モンハンの二次創作も書きたいなぁ。
採掘基地防衛戦から、三日が経ちました。
すぐにでも次の採掘基地へと攻めてくると思われた【
彼女らが拠点としているであろう惑星リリーパに痕跡が残っているため、採掘基地襲来を諦めたわけではないでしょうが、【百合】の六芒均衡及び『リン』から付けられた傷が深かったため回復を計っていることが予測されます。
特に、アンガ・ファンタージはダークファルスの餌となり、彼奴らの力を大きく回復させてしまいます。
適正レベルに達しているアークスは、壊世区域へと向かってアンガ・ファンタージの殲滅を最優先事項としてください。
「…………ていう通達が届いてたけどさぁ、ボクらには関係ないよなぁ」
「……早く関係あるようなアークスにならないといけないわね」
ハルのマイルーム。
彼女の少年らしき姿とは正反対のファンシーな内装の中。
ハルとイズミは、お互いベッドに腰掛けながら、背を向け別作業をしつつ語り合う。
「あ、でも先輩方には関係あるかもね。戦闘ログ見た感じ、ダークファルス【百合】と二人がかりとはいえ渡り合ってたみたいじゃん」
三日前の採掘基地防衛戦の戦闘ログを見ながら、ハルは言う。
「あの二人は……二人だから強いんでしょう。個々の力はたかが知れている以上、今のアークスのシステムじゃ評価され辛いでしょうし無理じゃない?」
「そう? 二人とも強くない?」
「私たちに比べればそりゃ強いわよ。でもベリーハードって基準で考えれば弱い方でしょ」
「いやでも【百合】の剣掃射から塔を守りきるとか普通出来ないだろ」
「そりゃ出来ないけど……それはリィンさんが防御に特化してるからよ」
普通、防御に特化とかしないもの、と。
イズミは端末をカタカタと弄りながら、そう答える。
これは過大評価でも過小評価でも無い。
ただの純然たる事実である。
次の難易度のクエストを受けるための許可証は、チームやパーティ単位ではなく個人個人の力量を見られて発行されるため、シズクとリィンの連携特化は非常に評価され辛い。
そして剣の掃射から塔を守るという離れ業も、ベリーハード帯で同じことをできるやつは居なくとも、スーパーハード帯ならば防御に特化しなくともできるやつが何人か居る筈だ。
少なくとも、ライトフロウ・アークライトならばあっさりとやってのけるだろう。
「それよりもさぁ、これおかしくないかしら」
「? 何が?」
ログから目を離し、ハルはイズミの背中から覗き込むように彼女の端末に目をやった。
必然的に二人の距離が縮まることになったが、大して気にした風でもなくイズミは自分が見ていたウィンドウを大きく広げて、見やすいように宙へ浮かべる。
「メディアの扱いよ。リィンさんばっかクローズアップされてて、シズクさんのことなんて名前すら出てこないわ」
ウィンドウに映っていたのは、採掘基地防衛戦に関する報道記事。
ダークファルス【百合】vs六芒均衡+『リン』と、その状況に持っていくまで時間稼ぎの奮闘をした一般アークスたちの活躍が英雄的な描写で描かれている記事だ。
そしてそのアークスというのが、我らが【ARK×Drops】のリーダーであり最近話題のリィン・アークライトと、【銀楼の翼】所属のヒキトゥーテ・ヤク。
シズクという名詞は、一度も出てこない。
「……何か変かなぁ? 戦闘ログを見た感じ
「それはそうだけど……」
そんなこと有り得るのか?
と、イズミは考える。
何かがおかしい。だってシズクさんとリィンさんは連携特化。
二人だからこそ強い異質なアークスなのだ。
それなのにこの記事では、如何にもリィン・アークライトとヒキトゥーテばかり活躍しているように書いてある。
(…………情報、改竄……? いやでも、そんなの一体誰が何のために……)
「気になるなら本人に訊いてみれば?」
「んー、そうねぇ……」
ぽすり、とイズミの左肩にハルは顎を乗せた。
そして右肩に右手を置いて、左手を伸ばしイズミの端末に触れる。
「んー……本当だね、何処にもシズクさんの名前が無い……」
「でしょう? ちょっと不自然なくらいよね」
二人の距離が、非常に近い。
だというのにイズミもハルもそれを気にした様子も無く、会話を続ける。
普段の二人からは、想像もできない図だ。
それゆえに。
それゆえにシズクは、言葉に詰まった。
ハルのマイルームに入った瞬間広がっていた光景に、何て声をかけたらいいか流石に分からなかった――!
「…………」
「ん? 今扉が開く音しなかった?」
「え?」
くるり、と仲良く同時にマイルームの扉へ振り向くイズミとハル。
その瞬間、固まった。
扉の前に立っているシズクを見て、一瞬だけ固まった。
そして。
「気安く、くっついてんじゃないわよぉおおおお!」
「ああん!? 別にくっつきたくてくっついたわけじゃないしー! 不可抗力だしー!」
まるで今まさに二人がくっつきすぎていることに気が付きましたと言い訳するように突然、イズミとハルは互いに距離を取った。
「あっ、シズクさんこんにちはでっす! 突然何の用っすか!?」
「あ、あらシズクさん来てたのね、全然気付かなかったわおほほほ」
「うばー……ホント、貴方たちの関係性が良く分かんないや……」
周囲に誰もいない、完全に二人きりだと結構仲良くやってたりするのかな。
そんなことを考えながら、シズクは苦笑いしてハルのマイルームに足を踏み入れていく。
初めて来たわけではないが、やはりファンシーな部屋だ。
そこかしこにぬいぐるみが置いてあって、配色も全体的にピンク色。
「いやね、お昼ご飯一緒に食べようかなって誘いに来たの」
「昼飯ですか……」
「奢るよ」
「「行きます」」
即答だった。
新人からベテランまで全てのアークスは某ドゥドゥのせいで基本的に懐事情が寂しいのだ。
「でも、なんでわざわざ直接来たんですか? 通信してくれればそれでよかったのに」
「うばば、偶然近くを通りかかったからねー」
「ふぅん……あ、ところで」
マイルームを出て、廊下を歩く。
廊下の端にあるショップエリア行きのテレパイプの乗る直前に、ハルは思い出したかのようにシズクへ疑問を投げかけた。
「リィンさんは? 一緒じゃないんですか?」
「…………」
シズクは、笑顔で固まった。
どうやら地雷だったらしい。
そう。
例の件――シズクがヒキトゥーテに、作戦上必要だったとはいえ抱きついたことに関して。
まだ、二人の間で解決していないようである。
*****
「『いや別にシズクが誰と抱きつこうが私には関係ないし、うん、だから謝らなくていいのよ? ほら、私は全然気にしてないし、え? 誤解? 誤解なんてしてないわよ。作戦上必要な行為だったんでしょう? それがどうかしたの? ん?』……って無表情のまま抑揚の無い声で言ってくるんだよ! 怖いよ!」
「それ滅茶苦茶気にしてるっすね……」
「ていうかそんなことがあったんですね……戦闘ログには特に記載無かったですが……」
アークスシップ・ショップエリアの一角にある洒落乙なパスタ専門店。
そこでシズクとイズミはカルボナーラ、ハルはミートソースを口にしながらガールズトークとしゃれ込んでいた。
「うばっ、ま、まあ直接戦闘には関係ないところだしね」
「ふぅん……男女で抱きつくことによって【百合】への挑発行為になるということが立証できたなら、アークス全体でそれを共有するべくログに残しておくべきだと思うんですけどねぇ」
「うっばっば、そんなことより! 今のままだと何となく気まずいからどうにかしたいんだけど何か良い方法ないかな!?」
迂闊な相談だったかもしれない。
もう流石にシズクは知っている。
おそらくはカスラとシャオによるものだが、シズクという存在をルーサーから隠すために、情報改竄がされていることを。
この二人から奴へと情報が漏れることはあるまいが、それでももう少し用心深くするべきかもしれなかった。
「うーん……」
ハルが腕を組んで、思考するように天井を見上げる。
リィンとの仲直り方法を考えているというより……何かを伝えるかどうか迷っている感じだ。
そして、数秒だけそうしてから、意を決したようにシズクの目を見た。
「あの、シズクさん」
「うば?」
「その作戦を実行する前に、リィンさんと相談したりしました?」
「いや……してないけど……」
「…………」
物凄いジト目で、ハルに睨まれた。
そんな目で見なくても……とシズクがパスタをフォークでくるくると巻き取りながら何気なくイズミの顔色を窺うと、彼女も似たような表情でシズクのことを睨んでいた。
「ちょ、それはリィンさんが可哀想でしょう……」
「い、いやだって作戦立てるのはあたしの仕事だし……」
「逆の立場になって考えても見てください。必要なことだったとしても、リィンさんが誰か男のヒトと抱き合ってたらどう思います?」
「…………」
『おい男、そこ代われ』って思うだろう。
(でも)
(それと同じことをリィンが思うとは限らないわけだから、そんな思考無駄でしか……)
何せシズクはリィンに恋心を抱いているわけだけど、リィンがシズクのことをどう思っているかなんて全知ですら分からない。
全知なのに分からないとは、これ如何に。
「えぇ……」
「はぁ……」
と、いうことを恋心とか全知とかそういった要素を上手く隠しつつ伝えたら、ため息を吐かれた。
何なんだ一体。
もしかしたら『普通の』女子ならすぐ分かるようなことを見逃していたというのか……?
「あのですねシズクさん……いや、その前に一個確認なんですけど、シズクさんってリィンさんのこと好きですよね? 恋的な意味で」
「うばっ!?」
かぁっとシズクの頬が赤くなる。
動揺でくるくると巻き取っていたパスタが解けてしまい、ソースが少しテーブルを汚した。
「ななななんっ! 何で!?」
「隠していたつもりなんすか……?」
「呆れるわね……」
「バレバレだったとか女子怖い!」
女子じゃなくても分かりますよ、と声を揃えて言われた。
そんなに分かりやすかったってことは他の誰かにもバレている可能性があるということだろうか。
やだ、怖い。
何それ怖い。
「え、じゃあ、もしかしてリィンにも……?」
「さぁ……リィンさんはリィンさんで鈍そうっすからね、案外気付いていないかも」
「ほっ……」
それを聞いて、少し安心した。
リィンにまで筒抜けだったとしたら、恥ずかしいどころの話じゃない。
「うばー……えっと、で、何の話だっけ」
「いや、何ていうかですね……リィンさんはシズクさんと男のヒトが抱き合っていたのに嫉妬していたわけでしょう?」
「しっと……ああ、嫉妬」
嫉妬という言葉の意味を考えて、頷く。
よく考えてみればリィンのあの態度は嫉妬というジャンルに分類されるのか。
「ふむふむ…………で?」
「うっそでしょ。ここまで言って分かんないの?」
思わず敬語が抜けてしまったイズミであった。
さもありなん。
『感情』に対する察しの悪さは、普段の彼女からは信じられないレベルの鈍さだからだ。
「ええっと、リィンさんが誰かと抱きついたとして、その時シズクさんはリィンさんが好きだから嫌な気持ちになるっすよね?」
「え、うん」
「じゃあ、シズクさんがヒキなんたらさんと抱き合って、リィンさんが機嫌悪いのは何故だと思います?」
「え? ええっと――」
ようやく。
シズクは答えに至ったようである。
感情に鈍すぎる彼女でも、ここまで言われれば流石に気付く。
頬が、顔が真っ赤に染まっていく。
頭に血が上って、思考力が奪われていく……!
「えっと、あの、その、うばっ」
言葉が思うように紡げない。
というよりも、なんて言ったらいいのか分からない。
自分の中で渦巻く感情の名前。
それすら分からない、いや、分かる、分かると思う。
きっとこれは。
きっとこれが。
嬉しいという、感情なのだろうとシズクは静かに悟ったのだった。
もうEP3からコメディやるからEP2はシリアスで通すことにしました。