なんか半端なシリアスが続きます。
「うばー、500匹って、思ったより少なかったね」
「シズクのレア掘りに付き合っていつもこれくらい狩ってるからね……ところでシズクはレア落ちた?」
「分かりきったこと聞かないでっ! いつも通りだよこんちくしょー!」
修行開始から、数時間後。
シズクとリィンは、小手調べにと出されたエネミー500匹討伐オーダーを余裕の表情でクリアしていた。
あまりにも日常的すぎて描写していないが、
シズクたちの生活パターンは朝起きて、レア掘りして、昼食べて、レア掘りして、晩御飯食べて、レア掘りする。
という端から見たら頭おかしいんじゃないかというスケジュールで働く日が週5であるのだ(残りの2日は休日)。
500匹とか、日常茶飯事でしかない。
ちなみに言うまでもないことだが、シズクにレアドロが落ちたことは一度も無い。
一度も、無い。
「まあ初回だし、加減してくれたんじゃない?」
「うばー、そうね。……ん?」
ふと気づく。
リィンから、不機嫌オーラが消えていた。
運動してすっきりしたのだろうか。
何にせよ、肩の荷が一つ降りてほっとするシズクであった。
「ん? どうかした? シズク」
「うば、い、いやリィンがようやく機嫌直ったなーって。朝すっごく機嫌悪そうにしてたじゃん、あれなんだったの?」
「あ、あー……えーっと」
困ったように、リィンは頬を掻く。
そういえば朝からイライラしていたのだが、戦っているうちに吹き飛んでしまったのだ。
やはり運動はストレス解消にぴったりだ、という感じのは今は置いておいて……。
不機嫌だった理由。
それは、今思うと間違いなく……。
(嫉妬、よねぇ……)
(…………言い辛っ)
漫画で出てきた、嫉妬深いキャラを思い出す。
敵キャラとして出てきたあのキャラは、醜かったし、理不尽だったし、あまり好きにはなれなかったキャラだ。
思い返せば、リィンも結構理不尽な理由で嫉妬していた気がするし、できるなら言いたくないなぁとリィンは結論付けた。
「……秘密よ」
「えー」
シズクが文句を垂れたが、スルー。
嫉妬深い女だなんて、思われたくないし。
(まあでもシズクのことだし、察してくれてるかもしれないけど)
「さてと、雑談もほどほどにして帰りましょうか」
「うばうば、そうだね、サラさんから次の――っと」
クエストも終了し、いざ帰ろうとした瞬間。
シズクの端末が、通話を受信し音を鳴らした。
「あ、ごめんリィン通話だ。帰還の準備進めといて」
「サラさんから?」
「いんや、同期の、ほら、アヨネちゃん」
誰だ。
と、リィンは心の中でツッコミつつも、声には出さずに帰還の準備を黙々と進め始めた。
同期の名前とか、シズクと【アナザースリー】の三人、あとは精々イオくらいしか知らないのである。
「もしもし? 今? 今クエスト中だけど帰るところ。うん、そう」
(いや、まあ、別に……)
右手を耳に当て、通話を始めたシズクを尻目に、リィンはテレパイプを取り出した。
別に、寂しくなんてない。
友達が少ないなんて昔からだし、シズクに友達が多いのは知ってたし。
(ああ、でも……家にお呼ばれされたのは私だけなんだっけ)
(……ふふ)
「えー? それほんとー? あはは、いやこっちはいつも通り」
「…………」
楽しげに笑うシズクを見て、リィンは微笑んだ。
と、いうよりもどちらかというとシズクの通話相手に向けてのドヤ顔に近かった。
(っと、座標設定座標設定……、キャンプシップの番号は……)
「うばー……いいなぁ、うん、今度見に行くよ。部屋番号は……あー、そうそう」
「…………」
ぴくり、とリィンの肩が震えた。
作業する手が自然と止まり、耳に神経が集中していく。
今度、見に行く?
「うっばっば、うん? いやそれは前も言ったけど無理。ごめんねー、あ、いや別にそういうことじゃない」
「…………」
「うん、うん……え? マジで? うん、大好き大好き。うばば、うん、じゃあまたねー」
「…………」
「っと、待たせてごめんねリィン。帰還の準備は――」
通話を切って、振り返る。
そこには悪鬼羅刹のようなオーラを滲み出しながら、無表情でシズクを睨むリィンの姿があった。
「……あ、あれ? 何でまた機嫌が悪くなってるの……?」
「…………別に、機嫌悪くなんてなってないわよ」
どう見ても不機嫌です本当にありがとうございました。
びっくりするくらい、分かりやすい。のに、分かり辛い。
矛盾しているのに、何処かしっくりくる表現なのは何故なのだろう。
「いやいやいや、どう見ても不機嫌じゃん……何? あたし何かしちゃった?」
「……それくらい察して頂戴よ」
「あ、あたしの能力にだって限界も制限もあるん――」
「でも、私は分かりやすいんでしょう?」
そうだ。
まだ、リィンは知らないのだった。
リィンの心を、リィンの気持ちを察することが。
もうシズクには、殆ど出来ないということを。
「……それなんだけど、そういえばリィンには話していなかったね」
「……?」
「確かに最初はリィンのこと分かりやすかったんだけど……最近は、その……」
「…………」
「全然、分からない。何でなのかも分からないけど、リィンのことを、最近は全然察せていないの」
リィンは、目を大きく見開いた。
自分の気持ちを、シズクが全然察することができなくなったから――ではない。
勿論それもショックだったが、それよりも何よりも。
また、隠し事。
しかも『リィンには話していなかった』ということは、他のヒトには話したことなのだろう。
「…………何なの?」
ぽつりと、リィンは呟く。
怒りに身体を震わせながら、瞳にこみ上げてくる熱いものを必死に堪えて。
「何なのよ! 何なのよシズク! どうして……どうして……!」
「うば!? わ、分かんないものはしょうがないでしょ!? だから教えてよ……! リィンの気持ちを――」
「それ、が……それが、言えるなら……」
そんなに素直に、自分の気持ちが言えるのなら苦労はしていない。
シズクみたいに、自分の考えを好きなように口に出せるのなら、今リィンはここに居ないだろう。
「――っ! シズクの……馬鹿っ!」
「はぁ!? ちょ、リィン!?」
衝動的に叫んで、リィンは駆け出した。
シズクから逃げるように、海岸の砂浜を全力の速度で駆け抜ける。
単純な足の速さでは、シズクは決してリィンには敵わない。
追いかけたところで無駄だし、そもそも追いかける気にもなれなかった。
「な、何なんだよもー!」
意味が分からないとばかりに憤慨して、シズクも怒ったように頬を膨らませた。
何でリィンが怒っているのかも、何で自分が馬鹿だなんて罵倒されなくちゃいけないのかも、全然分からない。
分からないから、腹が立つ。
理不尽に思えて、仕方が無い。
それは、ヒトならば当たり前の感情なのだ。
「……ふん!」
ぷんぷんと怒りながら、シズクはテレパイプを起動する。
何処かへ走り去っていくリィンの後ろ姿を一瞥した後、
シズクはリィンを置いてけぼりにして、アークスシップへの帰還を始めるのであった。
*****
「……はぁ」
ウォパルの海岸を、辛気臭い表情で歩く少女が一人。
リィンだ。
浮かない顔をしているのは、当然さっきのシズクとの喧嘩が原因である。
思えば、出会ってから今まで喧嘩なんてしたことがなかった。
というかリィンは誰かと喧嘩をするという経験自体に、乏しい。
故に、
(これで、おしまいなのかな)
(チームも解散して……フレンドも解除して……また私は一人になるのかな)
発想が極端になってしまう、リィンだった。
勿論、嫌だ。
シズクと離れるなんて、嫌に決まっている。
彼女の能力が、自分に通用しなくなったと聞いても彼女と離れようだなんて一欠片も思うことは無かった。
(でも、馬鹿、なんて言っちゃったし)
(シズクは悪くないのに、シズクが悪いみたいに……)
端から見れば、恋人でも彼女でも無いくせに本心を語れないから察しろとか言っちゃう面倒くさい女子である。
言葉にしなくても伝わることなんて、ほんの僅かなのに。
察して欲しいなんて、おこがましい。
それで察してくれないからって怒るなんて、理不尽もいいところだ。
(絶対、嫌われたよね……)
(勝手に不機嫌になって、勝手に怒って、勝手に逃げ出して……)
シズクに嫌われた。
そう考えた途端、リィンの目尻に、涙が込み上がってきて――。
「っ」
駄目だ。泣くな。
どんなに辛くても悲しくても、泣くのだけは許されない。
辛いからと泣くのは、弱い奴がすることだ。
強い奴は、辛くても歯を食いしばり、前に進まなくてはいけない。
そうやって自分に、言い聞かせる。
「……そうだよ」
ぴたりと、足を止める。
足を止めて、砂浜に浮かぶ自分の足跡を振り返る。
「前に、進まなきゃ。過去なんて振り返らずに、前に」
シズクともう、共に歩めないというのなら。
「そもそもシズクとはまだ会って数ヶ月くらいだし簡単に切り捨てられるよね」
数ヶ月。
シズクが手を差し伸べてくれてから、数ヶ月。
まだ、半年も経っていなかったのかと少し驚く。
まあそんなことはもうどうでもいい。
要らなくなったものを、捨てるように。
今自分の心で膨れ上がっているシズクへの様々な思いを、捨てる。
それは決して難しいことじゃない。
姉を嫌いになった時と同じだ。
「うん、大丈夫。問題ない、また一人に戻るだけ」
そう、戻るだけなのだ。
研修時代の頃に、一人だったあの頃に。
あの、頃に……。
……。
…………。
……………………。
「…………――無理」
呟く。
呟いて、走り出す。
「無理! 無理! 無理! そんなの、絶対に嫌だ!」
自分の足跡を辿るように、走る。
もうきっと、シズクはさっきの場所にはいないかもしれない。
それでも、走る。
通話をすればいいという発想に至ることもなく、ただ走る。
「――――――!」
「っ!?」
しかしその駆け足は、数歩で止まることになった。
大型生物特有の、咆哮が耳に刺さる。
思わず立ち止まり、咆哮が飛んで来た方角に視線を向けると、そこには――!
「シャァアアアアアアアアアアアア!」
「バル・ロドス!?」
大型の蛇のような鰻のような身体に、龍の頭を持った海王種がそこに居た。
バル・ロドス。
そう呼ばれる海王種の大型エネミーであり、普段ならこんな浅い階層には出てこないボスエネミーである。
「シズク、迎撃を――っ!」
無意識に呼んでしまった名前。
勿論返事なんてあるわけなく、リィンは自身の下唇を噛んだ。
一人でこんな大型エネミーと戦うなんて、いつぶりだろうか。
自然と眉間に皺が寄る。
焦りと不安で、頬に汗が伝う。
バル・ロドスがその鰐のような口を大きく開いた――瞬間。
「――邪魔だよ」
火炎の弾丸が、バル・ロドスの頭部を射抜いた。
強烈なフォトンが込められた一撃。
流石にそれ一発でバル・ロドスを倒しきれはしなかったが、それでも重大なダメージを負ったようで。
バル・ロドスの頭が、大きく揺れた後地面に倒れた。
粉々に砕けた外殻から覗く、グロテスクな肉が生々しい。
「この力……『リン』さ……!?」
こんな弩級のフォイエを撃てるアークスなど一人しか知らない。
なのでもしかしたら『リン』が助けてくれたのかな、と振り返るリィンの視界に。
知らない男が二人、こちらに向けて歩いてくるのが見えた。
端正な顔立ちをした、デューマンの少年と。
左目に刻まれたタトゥーが特徴的な、銀髪のニューマン。
「……どうかなテオドールくん、身体の調子は」
「まだまだですね……こんなんじゃ、全然物足りませんよルーサーさん」
「それは重畳、まだまだ
ルーサー、と呼ばれた男が、笑みを深くする。
この程度で満足してもらっては困るとでも言わんばかりの表情だ。
「……おや?」
「っ」
「ふむ……」
そして今気づいたかのように、ルーサーがリィンに目を向けた。
何かを思い出そうとしているのか、顎に指を当てている。
「……ああ、思い出した。君はリィン・アークライトだね?」
「えっ」
「? ルーサーさん、誰ですか?」
「ちょっと前に戦技大会という催し物があっただろう? 彼女はその大会で、並み居る強豪を差し置いて新米ながら二位の座を勝ち取った期待の新人だよ。実のところ、前から目を付けていたんだ」
そう言いながら、今度は品定めしているような視線でリィンを見る。
ねっとりと、絡みつくような視線に思わずリィンは顔をしかめた。
「ふむ。ポテンシャルは充分、実績もある……」
そして何より、姉へのコンプレックスから御しやすい。
リィンに聞こえないようにそう呟いて、ルーサーはねっとりとした笑みを浮かべた。
「な、何ですか、貴方たち……私は今急いでいて……」
「まあまあ待ちたまえよお嬢さん」
リィンの行き先を阻むように、ルーサーは手を広げる。
そして、ゆっくりとその手を、リィンに差し伸べた。
「リィン・アークライト。君がライトフロウ・アークライトを――姉を越えるほどの力が欲しいと望むなら、それを僕が与えてあげようか?」
おまけ:シズクとリィンの特に何も無い平日(幕間で済ましている日)の大まかなスケジュール。
06:00 シズク起床、朝ごはんを作る
07:00 リィン起床、ルインの作った朝ごはんを食べる
08:00 合流、朝のレア掘り開始(シズクにはレアは落ちない)
12:00 一旦帰還、昼ごはん
13:30 昼のレア掘り開始(シズクにレアは当然落ちない)
19:00 一旦帰還、晩御飯
20:00 腹ごなしに買い物とかアイテムラボとか
21:00 夜のレア掘り開始(シズクには以下略)
22:30 夜は疲れているので短めに帰還し解散
23:00 シズクは就寝。リィンはルインと駄弁ったり本を読んだり
24:00 リィン就寝
こんな毎日を送ってるのにレアが落ちないシズクのレアドロ運は何かの伏線の可能性が微レ存……?