猫に関わる話   作:流離う旅人

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戦闘描写って大変だ。


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悪魔を殺して施設を飛び出したのが一年前。ふと思った。

俺は今、冥界の森で獣を狩りながら生活している。

最初の頃はマントもとい《捉えられない不可視(インビジヴィリティキャプチャー)》を使いながら獣の目を欺き、翻弄してから仕留めていたが今では修行も兼ねて真正面から挑んでいる。

その恩恵で“投影”と“強化”の効率化と魔力の軽減を実現した。

“投影”のバリエーションも増え、戦闘に手数が増えた。

 

記憶が流れ込んで来たのはあの時、ただ一度だけ。

ひかりが言っていた。俺に聖杯との線を繋げた、と。

彼は聖杯に何かしら関係している。というのが俺の考え。

聖杯のイメージを固めて繋がりを強く意識すると彼の情報ではなく代わりに《宝具》と呼ばれる物の情報を垣間見ることが出来た。

その中でも好んで良く使うのは干将・莫耶だ。

何というか手に馴染むのだ。そればっかり使ってる所為か“投影”する時にほとんど魔力を消費することは無くなったのは僥倖と言えよう。

 

さて、朝飯でも取りに行くかね。

 

 

 

ーーー『第二話 黒猫』ーーー

 

 

 

手頃な狼を首元から斬り落としたものを木の棒に括り付けて火で焼いていく。

あらかじめ毛皮を剥いで置いたが獣臭だけは拭えない。

適度に焼き上げた肉にそのまま齧りつくと油が滴る。

味は、まあまあだな。初めて食べた頃は思わず吐き出した程不味かったが今ではもう慣れた。

まあ、命を奪って自分の糧にする訳だから残す訳にもいかないし。

肉を余すとこなく貪り、骨も食ってみようかと一考するが歯が欠けるかもしれないから止めた。

 

今後の生活どうしようかな?

食料はこのまま獣を狩ればいいが、衣食住は大切だ。

食が良くても服と住む場所がない。

服は施設を出てきたままだし、これを一年間着続けて来たのは奇跡だ。衛生上よろしくないしな。

住は《捉えられない不可視(インビジヴィリティキャプチャー)》で獣や魔物、悪魔をやり過ごして来たがおちおち寝ることが出来ない。

お陰で立ったまま眠っているが意識はあるっていう意味の分からん技を身に付けてしまった。

 

と言ってもここは冥界。

主に悪魔しか言葉の通じる存在はいないだろう。

なるべくなら悪魔とは関わりたくないのが本音。

“転移”が使えれば人間界の適当な場所に転移して孤児院で厄介になるとかも出来るが生憎俺にはまだ使えない。

さてさてどうしたものか? と考えながら“投影”の訓練を始める辺りさほど深刻な問題と見ていないな、俺。

 

投影、開始(トレース・オン)ーーー」

適当な刀剣を投影(つく)り一本ずつ並べていく。

どういう理屈なのか自分の理解の範疇を超えるが俺の投影(つく)った物は基本的に消えない。

魔力で創り出した物だからその際に使用した魔力が切れれば消えるものだと思っていたのだが違ったらしい。

いや、俺が特別なのかな? さすがに壊れたりしたら消えるけどね。

“投影”した刀剣を逆に魔力に還元する、それが今の訓練。

壊れて消えるだけなら魔力に還元した方が幾らか元が取れるし、肝心な時に魔力切れっていうのも減らせるだろう。

 

パチッと痺れるような感覚が頭に走り、顔を顰める。

数kmに渡り張っておいた結界に何者かが侵入したことを示す。

寝ている時、すぐ起きれるようにとこうゆう仕様にしたけどやっぱりこの仕様変えようかなと考えながら反応のあった先に向かった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

反応した位置から察するに薄々勘付いていはいたがいざ此処までやって来ると足が止まってしまう。

一年前飛び出した施設の前まで俺は来ていた。

案外、近くにあったんだな。いや、俺が離れられないだけか。

此処も俺の時間も一年前に止まっているのかもしれないな。

人の手が行き届かず、獣たちに荒らされたのか所々窓が割れたり崩れ落ちている。

首元のペンダントにソッと触れる。俺の不安を感じ取ったのか微かに熱を灯し不安を拭い去ってくれる。

 

「ーーー行こう、みんな」

 

施設の中はあまり変わっていなかった。

本当にあの時のまま時が止まってしまったようだ。

ゆっくり、ゆっくりと奥へと進んでいき、曲がり角に身を寄せた。

黒い影が動いたのが見えたからだ。その正体は分かっている。

見間違える筈がないーーー()()()()()()()()()()()()

瞬間、頭から一つの感情以外が消え去り思考がクリアになる。

右手に干将を“投影”し、気配を消して近付き背後から心臓を貫いた。

口から血を吐き出しながら心臓を貫いた俺を確認しようと振り返ろうとするが足を後ろに引き、前に倒すとそのまま首裏に干将を突き刺し、捻る。

「ヒグァ⁉︎」と、なんとも情けない声を漏らして絶命した。

 

悪魔だと分かると頭が殺意に埋め尽くされ気付いた時には殺していた。ダメだ。憎しみや殺意だけで殺すのはダメだ。

それは、みんなだって望まない。

地面に転がった亡骸に瞑目して手を合わせると《捉えられない不可視(インビジヴィリティキャプチャー)》を羽織り、奥へと進む。

 

反応が合った場所で大体分かるがこの道を俺は一度通っている。

しばらく進むと目の前に一つの部屋が見えてきた。

少し躊躇ってからドアノブを引くと黒い着物を着た女性が複数の悪魔に取り囲まれていた。

感覚的に分かる。着物の女性も悪魔だ。

 

けれど、何故取り囲まれているのか分からない。

悪魔たちを見てなんとなく察した。あの顔は前世でも見たことがある。

金に目が眩んだ顔。女性の体を舐めまわすような視線。

汚い欲望に塗れた奴のする顔だ。

悪魔同士でも、格差とかあるんだな。

見たところ女性は全身傷だらけで疲弊している。

命からがら此処に逃げ込んだが居場所が割れた、という感じかな。

 

でも、女性はまだ諦めていない。

瞳は光を失っていない。まだ彼女の心は折れていないから。

あの顔にも覚えがある。

ーーー父さんと母さんが俺を守ってくれた時の顔だ。

きっと、彼女にも家族がいて、守りたいんだ。

だから、瞳は光を失わず、この場を切り抜けようと考えている。

 

ーーーなぁ、みんな。みんなはどう思うか分からないけどさ。俺、あの人を助けたいと思った。だから、あの人を助ける。そして、この場所での因縁にもケリをつけるよ。

 

そう思った時、誰かに肩を押され振り返るともう会うことは叶わない筈の四人が立っていた。

四人の顔は変わらず笑顔で悪魔に殺されたというのに憎みもせず恨みもしていないのだろう。

それを見たら憎しみと殺意で動いた自分が途端に恥ずかしくなる。

 

ーーー『行ってこい!』

 

ーーー行ってきます

 

 

 

黒歌side

 

やっと、逃げ切れたと思ったのに……

目の前には私を追って来た悪魔共が取り囲んでいる。

逃げ場はない。満身創痍の上、今まで碌に休むことも出来ずに逃げ続けて来たため疲労が溜まり体が思うように動かない。

 

妖怪の転生悪魔。それが今の私の立場。

親が早くに亡くなり、私一人で残された妹を育てていくのは無理がある。

そこで転生悪魔となり主に仕えることにした、までは良かった。

主は犯罪に手を染めたクズだった。それは私が転生して数ヶ月経った後に知った。

私たちに危害が無ければ無視するつもりだったが傲慢にも主は妹に手を出そうとしたのだ。

 

私が転生する際、取り付けた契約はこうだ。

ーーー妹も一緒に住まわせること。

これさえ守ってくれれば良かったのに主は契約を破った。

私たち妖怪が持ち、悪魔に持ち得ない“仙術”に目が眩んだのだ。

だから、殺した。

このままでは絶対に妹が酷い目にあってしまうから。

先に契約を破ったのは主。ならば、私も仕える義理はない。

 

後悔は……一つだけある、かな。

妹とは途中で別れた。此奴らが狙っているのは私だけだから。

もう一度妹に、白音に会ってちゃんと話をしたい。

そうしなければ永遠に白音は私のことを殺人者としてしか見てくれない。そんなのは、嫌だ。

悪魔が笑う。私の首に多額の賞金がついたのだろう。

悪魔が笑う。私の体を見て、厭らしく笑っている。

悪魔が笑う。私が絶望に染まる瞬間を見たくて。

一人の悪魔がジリジリと歩み寄る。

もう、逃げ出す体力もない。けれど諦める訳にはいかないのだ。

 

……白音。絶対にお姉ちゃんが迎えに行くから!

 

辱めを受けることになっても生きていればまた会える。

だったら、私の貞操ぐらい捨ててやる。

それだけで済むのなら安い方だろう。

ギュッと強く目を閉じた。

 

「ギャァアアア!」

「は?」

 

聞こえたのは苦痛の悲鳴。

一体何が⁉︎ と目を開くと手首から切り離された手を見て叫ぶ悪魔の姿が映った。

私は何もしていない。したくてもそれをする魔力も気もない。

布が風で靡く音が聞こえたかと思うと目の前に人間の少年が立っていた。

背丈から察するにこの少年は白音と同じくらい。

つまり六歳になる訳だが突然の出来事に口をパクパクと動かすことしか出来なかった。

 

「すぐに、終わらせますから」

「え?」

「だから少し待ってて下さい」

「あ、ちょーーー!」

 

少年はそれだけ言うと私の制止を振り切り、悪魔へと跳んだ。

あの細い足のどこにそんな力があるのかと疑問に思うがそれはすぐに霧散した。

気を使って少年の体の流れを見ると何かに魔力が流れていた。

少年は魔力で足を強化している。まあ、それが出来るからあんな事言ったんだろうけど。

そして、少年は手にした剣で叫び声を上げている悪魔の首を斬り飛ばした。

その光景に吐き気を催すが再び生じた疑問が搔き消した。

 

あの剣はどこから取り出したのだ?

さっきまで少年はマントしか持っていなかった。

マントの裏に隠していた? いや、それはない。もしそうなら剣の重さでマントが靡くはずがない。

考えれば考えるほど謎が深まっていく。

 

「どうしたんだよ? 悪魔さん。施設(ここ)にいた悪魔の方がまだ強かった気がするよ」

「何だと? そうか! 貴様は此処の生き残り、という訳か」

「お、頭の回転が御早いようで。話しやすくて助かるよ」

「ふふふ。私は運が良い。そこのはぐれ悪魔だけでなく貴様も殺せば一気に私の名が上がるというものだ」

「殺せるなら、な!」

生き残り、とはどういう意味だろう?

一体此処で何があったのだろう?

取り敢えずあの悪魔の顔面思いっ切り殴りたい。と、思っていたら少年が悪魔の顔面に拳を減り込ませていた。

テレパシーでも持っているんじゃないかと思いながら心の中でサムズアップする私は悪くない。

そこから先は少年による一方的な蹂躙だった。

悪魔共はそれが蹂躙だと思っているのかは分からないが額に流れる冷や汗が目立った。

魔力弾が迫れば弾き飛ばす。

隙を見せれば四肢を斬り飛ばす。

空へ逃げようと翼を出せばブーメランのように飛ばした剣に切り裂かれ地に堕ちる。

恐怖に支配されて動けなくなった悪魔の頭と体が離れる。

この際心の中で体さん永久にさようなら〜♪ と声を当てていた私は悪くない。

逃げ出そうと背中を見せれば情けも容赦もなく袈裟斬りをして体が斜めに滑り落ちる。

後半の方は私も顔を引き攣らせていたのは内緒だ。

 

「……みんな。これで、良いかな? これであの日の因縁を終わらせられたよ」

 

そう囁く少年の顔はとても悲しそうだった。

目元を擦る動作をしてから少年は私に目線を合わせた。

助けてくれたからと油断しそうになったが警戒を強める。

殺気に気を混ぜるが眉一つ動かさずに動きを止めない。

私の前まで来ると手を突き出す少年。

その動きに思わずビクッと体を震わせたが杞憂に終わった。

手が輝きだしたかと思うと私の体を光が包み、痛みが引き、体が楽になる。

少年は私に治癒魔法を掛けてくれている。

ひょっとしたら私の事を捕まえる魂胆では? と疑った自分が恥ずかしくなり顔が上気する。

 

「えっと、大丈夫ですか? あんまり治癒得意じゃないから……」

「あ、その、大丈夫。痛みも引いてきたし何ともないにゃ」

「なら、良かった」

「……どうして、私を助けたにゃ?」

「困ってる人を助けるのに理由なんて要らないですよ」

「……変な人間」

「そうやって言うのは貴女で二人目です」

「誰が見てもそう言うと思うにゃ」

「マジですか」

 

どこが変なんだと頭を掻く少年を見て、笑顔になる。

白音と話している。そんな温かい気分。

さて、まずは自己紹介からかにゃ?

 

 

 

黒歌side out

 

 

 

顔が微かに赤みを孕んでいる彼女を見て首を傾げる。

まだ警戒は解いてくれないものの少しは気を許してくれてる、かな?

今まで会ってきた人よりも優しい瞳で俺を見つめる彼女。

それは家族を見ている。そんな感じだ。

きっと、この人にも家族がいるんだろうな……

 

「えっと、俺は春日望。六歳で人間です」

「私は黒歌にゃん。元妖怪の転生悪魔にゃん」

「転生悪魔?」

「にゃ? 知らないのかにゃ? 転生悪魔って言うのは種の繁栄が著しく低い悪魔が種の存続の為に作った悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使うとなるんだにゃん」

「へ〜そんな物があるんだ。じゃあ黒歌さんは何の妖怪なの?」

「私は猫又。その中でも上位に位置する猫魈にゃん」

「……猫、ね」

 

そのネコ耳と尻尾は飾りじゃなかった訳ですか。

頭部でピコピコと脈打つ耳。尻尾が生き物のようにゆらゆらと揺れる。……な、撫でたい!

ネコ耳と尻尾の魔力(ゆうわく)には勝つことが出来ず、思わず尻尾をギュッと掴んでいた。

仕方ないじゃん! 猫可愛すぎるんだもん!

 

「ひゃん!」

 

とても可愛らしい声が漏れる。

このまま撫で回したいという衝動に駆られるが黒歌さんがギロギロと目を光らせているので我慢する。

黒歌さんは緩んだ手から尻尾を引っこ抜き抱き締めるように隠す。

着崩した着物から見える艶かしい胸元に尻尾が挟まりイケない妄想がスタートしそうになるのを理性で叩っ斬る。

こうしてマジマジと見ると白く艶がある肌の大部分が露出していて正直目の毒だ。肌とは対照的に髪は黒に染まっている。

決して相入れることのない白と黒。お互いの存在を打ち消す訳でもなくむしろお互いをより一層引き立たせるという相乗効果がある。

……綺麗だ。本当にそう思う。

黒歌さんと目が合い、バッと顔を逸らしてしまう。

 

「どうしたにゃ?」

「な、何でもないでしゅ……」

「ハッハ〜ン♪ さてはお姉さんに見惚れてたにゃ」

「そ、そそそれはですね⁉︎」

「私、可愛くないのにゃ?」

「いえ。すっごく可愛いです」

「認めたにゃ」

「は、嵌められた⁉︎」

 

してやったりと笑う黒歌さんからはもう警戒は感じられない。

心の底から笑っている。そう思うと自然と頬が緩んだ。

 

「それじゃあ、お互いの話をしましょうか?」

「そうね。じゃあ、まずは私からするにゃ」

 

彼女の話を聞く。

両親が死んでしまい彼女には妹が残った。

妹と自分が生きていくには悪魔に転生する他なく、妹も一緒住まわせるという条件で眷属になったらしい。

着々と眷属として名を上げていった黒歌。

妖術と仙術を駆使し貴族の間で執り行われるレーティングゲームというもので戦果を得ていた。

 

そこで黒歌の主は妹も無理矢理悪魔にしゲームに出そうとしたそうだ。勿論それは黒歌の仙術を見たから。

妹にもその才があるのなら使った方がゲームに有利になると考えたのだ。しかもその主は眷属で売春、薬物売買、密輸と違法行為を重ねていた。このままでは自分だけでなく妹にまで危害が向く。

だから殺した。欲しがっていた仙術を使って。

 

そこからは逃亡生活をしていたらしいが衰弱仕切った妹を魔王の城の前に置いて一人で逃げてきた。

魔王ならば妹を危険な目に合わせることはないと判断した結果だ。

そして、今に至る。

 

「……そっか」

「私はもう一度白音に会いたい。死ぬわけにはいかないにゃ。だから、助けてくれた望には感謝してるにゃ」

「良いんだ。俺は自分の因縁を終わらせる為にやったようなものだし」

「別にそれでも良いにゃ。そのお陰で私は助かったから」

「……そっか」

「さ、今度は望の話を聞かせてにゃん」

 

黒歌さんは俺を信用して全部話してくれた。

途中、主を殺したと言った時僅かだが顔を顰めていたのは俺が自分のことを嫌悪するのではという不安を抱いたからだと思う。

別に嫌悪なんてしない。俺も同じ立場だったらそうしていた。

信用してくれている。

それは前世では考えられないものだ。

だから、俺も全部話そう。

きっと驚くんだろうなと俺は微笑んだ。

 

「信用してくれるか分からないけど話すよ」

 

 

 

黒歌side

 

 

「俺は前世の記憶がある転生者なんだ」

 

前世の記憶がある。つまりは生まれ変わり。

自分は転生者だと語る望に何を馬鹿な事をと笑い出しそうになるがその表情は真剣だった。

だから、私は黙って望の話に耳を傾けた。

五歳の時に両親が殺され、殺した犯人である叔父と生活するはめになったことを聞いた。

虐められてお前は要らない人間だと蔑まれたことを聞いた。

十六歳で猫をトラックから庇い、死んだことを聞いた。

生まれ変わったこの世界で悪魔に拐われ、両親を殺されたことを聞いた。

同じく誘拐された四人の家族がこの場所で神器を抜かれ死んだことを聞いた。

そして、一年間森の中で生活していたことを聞いた。

話はそれで終わり。話し終えた望の顔には微かに陰りが見えた。

望は二度両親を失っている。私も両親が死んで、凄く悲しかった。

望はそんな悲しい体験を二度している。重ねて目の前で家族を殺されている望の心はボロボロのはず。

前の人生も今の人生でも望は大切なものを失い、傷付いてきた。

そんな彼に私は何が何が出来ようか?

 

「望は、望は寂しくないのかにゃ?」

 

と、私は聞いていた。

その問いに悲し過ぎる答えが返ってくるとは知らずに。

 

「そうだね。寂しいかな。でも、一人は慣れ(・・・・・)てるから(・・・・)

 

それが普通で当然のように望はそう言った。

一体どれほど悲しい思いをして来たのだろう。

一体どれほど寂しい思いをして来たのだろう。

私には想像もつかない。

白音を殺されたら私は悲しむし怒り狂う。

望はそれを三回も経験してきた。幾ら前世の記憶があり、精神が早熟しているからといって辛くない筈がない。

親の愛情も受けられずに親を殺され、家族を殺された望の心をどうすれば癒してあげられるだろうか?

私に出来ることはないかも知れないしあるかも知れない。

でも先ずは私がこうしたい、と思ったことをしよう。

 

「え?」

 

私は妹をあやす時のように望を優しく抱き締めた。

望にとっては予想外だったらしく間の抜けた声が漏れた。

白音よりもやや大きいその体は抱き締める力を少しでも強くしたら折れてしまいそうなほど細く感じられた。

実際、森では襲ってくる獣しか食べていないのだから栄養をちゃんと取れていない。

白音も衰弱していたがここまで痩せ細ってはいなかった。

本当に、本当に望は一人なんだ。と、改めて実感させられる。

望の顔を見るとまだ戸惑いを隠せないでいたが久しぶりに人肌に触れた所為か少し柔らかくなっていた。

 

「私は望が言ったことを信じる。他の誰かが笑い者にしても私は望の言葉を信じる。ーーーだから、望は一人なんかじゃないよ。だって、私がここにいるんだから」

「あっ」

 

ポタポタと音を立てて地面が濡れる。

望が私の背中に手を回し、顔を見せないようにしがみついた。

私は黙って望の頭を撫でた。それはきっとこの小さな心の雨が止むまで続くだろう。

 

 

黒歌side out

 

 

 

一人なんかじゃないよ。

そんな風に言われたのは初めてだった。

転生者などと得体の知れない俺の話を黒歌さんは黙って聞いてくれた。

そして、俺は優しく抱き締められていた。

最後に抱き締められたのは前世で父さんと母さんが死ぬ前日だったっけ。まるで両親に抱擁されているかのような優しい温もり。

ふいに涙が零れ、地面を濡らした。

なんだかそれが恥ずかしくなって黒歌さんにしがみついた。

しばらくして落ち着いた俺は目の前で泣いてしまったことに羞恥を覚え、顔を赤くしながらも黒歌さんから離れた。

そのとき何故か残念そうな顔をしていたこと気付かずに。

 

「黒歌さんはこれからどうするんですか?」

「望と一緒にいるにゃん♪ ーーーって言いたいところだけど私ははぐれ悪魔。私と一緒にいたら望にまで迷惑掛けるにゃん」

 

しゅんっと残念そうに顔を俯かせる。

彼女の話の通りなら彼女は正しいことをした。

妹と離れ離れになり、傷付く理由など微塵もない。

それに黒歌さんには俺みたいにあんな思いして欲しくなかった。

そうとなれば俺の今やることは決まった。

 

「よし! じゃあ、先ずは黒歌さんのはぐれ悪魔としての指名手配を取り下げて貰おう!」

「そんなの、無理にゃん」

「いいや、やる! そうと決まれば早速証拠集めて魔王に叩きつけてやろうぜ!」

「本気で言ってるの?」

「本気も本気、超本気!」

「ーーー本当に変な奴にゃん」

「事実だけどそんなに変変言わないで貰えますかね⁉︎」

「「ーーーぷっ」」

 

同時に吹き出して笑い出す二人。

 

「さ、行こう。黒歌さん」

「むぅ、これから一緒にいるんだから私たちは家族にゃん! だからさん付け禁止! もっと砕けた感じで要求するにゃん!」

「! ……そうだね。行こう黒姉(・・)!」

「にゃん!」

 

二人は手を取り、明るい未来を手にするためにゆっくりと歩き出した。

 

 

 





黒歌は良き姉!
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