AKABAKO   作:万年レート1000

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修行回なんて無かった。


修行終了なり

「シズク、リィン。今日でひとまずあんたたちの修行を見るのは終わりだ」

 

 一ヶ月。

 シズクとリィンがサラに師事を受け始めてから、一ヶ月が経過したある日。

 

 いつものように修行を見てもらおうとやってきた遺跡エリアの結界内で、突然マリアは二人にそう告げた。

 

「え?」

「うば?」

 

 あと一ヶ月は期間がある筈だったのに、と二人は驚いたように顔を見合わせる。

 

 当然修行期間が短くなってしまった理由はあるようで、マリアは二人の反応を待たずに言葉を続けていく。

 

「ちっと事情が変わっちまってね……あたしとサラ、ゼノは壊世区域に行くことになった」

「壊世……アルティメットクエストですか!?」

「ああ、あそこを放っておくと、とんでもないことになることが判明してな」

「とんでもないこと……?」

 

 リィンが首を傾げる。

 確かにあの区域は異常に異常を重ねたような超異常地帯だが、今まで実害らしき実害はあまりなかったはずだが……。

 

「アンガ・ファンダージって知ってるか?」

「うば、あの星13を落とすエネミーですね」

「その憶え方もどうかと思うが……まあその通り」

 

 星13のレア武器ドロップエネミー登場!? という見出しで書かれたレアドロ専門誌の記事を思い出しながら、シズクは答えてマリアは頷いた。

 アーレスシリーズという、シズクの父親でさえ持っていない極レア武器に心躍らせたものである。

 

「判明したっていうのは……そのアンガの正体だ。あれはダークファルスたちの餌らしい」

「…………餌?」

「うっば!? 餌!? え、それってかなりやばいじゃないですか!」

 

 まだ事の重大さが理解できていないリィンと、一瞬で事の重大さを理解したシズク。

 面白いように正反対な二人だなぁ、とマリアは思いながら、リィンのためにより詳細に言葉を足す。

 

「そう、餌ってことは……ダークファルスはアンガを喰らい、力を増幅させる。放置しておけばダークファルス共がどうしようもないくらい強化されちまうかもしれない」

「……あ!」

「だから、今アルティメットクエストが受注できるアークス全てに命令が下っているのさ。ダークファルスに喰われてしまう前に、アンガ・ファンダージを討伐しろってな」

 

 放っておけば、ただでさえ手が付けられないダークファルスがさらに強くなる。

 それこそ六芒均衡ですらどうにもならないくらいの強度になってしまったら、アークスは終わりだろう。

 

 なるほどそれはシズクとリィンの修行などやっている場合じゃない。

 

 今こうしてお話している時間も勿体無いくらいだ。

 

「通りでサラさんもゼノさんもここにいないんですね……二人とも壊世区域に行ってるのか」

「ああ、ゼノの修行はあっちでも出来るからな……でもお前らはそうはいかないだろ」

「うばー、あたしらはアルティメットクエストに行く許可下りてないからねぇ」

 

 マリアは言わずもがな許可されているとして、

 サラはそもそもアークスじゃないし、ゼノは死んだことになっている存在だ。許可などいるわけもない。

 

「ま、そういうことだ、半端な形になっちまって悪いな」

「いえいえ、何事にも優先事項ってものがありますからね、仕方ないです」

「物分りがよくて助かるよ」

 

 言って、マリアはほっとするようにため息を吐いた。

 シズクとリィンの修行は、自分から言い出したことだったので少し後ろめたさがあったのかもしれない。

 

 何はともあれ、一ヶ月。

 たった一ヶ月で、シズクとリィンの修行シーンは終了したのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 その後、マリアはすぐに去っていった。

 壊世区域に向かったのだろう。事情が事情だけに頑張ってほしいものである。

 

 でも別に直接会ってくれなくてもメールとかでよかったのになーっと思いながら、シズクは伸びをするように腕を伸ばす。

 やっぱり修行を提案したのに中断しなくちゃいけないという後ろめたさがあったのだろうか。

 

「うばー……さて、じゃあ今日は何をしよっかー」

「レアドロ掘り?」

「んー……」

 

 リィンの提案に、シズクは珍しく言葉に言いよどんだ。

 レアドロ掘りを提案されたというのにこういう反応は、中々無い。というか初めてだ。

 

「どしたの? 元気ないじゃない」

「いやなんというかさ? 修行するぞー! って気持ちでいたから変な虚無感がある……」

「あー……まあ気持ちは分からないでもないけど……」

 

 虚無感というか、脱力感か。

 辛く厳しい、などという言葉ではとても足りないほどの修行を一ヶ月とはいえ受け続けていたので、「今日も辛く厳しい修行の日々が始めるぞ(白目)!」という感じで意気込んで来たのに、唐突な中止で変に力が抜けてしまったのだろう。

 

「なんだか無性に甘いものが食べたい……パフェでも食べ行かない?」

「別にいいけど……今日はお休みにするってこと?」

「午後から頑張る」

 

 まあ、明日から頑張るじゃないだけマシなのだろうか。

 と、リィンは了承してテレパイプを取り出した。

 

 パイプを通って、キャンプシップへ。

 そしてキャンプシップからアークスシップへ。

 

 なんてことのない雑談をしながら、二人は帰還した。

 

 特訓のこと。

 スキルのこと。

 パフェを食べに行く店のこと。

 いっそ手作りでもいいかとか。

 この前おいしそうな店を見つけたとか。

 

 本当に些細な、ただの雑談をしながら二人は並んで歩く。

 

「あ、そういえばさ」

 

 だから、リィンがふと思いついたように口に出したこれも雑談だったのだろう。

 

 明日の天気を聞くような、気軽さで。

 今日の給食のメニューを尋ねるような手軽さで。

 

「なんで今になって、アンガ・ファンダージは……ダークファルスの餌は現れたのかな? ダークファルスって昔からいるんでしょ?」

 

 リィンの疑問に、シズクは答える。

 

 口が滑って、答えてしまった。

 

「多分、【深遠なる闇】が復活しそうなんじゃない?」

「え?」

「……あっ」

 

 いやはや、雑談のノリとは恐ろしいものである、なんて。

 シズクは言わなくてもいいことを言ってしまったのであった。

 

「しんえんなる……やみ? 何それ? 何処かで聞いたことあるような……」

「え、えーっと、あ、あはは……」

「シズク?」

 

 にこり、とリィンが笑う。

 全部話せ、と言いたげな笑顔である。

 

「…………まあ、いいか」

 

 話しても特に支障が出る話ではない。

 それに、あくまでシズクの推論だ。

 

「うばば、【深遠なる闇】っていうのはね、昔封印されたダークファルスの親玉だよ」

「ダークファルスの?」

 

 アークスシップのカフェに座りながら、シズクは言う。

 

 ダークファルスの親玉。

 【深遠なる闇】。

 

 何でシズクがそんなことを知っているのか、という疑問はさておき……。

 

「何それ、ダーカーの親玉じゃなくてダークファルスの親玉?」

「そうそう、ダーカーはダークファルスが生み出したわけだけど、ダークファルスは【深遠なる闇】に生み出されたってわけ」

「…………え?」

「つまり【深遠なる闇】は、ダークファルスたちのお母さんってことかな」

 

 平然と、シズクは言う。

 カフェにいる周りのアークスには聞こえないような声量で。

 

「……………………ええっと、理解が追いつかないのだけれど……それが復活したら宇宙はどうなっちゃう?」

「滅ぶね」

「で、今復活しそう?」

「うん、多分」

 

 リィンは、両手で顔を覆った。

 当然の反応である。平然としているシズクがこの場合おかしいのだ。

 

「何で……そんなに平然としてるの?」

「今回ばかりは能力関係なしの推測だからね。そんな可能性もあるよーって話だから」

「ああ、そうなの……ちなみにその推測ってどんなの?」

「ダークファルスを強化する餌、なんてものが今更現れるなんておかしいでしょ? 何で今? って」

 

 タッチパネルで注文を選びながら、シズクは言う。

 確かにそうだ。壊世区域にアンガ・ファンダージなんて埒外なものが、突然出現するなんてあり得るものではない。

 

 必ず何かきっかけがあったはずだ。

 

「それが……【深遠なる闇】の復活?」

「復活しそう、ね。復活してたら宇宙滅んでる筈だし」

 

 まあ、あくまで推測。

 能力も関係ない、証拠もない、それこそ本当に直感のようなものだ。

 

 ……それでもシズクが言うと、信憑性が高そうだから不思議である。

 

「……で、【深遠なる闇】って存在は何処で知ったの?」

「昔お母さんについて調べてるときにちょろっとね……」

「お母さんについて調べてるのにどうやったらそんな物騒な存在に行き着くのよ……」

「あー…………」

 

 イチゴチョコパフェをタッチしながら、シズクは天井を見上げた。

 しかし押し間違えて『ビターチョコパフェ青汁ソース付き』を頼んでしまったことに、シズクはまだ気付いていない。

 

「一時期ね、【深遠なる闇】があたしのお母さんじゃないかって考えてた時期があってね」

「無いわ。それは無い」

「そんな真顔で言わなくても……若気の至りだよ若気の至り」

 

 苦笑いをしながら、注文確定を押す。

 

 この後、届いた苦すぎるパフェを涙ながらに完食するシズクの姿があったとかなかったとか……。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「【深遠なる闇】は既に復活しているわ」

 

 壊世ナベリウスを歩きながら、サラは言う。

 

 場所が場所だけに、緊張の色は隠せないようだが、それでも気丈に振舞いながら。

 

「おいおい、おかしいんじゃねえか? それは。【深遠なる闇】程の存在が復活しておいてアークスが何も気付かないなんてことありえねえだろ」

「【深遠なる闇】なんかが復活したら流石に誰か気付くだろ」

 

 その言葉に、一緒に壊世を探索中のゼノとマリアが反論を返す。

 

 当然といえば当然だ。【深遠なる闇】はダークファルス以上にアークスの脅威となる存在。

 それこそシズクの言っていたように、復活したというのなら世界が滅んでいるはずなのだ。

 

「あたしだってそう思うわよ……でも少なくともシャオはそういう結論を出したようよ」

「イマイチ信じられねーな……そう言い切る根拠はあんのかよ」

「ダークファルス【百合(リリィ)】よ」

 

 三人の足が、止まった。

 二人の視線が視線が、サラに集まる。

 

「壊世区域は、あの白いダークファルスと出現時期が被っているわ。ダークファルス【百合】が【深遠なる闇】の『為りぞこない』だと考えれば、辻褄は合う」

 

 確かにそれならば、辻褄が合う。

 でも辻褄が合う『だけ』だ。証拠や根拠があるわけではない。

 

 証拠は不確かで。

 根拠は不明瞭で。

 謎は沢山沢山残っているけど。

 

 現状では、それしか考えられないのならそれが答えなのだろう。

 

「通常のダークファルスよりも強い理由にもなるしね……少なくとも無関係ではないと、あたしは思うわ」

「あー……つまり【百合】がアンガ・ファンダージを喰らい続ければ【深遠なる闇】が復活するってわけか?」

「その可能性は高いわね」

 

 ゼノの言葉に、サラは頷く。

 

 とんでもないことになったものである。

 【百合】がアンガ・ファンダージを喰らいまくることを止めなければ宇宙は終わる。

 また、シズクがルーサーかシャオと出会った時点で宇宙は終わる。

 

 宇宙、簡単に終わりすぎなんじゃないか。

 

「はぁ……馬鹿弟子共が」

「……?」

「な、何よマリア、突然……」

 

「終わらせないために、あたしらアークスがいるんだろうが」

 

 それだけ言って、マリアは歩みを再会した。

 

 早くしないと置いていくぞと言わんばかりの早足である。

 

「……あたし、正確にはアークスじゃないんだけど。まあその通りね」

「流石姐さんが言うと重みが違うぜ……」

 

 そうして二人は走り出す。

 何だかんだで、マリアを慕っている馬鹿弟子二人であった。

 

「おら遅えぞ馬鹿弟子共! そんなだからたった半月連携の修行しただけのシズクとリィンに一本取られちまったんじゃねえのか!?」

「なーっ!? それは言わない約束でしょ!?」

「あれはちょっと油断しただけだっての! ていうか姐さんだって危なかっ……あだーっ!?」

 

 マリアの蹴りが、ゼノの顔面にめり込んだ。

 ギャグ漫画のようなめり込み方だった。

 

「前が見えねえ……」

「あたしは……ほら、あれだ、結局逆転勝ちしたからいいんだよ!」

「あ、あたしたちだって一回模擬戦で負けただけだし!? ていうか二対一であの子達に勝てるアークスなんてもうどれだけいるか……」

「シズクとリィンはあたしが育てた……!」

「実際に面倒見てたのはあたしだっての!」

 

 手柄の独り占め、駄目、絶対。

 

 なんて会話をしながら、三人は壊世区域を歩いていく。

 

 それはきっと、宇宙とやらを救うために。

 




シズクとリィンは大分強くなってそうですね。
連携特化の戦闘シーン、早く書きたいです。
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