AKABAKO   作:万年レート1000

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感想は喉から手が出る程欲しいけど感想クレクレ君にはなりたくない創作者のジレンマ。

多分大半の作者が共感出来る筈。


ブレイバー

「うーむ……」

 

 アークスシップ・ショップエリア。

 その片隅に目立たないがマイルームショップという店がある。

 

 文字通り、マイルームに設置する家具等を売っている店だ。

 

 どうしても戦闘関連が優先されるアークス業のあおりを受けて、こんな隅っこの目立たない所に配置されているが、品ぞろえは一流で利用客は意外と多い。

 

 そんな店の前で、ハンター向けの服であるネイバークォーツに身を包んだ青髪の少女――リィン・アークライトは顎に手を当てて唸った。

 

「買うべきか……買わざるべきか……買うならソファでいいか、ベッドにすべきか……」

「あれ? リィン?」

「へ?」

 

 聞き慣れない声で突然名前を呼ばれ、驚いて振り返る。

 

 背後に居たのは、二人組の女性アークスだった。

 

 一人は、エーデルゼリンという身体のラインがはっきりと分かる長袖と短パン、そしてハイニーソと絶対領域が特徴的な服を着た、角の生えたデューマンの少女。

 もう一人は、ジェンダーピラートというフリルのあしらわれた戦闘服を纏った赤髪ポニーテールで美人のヒューマン。

 

 デューマンの少女――『イオ』はリィンと同期の研修生だった少女だ。

 彼女はブレイバーという新設されたクラスを希望したため、アザナミという名前のアークスに師事する形での研修となっていたのであまり交流は無かったが、リィンにとって会話ができる数少ない知り合いである。

 

「あら、イオじゃない。久しぶり」

「久しぶりだな、元気にしてたか?」

「まあ、それなりにね。……ところでそっちの人は?」

 

 挨拶もそこそこに、リィンは視線をイオの隣にいるポニーテールの美人に向けた。

 

 改めて見ると、美人に加えてかなりのプロポーションの持ち主だ。

 イオのスタイルはシズクと同レベルなので、並んでいると年の離れた姉と妹のように見える。

 

「ああ、この人は『アザナミ』さん。オレにブレイバーのいろはを教えてくれた……まあ有り体に言えば師匠、かな?」

「会うのは初めてだねぇ、リィンちゃん。ブレイバーの指南役をやらせてもらっているアザナミだよ、よろしく」

「あ、よろしくお願いします。……私のことご存じなんですか?」

「まあね、今期の新米でブレイバーの素質がある子はチェックしてあるよー」

 

 ブレイバーの広報も担当しているからねぇ、とアザナミは陽気に笑う。

 

 ブレイバーというのは、ハンターやレンジャーのようなクラスの一つ。

 ただ新設されたばかりであり、まだまだ人口も少ないようだ。

 

「私にブレイバーの素質が?」

「お? 興味ある? じゃあちょっとブレイバーについて説明しちゃおっかなー」

「アザナミさん、この後『センパイ』の所に行くんじゃ……」

「まーまーちょっとだけ、ね」

 

 可愛らしくウィンクするアザナミに、イオは溜め息を吐きつつも了承した。

 基本的に上下関係はアザナミが上らしい。

 

「ああいや、時間が無いならまたの機会でも……」

「大丈夫大丈夫、パパっと説明しちゃうから興味が合ったら使ってみてね」

 

 気楽そうに言って、アザナミは懐から一本の武器を取り出した。

 

 カタナ。

 そう呼ばれるブレイバーの主武装の一つだ。

 

「ブレイバーっていうのは初の打撃射撃複合クラス! 近距離ではこの『カタナ』で敵をズバズバ切り裂いて、」

「遠距離ではこの『バレットボウ』で攻撃するんだ」

 

 そう言ってイオが取りだしたのは、アーチ状の基盤に弦を張ったような武器だ。

 『強弓』、あるいは『バレットボウ』と呼ばれるブレイバーのもう一つの武装。

 

「『カタナ』に、『バレットボウ』……」

「リィンちゃんにオススメしたいのはずばりカタナだね! ギアの効果発動はジャストガード依存だし、ジャストガードに成功したときに反撃もできるしね。ジャストガード、得意なんでしょう?」

「まあ、得意というか必然的に上手くなったというか……いえ、まだまだなんですけどね」

 

 ソロだった頃、戦闘不能が死に直結していたから必死に練習したのだ。

 今ではその技術がシズクを守るために役だっているのだから、練習して損は無かったと言える。

 

「またまた謙遜しちゃってー、ロックベアを無傷で倒した新米なんて今期では君たちだけだったよ」

「んー、まあそれは二人だったわけですし。火力出すのは相方に任せられたから防御に集中できたのも大きいんですよね」

(他の同期連中は四人前後でパーティ組んでるのが殆どなんだけどな……)

 

 イオが心の中でツッコむ。

 

 素直に褒められても素直に受け取れないところは変わっていないらしい。

 

(……まあでも、何処か明るくなったかな……?)

「まあ兎に角ブレイバー、一度試してみてよ。最近では有名どころのアークスにも使っている人はいるんだよー? このままじゃ流行に乗り遅れちゃうよー?」

「有名どころ? 『六芒均衡』とかですか?」

「え? ああいや、……んー、流石にあの辺はレベルが違い過ぎるから……他の有名どころというと……ほら、聞いたこと無い? チーム【銀楼の翼】所属の『サカモト』、【アイスコフィン】所属の『イヴ』とか」

「全然知りませんね」

 

 即答である。

 これには流石のアザナミもがっくりと肩を落とした。

 

 「ええ! そんなに有名な人もやっているならやってみようかなぁ」となるのを狙っていたのだろう、実際プレゼンの手法としては悪くないが、相手がその有名人を知らないなら効果半減以下である。

 

「そっかー、うーん……あ、ほら【ギブミーエクゼ】の……」

「そもそもそのチーム名すら聞いたことが……」

「ぐぬぬ……しょうがない、これはまだ確定情報じゃないから黙っておこうと思ってんだけど……」

 

 アザナミが、流石にこれは知っているだろう、と秘めておいたとっておきの有名人を口にする。

 

「チーム【大日霊貴】の……」

 

 瞬間――

 

「『ライトフロウ・アークライト』も、ブレイバーにクラス替えを予定しているそうだよ」

 

 ――リィンの表情に、曇りが表れた。

 

 アークライト。

 リィンと何かしら関係のある人物なのは、間違いないだろう。

 

「……ん? あれ? アークライトってことはもしかして……」

 

 アザナミが、口に出してようやく気付いたとばかりに言う。

 

「……血縁者、です。私の」

「へぇ! ということはあのライトフロウの妹ってことなんだね! 成程、それは才能があるわけ「アザナミさん」」

 

 アザナミのセリフを遮るように、リィンは言葉を発した。

 

 その表情は、暗い。

 

 まるで、思い出したくないことを、思い出してしまったかのように。

 

「すいません、ちょっと用事を思い出したので帰ります」

「え? あ、ああ……」

「ブレイバーの件は、少し考えさせてください。……それでは」

 

 ぺこり、と頭を下げてリィンはその場を後にした。

 

 マイルームショップの前には、イオとアザナミだけが取り残される。

 

「…………もしかして、わたし地雷踏んだ?」

「みたいだな、お姉さんにコンプレックスでもあるのか?」

「あー……優秀な姉を持つと妹は辛い、みたいなのかな? 悪い言い方しちゃったなぁ……」

 

 今度謝ろう、と言って二人も移動を始めるのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 ――――流石はライトフロウ嬢の妹だね。

 ――――妹さんは立派なお姉さんを持ててよかったわねえ。

 ――――テストで満点? 凄いわ、お姉さん譲りの優秀さね!

 

 

 ――――周りの言うことなんて気にしなくていいわよ。

 ――――お姉ちゃんは、アナタが頑張ってることを知っている。

 ――――私はずっと、アナタの味方よリィン。

 

「忘れろ、私」

 

 アークスシップ・女子寮。

 その廊下を、リィンは俯きながら歩いていた。

 

「忘れろ、忘れろ、忘れろ、今日は何も無かった。無かった、無かった」

 

 呪詛のように呟き続ける。

 

 自分に思い込ませるように。

 自分に言い聞かせるように。

 

「私に、姉なんていない」

 

 自分の部屋の前に立つ。

 

 今日は早いけど寝てしまおう。

 丁度良く、今日はシズクと話しあって休息日にした日だ。

 

 アークスにとって身体は資本。

 たまの休みくらい、昼間から寝てても誰も文句は言わないだろう。

 

 そう思い、扉を開いた。

 

 シズクがエプロン姿で台所に立っていた。

 

「……………………へ?」

「あ、おかえりー。お邪魔してるよー」

「……え? あれ? 何でいるの?」

 

 鍵は掛けていた筈である。

 ていうかルインに留守番させていた筈である。

 

「休みの日にすることが無いから遊びに来た!」

「あ、うん……って、どうやって入ったの?」

「え? 普通にルインちゃんに開けて貰ったけど」

「そ、そう……で、そのルインは何処に?」

「買い出しに行ったよ!」

「…………」

 

 あ、あのサポートパートナー主がいない部屋に他人を勝手に上がり込ませておいて、

 その客に留守番させて出かけやがったー!?

 

 空いた口が塞がらないとはまさにこのことである。

 そんなリィンの表情から察したのか、シズクは苦笑いをしながら申し訳なさそうに口を開く。

 

「……駄目だった?」

「え!? あ、いやシズクなら別にいいんだけど、通信の一つでも送ってくれればよかったのにって」

「あーそうだったね、今度から気を付けるよ」

 

 そう言って笑って、シズクは台所から出てベッドに腰掛けた。

 

 どうやら昼ごはんの支度が一区切りしたようだ。

 多分もう部屋主のリィンより台所周りの事情に詳しいのだろう、なんて思った。

 

(よく考えたらまだシズクと知り合って一週間くらいなのよね……順応性が高いというか懐に入り込むのが上手いというか……)

「あ、ところでさー」

 

 シズクにベッドを取られてしまったので、何処に座ろうかと悩んでいると(ていうかこう言う時のためにソファかベッドを買おうか迷っていたのだった、今思い出した)シズクが口を開いた。

 

「何かあった?」

「――っ」

 

 まるでテストの点数何点だった? みたいな軽い口調だ。

 

 けど、おそらく確信しているのだろう。

 

 察しているのだろう、何かがあったことを。

 

「んー、何か些細なことで昔あった嫌なことを思い出しちゃって忘れようと必死になっているような顔してたからさ、どうしたのかなって」

「……相変わらず鋭いわね」

「合ってた?」

 

 ほぼ百点満点だ。

 

 が、素直に認めるのも癪なのでリィンは「大体ね」と微笑んだ。

 

 大したことじゃない、と伝えようとした微笑みだったが、シズクは「ん」と両手を差し出した。

 

 ハグのポーズ、である。

 

「ふっふっふ、二人きりだから遠慮しなくていいぞよ」

「…………」

「さあカモンガール! あたしの平坦な胸で存分に癒されるが良いさ!」

 

 ドヤ顔で言い放つシズク。

 

 彼女なりの励ましだ、道化を演じることでツッコミを入れさせ、リィンの心の闇を少しでも晴らしてやろうという試みである。

 

 ――だが、色々と察しの良いシズクにも察せないことは幾つかある。

 

 例えば、過去の詳細。

 いくらなんでも昔あったことの詳しいことは分からない。

 

 例えば、細かい心情。

 簡単な喜怒哀楽と、それに付随する情報くらいしか流石に分からない。

 

 そして今回想定外だったのは――リィンの心の傷は、闇は。

 

 彼女にプライドを捨てさせるには充分な痛みだったということだ。

 

「そう、ね」

「え?」

「泣きはしないけど、胸は貸してもらうわ」

「…………え?」

 

 広げた両腕の中に入り込んで、リィンはシズクの平坦な胸に頭を押しつけた。

 

 シズクがベッドに座っているので身長差が凄いことになっているが、そこはリィンが床に膝を立てて座れば丁度良かった。

 

「え、ちょ、ちょっと」

「何よ、カモンって言ったじゃない」

「い、言ったけどまさか本当に来るとは思わなかったっていうかなんというか……」

 

 すん、と息をすればシズクの香りが胸一杯に広がった。

 まだ幼い、ミルクの様な香り。

 

(落ち着く……何だか今なら良く眠れそう)

 

 ゆっくりと背中に腕をまわして、目を閉じた。

 

 甘いミルクのような匂いと、顔面に感じる微かに柔らかい感触が心地よくて眠ってしまいそうだ。

 

 一方、シズクの頬は真っ赤に染まっていた。

 

 差し出した両手はリィンの背中に回すことも無く、行き場を求めて宙をさまよっている。

 

(あ、あれー? こういう初心なのはリィンの役回りじゃなかったのー?)

 

 心で自問自答するも、答えは出ない。

 そもそもシズク自身、リィンと違って愛だの恋だのを知識と知っているが経験は無いのだ。

 

 このままじゃ恥ずか死する、昼ごはんの準備があるからとか言ってどいて貰おう。

 

 そう決心して、シズクは自身の胸に顔を埋めるリィンに声をかけた。

 

「…………り、リィン?」

「…………」

 

 返事が無い。

 もう一度呼びかけてみるが、やはり返事は無い。

 

「……もしや」

 

 耳を傾けてみる。

 すると、微かに寝息が聞こえてきた。

 

 どうやら眠ってしまったようだ。

 器用な態勢で寝るなー、と感心したように呟いて、シズクはようやく緊張が解けたように両手をリィンの背に置いた。

 

「……ルインちゃんが帰ってきたらなんて説明しよう」

 

 リィンの両腕が腰をがっつりと拘束していて、動けないしほどけない。

 起こすのも忍びないので、しばらくはこのまま放置しておくしかないだろう。

 

 どうせなら寝顔の一つでも見てやろうと身体を捻るも、胸に顔を埋められている以上それは無理な話だった。

 

「この態勢じゃ寝顔見れないな……」

 

 諦めて倒れ込むように、ベッドに寝転がる。

 リィンがシズクにのしかかる形になったが、アークスであるシズクには女性一人分の体重くらい無いも同然である。

 

「ぁー……なんかあたしも眠くなってきた」

 

 リィンの青髪を梳くように撫でて、欠伸を一つ。

 重くなってきた目蓋は多少の抵抗などモノともせず、やがて完全に閉じ切った。

 

 かしゃり、とシャッターを鳴らしたような音が聞こえた気がしたが、それを気にするような気力はシズクにはもう残っておらず、ゆっくりと眠りに落ちて行くのであった。




今気付いたけど話数が2桁行ったのに男性が一回も出てきてないや(どうでもいい)
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