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ずっと、続くと思っていた。
イッセー先輩が遊びに誘ってくれて、笑い合う日常が。
小猫と話して、笑い合う日常が。
でも、それは終わってしまった。
ーーー日常は酷く、脆く、崩れ去る。
だから、俺はーーー
ーーー『第六話 日常は崩れ去って』ーーー
あくびを噛み殺しながら何の変哲もなく、いつも通りの通学路を歩いていく。
今朝は珍しく早起きだったので弁当を作っていた。
味噌汁の匂いに連れられて目が覚めた黒姉は「言ってくれれば私が作ったのに!」と嘆いていた。まあ、俺の作った朝食を出したら手のひらを返したように喜んでいたけど。
トタトタと後ろから走ってくる音が聞こえ、振り返り、彼女に声をかけた。
「おはよう。小猫」
「おはよう。望」
再び歩き出すと小猫が隣に並ぶ。
今ではもう見慣れた光景だ。小猫と友達になってからというもの学校では小猫といるのがほとんどだ。
ロリ顏、小柄な体、と一見小学生と見間違える容姿をしている小猫は一部の
そんな小猫といつも一緒にいるので日頃から男子から殺気が飛んでくるわ、女子からも睨まれるわで胃が痛くなってくる。
当の本人は気づいてないからタチが悪い。
そして、女子から時折聞こえる黄色い声は一体何なんだろう?
小猫が顔を赤らめていたが何か関係があるのかな?
男子からの殺気も上がった気がするし。
「ましろちゃんは元気ですか?」
「元気過ぎるぐらいだな。たぶん窓際で寝てるんじゃないかな」
ましろを連れて帰った日はとても大変だった。
別に黒姉が怒り狂ったとかならまだ宥めようがあったのだが、予想を反してボロボロと黒姉が泣き出してしまった。
「私、もういらない?」なんて言われた時は思わずドキッとしてしまった。いつも大胆な格好をしているくせ、潮らしくなった黒姉はまた別の魅力を漂わせていた。
どうにかしようと優しく抱き締め、頭を撫でると次第に落ち着いてくれた。
校門まで来ると、竹刀を手に持つ女性たちに追いかけられるイッセー先輩がいた。
………朝から何やってるんだよ。あの人は。
大方剣道部の着替えを覗こうとしていたところを見られて、元浜先輩と松田先輩に裏切られたのだろう。
はぁ、とため息を零す。
「小猫。カバン頼むわ」
「うん。先に行ってるね」
「おう」
カバンを小猫に預け、イッセー先輩の後を追う。
少し走ったところでイッセー先輩は壁に背をつけ、追い込まれていた。
部員の一人が竹刀を振り上げ、イッセー先輩が強く身構えた。
バシッ!
空気の乾いた音が響く。
「えっ⁉︎」
「あれ、痛くない? なんでーーーって望!」
イッセー先輩と部員の間に入り、白刃取りをした俺を見て驚く二人。
「流石にこれはやり過ぎですよ。先輩」
「うっ、でもコイツが覗きなんてするから悪いのよ!」
「それについては俺の方からキツく言っておくので今回だけは見逃してもらえませんか?」
「ッ! わ、わかったわ。そ、それじゃあ!」
微笑を浮かべ、お願いすると顔を赤くして走り去っていく先輩。
その後を追うように他の部員たちも走っていく。
ヒリヒリと痛む手に息を吹きかけながら、振り返るとイッセー先輩が申し訳なさそうに見ていた。
「今月に入ってから何回目ですかね? イッセー先輩」
「………五回目です」
「覗こうとしたんですね」
「いや、確かにしたけど実際に覗いてたのは元浜と松田だけで俺は見てないんだぜ⁉︎」
「でも、覗こうとしたんですね」
「スミマセンでした」
後輩に土下座をする先輩。
端から見たら俺がさせてるみたいで嫌だな。
「………取り敢えず、イッセー先輩は今回は未遂なのでこれぐらいにしておきます。でも、元浜先輩と松田先輩にはちょっとオシオキしないといけませんね」
ふふふ、と黒い笑みを浮かべる望。
あ、これはヤバイ。と、静かに二人に合掌するイッセーだった。
教室に向かう途中、ふと三年の教室を見ると紅い髪を揺らしながらリアス・グレモリー先輩が面白そうにこちらを見ていた。
特にイッセー先輩を。まあ、イッセー先輩から
「あ、おかえり望」
「カバンありがとな。小猫」
別に大丈夫、と笑う小猫。
席に着き、いつも通り体を横に向け小猫と向き合う。
入学式以降、幾ら席替えをしても隣は小猫だった。
俺としてはそれでいいのだが小猫はいいのだろうか?
前に一度聞いてみたが、「望の隣は楽しいから大丈夫」、と言われた。ーーーちょっと嬉しかったのは内緒だ。
「駅前でケーキバイキングやってるみたいだし今度行くか?」
「うん。絶対に行く」
「おい。涎、涎。かわいい顔してるんだから勿体ないぞ」
「うにゃ⁉︎」
「おおっう⁉︎ び、吃驚したぁ。どうしたんだよいきなり?」
「な、何でもない………そうやって、いつも恥ずかしいこと言ってくるのは、ずるい」
「まあ、何でもないならいいけど」
最後の方何かブツブツと言っていた気がするが気のせいだろう。
今度の休みにケーキバイキングに行くことを約束したところで先生が入ってきたので俺たちは前に向き直すと、男子の殺意を孕んだ眼が突き刺さる。女子の方からは「やっぱりあの二人………!」と聞こえてきたが何の話だろう?
ーーーサーゼクスさん。学校に来たのは良いんですけどこう毎日毎日胃が痛くなるのは勘弁して欲しいです。
放課後になり、小猫と一緒に休みの日の予定を立てながら下校した。
学校を出た後、何やら校門のあたりが騒がしかったが何かあったのだろうか? まあ、明日になれば解るか。
家の前で小猫と別れ、ドアを開けるとましろが出迎えてくれた。
「ただいま。ましろ」
「にゃ〜」
足に身を擦り寄せる姿は可愛らしく、胃を痛める毎日の癒しでもある。
ましろを抱き上げ、居間に入ると黒姉はソファーで眠っていた。
だから今日の出迎えはましろだけだったのかと納得する。
制服から部屋着に着替え、夕食の準備に取り掛かる。
いつもは黒姉が料理担当なのだが、今日は寝ているし、黒姉に任せると魚料理ばかりになる。美味しいのだが、流石に毎日となると他の料理が恋しくなるのだ。
冷蔵庫を開けると挽肉とピーマンが入っている。確か、パスタも買っておいたはず………よし、今日はミートソースパスタに決まりだ。
挽肉を炒め、みじん切りにしたピーマンを投入してミートソースを作り、後は麺を茹でるだけだ。
黒姉はまだ眠っているみたいだ。
気持ち良さそうに寝息を立てて、時折はにかむ。きっと良い夢を見ているに違いない。
ツンっと頬を突っつくと張りのある肌が指を押し返す。
着物もいつも以上にはだけているので直視できない。
「こうやって大人しくしてたらかわいいのにな………」
そう、静かに呟く。
いつもは必要以上にくっついてくるし、その時当たる二つの膨らみが柔らかいし、撫でてあげたら甘い声で鳴いてくるし。はっきり言って余裕がない。そりゃ、黒姉のような美人に抱き着かれたりなどしたらドキドキするに決まってる。
「あ、そろそろ茹で上がる頃かな」
麺を取り出すために台所へ向かう。その背中を見つめる黒姉に気付かずに。
「こっちが油断してる時にあんなこと言うとか、反則にゃん」
黒歌は顔を赤くしてそう囁いた。
パスタがちょうど出来上がったところで黒姉が起きたので、すぐに夕食になった。その際、俺の顔をチラチラと見て顔を赤くしていたけど俺の顔に何かついてるかな?
食器洗いは黒姉がやってくれているので今は宿題を片付けている。
この範囲ならまだ前世でやっていたので難なく解ける。これからどうなるかは解らないけども。
プルルルッ プルルルッ
机に置いてある携帯が震え、着信を知らせる。
携帯を手に取り画面を見ると短く『イッセー先輩』と表示されていた。また面倒事かな、と思いながら通話を押した。
「もしもし。どうしたんですか? こんな遅くに」
『悪い悪いっと、そんなことよりも聞いてくれよ望!』
「どうせロクでもない事でしょうけど一応聞きましょう」
『俺に彼女が出来たんだ!』
「寝言は寝てから言え」プツッ
おっといけない。イッセー先輩が突然アホな事を宣うもんだからつい切ってしまったぜ。
再び掛かってきたのでもう一度通話を押した。
『いきなり切ることないだろ⁉︎』
「いや、だってイッセー先輩ですよ? 罰ゲームか何かじゃないですか」
『俺もそうじゃないかと再三疑ったさ。だが、事実だ! そして、お前は俺のことを何だと思ってるんだ!』
「女子の着替えを覗いてニヤニヤしてる変態おっぱい星人」
『クッ! 否定できねぇ!』
否定できるように努力してください。
「てか、その人本当に女の子なんですか?」
『当たり前だろ⁉︎ 俺に男の趣味はない! 天野夕麻ちゃんっていってさ。近くの高校に通ってる子なんだ』
「天野夕麻、ね………。で、態々自慢するために電話してきたんですか? それならもう切りますよ」
『いや、違うんだ。実はその、今度の休みにデートすることになったんだけどさどうすればいいと思う?』
「一緒にデートのプランを考えてくれ、ってことですか」
『スマン。こういうこと相談できんのお前ぐらいしかいなくてさ』
「まあ、良いですよ。今度の休みってことは駅前でケーキバイキングやるみたいですからそこ行ってみたらどうです?」
『お! そりゃいいな。やっぱ女の子は甘い物好きだろうし。しっかしよく知ってんな』
「ああ。俺もその日小猫と一緒に行くんで」
『それは一年の塔城小猫ちゃんのことか⁉︎』
「うおっ⁉︎ 耳元でいきなり叫ばないでくださいよ」
『これが叫ばずにいられるか! 小猫ちゃんといえば全学年の男子女子問わずに人気なマスコット的存在。そんなことデートだと⁉︎ ハッ! まさかお前と小猫ちゃんは付き合ってるんじゃ⁉︎』
「いきなり何抜かしやがるんですかね。この先輩は。仲が良いのは認めますけど付き合ってはいませんよ」
『グヌヌッ、やっぱり顔なのか? 顔が良ければいいのか?』
イッセー先輩が呪詛を吐き出し始める。
中々面倒なことになってきたな。
「まあ、取り敢えず頑張ってくださいね」
『おう! お前よりも早く童貞を捨てて自慢してやるぜ!』
と、何やらフラグを立てて通話は終了した。
☆☆☆☆☆
休日になり、黒姉に帰りが遅くなることを伝え、待ち合わせ場所の公園へと向かう。
以前約束したケーキバイキングに小猫と一緒に行くのだ。
公園へと入ると噴水広場に腰掛けている小猫を発見。
「ごめん。待たせちまった」
「大丈夫だよ。私も今来たところだから」
小猫さん。それは男子である俺が言うべき台詞です。
小猫はピンクのワンピースに白いカーディガンを羽織っていてとても似合っていた。俺はジーンズに紺のパーカーとシンプルだ。
「いっつも制服でしか会わなかったからなんだか新鮮だな。すっげー似合ってる」
「………望も似合ってるよ」
ゆっくりとした足取りで談笑しながら駅前へと向かう。
駅前に着くと人が増え、段々と込み入ってきた。これでは逸れてしまうと思い、小猫の小さな手を取った。一瞬、ビクリと跳ねた。心なしか顔も少し赤い。
「逸れたら困るから、手を握ったんだけど、悪い。嫌だったか?」
「……い、嫌じゃ、ないです」
「そ、そっか。は、早く行こうぜ!」
たぶん、俺も顔が赤くなってる。
繋いだ手から伝わる熱が熱い。手も柔らかくてずっと繋いでいられる。恥ずかしさがこみ上げてきたのでそれを振り払うように進む足を速めた。
「ーーーんっ〜!」
ケーキバイキングへとやってきた俺たちは対面式の席に座して舌鼓を打っていた。
小猫は苺のショートケーキ。俺はクリームたっぷりのシュークリーム。カスタードクリームがちょうど良い甘さでしつこくなく食べやすいな。
頬に手を当てて美味そうに食べている小猫を見ていると無性に苺のショートケーキが食べたくなってきた。
俺も取りに行こうかな、と考えていると俺の視線に気付いた小猫がフォークで一口サイズに切り分けたケーキを差し出してきた。
「えーっと、これは?」
「そ、その、食べたそうにしてたから……あ、あ〜ん」
「いや、それは流石に恥ずかしい。いいよ。俺取ってくるから」
「あ〜ん」
「いや、だからーーー」
「あ〜ん」
「だかrーーー」
「あ〜ん」
どうやら俺に逃げ道はないらしい。なら、俺も男だ。覚悟を決めよう。
「あ、あ〜ん」
「美味しい?」
「お、美味しいです」
「……良かった」
そこで笑顔になるとか反則すぎる。
しかも周りの人たちの視線が俺たちに集まってるし!
結局、その後に食べたケーキは恥ずかしさが上回ったせいか味が感じられなかった。
たっぷり一時間のケーキバイキングを楽しみ、帰路に着いた。
「美味しかったね望」
「そうだな。今度はどこ食べにいく?」
「それだったら町の方に新しいショップが出来たらしいよ」
「お、じゃあ今度はそっちに行ってみるか」
その時、魔力の反応を感じ取り、その方向を向く。
場所は今朝の公園。嫌な予感が止まらない。その予感を裏付けるように目が熱を帯び始める。
ノイズが掛かったように流れる光景は次第に晴れ、腹に穴を開け、自身の血の海に沈む
「悪い、小猫! 急用を思い出したから先帰るな!」
「あ、ちょ、望⁉︎」
小猫に短く伝え、その場から走り出す。
ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。なんとしても今見えた未来だけは阻止しなくては。
考えれば当たり前だった。
ーーーイッセー先輩たちと過ごす日常が楽しくて、裏のことを考えるのを止めていたから、そのツケが来たのかな。
望は足に魔力で強化し駆ける速度を上げた。
☆☆☆☆☆
「死んでくれないかな?」
「えっ?」
聞き間違い。何かの冗談だろうと言おうとした。
バサッ!
夕麻ちゃんの背中から黒い翼が飛び出し、ハラハラと舞った黒い羽が地面に落ちる。
その姿は幻想的だった。天使、などではない。もっと禍々しいものだ、と本能が告げている。
さっきまでかわいらしい両目は、冷たく怖い目つきに変わっていた。
「楽しかったわ。あなたと過ごした僅かな日々。初々しい子供のままごとに付き合ってる感じがして」
ブゥン。
重たい音が空気を揺らす。
耳鳴りに近い音を立てながら、それは夕麻ちゃんの手に現れた。
一本の槍。形が定かではないが、恐らく槍だ。
目の前の現象に頭を悩ましていると風切り音が聞こえ、同時に擦過音が聞こえた。
突然、俺の目の前に割り込んだ者が槍を弾き飛ばしたのだ。
槍は近くの地面に突き刺さり、光となって霧散した。
割り込んだ者の両手には白と黒の剣が輝いている。この剣で槍を弾き飛ばしたのだろう。
割り込んだきたのはイッセーがよく知る人物だった。
つい最近、曲がり角でギャルゲーのような出会いをした少年。
引っ越してきたばかりということで町を案内したり、一緒にゲーセンに行ったこともある。少年は振り返ると、
「こんなところで何してんですか? イッセー先輩」
殺伐とした空気の中では場違いないつも通りの声音で、望は言った。
公園まで数分で辿り着くと結界が張っていた。
干将・莫耶を投影し、人一人通れる程度の穴を開け、そこから中へと侵入。
噴水広場に立つ二つの影。イッセー先輩たちだ。
天野夕麻と呼ばれている女は背中から黒い翼を広げていた。
悪魔の羽ではない。あれは、堕天使の翼だ。
ということはグリゴリ関係かーーー
堕天使の投擲した槍を干将・莫耶で弾き飛ばし、イッセー先輩に声を掛ける。
「こんなところで何してんですか? イッセー先輩」
「望!」
「あら? 私の槍を弾くなんてただの人間ではないわね」
「そういうあんたはどちらさんで?」
「私は至高の堕天使レイナーレ。貴方たち人間が私の名を知れたのだから喜びなさい」
「そりゃ、どうも。ところで何でイッセー先輩を殺そうとした」
「それは彼がその身に
「ーーーそうかよ」
また、そうなのか。そんな理由で命を奪うのか。
一体お前らに何の権利があって命を奪う。危険因子に成り得る? からなんだと言うのだ。そんな理由で人の
「貴方が何者かは知らないけど大人しく、イッセーくんと仲良く死んでね」
先ほどよりも一回り大きな槍が投擲される。
後ろでイッセー先輩が叫んだ気がするが遠くで叫んでいるように聴こえた。
干将・莫耶を握り直し、その槍を上段から打ち落とす。
足を強化し、地面を蹴る。レイナーレとの距離を一瞬で詰め、干将を一振り放つ。
予想外だったらしくレイナーレは焦った表情を浮かべ、回避した。
お返しに干将・莫耶を投擲すると身を捩りながら槍を投げる。
ニヤリとレイナーレが笑う。ーーーが、それはすぐに驚きの表情をに変わる。
「
干将・莫耶を再び投影し、その槍を打ち砕いた。
「な、たった今剣を投げたはずだ⁉︎」
「答える義理はない。それとーーー余所見はしない方がいい」
「どういう意味ーーーガァッ‼︎」
投影した干将・莫耶に引き寄せられるように戻ってきたのは先ほど投げた干将・莫耶。
戻ってくる通過点にいたレイナーレの腹部を左右から斬り裂き、鮮血が流れる。
「クソが! 覚悟しろ人間! 至高の堕天使であるわたしに傷をつけやがって」
「知らねぇよ。いいから黙って、俺に殺されろ」
憎々し気に俺を睨むレイナーレ。
首を刎ねようと足に力を込めた瞬間、後ろでドチャッと何かを貫く音がした。
慌てて振り返るとレイナーレの槍とは違う光を放つ槍がイッセー先輩を貫いていた。
その上空には漆黒の翼を広げるもう一人の堕天使が静止していた。
もう一人、いたのだ。
「イッセー先輩!」
干将・莫耶を魔力に還元し、地に伏したイッセー先輩へと駆け寄った。腹部には穴が開き、血が流れ出ている。
最悪だ。さっき見た未来が起こってしまった。それを回避するためにここまで来たというのに目先の怒りに我を忘れてしまったがためにイッセー先輩が死にかけているこの状況から目を背けたかった。
「悪、ぃ。のぞ、む。せっかく、助けに来てくれたのに、死んじまう、みてぇだ」
「そんなこと言ってんじゃねぇ! 次そんなこと言ったら俺が殺してやるからな!」
傷口に手を押し当て、治癒魔法を掛けるが一向に傷が塞がらない。
その間にも夥しい量の血が流れ出ていた。その量は明らかに人が出していい量を超えていた。
「お前だけでも、逃げろよのぞ、む。俺は、もう、たすからねぇ……」
「頼むから、そんなかなと言わないでくれ!」
「貴方も来てたのね。カラワーナ」
「ええ。レイナーレ様の帰りが遅かったので様子を見に来たらこのやうな状況だったので即刻ターゲットの始末をしました」
「そう。まあ、いいわ。私を傷つけたことを後悔させてから殺してやろうと思ったけど、いい感じに絶望してるみたいだし、このまま二人仲良くあの世に送ってあげましょう」
後ろでレイナーレが槍を生み出し、望の腹を貫かんと投げようとしたーーーその時だった。
イッセー先輩のポケットからチラシが落ち、それを中心に魔法陣が展開された。その魔法陣は紅かった。俺の手を染めるイッセー先輩の血のような紅。
この魔法陣は転移魔法陣。こちらへと急速に向かってくる魔力の正体。ーーーリアス・グレモリーだ。
「転移魔法陣⁉︎ チッ! 撤退するわよカラワーナ」
「わかりました」
翼を広げ、その場から飛び去る二つの影を見ながら、俺は《
恐らくリアス・グレモリー先輩がイッセー先輩を助けるだろう。だが、それだとイッセー先輩はーーー
考えてるうちに光は強くなる。そろそろ到着する。
顔を見られる訳にもいかない。《
☆☆☆☆☆
重い足取りで家の敷地を跨ぎ、家へと入る。
「お帰りにゃん♪ 望」
いつも通り黒姉とましろが出迎えてくれた。
その姿を見て、安心したからか足から力が抜けて、その場に膝をつく。
「どうしたにゃんって血⁉︎ どこか怪我したの⁉︎」
「俺は、大丈夫。俺はなんともないよ。でもさーーー」
ポロポロと涙が零れ落ち、床を濡らす。
イッセー先輩の血がついた手は血が乾き、黒ずみ始めていた。
「また、守れなかったんだ。俺はもうあんな思いしたくないのに、また守れなかったんだ!」
ギュッ手を握り締め、めり込んだ爪から血が薄っすらと滲んだ。
黒姉は何も言わないし、聞かなかった。
ただ優しく俺を抱き締めて、頭を撫でてくれた。
たったそれだけのことなのに今はそれがすごく嬉しかった。
俺はしばらく黒姉の腕の中で子供のように泣き続けた。
また、守れなかったんだ……!