猫に関わる話   作:流離う旅人

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……三ヶ月近くも空けてしまった。


4

「……黒姉。俺、住所間違えたかな?」

「……間違えてないにゃん」

「だよね。ってことはやっぱりこれがそうなのかよ」

 

 

時は昨日に遡る。

人間界に行く準備しようと部屋へと向かった後、既にフィア姉によって家具や衣服は全て運び出された後だった。

一体どうやって運び出したのかと訊くと「メイドですから」と言って笑っていた。凄いなメイド! いや、フィア姉が凄いのかな?

と、まあやる事が無くなった俺と黒姉は現在人間界に来ていた。

 

駒王町ーーーグレモリーが保有する人間界の領土。

この町の学校にサーゼクスさんの妹とセラさんの妹が通っている。

それが春(六日後)に通うことになった私立駒王学園だ。

 

サーゼクスさんに近況を報告しろと言われたが、なるべくなら俺はリアス・グレモリーに近付きたくはない。

嫌い。というわけではないのだが会ったら絶対眷属に誘われそうだしな。この七年間それが嫌で接触を避けてきたんだからな。

四年が経って自分の眷属探しの為に家を出るまでずっと。

だから、俺はリアス・グレモリーとの面識は一切ない。

 

黒姉も保護観察処分という扱いとしてサーゼクスさんが通してくれたお陰ではぐれ悪魔では無くなったが周囲の目はすぐには変わらなかった。今でも黒姉を殺そうとする奴らがいるぐらいだ。

まあ、全員俺が撃退してるけどね。

 

フィア姉から教えてもらっていた住所を頼りに俺と黒姉の新居に足を運んだ。

新居を前にして俺と黒姉は固まってしまう。

そこで冒頭に戻るわけで。

 

俺と黒姉の目の前には立派な一軒家が建っていた。

てっきり貸家とかアパートだと思い込んでいたのだが当てが外れた。

二人で住むのにこの大きさはどうなんだよ、とツッコミを入れながらこのまま立ち止まってても仕方がないので家の中に入ることにした。

 

「わぁお……」

「これは中々凝ってるにゃん……」

 

外見も然る事ながら内装も豪華だった。

洋風の雰囲気を漂わせる内装はアンティーク系の家具を中心に揃えられている。

これは見慣れた風景ではあるのだがこれが普通だと思うのはあまりよろしくない。

今度、建築費幾ら掛かったのか聞いてみようかな? と、考えたが止めた。聞いたら多分目玉が飛び出そうな額に決まってるから……

 

「うん。サーゼクスさんがこういう人だってことは分かりきってることだし諦めよう」

「そうにゃね。あれで魔王だから驚きにゃ」

「それは言ちゃダメだよ黒姉。本当のことだけどさ。はぁ、家具とか日用品はフィア姉が揃えてくれてるみたいだし散歩がてらこの町の探検でもしに行こっか」

「そうにゃね」

 

猫に変化した黒姉を懐に入れ、俺は特に行く宛てもなく歩き出した。

 

 

 

 

 

ーーー『第四話 先輩』ーーー

 

 

 

 

 

 

四月とはいえまだ肌寒さを残す冷たい風が頬を撫でる。

ブルッと体が震える。

黒姉はさっきから暖かくなった所為か寝息を立て始めた。

こっちが寒い思いしているというのにな、と苦笑する。

一際大きな風が叩きつけられ、驚き目を瞑る。

今の風で揺さ振られた桜の樹からヒラヒラと花弁が舞い散っていた。

綺麗だ、と思う反面寂しさも込み上げてくる。

花弁を全て散らした桜の樹を見るのは如何も慣れない。

 

そのままの足取りで商店街へと足を踏み入れる。

商店街は人々で賑わっていて活気に溢れていた。

久々の人間界。久々の人間。それがとても懐かしく思えた。

笑い声が聞こえる。平和だな、と思い頬が緩んだ。

 

思えばこんなに笑うようになったのはいつからだろう?

前世で両親を殺されて、一人になって笑うことを感情を表に出すこと自体減っていた。

この世界に転生して五年間の内は楽しかった、と今でも言える。

そんな時間も長くは続かなかったが………

 

自嘲気味に苦笑を漏らす。

俺が感情を表に出すようになったのは多分、きっと黒姉に会ってからだ。

黒姉に会って、一人じゃないって言われて嬉しかったことを覚えている。黒姉を通してサーゼクスさん、フィア姉に出会えた。

今の俺があるのはきっと、黒姉のお陰だ。

 

その本人は気持ち良さそうに寝息を立てている。

その顔は微笑んでいて良い夢でも見ているんだろう。

黒姉の頭を一撫でして、俺は顔を正面に戻した。

いつの間にか商店街を抜け、住宅街へと入っていた。

 

(こういうのってよくゲームでもあるけどそこの曲がり角で女の子とぶつかったりするのかな……)

 

なんて考えた時誉僕にもありました。

惹かれるように角を曲がると案の定誰かとぶつかり、予想以上の勢いで尻もちをついた。

痛む尻を摩りながら前を見ると一冊の本が落ちていた。

……十八歳未満が見ることの出来ない薄い本が。

視線を少し上げると俺と同じように尻を摩る一人の少年がいた。

 

 

ぶつかったのは女の子じゃなくて少年(へんたい)でした。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

二人は近くの公園のベンチに腰を下ろしていた。

 

「悪かったな。急いでたもんだから周り見てなかった」

「えっと、その、俺も不注意でしたし……」

 

二人の間に流れる沈黙。

少年はあの本を見られたから。

俺はひょっとしたら女の子とぶつかるんじゃ、という不健全な考えをしたから。

 

((き、気不味い……))

 

話をしようにも人との関わりが少なかったことも災いして絶望的なほど引き出しが少ない。

黒姉に助けを求めようにも話し掛ける訳にはいかない。

さっきの衝撃で起きていてもおかしくないのだが一向に目覚める気配がない。それだけ疲れているのだろう。

このまま寝かせてあげようと別の手段を探す。

この時、実は黒歌は起きていたのだが望のコミュ障を直すいい機会だと思い、寝たフリをしていることに望は気付かない。

 

「そういえば、お前の顔。ここら辺じゃあんまり見ないな?」

 

意外にも口を開いたのは隣にいる少年だった。

 

「あ、ああ。俺は今回学校に入学するために引っ越して来たんです」

「ん? 入学ってことは駒王学園か?」

「はい。そうです」

「ってことはお前は俺の後輩になる訳か」

「え? じゃあ、先輩なんですか?」

「ああ。俺は兵藤一誠。今年で駒王学園の二年になる」

「春日望です。今年駒王学園に入学します。まあ、色々とよろしくお願いします」

「応! よろしくな! 後輩(、、)

 

『よろしくな! 後輩(、、)

 

「ーーーッ」

 

一誠さんが口にした言葉。

違う。この人は違う……はずだ。大丈夫、大丈夫だ。

顔を顰めるがすぐに落ち着きを取り戻す。

頭を横切って行ったのは前世の先輩の言葉。

いや、もうあの人は先輩なんかじゃないか。

あの人はーーー

 

「どうした?」

「え、あ、なんでもないです」

「そうか? じゃあ、行こうぜ!」

「へ? 行くってどこに?」

「俺がこの町を案内してやるよ。どうせまだここら辺の地理は詳しくないだろ?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。案内よろしくお願いします。一誠さん」

 

 

 

 

 

町の案内をしてくれる事になった俺は一誠さんに連れられて町を歩いていた。一定の距離を保ちながら。

 

「ここが商店街。もう通ってきたと思うけどな。スーパーにゲームセンター、ビルがたくさんあるだろ? 大体みんなはここで日用品買ったり遊びに来たりするんだ」

「そうなんですね」

 

春休み、ということもあるのかスーパーよりゲームセンターの方が若干賑わっている。

ゲーセンか。思えばあんまり行ったことなかったな。

自分でも気付かぬ内にゲーセンを物珍しそうに見ていたらしく一誠さんが聞いてきた。

 

「お前ゲーセン行ったことないのか?」

「あんまりないですね」

「よし、なら行くか」

「え、あ、ちょ、引っ張らないで⁉︎」

 

強引に手を引かれながら入ったゲーセンは若者を中心に盛り上がりを見せていた。

いきなり人の多い場所に入って来た所為もあり後ずさってしまう。

このまま走り去りたい気持ちをなんとか堪え、手を引かれるままとある台の前まで連れられていく。

 

一誠さんに手を引かれ、連れてこられたのはガンシューティングだった。

腐敗した死体の頭を銃で真っ赤なザクロにして「ヒャッハー!」する系の。

まあ、冥界では見慣れた光景だったから耐性はある。

 

コインを二枚入れ、台座に取り付けられた銃の片方を手渡してくれる一誠さん。

半分は俺が出すと言ったのだが「引越し祝いだ!」と強引に押し切られてしまった。

……御言葉に甘えて楽しませてもらおう。

 

画面に『START!』と炎が弾け、俺と一誠さんの蹂躙劇が始まった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「いや〜しっかし初めてにしては動きが玄人ぽかったな」

「ま、まあマグレみたいなもんですよ」

 

現在、俺たち二人は町を一望できる高台に来ていた。

ゲーセンがつまらなかった、という訳ではない。

むしろ楽しかった。これは断言出来る。

ただ余りにも動きが鈍くてヘッドショットばかり決めていたら全国ランキング一位に君臨してしまい、周りの客が歓声を上げながら迫って来たので逃げ出してきたのだ。

そして、そのまま町の案内をしてもらい今に至る。

 

日が傾き、地平線に沈んでいく。

空が茜色へと変わり、夜がやってくる。

今日一日で一誠さんが優しい人なのは分かった。

だからこそ、分からなくなる。

どうしても前世での先輩のことを思い出してしまう。

 

 

中学生の時、俺はイジメを受けていた。

上靴は隠され何足買い直したかわからない。

教科書もよくズタズタに引き裂かれ、机には悪口ばかり。

終いには机に花が置かれる始末。

陰湿なイジメが続き、心が擦り切れていく音をどこか他人事のように聞いていた。

精神の不調は体にも支障をきたし、精神と肉体は疲れ果てていった。

そんな時だった。あの人に声をかけられたのは。

 

『大丈夫か?』

 

ただ一言。されど一言。

久しぶりに誰かと言葉を交わし、嬉しかったことを今でも覚えている。

先輩は俺に優しく声をかけ、助けてくれた。

イジメられているところを止めてくれたこともあった。

一人じゃないんだ。そう思えたからなんとか持ち堪えることが出来た。

ーーーけれど、俺はある日聞いてしまった。

 

その日、前を歩く先輩を見つけ、声をかけようとした時にちょうど先輩の友人が現れたので咄嗟に物陰に隠れた。

そこで、聞いてしまった。聞きたく、なかったことを。

 

『なぁ? お前なんであんな奴と連んでんだ?』

『ん? ああ。春日のことか』

 

どうやら俺の話をしているらしくついつい聞き耳を立ててしまう。

 

『んなもん決まってんだろ。いい財布くんだからだよ』

 

は? 今、なんて言ったんだ?

俺は耳を疑った。そうだ。普段から行われるイジメでとうとう耳がおかしくなったに違いない。きっと、そうだ。

淡い希望を抱く俺の心は次の瞬間には真っ二つに折られた。

 

『それじゃなきゃあんな奴と連まないって。そのためにわざわざ彼奴らにイジメさせてたんだぜ? 一回助けてやったら簡単にあいつの信頼を得られたよ』

 

その後のことはよく覚えていない。

気がついたら俺は先輩の上に馬乗りになり、先生たちに止められていた。

眼下には鼻が折れ、歯も数本抜け落ちた傷だらけの先輩の顔があった。

拳には滴る真っ赤な血。それだけで解ってしまった。

俺がやったのだ、と。

 

それ以来、先輩と同じ目に遭わされるのではないかとイジメていた奴等は保身に走りイジメはなくなった。

その代償にもっと大きなモノを失って……

 

 

ーーー、一誠さんを見ていると先輩を思い出す。

だから、だろうか。

 

「なんでこんな今日あったばかりの他人にここまでしてくれるんですか?」

 

と、聞いていた。

一瞬、キョトンとした表情を浮かべるがすぐに笑顔へと変わる。

 

「なんでってお前ーーー何当たり前なこと聞いてんだよ」

「えっ」

「なんだよ? 理由が必要ならちゃんとつけてやる。町を案内したのは引越してきたばかりで困るだろうから。ゲーセンに連れ込んだのはお前が物欲しそうに見入ってたから。そして何より人を助けるのは当たり前だ。少なくとも俺の中ではな」

「ーーーッ」

 

曇りのない瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

一誠さんの嘘偽りのない言葉にたじろいでしまう。

本気で言っている。一誠さんは本気で言っているのだ。

 

「お前が何を怖がってるのかは知らないけど俺を頼れ。いつでも相談に乗るし、困ってたら助けてやる」

「一誠さん……」

 

何だ。何だよ。勝手に疑って、勝手に警戒してた自分がバカみたいじゃないか。

自然と笑みが零れる。一誠さんも屈託ない笑顔を浮かべている。

一頻り笑った俺たちは握手を交わした。

 

「これから、その、よろしくお願いしますイッセー先輩(、、、、、

)

「ああ! こっちもよろしくな()!」

 

入学式で会う約束をし、イッセー先輩と別れた俺は帰路に着いた。

懐にいる黒姉を一撫ですると気持ち良さそうに「にゃ〜」と身をすり寄せてくる。

 

「……黒姉」

「何にゃ?」

「その、今日の話をするよ。俺に出来た先輩(ともだち)の、さ」

「うん。楽しみにしてるにゃ」

 

黒姉は笑ってそう言ってくれた。

家へと向かう足はどこか軽く感じられた。

今から、とても入学式が楽しみでしょうがない。

 

 

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