》に数えられる《赤龍帝の籠手》を宿している。

 すでに資料はライザーにも渡っているはずなのでこのことは周知のものだ。

 だが、恐らくライザーは慢心し自ら与えた期間(ゆうよ)に何もせず無為に過ごしていることだろう。ライザーを倒すのはイッセー先輩の役目だ。残り九日で鍛え上げ、ライザーと肩を並べて戦える舞台(だんかい)まで引っ張り上げる。そこで勝てるかはイッセー先輩に掛かってくるがきっとやり遂げてくれると信じている。

 そのためにも明日からの特訓を頑張ってもらわなくては。普通に鍛えていては絶対に勝てないのでイッセー先輩には地獄よりも辛い特訓を受けてもらおう。大丈夫、死ぬ一歩手前まで何度も追い込むだけさ。フフフフフ……。

 

「ッ!?」

「どうしたんだいイッセーくん?」

「いや、なんか言い知れぬ不安と恐怖を感じて……」

 

 ブルっと寒気を感じたイッセー先輩の勘はあながち間違いではない。

 そうこうしているうちにいつの間にか料理は綺麗サッパリ無くなっていた。やっぱり取り分けといて正解だったな。満足したのか小猫の顔は微かに緩んでいた。

 

「さて、食事も終わったことだしお風呂に入りましょうか。ここは温泉だからきっと疲れも取れるはずよ」

 

 グレモリー先輩の言葉を聞いたイッセー先輩の顔が厭らしく変わるのに一秒も要さなかった。

 おい。さっきまで目に見えて落ち込んでたのはどこのどいつだ。しかも覗く気満々じゃねえか。

 

「イッセーくん、僕は覗かないよ」

「俺も覗きませんからね」

「バッカ……! お前らは俺を何だと思ってるんだよ」

「年中発情しっぱなしの発情猿」

「酷いな!?」

「あはは……」

 

 率直な感想を言っただけなのだが何か間違えただろうか? 木場先輩も苦笑してるし。

 

「あら、イッセーはそんなに覗きたいのかしら? なら一緒に入る? 私は構わないのだけど。朱乃はどう?」

「私も構いませんわ。うふふ、殿方の背中を流してみたいかもしれません」

 

 二人の言葉に衝撃が走るイッセー先輩。あ、また顔がにやけ出した。

 

「アーシアは? 愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」

 

 アーシア先輩はイッセー先輩とのお風呂を想像したのか赤くした顔を俯かせ、コクリと小さく頷いた。

 女性四人中三人が了承。ああ、イッセー先輩の顔がお見せできない状況に!

 残るは小猫だけ。断ると思うが何故か気になる。もしも小猫が一緒に入ると言ったらと思うと胸がモヤモヤする。

 

 

「最後に小猫は?」

「……いやです」

「じゃ、なしね。残念、イッセー」

 

 両手でバッテンを作って断る小猫。イッセー先輩には酷過ぎたのかその場に泣き崩れた。

 ホッと安堵の息を吐く。しかし、小猫が断ったことに何故こんなにも安心しているのか分らなかった。

 

「……でも」

 

 小猫の声に全員の視線が集まる。

 

「望となら入ってもいい……」

 

 頬を真っ赤に染め上げ、小猫は言った。

 

「やっぱりね」

「あらあら」

「あうぅ~~~、小猫ちゃん大胆ですね」

 

 何か納得した様子のグレモリー先輩。いつものおとしやかさが抜け、いっそニヤニヤと言っても過言ではない笑顔を浮かべる姫島先輩。小猫の言葉に顔を赤くするアーシア先輩。

 木場先輩は苦笑を浮かべ、イッセー先輩は羨ましそうに睨んできていた。

 当の本人である俺は未だ小猫の言葉を理解できずに固まっていた。

 だんだんと頭が追いつき言葉の意味を理解すると顔が熱くなった。

 

「小猫はこう言ってるのだけど、どうしようかしら? 私たちは気にしないわよ?」

 

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや! 気にしなきゃダメでしょう!?

 グレモリー先輩たちはああ言っているが無理。絶対に無理。かくなる上は………。

 

「…………ます」

「え?」

「外走ってきます!」

 

 ここは逃げるのが一番だ! 一目散に駆け出した俺は森へと向かった。しっかりと黒姉の料理を持って。

 

「あら、残念ね小猫」

「別にそんなこと思ってません………望のヘタレ」

 

 口ではそう言っているが小猫は不満そうに頬を膨らませていた。

 

「なんで望ばっかりあんな羨ましこと言われるんだよ!?」

「普段の行いだと思うよ」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 カポーン

 

 

 私は湯船に浸かり、リラックスしていた。

 丁度良い湯加減に疲れ切った体が癒されていく。アーシア先輩は初めて入る温泉に戸惑っていたが今は気持ち良さそうに顔を綻ばせていた。

 私は勇気を出して望を誘った? のだが当の望は走って逃げ出した。---別に不満に思ってはいない。そう、思っていないのだ。

 

「小猫はそんなに望と入りたかったのかしら」

「にゃ!?」

 

 驚く私の隣に腰を下ろしたのは部長だった。

 いつの間にか朱乃先輩とアーシア先輩まで傍に来ていた。

 

「べべべ別にそんなことこれっぽちも思ってません。ええ、微塵も欠片も思ってません」

「明らかに動揺してるじゃない」

 

 くっ! いきなりのことに動揺を隠し切れなかったようだ……って、別に動揺する理由なんか何もないですけどね!?

 

「何を言っても小猫は誤魔化すだろうから単刀直入に聞くわ。ーーー貴女、望のこと好きなんでしょう」

「……友達としてなら、好きですよ」

「本当にそうかしら? 貴女のその気持ちは単なる友愛なのかしら?」

「くどいです」

 

 部長はいきなり核心を突いてくる。内心、落ち着くことができない。

 そこに朱乃先輩の援護射撃が飛んでくる。

 

「あらあら。なら、私が望くんを取っても大丈夫ね」

 

 ニコニコする朱乃先輩は頬に手を当てながらそう言った。

 

 ズキッ

 

 胸が、痛んだ。学校で望が他の女子に言い寄られている時と同じだ。

 だが、きっとこれは冗談だ。そうに決まってる。私をからかっているだけだ。

 私は落ち着けるように繰り返し、心に言い聞かせる。

 

「早速お風呂上りに告白してこようかしら」

「それはダメ! っあ……」

「やっぱり好きなのね」

 

 例え、冗談だと分っていても私は思わず叫んでしまった。そして口が滑ったことを後悔する。

 しかし、三人の顔はにこやかだった。からかわれるのでは、と身構えていた体から力を抜く。

 

「別にからかうつもりなんてないわ。ただその恋が実るように応援するだけ。ほら、私は婚約というか親同士が勝手に決めたせいで自由に、満足に恋愛することができないから小猫には幸せになって欲しいのよ」

「……部長」

 

 そうだ。それを取り消すためにレーティングゲームに挑む。

 フェニックス家の三男坊であるライザー・フェニックス。部長の婚約者。

 昨日初めてあったが正直言ってあれは現段階ではイッセー先輩以上の変態だ。いきなり私たちの前で、ましてや婚約者である部長の前で濃厚なキスをするとか恋愛対象としては論外だ。

 これから先、イッセー先輩もああはならないだろうが変態を更にパワーアップさせることは容易いだろう。現にイッセーは洋服破壊(ドレス・ブレイク)という迷惑極まりない技を開発しようとしているのであながち間違いではない。

 自由に恋愛できないのは辛い。ほとんどの女性は自分の好きになった人と添い遂げたいと思うだろう。もちろん私だってそうだ。当然部長も。

 

「だから、頑張ってね小猫。私たちは貴女の恋を応援するわ」

「……はい。頑張ります」

 

 部長の言葉に張りつめていた空気が霧散した。

 焦らずにゆっくり変えていこう、私と望の関係を。友達から恋人に。時間はまだあるのだから。

 やはりもう少し素直になるべきだろうか? これでも素直になった方なんだけども。

 

「ふふふ、油断してると私や他の子に取られてしまうかもしれませんわね」

「……させません」

「冗談ですわ」

 

 ふふふ、と不敵に笑う。その姿は艶かしく、それでいて妖艶だ。

 まさか朱乃先輩も望のことが! なんて思ったがすぐに気付く。この人は私で遊んでいる、と。

 やはりこの人はSだと再認識させられた瞬間だった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 森の中を駆け抜けること数分、猫化を解いた黒姉に料理を届けた俺は近くの木に背中を預けた。

 黒姉も隣に座り、俺の肩に頭を乗せてパクパクと料理を咀嚼していく。その間ではましろがちびちびと用意したミルクを飲んでいる。

 

「黒姉、行儀悪い」

「今は私と望の二人っきりーーー痛い。忘れてないからひっかくのやめてにゃんましろ」

「シャーーー!」

 

 除け者にされたことに腹を立てたましろは黒姉をひっかく。黒姉とましろの仲が良好なのは良いことだ。

 そんな二人を尻目に俺はさっきの小猫の言葉に思い馳せる。

 何故小猫はあんなことを言ったのだろうか? 友達だから? いくら友達でもそんなこと言うはずないし……。

 考えれば考えるほど溝に嵌っていき何故? という考えから抜け出すことができなくなる。

 はあ……、と溜息が漏れる。

 

「どうしたにゃ?」

「いや、何でもないーーーってもう食べ終わったのかよ」

「誰かさんがずっとほったらかしにされて何も食べられてなかったから仕方ないにゃん」

「うっ、すみません」

 

 日は沈み、辺りは暗闇に包まれている。もう九時は回っている。朝は食べてから来たが昼は当然何も食べていないわけで。

 申し訳なくなり謝罪する。

 

「うん、許す! そ・の・か・わ・り~望成分を充分に補給するにゃん!」

「またそれですか。……ま、いいけどさ」

 

 ギュッと抱きつく黒姉に呆れながらも望は笑っていた。

 人に抱き着かれるのは嫌いじゃない。触れ合った部分から温もりを感じることができるから。

 望はどうしてそう思うのかは分らない。望はそれが寂しいという思いから来ていることに気付けないでいた。望の育った環境を考えればそんなこと言い出せないのは明白。胸の奥底に仕舞い込んで寂しいという気持ちを忘れてしまったのだ。

 温もりの心地良さに言いよどんでいたこと黒姉に話す。きっとこの疑問も黒姉なら解いてくれるだろうと思いながら。

 

「ねえ、黒姉」

「何にゃ?」

「女の子に一緒にお風呂に入っていいって言われた時、どうすればいいと思う?」

「何それもっと詳しく話せ」

 

 機嫌が良かった黒姉が豹変し、胸倉を掴む。

 怖い怖い! メッチャ目が据わってるんだけど!?

 正に襲われる寸前というのか複数の悪魔が転移してきたことを察知する。黒姉も気付いたようで悪魔の反応がある方を睨んでいる。

 顔を見合わせ、頷く。投影でローブを作り、黒姉に渡す。保護観察付きで指名手配は消えたが「はぐれ悪魔黒歌」だと分ると襲ってくる可能性があるのでそれを避けるためだ。……戦闘は回避できそうにないが。

 ましろを肩に乗せる。ここに置いていくより近くにいた方が守りやすいからだ。

 さて、招かれざる客にはご退場願おうか。

 

 

 

 

 

 

「ここにグレモリーがいるのだな?」

「はっ! 奴らはここでライザー様とのレーティングゲームに向け修行しているとのことです」

「ふん。ライザー様のお手を煩わせることはない。今ここで眷属を襲い、レーティングゲームに出られないようにしてくれる」

「しかし、こんなことしでかして大丈夫なのですか?」

「安心しろ。これから起こすことは全て事故だ。『偶々グレモリーの別荘がS級はぐれ悪魔に襲われた』、とな」

「それは些か無理があるのではないか?」

「なあに、それもこれも全て上層部が揉み消してくれるさ」

「人間もいるようだが運がなかったのさ。クククッ」

「その運がない人間てのは俺のことか?」

「誰だ!」

 

 突然の声に驚く奴らの眼前に降り立つ。こいつらはフェニックス家傘下の上級貴族か。

 目的はグレモリー眷属をレーティングゲーム辞退に持ち込むこと。そのためなら誰の血が流れてもいいらしい。全く、本当に腐ってやがるよ。口から反吐が出そうだ。

 

「今なら何も見なかったことにしてやるからさっさと冥界の領地に帰ってミルクでも飲んでな」

「貴様ァ! 下等な人間の分際で私たち悪魔にそのような口を利くとは万死に値する! たかが人間一人死のうがこっちは痛くもないのだ。貴様を殺し口を封じれば良いだけのことよ」

 

 悪魔たちから嘲笑が響く。特に気にすることなく冷めた目を向けるに留まっていたが隣にいる黒姉から濃厚な殺意が漏れ出していた。それに悪魔たちは気付かず、狂ったように笑っている。マヌケもいいところだ。

 黒姉の手を握る。今にも飛び掛かって行きそうだったので枷代わりと落ち着かせるために。

 

「黒姉、落ち着いて」

「あいつら望のことをあんな風に言ったのよ? なのに、それでも我慢しなきゃいかないの?」

「うん。ここで殺すのは簡単だ。でも、後々俺たちに不利な状況に持ち込まれるだろうし、何よりサーゼクスさんに迷惑を掛けることになる。それだけは避けたいんだ。だから、我慢してくれ」

「……わかった」

 

 いつもの口調は消え、真剣な眼差しが射抜く。

 俺のために怒ってくれるのは素直に嬉しいがそれで殺してしまったらまたはぐれ悪魔にされかねないし、サーゼクスさんが多大な迷惑を被ることになる。年間育ててくれた恩を仇で返すなんて言語道断だ。

 だから、こいつらには丁重にお帰り願おう。

 

「ふん、恐怖で何も言えんか。なら、大人しく死んで逝け!」

 

 一人が腰に帯剣していた剣を抜き放ち、走り迫る。

 それを避けたり、防ぐことなくただジッと見つめる。そして、一言。

 

「“止まれ”」

「な、にぃ!?」

 

 一言。たった一言。それだけで悪魔は剣を振りかぶった状態から動けなくなった。

 後ろに控えていた悪魔たちにどよめきが走る。

 《魔眼(ヴィジョンズ)》の能力の一つ。威光を使用したからだ。

 威光は相手を強制的に言葉によって支配できる。格上には効かないので相手を選ぶが逆に格下や慢心し切っている奴には絶大な効果を発揮する。効いたからと言っても無理矢理支配を振り切る奴もいるので油断できないけど。

 

「“お前たちも動くな”」

『ッ!?』

 

 後ろにいる奴らの動きも縛っておく。黒姉はすでに転移魔方陣を悪魔たちの足元に展開していた。

 

「お前たちには今から冥界に帰ってもらうけど行先はサーゼクスさんのところだ」

 

 

 悪魔たちの顔に初めて動揺が走る。

 

「お前たちの処分を決めるにはサーゼクスさんだ。ま、今回は未遂に終わったからそこまで重くないだろうから安心しな。それじゃあ、皆さん。もう会わないでしょうがさようなら」

 

 瞬間、閃光が辺りを包んだ。転移の残光が消えるとそこにはもう誰もいなかった。

 取り敢えずはこれで終わりかな。肩に乗るましろを一撫でしながら考える。黒姉がましろを嬉しそうに見ていたので撫でてやる。さっきは我慢してくれたしこれぐらいしてもバチは当たらないだろう。

 黒姉とましろは可愛らしい猫撫で声をあげながら身を捩る。

 

「あ、さっきの話はちゃんと話してね」

「あ、はい」

 

 どうやら誤魔化すことはできないらしい。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 黒姉の質問攻めをどうにか切り抜け、風呂へと向かった。

 去り際の黒姉の怒鳴り声が聞こえたが無視した。……この後黒姉に何をされるか考えると怖いので思考を放棄しながら湯船を出た。

 俺の指導は明日の朝からのためグレモリー眷属の皆は各々で夜の特訓に入っている。自分だけゆっくりしているのは忍びないがこういう自由な時間はあまりないので堪能させてもらうことにした。

 別荘に設けられたバルコニーに出て、柵に体重を預け一息吐いた。

 夜風が吹き抜け頬を撫でる。まだ薄らと濡れた髪が靡き出す。

 

「涼しいな……」

 

 静かに独りごちる。

 

「あ、ここにいたんだ」

「小猫?」

 

 振り返るとそこには小猫が立っていた。先ほどまで特訓をしていたのか服は砂埃に汚れ、汗を流していた。

 しかしどうしたのだろう? 今の口振りから察するに自分を探していたようだが何かあったのだろうか。

 

「特訓を切り上げてきたのか?」

「うん。ちょっと、ね」

 

 口ごもった小猫はそのまま俺の横に腰を下ろした。どうした? と、口を開きかけたが小猫の真剣な表情を見て閉口する。

 すると、次第に小猫が変化した。頭には小猫の髪と同じ白い毛並の猫耳が現れ、臀部付近には尻尾が伸びていた。小猫は自分の意志で本来の姿、猫又に変化(へんげ)した。黒姉の黒とは対照の白。その姿に思わず見惚れてしまう。きっと今、俺の顔は赤くなっているだろう。

 

「小猫、お前……。過去を、克服したのか」

「ううん。まだ怖いいよ。でも、望が止めてくれるって言ってくれたから私も前に進まなきゃって思ったの」

 

 そう言う小猫の体は震えていた。相当無理をしている、でも勇気を振り絞っている。

 

「私、頑張る。まだ怖いけどいつまでもそう言ってウジウジしてられない。今回のレーティングゲームは部長の人生が掛かってる。なのに使える力を使わずに終わったらきっと後悔する。だから、私は猫又の力を使う。望にそれだけ言いたくて探してたの」

「そっか……。じゃあ、明日からの特訓頑張らなきゃな」

「うん。……それで、その明日から頑張るために、ね? その、頭を撫でて欲しい、です」

「はい?」

「ご、ごめんなさい! な、何でもないから今のは忘れて!」

 

 顔を真っ赤にしてあわあわと慌てて手を横に振るのが面白くて軽く吹き出してしまう。

 俺は苦笑しながら小猫の頭を撫でてやるとピタリと動きを止めた。そして、俯きがちに呟いた。

 

「さっきまで動いて汗かいたから触らない方がいいよ?」

「そんなこといちいち気にしないよ」

「実は臭いフェチだったりーーー」

「しないからな!」

「冗談だよ」

「冗談でもそういうのはやめてくれ。変態だと思われる。変態はもうイッセー先輩だけで間に合ってる」

 

 ひとしきり笑いあった俺たちはどちらかが言ったでもなく夜空を見上げた。夜空には町からでは見ることができなかった星々が淡く輝いていた。

 それを感嘆としながら見る二人の手は自然と握り合っていた。

 

 

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