猫に関わる話   作:流離う旅人

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もう二度と、失いたくない……

そう思っていたはずなのに。また、守れなかった。

その事実だけが酷く胸に突き刺さる。

どうすれば、いいのだろう? もう誰も失わない為にはーーー

 

 

 

 

ーーー『第七話 こうして彼は悪魔になった』ーーー

 

 

 

今朝は天気が良く、陽光がアスファルトを照りつける。

その暑さの中気だるい体に鞭を打ち、俺は歩いていた。

あの後、泣き疲れた俺は黒姉に抱き締められたまま眠ってしまった。

目が覚めると目の前に柔らかい感触があって吃驚した。

そんな状況、男子が聞けば喜ぶのだろうが生憎そんな気分ではなかった。

このまま登校すればきっとイッセー先輩も登校してくるだろう。

昨日のことが嘘のように。けれどその体は悪魔として(、、、、、)

そう思うと学校に行くのが途端に嫌になる。このまま町へと走り出したい気持ちに駆られる。

 

「おはよう望」

 

そんな俺の気持ちとは裏腹に小猫の明るい声が聞こえてきた。

振り返り、挨拶を返すと、ギョッとして目を見開いた。

俺の顔を見て驚いたのだろう。目元は泣き腫らした跡があるし、若干やつれた顔をしているから。

 

「悪い小猫。昨日は急に帰っちまって」

「私は大丈夫だよ。それよりも望の方こそ大丈夫? すごく辛そうにしてる」

「大丈夫だよ。俺は、大丈夫。ーーー俺なんかに比べたらイッセー先輩の方が痛かっただろうから、さ」

 

自嘲な笑みを浮かべ、呟く。

そっと手を握られ、小猫の方を見た。

 

「望が何で辛そうにしてるかは解らないけど。それを和らげてあげることは私にも出来るんだよ。その、私たちは友達、だから」

「ーーーありがとう」

「うん!」

 

小猫の温もりがほんの少し、胸の痛みを和らげてくれた気がした。

お礼を口にすると嬉しそうに小猫は頷いた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

校門をくぐると道行く生徒たちの視線が俺と小猫に集まった。

当然と言えば当然だ。学園のマスコットである小猫と手を繋いで登校すれば自然と視線は集まる。

特に男子の視線が怖い。目が虚ろで一切の光がない。思春期特有の濁りきった目を通り越してあれはもう人を殺してるレベル。朝からマッハで胃が痛くなる。

女子も何だか黄色い声が上げている。「やっぱりあの二人はーーー!」と聞こえてくるが何がやっぱりなのだろう。

 

「おはようさん! 望」

「あ……」

 

本来ならもう二度と聞くことが出来ないはずの声。

それ声は確かに聞こえてきた。後ろにいるのは昨日腹を貫かれ、絶命寸前だった少年。

悪魔となった(、、、、、、)兵頭一誠がいた(、、、、、、、)

可能な限り、明るく、平静を保ちながら挨拶を返す。小猫も俺に続いて挨拶をする。

 

「なぁ、望」

「何ですか?」

「ちょっと、さ。昼休みに聞きたいことがあるんだ」

「分かりました。それじゃあ、後で会いましょう」

「おう」

 

俺は小猫と手を繋いでいることを忘れて、教室へと足早に向かった。

とにかく早くそこから立ち去りたかった。守れなかったという現実が突きつけられているような不快感に襲われるから。

そのまま入った教室でも騒ぎになったのは当然のことだろう。

 

 

 

昼休み。イッセー先輩に呼び出された俺は以前ましろを隠していた林まで来ていた。ここから旧校舎がよく見える。今は大丈夫だが案外見られてるかもしれないな。

 

「なぁ、望。お前は、覚えてるよな? 俺に彼女がいて。天野夕麻っていう名前も。写真だって送ったんだから」

「ーーーーー」

 

覚えている。忘れるはずがない。

イッセー先輩を殺しにきた張本人だ。実際に殺したのはカラワーナとかいうもう一人の堕天使だったが、イッセー先輩が死ぬ羽目になったのはそもそもレイナーレが原因なのだから。

このまま真実を伝えるべき、だろうか。今のイッセー先輩はもう悪魔だ。遅かれ早かれリアス・グレモリーから説明があるだろう。

ならば、今は俺からは言わない。忠告だけに留める。

 

「覚えてますよ」

「だよな⁉︎ 松田も元浜も覚えてないって言うんだ。保存してた写真もデータが消えてるしさ。お前何か知ってーーー」

「イッセー先輩」

「な、何だよ」

 

真面目な声音に少し気後れするイッセー先輩。

 

「これ以上、天野夕麻に関わらない方がいい。もう普通の生活には戻れませんけど、今はそのままでいてください」

「おい! それってどういう意味だよ」

「……俺からは言えません。けど、必ず説明されるます」

「説明って誰から?」

「イッセー先輩が、学園全員がよく知る人物、ですよ」

 

イッセー先輩がまだ何か言っていたが俺は足早に立ち去った。

逃げたのだ。しばらくはイッセー先輩とまともに話せそうにないな……。

駄目だ。レイナーレへの怒りと何も出来なかった自分の無力加減に腹が立ち、むしゃくしゃする。今にも誰かに八つ当たりしてしまいたいほどに。

 

「あ、春日〜!」

 

本校舎へと進む足を止めたのは同級生の男子だった。

ずっと走っていたのか目の前まで来ると膝に手をつけ肩を上下させる。彼が落ち着くのを待ち、息を整えた彼は徐に口を開いた。

 

「今さ。剣道場で試合やってるんだけどその助っ人に来てくれないか?」

 

まるで狙ったかのようなタイミングに怪しさを感じる。

だが、ちょうどいいこの苛立ちの憂さ晴らしにさせてもらおう。

一つ返事で了承し、踵を返し、剣道場へと足を進めた。

 

 

剣道場に入ると竹刀のぶつかり合う音が耳朶を打つ。

次に防具を打つ甲高い音が響き、剣道場内を沸かせる。

悔しそうに生徒たちのところへ戻っていくのは確か、今三年生で全国に名を連ねる有力選手だったはず。

そんな彼を打ち負かす相手に少し興味が湧き、顔を顰めた。

竹刀を握っているが防具を一つも身につけず、金髪を靡かせる一人の少年。木場祐斗がそこにはいた。

彼からも悪魔の気配がするのは前々から気付いていた。

リアス・グレモリー眷属の騎士(ナイト)、か。

出来れば相手をするのは御免被りたい。人間と悪魔では身体能力に差があり過ぎる。

さっきの三年生の全力の動きなど悪魔の動体視力に掛かれば、酷くスローモーションであっただろう。

だが、俺は今むしゃくしゃしている。誰でもいいからこの行き場のないやるせない気持ちを発散したい。

相手は悪魔。なら、少しぐらい本気を出しても問題はない。

周りにいる人たちを押し退けながら、彼の前に一歩踏み出た。

王子と呼ばれるだけあり、彼は優雅な笑みを浮かべ、

 

「君は確か一年生の春日くん、だったかな」

「……よく俺のこと知ってますね」

「うん。小猫ちゃんとよくいるとこを見かけるし、本人からも何度か話を聞いていたからね」

「……そうですか」

 

会話が一区切り着いたところに竹刀が飛んできたので難なくキャッチする。投げたのはあの三年生だ。その瞳は「俺の分まで彼奴を倒せ」と言っているような気がした。

一礼してから竹刀を握り、二、三度左右に振る。

ヒュッという風切り音が心地いい。いい感じに使い込まれていて正に今がベストの状態だ。手入れも毎日欠かさずされてきたのだろう。

どれだけ剣道に打ち込んできたのかこの一本を見れば容易に想像できた。

 

(こんな良い物を借りた以上、無様な試合は出来ないな)

 

すでに木場先輩は正眼に構えている。

俺はやや腰を落とし、竹刀を持つ右手を後ろに下げた。

これは確かに試合だが、一々細かいルールに構ってやるほど気が長くないんでね。

開始のホイッスルと同時に地面を蹴り抜き、木場先輩との距離を詰めた。

少し焦ったような表情を浮かべるが、すぐに元に戻り、左脇腹に放った一撃を止められてしまう。

 

「驚いたよ。こんなに速いとは思ってもみなかった」

「余裕そうにしといてよく言うぜッ!」

 

竹刀から力を抜き、更に一歩踏み出す。

せめぎ合っていた竹刀の一方の力が抜け、支えを失った木場先輩は前に少しよろめいた。その一瞬の隙を利用し、懐へと潜り込もうとしたが、木場先輩は前にジャンプすることでそれを躱して見せた。

 

(剣だけじゃなく、状況判断も悪くない)

 

彼ならばそこら辺の騎士(ナイト)よりも育つ。と確信する。

だが、それだけ。磨けば光る原石というだけでその真価を発揮している訳じゃない。この人集りの中だから悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の力を使えない、というのもあるが俺から言わせればまだまだだ。

そろそろ昼休みも終わる。次の攻撃で決める(、、、、、、、、)

 

「今のを躱されるとは思いませんでしたよ」

「うん。正直僕も焦ったよ。逆に僕の体重を利用する、なんて考えを思いつくなんてね」

「おいおい。本当のお楽しみは次だぜ? 次で決める」

 

緊迫した空気が流れ、居心地の悪さを感じながら、剣術の構えの一つ“八相”の構えを取る。

竹刀を自分の首辺りまで下げ、横目で木場先輩へと狙いを定める。

竹刀の長さが足りるか不安だがこの距離ならギリギリ届く。

柄を握る力を強め、俺はこれから放つ技を呟いた。

 

ーーー秘剣 燕返しーーー、と。

 

バキッという嫌な音を立てて折れ曲がったのは木場先輩の握っていた竹刀。全員がポカーンとしているが気にしない。

審判に目を向けると試合終了の音が鳴り響いた。それに遅れて歓声が剣道場に木霊した。

 

「ありがとうございました。いい勝負でした」

「まともに打ち合ったのは二回だけどね」

「また、機会があればお相手しますよ」

「その時はよろしく」

 

是非、と握手を交わし、竹刀を貸してくれた三年生の元へ。

 

「ありがとうございました。でも、その剣道部の備品を壊してしまって……」

「別に構わん。彼奴に勝ってくれただけで俺は満足さ」

「そう言ってもらえると少し気が楽になります」

「ところで、お前剣道部に入らないか?」

「すごくいいお誘いではあるんですが、それはお断りしておきます」

「そうか。残念だが仕方ねぇ。またいつでも顔を出してこい。今度は俺が相手になってやる」

「はい。その時は是非」

 

ほとぼりの冷めない人たちが俺の方に押し寄せてきたのを確認し、全速力で教室へと戻った。

肩で息をする俺を見て、小猫が心配そうに聞いてきたので、さっきあったことを話すと「……私も見たかった」と頬を膨らませた。

その姿がとても可愛らしく思わず、頭を撫でてしまい、小猫は顔を赤く染めた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

放課後。俺は珍しく一人で町を歩いていた。

堕天使の住処を見つけようと始めたことだが一向に気配すら感じない。隠れるのが上手いのも考えものだな。

案外、もう堕天使はこの町にいないのかもしれない。

狙いがイッセー先輩の神器だったなら目的は完遂されている。ーーーが、イッセー先輩が生きていると知ればもう一度殺しくる可能性を否定できない。

そんなことは俺が絶対にさせない。もし、またイッセー先輩を殺しにくるというのならーーー逆に俺がその息の根を止めてやる。

 

 

 

 

今日の昼休み。望を旧校舎の林まで呼んだ。

昨日、なのか定かではないが確かにあったこと。

俺は腹を槍で貫かれて死んだ筈だった。だが、生きている。

松田と元浜は確かに紹介したはずの夕麻ちゃんを忘れているし、一緒に撮った写真まで消えていた。

童貞をこじらせ、そんな夢を見ていたのか。と疑いたくなるが望は覚えていた。

つまり、夢ではなく現実に起こったのだ。

時期に説明があると望は言っていたがこの意味の解らない現状を早く説明して欲しかった。

それに望は逃げるように立ち去っていった。何かに怯えるように、だ。その背中は小さく、叩いただけで砕けてしまいそうだった。

望は事情を知っている。それは確かだ。けど、彼奴の口からは話せない。いや、話したくない(、、、、、、)

 

怯えたようなあの態度と何か関係があるのだろう。

苦渋の満ちたあの顔は前にも同じことがあったんだろうか?

それは本当に望の口から話すことはできないのか?

お前の胸の内に秘めたその思いを俺に打ちまけることはできないのか?

夕麻ちゃんのこともあるがそれ以上に後輩(のぞむ)が悩みを打ち明けてはくれない自分自身に苛立ちを覚えた。

今は、待つしかないのだろう。彼奴が話してくれるまで待とう。

 

あの公園での出来事を境に変わったことがもう一つある。

それは自身の体の変化。

晴天の日、起きるのが億劫になり、外を歩くと気だるさを感じる。

夜一時まで起きていたら奇跡と言えるほどだったのが今では朝日が見えるまで起きていた。

何の前触れもなく、完璧な夜型人間へと変わっていた。

昼とは逆に夜になると五感が冴えわたる。

外灯もない場所の夜目が効くし、家族の団欒とした声が家越しで聞こえてくる。

試しに走ってみれば世界記録を乗り換えられるタイムを出せた。

異常だ。明らかにおかしい。俺の体に何が起こったというのだ。

夜になったことで疼き始める体のことを考えても答えはでない。

そろそろ馬鹿な自分に答えが出せる筈がない。医者に行っても答えはでない気がする。

 

はぁ、とため息を一つ吐いた。

風が頬を吹き抜け、熱を持った体を冷やしていく。

最初は心地よい涼しいものだったが次第に肌を突き刺すような悪寒へと変わった。

ヤバイ。そう、本能が警鐘を鳴らす。

目先には闇の広がる一本道。その先から何かが近付いてくる。

コツコツと靴を鳴らし、やってきたのは男だ。スーツを着た男だ。

面識がなく明らかな初対面だ。なのに男は敵意を孕んだ目で俺を睨んでいる。視線を合わせると芯まで凍ってしまいそうだ。

変質者か? と頭を巡らせていると、唐突に男が口を開いた。

 

「数奇なものだな。こんな地方の市街で貴様のような存在と会うのだからな」

 

………………は?

言っている意味が全く解らない。

厨二病なのか? 頭がイッているとしか思えない。

言い知れぬ恐怖を感じ後ずさりしつつ、距離を取った。

 

「逃げ後だな? 貴様の主は誰だ? こんな都市部から離れた場所を縄張りにするぐらいだ。階級の低い者か、物好きのどちらかだろうな。もう一度聞く。お前の主は誰だ?」

 

バッ!

 

俺は振り向き様、一気に来た道を戻った。それも全速力でだ。

速い。とにかく速い。夜はやっぱりおかしいぐらい速力を出している。夜の闇を掻き分けながら、ひたすら逃げた。

途中で道を曲がったりしながら、見知らぬ街道をひた走る。

息はまだ上がっていない。まだ走れる。追ってくる気配もない。

とにかくこのまま絶対に尾いてこられないであろう距離を稼ぐ!

 

十五分くらい走ったところで、開けた場所に出た。

ーーー公園だ。

足を一旦止め、歩みを変える。公園の街灯を頼りに周囲を見回す。

俺は不可思議な感覚に囚われていく。

ーーー知っている。俺は、ここを知っている。

見間違うはずなどない。ここは俺が死んだであろう場所だ。

今、ちょうど立っている場所で腹を貫かれ、地面を血に染めた。

けれど、地面は土色で血が溢れたような跡はない。

やはり、あれは夢なのだろうか?

 

ゾクッ。

背筋に冷たいものが走る。後方に何かいる。

ゆっくりと振り返ると、俺の眼前に黒い羽が舞っていた。

 

「逃すと思うか? 下級な存在はこれだから困る」

 

目の前に現れたのは黒い翼を生やしたスーツの男。

 

「貴様の主の名を聞くつもりだったが、さては『はぐれ』か? それなら貴様の困惑ようも説明がつく」

 

男は一人でブツブツと言っている。

拙い状況の中、ふと夢の出来事が思い浮かんだ。

これではまるで夢の再現だ。それだと俺はこの後ーーー

 

「ふむ。主の気配もなし。消える素振りも見せない。魔法陣も展開しない。状況部席からすると、お前は『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」

 

物騒なことを口走る男は、手をかざした。

狙いは俺だ。

耳鳴りがする。体が拒否反応を起こすように震えだす。

男の手に光が集まっていくと槍のようなものを形成していく。

見るだけならファンタジーなんだけどな。

ーーー殺される。そう思った時にはすでに槍が腹を貫いていた。

 

ゴボッ。

 

口からは血が溢れる。貫かれた部分が焼けるように痛い。

槍を抜こうと手をつけるとジュッと肉を焼いた。

夢の時より痛い。けれど、変化した俺の体はその一撃では死ななかった。

 

「痛かろう? 光はお前らにとって猛毒だからな。その身に受ければ大きなダメージになる。光を弱めで形成した槍で死ぬと思ったが、意外と頑丈だ。今度はもう少し光を込めるぞ。これなら確実に死ぬだろう」

 

光を少し込めただけでこの激痛だ。次は本当に焼け死んでしまうかもしれない。

逃げようにも激痛に体が竦み、思うように足が動かない。

その間にも男は槍を形成し、無情にも槍で俺を貫いたーーーーーはずだった。

 

以前、剣道部の一撃から俺を守ってくれた背中が目の前にはあった。

その両手に夢で見た剣を携えて。

怯えたような背中は見る影もなく、俺でも解るほど怒りに満ちていた。

俺は嗄れた声で目の前の少年の名前を呼んだ。

 

「のぞ、む……」

 

振り返った望の顔は鋭く冷たいものだった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

異変を感じた時にはすでに走り出していた。

レイナーレとは違う魔力の反応。仲間の堕天使。まだ他にも仲間がいたのか!

堕天使は高速で移動し、何の皮肉かイッセー先輩が殺された公園で動きが止まった。

堕天使の魔力が高まったかと思うともう一つの魔力が小さくなった。

イッセー先輩だ。

更に魔力で強化した足に気を重ね掛けし、速度を上げる。

今、人に当たったらその人は車に撥ねられたような惨状になるだろう。だが、そんなこと心配する余裕は今の俺にはない。

 

公園に突入し、噴水広場に出た。

そこにはまた腹を貫かれたイッセー先輩と今正にトドメを刺さんと槍を振りかぶる堕天使の姿が見えた。

怒りで体が燃えるように熱くなる感覚に襲われる。

両手に干将・莫耶を投影し、投擲された槍を弾き砕いた。

後ろで嗄れた声を上げるイッセー先輩の声が聞こえ、振り返ると一瞬ギョッとしたように目を見開いた。

当然、か。俺は今、酷く冷たい顔をしているだろうから。

それを初めて見たイッセー先輩にとっては恐怖の対象に成り得ても仕方がない。

目の前の堕天使へと目を向け、睨む。

 

「ほう? 今のを砕くか。貴様はーーー見たところ人間のようだが、普通ではないらしい」

「何故、イッセー先輩を殺そうとした?」

「そいつは『はぐれ』なのだろう? ならば殺したところで何ら問題はない。それにそいつのような下級の存在(、、、、、)が一人消えたところで支障はない」

 

男は笑みを浮かべながら、琴線に触れた。

 

「ふざけるな……。そんな理由でイッセー先輩を殺されて堪るか。何よりーーー二度もイッセー先輩を殺されてなるものか!」

「貴様が何者か気になるところではあるが、ここでそいつと一緒に死んでもらおう」

 

再び槍を形成し、構える。干将・莫耶を逆手に持ち替え、構える。

態勢を低くしたその姿はまるで獣。

堕天使は槍を俺に向かって放つがそれはすでに予測していた(、、、、、、、、、)

俺の両眼は熱を帯びたように熱く、血のような紅に染まっていた。

 

堕天使の懐に飛び込むと蹴りを放ち、距離を取る。

その一撃を受け、崩した態勢を立て直そうとした一瞬を突かれ、槍が腹を貫いていた。

血を迸しらせ、地面へと崩れ落ちる俺を堕天使は歪んだ表情で嘲笑っていた。

 

 

 

 

 

ーーーそれが俺の見た数秒先の未来。

 

これが俺の神器(セイクリッド・ギア)魔眼(ヴィジョンズ)》の力だ。

俺は堕天使の懐へと飛び込むと予知通り蹴りが飛んできた。

それを難なく避け、更に一歩踏み込み、暴風雨のような乱撃を食らわせる。

距離を取る為に後ろに下がったせいで傷が浅い。

血を滲ませた腹を手で押さえ、呻き声を上げ、睨む堕天使。

かざした手に魔力が集中していく。

それに合わせ、構え直すが、眼前で爆発が巻き起こる。

男の手元から煙が上がり、鮮血が迸っていた。

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

その言葉はイッセー先輩に投げかけられたもの。

紅い髪を靡かせ、隣を通り過ぎたのはリアス・グレモリーだった。

 

「……紅い髪……チッ、グレモリー家の者か……」

 

男は憎々しげにリアス・グレモリー先輩を睨みつける。

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。この子にちょっかい出すなら容赦しないわ」

「これはこれは。その者はそちらの眷属か。この町は縄張りというわけだな。今日のことは詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしないことだ。私のようなものが散歩がてら狩ってしまうかもしれんぞ?」

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、容赦なくやらせてもらうわ」

「その台詞そっくりそのまま返そう、グレモリー家の次期当主よ」

 

堕天使は翼を羽ばたかせる。 空へと飛翔し消えていくその前に、

 

「おい。待てよ。お前の名前は何だ?」

「我が名はドーナシーク。人間、貴様の顔は覚えたぞ。次に会った時は俺がこの手で殺してやる」

「言ってろ。返り討ちにしてやるよ」

 

お互い睨み合い、しばらくすると夜の闇へと消えていった。

危機は去った、と思ったが後ろにはまだ面倒事が待ち構えていた。

 

「さて、貴方は何者なのかしら?」

「駒王学園一年の春日望ですよ」

「へぇ……貴方が、ね」

 

面白そうに、そして値踏みするかのような視線が全身這う。

 

「俺なんかよりも早くイッセー先輩を手当てしてください。俺はもう、帰りますから」

「それもそうね。明日使いの者を出すわ」

「……勝手にしてください」

 

俺は踵を返し、家路へと着いた。

その時の俺は間に合ったという安堵とこの場から逃げ出したいという気持ちが押し寄せていたせいで気付かなかった。

いつも肌身離さず付けていたペンダントの紐が切れ、落としていたことに。

 

「これは、彼の持ち物かしら?」

 

そのペンダントを拾い、妖艶な笑みを浮かべるリアスだった。

 




果たしてペンダントはどうなるのか⁉︎
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