AKABAKO   作:万年レート1000

141 / 188
年内にEP2終わらせたいけど……忙しいの終わらないと無理そう。


作業ゲー終了のお知らせ

 そこは、破棄されたばかりのアークスシップ。

 

 ダーカーの侵食がまだ全域には及んでおらず、『安全地帯』というものが存在するその場所に。

 

 色素の抜けた、ぼさぼさの白髪をまだ縛っていなかった頃のサラと、

 その隣に海色の瞳とうなじ辺りで一本に括った髪が特徴的な少年、シャオは居た。

 

 これは、過去の記録だ。過去の会話だ。

 サラがまだ、ルーサーの魔の手から逃れて数日しか経っていない頃。

 

 ダーカーの侵食がまだ(・・)及んでいない時間制限付きの『安全地帯』で、マリアの助けを待つしかないという絶望的な現実から逃避するためにした会話。

 

 お題。『シャオって、何ができるの?』

 

「事象の観測と未来の演算?」

「うん、あくまで大雑把に分類するとだけどね。ぼくはシオンのバックアップだから、基本的な機能はシオンと同じなんだよ」

 

 かなり劣化はしているけどね、と。

 シャオは無表情で言う。

 

 シャオが人間的な感情を手に入れるのは、もう少し先の未来だ。

 

 加えてサラはサラで、ルーサーの元という地獄を潜り抜けたばかりで何処か感情が虚ろだったので、

 今こうして絶望的な状況に身を置いているというのに何処か二人とも余裕そうというか、ピンチに対して何も感じてはいなさそうだった。

 

 少なくとも、表面的には。

 なので淡々と、会話は進む。

 

「ふぅん……で、それって具体的にどういうことができるの?」

「森羅万象、この宇宙に遍く事象を観測、演算し……」

「もっと簡単にお願いするわ」

「…………ようするに、ぼくの海にあるシオンから分けてもらった『知識』と、今この時目の前で起きている『事象』。それらを基に『演算』して未来を……」

「子供にも分かるようにお願いするわ」

「………………ええっと、ようするに未来予測ができるんだよ」

 

 呆れたように、シャオは言う。

 

 今だったら、それはもう小馬鹿にするような口調でひたすらいじめ抜くだけいじめ抜き、尚且つ真実は語らずはぐらかすところだろうが……。

 しかしこの時のサラはまだ子供。それに加えて二人はまだ出会って間もない間柄である。

 

 二人が憎まれ口を叩きあう仲になるのは、もう少し後だ。

 

「未来予知? ふーん、じゃああたしがこのダーカーだらけの危険区域から出られるかどうか分かるの?」

「未来予測、ね。『未来を知る』んじゃなくて、『未来を測る』、が正しい」

「どっちでも同じでしょそんなの」

「……まあいいや、それでサラがここから出られるかどうかだけど……そうだね、五分五分ってとこかな」

 

 周囲のダーカーの気配は、段々と強くなっている。

 

 しかしそれと同時に、マリアがダーカー相手に暴れているであろう戦闘音も、近づいてきていた。

 

「ダーカーの魔の手が、ここまで迫る前にマリアが来れば助かるよ」

「……五分五分っていうのは?」

「マリアがサラのことを素直に助けに来てくれるのか、それとも師匠としてサラを窮地に追いやって成長させようとしてくるのか……それがぼくには分からないからね」

 

 ヒトの『気紛れ』とか、『何となくの行動』とか、『感情』とか。

 そういうのに、シャオも疎い。少なくとも、この時点では。

 

「じゃあ……その未来予測とやらであたしの戦闘のサポートは出来ない? ほら、エネミーの動きとかを予測してもらえば戦闘も大分楽に……」

「……戦闘予測は、知識ではなく『経験』が重要だからね。実際に自分が戦うことのできないぼくにできるサポートなんて限られてるし、戦いって感情的だったり感覚的なところも多いからね。さっきも言ったとおりぼくはそういうの苦手で……」

「……はぁ」

「使えないなこいつ、みたいな表情でため息吐かないで欲しいな。この比較的安全な場所を教えてあげたのはぼくでしょ?」

「はいはいありがとうございました」

 

 恩着せがましくそんなことを言うシャオを軽く流しながら、サラは考える。

 

 何だか良く分からないが、シャオに人智を超えた力があることは分かった。

 

 未来予測。

 にわかには信じがたいことだが、サラがシャオに出会ってから起きたあれこれを考えてみれば、そのくらいの力はあって当然だと思えてくる。

 

(未来予測……)

(シャオは戦闘には使えないって言ってたけど……)

 

 じゃあ。

 例えばシャオがヒトの感情というものを理解して。

 

 尚且つ戦闘に対する造詣を深めたのならば。

 

 それはもう最強のサポーターの完成なのではないか。

 

「シャオ、あんたはもう少しヒトの感情ってものを学ぶべきだと思うのよ」

「何だい薮から棒に……」

 

 と、いうわけで。

 まずは感情をシャオに教えよう、というサラがこの先長年に渡って後悔することになる目論見は、この瞬間始まったのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 採掘基地防衛戦・侵入。

 

 この非常に高難易度のクエストで、壁にも塔にも損害ゼロという突出しすぎた記録を絶賛残し中のシズクがしていることは、昔からやっていることをそのまま指揮に反映させているだけの、シズクにとっては大したことではないものだった。

 

 勿論それは、誰にでもできることではない。

 と言うか、シズクにしかできない。

 

 自分以外の十一人が、どんな性格でどんな性質で、どういう指示をすればどういう動きをしてくれるのか。

 

 ずっとヒトの振りをして生きてきたことによって鍛え抜かれた、『ヒトの心を察する力』。

 ずっとレア掘りという形で戦い続けたことによって磨きぬかれた、『戦闘経験から来る予測』。

 

 そして、生まれながらに持っていた知識の固まり、『全知』。

 

 それら全てを独自の方程式に代入し、未来(こたえ)を用いて指揮を行う。

 

 『未来式(みくしき)』――未来指揮。

 自重をやめたシズクが誇る、三つあるチート能力の内の一つである。

 

 

 

 

 

 

(やばすぎる)

 

 目の前の何も無い空間に向かってウォンドを振り上げながら、ヒキトゥーテは心の中でそっと呟いた。

 

 一見、何も無いところに向けて攻撃しているとか何やってんだこいつと思われるかもしれない。

 だがしかし、これはシズクの指示なのだ。

 

 若干躊躇いながらも、ウォンドを振り下ろす。

 その瞬間、今まさに振り下ろそうとしていた空間に――。

 

 ダーカーが、出現した。

 ゴルドラーダ。攻守走全てに隙が無く、死に際に爆発するという大変厄介なダーカーなのだが……。

 

 出現と同時に顔面を殴られては流石に溜まったもんじゃないだろう。

 

 顔面の装甲が粉々に砕け、曝け出された弱点である顔を押さえながら軽く後ずさる敵。

 勿論そんなチャンスを逃すヒキトゥーテではなく、一気に近づいて顔面を押さえている手の上から弱点目掛けてウォンドを振るった。

 

(これが……シズクの本気……!)

 

 ちらり、と戦場の中央で指揮を執り続けるシズクのほうに目をやる。

 

 海色の瞳を淡く光らせて、自分でも時折攻撃しながら十一人全員に指示を飛ばす。

 

 しかもその指示の内容がおかしい。

 「十秒後にダガンが三匹3-D地点に湧くからイル・フォイエチャージして待機しといて」とか具体的すぎる。

 

 未来が見えているとしか思えない。

 ファルスアームのときはまだ予備動作から予測していたとか、視野が広いからとか理由らしきものがあったのだが……。

 

(そして……)

(さらにやばいやつが、一人……)

 

 補助をかけ直しながら、ヒキトゥーテは視線を戦場の最前線に動かす。

 

 そこには大量のダーカーが蠢いていた。

 出現と同時に倒すことができなかったダーカーの全てが、壁や塔ではなくたった一人の少女に向けて攻撃を仕掛けているのだ。

 

 ダーカーたちの中心にいるのは、お察しの通りリィン・アークライト。

 

 ウォークライとゾンディールで、ひたすらに敵のヘイトを自分の方に向けているのだ。

 

 当然のことながら、自殺行為である。

 特に採掘基地防衛戦はエネミーの出現数が非常に多い。

 

 シズクの指揮で出現と同時に死んでいくダーカーが多いと言っても、常に五匹から十匹ほどのダーカーに囲まれている状態だ。

 

 だがしかし、そこは連携特化の防御特化担当であるリィン・アークライト。

 

 そう。

 リィンにとって、『防衛戦』は得意種目なのだ。

 

 四方八方から飛んで来るダガンの爪、エル・アーダの針、ゴルドラーダの蹴り、カルターゴのビーム。

 

 そして、グワナーダの鋏とダーク・ラグネの鎌、ゼッシュレイダの回転攻撃。

 その全てを、受け、流し、避け、叩き潰していく。

 

 周りのアークスからすると、『楽』の一言であった。

 何せ敵が自身に向けて攻撃してこないのだ。全てリィンに向かっている――つまり、自分たちには背を向けている敵を後ろから攻撃すればいいだけなのだから。

 

 中央の敵は、リィンが全て引き付けて。

 左翼右翼の敵は、出現と同時に左右で待機しているフォース(イル・フォイエ)レンジャー(サテライト・カノン)の手で溶けていく。

 

 こんなのもう、戦闘とは呼べなかった。

 蹂躙、殲滅……いや、そんな言葉も似つかわしくない。

 

 作業ゲー。

 

 その言葉が、最もこの状況にあっているだろう。

 

 そしてそれを成しているのは間違いなく、【ARK×Drops】の二人の力。

 

 シズクとリィン。

 この防衛戦を切っ掛けに、リィンだけではなくシズクもまた有名人へと成り上が――――らなかった。

 

 シズクは相変わらず無名のままで、『リィン・アークライトの傍らに常にいる謎の少女』として噂になるだけなのだが……それはまた未来の話。

 

 そして。

 

「うば?」

 

 と。

 

 最初に気付いたのは、シズクだった。

 

 フォトン感応度が他人より異常なほど高いことによる、感知能力の高さも持っているのだ。

 

 空を、見上げる。

 海色の瞳で、見つめる先に居た者は――。

 

「うっばっば、何ここ壁も塔も滅茶苦茶残ってんじゃーん」

 

 シズクに続いて、他の皆も『そいつ』の存在に気が付き空を見上げる。

 

 白い髪。

 白いドレス。

 赤い、瞳。

 

 もうお察しだろう。

 

 ダークファルス【百合(リリィ)】が、空に浮いてシズクたちを見下ろしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。