解っていたことだけど、いざ目の前で真実を晒されると流石に堪えてしまう。
確かに俺は悪魔のことが大嫌いだ。
でも、話をして、一緒に笑いあって、美味しものを美味いと言い合えるんだ。
ーーー悪い悪魔ばかりいるわけじゃない。
だから、俺は信じたいと思う。あの二人をーーー
ーーー『第八話 真実が明かされる日』ーーー
イッセー先輩がドーナシークに襲われた次の日。
イッセー先輩はグレモリー先輩のカバンを持ち、従者のように振る舞っていた。
その光景に全員が目を疑い、悲鳴を上げていた。中には気絶する人もいた。
そろそろイッセー先輩の目の端から透明な液体が流れ落ちそうだから止めてあげて。
グレモリー先輩は俺に気がつくとニッコリと笑った。
今日の放課後辺り面倒なことになると確信しながら教室に入ると先に来ていた小猫が笑顔で出迎えてくれた。
最近、無表情が多かった小猫はよく笑うようになっていた。
グレモリー先輩の笑顔より俺は小猫の笑顔の方が好きらしい。
そして、放課後。
一年の教室に木場先輩がやって来た。グレモリー先輩の使いらしい。
ため息を一つ吐いて、木場先輩に着いて行くと向かったのは二年の教室。
イッセー先輩も一緒に連れて行くらしい。
木場先輩と教室に入るとイッセー先輩が木場先輩を睨みつける。
「イケメン死ね!」とか思ってるんだろうなぁ。
グレモリー先輩の使いだと話すと態度を丸くし大人しくなった。
周りはまだ「木場くん×兵頭⁉︎」「兵頭×木場くんのカップリング⁉︎」「いえ、きっと木場くん×兵頭×春日くんよ!」『それだ!』
一体なんの話をしているんだろう?
「一緒に来てもらえるかな」
「わかった。そういえば望もいるんだな」
「まあ、いろいろあって呼ばれちゃいまして」
「どういうことだ! イッセー」
「大丈夫だ。別に喧嘩しに行くわけじゃーーー」
「これ! 『僕と痴漢と時々うどん』をどうすーーーゲボォ!」
「真昼間からなんてもん見てんだこのアホ先輩!」
顎を打ち上げ、その場に崩れ落ちる松田先輩。
その光景に全員が息を呑んだ。
松田先輩の手から零れ落ちたエロDVDを踏み砕き、いい笑顔で俺は言った。
「それじゃ、行きましょうか」
「そ、そうだね」
「松田、お前のこと俺は一生忘れないからな……」
失礼な殺してはいませんよ。数時間は目覚めないと思うけど。
木場先輩に続いて向かった先は旧校舎。
昔は使われていたようだが現在は誰も使用していなく、学園七不思議に数えられていた。
外見は木造で古いが壊れた部分は見受けられない。
二階建ての木造校舎を進み、階段を上がっていく。
塵一つ落ちていないところを見るとこまめに掃除はしているらしい。
木場先輩が一つの教室の前で止まる。
戸にかけられたプレートには『オカルト研究部』と書かれていた。
イッセー先輩が首をこてんと傾げるところを見ると困惑しているようだ。
「部長、連れてきました」
引き戸の前で木場先輩が確認すると中からグレモリー先輩の声が聞こえた。
室内に入ると床、壁、天井に至るまで面妖な文字が記されていた。
中央には部屋の大部分を占める魔法陣。
これからは微かに魔力を感じる。
イッセー先輩は驚きに目を見開いているようだった。
固まっていたので写真を撮ってみたがそれでも動く気配はなかった。
今度これを拡散する、と脅hーーーんんっ、話をしようかな。
何を見ているのかと気になり、見るとソファーに座り、黙々と羊羹を食べる小猫がいた。
無表情で少し眠たそうな表情をしている。
俺に気付くと少し横にずれてポンポンッと叩いた。
俺は肩を落としながら小猫の指示通り、隣に腰を落とした。
イッセー先輩も斜め前にあるソファーに腰を落とす。
「美味そうな羊羹だな」
「望も食べる?」
「もらえるなら食べたい」
「わかった。……はい」
櫛で羊羹を切り分け、差し出してくる小猫。その頬は少し赤い。
恥ずかしいならやるなよ……。と、思う俺の顔も赤いだろう。
羊羹をパクッと一口で食べると小豆の甘さが口一杯に広がり、頬が緩んでしまう。
小猫が選んだ菓子に外れはないな。
あれ? そういえばこれって間接キスになるんじゃーーー⁉︎
そう思い、見たときには小猫はもう櫛を口に含んでいた。
なんだか変に意識してしまい、余計顔が赤くなった気がする。
ふと視線に気付くとグレモリー先輩と姫島先輩がニコニコと俺と小猫を交互に見ていた。
「あらあら」
「まさか小猫ちゃんが人にお菓子を分けるなんてね」
「貴方達知り合いだったのね」
三者三様の言葉を漏らす三人。
小猫は黙々と羊羹を食べ続けている。その頬はほんのりと赤が差したままだが。
というかグレモリー先輩の髪が濡れ、艶っぽい。
イッセー先輩を見て微笑む姿は優しさに溢れている気がした。
グレモリー先輩の後ろを見るとシャワーがあった。
部室にシャワーって金の無駄な気がするのは俺だけだろうか?
手を頬に当てニコニコと微笑むポニーテールの女性はグレモリー先輩と併せて「二大お姉さま」と称される、姫島朱乃先輩である。
「初めまして。私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
「どうもご丁寧に。一年の春日望です」
「こ、これはどうも。兵頭一誠です。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
緊張のあまり口の回らない挨拶を返すイッセー先輩は滑稽だった。
「さて、全員揃ったわね。兵頭一誠くん、春日望くん。いえ、イッセー、望」
「は、はい」
「私たち、オカルト研究部は貴方たちを歓迎するわ」
「俺は歓迎されたくねぇーです」
「悪魔としてね」
はい。無視されましたね。
どうやって話を誤魔化そうかと俺は頭を回転させた。
☆☆☆☆☆
グレモリー先輩は先ず自分たちとイッセー先輩、悪魔について話をした。
まだ信じられないという表情をしているものの、話を食い入るように聞くイッセー先輩。
悪魔について簡単にまとめると大きな特徴が二つある。
悪魔は昔起こった戦争によりその種が激減し、自然出生では元の数に戻るのにかなりの時間がかかる。
そして、元々悪魔とは子供が出来辛い種族というのもネックだ。
そのため有能な者を悪魔に転生させるシステム『
悪魔という種族を存続させる上でこのシステムは確立されたが、純種の悪魔の転生悪魔に対する扱いはぞんざいだ。
そこから『はぐれ悪魔』が生まれるわけだから悪魔を増やすよりも先に悪魔の考えを変えないことにはそれは叶わないだろう。
幸い、グレモリー先輩はそんなことをしない人のようで安心した。
まあ、もししてたらサーゼクスさんに許可もらって殴り飛ばすけど。
もう一つ。悪魔にとって光は猛毒であること。
イッセー先輩は身を持って体験しているため骨身に染みているだろう。
悪魔にとって光は身を焦がす猛毒。
悪魔の身で光に触れればたちまち肉を焼き焦がし、激痛が体をかけめぐる。
上位悪魔には光を緩和する術を持っているがこの部活でそれを持っているとしたらグレモリー先輩だけだろう。
さっきイッセー先輩の治療で家に行ったって言うし、そうなのだろう。
そして、今度はイッセー先輩が一番聞きたかったこと。
ーーー天野夕麻についてだ。
彼女は堕天使。イッセー先輩が
そのためにわざわざ彼女としてイッセー先輩に近付き、殺した。
イッセー先輩がどれだけ嬉しそうに彼女のことを話していたか、俺は知っている。
呆れながら聞く彼女の話からはイッセー先輩の喜びが伝わっていた。
イッセー先輩が俺にデートプランを一緒に考えてくれと頭を下げたのは彼女を楽しませようと考えたから。
天野夕麻、レイナーレはイッセー先輩の思いを踏み躙った。
それが、許せない。
ギリッと奥歯を噛み締め、拳に力が篭る。
小猫が心配そうに見ていたので「大丈夫」と笑顔を取り繕った。
堕天使とは天使から邪な感情を持ち、地獄に堕ちた者。
堕天使は悪魔と対立し、互いに領土を二分している。
そして、堕天使は悪魔が嫌う光を使える。天使も光を使うが天使については説明を省く。
悪魔、堕天使、天使は総称して「三大勢力」という。
説明は
それは特定の人間の身に宿る、規格外の力。
簡単に説明するなら歴史に名を残す偉人たちは
大半は人間社会規模でしか機能しないが、中には悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を秘めているのが
そして、神をも殺す力を秘めているのが
そして、等々ーーー
「それじゃあ、今度は望の話を聞かせてもらいましょうか」
グレモリー先輩の言葉を皮切りに俺に視線が集中する。
はぁ、とため息を吐く。
「ーーー春日望。十六歳。身長百七十二cm、体重六十七kg。好きな食べ物は肉料理全般。嫌いな食べ物はーーー」
「そういうことを聞きたいわけじゃないわ」
ピシャリと話は中断される。
イッセー先輩と小猫以外の目が鋭いものへと変わっていた。
どうしたものかと頭を掻く。その視界の端で見知ったものを捉えた。
グレモリー先輩の手には
バッ! と自分の首元に手を当てるとペンダントはなかった。
昨日、落としていたのだ。そのことに気付き、顔を歪める。
「……返してください」
「貴方が素直に話してくれれば返してあげるわ」
「お願いです。返してください」
「話せばすぐに返してあげるのよ?」
「………………」
「貴方がどうしても話してくれないのなら、このペンダントを壊すことになるのだけどーーー」
プツッ。
全員が何かの切れる音を耳にした。
風が吹き抜けたかと思うと、俺はグレモリー先輩の前に立ち、その眼前に干将を投影し、突きつけていた。
木場先輩と姫島先輩はいつの間! と顔を険しくし、すぐに攻撃できる態勢を取った。
小猫は黙って俺を見るだけで動こうとしない。イッセー先輩は状況についていけなくただあたふたとしていた。
「ーーーもし、それを壊すというのなら首から上が無くなると思ってください」
低く、冷たい声が部室に響いた。
グレモリー先輩の額に冷や汗が流れる。
その手からペンダントを
それを見ていたグレモリー先輩は一人納得したような顔をしていた。
「その剣を生み出す魔法……そう、そうなのね。貴方が「
その言葉にイッセー先輩以外の三人が目を見開いた。
「あの〜、その「
「「
イッセー先輩も理解したのか驚いた表情をしていた。
踵を返し、部室を出て行こうとすると、グレモリー先輩に呼び止められた。
「待ちなさい。貴方のような者が何故学園にいるのかしら」
「ーーーある人に入学を薦められたから」
「ある人? それは一体誰なのかしら?」
「教えるわけにはいかない。敢えて言うならグレモリー先輩が一番よく知ってますよ」
「私が?」
今度こそ出て行こうとするが、木場先輩が戸の前に割って入り、阻止される。
「貴方の言う人物が誰なのかは気になるけど、貴方をこのまま帰すわけにはいかないわ」
「どうするんですか?」
「出来れば貴方を眷属にしたいところだけどーーー貴方は悪魔を嫌っているんだったわね。だから、オカルト研究部に入部してもらうわ」
「断る。ーーーと、言ったら?」
「力尽くでーーーと、言いたいところだけど、そうね……。祐斗と一騎打ちをして祐斗が勝ったら入部してもらう、というのはどうかしら?」
「……いいですよ。俺が勝った場合は?」
「今後一切私は貴方に関わらないわ」
「分かりました。じゃあ、場所。移しましょうか」
今度こそ戸を開き、外へと出る。
後ろで俺を見る悲しげな二人に気付かずにーーー
☆☆☆☆☆
俺と木場先輩はグラウンドの中央に立っていた。
姫島先輩が結界を張っているので人の目も、被害も、何も考える必要はない。
「こうしているとあの昼休みを思い出すね」
「そうですね。ま、あの時はお互い力をセーブしてたわけですけど。それでも、俺が勝ちますよ」
「僕もリアス・グレモリーの眷属として負けるわけにはいかないな」
「それじゃあ、一騎打ちを始めましょうか」
両手に干将・莫耶を投影する。
木場先輩は虚空から一つの剣を抜いた。
(
恐らく剣系の
能力は不明。だが、剣なら俺にとっては
今回最初に動いたのは木場先輩だった。
目の前から木場先輩が消えた。普通の人間では視認すら不可能な速度。
だが、それはあくまで
右方に姿を現した木場先輩の剣を干将・莫耶をクロスさせて受け止める。
すでに強化は終えているのでその場からピクリとも動くことはない。
驚き、目を見開いたが距離を取ると、その顔は元のニコニコ顏に戻っていた。
「驚いた。今のスピードについてこれるんだね」
「ハンターをやってれば先輩より速い相手なんて腐るほどいましたからね」
「へぇ。自分で言うのも何だけど。今のは一割ぐらいのスピードなんだ」
「それを聞いて安心しました。今のが本気だというのならリアス・グレモリーの名が泣きますよ」
「……その、言葉。撤回してもらえるかな」
「俺に一撃でも当てれたら考えておきます」
「なら、是が非でも当てなきゃいけないな!」
二人同時に地面を蹴り、接近戦へと持ち込む。
目を強化することで動体視力を上げ、確実に剣を捉える。
そこからは剣戟の応酬。両者共に一歩も退かない攻防が繰り広げられる。
それを端の方で見ていたイッセーは唖然としていた。
ただでさえ自分が悪魔となり、今日やっとその説明を受けたばかり。
目の前で繰り広げられる戦いが自分が本当に悪魔になったのだと実感させた。
悪魔の羽が出た時は妙に取り乱してしまったが……。
望を見て、イッセーは思う。
望はきっと、俺を助けられなかったことを後悔していたのだ。
だから俺が話してた時、逃げるように立ち去った。
そうだよな。助けられなかった相手が目の前で話してるんだ。
そんな皮肉、耐えられねぇよな……。俺なら自分を殴ってると思う。
そして、聞いた話によると望は悪魔が嫌いだという。
俺の思い上がりでなければ俺と望は親友だと思ってるし、望も思ってくれている、はずだ。うん。思ってくれてる、よな?
その相手が悪魔になって、どう接すればいいのか解らない葛藤の中に今の望は立っている、んだと思う。
よし! この一騎打ちが終わったら望と話をしよう。
そして、言ってやるんだ。
「俺は例え悪魔になってもお前の友達であり続ける!」ってな!
小猫は静かに望を見つめていた。
今日初めて自分の友人である望が此方側の人間だと知った。
驚いたけれど、少し嬉しくもあった。しかし、そう上手い話でもなかった。
望は、悪魔が嫌いらしい……。
それは当然、私にも当てはまるわけで。
時折、不安そうに私を見る意味がこんな形で解るとは思ってもみなかった。
でも、望は私が悪魔だと気付いていながら望は、私と接してくれてたってことだよね?じゃあ、完全には嫌われていないはず。
ならば、私が態度を変えることはない。
いつも通りに望に話しかければ良いだけだ。
……それに私は確かに悪魔だが転生前は“猫魈”という妖怪だ。
本質は猫。望は猫(動物全般だが)が好きって言っていた。
なら、猫としての私なら好きになってくれるかな?
そんなことを考えながら小猫は微笑んだ。
戦局は一向に変化せず、膠着状態を迎えていた。
どうしたものかと頭を悩ませていると木場先輩が距離を取った。
手に握る剣が光の粒子となり掻き消えた。
それが何を意味するのか解らず、首を傾げる。
「どうしたんですか? 剣を消したりなんかして。降参ってことで良いんですか?」
「いいや、それは違うよ。今の
どういう意味、と口を開きかけたが目の前で起こっている現象に閉口する。
新たに剣を取り出した。いや、創り出したのか?
刀身の周りには微かに炎がチリチリと燃えていた。
それを見て、俺は木場先輩の
「なるほど。ーーー『
「ご名答。僕は任意で魔剣を創り出せる。それが僕の
「面白い。それが見かけ倒しじゃないことを願うぜ!」
「ご期待には添えると思うよ!」
二、三度剣を振るうが躱され、鍔迫り合いに持ち込まれる。
「ーーー炎よ!」
木場先輩の掛声で刀身から炎が迸った。
炎が肌を掠め、焦げた臭いがするがそんなことはどうでも良かった。
久しぶりの戦闘に心が躍る。口角が上がっていくのが分かる。
今は何もかも忘れて戦うのみ!
干将・莫耶が熱に耐えられず溶け落ちていく。すぐさま干将・莫耶を投げ捨て、距離を取る。
「どうだい? 満足はしてもらえたかな」
「最高だよ、木場先輩。久しぶりの戦闘にはとても刺激的だ。それに炎の一撃をもらっちまったからな。さっきの言葉は撤回するよ」
「それは良かった。これで後腐れなく勝つことができるよ」
ニコニコとした顔で木場先輩は言う。
ニィッと木場先輩とは違い、俺は獰猛な笑みを浮かべた。
「確かに一撃与えられたが、この一騎打ちの勝敗はまた別だぜ?」
「それじゃあ、僕は気を引き締め直して君の相手をするよ」
「賢明だな。ーーー
次の瞬間、俺の手に木場先輩と同じ
驚きに目を見開く木場先輩。それは見守っていたグレモリー先輩たちも同様だった。
剣を逆手に持ち替え、腰を低くしていく。
深呼吸を数回して息を整え、俺は跳んだ。
さっきよりも魔力で強化した足は強く、鋭く、突くような速さを生み出していた。
上段から振り下ろす刀身から炎で逆噴射をし、推進力を上乗せした一撃を木場先輩は剣の腹で受け止めるが一撃の重さに耐えられず打ち砕いた。
剣はそのまま止まることなく、木場先輩を切り裂く手前でピタリと静止した。
木場先輩はやれやれとため息を吐き、両手を上げた。
「降参だよ。僕の負けだ。あれが噂に聞く君の力とは恐れ入ったよ」
「でも、いい勝負でした。久しぶりに燃えましたよ」
「それは何より、かな?」
握手を交わし、グレモリー先輩に一礼するとその場から立ち去ろうとした。
けれど、それは二人の友人に引き止められた。
「どうしたんだよ? 小猫。イッセー先輩」
制服の裾を掴む小猫。その後ろに控えるイッセー先輩。
どうやら二人は退く気はないらしい。
チラリとグレモリー先輩を見る。俺の視線に気付き、柔らかい笑みを浮かべ、
「約束は守ってるわ。
思い返すと確かにそう言っていた。あの場でしっかりと確認しなかった俺に非があるな。
そこでイッセー先輩が口を開いた。
「望。お前は俺を救えなかったことを後悔してんなら、そんなことしなくていいぜ」
「何、言ってるんだ?」
「だから、救えなかったことを後悔なんてしなくていいってーーー」
「何を、何、言ってるんだよ! 死んだんだぞ⁉︎ 俺が助けられなかったから! なのに忘れろ? 忘れられるわけないだろ‼︎ また、また俺は救えなかったんだ! 絶対に守るって、そう決めたのに……俺は、守れなかった。守れ、なかったんだ」
「……望」
イッセー先輩の言葉に、いや、自分自身に怒りが込み上げ、溜め込んでいた思いを吐露していく。
昔のことも思い出し、涙がポロポロと零れ落ち、地面を濡らす。
「……お前が何を背負って、何がお前を悲しませるのか俺には解らない。でもな、俺は生きてる! 例え悪魔になったとしても俺は何も変わらない! だからお前は俺が死んだことなんて気にしなくていいんだよ。 それにお前が悪魔を嫌っていたとしても俺はお前の友達であり続ける!」
「……何だよ、それ。そんなのは押し付けだ」
「ああ、そうだよ! 俺はお前に押し付ける」
やっぱり、イッセー先輩はそう言うんだな……。
そう言うと思ったから話したくなかった。俺が背負うべき罪を背負わせてはくれないから。
制服の裾を引っ張られ、下を向くと、金色の瞳が見つめていた。
思わずドキッとしてしまった。
「……私は、望が苦しんでいるのを見ていることしか出来ない」
「いいんだよ。それが、普通だ」
「でも、でもね? 私はそれじゃ嫌なんだ。私は望のことが好きだから苦しんでるところを見たくない」
「……………」
「だから、私に、私たちにも背負わせて」
「あっ……」
その一言に、救われた気がした。
今まで、俺があの時もっと強ければとIFばかり考えて、何度も後悔した。みんなを救えなかった罪をずっと、一人で背負い続けてきた。
これは自分だけが背負わなければと、抱え込んできた。
小猫とイッセー先輩の後ろでセージたちが笑っているように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
ーーー『望は一人で背負い過ぎなんだよ』
風に乗って、子どもの声が聞こえた。
そっか……。背負い過ぎたのかな? 俺は。
セージたちを心配させてるようじゃ、俺もまだまだ駄目だな……。
涙をゴシゴシと袖で拭き、イッセー先輩を見る。
「イッセー先輩は馬鹿だ」
「な、そんなストレートに言わなくてもいいだろ⁉︎」
「俺のせいで死んだようなものなのに、俺のことを友達だって言い続ける大馬鹿野郎だよ。本当に」
「それしか取り柄がないからな」
「エロいのも取り柄でしょ?」
「グッ⁉︎ 否定できない……」
いつか否定出来るようになってくださいね。
小猫を見るとさっきよりも潤んだ瞳が上目遣いで見ていた。
……破壊力が、強すぎるぜ。
「その、いいのかな? 俺は小猫の友達でも?」
「いいんだよ。私は望の友達でいたい。望は嫌?」
「嫌なわけないよ。小猫の言葉にちょっと救われた。本当にありがーーー」
ふと、さっきの言葉が脳内でリプレイされた。
『でも、でもね? 私はそれじゃ嫌なんだ。私は望のことが好きだから苦しんでるところを見たくない』
『私は望のことが好きだから』
『望のことが好きだから』
『好きだから』
『好き』
段々と一部分だけに限定し、『好き』という言葉だけにエコーがかかり、脳内に響いていた。
一気に俺の顔が赤くなるのが解った。
咄嗟に手を顔に当てて押さえるが、隠し切れていない。
「望? どうしたの?」
「いや、な、何でもないんだ。うん、大丈夫」
「? ーーーあっ、〜〜〜〜〜ッ!」
俺を見て首を傾げた小猫だが、同様にさっきの言葉が脳内で再生されたらしく顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
「えっと、あのね? その、好きっていうのは友達としてって意味で」
「だ、だよな! そうだよな〜。いや〜吃驚した」
ハハハ、と笑い合い、二人同時にため息を吐いた。
「話は終わったかしら?」
「ま、まあ、そうですね」
「それで貴方はこれからどうするのかしら?」
「………オカルト研究部には入りません」
「そう……。それ残念ね」
「ーーーけど、友人の手助けぐらいはしてもいい」
「それはつまり?」
「オカルト研究部と契約を結びます。友人の頼みは断れませんから」
「解ったわ。ーーーリアス・グレモリーは貴方に契約を申し込むわ。私たちが助けの欲しい時、力を貸してもらえるかしら?」
「そういうことなら」
これで様子見、かな。
悪魔にも良い人はいる。でも、そう簡単に俺の悪魔が嫌いだという価値観を変えることはできない。だから、契約という形を取り、悪魔と接する時間を作ることにした。
苦笑していると何やら興奮した様子のイッセー先輩が何か叫んでいた。
「悪魔は認められれば部長のように眷属を持てるのか! よ〜し! 俺は絶対に成り上がってハーレムを作ってやるぜ!」
俺が小猫と話している間に悪魔の階級について話をしていたのだろう。下心丸出しの願望を包み隠さず、力強く叫ぶイッセー先輩。
なんか、折角いい話で終われそうだったのにイライラしてきた……。
ゴキッ、パキッと指を鳴らしながらイッセー先輩へと歩み寄る。
「ハハハ。イッセー先輩は一体何を叫んでいるのかな?」
「いや、これは違うんだぞ? 望。別にやましいことを考えるわけじゃないんだ!」
「へぇ? じゃあ、何を考えてるんですか」
「美少女のおっぱいに囲まれて、揉みしだきたーーーあっ」
焦り、弁明するが本音がポロっと出てきてしまう。
「そういえばイッセー先輩は悪魔になったんでしたね。悪魔って人間より身体能力がとても高いんですよ。だから、以前より多少無理しても壊れたりはしないと思うんで安心してくださいね?」
「俺はお前のその言葉と笑顔を見たら全然安心できないんだけど⁉︎」
「吹っ飛べこの変態バカ!」
「カペッ‼︎」
顎を打ち上げると空中で弧を描きながら吹っ飛ぶイッセー先輩。
それを見て、呆れているオカルト研究部のみんな。
今後のことを考えると契約を結んだのは早計だったかな?
でも、小猫やイッセー先輩の笑っている姿を見れるのはなんか、いいと思った。
背負い過ぎる少年を支えたいと、二人は思った。
3/28 「オカルト研究部」に入部ではなく、契約という形に修正しました。