AKABAKO   作:万年レート1000

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GWが終わる前にもう一話くらい更新したいなぁ。


クレイジーサイコレズvsクレイジーサイコレズ

「別に倒しちゃっても構わないわよね?」

「…………」

 

 自信満々にそう言い放ったライトフロウ・アークライトとは対象的に、【百合】の表情は苦しそうだった。

 

 眉間に皺を寄せ、額に汗を掻きながら、

 不満そうに呟く。

 

「……やだなぁ……」

「ん?」

「貴方みたいな好みのおねーさんを殺すとか、気が乗らないんだけど」

 

 もう誰もがお察しだろうが、その表情はシリアスな理由から来るものではなかった。

 

 【若人】への反応から分かるとおり、彼女は年上趣味。

 さらに言えば強そうで表立った性格と本当の性格にギャップがありそうな金髪巨乳が好きなのだ。

 

 ライトフロウ・アークライトは金髪ではなく青髪だが、

 それ以外は彼女の好みにストライクだった。

 

「何それ、ダークファルスにも女性の好みとかあるの?」

「あるに決まってるじゃない。中身はどうあれこの身体も心も貴方たちアークスとそう変わらないんだから」

「へぇ、面白いわね……ちなみに貴方の好みはどんなのなの?」

「強そうな巨乳のお姉さん!」

 

 びしり、と。

 既に指が全て再生している右手でライトフロウを指差しながら【百合】は言い切った。

 

 回復力も高い。

 倒しきるのにどれだけ切ればいいのかと、少しだけライトフロウの表情が曇った。

 

「でも残念ながらねー、あたしにはもうアプちゃんっていう心に決めた結婚相手がいるから……」

「そう。ちなみに私の好みは貴方みたいな妹系のちっちゃな子よ」

「うばー、そっかー……じゃあ出会う順番が違ったら、もしかしてあたしたちは仲良くなれてたかもしれないね」

「ええ、そうね」

 

 同意するように頷きながら、ライトフロウはゆるりとカタナに手をかける。

 

 雑談は終わりだ。

 【百合】も同様に剣を両手に出現させた。

 

 仲良くなれたかもしれない?

 お笑い種だ。勿論本気で言っているわけがない。

 

 アークスとダークファルスが、仲良くなんてなれるわけないじゃないか。

 

「まずは、小手調べ!」

「!」

 

 五本。

 突如【百合】の背後に出現した剣が、弾丸のような速度でライトフロウを襲った!

 

「カンランキキョウ」

 

 そしてその全てが、一瞬で叩き落された。

 

 カンランキキョウ。

 一定範囲の全方位を一瞬で攻撃するフォトンアーツ。

 

 尤も、上下の判定はそこまで広くは無い――。

 が、それを加味しても範囲攻撃として優秀なPAである。

 

「うば、おねーさんやるねー」

「まだまだ、これからよ」

 

 瞬間、ライトフロウは【百合】の背後に回った。

 

 比喩ではなく、瞬間的に。

 

「グレン……テッセン!」

「うば!?」

 

 高速の居合い抜きで、背中を切りつける。

 しかしその斬撃は突如出現した茜色の剣に阻まれた。

 

 刃と刃がぶつかり合う音が、辺りに響く。

 

「びっくりした……おねーさん早いね」

「貴方こそ、大した反射神経だわ……」

「まあ、守りには自信があ――」

「サクラエンド」

 

 【百合】のセリフが終わる前に、高速の二連撃を放つ。

 

 不意打ち気味に放たれた交差する斬撃は、やはりと言うべきか【百合】の持った剣によって阻まれた。

 

 成る程、守りに自信があるというのは本当のようだ。

 

 反射神経があるから防御が上手く、

 素の防御力も高いから硬く、

 そして傷ついたとしても回復能力が高いからすぐ再生する。

 

 厄介すぎるだろ、コイツ。

 どれだけ生存に特化した能力をしてるのだ。

 

 無限に剣を生み出し操る能力なんて、このダークファルスにとってはおまけ。

 真の脅威は、この生存能力だとでもいうのか。

 

「おねーさんやるねー、ちょっと本気出しちゃおうかな」

「!」

 

 目晦ましのように投擲された両手の剣を、通常攻撃で弾く。

 

 その一瞬の隙を突き、【百合】は大きく後退した。

 マズイ、遠距離戦では不利だ。

 

「うっば!」

 

 さっきの倍。

 すなわち十本の剣を宙に出現させて撃ち放った。

 

「カンランキキョウ……!」

 

 それらも全て、叩き落す。

 何とか一撃で全て弾けたが、これ以上本数が増えたら厳しいかもしれない。

 

 そう考えるライトフロウの眼前に、さっきの三倍近い本数の剣が迫っていた。

 

「……! 『カタナコンバット』……『コンバットエスケープ』!」

 

 瞬間、ライトフロウは青い円形の霧に包まれた。

 

 ブレイバーのスキル、『カタナコンバット』及び『コンバットエスケープ』。

 詳しい説明は省くが、ようするに20秒間だけ反射速度・反応速度・攻撃速度が上昇し、

 

 相手の攻撃が当たらなくなるスキルである。

 

「うっばー!? 何それ当たり判定どうなってんの!?」

「ハトウリンドウ!」

 

 飛んで来る剣をすり抜けながら、ライトフロウは地を這う衝撃波を放った。

 

 当然のように両手の剣で防がれたが、今更この程度でダメージを与えられると思っていない。

 

(今のは牽制)

(この20秒で、大技を当てるには――)

「"変形(ヴァリアシオン)"」

 

 突如、ライトフロウの頭上に巨大な剣が出現した。

 

 サイズとしては、大体ダーク・ラグネくらいだろうか。

 

 そんな大きいのも作れるのか、と分析しながら無視して駆け出す。

 

 次の瞬間巨大な剣がライトフロウの身体を貫いたが、コンバットエスケープ中にダメージは受けない。

 今は兎に角、攻撃あるのみだ。

 

「うっわ、無敵モードとかずるくない? そういうのあり?」

「貴方のやつの方が、よっぽどずるいわよ」

 

 無敵モードはあと15秒。

 高い防御力によってほぼ常時無敵モードに言われたくないわ、と心の中でツッコミを入れながらライトフロウはカタナを振るう。

 

「サクラエンド!」

 

 ×字型の二連撃。

 しかしその剣閃は、空を切った。

 

 避けられたのか。

 牽制として放ったので、彼女の身体にダメージを与えられるような攻撃では無かったはずだが……。

 

「無敵モードとかさー、相手してられないよ全く」

「っ……!」

 

 上空から聞こえてきた声に、しまったと舌を打つ。

 

 【百合】は、紫の塔の上に居た。

 あそこまで跳躍したのだろうか、何にせよマズイ……!

 

「"変形"」

 

 べきばきぼき、と歪な音を鳴らしながら、

 【百合】は塔の上空に巨大な剣を出現させた。

 

 先ほどよりも大きい、塔と同じサイズの剣(・・・・・・・・・)

 

 あんなのが落ちてきたら、塔など一溜まりもないだろう。

 

「改めて……これで、二本目!」

 

 手を振り上げ、振り下ろす。

 その動作をキーに、巨大な剣は動作を開始した。

 

 巨大さに見合わぬ速度で、剣は塔の先端から両断するべく落下していく――!。

 

「ツキミサザンカ」

 

 と、その瞬間。

 【百合】が先ほど振り下ろした腕が、切り落とされた。

 

「は――?」

「…………コンバット――」

 

 気づけば、赤い円形の霧を纏ったライトフロウが傍にいた。

 

 ああ、塔を駆け上ってきたのかと理解したのも束の間。

 ライトフロウは、カタナを鞘に仕舞いながらカタナ最強のスキル発動を宣言した。

 

「――フィニッシュ!」

 

 キン、と。

 円形の衝撃波が、周囲に広がった。

 

 コンバットフィニッシュ。

 カタナコンバットを強制終了する代わりに、大ダメージの衝撃波を発生させるブレイバーのスキルだ。

 

 円形に広がった衝撃波は、見事に巨大な剣を真っ二つにへし折り、そして――。

 

 【百合】の上半身と下半身を、真っ二つに切断した。

 

「あ」

「…………」

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 悲痛な叫びを撒き散らしながら、【百合】は塔の上空から落下していく。

 

 眉間に皺を寄せて、口と切断面から赤い血を流して、その瞳に涙を浮かべて。

 

 落ちていく。

 

「がはっ! い゛、い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛だだだだだっいたい! 痛い! 痛い!」

「…………」

 

 あまりに痛々しい、普通の少女のような叫びに、思わずライトフロウは手を止めた。

 

 追撃をやめ、塔を伝い自分も地面に降りる。

 

 流石に、胴体を真っ二つに切り裂いたのだからもう戦えまい。

 生け捕りにすれば、ダークファルスの研究も進むだろうし。

 

 なんて、甘い考えを。

 一秒後、自身の腹に突き刺さった茜色の剣を見て静かに取り消した。

 

「――――……あ?」

「うっば、あ、い、あー……痛かった(・・・・)ぁ……」

 

 攻撃なんて無かった、と錯覚しかけるくらい普通に。

 

 普通に、【百合】は立っていた。

 切断された腕も、胴も、何事も無く。

 

 再生、したのだろう。

 今の一瞬で。

 

「なん――え、どれだけ化け物なの、貴方」

「ダークファルスだもの、これくらい当然よ」

 

 可愛らしい笑顔で、【百合】は笑う。

 

 その笑顔は、少なくとも自分の胴体を真っ二つに切り裂いた相手に向けるものではなかったし、

 仮にも敵対者である相手に向けるものではなかった。

 

 つまり、彼女は。

 身体を真っ二つにしたくらいじゃ、怒りもしないし気にもしない。

 

 アークスなんて、相手にしていないということなのだろう。

 

「…………ぐっ」

 

 腹に刺さった、剣を抜く。

 オートメイトハーフラインというスキルが発動し、ディメイトの消費と引き換えに傷は回復していくが……。

 

 今ので駄目だったという事実は、確実にライトフロウの精神を追い詰めていった。

 

「五分……まだ立たないの?」

『す、すいません……あと三分半です……』

 

 最早望みは援軍の六芒均衡のみ。

 あと三分半――既にカタナコンバットという切り札を使ってしまったライトフロウにとって、絶望的ともいえる数字。

 

 それでも、不可能とは言い切れない数字だった。

 

 そう。

 だった(・・・)

 

『あ!』

「……何?」

『こ、こちらに向かっている六芒均衡のお二人の前に、複数のダークビブラスが出現! 対処に五分ほどかかるとのことです……』

「……そう」

 

 悪いこととは重なるもので。

 人生と作戦は思い通りいかないもの。

 

 増援到着まで残り三分半が八分半になったことで、ライトフロウ一人で耐久することは不可能になった。

 

「ダークファルス、【百合】」

「うば? 何? 時間稼ぎならさせないよ?」

「そんなんじゃないわよ。ただ一つ訊かせて欲しいことがあるの」

 

 惜しい。

 会話で時間稼ぎしてやろうと思ったが、先に釘を刺されてしまった。

 

「……何?」

「……貴方ほどのダークファルスが、何故【若人(アプレンティス)】に与するの? 私の知る限りでは、ダークファルス同士が手を組むなんて有り得ない筈なんだけど」

「何だそんなことか……別に貴方たちアークスが知らないだけで、ダークファルス同士の交流くらい普通にあるんじゃない?」

 

 ぴん、と。

 【百合】はひとさし指を上に向けて伸ばし、曲げた。

 

 それに呼応して、戦闘開始から今まで、弾かれて地面に落ちていた剣が一斉に跳ね上がる。

 

「!」

「それであたしがアプちゃんに与する理由だけど……まあ一重に"愛"よね」

 

 四方八方に浮かび上がった剣は、ゆっくりと切っ先をライトフロウに向けていく。

 

 既に放った後の剣も、こうして操ることができるのか。

 思いがけずゲットした新情報に、ライトフロウは内心笑みを浮かべた。

 

「愛する人の願いを叶えてあげたいって思うのは、貴方たちアークスも同じことでしょう?」

「……ダークファルスが、愛を語るつもり?」

「……皆勘違いしてるのかなぁ、ダークファルスだから(・・・・・・・・・・)、愛を語るのよ」

 

 やれやれ、と後頭部を掻いて、

 【百合】は狂気染みた笑顔をライトフロウに向ける。

 

「だって、ヒトは愛するから悲しみ、愛するから憎しみ、愛するから妬むものでしょう?」

「…………」

 

 ヒトは、愛するから悲しみ、愛するから憎しみ、愛するから妬む。

 

 成る程それは確かにその通りで、実際愛ゆえに妹に嫌われている姉にとっては耳が痛い話だった。

 

「…………否定はしないわ」

 

 ライトフロウの答えに、【百合】は満足げに笑みを深めた。

 

 そして、手を振り上げる。

 セットした数多の剣を発射すべく、その手を。

 

 振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フドウクチナシ」

 

 高速の抜刀と共に、ドーム状の衝撃波がライトフロウの周囲を包んだ。

 

 まだ。

 まだ終われやしない。

 

 終わるわけにはいかない。

 

「グレン……!」

 

 衝撃波によって弾かれた剣と、まだ弾かれていない剣の隙間を縫うように駆ける。

 

 これが最後の足掻きだ。

 何も出来ずに棒立ちで死ぬなんて、アークライトの名折れでしかない。

 

「テッセン!」

「わっ」

 

 一閃。

 なぎ払うように放った剣閃は防がれてしまったが、それでも周囲を囲う剣からは脱出できた。

 

「まだ足掻くの!?」

「足掻くわよ、流石に首を斬れば死ぬでしょう? うっかり斬られないように、全力を出しなさい!」

 

 言った瞬間、ライトフロウの姿がかっ消えた。

 

 グレンテッセン。

 神速移動の後、一閃の斬撃を放つフォトンアーツ。

 

 それを連続で放つことによって、捕まらずに一方的に攻撃しようという算段である。

 

「速い……!」

 

 右から、左から、後ろから、前から。

 

 一撃入れては離脱し、別方向から切りつける。

 

 確実に急所を狙ってくる攻撃に、思わず【百合】の額に冷や汗が伝った。

 

「うっば、どっちから攻撃してくるかわかんねー!」

 

 勿論この戦法には限界がある。

 ライトフロウのPPが切れれば、そこで止まる。

 

 だけど、一瞬でも防御が遅れれば首を刈られるという恐怖心から、【百合】は――。

 

「これなら、どうだ!」

 

 全方位に、剣を盾のようにして出現させた。

 

 どの方向から、どの角度で攻撃しようともカタナを受け止められるように。

 

「さあ、どっからでもかかってこぉい!」

「…………」

 

 この時。

 【百合】の失敗は、二つ。

 

 一つは、ライトフロウ・アークライトがカタナしか持っていないと誤認(・・)したこと。

 一つは、剣を変形させて盾を作り、剣と剣の隙間を塞ぐことをしなかったこと。

 

 結果的に、【百合】がしたことは自身の視界を遮っただけ。

 

 【百合】の真後ろで。

 ライトフロウ・アークライトは静かにバレットボウの弦を引き絞った。

 

「――ラストネメシス」

 

 放たれたフォトンの矢は、展開された剣と剣の隙間を縫うように飛び、

 

 ダークファルス【百合】の首元を、確かに貫いた。




ちなみにライトフロウが最後に使ったバレットボウは、死去した【大日霊貴】メンバーの形見である天河一位というバレットボウだという裏設定があります。
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