AKABAKO   作:万年レート1000

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結局週一投稿になってるなぁ。


冷たい表情

「ん……」

 

 寝具にわずかな違和感を感じ、リィンはゆっくりと意識を覚醒させていく。

 

 寝苦しい。

 いつもと違う、枕と布団。

 

 寝惚けた頭で此処はどこだろうと考える。

 

 確か、昨日は……そうだ、シズクの家に招かれて……夕食をご馳走になって……。

 

(ああ、そうだ)

(シズクの家に泊まったんだったわ)

 

 まだ眠い。いつもより大分早く起きてしまったようだ。

 

「んん……」

 

 寝やすい体勢を見つけるために、身体を動かし始める。

 

 薄く開いていた瞳を閉じて、寝返りをうつ。

 瞬間、むにりと何か柔らかいものが手に当たった。

 

「んぁ……」

「んー?」

 

 マシュマロのような、感触。

 しかし大きさは然程無く、手のひらに収まるサイズの何か。

 

 目をゆっくりと開く。

 

 目の前に、眠るシズクの顔があった。

 

「…………」

「……すー……すー……」

 

 ああ、そういえばと一緒のベッドで寝たことを思い出す。

 シズクの部屋には来客用の布団なんて無かったが、ベッドが大きめのサイズだったので二人並んで眠りに付いたのだ。

 

「…………えい」

「んぅ…………」

 

 リィンは先ほどから触れていたマシュマロのような何かの正体――シズクの貧相な胸を撫でるように揉んだ。

 

 シズクの口から、かすかにあえぎ声が漏れる。

 だが、このくらいの刺激では起きなさそうだ。

 

(こんな小さいのに柔らかいのよね……)

「んんー……」

「…………」

「ん…………んんぅ? …………」

 

 ふにふにと起こさないように気をつけながら指を動かしてたが、やがてシズクの表情に変化が出てきた。

 

 流石にそろそろやばいかな、と指を胸から離して……。

 

 つん、とボタンを押すようにシズクの胸に人差し指を埋めた。

 

「ひぁ……っ!」

「あっ」

 

 びくり、とシズクの身体が震える。

 

 やりすぎたか。

 つい興が乗ってしまってシズクの胸を弄り回してしまった。

 

「ごめんなさいねシズク、偶然触れたものだからつい……」

「んん……んー? ……」

「うん?」

 

 薄く、シズクの瞳が開く。

 

 しかしその目は何処か虚ろで、無機質。

 視界にリィンが入っている筈なのに、何も見ていないような――。

 

「…………シズク?」

「…………」

(このシズクの表情、何処かで見たような……)

 

 ああそうだ、ちょっと前に寝坊したシズクを迎えに行った時こんな表情をしていた……が、それじゃない。

 

 それよりも最近……というか昨日。

 

 地下室で迷子から救助された後、リビングでシズクがお風呂に入っている間に見たアルバムの中に居た、

 三歳の頃のシズクにそっくりだった。

 

(…………なんて、冷たい瞳……)

「ぅうー…………ば?」

 

 ぱちり、とシズクが海色の瞳を大きく開いた。

 

 ようやく意識が覚醒したのだろう。

 目を擦って、起きかけのぼやけた視界を拭いながら一言。

 

「うば……もう朝?」

「おはよう、もう朝の三時よ」

「まだ夜じゃんんんんん……」

 

 全く持ってその通りである。

 

 シズクは再び目を閉じて、寝返りをうちリィンに背を向けた。

 

 ちょっとおこ(・・)な様子である。

 まあ誰でも睡眠を邪魔されたらそうなるか。

 

(私ももっかい寝直さなきゃ……)

 

 明日は(時間的にもう今日だが)、またクエストに出る予定だ。

 寝不足で動きが悪くなってはいけない。

 

「…………」

 

 目を閉じて、開く。

 もう一度目を閉じて、また開きシズクの背中を見つめる。

 

「…………♪」

 

 体勢を変えて、ぽすりとシズクの背に頭を当てる。

 

 今度は、よく眠れそうだと思いながら。

 

 リィンの意識はどんどん薄れていった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 と。

 

 リィンとシズクが地味にイチャイチャしている頃。

 

 惑星リリーパには、雨が降っていた。

 

 雨と言っても、水ではない。

 砂漠の惑星であるリリーパでは、局所的なオアシス等を除いてそんなもの殆ど降らない。

 

 降っていたのは、剣の雨。

 

 ダークファルス【百合(リリィ)】の生成した、茜色の剣が空を埋め尽くしていた。

 

「きゃははははははははは!」「あははははははははは!」

 

 【双子(ダブル)】の哄笑が響く。

 

 降り注ぐ剣を手に付いた大口で喰らい散らしながら、曲線的な動きで左右から【百合】を挟み込むように走りぬく!

 

「うばっ」

 

 【百合】は挟み込みから逃れるように、空へ跳んだ。

 

 流石の【百合】も、あの大口に飲み込まれたらお陀仏だろう。

 

「逃がさないよぉ!」「逃がさないからねっ!」

「逃げないよ……!」

 

 呟いて、【百合】はまたもや剣を生成。

 ファルス・ダランに向けて、まるで道になるように剣を繋げた。

 

「まずは……分担!」

「!?」

 

 剣を足場にして、加速。

 一瞬にして【百合】は【双子・男(ファルス・ダラン)】の胴元へ飛び込んだ!

 

「っらぁ!」

「むぅ……!」

 

 ファルス・ダランの巨大な右腕と、【百合】の茜色の剣が交差する。

 

 単純な膂力なら、体躯のでかいファルス・ダランの方が上だろう。

 

 だがしかし、【双子】も【百合】も共にダークファルス。

 

 アークスがフォトンを扱い身体能力を増強させるように。

 

 ダークファルスも内に秘めたダーカー因子によって、その力を増強させる。

 

「うっばぁ!」

 

 【百合】の踏み込みと共に、地面が割れた。

 

 小さな体躯からは考えられない怪力である。

 尤も、ダークファルスとしては当然なのだが。

 

「わぁ!」

 

 ファルス・ダランの身体が、吹き飛んだ。

 

 岩壁に突っ込んだことで止まったが、もし壁が無かったら更に数mは飛んだであろう勢いだ。

 

「この……!」

「女の子は後!」

 

 フォローに来たファルス・ダリルを隔離するように、【百合】は手を振るう。

 

 瞬間。

 壁を作るように、数百数千にも及ぶ剣が縦横に展開された。

 

「わっ……! こんなもの……!」

「今の内に!」

 

 数秒稼げれば十分。

 岩壁にめり込んで動けずにいるダランに向かって、一目散に駆け抜ける――!

 

「きゃははははははは!」

「うばっ!?」

 

 だが、相手もダークファルス。

 一筋縄でいく相手の筈が無い。

 

 ファルス・ダリル(・・・・・・・・)の左手に付いた大口が、ぱっくりと開いて【百合】を覆った。

 

「――――っぁあああ!」

 

 身体を捻って、牙を剣で弾いて無理やり身体を口内から外に出す。

 

 間一髪で、食べられずに済んだ。

 でも、今のは……。

 

「あ、あたしの壁は……!?」

「ぼくはわたし」「わたしはぼく」

「ぼくがわたしから出てくるのは、何も不思議なことじゃない」

「わたしがぼくから出てくるのは、何も不思議なことじゃない」

「な……!」

 

 何言ってるのか良く分からん! と【百合】は考えるのをやめた。

 

 ようするに、元々同一存在だから合流も同化も分裂も自由自在なのだろう。

 

 分担は意味無い……か。

 

「じゃあとりあえず」

「ん?」「ん?」

 

 壁に使っていた数百数千の刃が、一斉に【双子】に向いた。

 

 折角出したのだから、再利用しないともったいないとばかりに。

 

「射出!」

「……!」「……!」

 

 茜色の剣が、再び降り注いだ。

 

 剣一本一本の威力は、決して【双子】にとって致命的になるものではない。

 

 だが、この数は――。

 

「もう! その剣は食べ飽きたってば!」「あんまり美味しくないしー!」

 

 口を前に出して、降り注ぐ剣をガツガツと食べ散かす。

 

 【双子】の能力では、防ぐ術がこれしかないのも辛い。

 剣を"複製"してぶつけようにも、おそらく無意味だ。

 

 "複製"したところで、"支配権"を即座に奪われて【百合】の戦力が増えるだけだろう。

 

 そんな確信が、【双子】にはあった。

 

やっぱし(・・・・)相性悪いかなっ」「予想通り(・・・・)勝ち目は薄いねっ」

「「でも!」」

「……!」

 

 棒立ちのまま剣を射出していた【百合】に向けて、

 ファルス・ダランの口からは不規則にバウンドするボールが、

 ファルス・ダリルの口からはホーミングする光の球がそれぞれ放たれた。

 

「こんなもの……!」

 

 射出を止め、【百合】は自身の前方に剣を盾の様に展開。

 二種のボールを受け止めた。

 

「全く勝ち目が無いわけじゃあ」「無いみたいだね」

「うっばぁ!」

 

 攻撃を完全に受け止めたことを確認してから、【百合】は盾の様に展開していた剣から二本手にとって駆け出した。

 

「いやぁ、ホント」「食べがいがあるね!」

 

 【双子】も、迎え撃つように蛇行しながら口を開き突撃した。

 

 剣と口が、交差する。

 

 数瞬の鍔迫り合いの後――勝ったのは【百合】だった。

 

 ファルス・ダランとファルス・ダリルの巨体が吹き飛ぶ。

 

「ふふん、やっぱ近接(こっち)の方が得意かな」

「へぶ!」「ぐへ!」

 

 吹っ飛んだ【双子】は、またも岩壁に叩きつけられた。

 

 明らかにファルス・ダランの方が深々と岩壁にめり込んでる辺り、【百合】の男嫌いが垣間見えるようだ。

 

「ふっ――!」

 

 駆ける。

 ファルス・ダラン目掛けて、剣を射出しながら。

 

「ぐぎゃぎゃっ!」

「これで……!」

 

 縫い付けるように、剣がファルス・ダランに突き刺さる。

 

 そしてその首を刈るように、【百合】は腕を振りかぶった。

 

「男の【双子】を殺せば、女の【双子】だけが残るはず――!」

「いや、そんなことないよ?」

「マジで!? って、後ろ!?」

 

 背後から聞こえた絶望的な事実に打ちひしがれながら、【百合】は振りかえる。

 

 大口を開けた、ファルス・ダリルがそこにいた。

 

「フォロー早すぎない!?」

「いただきますっ!」

 

 ばくん! と、【百合】は【双子】の口に覆われた。

 

 ここで飲み込めば、【双子】の勝ち。

 しかして【百合】もダークファルス。

 

 一筋縄でいかないのは、こちらも同じだ。

 

「もがっ!?」

「女の子に食べられるなんてご褒美だけど……! アプちゃんを残して死ねないんでね!」

 

 【双子】の口から、大量の剣が漏れ出した。

 【百合】の生成した剣である。流石の【双子】も許容量オーバーとばかりに口元を僅かに開き……、

 

 こじ開けられた口の隙間から、【百合】は飛び出した。

 

「ちぇ、惜しいなぁ」「もぐもぐ、ちぇー、もぐもぐ」

 

 大量の剣を頑張って咀嚼しながら、ファルス・ダリルはファルス・ダランを引きずり出した。

 

 ばりぼりとクッキーでも頬張っているような咀嚼音が何だかシュールである。

 

「このままじゃ、ジリ貧だね」「このままじゃ、ジリ貧かな」

「…………?」

「仕方ないね」「しょうがないね」

 

 【双子】は顔を見合って、笑う。

 愉しそうに、可笑しそうに、笑う。

 

「「それじゃ、いただきます」」

 

 そして、お互いにお互いを喰らった(・・・・・・・・・・・・)

 

「っ……!?」

 

 喰らい合って、溶け合って、交じり合う。

 

 二つで一つのダークファルス【双子】が、一つになっていく。

 

「「きゃははははははははははははっ!」」

 

 哄笑が、響く。

 

 さっきまで片手のみだった『大口』が、両手に。

 体躯も一回り大きくなって、グロテスクな装飾も幾分か増えた。

 

 『ファルス・ダランブル』。

 【双子】の合体形態であり、本気モードである。

 

「馬鹿な……合体した……!?」

「くすくす……ぼくはわたし、わたしはぼく。一つになっても不思議じゃないでしょ?」

「うばぁ……どうすればいいんだ……半分男で半分女とか……あたしは一体どうすれば……」

「…………」

 

 安定安心の【百合】だった。

 こいつがブレることとかあるのだろうか。

 

「まあ……半殺しでいいか」

 

 呟いて、構える。

 

 ダークファルス【双子】vsダークファルス【百合】。

 

 化け物同士の戦いは、まだ始まったばっかりである。

 

 




【百合】がレイドボス化したらプレイヤーの性別によって攻撃の激しさが変わるという前代未聞のボスに……。
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