戦闘メインです。
「ん、んん……重い」
体の上にのしかかる重みで目が覚めた。
そこまで重いわけでもないしむしろ気持ちが良い。
柔らかいものが当たっていてーーー柔らかい、もの?
瞼を開けて上に乗っている重みを確認すると黒姉が気持ち良さ気に眠っていた。
度々漏れる吐息が肌に掛かりくすぐったい。
肌着もはだけて白い肌が露わになっていて思わず魅入ってしまう。
心臓の鼓動がバクバクと早鐘打つ。
「……ん、にゃぁん。おはよう、のぞむ」
「……おはようございます」
「んにゃ? どうしたのにゃ?」
「何でもないです! 取り敢えず退いて貰えますかね⁉︎」
「だが断る、にゃ!」
「何故に⁉︎」
より一層強く抱き着いて来る。
豊満な胸が俺の胸板でムニュと形を変えていく。
肌もスベスベしていてずっと撫でていたいと思う。
拘束を解こうと体に力を入れるが全くと言っていいほど力が入らなかった。
「無駄にゃん♪ 仙術を使って望の気の流れを塞き止めてるからしばらくは動けないにゃん」
「なんてくだらないことに仙術使ってんだよ⁉︎」
「くだらないとは何にゃ! 私は一日を過ごすのに欠かせない望成分を補充してるだけにゃん!」
「凄いな望成分⁉︎ てか、そんなのあんなら学会で発表して来いよ!」
気の流れが塞き止められている為思うように動けないことを良いことに頬擦りまでして来る。
このままだといろいろと(主に理性が)ヤバイので気の流れを早めて塞き止めている黒姉の気を押し流していく。
俺も仙術が多少なりとも出来るようになった。
黒姉とは天と地ほどの差があるがそれでも肉体強化と気配察知、相手の生命、気、魔力の流れが見えるようになった。
「黒姉」
「分かってる。やっと、やっとここまで来たにゃん。もしかしたら私はその場で即処分されるかも知れない。だから、もう少しだけこうさせて」
「……分かったよ」
黒姉と出会って二年が経過した。
悪魔共をおど……きょうは……O☆HA☆NA☆SHIして証拠を掻き集めて今日ようやく魔王様に直談判しに行くのだ。
証拠はあるだけ全て集めた。てか、魔王様ちゃんと管理してろよ。
結局、俺が解放されたのはそれから三十分後のことだった。
ーーー『第三話 魔王』ーーー
黒姉の案内の元、ギリギリ気付かれない所まで来た。
遠目でも魔王城が確認出来る。
「……黒姉」
「にゃ?」
「あれが、魔王城?」
「そうにゃ」
「デカすぎじゃね⁉︎」
「あーそれは私も初めて見た時思ったにゃ」
あんなにデカくても部屋が多過ぎるたまろうし。
そもそもそんなに住んでいる悪魔はいない筈だが。
まあ、そんなことは置いといてそろそろ行こう。
黒姉にそう伝えると無言で手を握って来て吃驚したが不安そうな黒姉の顔を見たら恥ずかしいとか言えなくなった。
俺はギュッと握り返し、魔王城へと歩き出した。
門番は一、二、三……六人か。見張りとしては些か少ない。
攻めてくる奴なんていないと考えているのかあの六人だけで何とかなるのか。この場合は後者かな。
「
左手には黒い弓が、右手には捻れた剣を
「ーーーI am the bone of my sword」
狙うは門。狙いを定め、弓を引く。
ギリギリと音を立てる弓を裂帛の気合いと共に撃ち放った。
「
一筋の光と化した
猫化した黒姉を懐に入れて《
今では透明化も任意でON/OFFがつけられるようになった。
強化した足で気配を隠しながら門へと駆けると案の定パニックが起きていたのでその混乱に乗じて内部への潜入に成功した。
幾つかの悪魔のグループとすれ違ったが此方に気付く気配はない。
門が破壊され平静を保てていなければ相当の実力者でなければ《
自分を中心に索敵結界を張る。
この先の部屋に他とは比べものにならない程大きな魔力が
片方は魔王だろう。もう一人は従者かな。
本能が警鐘を鳴らしているが生唾をゴクリと飲み込みながら先の部屋へと近付いて行く。
この空間に自分しかいない為か音が嫌に大きく聞こえた。
「……あそこにゃ」
「うん。行こう」
扉を開こうと手を伸ばした瞬間、扉が爆ぜた。
咄嗟に俺と黒姉が展開した障壁で何とか事無きを得たが奴さんは此方に気付いている。
立ち昇る白煙が晴れると玉座に座る紅い髪の男性とその横に佇む銀髪のメイドが見えた。魔王と従者。此処で間違いないらしい。
魔王は見えていない筈なのにニコニコとした表情で此方を見ている。
同様にメイドも目を瞑ってはいるが此方から目を離そうとしない。
「やあ、随分と派手に門を壊すのは止めて貰えないかな?」
「…………」
「姿を現しなさい。私たちはもう貴方を捉えている」
やっぱり自分よりも実力がある者には効かない、か。
大人しく透明化を解き、フードを脱いだ。
途端に姿を現した俺に魔王と従者は目を見開いた。
それは多分俺がまだ子供だから。
あれから二年経ったとは言え、まだ八歳だからな。
「驚いた。まさか侵入者が幼い子供だったとはね」
「見たところ貴方は人間ですね。どうやって冥界に来たのでしょう?」
「俺はあんたに用があって此処に来た」
「私にかい?」
魔王にコクリと頷く。
魔王は温和な雰囲気を纏っているがその隣の従者からは途轍もないプレッシャーと殺気がビリビリと伝わってくる。
「けれど私も忙しい身でね。悪いがこのままお引き取り願いたいのだが?」
ニコッと笑いながら魔王は促してくる。
魔王は多忙だ。それは分かる。
冥界の悪魔を束ね、率いる魔王には其れ相応の責任が付いて回る。
高々人間の子供一人に割く時間は一秒でも惜しいのだ。
けれど、俺も引くわけには行かない、
ようやく、二年も掛けて此処まで来たのだ。
絶対に黒姉の無罪を勝ち取るまで引くわけには行かないんだ。
「それは出来ない相談ですね。ーーー絶対に話を聞いて貰うまで引くわけには行かないんだよ」
「……そうか。ならば仕方ない。多少手荒になるが武力行使をさせてもらおう。グレイフィア」
「畏まりました」
従者、グレイフィアと呼ばれた女性は再び魔力弾を形成し放った。
しかもさっきよりも大きく速い。
此方もその速度を上回る速さで投影を行使。
そして、両手に干将・莫耶を握り、全弾弾き飛ばした。
「ほう」
魔王は感心するように顎に手を掛けている。
魔力弾では倒せないと分かった彼女は瞬時に戦法を変えて、その場から姿を消した。
索敵結界を自身の半径5mに展開すると同時に背後に剣をクロスさせるとズシリと重い一撃が剣を捉えた。
ピシッと剣に罅が入るのを感じ、すぐにそれを放棄し回し蹴りを叩き込む。それは彼女の手で弾かれてしまう。強化した足を素手で受ければ骨に罅ぐらいは入るのだがそんな素振りを一向に見せないことに落胆する。
体勢を立て直し、一気に後退して距離を空ける。
彼女は武器を持っていない。つまり手刀で剣と打ち合ったという事。
これが本場の肉体強化というわけか。硬すぎるぜ!
内心舌打ちしつつも彼女から目を離さない。
「今ならまだ引き返せます。早急にこの場から立ち去ってください」
「断る」
「理由を聞いても?」
「あんたが主人を守るのと同じように俺にも守らなきゃいけない約束があるからだ」
「ーーー分かりました。私も本気で貴方を殲滅します」
いやいや、本気で来られるのはちょっと困りますね。
俺、まだ子供なんですけども⁉︎
彼女から魔力の奔流が噴き荒れる。
噴き出た魔力が城を揺らし、パラパラと欠片が落ちていく。
なんて魔力だろう。自分は果たして勝つ事が出来るのだろうか?
いや、出来るじゃない。
圧倒的な差なんて承知の上で此処に来たんだ。
その上で俺は彼女に勝つ。それだけだ。
「ーーー
干将・莫耶を投影して握り直す。
「変わった魔法を使うのですね」
「いや、魔法じゃないですよ。これは魔術です」
「魔術?」
「そう。人間が人為的に神秘と奇跡を再現する為に創り出した人類の叡智さ」
「それは、凄いですね」
「……あんたは人間を下に見たり卑下しないんだな」
「する必要がありますか? 人間は私たちに無い物を持ち、私たちと互角に戦うことだって出来ます。下に見ていては足元を掬われてしまいますから」
「それだけ聞ければ満足だよ」
「では、参ります」
「……来い」
悪魔にも良い人がいれば悪い人もいる。
それだけ、分かれば十分だ。
出来れば彼女を傷つけたくはない。そんな甘い考えでは確実に殺られるのは目に見えている。それに俺程度では傷もつけられないかも知れない。
地を蹴り、一気に距離を詰める彼女を迎え討ち、手刀と剣の剣戟の音が耳朶を打つ。
彼女の速度は俺以上。オマケに強度も彼女が上ときた。
剣に罅が走り、中ほどで折れたのを確認すると彼女の顔面に至近距離から投げるが紙一重で避けられる。
その数瞬あれば次の投影が完了し、剣戟が続く。
仙術の応用で相手の気の流れを読むことで大まかに次の行動を予測、対処していく。
右上段から手刀が迫るが仙術で予測していた為、半自動的にそれを防ぐ。その際ぶつかり合った箇所から盛大に火花が散った。
それを見て顔が引き攣る。腕と剣で火花など起せるものか?
今、彼女の腕は剣と同等の硬さと鋭さを兼ね備えていると考えていい。
少しでも気を抜いた瞬間、首と胴が永遠に離れ離れになるだろう。
自分の数秒先に起こり得る未来を想像して身が竦んでしまう。
止まれば死ぬぞ! と、自身を鼓舞して体を解す。
そのコンマ一秒にも満たない隙と呼べるかも不思議なくらいの僅かな隙を突かれ、目の前に手刀が迫っていた。
上体を後ろに逸らすことで間一髪躱すことに成功。
(あっぶな! クソッ! ちょっとの隙でも見せたらあっという間にあの世行きになっちまうぞ、これ)
すー、はー、と深呼吸をして心を落ち着かせる。
現状を整理しろ。
魔王は玉座に座したまま動く気配がない為、増援を考えなくていい。
彼女の体術は正に達人クラス。加えて魔法で強化された肉体と手刀。
要は魔力を封じて仕舞えば強化を使える此方に軍配が上がる。
強化と仙術で闘気を纏い、限界まで肉体を強化する。
地面に手を付き、クラウチングスタートを決め、彼女に肉薄する。
渾身の力を込め、振り下ろした一撃を彼女は手をクロスさせて防いで見せた。
若干此方が押しているがこれが精一杯だ。
彼女は手を勢い良く広げ、剣が弾き返される。
空中に投げ出され、体勢を立て直すことが困難の中、手刀が俺の喉を捉えた。
手刀が喉を貫き、絶命するーーーーーーーーーー
口の端が少し持ち上がり、俺は切り札となる家族の名を叫んだ。
「
「任せるにゃ!」
俺と彼女の間に懐に忍んでいた黒姉が障壁を展開する。
これでは障壁は貫かれて終わり。
しかし、これは
障壁を貫かんと突き出された手刀は後方に弾き返され、彼女の体勢を仰け反せる。
黒姉が展開したのは反発障壁。
障壁に加えられた衝撃と速度をそのまま相手に返すカウンター障壁だ。そして、この数秒あればこの決着をつけるのに事足りる。
彼女へと接近した俺は気を込めた掌底を腹部へと叩き込んだ。
「カハッ!」
彼女の肺から空気が漏れ、鈍い痛みに顔が歪む。
すぐに立ち上がり、此方へと突っ込もうとするが彼女の顔に戸惑いが現れた。それもその筈だ。
掌底は威力こそ彼女を倒すには足りない。ポイントは気だ。
気を纏わせた掌底により彼女の体内に流れる気脈を傷つけることによって彼女はもう、少なくとも今は魔力を練ることは出来ない。
「鎖よ」
鎖で彼女の体を拘束し、四方に杭を打ち付けて固定。
これにより彼女の無力化は完了だ。
鎖には魔力が流してあるのでそこら辺の頑丈な鎖よりも強固なので縛りつけた彼女を無視して、魔王に正対する。
「取り敢えず、話、聞いてもらえますか?」
「良いだろう。話を聞こうじゃないか。それで君の要件とは一体何なんだい?」
「黒姉のーーーはぐれ悪魔黒歌の指名手配を取り下げて頂きたい」
「何だって?」
服から飛び出した黒姉は猫から元の人の姿に戻る。
「黒歌さんは無実の罪で追われる羽目になっています」
「証拠は?」
「此処にありますよ」
二年間掛けて集めた証拠の資料を魔王へと投げる。
平然として態度で資料を受け止め、内容に目を走らせていく。
数分後、ゆっくりと魔王は口を開いた。
「これは本物かな?」
「本物だよ。二年間も掛けて集めたんだから。それにそれは魔王様が一番分かってるんじゃないか?」
「違いない。黒歌の指名手配を取り下げようーーーと、言いたいところだがそれは出来ない」
「何でだよ⁉︎」
「私は魔王なんだよ」
「知ってるよ。だから、何だって言うんだよ」
「魔王は悪魔としての種を、未来を守っていかなけらばならない。取り下げるのは簡単だが、不満を持つ者が出てくるだろう。それを無視してまで取り下げることは不可能だ」
「けどーーーッ!」
突然、目が熱を帯びたように熱くなりギュッと目を閉じた。
そして、次に開くと黒姉の真上に高密度に凝縮された紅い魔力の球体が現れ、黒姉を呑み込んだ。
その球体に触れる前に細切れに情報が流れてくる。
ーーー滅びの力ーーー滅殺ーーー消滅ーーー
この球体は死そのもの。触れれば命はない。
中にいる人などすぐに消滅してチリ一つ残らない。
じゃあ、今、中にいる黒姉は、どうなる?
「黒姉!」
「お別れにゃん……望」
「待っーーー!」
目から涙を零し、悲しそうに黒姉は告げた。
指先から爪先から頭部から侵食が始まり、黒姉の体を一瞬で消し去った。
また、失った。また、守れなかった。
俺は一人じゃないと、俺のことを家族だと読んでくれた黒姉が死んだ。
膝から崩れ落ち、ある筈のない黒姉を探す。
目からは光が消え、呼吸が荒くなり、破裂してしまいそうなほど速く心臓が脈打った。
どれだけ手を伸ばしてもその手は虚しく空を切るだけ。
どらだけ求めても死んだ人は生き返らない。
「あ、あ……」
「君には悪いが私は悪魔の未来を背負っている。暴動を起こし、同胞たちを傷つけたくはない。許せ、とは言わないが言わせてくれ。……すまないね」
魔王の言っていることも、理解出来る。
でも、そんなのって、あんまりじゃないか……
魔王の言葉は現実を受け止め切れずにいた心に黒姉が死んだという現実を叩きつけられ、砕けた。
「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ッハァ、ハァ」
「どうしたにゃ? 望」
「え、あーーー」
隣にはチリ一つ残さずに消し去られた黒姉が立っていた。
今のは、何だったんだ?
夢? いや、違う。
瞬間、黒姉を抱えて大きく横に飛んだ。
シュッ! という音がさっきまで黒姉がいた場所で聞こえた。
その場所は綺麗な楕円のように抉り、舐め取られたように消え去っていた。
「のぞ、む?」
「大丈夫。大丈夫だよ黒姉」
「驚いた。完璧に君たちの意識の外から攻撃したのだが、まさか避けられるとはね。本当に君は人間かい?」
「人間だよ。冥界で出来た家族を殺されたただの逸脱人さ」
俺の言葉にピクッと魔王の眉間に皺が寄る。
「君は、あの施設の生き残りかい?」
「ご名答。さすがは、魔王様だ」
「あれは此方の管理不届きで起こったことだ。謝って済むとは思っていないが、すまなかった。君が望むのなら願いを一つだけ叶えよう」
ニヤリと笑う魔王。
さっきとは違う未来。さっき見た未来を回避したことで生まれたもう一つの
それに新しいカードが出来たんだ。黒姉を助ける為に使わせて貰う!
「じゃあ、早速。黒歌さんの指名手配を取り下げて下さい」
「それが君の望みなら仕方ない。魔王で会談を開き、取り下げられるように努めよう。それまで黒歌には監視が付くことになるが構わないかい?」
「それぐらいなら全然大丈夫にゃん」
「そうか。そして、その監視役を君に任せようと思うのだが、どうだい?」
まるで最初からこうするつもりだったように話が進んでいく。
魔王は俺たちを試したのだ。
それに見事勝利し、勝ち取った。
失敗した時の結果を見ているので心臓には悪かったが……
「その役任されました」
「助かるよ。君の名前は?」
「望。春日望です」
「では、望くん。内へ来る気はないかい?」
「へ?」
「君に監視役を任せるとはいえ君は住む場所がないのだろう? いちいち近況を報告するにも面倒だ。なら、内に来て一緒に暮らさないかい? 私は君を、君たちのことを家族として迎え入れる」
チラッと黒姉を見ると笑顔を返してくれた。
ならば、答えは決まった。
「ありがたくその申し出を受けさせてもらいます」
「ああ、そうなに固くならないでくれ。もっと、砕けた感じで構わないよ。私はサーゼクス・ルシファー。そして君の隣にいるのが私の女王グレイフィアだ」
「よろしくお願いします。望様」
「えっ⁉︎」
いつの間にか鎖の拘束から抜け出した彼女、グレイフィアさんが隣に立っていることに吃驚してしまう。
この短時間であれを抜け出してくるのかよ⁉︎
敵として此処に来ていたら間違いなく死んでたな、俺。
内心安堵のため息を吐き、胸を撫で下ろした。
「分かりました。サーゼクスさん。グレイフィアさん。これからよろしくお願いします!」
「よろしく、望くん。私としてはお兄ちゃんでもーーー」
「あ、それは全力で遠慮しますね」
「そうか……」
「私のことはお姉ちゃんと呼んでいいですよ?」
「うん。フィア姉」
「フィア、姉?」
「グレイフィア姉じゃ長いから短くしてフィア姉。嫌、でしたか?」
「いえ、こういうのも悪くないですね」
「ず、ずるいぞグレイフィア! 私も兄と呼ばれたい!」
「おい! さっきまでの威厳はどうしたんだ魔王!」
「今はプライベートなのだから問題ない!」
「限度があるだろ⁉︎」
「望の姉としての立場は譲らないにゃん」
「ふふふ。望ところです」
さっきまでの堂々とした魔王は消え失せ、代わりに少しカルくなった魔王が出てきた。
後ろは後ろで何故か火花散らしてるし怖くて振り返れない。
ハァ。 呆れてため息を吐く望。
その顔はとても良い笑顔をだった。
☆☆☆☆☆
七年後ーーー
まだ眠っている頭でベッドから這い出ると服に袖を通す。
半ば眠った状態で食卓へと向かうと肉の焼けた香ばしい匂いが鼻腔を直撃する。
その匂いで目がパッチリと冴え、足早で急ぐ。
扉を開けると銀髪を揺らすメイドが朝食を運び出していた。
「おはよう。フィア姉」
「おはよう。望」
「にゃん♪」
「うわっ⁉︎ と、いきなり抱き着いてこないでよ黒姉」
「ごめんにゃ。でも、こうしないと一日を始められないのにゃ〜」
「なら、私も」
「なん、だと⁉︎」
美女二人に挟まれている俺の理性は懸命に耐える。
花の良い香りがして頭がボォーとしてくる。
豊満な二つの丸いものが腕を挟み、柔らかい。
普通の人なら喜ぶのだろうがこれが毎日のように続くので心労が溜まってしまう。
「おはよう。みんな」
「あ、おはようございます。サーゼクスさん」
「まだ、私のことをお兄ちゃんのとは呼んでくれないんだね」
「まあ、考えておきますよ」
「みんな揃ったことだし朝食にしようか」
『いただきます』
ステーキをナイフで切り分けて口の中に運ぶと溶けるように消えていく。
うん。美味い。やっぱりフィア姉の作るご飯は美味しいな〜。
「あ、そうそう。望くんももう十五歳だろう?」
「そうですね」
「今年の春から人間界のハイスクールに通ってもらうが構わないかい?」
「ハイスクール? 高校に? なんでまた」
「今、私の妹のリーアたんが通ってる学校なんだが心配でね。近況を報告してくれるだけで良いんだ。行ってくれるかな?」
「まあ、俺は良いですけど。住む場所も探さなきゃだしーーー」
「それなら問題ない。私が責任持って作らせてもらったよ」
「最近コソコソしてると思ったらそれが原因か!」
「私はどうすればいいにゃん?」
「黒歌は望くんと一緒に行ってもらうよ。ただし行動はいろいろと制限されることになる」
「それぐらいなら大丈夫にゃん」
「望を頼みますよ。黒歌」
「任せてにゃん♪」
最近では本当の家族同様に接することが多い。
それだけ俺たちのことを信用してくれている。
二人には俺のことを全部話してある。
その上で俺のことを受け入れてくれるのはすごく嬉しい。
「それで学校はいつからあるんですか?」
「一週間後だよ」
「……すみませんサーゼクスさん。耳が遠くて聞こえませんでした」
「一週間後だよ」
「……もういっかーーー」
「一週かんーーー」
「なんでそんなに早いんだよ⁉︎」
「いやはや、伝えるのをスッカリ忘れていてね」
「このバカ! シスコン!」
「最高の褒め言葉だね」
「逆効果だった⁉︎ ああ、もう! 黒姉今すぐ準備に取り掛かろう!」
「あ、待ってにゃ〜ん!」
急いで朝食を平らげ、荷作りする為に自室へと駆ける。
遅れて黒歌も望の後を追い掛けて行った。
それを見ていた二人は微笑ましいものを見るように笑っていた。
季節は移り変わり、春になる。
春は出会いの季節とよく言うが果たしてどんな出会いが望を待っているのだろうか?
それはまた今度のお楽しみ、かな。
さて、望にどんな出会いがあるかな?
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サーゼクスさんに迎えられた俺は一つの疑問を投げかけた。
「そういえば、サーゼクスさんは最初は黒姉を殺す気だったのか?」
「いいや。最初から殺す気などなかったさ」
「いやいやいや、滅びの力使ってたじゃないですか」
手を振りながら否定する。
ニコリ、と笑うサーゼクスさん。
「君なら簡単に避けられる。そう、確信があったからこそ僕は躊躇わずに滅びの力を使ったのさ」
「確信って、何を根拠に?」
「何となく、かな」
「もしそれで避けれなかったらどうしてたんですか?」
「ーーーーーグレイフィアがお茶を持ってくる時間だ。今からティータイムにしよう」
「おいちょっと待て。あんた何も後先考えずにやったのかよ⁉︎」
「何とかなったじゃないか」
「開き直った⁉︎ しかもそれは結果論でしかないし!」
いろいろと抜けているサーゼクスさんだったとさ。