猫に関わる話   作:流離う旅人

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いつの時代にも人を殺す奴はいる。

人を殺すことに何の疑問を持たず、むしろ嬉々として殺す。

そんな奴とは分かり合えると思っていない。

ーーー話したって話が通じないんだから。

 

 

 

 

ーーー『第九話 聖女との邂逅は狂気に塗り潰されて』ーーー

 

 

 

 

「美味しいにゃん♪」

「うん。そうだね。確かに美味しいよ……、でも、でもさ! 流石に毎晩毎晩魚料理はやめて頂けませんか⁉︎」

「嫌いなの?」

「いや、嫌いじゃないけど! こう毎日魚料理飽きがくると言いますか……」

 

久しぶりの黒姉との食事。団欒とした雰囲気を醸し出しているのだが、俺は箸を持ちながらため息を吐いた。

目の前に並べられているのはマグロの刺身から始まり、魚料理のオンパレード。

黒姉が作ってくれる魚料理は美味い。店で出しても何ら遜色がない程に。けれど、毎日食べれば飽きがくる。

黒姉は手を顎に当て、瞳を閉じ、少し考えるような素振りを見せる。

 

「分かったにゃん。これから魚料理は週六で我慢するにゃん」

「それほぼ毎日⁉︎ しかも、譲歩した結果がたったの一日だけだし! せめて三日! これは譲れない」

「望は我儘にゃん」

「そんなこと言わずに頼むよ、黒姉」

「考えておくにゃん」

「あ、それは考えるだけで終わるパターン……」

 

そこでポケットの携帯が震えた。

画面を見るとイッセー先輩からメール一通届いていた。

封筒のマークをタッチし、開くと、

 

________________________________________

 

差出人:イッセー先輩

 

件名:スマン!

 

突然悪い! 俺、契約取るために毎日頑張ってるんだけど俺が行く依頼主の人たちが中々濃い人ばっかりでさ。

俺一人じゃ心労が溜まって胃が痛いんだ……。

今日一緒に依頼主のところに行ってくれないか?

お前がいると心強いんだ。

 

________________________________________

 

 

……胃が痛くなるのはこっちの方なのだが。

素早く画面を操作し、了承のメールを送る。

力を貸すとは言ったがこういうことでなるべく呼ばないで欲しい。

イッセー先輩で胃が痛くなるならリアス先輩の方はもっと辛いんだろうなぁ、と心中を察し、依頼の同行を了承したわけだが。

 

「黒姉。ちょっと出てくる」

「何処に?」

「……ちゃんと説明するので肩を握り潰さんとしている手を退けてもらってもいいですか?」

 

不満そうに手を退けた黒姉に事情を説明すると渋々といった表情を浮かべながら納得してくれた。

部屋に戻り、部屋着から制服に袖を通す。

玄関で靴を履き、ドアに手をかけたところで後ろから黒姉が抱き着いてきた。首を傾げ、黒姉の顔を見る。

 

「どうしたの?」

「ん、望成分の補充にゃん」

「望成分って……」

「久しぶりに一緒の食事だったのに途中で中断されちゃったから、これで我慢するにゃん」

「うっ、分かったよ」

 

数分、抱き締められた後、黒姉はゆっくりと俺から離れた。

 

「それじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

月の光が暗闇に映える深夜。

俺はイッセー先輩の助っ人をするため、旧校舎まで来ていた。

コンコンッとノックすると、「入っていいわよ」とリアス先輩の声が聞こえた。

 

「こんばんわ」

 

あくびを噛み殺し、重たい瞼を軽く擦りながら入った部室にはすでにオカルト研究部のメンバーが集まっていた。

 

「それじゃあ、一緒に行こうぜ! 望」

「はいはい……ってイッセー先輩。魔法陣が在るんだからここから依頼主のところまで転移()べばいいじゃないですか」

『………………………』

「え、何この空気? 俺なんか拙いこと言いました?」

 

俺の指摘に全員が顔を俯かせたこの状況に困惑する。

イッセー先輩に至っては今にも泣き出しそうになっている。

 

「昨日イッセーを魔法陣で依頼主のところに転移させたのだけど、イッセーは転移出来なかったのよ」

「え?」

「転移は悪魔なら誰だって出来るわ。もっと言うと子供でも出来る。ーーーけれど、イッセーの魔力は少な過ぎて魔法陣が反応しないのよ」

「………無様」

「はうっ⁉︎ お、俺だって、俺だってなぁ! 転移してぇよ! したいけど魔力が子供以下で魔法陣が反応してくれないんだよぉ!」

 

我慢の限界だったのか四つん這いになり、床を叩くイッセー先輩。

自分で自分の心の傷を広げちゃってるよーイッセー先輩。

ポンッとイッセー先輩の肩に手を置く。

顔を上げたイッセー先輩の目からは熱い液体が流れ出ていた。

その姿は俺の心を酷く痛めた。

………そうだよな。「貴方の魔力は子供、いえ、赤子以下よ!」と言われてるようなものだもんな。それは心に来ちまうよな。

 

「イッセー先輩」

「グスッ、何だよ」

「魔力上げる方法ありますけど、やります?」

「本当か⁉︎」

「は、はい」

 

そう言うと血相を変えてイッセー先輩は掴みかかってきた。

目が血走っててメッチャ怖い。

取り敢えず今度教えるということでその話は終わった。

 

 

 

現在、俺はイッセー先輩の漕ぐチャリに並走して夜道を走っていた。

学園から走って三十分。やって来たのはマンションだった。

本当は俺が転移の魔術を使っても良かったのだが、疲れるので緊急時以外は使わないようにしている。

なのでイッセー先輩がチャリ。俺が走ってここまでやって来た。

三十分も待たせてしまい、依頼主怒っていないだろうかという一抹の不安を抱えながら、イッセー先輩は呼び鈴を鳴らした。

少し間を空けて、インターフォンから反応がくる。

 

『開いてます。どうぞにょ』

 

と、野太い声が聞こえた。依頼主は男性か。

俺とイッセー先輩は同時に浮かんだ疑問を確認するために顔を見合わせた。

 

「今、「にょ」って言ったよな?」

「言いましたね」

「と、取り敢えず入るか」

「そ、そうですね」

 

ドアを開け、靴を玄関で脱いでから恐る恐る中を進む。

ガチャリと部屋の扉を開けた瞬間、俺たちは絶句した。

 

「いらっしゃいにょ」

 

圧倒的なまでの存在感がある巨体がそのにはあった。

鍛え抜かれた筋骨隆々な男が、ゴスロリ衣装を着て立っていた。

しかし、今にも服は破れそうに悲鳴を上げている。

何よりも頭部だ。ネコミミをつけている。

どちらともなく生唾を飲み込む音がした。頬に一筋の汗が流れる。

イッセー先輩に至っては小刻みに震えていた。

猫は、好きな方だ。けれど、この人を見ていると吐き気を催す。

いや、それは失礼なんだけどこれは仕方ないと思う。

 

「あ、あの………あ、悪魔を………グレモリーの眷属を召喚しましたか………?」

 

恐る恐る尋ねるイッセー先輩。相当勇気を振り絞ったのだろう。

声が途切れ、裏返っていた。

 

「そうだにょ。お願いがあって、悪魔さんを呼んだにょ」

 

………間違いであって欲しかったな。

それと語尾の「にょ」を何とかしてください。違和感ありまくりです!

 

「それは無理にょ」

「心を読むな!」

「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」

「「異世界にでも転移してください」」

 

無視されるのはもう慣れているので、俺たちは即答した。

 

「それはもう試したにょ」

「試したのかよっ!」

 

まあ、魔術や魔法。悪魔や堕天使がいるんだから出来てもおかしくない、かな?

結局、その後俺たちはミルたんと『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』を明け方まで視聴する羽目になった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

大きなあくびを一つする。

隣には菓子パンをパクパクと咀嚼している小猫が座っていた。

 

「ふぁっ……」

「今のでもう八回目だよ? 大丈夫?」

「大丈夫ではない、かな。もうスゲー寝みぃ」

「昼休みはまだあるし、少し寝る? 時間になったら起こすよ」

「お願いしようかな……」

 

芝生の上に寝転がろうと体を動かす。

しかし、小猫が自身の膝を「んっ」と叩いた。

 

「えっと、小猫さん?」

「地面だと固いから、こっちの方が気持ち良いと思うよ?」

 

頬を赤らめ、そっぽを向きながら小猫は言った。

俺は睡魔に負け、考えるのを放棄すると小猫の膝に頭を乗せた。

頭裏に伝わる柔らかい感触がより一層眠気を誘ってくる。

花のような匂いが鼻腔を擽り、意識が遠のいていく。

目を閉じる直前に見たのは微笑む小猫の顔だった。

 

 

 

規則正しい寝息が聞こえ、その発生源である望の顔を覗き込んだ。

相当疲れていたのだろう。しばらく起きることはないだろう。

ソッと望の頭を撫でる。撫でる度に望の顔が嬉しそうに微笑む。

それを見ていると自然と私の頬も緩んだ。

 

望は誰にでも優しい。女子たちの中で木場先輩の次に人気があるのも頷ける。

つまり、女たちに言い寄られることもあるわけで………。

望が他の女の子と話しているところを見ると胸がモヤモヤしてくる。

このモヤモヤした気持ちが何なのか私は知っている。

 

私は望のことが好きだ。

だから、他の女の子と話しているとモヤモヤする。他の女の子と笑っているところを見ると苛立ってしまう。

木場先輩との一騎打ちの後、流れで言ってしまったけど、それも友達としてと誤魔化してしまった。

何であの時誤魔化しちゃったんだろう、とため息を吐く。

まあ、焦ることはない。時間はまだあるんだから。

今は望の寝顔を堪能しよう。今だけは望を一人占め出来るから♪

 

 

それを遠くで見てニヤニヤとした笑顔を浮かべるのはオカルト研究部のみんなだった。

イッセーだけは目から血の涙を流し、羨ましそうに望を睨んでいる。

そんなことを知らぬまま、小猫は望の笑顔を堪能していた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

現在、俺はイッセー先輩と二度目の依頼主宅訪問をしている。

今日は何だか嫌な予感がしてイッセー先輩に着いて来た。

これが俺の思い過ごしであって欲しいものだ………。

そういえば先日、イッセー先輩たちははぐれ悪魔を狩りに行ったらしい。そこで眷属の特性、悪魔としての戦い方を見て、驚いたと言っていた。

自分の駒が兵士(ポーン)と知って落胆したとか。

でも、確か兵士(ポーン)はーーー

 

「と、ここみたいだ」

イッセー先輩の声に顔を上げる。

そこには普通の一軒家が立っていた。ということは家族持ちか。

いいよね、家族って言葉。何だか聞いて安心する。

頼んだのは一家の大黒柱を務める旦那さんかな。きっと毎日、家族を養うために馬車馬のように働いて疲れたんだろう。

そんな時にチラシが目に入ったのかな。

 

イッセー先輩が呼び鈴を鳴らそうとしたが、手を止めた。

玄関が開いている。

こんな深夜に開いているものだろうか?

不安が俺を襲う。嫌な予感が的中したらしい。

ゆっくりと戸を開け、中へと入る。

その時、微かだが風に乗って血の臭いがした(、、、、、、、)

顔を顰め、気配を探ると人の気配が感じられない。

いるべき人たちの気配が感じられない。

それが何を意味するのか、俺には解ってしまった。

 

靴を脱ごうとしていたイッセー先輩を止め、俺たちは土足で淡い光の漏れる一番奥の部屋へと向かう。

ゆっくりと慎重に近付いて行き、ドアからそろりとイッセー先輩が覗いた。

自身の抜けた声を出すが、返事がない。ーーー返ってくるわけがない。

 

中へと踏み込むと、そこはリビングだった。

何の変哲もない至って普通のリビング。

ゆっくりと周りを見渡し、ある一点で俺たちは目を釘付けにした。

リビングの壁に死体が貼り付けられていた。上下逆さまの逆十字の状態で。

切り刻まれた体からは臓物らしきものが溢れ、見るも無残な姿だ。

 

その光景に俺は歯嚙みした。

イッセー先輩は耐え切れずに胃の内容物を吐き出した。

当たり前だ。俺は慣れているから平気だが、イッセー先輩は別だ。

つい最近一般人から悪魔にクラスチェンジしてもその考え方はまだ人間寄りだ。

人の死を目の前にしてこうなるのは仕方がないと言える。

 

問題は殺した犯人だ。

死体は壁に貼り付けられている。それも釘で。

両の掌、足、胴体の中心を貫いて壁に刺さっている。

普通を通り越して異常だ。

普通の神経ではこんなことは出来ない。

 

口元を拭いながら何かを見つけたイッセー先輩。

それは壁に血で書かれた文字。

 

「な、なんだよ、これ………」

「『悪いことする人はおしおきよー』って、聖なるお方の言葉を借りたのさ」

 

後ろから声が聞こえ、身構える。

振り向くと白髪の男が立っていた。その装いは神父。

神父はイッセー先輩を見て、ニンマリと笑った。

 

「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」

 

神父は嬉しそうに歌い出す。

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。これから君殺すけどいいよね? え? 答えは聞いてないけどね!」

「おまえなのか? この人を殺したのは」

「イエース。俺が殺ってやりましたよー。悪魔を呼び出す常習犯みたいだし殺しても何の問題もナッシング!」

 

その言葉に目を鋭くする。

フリード・セルゼン。一言でこいつの全てを言い表わせるなら。

ーーー狂っている。ただ、この一言に尽きる。

それだけの理由で人を殺す? ふざけるのもいい加減にしやがれ。

そんなのは取ってつけた理由だろ。お前は自分の悦楽のために殺したんだろうが。

 

「それじゃあパパァとお片付けしましょうか! 隣にいるのは人間みたいだけど悪魔と連んでるってことはイケナイ奴ってことだよね! 二人仲良く殺してあげるから許してねん!」

 

フリードは懐から柄と拳銃を取り出す。

空気を振動させ、柄から光の剣が作り出された。

ヤバイ。イッセー先輩が喰らったら一溜まりもないぞ!

フリードが駆け出し、光の刀身が俺たちを断とうと横薙ぎに振るわれた。

イッセー先輩の襟を掴み、後ろに跳ぶ。

干将を投影し、既に撃たれていた光の弾丸を切り裂いた。

だが、放たれた銃弾は二つ。一つは潰したがもう一発はイッセー先輩の足に当たってしまった。

呻き声を上げ、その場に膝をつくイッセー先輩。

イッセー先輩を背に隠すように一歩前に出る。

 

「チッ! テメェもただの一般人じゃないってことかよ! ああクソ! さっさと死んでくれよ! 死んでくれなきゃ満足出来ねぇだろうがよ! 早く死ね! 今すぐ死ね! 俺の悦楽のためにぃ!」

「やめてください!」

 

フリードが引き金に手を掛けた瞬間、女性の声が聞こえた。

警戒しながら声の聞こえた方を見ると金髪を揺らすシスターがいた。

 

「アーシア」

 

どうやらイッセー先輩の知り合いらしい。

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。結界は貼り終わったのかなかな?」

「! い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

壁に打ち付けられた遺体を見て、シスターは悲鳴をあげた。

 

「かわいい悲鳴を有難うございます! 過激的な死体を見るのは初めてかな? 良かったね! ドキドキな初体験になったね! この人が死んだのは悪魔を呼び出してたダメな人間だったからだよー」

「そ、そんな………」

 

ふいにシスターの視線がこちらを向く。イッセー先輩を見て、目を見開いて驚くシスター。

 

「………フリード神父………その人は……」

「人? 違う違う。こいつはクソ悪魔くんだよ。面白いジョークを言うねアーシアちゃんは」

 

その答えにシスターは顔を歪めた。

ショックを受けたように見えるのは気のせいではない。

対するイッセー先輩の表情も沈んだものだ。

再び引き金を引こうとして、固まる。

何故ならシスターが俺たちを庇うように立ったから。

 

「………何をしてるのかなかな? 賢い僕ちゃんイマイチ理解できないなー。説明頼める?」

「お願いします。この方ちちを見逃してください。もう嫌なんです………。悪魔に魅入られたからといって、人間を裁いたり、悪魔を殺したりするのは。そんなのは間違ってます!」

「はぁぁぁあああああああああっ⁉︎ バカこいてんじゃねぇよ、クソアマが!」

 

シスターの言葉に激昂するフリード。

俺はシスターの言葉を聞いて、身を固くした。

この人は優しすぎる。悪魔にもその優しさを与える、そんな人だ。

俺が固まっている間に拳銃でシスターは殴り飛ばされていた。

 

「アーシア!」

 

シスターに駆け寄り、心配するイッセー先輩。

今のはイラッとしちゃったなぁ………。

二人を庇うように前に立つと、俺はフリードを睨みつけた。

 

「僕ちゃん虫の居所が悪いからさぁー。さっさと悪魔殺してぇー、君を殺してー、アーシアちゃんを調教しなきゃいけないんだよねん。だからさっさと殺されてくれませんかね!」

「断るよ。お前みたいな奴に殺されるほど弱くはないんでね」

 

放たれた銃弾を切り飛ばしながら、言う。

接近しようとフリードが足に力を入れる。

その時、床が青白く光った。ーーー魔法陣だ。

光り輝く魔法陣から現れたのはグレモリー眷属のみなさん。

イッセー先輩の危機を察知し、ここまで転移()んで来たのだろう。

 

「私のかわいい下僕を可愛がってくれたみたいね? はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)さん」

「そうざんすよぉ。でもでも〜そこの人間くんが邪魔してくれちゃったせぇで殺り損ねちゃいましたよん」

 

転瞬、リビングの一部が消し飛んだ。

リアス先輩だ。空気を凍えさせるような迫力を醸し出している。

殺気がリビングを包み込んでいく。

イッセー先輩とシスターの顔が青ざめていた。

 

「! 部長、この家に堕天使が複数近付いていますわ」

 

姫島先輩の言葉で、外に意識を向ける。

確かにここに近付く堕天使の気配がする。それも三つ。

二つはドーナシークとカラワーナ。もう一つは初めて感じる気配だ。

これでハッキリした。この町に潜んでいる堕天使は四人。

レイナーレを含めた四人でこの町に潜伏している。

 

「イッセーを回収しだい、すぐに帰還するわ。ジャンプの用意を」

「部長! あの子も一緒に!」

「無理よ。魔法陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔法陣は私の眷属しかジャンプできないわ。つまりーーー」

「俺も、ってことですか」

「そんな! 望、アーシア!」

「イッセーさん。また、また会いましょう」

「させるとお思いですかね!」

 

リアス先輩に飛びかかるフリードの前に立ち、強化した拳を鳩尾のぶち込んでやる。

「ごはっ⁉︎」と、息を吐き出しながら壁にぶつかるとズリズリと体を落とした。打ち所が良かったのか気絶したらしい。

さて、俺も帰る用意をしますかね。

 

「イッセー先輩。さっさと行っちゃってください」

「望! でも、お前とアーシアが!」

「それなら俺がアーシアさんを連れて行きますから安心していいですよ。リアス先輩、場所は部室ですか?」

「そうよ」

「オーケー分かりました。俺たちもすぐに向かいますね」

「本当に大丈夫なのかよ⁉︎」

「少なくともイッセー先輩よりは大丈夫ですよ。いいから行け」

 

しっしっと手を払いながら言うと、そのまま姫島先輩が転移を発動し、イッセー先輩たちは部室へと飛んだ。

飛ぶ直前、小猫が口パクで「待ってる」と言っていた。

これはすぐに行かなきゃな。

 

「シスター。えっと、アーシアさんだったかな? これからイッセー先輩のところに行きますけどご一緒します?」

「私が行っても、いいのでしょうか?」

「行っていいとか言ったらダメとかじゃないです。アーシアさんはどうしたいんですか?」

「ーーー行きたいです。私をイッセーさんのところへ連れて行ってください!」

「承りました」

 

俺はアーシアさんを背負うと、《捉えられない不可視(インビジヴィリティキャプチャー)》に身を包む。

それにより俺とアーシアさんの姿は消え、周りから見えなくなる。

アーシアさんに気配遮断の魔術を掛け、俺にも掛けると息を押し殺しながら部室へと急いだ。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

あの後、無事に部室へと辿り着いた俺とアーシアさん。

イッセーは安心したのか眠ってしまった。

リアス先輩は今日一日休みを取らせることにし、アーシアさんも側にいるように言った。

少なくとも部室から出なければ安心、かな。

 

堕天使の狙いも解った。

イッセー先輩のふくらはぎを撃った銃創をアーシアさんは治療してみせた。

本来、シスターなどの修道女、教会関係者は神の祝福を受けた者にしか治癒を施すことができない。

しかし、アーシアさんはそれができる。

彼女の神器(セイクリッド・ギア)、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の能力だ。

狙いは『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』だ。

でも、それだとアーシアさんはーーー

 

そこまで考えて、後悔する。

だんだんと手に力が入っていき、あの時の光景がフラッシュバックしてくる。

深呼吸を数回して、なんとか落ち着かせる。

今、俺がいるのは教室。

このままだったら周りのみんなに迷惑をかけてしまうところだった。

 

ふと、自身の右手に温もりを感じた。

見ると、小猫が俺の右手に手を重ねていた。

 

「小猫?」

「大丈夫だよ。私たちがいるから」

「ーーーうん」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

パンッ!

 

頬を叩く音が部室に響いた。

リアス先輩がイッセー先輩に平手打ちをした。

その光景を少し離れたところで壁に寄りかかりながら見ている。

 

「何度言ったらわかるの? ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ」

 

イッセー先輩はアーシアさんに友達として楽しんで欲しくて、部室を離れ町へと繰り出したそうだ。

そこに運悪く堕天使レイナーレがやってきて、アーシアさんはイッセー先輩を助けるために自ら歩み寄ったらしい。

 

………辛い、ってもんじゃないよな。

目の前にいて、助けることが出来なかったのだから。

俺は助けられなかった。今まで、何度も何度も目の前にいるのに助けられなかったんだ。

それが辛くて悲しくて、自分の無力さに苛立って。

そんな思い、イッセー先輩にはして欲しくないなぁ………。

 

「なら、俺一人で行きます。アーシアをこのままにはしておけません」

「あなたは本当にバカなの? 行けば確実に殺されるわ。死んでしまったら生き返ることはできないのよ?」

「それでも俺はアーシアを助けに行きます」

「あなたのその行動が他の部員にも多大な影響を及ぼすのよ! あなたはグレモリー眷属の悪魔なの! それを自覚しなさい」

「だったら俺を眷属から外してください。それでもダメなら俺をはぐれにしてください」

「そんなことできるわけないでしょう!」

 

両者、互いに一歩も引く気はない。

リアス先輩は口ではああ言ってるけど本心は違うんだろう。

その証拠に姫島先輩がそそくさとリアス先輩に近付き、耳打ちする。

聴覚を強化させ、耳を澄ますと、

 

「部長。教会に潜んでいる堕天使三人を私の使い魔が見つけましたわ」

 

リアス先輩はそれを聞くと小さく頷き、

 

「大事な用事ができたわ。私と朱乃はこれから少し外に出るわ」

 

イッセー先輩が呼び止めようと口を開けるが、部長が遮った。

『プロモーション』と神器(セイクリッド・ギア)は想いに応えてくれる、と言い残してその場からジャンプして行った。

 

大きく息を吐いて、戸を開けようとしたイッセー先輩を木場先輩が呼び止めた。

 

「行くのかい?」

「ああ、行く」

「殺されるよ?」

「それでも、だ。たとえ死んでもアーシアだけは逃がしてみせる」

「いい覚悟だね。ーーーでも、やっぱり無謀だ」

「だったら、どうすりゃいいんだよ!」

 

怒鳴るイッセー先輩に木場先輩はハッキリと言った。

 

「僕も行くよ。君は僕たちの仲間だ。だからその手助けをする。それに個人的に堕天使や神父は好きじゃない。憎いほどにね」

 

その時の木場先輩の表情はみんなを救えなかった時の俺に似ていた気がした。

 

「私も行きます」

「小猫ちゃん?」

「………二人だけでは不安ですから」

 

どうやら小猫も行くらしい。

三人は互いに頷くと今度こそ部室を出て行こうとする。

そこに、今度は俺が割って入った。

 

「望。そこをどいてくれ」

「行けば死ぬよ。イッセー先輩は弱いから」

「知ってるさ。だからアーシアを助けられなかった。でも、俺はアーシアを見捨てることはできない」

「イッセー先輩が命を賭けてまで助ける必要が本当にあるんですか? アーシアさんとはつい先日会ったばかりなのに。それにアーシアさんは人間でイッセー先輩は悪魔だ。それにアーシアは教会関係者。互いに相容れぬ存在のはずだ」

「確かに俺とアーシアは相容れないかもしれない。でもな! 人間だとか悪魔とか関係ない! 俺はアーシア・アルジェントと友達になった。俺は友達としてアーシアを助けに行く!」

 

その答えに俺はクスリと小さく笑った。

それでこそイッセー先輩だよ。イッセー先輩にはあんな思いして欲しくないしな。

 

「うん。それじゃあ、行きましょうか」

「お前も、来てくれるのか?」

「ええ。俺はイッセー先輩より強いですし。人数も多い方がいいでしょう? それにーーー」

「それに?」

「………友達の友達は、俺の友達でもありますから」

 

恥ずかしさに頬を染めながら、俺はそっぽを向いた。

後ろから三人の笑い声が聞こえてくるが無視する。

 

「んじゃ、四人でいっちょ救出作戦といきますか! 待ってろ、アーシア!」

 

こうして俺たち四人の救出作戦が始まった。

 

 






次回、戦闘開始。
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