龍族は強力な種族である。
剣を振るえばダーカーの甲殻など一閃にして切り捨てられる。
銃を撃てばダーカーの額など軽く貫ける。
杖を振るえばダーカーから受けた傷など一瞬で回復する。
だがしかし、アークスは龍族にダーカーの処理は任せろと言う。
理由は一つ。
ダーカーは、フォトンで倒さない限り死なないのだ。
龍族がダーカーを倒すと、細菌のように超小型化したダーカーは龍族の体内に入り込み、浸食を始める。
ダーカーの最も恐ろしい性質は、強さでも数でも無い、その浸食性。
アークス以外の全ての生物に寄生し、身体を乗っ取って暴走させる。
完全に消滅させるにはフォトンが扱えるアークスが倒す他ない。
だから、ダーカーの処理はアークスに任せるべきなのだが……。
自身達が最強だと信じて疑わない誇り高き種族――龍族は、何時まで経ってもアークスに任せることを是としないのであった。
*****
「ヴォル・ドラゴンを?」
「そそ、今日はそいつを倒そうかと思って」
惑星アムドゥスキア・火山洞窟。
もう慣れた足取りで、シズクとリィンの二人は燃え盛る溶岩地帯を歩いていた。
「ヴォル・ドラゴンを倒せるだけの実力があれば、『惑星リリーパ』の探索許可も降りると思うんだよね」
「まあ、そうね。でもヴォル・ドラゴンが何処に居るか分かるの?」
「ボスは奥地にいるのが基本でしょう?」
ヴォル・ドラゴン。
火山洞窟の王と呼ばれる巨大龍族。
その力は強大で、口から放たれる火炎は岩すら溶かし、地中のマグマすら自在に操る様は
まさに王と呼ばれるに相応しいボスエネミーだ。
「……ああ、それでさっきから奥に奥に進んでいるのね」
「キャタドランも結構奥地にいたじゃん? だからヴォル・ドラゴンはさらに奥かなって」
現在、二人は火山洞窟の最深部間近まで来ていた。
奥地に行けば行くほど龍族にとっても大事な場所なのか、出てくるエネミーは強くなっていったが倒せない程ではない。
「ぐるるぁ!」
「――ふ」
岩陰から不意打ちしてきた剣を持った龍族――シル・ディーニアンの攻撃をリィンは受け止め、そのまま数合斬り合った後スタンコンサイドで怯ませた。
そこをシズクがヘッドショットで仕留める。
このパターンが、今の所二人にできる最も効率的な討伐法だ。
まだ難易度の低い現状ではこれだけで大半の龍族は沈んでいった。
勿論龍族とて馬鹿ではない。
一人がリィンと斬り合い、その隙に射手であるシズクを狙う等賢い攻め方をする者も居たが、それも問題ない。
そもそも森林でのレア掘りで現段階にしては鍛えに鍛えていたシズクは、地力からして桁違いだ。
「レイジダンス!」
接近してきた龍族を剣モードに切り替えて仕留める。
射撃だけではなく、近接攻撃も出来るのがガンスラッシュの強みだ。
「……ん?」
「お」
ふと、気付くと二人は洞窟内としては非常に広い空間に辿りついていた。
入り組んだ通路のような形ではなく、まるで体育館のような広大な空間。
この時のシズク達が知る由もないが、龍族の間ではこう呼ばれている部屋だ。
その名も、『王の部屋』。
「広いね……でも広いのに、エネミーが一匹もいやしない」
「…………シズク、レーダーに巨大な敵影あり。来るよ」
「え? 来るって……何処から?」
「多分、下」
その瞬間、部屋の中央付近の地面が山のようにせり上がった。
硬い溶岩石で出来た地中を軽々と割って、その龍は悠々と姿を現していく。
鉄より硬いであろう頑強な鱗と甲殻はマグマによって朱く照らされ、
天を覆い隠さんと広がる翼は見る者に畏怖を与え、
そして何より物語に出てくる『龍』そのものな見た目は、王と呼ばれるに値する威圧感を発していた。
「ヴォル・ドラゴン……!」
「ほんっとーに奥に居たねえ」
それぞれの武器に手を掛ける。
奴も二人のアークスに気付いたようだ。
龍族にとって、アークスは基本的に見敵必殺。
完全に敵として認識されているのだ、ヴォル・ドラゴンにとっても二人を見逃す理由はない。
地面が――否、広場全体が揺れる程の大咆哮が辺り一面に響き渡る。
「戦闘準備万端って感じだわね」
「大丈夫! あたしたち二人に倒せない敵なんて無い!」
灼熱の火山洞窟で、少女二人と巨大な龍が向き合った。
戦闘行動、開始。
*****
今でこそベテランと呼ばれるほどになったアークスたちに、初めて壁を感じたのは何と戦ったときだった? という質問をすると、答えは大体三つに分かれる。
まず、スノウバンシーとスノウバンサー。
凍土と呼ばれるナベリウスの寒冷地域に生息する大型の獣型エネミー。
次に、クォーツ・ドラゴン。
惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリアで主に見かける流星のように綺麗なドラゴン。
そして、三つの中で最も多い答えがヴォル・ドラゴンだ。
実力こそ上記二体に及ばないものの、まだ武器やフォトンアーツが揃っていない新米の時に戦うというのが理由として大きいだろう。
実際、アークス上層部としてもヴォル・ドラゴンは一種の基準として考えているようである。
ロックベアは登竜門として優秀だが、それでも四人で殴れば新米でも倒すのは容易い。
しかしヴォル・ドラゴンは、雑魚アークスがいくら群れようと倒せない理由がある。
それが、これだ。
「――っ硬い!」
リィンが苦悶の表情で叫ぶ。
痺れる腕で必死にソードを握り、今度こそはと腕を振るうもフォトンの刃はヴォル・ドラゴンの甲殻にかすり傷を負わせるのみに終わった。
硬すぎる――少なくとも、今のリィンでは文字通り歯が立たない。
「エイミングショ――」
「[コロス!]」
ヴォル・ドラゴンの口から火炎が放射される。
銃剣を構えていたシズクは咄嗟に身体を横に転がし、それを紙一重でかわした。
もし直撃すれば、ただでは済まないだろう。
フォトンの防護があっても生きていられるかどうか……。
「駄目だー! 頭と背中にある角なら攻撃も通りそうなんだけど、あいつの正面に立つの怖い!」
「こっちも駄目……! 鱗に刃がまるで通らない」
転がった勢いのまま走り、シズクはリィンと合流した。
会話をしながらも互いにヴォル・ドラゴンから眼を離さない。
「くっ……やっぱ私が正面に立って囮になるしか……」
「危険すぎるよ! ジャストガードにも限界はあるでしょ!?」
「でもそれしか……っ!」
「[グルル……!]」
突如、二人のいる周辺に影ができた。
空を見上げると、そこには空高く飛ぶヴォル・ドラゴンの姿。
飛行からのボディプレスだ。だが、威力も範囲もロックベアのそれとは格が違う!
「くっ……!」
シズクの背を押し、リィンはソードを構える。
ジャストガードの構えだ。
タイミングを合わせ、一瞬生成できるフォトンの盾で攻撃を受け切る――!
「ぐっぅぅううううう!」
大きな衝撃が、リィンを襲う。
フォトンの盾でヴォル・ドラゴンのプレスは防いだものの、ヴォル・ドラゴンが地面に降り立った衝撃で地面が揺れ、マグマが噴き出る。
既にフォトンの盾は消えている。
常時展開しているフォトンの防護があるとはいえ、灼熱のマグマはリィンの身を焼いた。
「す、スタンコンサイド!」
歯を食いしばり、目の前にある自身より大きいヴォル・ドラゴンの顔面に剣の腹を叩き込んだ。
並の龍族なら一撃で目眩を起こすような強烈な一撃だ。
これでチャンスを作り、形勢の逆転を狙う。
――なんていう甘い考えは、即座に破られた。
「[オワリダ!]」
「――なっ!?」
ヴォル・ドラゴンは、目眩など起こしていなかった。
それどころか、怯みもしない。何事も無かったかのように、リィンを滅ぼさんと攻撃態勢に移っている。
これがヴォル・ドラゴンか。
これが地獄の王か。
(ジャストガード――間に合わ、ない!)
龍の角が、リィンの脇腹を貫いた。
辛うじて心臓を貫かれるのを回避できたのは、流石の反射神経と云うべきだろう。
ただ――致命傷という意味では何一つ変わらなかった。
「――――あがっ」
「リィン!」
悲痛な表情で叫ぶ。
突き上げられて宙を舞ったリィンの落下点に駆け寄ったが間に合わず、リィンは地面に叩き付けれた。
「待ってて、今ムーンアトマイザーを……」
「[シネ!]」
「っ!」
回復アイテムを使用しようとした瞬間、ヴォル・ドラゴンは二人に向かって火炎を吐いた。
急いでリィンの肩と膝を救いあげるように掴み、抱えて跳ぶ。
火炎が直線的な軌道でしか飛んでこないのがまだ救いだった、それなら避けることだけなら容易い。
「て、テレパイプ!」
携帯用のテレパイプを宙へと放る。
小型の代わりに、キャンプシップとしか繋げない簡易版のテレパイプだが、今はそれで充分すぎる程充分だ。
「[ニガサン!]」
ヴォル・ドラゴンが、地を駆けてシズクに迫る。
まるで巨大な岩山が突進してくるような威圧感だ。
速度はそこまでないが、掠っただけで身体を持って行かれそうである。
「いいや逃げるね!」
リィンを抱えながら、テレパイプにアクセス。
モニターに転送しますか? という表示が出たので、『はい』をタッチ。
その瞬間、シズクとリィンはその場から消え去った。
数瞬後に、その跡をヴォル・ドラゴンが通り過ぎる。
「[……フン、ニガシタカ]」
外敵が居なくなった空間で、火山洞窟の王は悔しそうに呟いた。
ああやって消え去ったアークスは追っても無駄なことを、この龍は良く分かっている。
アークスと戦うのは初めてではないのだろう。
こうなっては仕方が無い。
敵も居なくなったことだし腹ごしらえでもしようかとヴォル・ドラゴンは歩き始めた。
「[……ム?]」
ふと、気付くと黒い霧が火山洞窟の隅に沸いていた。
そこから数匹の蜘蛛のようなダーカーが現れ、果敢にもヴォル・ドラゴンへ挑み始める。
「[ダーカーカ……忌々シイゴミドモメ]」
一匹残さず、鏖殺してやる。
そう叫び、ヴォル・ドラゴンはダーカーの蹂躙を始めた。
その行動が、自身の首を絞めていることも知らずに。
初敗北。
次回、リベンジする力を付けるため、
彼女たちは全アークス共通の敵に挑むのであった。