AKABAKO   作:万年レート1000

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ということでタイムアタック編開始です。


タイムアタック編①:走破演習:ナベリウス初級

「……ふむ」

 

 アークスシップ・資料室。

 

 マザーシップに記録・管理されているような貴重かつ重要な資料ではなく、誰にでも公開されている情報が資料としてまとめて保管されている部屋である。

 

 勿論大抵の情報はデータとしてオンライン上に保存されており、それを他の場所からオンライン経由で資料閲覧は可能なので、態々この資料室に足を運ぶ理由なんてデータサーバのメンテナンスか、後は精々――。

 

「やはり、シズクさんの能力は『マジック』なのでしょうか……?」

 

 長身痩躯の男が、紐で束ねられた紙の本を捲りながら呟いた。

 

 ライトグリーンの髪、スタイリッシュなサングラス、そして道化のような衣装と帽子。

 

 六芒均衡の三、カスラである。

 そう、資料室に直接足を運ぶ必要がある理由のもう一つは、紙資料の閲覧だ。

 

 フォトナーがまだヒトの身体を持っていた時代の、初期の初期。

 それこそフォトナーがフォトンを扱い始めたばかりの頃から残る、歴史的価値のある書籍たちもまた、この資料室に数こそ少ないものの残っているのだ。

 

 当然殆どの書籍の中身はデータ化され電子書籍として読めるようになっているのだが、カスラがページを捲っているその本は『殆ど』の中に入っていないものだった。

 

 『マジック』。

 そう呼称される技術に関する、専門書だ。

 

 マジックというのは、テクニックの原型(アーキタイプ)の呼び名である。

 

 フォイエやザン、メギドやレスタ等の便利な魔法の、原点。

 極々一部のヒトのみが使用できた、超能力とでも言うべきか。

 

 そういった一部のヒトのみが使えたマジックを、万人に使えるような枠組み(テンプレート)に収めたのがテクニックなのだ。

 

 故に、今では使用者がほぼ居なくなった技術のため、こういう古文書の方が情報が多いのである。

 

「マジック使いの力量は千差万別。フォイエよりも遥かに小さい炎を灯すことしかできないものから――『時間を停める』という埒外な術者までいたそうですし……」

 

 シズクが、時間停止と同等。

 またはそれ以上のマジックを使っていても不思議ではない。

 

 例えば、セキュリティを突破するマジック。

 

 マザーシップの堅牢なファイアーウォールから、ヒトの心という最強のプライベートエリアまで。

 余すことなくあらゆる防壁(セキュリティ)を突破し、真実へと辿りつくマジックを使えるとしたら。

 

 彼女の能力に一応の説明は付くのではないだろうか。

 

 資料を読む限りではマジックというのは型に嵌った技術であるテクニックと違い、わりと何でもありに人それぞれだったようだし……。

 

 何より、無意識かつ自動的にマジックを発動してしまうほど素質に溢れた存在も居たらしい。

 

 尤もこれは、公式的な資料ではなくゴシップ的な記事に書かれていたことだが。

 

「『不思議なことが起きた! これはきっと魔法使い(マジックユーザー)の仕業に違いない!』……というのは些か現代人の発言としては不適切、というか無責任ですが……」

 

 1%しか可能性として存在しなくても、他の全可能性が0%であるならそれが真実なのだ。

 

 まあでも、カスラはアークスの中でも随一の知見を誇る六芒均衡ではあるが、全知ではない。

 

 多少可能性がある説が生まれただけで、他の可能性が全て潰えたわけではないが……。

 

「今度、シズクさんに会ったら訊いてみますか」

 

 そう言って、カスラは紙の本を閉じる。

 

 その本の表紙に書かれていた題名は――『魔女狩りの仕方』。

 

 マジック使いへの"対策"が書かれているが故に、マジックに関して深く記された古文書である。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「いや、あたしの能力はマジックじゃないよ」

 

 と、シズクはあっけからんと言った。

 

 場所はアークスシップ・ゲートエリア。

 日付は、A.P.238/6/13――【ARK×Drops】の四人でVR空間に入ったあの日から三日後。

 

 リィンはふと思い出したように「シズクの能力って実はマジックだったってことは無いの?」と訊いたのだ。

 

 わりと唐突な質問だったので思わず面を食らったシズクだったが、返答自体は素っ気無いものだった。

 

 シズクの能力は、マジックじゃあない。

 

「あたしも五歳くらいまではそうじゃないかって思ってたけどね……色々考えてみた結果、似てるけど別物っぽい」

「ふぅん……ちなみにどう違うの?」

「やっぱし感覚的な話になっちゃうんだけど……マジックやテクニックはフォトンをエネルギーとして(・・・・・・・・)使ってる。けどあたしの能力はフォトンを道として(・・・・)使ってるの」

「何それ、どう違うの?」

「いやだから、あたしの感覚的な話だから詳しく話そうにも話せないんだけどね」

 

 エネルギーではなく、道。

 

 確かに近いようで、遠い。

 しかしそれほど的外れではなく、シズクが五歳までそう思っていたことも納得な近似感だ。あくまで感覚だけど。

 

「フォトンって実はエネルギー利用以外にも色々と使い道があるんだけど……エネルギー利用以外の使い方は説明が難しいんだよね……」

「へぇ、フォトンって大気中や体内にある不思議エネルギー! ってイメージだったんだけど、本当に不思議なのね」

「まあ……その認識で間違いではない、か」

 

 雑な認識である。

 リィンが勉学も優秀だという設定は何処に行ったのだろうか。

 

 まあ、学校の勉強が出来るやつが頭良いとは限らないのが世の常である。

 学校の勉強が出来るやつの大半は頭が良いのではなく要領が良いのだ。

 

「ていうか軽く流したけど五歳の頃からそんなこと考えてたのね」

「…………うばー、まあね」

 

 実際には、零歳の頃からそんなことばかり考えていたのだが。

 

 シズクがそれを口にすることは無かった。

 自慢話っぽくなってしまうし、積極的に話したいことでもないのだ。

 

「さて、と」

 

 と、雑談がきり良く終わったところで、シズクとリィンは足を止めた。

 

 ゲートエリアの中央辺りにあるベンチに隣同士腰掛けて、持っていた荷物を置く。

 

 荷物の中身は、パーティグッズが少々と食料が大量だ。

 まるでこれから誕生日パーティの準備をするような様相である。

 

「買い忘れは無いわね……明日はシズクの誕生日(・・・・・・・・・・)だし、張り切らなきゃ」

「うばー……、嬉しいけど別にそんな気合を込めなくてもいいよ? あたしの誕生日っつっても正確にはあたしが『拾われた』日なんだからさ」

「何言ってんのよ。私が気合を込めなくて誰が気合を込めるというの」

 

 ふんす、とリィンは鼻を鳴らした。

 彼女にしては珍しい気合の込め方である。

 

「何せシズクのために私の手料理を振舞おうっていうんだからね、気合も入るわよ」

「いやほんと、気合を入れてもいいけどルインの意見を聞き入れてよ? 頼むよ?」

「安心しなさい、料理の練習なら行間でちょくちょくしてたわ。この日に向けて地道に努力を重ねてきたのよ」

「うばー……努力、ねぇ……」

「ちなみにその努力の様子は翌週投下される番外編で垣間見ることが出来るわ」

「何処視点からの台詞なんだよ……」

 

 人生に番外編なんて無い。

 あったとしても今自分が行っていることが番外編かどうかなんて知る方法は無いだろう。

 

 勿論そんなのシズクにだって分からない。

 

「やっぱあたしも手伝った方が良くない?」

「駄目よ、誕生日っていうのはね、その人に『生まれてきてくれてありがとう』ってみんなで感謝するための会なのよ? 祝われるヒトは黙って祝われておきなさい」

「…………」

 

 いや、その表現は些か重い気がする。

 誕生日って、もっとこう気さくな感じでいいと思うんだが……。

 

 まあこれ以上食い下がるとリィンの機嫌を損ねかねないし、とりあえずシズクは「仕方ないなぁ」と頷くのであった。

 

 もし駄目そうなら、隙を見て手伝おうと心に決めて。

 

「……まあそれはいいとして、買い物も済んだしこれからどうする? 料理の練習? 料理の練習だよね?」

「そうね……それもいいけど別にシズクがレア掘りや金策に行くなら付き合うわよ?」

「いや、あたしは――」

「おや? そこに居るのはライトフロウ・アークライ……っと?」

 

 っと。

 突然二人の会話に割り込んできた男の声が一つ。

 

 いきなり割り込んで、いきなり姉と間違えてきたその男の方をリィンは睨みながら振り返る。

 

 そこには、赤いサングラスと赤い帽子が特徴的なアークス――『クロト』が立っていた。

 

 どうやらリィンをライトフロウと勘違いしたようである。

 姉妹だから似ているのは承知だが、やはりリィンとしてはあの姉と間違えられるのは不満のようだ。

 

「……じゃあ、無いね。となると君は噂の妹ちゃんかな?」

「……はあ、そうですけど……」

 

 さっきまでの高テンションは何処へやら。

 さり気なくシズクの影に隠れるように身を縮めながら、リィンは小さく頷いた。

 

 相変わらず初対面に弱いコミュ症である。

 

「ふむ、姉に似てクールな子だねぇ。クールビューティ姉妹、いいじゃないか」

「あの、新手のナンパですか?」

 

 見かねて、シズクは口を挟んだ。

 

 いや、ナンパとかではないんだろうなとは察しているけれど、こう言えば退いてくれるだろうという試みだ。

 

 果たして。

 効果はあったようで、クロトは「おおっと」っと言って両手を挙げながら一歩退いた。

 

「すまないね。私としたことが、確かに今のはナンパと捉えられても仕方の無い発言だった。謝罪しよう」

「いえ……別に気にしてないです」

「それと、申し遅れたね。私の名前はクロト、何処にでもいるような一山いくらのアークスだよ」

「…………」

 

 クロトというアークスの名前は、聞いたことがある。

 六芒均衡や『リン』とかの化け物連中には劣るものの、一般アークスの中ではトップクラスの実力者として名高いぶっちゃけ有名人だ。

 

 一山いくらだなんて、謙虚を通り越して嫌味にすら聞こえる言葉である。

 

「うばば、シズクです。どうもよろしくです」

「…………リィン・アークライトです」

「シズクちゃんにリィンちゃんね、ふむ……これも何かの縁かもしれないし、一つ宣伝活動をさせてもらっても構わないかな?」

 

 宣伝活動? っと二人は首を傾げる。

 

 宣伝と聞くとブレイバーを宣伝して回っていたアザナミとイオを思い出すが、最近は特に新クラスが設立されたとかいう話は聞いたことが無い。

 

(ああいや、バウンサー? っていう新クラスがまだ検討段階だけどその内設立されるんだっけ)

(でもそれもまだ先の話だしなぁ……)

「君たちは、私が発行しているクライアントオーダーのことを知っているかな?」

「クライアントオーダーを? いえ、知りませんけど……」

「やっぱりかい? どうにも知名度が足らなくてねー……君たちで一度受けてみて、軽く口コミ宣伝とかしてくれないかな?」

 

 なんだ、やっぱ新クラスじゃあなかったか。

 と少しがっかりしたものの、クライアントオーダーとなればまた違う期待が出てくる。

 

 クライアントオーダーをクリアすれば、お金やアイテムが手に入るのだ。

 

 なのでオーダーを紹介してもらえるということは、イコールで収入が増えるということでもあるのである。

 

「うっばっば、今金欠ですし、額と内容によっては受けさせて貰いますよ」

「おお、ありがたいね」

「でも知名度が足らないなら、もっと大々的に広告とか使って宣伝した方がいいんじゃないですか?」

「そうできない理由があるんだよねぇ……」

 

 言いながら、クロトは端末を操作しウィンドウ上にクライアントオーダーの発行画面を表示した。

 

 そこに、映し出されたものは――。

 

「二人とも、『タイムアタッククエスト』って知っているかい?」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 タイムアタッククエスト。通称TA。

 

 文字通り、クエスト開始からクエスト終了までのタイムを計るクエストであり、速さを求められることから普段のクエストよりも特に殲滅力・判断力・高火力が求められる特殊クエストだ。

 

 決められたルートを走り、決められた仕掛けを解き、決められたエネミーを倒す。

 

 そう聞くと、なんだ簡単そうじゃないかと思うかもしれないが、とんでもない。

 

 憶えることは多いし、憶えたとしてもエネミーの出現パターンは人工故に苛烈。

 クエスト受注者を苦しめるようにいやらしい配置をしていることがあって、発案者の性格の悪さが良く分かるクエストになっているのだ。

 

 とはいえ。

 逆に言えば攻略手順を憶えて、クエスト難度に適した実力を持っていればクリアするだけならそう難しいわけではない。

 

 クエストをクリアできるようになって、その後タイムを縮めようとするのが大変なのだ。

 

 タイムアタックであるため、ランキングやそれに準じた報酬も当然存在するから、日夜タイムアタックガチ勢たちによる記録の塗り替え合いが行われているらしいが……今回それは関係ない。

 

 シズクとリィンには無関係だ。

 クロトのクライアントオーダーを達成する分には、タイムは必要最低限で問題ない。

 

「……しかしまあ、タイムアタッククエストをクリアするだけであんな法外な報酬金が手に入るなんて……やるしかないじゃん!」

「通常のクライアントオーダーの十倍近い額だったわね……」

 

 キャンプシップ・ナベリウス上空。

 

 タイムアタッククエスト開始前に消費アイテムの確認をしながら、二人は駄弁る。

 話題は当然、クロトの意味不明な程高額(たか)すぎるオーダー達成時のメセタ報酬一色だ。

 

 広告はできない、というクロトの言葉の意味が今なら分かる。

 

 予算をオーダー達成時の報酬に全振りしているのだ。

 クライアントオーダーの特性上、報酬が多い常設オーダーは口コミであっという間に広がっていくため、わざわざ広告なんてする必要も無いという判断を下したのだろう。

 

 ていうかこの額のオーダーを広告なんてしようものならクロトの元にアークス全員が雪崩のように押しかけてきても不思議ではないので、むしろ広告を口コミだけに絞ったのはグッジョブといえるかもしれない。

 

「ええっと……ゲート前に参加者全員が揃えばカウントダウンが始まってスタートだっけ」

「うん。もう準備できた? うばー、ならそろそろ行こうか」

「待って、攻略順序をまだ憶えて無いわ」

「あたしは全部憶えたから都度指示するよ」

「ならいっか」

 

 流石の記憶力を披露しながら、シズクはゲート前に立った。

 

 リィンも後を追うようにシズクの隣に立つ。

 

 受注したクエストは『走破演習:ナベリウス初級』。

 タイムアタッククエストとしては最も難易度の低いクエストだ。

 

『3――』

 

 カウントダウンが、始まった。

 

 キャンプシップ内のスピーカーから無機質な機械音が流れる。

 

『2――』

 

 ちょっと、緊張する。

 別にタイムにこだわっているわけではないが、少しでも良いタイムを出したいというのが人情というものだろう。

 

『1――』

 

 深呼吸して、足に力を込める。

 

 ゲートが開くその瞬間を、逃さぬように。

 

『――GO!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うば?」

 

 ゲートは、開かなかった。

 

 『GO!』とアナウンスされたにも関わらず、閉じたまま全く動かない。

 

『ビーッ! ビーッ! ビーッ!』

 

 何があった――? っと、思考する間も無く、船が突如揺れた。

 

 同時に警告音と真っ赤な警告灯がキャンプシップに響き渡る。

 

 明らかな異常事態だ。

 揺れる船内の中、二人は無意識のうちに互いの手を取り、叫ぶ。

 

「こ、これは――!? 一体、何が!?」

「うばっうばばっ! これはもしかして――!」

 

 がくんっ、と一際大きく船が揺れたと思った瞬間。

 

 シズクとリィンを乗せたキャンプシップは、ナベリウス上空宙域からその姿を消したのだった。

 




ナンバリングしておけばアブダクションされるとは思われないだろう作戦――成功したかな?

尚リィンのお料理修行番外編は無いです。無いです(強調)。
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