前半シズク無双。
後半【百合】無双です。
「アタシと手合わせして貰おうじゃないか、なあ小娘共」
マリアの唐突な発言に、場の空気が固まった。
当然といえば当然だ。
あまりに突飛で不可解、しかも発言者が
これで固まらない空気など存在しないし、この状況で平然と手合わせに応じられる人間なんて、そんなの。
病的なほど空気が読めない常識知らずの無垢な少女か、
通常では有り得ないレベルの察しの良さを持たない限り、不可能に近いだろう。
うん、つまりはリィンとシズクのことだった。
「六芒均衡と手合わせ……!? え、いいんですか!?」
「うば、勿論お引き受けしますよ」
「えぇええええええええ?! ちょっわぷっ」
あっさりと承諾したシズクとリィンに何か言おうとしたサラの口を、マリアが塞いだ。
「んー! んー!」と言葉にならない抗議を叫ぶサラのことは無視して、会話は進む。
「いやー話が早くて助かるね。噂の戦技大会二位の実力を確かめてみたくてさぁ」
「うばば、あたしの能力知ってる癖にそういう遠回りなことしないでくださいよ」
「……うん?」
海色の瞳が、微かに光る。
「
にやり、と。
意地悪っぽくシズクは笑った。
ああ、『いつもの』かとリィンは目を細める。
「どういうことなの? シズク。いつものことだけど脈絡が無いように聞こえるのだけれど……」
「うばば、まあちょっと考えれば分かることよ」
さっき腹パンされたことを少しだけ根に持っているのか、皮肉気な口調で語りだす。
勿論、マリアの意図をちょっと考えれば分かるのはシズク一人だけである。
「まず、アークスじゃないサラさんと六芒均衡のマリアさんがこんな結界内で隠れてコソコソやってる時点で相当な厄介事を抱えていることは確定じゃん?」
「え? サラさんアークスじゃないの?」
「多分ね。だってほら、あんなにフォトンが
ほらって言われてもわかんないわよ、とリィンが文句を言おうとした瞬間、シズクがリィンの耳を塞いだ。
身長差があるため必死に背伸びしている様がとても可愛らしい。
「やっぱリィンは耳を塞いでて、聞いたら不味いことがあるかもだから」
「……わ、分かったわ」
素直に、リィンは自分の手で耳を塞いだ。
良く分からなくとも、こういう時のシズクには大人しく従うと決めているのだろう。
「で、その厄介事って間違いなくあれですよね。『アークスが敵』、何ですよね?」
「…………」
「いや、正確には『アークスの上層部が敵』……なんですか? まあどちらでも同じですけど……」
まあ尤も、さらに正確に言うならば『アークス上層部に根付いているダークファルスが敵』なんだろうけども。
それについてはカスラさんに口止めされているので、一先ずは言わないでおくことにした。
「兎も角、アークスが敵に回るというのなら……あたしが、何故か生まれた時から持っている――『マザーシップへのアクセス権』は大きな武器になる」
マザーシップへのアクセス権。
その言葉を言うとき、シズクの表情が若干曇った。
だって、その
シズクにとって、なるべく使いたくないものなのだ。
「当然察しの良さも使い道によっては便利だし、役に立てるでしょう……ただ、自分たちが行くような高難度地帯に連れて行けるかどうか分からない。最低限自衛くらいできないといくら特殊な能力があっても使い物にならない。だから、手合わせをして実力を計ろうとしたんですよね?」
「……成る程なぁ」
これは便利だ、とマリアは嬉しそうに呟いた。
1を話せば、10を理解してくれる。
常軌を逸した察し能力。
……しかし『察し能力』だと語感が悪いので、いい加減何か名前が欲しいところである。
「うば。やっぱし試してましたね……『手合わせしろ』としか言わなかったのわざとでしょ」
「あっはっは、いやそこは横着しただけさ」
「……さいですか」
言いながら、シズクは耳を塞いでジッと待っているリィンの肩を叩いた。
もういい加減、聞いたら不味いこと――というか、聞いて欲しくないことのくだりは終わっただろう。
「あ、話終わった?」
「うん、大体は」
ふぅ、と一つ小さなため息を吐く。
やっぱリィンが傍に居ると、落ち着く。
シリアスさんが何処かに飛んでいったのを感じるほどに。
「それでどうなったの? 手合わせ? 手合わせするの?」
「ウキウキしてるねぇリィン。……うん、するよ」
ホント、見た目美少女なのに中身小学生男子なお方である。
爛々と目を輝かせているリィンに、思わず破顔するシズクであった。
「マリアさん、聞いてた通りです。お手合わせ、お願いします」
「……それは、アタシたちに協力する気があるってことでいいのかい?」
「はい」
はっきりと、シズクは頷いた。
その選択がたとえ、使いたくない能力を使う道だとしても。
この能力が何なのか。
自分の正体は何なのか。
それを教えてもらうためには、サラたちが抱えている
協力なんて、惜しむわけが無い。
「……ん? 協力?」
「……あっ」
でもその前にとりあえず。
リィンに色々と説明するのが先のようだった。
*****
「んん……っ」
惑星リリーパ・採掘基地場跡付近の洞窟内。
ダークファルス【若人】は、蠢くダーカー達に囲まれながら凝り固まった身体を解すように伸びを一つした。
「はぁ……ようやく数が揃ったわね……全く、一晩もかかるなんて衰えたものだわ」
彼女の背後には、億を超える数の虫型ダーカー。
文字通り洞窟を埋め尽くす数の尖兵が、出番はまだかまだかと猛っているようだった。
「しかしまあ、あの子我慢できなくなって結局邪魔しに来ると思ってたけど……来なかったわね」
折角洞窟内に綿密な即死トラップを仕掛けておいたのに無駄になったじゃない、などと愚痴りながら【若人】は洞窟の外に向けて歩き出す。
自分で仕掛けたダーカー式の罠たちをすり抜けて進むこと数分。
うっかり罠を踏んで即死――なんてことには流石にならず、無事洞窟の外へと【若人】は辿りついた。
その瞬間、目に入ってきた色は、『赤』と『黒』。
荒廃した機械と砂漠の惑星に似合わぬ、"血の色"。
「――は?」
「あー! アプちゃーん!」
大量の血とダーカー因子によって、まるで地獄のような有様に変貌した一帯。
その中心に、【
無数の剣が突き刺さったまま地に伏しているファルス・ダランブルと共に。
「り、【百合】……? 何? 【
「うば! いやさー、喧嘩売られちゃってさー、参った参った」
返り血と自分の血で塗れている所為で前が見えにくいのか、ごしごしと目元を擦りながら【百合】は【若人】へと歩み寄る。
歳相応の、可愛らしい笑顔も。
怪我の所為かヒョコヒョコとたどたどしく歩み寄ってくる様も。
はっきり言って、狂気しか感じない。
ダークファルスである【若人】ですら、冷や汗を掻くほどに。
「まあ勝ったけどね!」
「そ、そう……それにしても、どうしてあの双子は貴方に喧嘩なんて……」
「さあ? 何か用事があるみたいだったけど……ほら、あの子たちって片方男でしょう?」
振り返って、死体のように動かないファルス・ダランブルを見る。
心底、どうでもいいものを見るかのような口調で、【百合】は呟いた。
「それはもう、あたしに喧嘩売ってるようなものじゃん?」
「…………」
『【若人】のアタシが言うのも何だけど、最近の若い子が考えることは分からないわね』、と。
いつものセリフを言いかけて、【若人】は口を噤んだ。
これは違う。
若いとか若くないとかじゃない。
もっと根本的なところで、この子は他と違うのだ。
「……ダークファルスのあたしが言うのも何だけど……あんた、相当狂ってるわね」
「うば?」
可愛らしく、【百合】は小首を傾げた。
ここまで癒されない"小首を傾げた"も珍しい……。
「――――ふふふ」
「っ」
と、その時。
【双子】の笑う声が、二人の耳に届いた。
まだ生きていたのか、と思うかもしれないが、ダークファルスは基本的に不老不死。
封印でもされない限り、いくらダメージを与えてもその内回復するのだ。
「何? まだやる気?」
「……いやいや、認めるよ――ぼくの、負けだ」
「『ぼく』ってことは合体したけど喋ってるのは男の方だよね?」
「えっ」
【百合】の手に、茜色の剣が一本生成された。
それを上空に掲げ、同じ形をした無数の剣を展開。
何の躊躇いも無く、一斉にそれらを射出した。
「男が、あたしに話しかけるんじゃない」
「…………」
さらに突き刺さった剣が増えたことでハリネズミみたいになった【双子】に、流石の【若人】も哀れみの視線を向けた。
冷酷で残虐と名高いダークファルスという種族にも、同情心というものはあるらしい。
「あ、今アプちゃんに哀れまれたでしょ、いいなーいいなーもう一回一斉掃射ー」
さらにもう一度、無数の剣が【双子】に向けて発射された。
最早息絶え絶えで、ダークファルスの不死性のみによって生きている【双子】にそれを避ける術がある筈も無く。
ハリネズミ――というよりも剣山のような姿に変わり果てた【双子】の姿が、そこにはあった。
「ぐ……あ……」
「うばー、そういえばアプちゃん。アプちゃんが出てきたってことは準備できたの?」
「え、ええ」
もう【双子】から興味を失ったように――いや、初めから
【百合】は【若人】が頷くのを見るなり、待ちわびたとばかりにぱぁっと笑顔を見せた。
「お、いいねいいねー。じゃあ早速襲いにいこっか!」
ちょっとコンビニ行こうかみたいなノリで、【百合】は言う。
驚きの気軽さだ。
だが別にそこについてはもう今更何も言うまい。
倫理観がぶっ壊れているのはダークファルスの共通事項である。
「あんた……怪我は大丈夫なの?」
「うば、怪我なんてもう治ってるよ。これ全部返り血だね、心配してくれてありがと!」
「別に心配したわけじゃないわよ……むしろ残念だわ。これから戦闘なのに怪我で動けませんなんて言われたら置いて行こうと思ったのに」
「うばば、それは気をつけなきゃ……」
まあ見ての通り、大半の怪我は少し時間が経てば治るのだが。
流石にあれだけボコボコにされたら完治まで長そうだなぁ、と【百合】は【双子】の方を再び振り返った。
「え――」
そこには。
無数の剣に貫かれながらも。
体積の三分の一ほどを抉り取られながらも。
尚立ち上がり、笑う【双子】の姿があった。
「あはっ……あははははは!」
「……うばー、流石に驚いた。まだやる気なんだ……」
【若人】を庇うように、【百合】は前に出て構える。
ダークファルスにとどめを刺すというのは、難しい。
封印できればそれが楽なのだが、封印手段というのを生憎持っていないのだ。
(ならもう、四肢と頭をバラバラにするしかないか……)
猟奇的な思考が、【百合】の脳裏を掠める。
しかし【百合】が【双子】を仕留めようと動く前に、【若人】が口を開いた。
「【双子】、あんた一体なんのつもりなの? そんなになってまでこの子に執着する理由があるの?」
「…………ああ、いたんだ、【若人】」
今気づいた、とばかりに【双子】は【若人】の名を呼んだ。
ついでに、「何気安く名前呼んでんのよ」、と剣を振るいかけた【百合】の腕を止める。
こうしておかないと一向に会話が進みそうになかったので賢明な判断と言えよう。
「悪いけど、きみには関係ないよ……本懐を忘れた……きみ
「……?」
「【百合】、きみはつよいね……とってもつよい。だから、そんなつよいきみにごほうびをあげよう」
疑問符を浮かべる【若人】を無視して、【双子】は【百合】へと向き直る。
そしてその両腕についた――大口を開いた。
「……ぼくを、あげる」
瞬間。
『闇』の塊が二つ、交差しながら【双子】の手から【百合】へと飛んだ。
それは、ダークファルス【双子】そのもの。
【双子】の持つ力の、全て。
彼らは、自らの存在全てをその闇に込めて撃ち放ったのだ。
「いや、要らないわ」
そしてそれを、【百合】は打ち返した。
手に持った剣をバットのように振るい、打ち返した。
心底どうでもよさそうな顔で、打ち返した。
打ち、返した。
かっきーん、と。
「え?」
打ち返された闇の塊は、ライナーボールのような軌道を描き、【双子】に激突。
【双子】の力は、他の誰かに渡ることなくまたも【双子】の中へと戻っていった。
「え……え、……え?」
これには流石の【双子】も動揺を隠せない。
ドヤ顔で力を押し付けたと思ったら突き返されたとか、どういう反応をすればいいのか皆目検討もつかない。
「なん、で……」
「半分男のダーカー因子とか要らないわよ、いいから死んで」
辛辣な言葉と共に、【百合】は腕を振り下ろす。
それと同時に、幾万の刃が【双子】に降り注いだ。
「が……っ!?」
「さて、念のため両手足落として、首をもいどこうかな」
猟奇的な発言をしながら、【百合】は【双子】に近づいていく。
【若人】も、止める気は無いようだ。
彼女とてダークファルス、仲間意識なんて高尚なものがあるわけもなく――。
「……ちぇ、失敗かぁ……」
「……うば?」
ぽつりと呟いて、【双子】は飛び跳ねた。
まだ、そんな余力があったのか。
それとも最初から全力なんて出していなかったのか。
分からないが、兎も角。
「ばいばい」
空間跳躍。
ダークファルスの基本能力を使い、【双子】はその場から離脱した。
追いかけることは出来るが……まあそこまでする必要は無いだろう。
別に恨みとかは無いのだ。
ただ性別が男だから殺しにかかっただけなのである。
「うばー……逃げられたかぁ」
どうでもよさそうに呟いて、【百合】は剣を仕舞った。
手に持っていたものも、地面や壁に突き刺さったまま放置してあったものも、全て。
一瞬の内に、消し去った。
「……結局、何だったのかしら」
「……さて、ね。わかんないや」
言って、【百合】は眠たそうにあくびをした。
目を擦り、涙を拭く。
たったそれだけで、指が血塗れになってしまった。
ああ、そういえば今返り血でずぶ濡れなんだったか……。
「アプちゃんごめん、やっぱちょっと休憩してから襲撃でいい? 流石に眠いし血も洗い流したい……」
「……仕方ないわね……」
渋々と、【若人】は頷いた。
何だか良く分からなくて気持ち悪いやつだが、同じダークファルスである【双子】に圧勝するほどの実力者であることが分かったからだ。
この強さは、利用できる。
今回のことで、それが確信できた。
そのために採掘基地への襲撃は万全の状態で挑んでくれないとこっちが困るのだ。
「うばー、まずはオアシス行って、血を流したらアプちゃんの膝枕でちょっとお休みして――」
「膝枕はしないわよ」
「……アプちゃんの腕枕でお休みしてー」
「腕枕もしないわよ」
「…………アプちゃんの腹枕でお休みしてーそれでー」
「…………」
【若人】の身体を枕にすることは妥協できないらしい。
……まあそれでやる気を出してくれるならいいか、と【若人】はこれ以上ツッコミを入れなかった。
「アークスの男共を皆殺しにするぞー! おー!」
「……女は?」
「そこはまあケースバイケースで臨機応変に対応することを考慮しようかと」
「…………」
不安しかない返答に思わず頭を抱えながらも、【若人】は水場へと跳躍し、【百合】もまたそれに続くように跳んだ。
――ダークファルス【百合】というイレギャラーの所為で、些か時期が早まったが、兎も角。
ダークファルス【若人】による大規模襲撃。
『採掘基地防衛戦:襲撃』、間も無く開始である。
*****
そこは、名も無き惑星。
資源も無く、知性を持つ生物も居らず、住むにしても過酷な環境なのでアークスの手すら入って居ない無銘の星に。
ダークファルス【双子】は、立っていた。
身体に突き刺さっていた剣は、もう消えている。
しかしまだ傷は治っていないのか、その場から動く気配は無さそうだ。
「ふふふ……ははははは……!」
笑う。
可笑しそうに、笑う。
「う……げほっ! げほっ、はっ、ははは! 何て酷いザマだ……」
自嘲気味に呟いて、【双子】は戦闘形態を解除。
元のショタロリ人間形態に戻り、二人同時に仰向けになって地面に横たわった。
「はぁ……残念だったね、失敗しちゃった」
「そうだねー、失敗失敗。まさか力を打ち返してくるなんて思わなかったよ」
「ホントホント。
不穏な言葉を紡いで、【双子】は同時に目を閉じた。
何はともあれ、疲れている。
体力は激しく削られたし、傷だって痛くてしょうがない。
眠って、力を回復させるつもりなのだろう。
「……計画は失敗したし、これからどうしよっか?」
「……そうだねぇ、やっぱし諦めて最初の予定通りに動こうか」
「……うん、そうだね、そうしよう」
ゆっくりと、目を開けて。
二人は空に浮かぶ"白黒"の惑星を視界に入れた。
「「惑星ハルコタン」」
「楽しみだね、ぼく」
「楽しみだね、わたし」
「でもその前に傷を治さなきゃねー」
「でもその前に怪我を治さなきゃねー」
無銘の惑星に、子供の笑い声が響いた。
無邪気で、邪悪で、愉快で、醜悪な笑い声は。
【双子】の二人が眠りにつくまで続くのだった。
パティエンティアが【双子】に侵食されて次の【双子】になる展開とか考えたけど、尺取られすぎるから諦めました。
EP3開始時に、次の敵は【双子】と聞いたときまさかパティエンティアがダークファルス一の情報屋になるときが来たのかと思ったのは私だけじゃないはず。