AKABAKO   作:万年レート1000

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遅くなって本当にすまない……。
リアル超多忙なのでしばらくペースダウンします。


採掘基地防衛戦・侵入、開幕

 第二採掘基地。

 

 それが、今回ダークファルス【若人(アプレンティス)】が標的に定めた採掘基地の名である。

 

 第一採掘基地から少々離れた場所にあるそこは、未だ建設途中にある基地だ。

 ダークファルスの力を封じ込める塔こそ建っているものの、その外壁や防備は不十分。

 

 簡易的な壁をいくつか塔を守るように配置しているが、それが頼りないものであることは確かだろう。

 

 前回の防衛戦よりも、明らかに難易度は高い。

 守りきることは、至難の技だろう――。

 

「お、久しぶりだな、シズク」

 

 と、採掘基地防衛戦への待機場所へ降り立った二人に、声をかける青年が一人。

 

 スポーツ刈りの、白い髪をした男だ。

 狼のように鋭い目つきが特徴的な精悍な男である。

 

 と、いう説明で彼のことを思い出せる人がいるだろうか。

 

 『ヒキトゥーテ・ヤク』。

 かつてファルス・アームとシズクらが戦った時に、現場指揮を執ろうとして失敗し、シズクの引き立て役になった男である。

 

「うば、久しぶりですね」

「…………?」

 

 シズクは流石に憶えていたようで、軽くぺこりと会釈する。

 そして当然のようにリィンは忘却していたので、首を傾げた。

 

 安定のリィンである。

 

「お前らで十二人目だ。他の奴らはもう待ってるぞ」

「うばば、それはお待たせして申し訳ない……」

 

 言いながら、シズクは周囲を見渡す。

 

 ひいふうみいと数えて――九人。

 シズクとリィンとヒキトゥーテを除いて、九人のアークスがもう既に集結していた。

 

 全員、知らない顔である。

 

 ベリーハード帯というのは、そこそこに強いアークスこそ集まれど有名どころは殆どいないのだ。

 

 一流と称えられるだけの実力こそあれど、それ以上には行けない者たちの終着点。

 

 故に、ベリーハードは最も人口が多くその中身も玉石混合十人十色。

 野良でマッチングしても知り合いと一緒になることは少なく、ましてやシズクら新参者には見知った顔すらいないのが当たり前だ。

 

 ヒキトゥーテと一緒になれたのは、ある意味運が良かったと言えよう。

 

 顔見知りがいれば集団に交ざりやすい――尤も、シズクのコミュ力を持ってすればそんなの居ても居なくても同じことだし、リィンのコミュ力を持ってすれば(逆の意味で)そんなの居ても居なくても同じなのだが。

 

「あらま、随分と可愛らしい子達が来たわね……」

「……うば?」

 

 魔女のような格好をした女性が、ねっとりとした声で二人に話しかけてきた。

 

 テンプレートのような、黒い魔女帽子とドレスのように煌びやかでありながら闇を感じさせる黒衣のコスチューム。

 

 魔女、としか表現しようが無い格好と、金色の長くねじれた髪は彼女の怪しさを強調しているようだった。

 

 だがしかし。

 何故だか――彼女のクラスはレンジャーだった。

 

 無骨に光る、アサルトライフルをその腰に着けている。

 キャラ作りするなら最後までしっかりやれとツッコミたい。

 

「何か用ですか?」

「いえ? ふふふ、有名人が居たら話しかけてみたくもなるでしょう?」

「……有名人? ああ、リィンのこと?」

 

 ええ、と魔女は頷いた。

 

 忘れられがちだが、リィンはそれなりに有名人である。

 

 戦技大会準優勝という称号に、彼女の持つ美貌も手伝い男女共に隠れファンは多い。

 

 それこそ下手したらベリーハード帯に居るアークスの中では、一番有名かもしれない程に。

 

「…………ふぅん」

 

 成る程言われてみれば、注目されている。

 

 今この場に集まっているアークスの視線が、リィンに注がれているようだ。

 

 これは単に最後に到着したからとか、そういうことではないだろう。

 

「まあでも? どちらかと言うと私は……」

「うば?」

「そんな有名人と一緒にいながらもまるっきり情報が入ってこない、『謎の子供』の方が気になるけどね?」

 

 ぐいっと、魔女がシズクの顎を指で撫でるようにして顔を上げさせた。

 

 魔女の金色の瞳と、シズクの海色の瞳が交差する。

 

「アナタがリィン・アークライトのパートナー、『謎の子供』ね?」

「……あたしって、そんな噂になってます?」

「いえ別に? ただ私は、何処ぞの双子姉妹のように情報を重視する珍しいアークスってだけさ」

 

 成る程、つまり情報収集のためにシズクたちへ話しかけてきたというわけだ。

 脳筋だらけのアークスの中では珍しい、事前に情報を仕入れたりするタイプということか。

 

 パティエンティアがアークス一の情報屋を名乗っていられる辺りから察せられるだろうが、アークスは基本力こそパワーの脳筋だらけ。

 つまりこういうタイプは本人が自称しているように、非常に珍しい――。

 

(さてどうしよっかなー……)

 

 シズクは考える。

 何をって? そんなの決まっている。

 

 この人に好かれるか嫌われるか。

 大したことないやつだと思わせるか、大したやつだと思わせるか。

 可愛い子だと思わせるか、可愛く無いやつだと思わせるか。

 

 もう全ルートは見えている。

 どういう仕草でどういう会話をして、どういう選択をすればいいのか。

 

 全てシズクには、見えている。

 

 全知――未来演算。

 シズクにとって人付き合いというのは、選択肢とその結果が常に見えているギャルゲーみたいなものなのだ。

 

 人に紛れる技術だけは、誰にだって負けない。

 尤も、こういう選択肢と結果が見えない相手だって居るには居るのだが……。

 

「…………ねえ」

「む?」

「ん?」

 

 シズクの顎に添えられていた魔女の手首を、リィンが掴んだ。

 

 掴んで、そっとシズクから引き離す。

 そして魔女からシズクを守るように、前に出た。

 

「もうクエスト始まるから、話は後にしてくれないかしら?」

「…………噂通りね、リィン・アークライト」

「……?」

「戦闘中も、そうでないときも、いつも傍らにいる小さな女の子を守るように動く。献身とも自己犠牲とも取れるようなその振る舞いと、気高く美しいその見た目――

 

 

 ――成る程、確かに【剣騎(けんき)のリィン】なんて二つ名が付くだけあるわ」

 

 

 …………。

 いつのまにか、仰々しい二つ名が付いてしまっていたリィンであった。

 

「…………えーっと」

 

 (ソード)を使ってて、シズクを守るように振舞ってて、騎士っぽいから剣騎?

 

 そのまますぎるとか安直だとか色々と突っ込みたいところがあったが、それをリィンが口に出す前に、魔女は「確かにアナタの言うとおり、そろそろ時間ね」などと言って彼女のパーティメンバーらしき集団へ去っていった。

 

 コミュ症辛い。

 

「リィンに二つ名かー、ホント有名人なんだね」

「……シズクにもその内【レア狂いのシズク】とか付くわよ」

「うば!? いいねそれ! 今度から自分でそう名乗ろうかなぁ……」

「(嬉しいのね……)まあそれはそれとして、こうして自分のこと知ってる人がいると有名になったなぁって思うわね」

 

 アークス戦技大会で準優勝を果たしてから、有名になったという自覚はあれど実感は無かったのだ。

 

 こういう大型緊急クエストでも無ければ他のアークスと関わる機会が無いし仕方ないといえば仕方ない。

 

「その、取材? とか? そういうのも無いしチヤホヤとかもされたことないから実感が湧かなかったんだけど……」

「うば、だってあたしがそういうオファーは弾いてたし」

「えっ」

「苦手でしょ? そういうの」

「ま、まあそれは……」

 

「さて、じゃあ全員揃ったし……クエスト開始まで後五分、作戦会議でもしますか?」

 

 ヒキトゥーテが、場の空気を切るように全体に向けてそう言った。

 

 仕切りたがる性格は変わっていないようだ。

 まあいいけれど。

 

「作戦会議ィ?」

「そんなのやる意味無いだろ。即興のチームが変な作戦立てたところで無駄無駄」

 

 だが、何人かのアークスはそれに難色を示した。

 

 まあ彼らの言っていることもご尤もである。

 特に前回のファルスアームのときと違ってヒキトゥーテは別にこの中で一番強い存在でもないのだ。

 

 作戦は立てるべきだというヒキトゥーテの意見を通すには、少し工夫が居る。

 だが、作戦なんて要らない派を説き伏せるための何かを考えているヒキトゥーテに、歩み寄る影が一つあった。

 

 赤い髪に、幼い容姿。

 我らが全知、シズクである。

 

「引き立て役君引き立て役君」

「ヒキトゥーテ・ヤクだ! やめろその呼び方!」

「じゃあ、ヤっくん」

「親しげだな!? いや、まあいいけれど……それで、何の用だ?」

「あたしが適時指揮するから、別に作戦とかいいよ」

 

 事もなさげに、シズクは言った。

 

 当然そんなことを新参者であるシズクが言えば、反感を買ってしまう。

 

 というより奇異の目で見られてしまうだけだろう。

 

 だけど問題ない。

 そんなの、実力を見せれば黙らせることができる。

 

「い、いやお前の指揮の凄さは前の戦いで身を持って体感したが……大丈夫か? 多分お前の言うことなんて聞いてくれないやつらばかりだぞ?」

「ヤっくんは聞いてくれるでしょ? リィンは言わずもがなだし……まあ、何とかなるなる」

 

 最悪ヒキトゥーテとリィンさえ指揮を聞いてくれるなら、それはそれで問題ない。

 

 あとの九人の動きくらい、コントロールできるだろう。

 本気を出したシズクなら、それくらい造作も無い。

 

「もう、自重しないって決めたから。……言っとくけどあたしたちファルスアームの時から滅茶苦茶パワーアップしてるからね」

「いや、そりゃもうベリーハードに上がってきてるからそうなんだろうが……戦闘能力と指揮能力は別物じゃないか?」

「別物だよ? でもほら、ファルスアーム戦の指揮はあれ手加減っていうか手抜きしてたから」

 

 シズクの言葉に、ヒキトゥーテは「嘘だろ」と苦笑する。

 

 というか、苦笑するしかない。

 あんな、天才的な指揮をしておいて、手を抜いてたとか。

 

「うっばっば、こうも多対多じゃ連携特化は真価を発揮できないけど――」

 

 シズクの両目が、光る。

 海色に、淡く光り輝いていく。

 

全知(あたし)の真価を発揮するならば、こんな多対多の方が丁度いい」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 採掘基地防衛戦。

 その緊急クエストの注意点について、おさらいしよう。

 

 通常のクエストと違って、採掘基地防衛戦には特殊な敗北条件があるのだ。

 

 それが、塔と呼ばれる建造物の全破壊。

 一般アークスには知られてはいないが、これはダークファルス【若人】の本体を封印しておくために必要な建造物を、壊させないためのクエストなのだ。

 

 そして第二採掘基地の特徴として、第一採掘基地と違い守るべき塔は五つになっていること。

 さらに塔へと向かう道に防壁が幾つか設置されていることが上げられる。

 

 建設途中故に、弱い防備を少しでもあげようという苦肉の策だ。

 

 実際あまり硬い防壁ではなく、ダーカーの攻撃を受けすぎてしまえば壊れてしまうだろう。

 

 また、採掘基地防衛戦の特徴としてもうひとつ、waveというものの存在がある。

 

 ようするに敵の波である。

 ダーカーはある程度の集団で行動しており、波状攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 そのwaveとwaveの間に正結晶と呼ばれる特殊な物体を集めて兵器の燃料にしたり、回復したり体制を整えたりと、その辺りの行動もまた、この緊急クエストをクリアするうえで重要な事柄なのだ。

 

 もうお察しかもしれないが、採掘基地防衛戦の難易度というのは非常に高い。

 

 単純に敵の量も多く、質も高いというのもあるが、何よりも通常クエストと勝手が違うのだ。

 

 塔を守らなければいけない、というのは普段攻撃を重視されるアークスにとってやりにくいものを感じるし、

 複数の塔を同時に攻められることから戦力が分散し普段の数の暴力が使えない。

 

 各地で苦戦の情報が相次ぐ中――シズクらが担当するエリアの戦況は、

 

 現在wave5。

 壁と塔の損壊度――0%。

 

 損害、なし。

 

 明らかな異常事態が、この場で起きていた。

 

 




久々に感じるシズクさん無双。
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