猫に関わる話   作:流離う旅人

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風邪引いちまった………


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「ん、んんぅ……」

 

重たい瞼をゆっくりと開くとカーテンの隙間から明かりが差していた。

何でこんなに眠たいんだっけ? と、考える。

ああ、そうだ。昨日の夜、いきなり黒姉がベッドに侵入してきて俺を抱き枕にして寝たからいろいろ柔らかいものが当たって寝るに寝られなかったんだっけ。

 

まだぼーっとした頭で思い出しながら目覚まし時計を見る。

針はちょうど七時四十六分を指した辺りだ。

七時四十六分か。ーーーは⁉︎

 

「何でアラームが鳴ってないんだよ⁉︎」

 

確か昨日の内に六時にアラームをセットしておいた筈だ。

俺の叫び声で目が覚めた黒姉が目元をゴシゴシしている。

 

「うるさいにゃ〜。どうしたの?」

「アラームを六時にセットしたのに鳴らなくてーーー」

「あ、それうるさかったから私が止めたにゃん」

「犯人あんたか⁉︎ くっ! 今はそんなこと言ってる場合じゃない」

 

ベッドから起き上がり、直様制服へと着替えを済ませる。

今から走ればギリギリ間に合う筈だ!

 

「それじゃあ、行ってくる!」

 

閉まりかけたドアから「行ってらっしゃ〜い」と呑気な声が聞こえたが構ってる暇はないので無視する。

何で寄りにもよって入学式の日にこうなるんだよ……

はぁ……ついてないなぁ。

 

 

 

ーーー『第五話 隣の席の彼女 隣の席の彼』ーーー

 

 

 

『え〜〜皆さん入学おめでとうございます。皆さんは今日からこの駒王学園の生徒です。まだ馴染めないと思いますがそのうち慣れると思うのでーーーーーー』

 

あの後何とか間に合った俺は体育館で校長の話を聞いている。

久しぶりの学校に心躍る部分があるのは否めないし隠せない。

高一になってすぐに死んじまったからなぁ。

まあ、取り敢えず今言えるのは校長の話しは兎に角長い、ってことだな。

 

チラッと横目で三年生の席を見る。

そこには一際目立つ紅があった。

見間違う筈がない。あれはサーゼクスさんと同じ紅の髪。

サーゼクスさんの妹でありグレモリー家の長女。

ーーーリアス・グレモリーその人である。

あんまり関わりを持たないようにしよう、と心に決意しながら要注意人物としてメモしておくことを忘れない。

 

そして、今度は二年生の席を見た。

女子の胸に視線を向け、鼻の下を伸ばしニヤニヤしている少年が三人。

その内の一人は知り合いなわけで。

言わずもがなイッセー先輩である。

取り敢えずイッセー先輩とは後で会う約束しているし、その時に思いっきり腹パンを決めようと心に誓う。

 

そんなことを考えていたらいつの間にか校長の話は終わり、降壇していた。

その後は大まかな今後の予定に軽く触れて、各々の教室へと戻っていった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「これから一年間お前らの担任を務める小林だ。まあ、適当によろしく頼むわ」

 

(((適当で良いのかよ⁉︎)))

 

生徒全員の声が見事に一致した気がする。

 

「そんじゃま、廊下側に座ってるやつから自己紹介してくれ〜」

「は、はい。えっと、伊藤匠です。よろしくお願いします」

 

この流れだと俺は一番最後だな。

ちなみに俺の席は窓側の一番後ろだ。ここだと授業中寝ててもバレにくいんだよね。教科書も立てたら完璧だ。

ふと、隣から視線を感じ、見ると一瞬隣の子と目が合った。

すぐに逸らされてしまったが。

自意識過剰じゃなかったら今俺のことを見て、た?

隣に座っているのは少し珍しい白髪の小柄な女の子。

その瞳は金色で黒姉を彷彿とさせる。

彼女とは初対面ということもあり、きっと気のせいだろうと自己完結した。

 

彼女が立ち上がったので内心少しビクッと驚いてしまったが自己紹介のために立ったのだと納得する。

 

「……塔城小猫です」

 

塔城、小猫。

名前にもある通り、朧げだが猫の雰囲気を漂わせる彼女はやはり黒姉に似ている気がした。

 

『私には妹がいるにゃん』

 

いつか黒姉が言っていた言葉が頭に浮かんだ。

まさか、ね……

前の席の人が自己紹介を終え、座ったのを見て、俺は立ち上がった。

 

「春日望です。一年間よろしくお願いします」

 

と、簡単に済ませると着席する。

 

「よし、全員終わったな。じゃあ、後は特にすることもなければ連絡することもないから後は自由に親交でも深めていいぞ〜。それじゃあ、解散。まあ明日なぁ〜」

 

(((教師があんなんでいいのか?)))

 

またもやクラスの心の声が合わさった気がした。

解散、と言ってもまだ帰るには少し早い。

それを見越して親交を深めろ、って言ったのか。

案外ちゃんと考えるんだな。あの先生。

とは言ったもののすでにいくつかのグループが形成されており、早くもボッチ確定である。

まあ、イジメがない分前よりはマシかな?

そんなことを考えながら俺は机に乗せた腕に突っ伏し、時間が過ぎるのを待つことにした。

 

 

 

……私は塔城小猫です。

私は今、ポツンと椅子に座り時間が過ぎるのを待っています。

隣で眠る男子を横目で確認し、鼻をスンッとさせる。

 

(やっぱり、似てる)

 

この匂いは黒歌姉様の匂いに似ている。

ただの偶然? ということもあり得る。彼が知らず知らずのうちに猫化した姉様と接触したということも考えられる。

……姉様は私を置いて一人で行ってしまった。

姉様が自分の主人(おう)を殺したことはすでに聞いている。

最初は信じたくはなかったし今でも信じられない。

あんなに優しかった姉様が無闇に殺しをするとは思えなかったから。

 

直様姉様ははぐれ悪魔として指名手配された。

その中で私は一人で置いていかれた。

私がいては逃げられないと思ったんだろう。

それでも、それでも私は、一緒に連れていって欲しかった。

ーーー駄目だ。今更過去を想って何になるというのだ。

ただ時間を無為にするだけだ。と、かぶりを振って気を取り直す。

 

もう一度、彼を見る。

黒髪が陽光に照らされ、光の加減と角度次第では私と同じ白髪に見えなくもない。

身長は私よりもある170cmぐらいだろうか? ……こればかりは男子がとても羨ましい。

規則正しい寝息が聞こえる。陽光が当たり、窓から吹く風が絶妙なバランスで合わさることでこちらまで眠気がさしてくる。

 

さっき、彼と目が合った。

髪と同じ黒い瞳。一瞬ではあったが私は魅入ってしまった。

ずっと見続けていたら吸い込まれてしまいそうな感じに襲われそうだ、と思いながら少し微笑んだ。

 

(あれ? 今、私笑ってた?)

 

私の主人(おう)、リアス・グレモリー様の眷属となってから七年くらいは経つのだが未だに私は笑ったことがなかった。

主人(おう)や眷属の仲間と過ごす時間が楽しくない訳ではないのだが姉様のこともあり、私は笑ったことがなかった。

けれど、彼を見て、彼のことを考えると何故かこう、心がポカポカするのだ。

 

周りでは私と彼以外の人たちがいくつかのグループを作り談笑していた。

彼は単純に眠いからなのかコミュニケーションを放棄しているし私は人間ではない、という違いからくる後ろめたさが足を固めていた。

そう。後ろめたさからくることであって決して私がコミュ障という訳ではない。それは断じてない。そう、絶対に、ない……はずだ。

 

プルルルッ プルルルッ

 

彼のポケットから電子音が響き、目を覚ました彼は少しダルそうにポケットから携帯を取り出した。

通話ボタンを押し、徐に口を開いた。

 

「……もしもし」

『眠そうな声だな。お前さては今まで寝てたな?』

「いやはや、春の陽気に当てられまして。春眠暁がなんとやらですよ」

『しゅんみん? 何それ美味しいの?』

「……これ、高一で習ってるはずなんですけど」

 

会話から察するに相手は先輩だ。

高一の内容を覚えていなくても進級できるとは少し甘いのではないかと思う。

逆に今日入学したばかりなのに高一の内容を知っているのは何故だろう。

 

『それはさておき! もうSHR終わってるだろ? これから一緒に町でナンパしようぜ‼︎』

「それを拒否することは出来ないんですよね。わかります」

『何だよ。お前だって綺麗な女の子は好きだろ?』

「否定はしません。でもナンパには参加しませんからね? たぶん、というか絶対にイッセー先輩のことを慰めることになりそうですし」

『どういう意味だよ⁉︎』

「そのまんまの意味です」

『ったく、他に二人ぐらい来るけどいいか?』

「わかりましたよ。それじゃあ校門で」

『おう! 早く来いよ』

 

彼は長い溜息を吐くと空を見上げながらボヤいていた。

 

「他の二人って絶対イッセー先輩の両隣にいた人たちだよな……。はぁ、面倒事が増えるなぁ……。よし、気さくで友好的な人たちだったらイッセー先輩同様に腹パンをカマしてやろ」

 

ーーーなんだか物騒な声が聞こえた気がするが無視しよう。

私は心の中でまだ見ぬ先輩方に合掌した。

彼は鞄を肩に掛けるとそのまま教室を出て行った。

気づけば目で彼を追っていたのは何故だろう?

 

(明日、話しかけてみよう)

 

私も鞄を取り、皆んなが待つ部室へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「お〜い! 望〜!」

 

校門に体を預けていた俺は走ってくるイッセー先輩に目を向けた。

その後ろでは苦笑している二人が歩いている。

俺もイッセー先輩の方へと歩き出し、拳を引き絞る。

 

「悪りぃ。待たせちまっーーーゲボァ‼︎」

 

走っている体の鳩尾に拳を決めると慣性の力が加わりイッセー先輩は大きく後方へとぶっ飛んだ。

 

「お、おま、いきなり、何すんだよ」

「鼻のしたを伸ばしてたのにイラっと来たのと人が寝てる時に電話を掛けてきた恨み。まあ、簡単にまとめるなら何となくです」

「最低だ⁉︎ ここに最低ヤローがいるぞ」

「もう一発イットキマス?」

「あ、すみませんでした」

 

叫ぶイッセー先輩にパキッと指を鳴らすと静かになった。

うん。この手は使えそうだな。

 

「ふっ、イッセーよ。無様だな」

「後で俺の秘蔵コレクションやるから元気出せよ」

「うっうっ、お前らの優しさが染みるぜ」

 

は〜い。案の定今来た二人の先輩もイッセー先輩と同類ですね♪

さてさて。これから大変になりそうだな〜。

イッセー先輩たちの覗き阻止とかイッセー先輩たちの覗き阻止とかイッセー先輩たちの覗き阻止とか。

うん。いざとなったら「潰すぞ☆」と、脅しておこう。

流石の三人も潰れて仕舞えば改善されるだろう。

先のことを考えると今から大変だな。

ふ、ふふ、フフフフフ。

 

「イッセーよ。お前の後輩くんの笑いが黒いんだが」

「ああ。あれはきっと何か企んでる顔だぜ」

「な、何もしないよな? 望」

「え? するわけないじゃないですか〜。いやだなーもう」

「そ、そうだよな。は、ははは」

「そうですよ。ーーー今は(、、)()

 

俺の声は三人の喧騒で誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえりにゃん!」

「はい。黒姉今すぐ回れ右して自分の部屋までダッシュ。そして、すぐにその格好から着替えるんだ!」

「も〜う、何がダメっていうのにゃん」

「裸エプロンで玄関に来てる時点でアウトだよ」

 

普段ははだけた着物から部分的に見えるぐらいだったから特に気にすることもなかった。世間体的には駄目だが。

エプロンからたわわな白いメロンが溢れ出ていて黒姉が動くためにプルプルと揺れる。

シュッと伸びる四肢も細くプニプニとしていて、破壊力は抜群で見るものを魅了する。

しかも黒いエプロンを着ているため、黒姉の白い肌が強調されているため目のやり場に困ってしまう。

くっ! 俺の鋼の理性を揺るがすとは何たる威力だ!

 

「ふふ〜ん♪ 我慢しないで触ったっていいよ?」

 

グッと胸を押し上げ、もう少しで見えてはいけない部分を拝んでしまいそうになる。

首を動かしたいが、代わりにゴクリと生唾を飲んでいた。

ーーーこうなったら奥の手だ。

 

「早く着替えてきてください。黒歌さん(、、、、)

「あれ、望?」

「ほら、エプロンしていたってことは夕御飯も出来てるんですよね? 早くしないと覚めちゃいますから行きましょう。黒歌さん(、、、、)

「着替える! 着替えるから他人行儀にならないでにゃ⁉︎」

「じゃあ、どうするべきか解るよね?」

「すぐに着替えてきます!」

 

ニッコリと微笑みながら諭してあげる。

少し目に涙を溜めているが無視だ。

黒姉は敬礼して一目散に二階へと駆けて行った。

 

「俺も着替えるかな」

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

焼き鮭と味噌汁に漬物、ごはんという和食を食べ終え、食器を洗い始める。

黒姉にはリビングで寛いでるように言っておいた。

 

(それにしても、やっぱり似てるよなぁ)

 

目が合った彼女を思い浮かべ、俺はそう思った。

でも、確証がないんだよな。瞳の色が同じってことぐらいしか共通点ないし。

黒姉だったら一発で解るんだろうけどまだそうと決まったわけじゃないから言うのは控えておこう。

 

(明日、話しかけてみようかな)

 

思考に耽っていたから気づかなかった。

背後に忍び寄っていた黒姉が俺の耳に息を吹きかけてきたのだ。

 

「うひゃあ⁉︎」

「やっぱり望は綺麗な声で鳴いてくれるにゃん♪」

「く、黒姉やめてくれよ! 俺まだ食器洗ってるんだから」

「望が悪いにゃん! 私というものがいながら他の女のこと考えてたでしょ」

 

後ろから首に手を回してきて黒姉は耳元でそう囁く。

黒姉が喋る度に漏れる吐息が耳に当たって擽ったい。

きっと今の俺は顔が真っ赤になっているだろう。

てか、なんで俺の心読めたし⁉︎

 

「望のことなら不可能を可能にするにゃん」

「ナチュラルに心読まれた⁉︎」

「いいから望は黙って抱きつかれてればいいのにゃん!」

「なんか理不尽⁉︎ ちょ、どこに手伸ばしてんだ! やめなさい! ホントにそこはだーーーアァアアアアアア!」

 

その後どうなったかって?

身体中余すとこなく撫で回されましたよ。

自分の貞操だけは守り抜いたと言っておこう。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

入学式明けの登校日。

今日は快晴が続くと天気予報で言っていたので天気が崩れる心配はない。

通学路を歩きながら伸びをすると凝り固まった体が悲鳴を上げる。

原因は絶対黒姉が抱き枕にするからだと思うんだよな。

今度から結界張っておこう。と、決めるが難なく解除され今後も抱き枕にされる結末を望はまだ知らない。

 

にゃ〜

一匹の野良猫が挨拶をしてくれた。

俺も「おはよう」と返すともう一鳴きすると塀の上を足早に立ち去っていった。

なんでかは解らないが転生してからよく猫に好かれる。

猫だけに留まらず動物全般に好かれるようになっていた。

前世でもまあまあ好かれていたがここまでではなかったからな。

 

「ん?」

 

足に何かが擦れる感じがして見てみると一匹の猫が体を擦りつけていた。

毛並みは真っ白でとても触り心地が良さそうだ。

一撫でしてから再び歩き出すーーーが、一定の間隔を保ってトコトコと付いてくる。

こっちが早歩きにすると猫も早歩きし、走ると猫もまた走る。

どうしようと頭を抱えているといつの間にか校門まで来てしまっていた。

振り返ると瞳を潤ませ上目遣いをした猫が一匹。

 

「………ほっとけない、よな。仕方ない」

 

猫を抱え上げ、校舎の近くにある林へと連れていく。

必ず戻ってくるからここから動くな、と念を押してから教室へと向かった。

 

 

教室に入るとすでに出来上がっていた友人グループで集まり、談笑しているのが目に入った。

少し羨ましいと思うがかぶりを振って諦める。

裏の世界を知る者の近くにいたら何があるか分からない。

だから、極力友人は作らないと決めている。

そんな中で一人ポツンと椅子に座り、黒板を見つめる少女がいた。

隣の席の塔城さんである。

 

塔城さんの印象は物静かで無口。

人との会話が少し苦手そうな雰囲気があるが周りのみんながフォローなりしてくれそうなものだ。

それに塔城さんは美少女の部類に入るので男子が放っておくとは思えない。

どうやって話しかけようかなと思いながら、席に着く。

 

「……あの」

「え?」

 

席に座ると同時に塔城さんから声を掛けてきた。

こっちから話しかけようと思っていたしいいタイミングだ。

 

「……おはようございます」

「あ、おはよう。塔城さん」

 

それだけ言うとそっぽを向いてしまう塔城さん。

それがちょっとおかしくて俺は微笑んだ。

 

 

 

俺は現在今朝猫を置いてきた林まで来ている。

その手には購買で買った牛乳を持って。

授業中外から物音がすると思って見ると林に置いてきたはずの猫が窓を引っ掻いていたのだ。

内心物凄く焦りながらジェスチャーで戻るように伝えると分かってくれたのか渋々戻ってくれた。

 

少し進んだところに猫は丸まっていた。

遠目から見たら綿飴みたいだよな、と考え苦笑する。

数mぐらいまで来るとパッと顔を上げて擦り寄ってくる姿はご愛嬌だ。

 

「ほれ。味わって飲めよ」

 

買ってきた牛乳の封を開け、目の前に置く。

美味しそうにペロペロと舐めとる姿を確認しながら自分も一緒に買っておいたパンを頬張る。

 

(あ、このメロンパン美味し)

 

数分でメロンパンを咀嚼すると猫もほぼ同時に牛乳を飲み干した。

お腹が一杯になって眠たくなってきたのか俺の腹の上に移動する猫。

このまま見捨てることも出来ないし、内で飼おうかな?

けど、黒姉がなんて言うかな。

まあ、いざとなったらまた奥の手を使えばいいか。

飼う。と決めたはいいがいつまでも猫呼びでは可哀想だ。

何かいい名前はーーーよし。

 

「今日からお前はましろだ」

「ニャ〜」

 

真っ白な毛をしているからましろ。

安直過ぎるけどこれが一番しっくりくる。

本人も気に入ってくれたみたいだしな。

 

「そっか〜気に入ってくれたのかにゃ〜。よろしくにゃ〜ましろ〜」

「猫が好きなんですか?」

 

ましろを持ち上げ、にゃ〜にゃ〜言っていると後ろから今朝聞いた声が聞こえた。

錆びついた首を回すロボットのようにギギギッとゆっくり振り返る。

そこには、塔城さんが立っていた。

恐る恐る、質問を投げかける。

 

「……いつから、そこに?」

「『ほれ。味わって飲めよ』の辺りからです」

「それ最初からじゃん⁉︎」

「? ああ、別に大丈夫ですよ。可愛かった、ですよ?」

 

不思議そうに首を傾げ、何かに納得するとフォローに回る塔城さん。

けれど、それは俺の心に容赦ない一撃を与えた。

がっくりと肩を落としてため息が零れる。

ましろが心配して頬をペロペロと舐めてくるが今はその気遣いが痛い。

 

「そういえば、何で塔城さんがここに?」

「……春日くんがそそくさと林に入っていくのが見えたので気になって来ました」

「ああ。なるほど」

「猫を隠してたんですね」

「隠してというか、いや結果的には隠してたのか?」

「ふふっ。どっちなんですか?」

 

塔城さんの微笑む姿は可愛らしく、思わず魅入ってしまった。

心が弛み、警戒心が消えていた所為か俺は口走っていた。

 

「……かわいい」

「へっ⁉︎」

「あ、ご、ごめん! つい口が滑っただけであって、別にやましい気持ちとかはなくてですね」

「……そんなに否定することはないじゃないですか」

「いや、かわいいのは事実だよ? って俺は何を言っている⁉︎ 自分で墓穴を掘って傷を広げてるじゃねぇか!」

「「…………ぷっ」」

 

互いに吹き出すと笑い出す二人。

暫く笑った後、塔城さんは俺の隣に腰を下ろした。

 

「……かわいいですね。この子の名前、ましろちゃん? でしたっけ」

「そうそう。真っ白な毛をしてるからましろ。安直だけどこれが一番しっくりくる」

「猫、好きなんですか?」

「まあ、好きな部類には入る。基本動物はみんな好きだよ」

「そうなんですか」

「塔城さんは猫好きなの?」

「そう、ですね。好きです。ーーー私自身猫ですし」

「最後の方何か言った?」

「言ってないですよ」

 

聞こえた気がするのだが、どうやら俺の勘違いらしい。

そろそろ午後の授業が始まるし、退散するかな。

ましろにここで待っているように釘を刺し、塔城さんと教室へと向かう。

 

「……あの、春日くん」

「ん? どうした?」

「その、私と、友達になってくれませんか?」

 

その言葉に一瞬身を固める。

ーーー本当なら断るべきだ。塔城さんを裏の世界に巻き込む訳にはいかない。そんなことは俺が望むことじゃない。

けれど、俺はーーー

 

「うん。よろしく塔城さん」

「あ……小猫、でいいです」

「俺も望でいいよ」

「よろしく、お願いしますね。望」

「こちらこそよろしく。小猫」

 

小猫は嬉しそうに微笑んだ。

それを見た俺も自然と頬が緩む。

 

 

この時、俺は信じたくなかったんだと思う。だから、確かめるように友達になったのかもしれない。

だって、小猫から悪魔の気配(、、、、、、、、、)がしたのだから(、、、、、、、)

きっと気のせいだ、と自分に言い聞かせ、教室へと急いだ。

 





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